2D/3D条件におけるビデオゲームのユーザエクスペリエンス評価 -横スクロール型アクションゲームを用いてEvaluation of User Experience in 2D and 3D Digital Game Play 1W070411-2 中村 拓哉 NAKAMURA Takuya 指導教員 河合 隆史 教授 Prof. KAWAI Takashi 概要:本研究は、3D 表示のテレビゲームの登場を受けて、ゲームのユーザエクスペリエンス(UX)が 2D 表示の時と比べてどのよう に異なるかを評価したものである。UX の評価には、Takatalo らの研究から PIFF2(臨場感-没入感-フロー フレームワーク 2)におけ る 15 項目のサブコンポーネントと EVEQ-GP(仮想環境体験の質問紙のゲーム版)を使用した。分析の結果、臨場感と没入感を構 成するサブコンポーネントに影響を及ぼしたが、フローには影響を及ぼさなかった。3D 表示による UX への影響は、ゲームのジャ ンルやシステムにより異なると考えられ、今後どのようなジャンルのゲームが 3D 表示に向いているかについても提言する。 キーワード: 3D ゲーム、ユーザエクスペリエンス(UX)、PIFF2、EVEQ-GP(仮想環境体験の質問紙のゲーム版) Keywords: 3D game, User eXperience(UX), PIFF2(Presence-Involvement-Flow Framework 2), EVEQ-GP 1. はじめに 感や没入感、フローの必要条件や相互関係に関する先行研 2010 年に日本で 3D テレビが発売されたことによりテレビゲ 究で報告された約 180 項目から構成されている。参加者は、 ームの分野でも立体視対応ゲームが続々と発売・配信された。 質問項目に対して、7段階のリッカート尺度により回答する。 2011 年 2 月には裸眼立体視対応の携帯ゲーム機の発売も予 EVEQ-GP におけるサブコンポーネントとその定義を表 1 に 定され、3D ゲームのブームの兆しが見られる。一方で、人間 示した。 工学的な観点からの、3D ゲームに関する研究は十分にされ ておらず、ゲームを 3D にすることによる特別な体験や、面白さ、 3. 実験方法 価値などについて検討する必要がある。本研究では、ゲーム EVEQ-GP を用いて、同一のゲームコンテンツを 3D で表示 におけるユーザエクスペリエンス(User eXperience: UX)に着目 した条件と、2D で表示した条件間で比較を行った。コンテンツ し、2D・3D ゲームにおけるユーザ体験の評価・比較を行っ として、Xbox 360(Microsoft)の 3D 表示に対応したアクション た。 ゲーム「Invincible Tiger: The Legend of Han Tao(バンダイナ ムコゲームス)」を使用した。評価は、30 名の大学生を対象とし 2. ゲームの UX の評価フレームワーク て、以下の手順で行った。 本研究では、UX の評価にあたって、臨場感・没入感・フロー か ら 構 成 さ れ る フ レ ー ム ワ ー ク (PIFF2 : (1) ゲームの基本操作の説明と練習(10 分間) (2) 2D あるいは 3D 条件でのプレイ(40 分間) Presence-Involvement-Flow Framework 2)を用いた。PIFF2 に (3) EVEQ-GP への回答 おいて、臨場感は、ゲームの世界に対する知覚や注意、プレ (4) 休憩(10 分間) イ中の空間的・社会的認知を表し、没入感は、UX の意味と価 (5) (2)とは別条件でのゲームプレイ(40 分間) 値を決定し、フローは、ゲームプレイによる認知的評価と情緒 (6) EVEQ-GP への回答 的変化を表す。これら 3 つの概念には、心理学的な決定要因 2D/3D 条件の試行順序は、ランダムに選択し に関連するサブコンポーネントが含まれている。PIFF2 では、 た 。 デ ィ ス プ レ イ は 、46 イ ンチ の 3D ハ イ ビ ジ ョ ン テ レ ビ UX の 評 価 に 際 し 、 仮 想 環 境 体 験 の 質 問 紙 の ゲ ー ム 版 (Hyundai IT,E465S)を使用し、3H(171cm)の視距離への着 (EVEQ-GP : Experimental Virtual Environment Experience 座を求めた。偏光フィルタメガネを用いた空間多重方式で 3D Questionnaire-Game Pitkä)を使用する。EVEQ-GP は、臨場 表示を行い、視差の強度は「標準」の設定とした。 表 1 PIFF2 のサブコンポーネントと定義 5. 考察 3D条件で、「物理的臨場感」、「重要性」、「共存感」の項目 に有意な結果が得られたことは、非常に興味深いことである。 3D表示により背景とキャラクターの奥行き方向の位置関係が 明確となり、プレイヤーがよりゲーム世界をリアルに感じ、ゲー ムの物語性やキャラクターとの親密感が増進したことが示唆さ れる。これは、物語やキャラクターへの没入が求められるロー ルプレイングゲームなどで、有用となる可能性がある。これらの ゲームに引き込まれる感覚は、3Dの意図するような特徴とも言 え、3Dにすることの効果は得られていた。しかし、ゲームが3D になることで、フローに関係するサブコンポーネントには影響 が見られなかった。これは、対象としたコンテンツが、横スクロ ール型のゲームであったために、3Dになることで戦略性や操 作性に影響を及ぼさなかったことが示唆される。 6. まとめ 本研究では、テレビゲームの 2D/3D 表示による UX の評価・ 比較を行った。横スクロール型のアクションゲームを対象とし た結果、3D 条件では、PIFF2 における臨場感と没入感のサブ コンポーネントで増進が見られたが、フローには影響を及ぼさ 4. 結果 1回目と2回目のプレイによる順序効果が認められなかった ため、各サブコンポーネントにおいて、2D/3D条件間で分散分 なかった。3D 表示による UX への影響は、ゲームジャンルによ り異なると考えられる。今後は多様なジャンルで実証し、どのよ うなゲームが 3D 表示に向いているかを調べる必要がある。 析を行った。結果から、「物理的臨場感(p<.05)」、「共存感 (p<.05)」、「重要性(p<.05)」で有意差(3D > 2D)、「役割への 参考文献 従事(p<.10)」で有意傾向(3D>2D)が見られた。フローを構成 Jari Takatalo, et al.: “Evaluating User Experience in Digital するサブコンポーネントでは、条件間での有意差は認められ Games: A Psychological Approach “, 2010 年 なかった(図1)。 図 1 2D/3D 条件におけるサブコンポーネントのスコア
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