Agilent 6460 による食用油中 グリシドール脂肪酸エステル類の分析 <要旨>LC/MS-MS 法を用いて食用油中 3 種類のグリドール脂肪 酸エステルンの高感度分析法を検討しました。その結果イ オン源に ESI を使用し、プリカーサーイオンにアンモニ ウム付加体を選択することで標準品 0.1ppb 以下での測定 が可能でした。また、綿実油、コーン油、食用油中 0.1μ g/g 以下で各グリシドールイ脂肪酸エステルの検出が可 能であり回収率は 79~103%であった。 Key Words: グリシドール脂肪酸エステル、食用油、発がん性、LC/MS-MS *************************** 脱離したイオンが特異的に観察され安定であったこと 1. はじめに から SRM トランジションは表.2 の通りとしました。 グリシドール脂肪酸エステルはジアシルグリセロー ルの製造工程中で生成される物質と推定されています 食用油は 10 倍量のヘキサンで溶解した後、ヘキサン が、この物質自体が遺伝毒性を持つ発がん性物質であ 飽和アセトニトリル 5mL で 1 分間、激しく振とう抽出 るかどうかの毒性学的データは得られていません。し し、アセトニトリル相を LC/MS で測定しました。 かし、この物質が生体内で分解されて発がん性が指摘 表.1 LC/MS-MS 条件 されているグリシドールを遊離する可能性があること LC : Agilent 1290 infinity LC Column : Inertsil ODS4 (150mm,2.1mm, 2um) から注目されています。また、綿実油、コーン油など Mobile phase : A:10mMHCOONH4 ,B: MeOH の食用油にも僅かに存在することから食用油中グリシ 80%B---(10min)---100%B/5min Column temp : 40℃ ドール脂肪酸エステルの高感度分析法の開発が急がれ Injection volume : 3uL Flow rate : 0.3mL/min ています。そこで今回、三連四重極型質量分析計を使 用した LC/MS-MS による食用油中グリシドール脂肪 MS : Agilent 6460 Triple Quad LC/MS Ionization : AJS (Positive) 酸エステルの微量分析法について紹介します。 2. 装置及び測定条件 グリシドール脂肪酸エステルの標準品は林純薬製パ ルミチン酸グリシジル、オレイン酸グリシジル及びリ ノール酸グリシジルを使用しました。LC/MS-MS には Agilent6460 triple quadrupole LC/MS を使用しカラ ム に は GL サ イ エ ン ス 製 Inertsil ODS4 (150mm,2mm,2μm)を使用しました。分析条件は表.1 に 示しましたが、移動相にメタノール及び 0.1%ギ酸 +10mM ギ酸アンモニウム水溶液を用いたグラジエント 溶出を行い、 移動相の流速は 0.25mL/min としました。 イオン源には AJS を使用し、正イオンモードで測定し ました。図.1 にグリシドール脂肪酸エステル類の質量 スペクトルを示しましたが、フル scan スペクトルから プリカーサーイオンにはプロトン化分子とアンモニウ ム付加体が考えられますが、プロトン化分子を選択し た場合、強度の強い特異的なプロダクトイオンが観察 されませんでした。一方、アンモニウム付加体を選択 した MS-MS スペクトルは図.1 の通り、アンモニアが Sheath gas Drying gas Nebulizer gas Fragmentor : 12L/min at 200℃ : 10L/min at 300℃ : 345kPa : 120V グリシドールエステル プリカーサー プロダクトイオン コリジョンエネルギー 定量用 確認用 定量用 1 リノール酸グリシジル イオン 354 337 81 5 20 2 パルミチン酸グリシジル 330 323 57 5 20 3 オレイン酸グリシジル 356 339 57 5 20 (A) x106 1.5 354.3005(M+NH4)+ リノール酸グリシジル 1.0 337.2744(M+H)+ 0.5 8 (B) x106 1.0 337 リノール酸グリシジル 0.6 354(M+NH4)+ 0.2 x105 x105 313.2743(M+H)+ 5 6 パルミチン酸グリシジル 4 330.3004(M+NH4)+ 2 313 パルミチン酸グリシジル 3 330(M+NH4)+ 1 x105 356.3161(M+NH4)+ 339.2898(M+H)+ 1.0 0.6 確認用 オレイン酸グリシジル x105 339 6 4 オレイン酸グリシジル 356(M+NH4)+ 2 0.2 270 290 310 330 m/z 350 370 50 100 150 200 250 m/z 300 350 400 図.1 グリシドールエステル類の MS-MS スペクトル プリカーサーイオン (A):(M+H)+, (B):(M+NH4)+ 3.