2009 刑法・落ちない条文ノート ◆刑法のまとめ[思考手順] 1 思考手順 ①構成要件→違法性→責任 ②客観(行為→結果→因果関係)→主観(錯誤論) 2 条文の思考手順 (1)総論 ①構成要件→刑法の各論条文 ②違法性 →①正当防衛(36 条) ,②緊急避難(37 条),③正当行為(35 条) ③責任 →①故意論(38 条) ,②責任能力(39 条) (2)総論・特別類型 ①未遂犯・中止犯(43 条) ②共犯(60∼65 条) (3)刑法各論 イ 個人的法益に対する罪 ①生命・身体に対する罪→殺人,傷害,過失傷害(199∼211 条) ②自由に対する罪→遺棄,逮捕・監禁,脅迫,誘拐(217∼229 条) ③信用・名誉に対する罪→名誉,信用・業務罪(230∼234 条の 2) ④性に対する罪→強制猥褻,強姦(176∼184 条) ⑤財産に対する罪→窃盗,強盗,詐欺,恐喝,横領,背任,盗品,毀棄(235∼264 条) ロ 社会的法益に対する罪 ①放火罪(108∼118 条) ②住居を侵す罪(130 条) ③偽造罪(148∼168 条) ④猥褻文書(174,175 条) ⑤死体損壊(190 条) ハ 国家的法益に対する罪 ①公務執行妨害(95 条∼96 条の 3) ②犯人蔵匿・証拠隠滅(103∼105 条の 2) ③収賄罪(197∼198 条) ④偽証,虚偽告訴(169∼173 条) 1 辰已法律研究所 2009 刑法・落ちない条文ノート ◆刑法の総論的論証 1 条【総論】 1 争点 イ 不作為犯 ⅰ)実行行為性が認められるか。 実行行為=構成要件的結果発生の直接的現実的危険性を含む行為 →不作為も実行行為性あり。 →しかし無限定は危険。自由保障。 →①作為義務,②作為の容易性・可能性,③作為との構成要件的同価値性 ←③において,殺人罪は法定刑から強度の違法性が要求される。 同価値と言えるためには救助を,不可能又は著しく困難にし,排他的支配が設定。 ⅱ)作為義務の錯誤 a)作為義務の体系的地位 ①構成要件要素 ②構成要件的結果発生を防止しなければならない法律上の義務を負う保証人の不作為 のみが不真正不作為犯の実行行為。 b)いかなる認識があれば構成要件的故意ありか。 故意責任の本質は,反規範的人格態度に対する責任非難 →規範に直面し反対動機の形成可能な程度に事実の認識があれば構成要件的に故意 あり。 →作為義務は規範的構成要件要素であるが,作為義務を基礎づける事実関係の認識が あれば規範的に直面し反対動機形成可能な程度の事実の認識ありといえる。 ロ 間接正犯 ⅰ)実行行為=構成要件的結果発生の直接的現実的危険性を含む行為 →利用行為も右危険性があれば,実行行為性あり。 →①被利用者の行為が道具と同視されること, ②被利用者に反対動機の形成可能性のないことが必要∵因果の流れにすぎないから。 ⅱ)他の故意行為の利用 その犯罪との関係で,規範に直面していないので∼ ⅲ)身分を欠く故意ある道具を利用する場合 →規範には直面している。しかし規範は身分者に対してのみ向けられている。 →実質的に規範に直面していない。 15 辰已法律研究所 ◆刑法・条文の論点 35 条【正当行為】 1 争点 イ 自救行為 ⅰ)自救行為の肯否 →肯定 (∵確かに国家機関によるのが原則。しかし違法性の本質=法益侵害のみならず, 社会倫理秩序規範違反。とすれば社会的に相当な行為であることが必要。 ) ⅱ)自救行為の基準 →①法益に対する違法な侵害,②緊急性,③自救の意思,④行為の相当性 ロ 被害者の同意 ⅰ)肯否 ⅱ)基準 →①被害者自ら処分可能な個人法益,②承諾自体が有効なもの,③承諾が行為の前に存在,④ 承諾が外部的に表示されること,⑤承諾に基づいて行われる行為態様自体,社会生活上是認 できる相当なものであること 落ちない答案の書き方講座「刑法」 18 2009 刑法・落ちない条文ノート 36 条【正当防衛】 1 定義 イ 急迫=法益侵害の危険が切迫していること ロ 不正=違法である ハ 侵害=他人の権利に対して実害又は危険を与えること ニ 防衛するため=防衛の意思。急迫不正の侵害を認識しつつそれを回避しようとする単純な心理 状態 ホ 2 やむを得ずにした行為=必要性+相当性 争点 イ 対物防衛 法規範は人間の行為のみを対象とする→不正は法規範違反。動物は不正たりえない。 ←但し,人が動物を利用した場合は,成立。 ロ 偶然防衛 防衛の意思が必要か→必要。 (∵行為は主観と客観の全体構造をもつ。 ) ハ 積極的加害意思 急迫性を欠くとの判例もあるが,急迫性は侵害が切迫しているかの客観的判断 →防衛の意思を欠き,正当防衛不成立とすべき。 ニ 自招侵害(Aが甲をからかったところ甲が激高して殴ってきた) ⅰ)Aに防衛の意思あるか→ある。防衛行為の必要性・相当性→あり ⅱ)しかし正当防衛で違法性が阻却されるのは正当防衛が社会的に形成された秩序内にあり,社 会的に相当な行為だから。 →①過失により侵害を招いた場合は,社会的相当性の範囲を逸脱しない。 ②故意に招いた場合は,社会的相当性を欠く。 ホ 喧嘩と正当防衛 イ)急迫性が欠けるのではないか。 