石油コンビナート等の消火用屋外給水施設における合成樹脂配管の使用に

最 近 の
行政の動き
「石油コンビナート等の消火用屋外給水施設にお
ける合成樹脂配管の使用に関する検討会報告書」の
概要について
消防庁特殊災害室
分野で用いられるようになっており、一般の消
はじめに
昭和40年代に相次いだ大規模な石油コンビ
防用設備の配管については、平成13年の消防法
ナート災害を契機に、石油コンビナート等災害
施行規則の改正及び消防庁告示制定により、利
防止法が昭和50年12月に制定されました。この
用が可能となっています。
法律では、石油コンビナート等特別防災区域の
そこで、消防庁では平成26年度に「石油コン
防災体制の確立を図ることを目的に、大量に石
ビナート等の消火用屋外給水施設における合成
油又は高圧ガスを取り扱う特定事業所に対し、
樹脂配管の使用に関する検討会」
(以下
「検討会」
自衛防災組織や特定防災施設等の設置等が義務
という。
)を開催し、石油コンビナートにおける
づけられています。
消火用屋外給水施設の配管に合成樹脂製の管を
特定防災施設等のうち、消火用屋外給水施設
使用することについて、種々の課題を検討し、報
については、その配管は鋼製とされ、原則地上
告書がとりまとめられました。以下、報告書の概
に設置することとされています。一方、石油コ
要を御紹介します(平成27年 月28日消防庁報道
ンビナート等災害防止法の施行前から存する当
資料
該施設については、鋼管が地下に埋設されてい
topics/houdou/h27/04/270428_houdou_3.pdf
るものも多くある等、設置から40年以上が経過
参照)
。
HP
http://www.fdma.go.jp/neuter/
し、腐食による漏水や管摩擦損失の増大による
給水能力の低下等が懸念され、平成27年
特定防災施設等(消火用屋外給水施設)の
月よ
り、設置から40年を経過した同施設に対する点
現状等について
検基準の強化も行われたところです。
−
消火用屋外給水施設の配管の基準
消火用屋外給水施設は、石油コンビナート等
このような中、近年、優れた耐震性、耐腐食
災害防止法(以下「石災法」という。)第
性、可とう性等を有する合成樹脂配管が様々な
条第
消火用屋外給水施設の例(配管・消火栓)
9
Safety & Tomorrow No.162 (2015.7)
消火用屋外給水施設に合成樹脂配管を使用
10号で定義される特定防災施設等の一つで、事
業所の石油等の貯蔵取扱量に応じて特定事業者
する場合の課題等について
に設置が義務づけられているものであり、消火
―
用屋外給水施設の構造基準は、石油コンビナー
一般の屋外消火栓設備に現在使用されている
ト等における特定防災施設等及び防災組織等に
合成樹脂配管の一例としてポリエチレン製の管
関する省令(以下「施設省令」という。
)第10条
があります。表
に規定され、その配管は、鋼製のものを原則地
べ、軽量で、伸びや許容曲げ角度が極めて大き
上に設置することとなっています。
く、柔軟性に優れており、地盤の変位に対し優
−
消防用設備の配管の基準(消防法施行
合成樹脂配管の特徴
−
に示すように、鋼管と比
れた追従性等を有しています。そのため、これ
まで経験した地震において、被害がないことが
規則第12条)
消防法第17条に基づく消防用設備の消火配管
報告されています。
については、消防法施行規則第12条等に規定さ
また、ポリエチレン製の管は耐薬品性に優れ
れており、石油コンビナートにおける消火用屋
るとともに、ポリエチレン製の管を埋設消火配
外給水施設と類似の設備である一般の屋外消火
管として使用した場合、その費用は鋼管を使用
栓設備の配管についても、同条第
した場合と比較し、施工費及び材料費ともに
項第
号を
準用するかたちとなっています。具体的には、
60%程度となることが報告されています。
−
