川を活かした地域づくりの共創アプローチ 水辺からの都市再生を核とするアジアのネットワーク研究(その2) 和田 彰1・木村 達司2・宇井 正之3・若杉 耕平4・高橋 裕美5・劉 佳6 1技術士(建設部門) 株式会社建設技術研究所 国土文化研究所 (〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町2-15-1 フジタ人形町ビル6階) E-mail: [email protected] 2技術士(総合技術監理・建設部門) 株式会社建設技術研究所 E-mail: [email protected] 国土文化研究所(同上) 3技術士(建設部門) 株式会社建設技術研究所 東京本社水システム部 (〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1 日本橋浜町Fタワー) E-mail: [email protected] 4技術士(総合技術監理・建設部門) 株式会社建設技術研究所 東京本社河川部 (〒330-0071 埼玉県さいたま市浦和区上木崎1-14-6 CTIさいたまビル) E-mail: [email protected] 5技術士補(環境部門) 株式会社建設技術研究所 東京本社環境部(同上) E-mail: [email protected] 6博士(工学) 株式会社建設技術研究所 東京本社水システム部 (〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1 日本橋浜町Fタワー) E-mail: [email protected] 本研究は,河川や水辺が有する多様な機能を活かした地域づくりの更なる推進を目指し,当社が公益を 目的に事務局を共同運営する「日本河川・流域再生ネットワーク(JRRN)」及びJRRNが属する「アジア河 川・流域再生ネットワーク(ARRN)」を活用しながら,情報循環と人材育成のための仕組みを構築すると ともに,その仕組みの持続的発展に向けた企業の貢献のあり方を示すものである.本稿では,2013年から 3年間の研究報告として,ネットワーク活動を支える協働基盤の強化,国内への川づくりの啓発と普及, 海外への日本の実績の見える化,及びネットワークへの貢献による企業の事業価値創造に関わる研究成果 を紹介する. Key Words : River Restoration, Network, Knowledge Sharing Partnership, Creating Shared Value 1. はじめに ・河川や水辺が持つ多様で複雑な機能の評価 ・歴史,文化を踏まえた川づくりの目標の明確化 ・市民・企業・行政が一体となる仕組みづくり ・民間の積極活用,官民連携 ・防災・減災との統合・融合(単一機能→多機能) ・地域経済や農業,観光の活性化(稼げる水辺) ・海外知見の活用 ・人材育成(次世代への技術継承) etc. ここ数年,都市の水辺が活況を呈している.水都大 阪やミズベリングに代表されるように,身近な水辺をま ちの価値を高める貴重な資源と位置付け,市民・企業・ 行政が連携し,賑わい・景観・豊かな自然環境を備えた 水辺の再生・創出による魅力と活力あるまちづくりが全 国で進められている.1), 2) また流域レベルの国土づくり に目を向ければ,自然環境が有する多様な機能(生物の 生息・生育の場の提供,良好な景観形成,気温上昇の抑 制等)を活用し,持続可能で魅力ある地域づくりを進め る概念としてグリーンインフラが注目されている.3), 4) 一方で,こうした河川や水辺が有する多様な機能を 活かした地域づくり(以後,「川づくり」と呼ぶ)の更 なる推進に向けては,次の様な課題が挙げられる. 当社は,各地域に相応しい川づくりの技術や仕組み づくりの発展に寄与することを目的に活動する「日本河 川・流域再生ネットワーク(JRRN)」の事務局を設立当初 (2006 年 11 月)より共同運営している.5) この JRRN 及 79 2. ネットワーク活動を支える協働基盤の強化 び JRRN が属する「アジア河川・流域再生ネットワーク (ARRN)」を活用しながら,前述した諸課題の克服に貢 献するため,以下の 4 つのテーマを柱とする研究活動に 取組んだ.