野鳥の学校通信20160725 フルフェザリング翼輪飛行機を目指して

野鳥の学校通信20160725
フルフェザリング翼輪飛行機を目指して
土屋隆徳
7月は、平行回転翼輪飛行機の進化について考察することにしています。回転翼を基本的に
飛行方向に向けたまま全周で揺動させて、風を捉えるフルフェザリング翼輪(ハイピッチ翼輪)
の可動原理模型の試作を進めています。この模型の設計は、平行回転翼の設計思想の歯車方式
の揺動機構をスライドリンク機構に置き換えています。そのため揺動変化の範囲は、平行回転
翼のように広くは取れないかもしれません。しかし、鳥達の翼仕様の多様性を考えると、様々
なニーズの変化に対応して個別最適なディメンジョンでカバーできるのかもしれません。従っ
て、複雑さは変わりませんが、単純な機構の組み合わせで手造りできる機構・構造にしていま
す。そのために必要に迫られて様々なアイデアを織り込んでいますが、翼輪技術の100年の
歴史と近年のロボット技術の急速な進歩を考えると、従来技術の可能性が高いと考えています。
一方、米国防省のサマリーを見ても、フルフェザリングの翼輪については、極めて高い翼性
能が予測されていますが、実用化に結び付くような設計は具体的に提案されておりません。こ
のテーマは、その後70年間棚入れされてきてしまったので、そのブランクを取り戻すために
は、基本的な機構と構造をたたき台として早急に提案する必要があると考えています。
研究テーマ;リンク方式のフルフェザリング翼輪の原理模型の設計
私の発明の歯車機構を用いた原理模型の設計は、確かに複雑過ぎて個人が工作室で試作する
のは困難です。そこで、同じ程度に複雑ではあるが個人での試作が可能な設計に置き換える作
業を進めています。昨年末から開始し、今年末までに完成させる、1年掛かりの設計検討活動
です。この間の改暦を振り返ってみると、設計構想、機構、構造はめまぐるしく変わってきま
した。これらの変化は、必ずしも、最適化の追求の1本道ではなく、様々な設計の可能性を探
りながら1設計例を仮決めする試行錯誤と紆余曲折です。フルフェザリングの翼輪の設計の幅
はかなり広く、現在の設計は、それらの多様性の中の一つに過ぎません。
“1年掛けて、物を作りながら1台の原理模型の設計を完成させて提案します”。そのため、
設計、計算、調査、部品試作、部分試作から全体組み立てまでを、基本的に、私がすべてを自
分の手で進めます。今月に入り、改暦は U から V に進みました。詳しくは、以下の通りです。
7月2日;
制御ケースの中の中間隔壁が不要なことが分かったので一部取り除きました。ダブルクラン
クは異形ではあるが一体の軸であることに気が付いたのです。お粗末な話ですが、平行リンク
と外延ダブル平行リンクの結合構造の部品模型を眺めながら手繰ってみるまでは気付かなか
ったのです。スペース的にも機構的にも随分スッキリしました。平行リンクの上下の支点の重
なりを前後でかわすレイアウトも可能になり、偏心リングの調節代も大きくできました。
4つの歯車を使った偏心ディスク割り出し機構も、最初の試作では、できるだけ丁寧に作っ
たはずなのに、仮組みしてみるとスムーズに回らなかったのです。色々と手繰りながら考えた
末、歯車を4つ使って井桁を組んだのが間違いと気づきました。サイドの歯車を一つ外してみ
ると、無理なく回り安心しました。歯車の常識を忘れて、バックラッシュの累積を逃がさない
でフィードバックしていた結果です。お粗末でした。
7月7日;
伸縮平行リンクと外延ダブル平行リンクの結合構造は、一部の部品の追加と修正で、何とか
コンパクトに設計・制作できました。
主軸、回転翼軸、反転翼軸の設計は軽量化と組み付け性を考えて何度も見直してきましたが
未だ暫定的です。中央反転翼機構は、気流を反転させる反転翼の挙動を探れるように、歯車列
で反転する方式で設計しておきました。
リンク系の設計が固まってきたので、リンク端の結合構造、ケージ、フレームワーク、およ
び、ベースの詳細設計に着手します。
翼型の設計・製作は最後になります。鳥の翼型に倣って、強めのキャンバーの付いた薄型の
翼型を選ぼうと考えています。製造方法は、これまでの試作経験を踏まえて、発砲充填された
カーボンファイバー表皮の樹脂製を想定し、桐の集成材の削り出しで作ろうと考えています。
軸への取り付け構造は、翼型の取り替えとセッティング変更を考えて決めることになります。
初めてのフルフェザリング翼輪の原理模型なので仕方ありませんが、全体の重量は3kg位
にはなりそうです。今回は、重量軽減代を沢山残したまま、成り行きに任せながら動模型の全
体の仮組みを急ぐことにします。
7月8日、9日、10日;
主軸の設計が決まったので、左側ディスクに結合するアルミカラーを設計しました。 その
後、アルミチャンネル材を用いたフレームワークを設計してみました。回転翼軸の設計を主軸
と同じ設計思想の設計に修正してみました。左側ディスクに結合するカラーを樹脂製に設計変
更しました。主軸を支持する立壁の設計を見直しました。初めてのアルミのチャンネル材を使
った設計なので、造りながらの設計となりました。まずまずの設計かなと思って散歩に出て鉄
塔を見て、そのスリムな構造にショックを受けました。しかし、今回はこれで進めてみます。
7月11日;
偏心ディスク割り出し機構の設計を大きく変更しました。気になっていた歯車の潤滑につい
て、必要になったら、ケースを付けてオイル潤滑に変更できる構造にしておきます。井桁の折
り畳みでは潤滑油ケースも折り畳むことが必要になりますが、1列の歯車列では、複雑になり、
明快な設計案が見つかりません。そこで、中間歯車を2枚重ねにして歯車列を2列にし、それ
ぞれの列で潤滑油ケースを取り付けられるようにしました。強制オイル潤滑が必要になる程回
転速度が挙げられるのは先の話なので、今はここまでの配慮に留めて進めます。ついでに、2
本のアームをブリッジで繋いで一体にする構造にしていたのを、1本アームにし、一部は2重
ジャーナルにして勘合長さを大きくしました。再試作の結果、確りしたスムーズな割り出し機
構に改造できました。
翼輪技術研究会のテーマ;原理試作での味聴きテスト
原理模型の味聴きテストはオートローテーション性能です。先ず、扇風機で風を当てて回転
させながら揚力を測ります。次に、トンビの旋回飛行です。空中でエンジンが止まった時に落
下して位置エネルギーを速度エネルギーに変換します。その時、迎え角を小さくして翼輪の回
転速度と同時に、旋回速度も挙げて、着陸できる小スペースを見つけて接近します。着陸直前
に、迎え角を引き上げ、慣性回転エネルギーを上昇エネルギーに変えながら旋回速度を下げて、
踏ん張れる速度で傾斜着地します。
今回の試作機では扇風機でどこまで空転速度を上げられるか。その時の翼輪中心に発生する
揚力はどの程度の大きさになるか。扇風機で風を当てながら回転アームの先端に翼輪を取り付
て空転させれば、その動きはトンビの旋回着地の模擬テストになるでしょう。
フルフェザリング翼輪は、オートローテーション性能も抜群とのこと。風力発電機の風速は
10m/s程度であすが、オートローテーションで着地するときのアプローチ速度は100m/
s程度にはしたい。新幹線の180km/s(=50m/s)に対して自動車は120km/s
(=33m/s)。翼輪飛行機は、滑走路不要なら、音速で飛ばせなくても実用商品性はある。