全地連「技術e-フォーラム2009」松江 【103】 「ちきゅう」コアバーレルの泥水循環試験及び掘削性能試験について 1. はじめに (独)海洋研究開発機構 ○和田 一育 (独)海洋研究開発機構 眞本 悠一 (株)エヌエルシー 児玉 伸一 (1) SD-RCB 現在, (独)海洋研究開発機構では,統合国際深海掘削 前述したように,244mm(9-5/8”)ケーシングを設置し 計画(IODP : Integrated Ocean Drilling Program)に参画し, た後に使用することを想定したコアバーレルである。コ 地球深部探査船「ちきゅう」を建造,2007年9月より研究 ア ビ ッ ト は 244mm(8-1/2”)PDC も し く は Impregnated 航海を進めている。その中で,地震発生メカニズム,過 Diamond Bit (IDB) が用いられる。インナーバーレルは 去の地球環境変動,地球内部構造及び地殻内生物圏を解 PQ3コアバーレルを改良している。 明するため,コアバーレルを用いた地層採取を重要な研 究手段として位置付けている。これらの研究に資するた め,本機構においても試料(コア)の回収率や品質の向 上を目指した研究開発を進めている。本稿では,平成20 年度に実施した高比重泥水による泥水循環試験及び掘削 性能試験について報告する。 3. 泥水循環試験について 大深度掘削や破砕帯のコアリングでは,逸泥や暴噴防 止のため,高比重泥水や逸泥防止剤(LCM)が使用される。 実際のトラブルの時,的確な対処/オペレーションを実 施するためには,高比重泥水及び LCM に対するコアバ ーレルの性能評価が必要となる。なお泥水循環試験及び 2. 「ちきゅう」で使用されるコアバーレルについて 地球深部探査船「ちきゅう」におけるコアリングは, 地層の硬さや固結の度合いに応じて主に3種類のコアバ ーレルを使い分けている。今回,泥水循環試験及び掘削 性能試験を行ったのは,硬い地層を対象とした 掘削性能試験とも,茨城県常陸大宮市にある(株)エヌエ ルシー工場内の敷地で実施している。 (1) 試験概要 実際のコアバーレルを水平に設置し,高比重泥水を泥 水ポンプで循環させた(写真-1)。 RCB(Rotary Core Barrel)と SD-RCB(Small Diameter RCB) の2つである(表-1)。これらは,孔内にセットされるケ ーシングの径によって使い分けられ,244mm(9-5/8”)ケ ーシングを設置するまでは RCB,設置以降は SD-RCB を 用いる。 今回の試験は,地層や泥水に対するコアバーレルの性 能を把握することにある。この性能を把握することによ り,掘削中の安全確保だけでなく,今後計画されている 大深度においての適切なコアリングが可能となり,コア の回収率向上にも役立てることが可能となる。 表-1 コアバーレル 要目表 OD(mm) Length(m) Inner OD(mm) RCB 59 9.5 100 214 泥水比重は1.15,1.35,1.55を950l/min の流量で20時間 SD-RCB 85 4.75/9.5 97 171 実施,圧力の変化・試験後の摩耗計測を実施した。LCM Core Trim Outer OD(mm) 掘削深度700m以深での堆積層で,中質から硬質岩のコ ア採取を目的としたコアバーレルである。互換性の問題 から ODP(IODP の前身:米国主体の海洋掘削計画)と同じ コアバーレルを一部改良して採用している。コアビット 270mm(10-5/8")PDC(polycrystalline diamond compact) ビットが用いられる。コア回収率は平均して 50%以下と低く,特に破砕帯や砂層におけるコアの回収 が非常に小さいのが難点である。 コアビットから噴出する泥水 試験は比重1.35においてテルマイカを適宜投入し,圧力 (1) RCB は 写真-1 や流量の変化を計測した。泥水は KCl-NaCl/PPG/Polymer 泥水を使用(ファンネル粘性300~500秒<1500cc→946cc >),pH10~11である。 (2) 試験結果 20時間循環試験の結果,比重1.55でもポンプ圧力は 5MPa 以下であり問題なく使えることが判明した(図-1)。 LCM 試験については,RCB は3%程度まで使えるこ とが試験結果から判明したが,SD-RCB については狭隘 部に逸泥材料が詰まり流路部が閉塞したことから,今後 全地連「技術e-フォーラム2009」松江 改良が必要なことが判明している。 から,対象地盤に応じた細かなビット開発及び掘削時に おける選定が必要と思われる。 図-1 図-2 各ケースにおける泥水圧力 摩耗については,RCB 及び SD-RCB とも泥水バイパス 部に摩耗が見られた。特に SD-RCB インナーバーレルを 安定させるスタビライザーは,電気腐食の影響も加わっ たとも思われ大きな欠損が見られた(写真-3)。 写真-3 スタビライザーの欠損 掘削性能試験の概要図 ビット荷重については,荷重が大きい場合ほど回収率 も高く品質も良かった。その原因として,ビット荷重が 小さい場合,掘進率が小さくなるため,逆にコアが長時 間にわたってビット先端部分にとどまり,その結果ビッ トの影響を受け,折損や径落ちとなったと推測される。 写真-4 RCB 用 PDC ビット(コアリング直後) 4. 掘削性能試験について (1) 試験概要 (株)エヌエルシー工場内の敷地内に試験用の縦坑(直 径1m)を設置,内部にコア採取用の岩石を置きコアの採 取を行った。使用した機器は NLC 製センターホールマシ ン,EMSCO 製 D375泥水ポンプである(図-2) 。 試験では,ビット荷重,ビット回転数,2種類のコアバ ーレル,2種類のコアビット(PDC 及び IDB),2種類の岩石 (大谷石及び安山岩)を掘削パラメータとして変更して実 施している。 (2) 試験結果 コア回収率について,総じて90%以上と高い値を示し たが,一部のケースにおいて回収率が悪かった。RCB に おいては安山岩の場合で IDB のケース,SD-RCB について 写真-5 RCB 用 PDC ビット大谷石での採取コア 5. 最後に 今後もコアビット,コアバーレルの改良を進め,高比 重泥水,LCM 投入に耐えうる大深度掘削用ためのコアリ ングシステムを開発していく予定である。 は IDB を使用した場合であった。原因はコアビットと対 《引用・参考文献》 象岩石が適合していなかったためと思われる。この結果 1) ボーリング用泥水,沖野文吉,技報堂出版
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