(図-1) 3 章及び 4 章で示す国内外活動を持続発展的に取組む ため,川づくりを担う国内外の活動主体を横断的に結び, 個々の知見を共有しながら諸活動の効率化を図るという ネットワーク本来の触媒機能の拡充に向け,JRRN 及び ARRN の組織基盤強化と活性化に取組んだ. ① ネットワーク活動を支える協働基盤の強化 →国内外の川づくりの様々な担い手が,それぞれ の得意技を持ち寄り新たな価値を共創する協働 基盤の強化を図る. ② 国内への川づくりの啓発と普及(アウトリーチ) →情報,知見,技術を広く社会に届けることで, 多様な主体による川づくりの推進に寄与する. ③ 海外への日本の実績の見える化 →日本の川づくりの実績を海外普及し国際貢献を 果たし,かつ海外の先進事例も同時に習得しな がら,海外の知見も踏まえた日本の歴史・文化 に根ざした川づくりの質の向上を図る. ④ ネットワークへの貢献による企業の事業価値創造 →ネットワーク活動の持続的発展に向けた当社の 貢献のあり方を CSRや CSVの視点から示す. (1) ネットワーク組織基盤の強化 a) JRRN の組織強化に向けた取組み 2006 年 11 月に ARRN の日本窓口として誕生した JRRN は,河川再生について共に考え,次の行動へ後押 しする未来志向の情報を交換・共有することを通じて各 地域に相応しい河川再生の技術や仕組みづくりの発展に 寄与することを目標に活動している.川づくりに関わる 国内行事への協働,後援や活動成果発表等の広報活動を 通じてその普及を図りながら,ほぼ一定の割合で会員数 を増やし,2015 年 12 月現在,56 の団体会員と約 720 名 の個人会員で構成されている.(図-2, 図-3) 2013 年 4 月には,ガバナンス強化を目的として理事会 及び定款を設け,2014 年以降は事業報告・決算書及び 事業計画・予算書をホームページで公開し,運営の透明 本稿は,河川や水辺が有する多様な機能を活かした 性確保と社会的信用力の強化に努めてきた.(図-4) 地域づくりの更なる推進を目的に,川づくりに携わる また,JRRN の事務局は,「アジア河川・流域再生ネ 様々な国内外関係者との協働を基本とした2013年から3 年間に渡り取組んできた研究成果を紹介するものである. ットワーク構築と活用に関する共同研究」の一環として, 公益を目的に公益財団法人リバーフロント研究所と当社 が共同運営し,活動資金は両組織の自己資金と補助金を 活用しながら諸活動を展開している. 図-1 4つの研究テーマ 図-3 図-2 JRRN個人会員の所属内訳 図-4 現在の JRRN組織体制図 JRRN個人会員の加入状況(縦軸:人,横軸:年月) 80 b) ARRN の組織強化に向けた取組み 2006 年 3 月にメキシコで開催された第 4 回世界水フォ ーラムを契機に同年 11 月に設立した ARRN は,規約及 び内規に基づき,ウェブサイトや年次国際フォーラム等 の行事開催を通じて川づくりに関わるアジアの知見を交 換・共有し,またアジア河川再生ガイドラインの構築を 主な目的として 9年に渡り活動を展開している. 日本・中国・韓国の設立メンバー3 か国に加え,2012 年 12 月には台湾が国・地域ネットワークである RRN (River Restoration Network)メンバーとして加入し,現在 は 4 - RRN 組織で構成している.またネットワークを形 成していない Non-RRN メンバーも 6 団体(3 つの政府機 関,2 つの NGO,1 企業)が参加し,2015 年 12 月現在, フィリピンとインドの団体の Non-RRN メンバー加入手 続きを実施中で,ミャンマー及びモンゴルの政府機関と ARRN 加入に向けた調整段階にある. また,ARRN の活動計画や組織体制は,各国 RRN 代 表者が出席し毎年開催する ARRN 運営会議で決議され, 企画や情報共有を支援する ARRN 情報委員会,技術全 般を担う ARRN 技術委員会,及び ARRN 事務局の 3 組 織が運営会議の支援機能として設置されている.(図-5) なお,ARRN 規約では,ARRN 事務局は各国 RRN の 交替で選ばれること,また ARRN 事務局の活動資金は 選ばれた RRN 組織が負担することが定められている. ARRN 設立から 2012 年 11 月までの 6 年間は JRRN(日 本)が ARRN 事務局務め,その後 2015 年 4 月までの 3 年間を CRRN(中国)が担った後,2015 年 4 月に開催さ れた第 10 回 ARRN 運営会議において KRRN(韓国)へ と事務局が移管し,設立 9 年目にしてようやく設立メン バーのローテーションが実現した.