何故小児の肥満が問題なのか? 青木内科循環器科小児科クリニック 副委員長 青木真智子 髙山先生のお勧めで、この拙文を書かせていただいております。先生には 15 年ごろ前に、不登校の学童について教えを請いました。 その後小児肥満への勉強を始め、現在福岡市医師会小児生活習慣病対策委員 をやらせていただいております。 その1 小児肥満の問題点とその診断 WHO は、2015 年には、BMI25 以上の日本人は 32.7%と予想しています。肥 満は子どもも含め、世界的な問題に進展しているのです。小児肥満はこの 30 年 で、3 倍になったと言われます。ただし、平成 15 年からは、学校保健統計によ ると肥満傾向児の増加に歯止めがかかっています。しかし、重症の肥満とやせ は、確実に増加し続けています。 平成 20 年特定健診、特定保健指導が始まりました。大人のメタボリックシン ドロームの概念を利用した予防医学の実践で、内臓脂肪の減少を目的としてい ます。しかし、その内臓脂肪増加や動脈硬化への流れは、成人で始まることな のでしょうか。 実際、大人の生活習慣病への流れは、胎児から始まっています。第 2 次世界 大戦でオランダの飢餓の時代をすごした妊婦さんより生まれた子ども達が、大 人になって糖尿病や高血圧にかかる割合が多いことがわかりました。これを Barker 説(胎児プログラミング説)といいます。胎児が筋肉や肝臓で栄養を倹 約する体質ができあがり、それは、乳幼児期にも持続します。従って生後過剰 な栄養状態になると肥満しやすくなり、成人での生活習慣病が発症しやすいと 言われます。乳幼児期の問題に進展させたのが、Developmental Origins of Health and Disease〔DOHaD〕説です。乳幼児期に人口甘味料などの多い生活 に曝されると、肥満の遺伝子にスイッチが入るとも、言われ出しました。 「小さ く産んで大きく育てろ」は、今や正しいことでは無くなりました。 次に問題なのは、肥満はトラッキング(移行)するということです。幼児期 の肥満は、学童期に繋がり、学童期肥満の約40%は思春期肥満に繋がります。 思春期肥満の約80%は成人肥満にトラッキングします。また成人になって 肥満が解消されても、肥満の無かった人に較べて、生活習慣病が発生するリス 1 クが高く、早死にする率が高いとまで言われています。 また学童期の肥満で、自尊感情の低下、消極的な性格、体育が苦手、いじめ の対象になるなどの問題があります。肥満はどのように判定するのでしょうか。 大人では BMI が一般的ですが、学童期には身長の変化が大きいため、個人の経 過をみるのには適しません。そのため学校保健統計では、肥満度を計算するこ とになっています。ですから、学校の身体計測で子供たちは、自分の肥満度を 知れるはずです。先生方もクラスの子供たちの肥満度をご存知でしょうか。ま た肥満度は、福岡市の子供たち皆に配布されている健康手帳に、計算方法が記 載されています。見た目と実際に計算したところでは、大きく違うことがあり ます。また体脂肪も有用です。家庭にある一般の体脂肪計でかまいません。男 児では 25%以上を、11 歳未満の女児で 30%以上、11 歳以上の女児で 35%以上 を肥満と定義しています。肥満度が中等度以上だと、脂肪肝が 20~40%、高イ ンスリン血症が 40~50%、高中性脂肪が 30%程度認められます。 その2 小児肥満の問題点とその診断(第2部) 前回では、小児肥満の問題点とその診断の一部をお話しました。今回はその 続きです。最近腹囲(おへそのまわり)の測定が、内臓脂肪の増多(動脈硬化 性疾患の源流になる)を反映していることをご存知だと思います。子供も同様 に診断基準が決められています。腹囲が、小学生は 75cm 以上、中学生は 80cm 以上、またはウエスト/身長が 0.5 以上となっています。80cm 以上は赤信号、ウ エスト/身長が 0.5 以上の場合は黄色信号です。これらの場合は、学校か、医療 機関で介入が必要と考えます。