金属製の管及び消防庁長官が定める基準に適合
する合成樹脂製の管とされています。なお、合
⑴
合成樹脂配管の課題と対応方法
成樹脂製の管については、平成13年の消防法施
熱影響等
①
火災による影響
行規則の改正及び合成樹脂製の管及び管継手の
合成樹脂配管は、火災等による熱影響を
基準(消防庁告示、以下「告示」という。
)の制
受けやすいため、火災の熱による悪影響を
定により、その使用が認められることとなった
受けないように設置することが必要です。
ものであり、当該告示において、合成樹脂製の
埋設ポリエチレン管に対する火災の影響に
管に求められる性能を確認するための試験方法
ついては、地表面から一定の距離をとって
等が定められています。
埋設することにより、地上における火災の
熱影響を十分低減できると考えられます。
表
−
ポリエチレン管と鋼管類との基本特性比較
(建築設備用ポリエチレンパイプシステム研究会からの資料提供)
配水用ポリエチレン管
機
械
的
物
性
外面被覆鋼管
引張降伏強度(MPa)
20.0
290
破断伸び(%)
350以上
30以上
弾性係数(MPa)
1.05×103
2.06×105
許容曲げ角度(゜)
30゜
特徴
伸びや曲げに優れている
重量
(呼び径:100、長さ:
m)
゜
強度は高いが伸びや曲げに劣る
軽量で、持ち運びしやすい。(17.2kg) ポリエチレン管の約
(88kg)
倍
接合
EF 接合が基本
溶接接合が基本
耐食性
耐食性に優れ、防食対策が不要
溶接接合、切り管部の防食対策
が必要
Safety & Tomorrow No.162 (2015.7) 10
②
行った結果、レベル
熱伝導による影響
消火栓や鋼管は地上に設置されるため、
ベル
地震動
※
地震動
※
及びレ
のいずれの場合において
これに接続される合成樹脂配管への熱伝導
も発生ひずみは許容値の範囲内となりまし
の影響を考慮する必要があるため、伝熱シ
た。
※
ミュレートを行いました。その結果、地表
の加熱部分から0.6m 以上、鋼鉄製の管の
※
管長をとれば、熱伝導によりポリエチレン
製の管に伝わる温度は、軟化温度よりも下
レベル 地震動
当該施設の設置地点において発生するものと推
定される地震動のうち、当該施設供用中に発生す
る可能性の高いもの。
レベル 地震動
当該施設の設置地点において発生すると想定さ
れる地震動のうち、最大規模の強さを有するもの。
回ることから、熱伝導による影響は十分に
低減できると考えられます。
③
⑵
②
紫外線による影響
土圧等の影響
合成樹脂配管を土中に埋設する場合、管
一般的に、合成樹脂は長期間紫外線に暴
の持つ強度特性に従って埋設強度(土圧、
露されることにより、劣化することから、
管のたわみ)
の検討を行う必要があるため、
地下埋設等により、紫外線の影響を受けな
厚生労働省の水道施設設計指針に従って埋
いようにする必要があります。
設条件に対する強度の計算を行った結果、
大口径配管の対応
土被りを0.6m 以上とした場合には、許容
消防用設備(屋外消火栓設備)に用いる合
値の範囲内に入ることがわかりました。
成樹脂配管は、一般的に管径φ200mm まで
⑷
周囲で油漏れが発生した場合の影響
のものが供給されていますが、消火用屋外給
消火用屋外給水施設の周囲で油漏れが発生
水施設ではその要求性能からφ300mm を超
した場合にも、ポリエチレン管は様々な化学
えるものの配管を使用することが考えられま
物質に対し比較的強い耐薬品性を有すため、
す。配管の内圧と発生応力との関係は、管肉
鋼管に求められる様な腐食防止措置等は不要
厚比に依存し、管径が大きくなった場合でも、
であると考えられます。ただし、用いられる
肉厚を増せば必要な強度を確保できます。ま
材質に対し、顕著な悪影響を与える化学物質
た、告示に定める試験基準を満たせば、大口
の漏れ等があった場合は必要な措置(交換や
径配管であっても必要な性能・強度を確保す