(写真-1) この様に,ARRN 活動の持続的発展には ARRN事務局 が果たす役割も重要であり,2012 年 9 月より運用する 「ARRN 事務局運営に関わる内規」で定めた事務局業務 及び事務局移管ルールに基づき,過去に事務局を務めた JRRN や CRRN が現 ARRN 事務局である KRRN を後方支 援しながら ARRN の組織強化を図っている. 図-5 ARRN組織図 (2) ネットワークの活性化 ネットワークの活性化に向けては,JRRN による各種 協働活動を ARRN を通じ諸外国に普及しながら,合わせ て ARRN メンバー及び連携機関の協働成果や関連情報を 国内に還元することで,国内外ネットワークを連動させ た川づくりに関わる情報循環網の整備を図った.(図-6) a) JRRN の活性化に向けた取組み 前節で示した JRRN 活動目標を JRRN 会員とともに達 成するため,会員協働活動の企画・開催や,会員からの 行事広報,出版案内,情報提供等の依頼に対応しながら 会員間の交流を促進した. 例えば,日本の水辺の魅力を再発見できるような桜 の水辺写真を 2010 年より毎年春に募集し,2015 年は九 州から北海道まで 17 名・51 点の応募作品を写真集とし て発行し,更に応募作品から JRRN 会員による優秀作品 選考を行い,24 名より応募作品への感想や今後の新た な企画提案を頂いた.また 2015 年 9 月には「東日本豪 雨から考える~今後の川づくりや川とのつき合い方」を テーマにメッセージを募集し,その内容をホームページ 等で紹介するなど,会員の相互交流促進を目指した取組 みを実施してきた. 写真-1 第10回ARRN運営会議 及び ARRN事務局移管式典 図-6 ネットワークの活動概要(2013-2015) 81 3. 国内への川づくりの啓発と普及 b) ARRN の活性化に向けた取組み 川づくりに関わるアジアの知見の情報共有を促進す るため,ARRN 設立前の 2005 年に始まった「水辺・流 域再生にかかわる国際フォーラム」を ARRN 主催行事 として現在も毎年開催し,ARRN 参加メンバーの活動状 況や国内動向の共有を図っている.(表-1) 最近は,本国際フォーラムを川づくりに関わる国際 会議の分科会として開催することで,アジア諸国に ARRN の普及を図るとともに,欧州などアジア以外の地 域に対するアジアの川づくりの知見の紹介にも努めてき た.2014 年 10 月には欧州河川再生センター(ECRR)と ARRN との間で技術交流に向けた覚書を締結し,2015 年 9 月には豪州を拠点に活動する国際河川財団(IRF)と ARRN との今後の技術交流促進に向けた会議を開催する など,国際的な連携体制の強化も進めている. 加えて,ウェブサイトによる情報共有も合わせて推 進しており,各 RRN が独自のウェブサイトを構築しな がら,JRRN が運営管理する ARRN ウェブサイトよりア クセスできる環境を整備してきた.(図-7) 河川や水辺,川づくりに対する社会の関心を高め, また既存活動を応援し活性化することを通じて,川づく りの市民啓発,技術普及,人材育成等を目的とした諸活 動を産学官民セクターと協働 で実施した. (1) 情報循環の促進 国内外の川づくりに関連するニュース,行事情報, 活動事例,専門誌や新刊書,行政ニュース等について, JRRN のウェブサイト(日平均 2000 アクセス)や facebook(500 登録者,日平均 800 閲覧者),ニュースメ ール(毎週配信,2015 年 12 月時点で第 660 号),ニュ ースレター(毎月発行,2015 年 12 月時点で第 102 号) を通じて広く社会に発信するとともに,これら情報媒体 を活用し,JRRN 会員や海外連携機関からの川づくりに 関わる提供情報の共有を図った.(図-8) また 2015 年には,後述する水辺の小さな自然再生に 関わるポータルサイトの構築にも取り組み,2016 年 2 月 頃には公開の予定で鋭意制作中である.