結果 グリシドール脂肪酸エステル類の SRM クロマトグ ラムは 1000 及び 0.1ng/mL 標準液の結果を図.2 に示し ました。このクロマトグラムから各グリシドール脂肪 酸エステルの S/N 比は図.2 の通り 8~32 であり、 S/N=3 を検出限界とした場合の各グリシドール脂肪酸 エステルの検出限界は 0.009~0.038ng/mL でした。ま た、検量線は図.3 に示しましたが、決定係数は 0.999 以上と良好な結果でした。 で非常に良く一致しました。 また、今回、示しませんでしたが試料マトリックスに よる顕著なオン化抑制も認められませんでした (A) X103 5 リノール酸グリシジル 1 1000ppb 4 0.1ppb 800 リノール酸グリシジル 3 600 2 22.4% 300 1.3 パルミチン酸グリシジル 1.1 0.9 0.7 m/z=354>337 x103 700 パルミチン酸グリシジル 5 x103 1.6 900 1.2 700 オレイン酸グリシジル 0.8 0.4 300 m/z=358>39 1 2 3 オレイン酸グリシジル (S/NR=11) 500 4 5 6 7 保持時間(分) 8 9 10 1 2 3 4 5 6 保持時間(分) 7 8 9 10 図.2 代表的グリシドール脂肪酸エステルの SRM ク ロマトグラム 濃度:0.1ng/mL x106 8 リノール酸グリシジル x106 パルミチン酸グリシジル 5 4 6 3 4 2 1 2 0 0 x106 r2 = 0.9999 20 40 60 80 100 0 0 r2 = 1.0000 20 40 60 80 100 オレイン酸グリシジル 6 4 2 0 0 m/z=330>57 7.8% 1.0 800 600 オレイン酸グリシジル オレイン酸グリシジル 400 m/z=356>339 2 3 200 4 5 6 保持時間(分) 7 8 9 m/z=356>57 1 2 3 4 5 6 保持時間(分) 7 8 9 表.2 各グリシドール脂肪酸エステルの確認用イオン の相対強度(%) 300 m/z=330>313 1 パルミチン酸グリシジル (S/NR=8) 500 3 180 m/z=330>313 X103 図.4 綿実油中各グリシドール脂肪酸エステルの SRM クロマトグラム(添加量:0.1μg/g) (A) : 定量用 (B) : 確認用 200 7 パルミチン酸グリシジル 260 220 1 400 1 m/z=354>81 X103 0.2 リノール酸グリシジル (S/NR=32) 200 m/z=354>337 0.6 x103 リノール酸グリシジル 400 3 10.3% (B) 600 r2 = 1.0000 20 40 60 80 100 図.3 グリシドール脂肪酸エステル類の検量線 食用油は装置及び測定で示した通り、0.1g をヘキサン (10mL)で溶解し、ヘキサン飽和アセトニトリルで抽出 しました。0.1μg/g 相当のグリシドール脂肪酸エステ ルを添加したコーン油の結果は図.4 に定量用及び確認 用 SRM クロマログラムを示しました。また、添加量の 異なる試料での確認用イオンの定量用イオンに対する 相対強度は表.2 に示しましたが、100~0.1μg/g の範囲 グリシドール脂肪酸エステル リノール酸グリシジル パルミチン酸グリシジル オレイン酸グリシジル 100 10.3 21.2 7.7 50 10.4 22.3 7.6 10 9.8 19.5 7.3 グリシドール脂肪酸エステル リノール酸グリシジル パルミチン酸グリシジル オレイン酸グリシジル 1 10.1 19.8 8.2 0.5 9.4 21.2 7.4 0.1 9.2 22.1 8.3 5 9.1 20.3 8.1 今回、確立した方法に従ってグリシドール脂肪酸エス テルを添加した 3 種類の食用油中各グリシドール脂肪 酸エステル類を測定した際の回収率は表.3 に示しまし たが、76~103%と良好な結果でした。 表.3 食用油中各グリシドール脂肪酸エステル類の 回収率 (%) グリシドール脂肪酸エステル リノール酸グリシジル パルミチン酸グリシジル オレイン酸グリシジル 添加量:0.1ppm 綿実油 88 91 103 コーン油 79 85 91 ごま油 83 76 88 4.まとめ 今回、食用油中 3 種類のグリシドール脂肪酸エステ ルの微量分析に LC/MS-MS 法を用いた高感度分析法 を確立しました。その結果、簡便な試料前処理により 食用油中 3 種類のグリシドール脂肪酸を 0.1μg/g 以下 での測定が可能でした。 【LCMS-201008TK-002】 本資料に記載の情報、説明、製品仕様等は予告なしに 変更することがあります。 アジレント・テクノロジー株式会社 〒192-8510 東京都八王子市高倉町 9-1 www.agilent.com/chem/jp
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