土壌の処理等)
が必要となると考えられます。
ることができます。
⑶
埋設配管への様々な荷重(地震動、活荷重
合成樹脂配管の施工上の留意点について
及び土圧)の影響
−
合成樹脂配管を埋設する場合は、様々な荷
埋設時等の留意点
合成樹脂配管の埋設方法等について、「
−
重の影響について(社)日本水道協会の水道
合成樹脂配管の課題と対応方法」及び消火
施設耐震工法設計・解説や水道施設設計指針
用屋外給水施設の設置基準について(昭和55年
等に従って施工することが必要となるため、
消防地56号通知)を踏まえ、次のとおり留意点
呼び径が20mm から650mm のポリエチレン
を整理しました。
製の管について、次の検討を行いました。
・配管は、原則として配管敷内に敷設し埋設す
①
地震動の影響
ること。
「日本水道協会:水道施設耐震工法指針・
・ 配 管 は、そ の 外 面 か ら 他 の 工 作 物 に 対 し
解説、2009年版」に準拠して、耐震計算を
0.3m 以上の距離を保たせ、かつ、当該工作
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Safety & Tomorrow No.162 (2015.7)
物の保全に支障を与えないように施工する必
路に埋設位置及び埋設方向を表示した標識並び
要がある。ただし、配管の外面から他の工作
に仕切弁の設置箇所には、見やすい場所に位置
物に対し0.3m 以上の距離を保たせることが
標識を設けることが必要です。
困難な場合であって、かつ、当該工作物の保
−
全のための適切な措置を講じる場合は、この
消火用屋外給水施設の管路設計において、配
限りでない。
・配管の外面と地表面との距離は、0.6m 以上
とること。
・配管は、地盤の凍結によって損傷を受けるこ
とのないよう適切な深さに埋設すること。
管の摩擦損失水頭を評価することが必要です。
合成樹脂配管の内面は、一般に鋼管よりも平滑
であり、流速係数は140としています。なお、こ
の値については、実験結果からもその妥当性が
得られています。
−
・盛土又は切土の斜面の近傍に配管する場合
・配管の立ち上り部、地盤の急変部等支持条件
鋼管との接続
合成樹脂配管を埋設して使用する場合、地上
は、安全率1.3以上のすべり面の外側に埋設
すること。
摩擦損失
部分の消火栓やバルブと接続する場合、一般的
には火災等の影響を考慮し、埋設の合成樹脂配
が急変する箇所については、
曲り管のそう入、
管と地上の鋼管を接続する必要が生じます。ま
地盤改良その他必要な措置を講ずること。
た、埋設の合成樹脂配管に仕切弁を設置する場
・不等沈下、地すべり等の発生するおそれのあ
合も弁が鋼製であるため同様な接続が生じま
る場所に配管を設置する場合は、当該不等沈
す。この場合において、次のような接続を行う
下、地すべり等により配管が損傷を受けるこ
ことが考えられます。
とのないように必要な措置を講ずる必要があ
⑴
ピット内接続
地上の火災による影響を避けるため、地上
る。
・合成樹脂配管は、電気融着により接合される
から0.6m 以上の根入れを確保し、ピット内
ことから、確実に接続できていることを埋め
において、鋼管と合成樹脂配管を接続するこ
戻し前に目視(電気融着の処理が完了してい
とが考えられます。また、ピットには、雨水
ること)及び通水試験により確認する必要が
等の進入を防止できる構造の不燃材料で作っ
ある。
た蓋を設けることが必要です。
(図
・掘さく及び埋めもどしの方法は、危険物の規
⑵
− )
地中接続
制に関する技術上の基準の細目を定める告示
現行法令上、消火用屋外給水施設に使用す
(昭和49年自治省告示第99号)第27条に規定
る鋼管の埋設については、寒冷地など特殊な
する方法に準じて、実施する必要がある。
場合にのみ認められています。しかしなが
また、配管内部に泥等が溜まる可能性がある