(図-9) 図-7 ウェブサイト整備状況 (ARRN, CRRN, KRRN, TRRN) 表-1 回 ARRN「水辺・流域再生国際フォーラム」開催履歴 開催日 開催地 主管 1 2005.1.19 東京 JRRN 備考 ARRN設立前準備会 2 2005.10.27 東京 JRRN ARRN設立前準備会 3 2006.11.9 東京 JRRN ARRN設立式典併催 4 2007.11.30 東京 JRRN 5 2008.11.4 北京 JRRN 第 4 回 APHW分科会 6 2009.9.29. ソウル JRRN 第 5回 KICTワークショップ分科会 7 2010.9.14 ソウル JRRN ISE2010分科会 8 2011.11.11 東京 JRRN 9 2012.11.24 北京 CRRN 10 2013.9.10 成都 CRRN 11 2014.10.29 ウィーン CRRN 第 5回欧州河川再生会議分科会 12 2015.4.15 慶州 KRRN 第 7回世界水フォーラム分科会 図-8 国内向けの主な JRRN情報媒体 第 35 回 IAHR大会分科会 図-9 現在制作中の小さな自然再生ホームページ 82 写真-2 愛知県豊田市岩本川での研修会(2015年 9月) 図-10 調査研究成果をとりまとめた事例集 表-2 JRRN による主な出版物(2013-2015) 写真-3 滋賀県長浜市高時川での研修会(2015年 11月) 発行年月 2013. 2 (2) 講演会や研修会の開催 川づくりの啓発・普及を目的とした行事を各分野の 専門家と協働で企画・開催し,その成果を講演録や開催 報告書として JRRN 情報媒体を活用し広く社会に還元す ることで,本分野の関心と技術の向上に努めた. 啓発行事では,2014 年 3 月に都心を舟でめぐりながら 「東京の川の未来」について語り合う船上座談会を開催 (全 4 便・36 名参加)し,水辺の利活用や河川環境保 全について考える機会を提供した. また,川づくりの技術向上に向けては,川を活かし た地域づくりに寄与する「小さな自然再生」をテーマに, 2014 年 11 月に「『小さな自然再生』事例集制作座談会 ~小さな自然再生が中小河川を救う! 更なる推進に向 けた方策を探る」を開催し,この座談会での提言も踏ま え,2015年には 2回の現地研修会を開催した. 本研修会は,全国の先進事例から得られた技術,工 夫,仕組み,教訓,留意点等についての有識者による講 義,現場での河川管理者及び専門家による指導,及び講 義と現地視察の知識を踏まえたワークショップ演習の 3 部構成となっている.各研修には 50 名弱が参加し,河 川管理者である愛知県豊田市や滋賀県をはじめ多数の 方々のご協力のもと,様々なセクターの実務者がフラッ トな関係で技術を学び合う貴重な機会となった.(写真2,写真-3) 講演会や研修会等は,行事開催そのものが目的では なく,行事の成果が新たな川づくりに活用され,次の行 動へと繋げていくためのものである.そのためには,一 過性の行事とせず,行事成果は丁寧に取り纏め当日参加 できなかった方々の活用に資するツールとしても普及す るとともに,参加者のフィードバックを得て行事の質を 更に高めながら,今後もこうした機会を増やしていく. 83 名称 講演会「市民による河川環境の見かた・調べかた-英国 PRAGMOに学ぶ」講演録 2013. 2 川を活かす・守る~河川再生事例集~ 2014. 6 桜のある水辺風景 2013写真集 2014. 3 河川モニタリング活動事例集~できることからはじめよう -市民による河川環境の評価~ 2014. 3 JRRN初春の都心の舟めぐり 開催報告 2014. 7 桜のある水辺風景 2014写真集 2014. 12 欧州河川再⽣会議 2014参加報告 2015. 3 できることからはじめよう 水辺の小さな自然再生事例集 2015. 6 桜のある水辺風景 2015写真集 2015. 10 第 1回 小さな自然再生現地研修会@豊田市 開催報告 2015. 12 第 2回 小さな自然再生現地研修会@滋賀県 開催報告 (3) 調査研究と出版 川づくりの推進に向けた調査研究に取組み,成果は 事例集等の出版物として普及した.(図-10,表-2) 2013 年には,市民が主役となって取組む全国約 50 団 体の河川環境に関わるモニタリング活動の実態を調べ, 日本における市民によるモニタリング活動の特徴や課題, 工夫等を『河川モニタリング活動事例集~できることか らはじめよう-市民による河川環境の評価~』にとりま とめ 2014 年 3月に出版した. また 2014 年には,小さな自然再生の実践を通じその 技術普及に尽力する専門家,専門知識の社会への橋渡し の有識者,及び有志の若手研究者や実務者で構成される 「小さな自然再生事例集編集委員会」を設立し,全国の 中小河川で取り組まれている小さな自然再生の事例を調 査し,その考え方や実施に際しての留意点等を『できる