ロ)防衛の意思が欠けるのではないか。 ハ)自招侵害における正当防衛ではないか。 ヘ 過剰防衛 イ)過剰防衛の任意的減免の根拠 →責任減少説=緊急事態のもとでの行為であるので精神的動揺のため多少のいきすぎが あっても強く非難できない。 19 辰已法律研究所 2009 刑法・落ちない条文ノート ◆刑法の事実認定について 一 総論・思考手順 (1)構成要件→違法性→責任 (2)客観(行為→結果→因果関係)→主観(故意論,錯誤論)→共犯論 二 構成要件・客観面についての検討例 1 指針 ①罪責の構成要件要素 ②定義 ③事実の認定 ④あてはめ 2 殺人罪についての具体的検討例 平成20年12月○日午後○時ころ,大阪市内の橋の上で,甲が被害者の右胸部を凶器で刺して死亡 させた事件について,殺人罪の成否を検討する。 (1)殺人罪の構成要件 ①殺人罪の実行行為 ②死の結果 ③①と②の間の因果関係 (2)殺人罪の実行行為を行ったこと。 殺人罪の実行行為とは,人の死の結果を生じさせる現実的危険性ある行為である。 (3)事実認定 甲の行動として以下のことが認められる。 (イ)平成20年12月○日大阪市内の橋の上において,甲が甲の方を向いて立っている被害者に対 し,自己の内ポケットから取り出した本件カッター兼果物ナイフを右手に持ちつつ,自分の胸の高 さで構えて,被害者に身体ごと体当たりしながら,そのカッター兼果物ナイフで,被害者の右胸部 を3回突き刺したこと。 (ロ)平成20年12月○日∼頃から,甲がジョギングしている被害者を待ち伏せしていたこと。 (ハ)同日,∼頃という明け方,通行人がまばらなその橋上を被害者が北から南の方に向かって一人 で歩いて通りかかると,身長約190センチメートルの甲が,被害者に向かって出てきて, 「この 野郎」と叫びながら,身長約154センチメートルの被害者とお互いに向き合った状態で,被害者 から捕まれたり殴りかかられたりなど一切ないまま,何ももたず甲の方を向いて立っている被害者 に対し,突然,黒色ジャンパーの右ポケットから本件カッター兼果物ナイフを取り出し,前記(イ) 認定の行為を行ったこと。 (ニ)本件カッター兼果物ナイフは,刃体の長さ20センチメートル,刃と背の間の幅が最大5セン チメートル,刃の厚みが5ミリメートルのもので,新しく,極めて鋭利な凶器であったこと,その 本件カッター兼果物ナイフが刃先を下にし,ほぼ水平に身体の枢要部たる中心に向かって,相当強 い外力が加わって,被害者の右胸部に突き刺さり,刃体の長さを超える25センチメートルの深さ 51 辰已法律研究所 2009 刑法・落ちない条文ノート ◆横領・背任・占有の有無,共犯 (サンプル問題) [事案]「甲・乙・丙の刑事責任を論ぜよ」 ①甲は A 社の取締役。 甲には取締役として経理関係の事務全般を掌理する立場にあり。 小切手振出し, 会社財産管理業務にも従事していた。 ②乙女は社員で経理部係員として小切手作成に従事。 ③B が代表取締役に。しかし事実上甲が社長代行として,A 社の業務全般を統括。甲は「社長代理」 との印鑑で押印。B も認めていた。小切手は「A 社代表取締役 B」名義で振出すが,約束手形は B が 振り出すものの,小切手は,銀行届出印を甲が保管し,甲の判断で振り出すことが認められ,A 社 業務運営に必要な限り,甲の裁量に委ねられていた。 ④甲はホステスに貢ぐため 50 万円の小切手を振出を嘘を言って乙に依頼。乙は個人用途の使用と知 っていたが,助けてやろうと決意し,気づかぬふりで小切手を作成し甲に手渡。甲は宝石店で時計 を購入し宝石店経営者丙男に代金の支払のため小切手を交付。 ⑤丙は,小切手を銀行に持参して換金。 ⑥甲は,再び乙に嘘を言って 80 万円の作成を乙に指示。乙は知ってたが甲に手渡した。 ⑦ところが同日乙は丙店にいき,個人使用がじつは女に貢ぐためと知る。嫉妬のあまり丙に対して甲 が勝手に A 社代表取締役 B 名義の小切手を振り出していると話す。 ⑧その翌日,甲は丙店を訪れ,指輪一個を購入。代金支払のため,小切手を交付した。 ⑨丙は甲の事情を知っていたが上客である事から気づかぬふりして小切手を受け取った。 ⑩丙は,小切手を銀行に持参して換金。 ⑪甲は乙から「100 万円支払わなければ警察にばらす」と言われ,乙に指示し 100 万円の小切手を作 成させ,銀行に持参し呈示し,100 万円の支払いを受け,乙に交付した。 [出題の趣旨] 1 関係者が多数関与する長文の具体的事例を素材とし 一連の事実経過の中から重要な事実を選別することを前提に, 2 論点 ①小切手振出権限の有無 ②預金の占有の成否 等の基本的な論点に関する理解を問うとともに, ③主犯につき自己使用目的に係る小切手振出行為の業務上横領罪あるいは背任罪の成否 ④関係者について業務上横領罪等の共犯若しくは盗品等関与罪 ⑤恐喝罪の成否 を検討させることにより,事例解析能力,論理的思考力及び法解釈・適用能力等を試す。 63 辰已法律研究所
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