ら、鋼管と合成樹脂配管を接続する場合は、
ため、配管内部洗浄を行うことが想定される場
その範囲を必要最小限の範囲に限定するとと
合は、それに対応した管路の施工をすることが
もに、腐食防止措置を講じた場合は、合成樹
必要です。
脂配管を使用する場合のメリットを総合的に
−
埋設位置標識
合成樹脂配管の埋設部には、維持管理目的の
勘案し、埋設を認めることが適当であると考
えられます。また、当該鋼管埋設部分には、
他に、埋設部近傍で工事等が行われる際の破損
全体的な腐食防止措置をする必要があります
事故防止を目的として、地上又は地中の配管経
が、施設の機能に影響を与える漏水等があれ
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鋼管
耐火板
樹脂管
図
−
60cm 以上
ピット内接続の施工イメージ
鋼管
60cm 以上
樹脂管
腐食防止措置を要する範囲
腐食防止措置を要する範囲
図
−
地中接続の施工イメージ
埋設された合成樹脂配管に係る定期点検は、
ば、当該地表面にしみ出すなど容易に場所を
特定することができることから、漏水検知装
基本的に従来の点検基準と同様ですが、埋設部
置は不要と考えています。この場合、地表面
分においては腐食のおそれが少ない材料である
のしみ出しなどが目視で確認できる様、アス
ことに鑑み、放水試験による総合点検で適切に
ファルト舗装等で当該場所を完全にふさがな
必要な機能が維持されていることを確認するこ
いことに留意する必要があります。(図
とで足りると考えます。
−
また、合成樹脂配管と接続する部分で地下埋
)
設を行う鋼管については、場所が特定できるこ
とから、当該部分における地上部分への漏水の
合成樹脂配管の定期点検について
有無について目視確認することで足りると考え
合成樹脂配管は、その性質から地下に埋設し
ます。
て設置することが一般的ですが、耐腐食性、耐
震性、耐地盤変位性等が鋼管に比べ優れており、
まとめ
石油コンビナート等特別防災区域の地震時等に
本検討会では、石油コンビナート等の消火用
おける強靱化に寄与するものと考えられ、その
屋外給水施設の配管に合成樹脂配管を用いる場
活用はメリットが多いと考えられます。
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Safety & Tomorrow No.162 (2015.7)
合の課題(火災による熱影響、消防用設備に用
の消火栓部分は地上に置かれるため、埋設部分
いられるものと比べて大口径の配管を使用する
の合成樹脂配管と地上の鋼管とを接続すること
影響、埋設する場合の土圧や地震動による荷重
が必要となることから、その施工方法等につい
の影響、周囲の油漏れの影響、定期点検の考え
て検討し、施工例を示しました。これらを踏ま
方)等について整理を行いました。
えることにより、合成樹脂配管を消火用屋外給
合成樹脂配管は、一般的に、耐震性、耐腐食
水施設に用いた場合においても、必要な性能は
性、可とう性に優れている一方で、熱には弱い
確保できるものと考えられます。さらに、南海
ことから、その設置方法に注意を要することと
トラフ地震や首都直下地震の発生が懸念される
なります。そのため、火災等による熱の影響を
中、合成樹脂配管の活用は、消火用屋外給水施
受けにくい地中に埋設する方法が一般的と考え
設の地震の際の信頼性の確保・向上に貢献する
られ、埋設時の施工方法については、水道施設
ことが期待できるものであり、ひいては、石油
の施工などで確立されている関係指針類等に従
コンビナート区域等の防災体制の充実強化にも
うことが必要です。また、消火用屋外給水施設
つながるものと考えられます。
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Safety & Tomorrow No.162 (2015.7)