ことからはじめよう 水辺の小さな自然再生事例集』に 集約し全国に普及した.2015 年も本事例集を活用した 小さな自然再生に関わる人材育成や情報共有の仕組みの あり方について研究し,前節で紹介した現地研修会やウ ェブサイト制作に取組んだ. (4) 協働活動への参加 JRRN 会員が取組む諸活動への協働も川づくりの啓発 と普及に向けて重要であり,以下の様な活動に参加しな がら,成果の全国普及を通じ他地域での類似活動の活性 化を目指した. a) 「水の巡回展ネットワーク」協働(2012 年~) 大学生や教員,気象キャスター,展示プランナーやデ ザイナー,国土交通省職員等の有志のメンバーで構成さ れる「水の巡回展ネットワーク(jawanet)」に参加しな がら,主に子どもたちを対象とした水や河川に関る展示 ユニットの開発に協働した.(図-11) b) 「遠賀堀川の夢実現プロジェクト」協働(2012年~) 福岡県を流れる遠賀堀川での地元の市民団体,行政機 関,大学及び筑波大学白川直樹研究室の連携による川を 活かした地域づくりに協働し,明治産業革命遺産である 遠賀堀川の再生を通じた地域活性化に取組んだ. c)「東彼杵町 水辺からのまちおこし」協働(2013年~) 長崎県東彼杵町の関係者や筑波大学白川直樹研究室で 構成される「彼杵おもしろ河川団」に加わり,今後の町 内の水辺活用策について地元関係者で考える連続ワーク ショップ「水辺からのまちおこし広場」への参加を通じ, 川を活かしたまちづくり活動に協働した.(写真-4) 図-11 jawanet企画制作による二つの巡回展示 4. 海外への日本の実績の見える化 日本が培った川づくりに関わる技術や経験の海外普 及を目的に,JRRN 活動成果を含む川づくりの知見を ARRN 活動や海外関係機関との技術交流を通じ広報した. (1) ARRN 活動を通じた交流促進 2 章で述べた ARRN 主催「水辺・流域再生国際フォー ラム」では,日本の川づくりに関わる事例や取組みを毎 年講演し,参加者と共に日本の実績の共有を図った. また 2015 年 9 月には,オーストラリアで開催された 第 18 回・国際河川シンポジウムにおいて ARRN 主催セ ッション「アジアの河川再生」を開催し,アジアの川づ くりの話題提供として JRRN より 2 講演,韓国より 3 講 演を紹介し,日本の知見の普及に努めた.(写真-5) (2) 技術交流会や国際会議の開催による普及促進 上記の ARRN 活動以外にも,川づくりに関わる海外 関係機関との技術交流会や国際シンポジウムの開催を通 じて日本の実績の普及を図った. 2013 年 2 月には来日した香港政府視察団との都市排水 路の洪水防御と環境再生に関わる技術交流,2014 年 12 月にはオランダ水理研究所(Deltares)との低平地におけ る治水と自然再生を融合させた河川管理に関わる技術交 流,更に 2015 年 3 月には韓国建設技術研究院の水辺の 賑わい創出に関わる訪日研修を受け入れた.(写真-6) また,2015 年 11 月には世界工学会議(WECC2015) の関連行事として,JRRN 共催による国際シンポジウム 「河川技術が果たすイノベーションと社会貢献」を京都 にて開催し,防災・環境に配慮した河川技術を主テーマ に国内外の知見を共有し,合わせて日本が培った本分野 の経験を海外参加者に紹介した.(写真-7) 写真-4 彼杵川における協働活動(2015年 5 月及び 8月) 写真-6 韓国視察団の視察受入(2015 年 3月) 写真-5 第 18回 国際河川シンポジウム(2015 年 9月) 写真-7 河川技術 国際シンポジウム(2015 年 11月) 84 5. ネットワークへの貢献による事業価値創造 (2) 当社事業環境を踏まえたネットワークへの貢献 主に社会基盤づくりを担う事業者を顧客に,社会資 本に関する課題解決策や適切な対応策を提供する職務が 企業が担える最大の社会貢献は,真に役立つ事業を 建設コンサルタントだが,地域の声として社会のフィー 継続的に社会に提供することに他ならない.この実現に ドバックを直接得ることは稀であり,自分の仕事がどの 向け,本研究で発展させてきたネットワークをどのよう ように社会に貢献し,安全,潤い,豊かさを提供できた に活用できるのか,そのためにネットワークの更なる発 のかの成果を確認する機会に乏しい事業環境にある. 