特別寄稿② 子どもの入院生活と「テレビがない!!」 菊池 辰夫[医療法人仁寿会 菊池医院] 私達の診療所は、今では全国的にも珍しくなってしまった 19 床の病室をもった小 児科専門の診療所です。昨年 12 月で開院 61 周年を迎えました。創立者は満 97 才で 今も健在の小児科医の母ですが、 「子どもの病気は自分の家族と同じ気持ちで一緒に 治療をしよう」をモット-として日常診療をしております。私はお子さんの病気の 時こそ親と子の心の絆を強くしてほしいと願っています。そのために入院する子ど もには家族が付き添い、家庭の延長の中で治療をするという環境が必要と考えて病 室はほとんど個室にしています。勿論、小児科ですので院内感染の予防という医学 的配慮でもあります。 入院している子どもには母親が付き添うことが多く、父親、祖母時には祖父が付 き添う場合もあります。入院した子どもとその保護者の一日の過ごし方をよく聞き、 また観察するといろいろな過ごし方があることが判ります。例えば、子どもも母親 も黙ってテレビを見ている、子どもはテレビを見ていて母親は雑誌や本を読んでい る、子どもがゲ-ムにだけ熱中して母親はテレビをずっと見ている、等といった光 景を目にして、親子の関係としては何かちょっと寂しい感じを持ちました。しかし、 一方では子どもの好きな本を枕元に並べて読み聞かせをしているお母さんがおりま す。そこでは点滴をしている子どもも落ち着いていて、むしろ入院を楽しんでいる とさえ思える家族もありました。 入院という短期間であればこそ子どもと母親だけの貴重な空間と時間をもっと大 切にして、お互いの心と心の絆を深める時間にして上げたいと考え、平成5年に意 を決して全ての病室からテレビを外すことにしました。勿論、家族がテレビ、パソ コンを持って来ることは自由で、現在も特に制限はしておりません。 その実践策として、郡山市で長く子どもの読書・読み聞かせ活動している「クロ -バ-子供図書館」の分室を私達の診療所に設置して頂くようお願い致しました。 「クロ-バ-子供図書館」では専門家が子ども達にとってよい本(絵本、紙芝居を 含めて)約 200~300 冊を選んで分室に配置し、3ヵ月に一度本を交換して下さるよ うになっております。そして利用した保護者にその感想をノ-トに自由に書いて頂 くようにしました。 - 24 - その後、幾つかの感想文を抜粋した小冊子を発行し、その本のタイトルに感想文 の中の「テレビがない!」を頂きました。 その一部を紹介します。 「テレビがない!今日退院です。この6日間は思ってもみ なかったことでした。入院初日、子どもたちはテレビがどこにもない!と大騒ぎで した。次の日もです。家ではテレビがない生活は、まったくといっていいほどあり ませんでした。この機会でした。親にとっても子供にとっても、貴重な出来事。子 供がこれほどにも本が好きだったのか?と思い知らされました。読み聞かせで子供 とのコミュニケ-ションが出来た事。なかなかしてあげられないことでした(頭で は判っていても) 。入院して気づかされ、勉強させて頂きました。ありがとうござい ました。 」 その他、 「入院して本の読み聞かせを通して、親子でいっぱい絆を深めることがで きた。 」 「テレビのない部屋で、子どもと一緒にスト-リ-の楽しみや絵本の絵の美 しさを満喫できた。 」 「親子の心の絆が深まり入院して得をしたような気分です。 」と いう内容の記事が多く書き込まれています。 今は、その小冊子を入院してくるご家族に読んでもらうことにしておりますが、 各部屋はそれぞれ楽しそうな雰囲気で読み聞かせが行われております。外来にもテ レビは置いておりませんが、お子さんが成長し読み終えた本をご寄贈頂くことが多 くなり、外来に「みんなの図書コ-ナ-」を作りました。子ども達は診療所に入っ てくると真っ先にそのコ-ナ-に行き、お気に入りの本を持って来てお母さん方に 読んでもらって診察の順番を待っています。 お母さん方はよく読み聞かせをしておりますが、 時にはお父さん方が新たな父親像を発見したかの ように熱心に読み聞かせを楽しんでいる様子は、 なかなか微笑ましくうれしい限りです。 もっともっと沢山の子ども達そして保護者の方々 が、乳児期から絵本や図書に親しみ、成長にあった 読書の楽しみを見つけてくれることを願っています。 - 25 -
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