小児肥満症という一つの病気の範疇になってい ることが多いからです。 しかし子供達自身、保護者の方々は、自分の子供が小児肥満症という病気に かかっていることを、気付かれているのでしょうか。 最近の研究では、7~13 歳の体重増加が、心筋梗塞や狭心症といった冠疾患症 と、そして 5 歳からの小児肥満が 30~40 代の病死の率などと有意に関連するこ とも示されており、我々大人達はこの問題をほっといていいとは思われません。 まず、自分の体の状態を知ること、これが第 1 歩です。 次に小児肥満症の実際の行動を変えさせる方法について述べたいと思います。 ① 情報を提供する・・・血管に脂肪がつまるとどういう状態になるのか、心筋梗 塞、脳卒中、糖尿病とはどんな病気なのか。朝食の大切さ、バランスのよい 食事をとることの意義、ファーストフードやスナック菓子などのおやつにつ いて、家族で食事することの大切さなど。 ② 問診で自分の生活のどこが悪いのかを考える・・・給食でおかわりをしていな いか、野菜嫌いか、夕食後から寝る前までに間食をしていないか、おやつは 好きな時間に好きなだけ食べていないか、テレビ、ゲームやパソコン、携帯 2 電話に費やす時間が多くないかなど。 ③ 行動変容を促す・・・自分で生活チエックリストをつくる。1 日 4 回体重を測る (起床後、朝食後、夕食後、寝る前)・・・体重の変化で、自分の日常の問題点 を自分で気付くようになります。 ④ 運動の大切さに気付く・・・問題を指摘すると、本人がやる気を出して運動に 取り掛かります。歩く、自転車、プール、サッカー、野球など。自宅では、 体操、ステップ運動など。 ⑤ 家族が協力する・・・本人だけでなく、家族全体の頑張りが必要です。家族の 動脈硬化性疾患の合併も多くみられます。本人が頑張れば、家族も健康にな ります。祖父母や子どもに係る人の全員の協力と、その子を支える愛情と応 援の気持ちが成功の秘訣です。 昨年、「今日からできる小児科外来肥満テキスト」を作製しました。一般開業 医向けのテキストですが、学校現場からも御要望があり、御希望の方には配布 できると思います。また、あいれふ(福岡市中央保健所のあるビル)の福岡 市健康づくりセンターで「あいれふ親子教室」が開催されています。私も小児 科医として関わっています。これは親子で小児肥満に取り組む健康教室です。 開催の時期は限定されておりますが、通信でのフォローもしてくださいます。 福岡市の子ども達の健康のためにこの仕事を始めました。でも学校現場での 取り組みは、先生方の後押しが必要です。学校で小児生活習慣病検診が行える ように、学校と行政の未来を見据えた行動に期待しています。 付記 先生から玉稿をいただきましたので、原文のまま掲載いたしましたが、はじ めのところで述べられている、不登校についての・・・は、そんな大層なことでは ありません。わたしの高2の孫が、誕生するときにK総合病院にお世話になり ました。生まれてまもなくの小児科検診で、診療していただいたのが、当時小 児科に勤務されていた青木先生だったのです。それを契機に、私が教育相談関 係の仕事をしていることお話しましたら、先生から「お腹が痛い」とか「頭が 痛い」、「嘔吐を繰り返す」子ども達がよく診療に来るけど、医学的所見が全く 見られないのに・・・というお話を聞き、私の教育相談の勉強のきっかけにな った、学生時代の先輩の卒論の中間発表会での私の投げかけた「温室の中で咲 いた花が、木枯らしが吹いている寒い野外に出したら、たちどころにしぼんで しまうのでは・・・」との質問をし、先輩たちを困らせました。論文指導の故 大賀一夫先生は「君、ここでいろいろ言っても時間が足りない。明日からぼく の部屋に来て、先輩と一緒に教育相談の勉強をしなさい。」といわれ、後悔した 若き日の失敗談を話し、不登校の勉強を始めたのです。私の方が教えを多く受 けたことを報告しておきます。 (文責 髙山 和雄) 3
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