展に当社がどのように貢献していくべきかについて, こうした中においても,仕事に従事するコンサルタ CSR や CSV(共有価値の創造:社会的課題の解決と企 ントの技術力や課題解決力,さらに職務に対するプライ 業の競争力強化を同時に実現する戦略)の視点から,今 ドやモチベーションを持続的に向上させ,その結果とし 後の方向性を検討した. て本業の品質を絶えず高めていくことが,社会に役立つ 事業を永続的に提供し続ける上では欠かせない. (1) 進化する CSR 本研究では,社員が本業で培った経験(専門性,得 日本に CSRが定着して 10年,2010年には CSRの国際 意技)を,社会の様々なセクターとの協働活動を通じ地 規格 ISO26000 が発行され,ここ数年は戦略的 CSR とし 域・社会に還元する中で,上記の人材育成を合わせて実 て CSV という言葉も日本にも浸透してきた.かつての 「善行としての CSR」「CSR か利益か」という議論は, 現するための方策について,川づくりをテーマに検討し ている.すなわち,本業以外の活動を通じて川づくりに CSR の積極的な推進を通じて如何に企業の価値と持続性 関わるステークホルダーとの対話の機会を増やし,協働 を高め,更に本業と統合により経済的利益も増幅させら 6), 7), 8),9) 活動から社会課題の源泉や地域のニーズ,日々取組む本 れるかという視点へと移っている. (表-3) 業の社会的意義などを自ら汗を掻きながら学ぶことで社 例えば,日本のいくつかの企業では,社会的課題の 員の資質を高め,その結果として本業でのよいサービス 解決と企業利益を同時に追求する CSV の考えを経営戦 提供を通じて社会に恩返しする好循環を構築できるので 略に取組み,社会と企業の共有価値の創造を目指した新 10),11), 12),13) はないかと考えている. たな企業活動が既に展開されている. (表-4) 例えば 2015 年に開催した 2 回の「小さな自然再生」 序章で取り上げた川を活かした地域づくりの諸課題 現地研修会には,20 歳代~60 歳代まで計 10 名の当社社 の克服に向けては,企業の CSR による新たな関与も期待 員が主催者及び参加者の立場で協働し,川づくりに関わ できるだろう. る様々な立場の方々との技術交流を通じ相互の人材育成 表-3 CSRとCSV比較例 を図った.また研修会終了後には,こうした協働活動へ の貢献や得られた経験について表-5 の様な意見を得た. 上記の好循環を実現するためには,川づくりに関わ る既存の CSR 活動を本業との関わりから再定義し,ネ ットワークへの更なる貢献を,企業が社会に役立つ事業 を提供し続けるための大切なプロセスの一つと捉える意 識改革が必要となる.合わせて,社内にある社会貢献活 動支援制度やボランティア休暇制度の活性化を含め,よ り多くの社員の主体的な参加が可能と仕組みについても, 表-4:主な CSV 事例 引き続き検討を深めていきたい. 企業名 プロジェクト名 キリン 三菱地所 住友林業 JTB ヤマトホールディングス 王子ネピア 資生堂 電通 ローソン NEC キリン絆プロジェクト 空と土プロジェクト Project EARTH 地域交流プロジェクト プロジェクト G nepia 千のトイレプロジェクト 未来椿活動 電通ダイバーシティ・ラボ マチの健康ステーション インド ICHIGOプロジェクト サラヤ 100万人の手洗いプロジェクト 表-5 協働活動への今後の貢献策や得られた経験 85 6.おわりに 参考文献 企業が社会に役立つ事業を継続的に提供していく上 での最大の経営資源は「人」である. 土木学会創立 100 周年宣言では,土木技術者の役割と して「土木技術者は,社会の安全と発展のため,技術の 限界を人々と共有しつつ,幅広い分野連携のもとに総合 的見地から公共の諸課題を解決し社会貢献を果たすとと もに,持続可能な社会の礎を築くため,未来への想像力 を一層高め,そのことの大切さを多くの人々に伝え広げ る責任を全うする.」が表明された.14) また 2015 年度 土木学会全国大会における会長基調講演では,「市民と ともに課題解決できる技術者の育成」が土木学会の優先 課題として示されている.15) これからの時代の川づくりを担うコンサルタントは, 専門性に根ざした地域課題の解決に資する高品質の成果 を生み出すことはもちろんのこと,地域に果たす河川の 価値や魅力,更には自ら携わった事業成果の意義を広く 市民に伝える能力を合わせ持つことが求められる. 今後もネットワークの運営や諸活動に当社社員が参 加しその発展に貢献しながら,河川や水辺の持つ価値の 本質的な理解を深めるとともに,ステークホルダーとの 積極的な対話を通じて,川づくりのプロフェッショナル 育成を目指していきたい. 1) 泉英明, 嘉名光市, 武田重昭 :都市を変える水辺アクション 実践ガイド, 学芸出版社, 2015 2) 特集「河川の活用による地域の活性化」,河川 70 巻 第 11 号, 2014. 3) 国土形成計画(全国計画), 国土交通省国土政策局, pp.150, 2015 4) 第4次社会資本整備重点計画, 国土交通省国土政策局, pp.16, 2015 5) 和田彰・木村達司・宇井正之・若杉耕平・高橋裕美・劉佳: 水辺からの都市再生を核とするアジアのネットワーク研究 (その2), 国土文化研究所年次報告 Vol.13, pp.50-55, 2015. 6) 藤井剛:CSV時代のイノベーション戦略, ファーストプレス, 2014 7) 川村雅彦:CSR 経営 パーフェクトガイド, ウィズワークス, 2015 8) 東京財団CSR研究プロジェクト:CSR白書 2015-社会に応 えるしなやかな会社のかたち, 東京財団, 2015 9) 森摂, オルタナ編集部:未来に選ばれる会社 CSR から始ま るソーシャル・ブランディング, 学芸出版社, 2015 10) 赤池学, 水上武彦:CSV経営―社会的課題の解決と事業を両 立する, エヌティティ出版, 2013 11) 玉村雅敏, 横田浩一, 上木原弘修, 池本修悟:ソーシャルイン パクト 価値共創(CSV)が企業・ビジネス・働き方を変える, 産学社, 2014 12) 岩井克人, 小宮山宏:会社は社会を変えられる 社会問題と 事業を<統合>する CSR戦略, プレジデント社, 2014 13) 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング:CSV 経営による市 場創造 CSVアプローチでステークホルダーとの Win-Win関 係構築, 日科技連, 2015 14) 特集「土木学会創立 100 周年」,土木学会誌 第 100 巻 第 5 号, pp.14-15, 2015. 15) 会長からのメッセージ 第 34回,土木学会誌 第 100 巻 第 10 号, pp.2-3, 2015. 謝辞:JRRN の諸活動に日々ご協力頂いている関係者各 位に対し,深く感謝を申し上げます. (2015. 12. 18 受付) DEVELOPMENT OF RIVER RESTORATION NETWORK BASED ON PARTNERSHIP AND CREATING SHARED VALUE APPROACH Akira WADA, Tatsushi KIMURA, Masayuki UI, Kouhei WAKASUGI, Hiromi TAKAHASHI and Ja RYU Japan River Restoration Network (JRRN), which is one of national networks of Asian River Restoration Network, was established in 2006, and CTI Engineering Co., LTD. has been in charge of JRRN secretariat with River Front research Center since its establishment. This paper reports major activities and achievements by JRRN and ARRN since 2013, consisting of 1) reinforcement of the network, 2) enlightenment and technical spread of river restoration in Japan, 3) public relations of Japanese achievement on river restoration. In addition, this paper shows how CTI, private company, contributes sustainable development of both network from a viewpoint of CSR and CSV. 86
© Copyright 2024 Paperzz