の時代に地域に残されるもの・残すもの

妹尾 康志 ◎ Yasushi Senoo
情報化 ●“e”と
“ i”の時代に地域に残されるもの・残すもの
妹尾 康志
◎ 研究開発第1部 プロジェクト・リーダー/研究員
人類がはじめて月に到達した年、ぼくは瀬戸内の片隅で生まれた。半島の付け根、海と山とが
出会う土地。家を1歩出れば、軒先にきんぎょの揺れる白壁の町並み。空を走る飛行機雲。ま
ぶしい陽光の射す緩やかな川の流れ。鯉が住むその川のほとり、商店街を背にして子ども達
が走る。日暮れとともに降ってくる満天の星空を見上げ、星座の形をたどる。
そんな幸せな記憶はどこへ。新幹線にも高速道路にも忘れられたこの街。あんなにあふれて
いた人々はどこへ消えたのだろうか。春になると、改札の向こうへと先輩達が去っていくよう
e
になったのはいつの頃からだろうか。そして、ぼくにもその順番がやってきて、改札の向こう
の人になった。見知らぬ大都会へ向かう、30分に1本の電車に乗って。
Y a s u s h i
S e n o o
時は流れて。得たものの大きさと失ったものの重さと。それでも変わらずあたたかな故郷を
持つ幸運に感謝しつつ、星座の形が違う大都会で暮らす現在。UrbanとRural。その繊細なバ
ランスの上に自分の存在がある。さきに手を伸ばしてみるが、届かない場所はまだたくさんあ
る。LogicとEmotion。言葉はいつも想いに足りないけど、1億2千万人の全ての故郷に……
せめて幸せな未来を。
域
地 化
報
情
“e”
と
“i”
の時代に
地域に残されるもの・残すもの
地域遺産の制定による地域資源の継承 2
情報化時代、すなわち
“e”
と
“i”の時代の到来により、世界の均一化、共通化が急激に進展しており、
特に地方圏を中心に地域の個性が喪失することによる活力低下が懸念される。
かつて、高速交通基盤の整備が華やかなりし頃、
大都市への集中と地方都市の個性低下への警告が叫ばれたが、
“ e”
と
“ i”の時代には、それらがより強力により速やかに進んでいくことになるだろう。
このような時流において地域が独立した歩みを進めていくには、
地域本来のプライドとアイデンティティを再認識するために、
個性的な蓄積資源を活用するタイプの地域振興策が求められる。
筆者は、1997年の
「SRIC MOOK 002:地域遺産の制定による地域資源の継承」において、
i
地域のプライドとアイデンティティを再認識するための枠組みとして
「地域遺産」の考え方を提案した。
本稿では、地域遺産に対する考え方を中心に、
具体的な検討フレームの一例を示すこととした。
SRIC MOOK
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妹尾 康志 ◎ Yasushi Senoo
情報化 ●“e”と
“i”の時代に地域に残されるもの・残すもの
■Prologue −My Favourite Town.−
ぼくは、故郷の街が大好きだ。普通の人からみれば何もない。笑えるくらい何もない。でも、ぼくにとっては、想い出が詰まったかけがえの
ない街。
そんなぼくも、東京の大学を出て、東京の会社に勤めている。知らない人からは、ぼくの意志に関わらず、
「 東京の人間」としての扱いを受
ける。いまの仕事をしていて、
「東京の人間に地方の何がわかるか」、そういった反応を受けたことも1度や2度ではない。だとすれば、ぼくの
故郷よりは東京的な彼らの街に、ぼくは何て言えばいいんだろう。東京の視点と地方の視点。そんなアンビバレンツを抱えながら、地域振興
の仕事をしているぼく。
東京から飛行機と電車を乗り継いで5時間。ぼくも、ときどきは故郷の街へ帰る。毎日のように野球をやっていた空き地には誰かの家が建
っている。ささやかな冒険の舞台だった裏山は整地されて資材置き場になっている。無限とも思えた広さが自慢だった商店街はシャッターと
空き地だけになっている。幼なじみ達も誰も残ってはいない。
記憶の中の場所や人は、すべてどこかに行ってしまった。でも、バブル経済や地価高騰も、この街にたどり着く前に終わってしまったおかげ
で、この街は確かにこの街のままだった。だからこそ、これからもこの街らしくあってほしいと願う。子供の頃に苦労してよじ登った塀の低さに
流れた時間を感じながら、時代に忘れられたかのようなこの街の、想い出という名の遺産を抱え、ぼくはまた東京へと戻るのだ。
1
情報化が地域にもたらすもの
費せず、利用者側にも距離の障壁が存在しないため、集積の経済に
より飛躍的に効用を増加させていくことになると考えられる。また、
(1)時代のキーワード
「“ e”と
“ i”」
距離の障壁が存在しないことは、利用者の行動の広域化を促す。高
2000年を迎え、アルビン・トフラーが「 第3の波」を著してからも
速交通網の整備進展により距離の障壁による抵抗が減少した結果、
う20年が経つことになる。その予言の通り、農業の発見・産業革命
地域同士での競争激化や格差顕在化という現象が起きたが、
“ e”と
に続く第3の波「情報化」により、既存の社会システムの多くが変革さ
“i”の時代はこの現象をさらに極端な姿で表現すると考えられる。こ
れ、さまざまな方面で急激な変化が進みつつある。このような情報
のように、
“e”と
“i”の時代の進展は、世界の集中化、均一化を加速
化時代における時代認識として、
“e”の時代と
“i”の時代の2つを挙
していく。
( 図表2)
げることができる。
( 図表1)
( 3)失われる地域のプライドとアイデンティティ
(2)進む集中化と均一化
このような時代の中、1994年には政府に高度情報通信社会推進
集中の要因について議論される際、規模の経済、範囲の経済、集
本部が設置されるなど、行政においても情報通信高度化への取り組
積の経済などが挙げられるが、集積の経済について実地的に検証す
みが開始され、自治体レベルでも地域情報化計画が次々と策定され
ると、一般には集積量とその効用の間に成長曲線的な関係がみられ
た。しかし、99年に提出された答申「 次世代地域情報化ビジョン−
る。これは、集積量の増大に伴い、集積の経済によって効用は加速
ICAN21構想−」においても、
「 地方公共団体による地域公共ネット
度的に増大するが、現実には集積対象の空間範囲に限界があること
ワークの整備」、
「 情報通信システムの相互接続性の確保」がうたわ
や、効果を享受する人々の移動時間の制約( 距離の障壁)があるた
れるのみで、世界の集中化、均一化に対する地域ビジョンの確立の
めに、効用の絶対値に自然と上限ができるためと考えられる。
必要性については語られていない。
( 図表3)
しかし、電子情報の場合は、その集積において空間をほとんど消
すなわち、地域における情報社会への対応策をまとめている地域
図表1 ●“e”の時代と
“i”の時代
キーワード
説明
具体例
“e”の時代
“e-”……、いわゆる電子化、デジタル化。
いろいろなものがコンピュータ上で扱えるような形、ビットへ
と姿を変えていく状態。いろいろなものを電子データという同
一の形態で取り扱うことを可能にする。
e-mail、e-commerceなど
“i ”の時代
“inter-”
・
“i-”……、いわゆるネットワーク化。
いろいろなものがつながっていくことにより、入手可能な情報
量が級数的に増えていく状態。距離をはじめとした物理的な理
由に関係なく交流を可能にする。
internet、i-modeなど
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情報化 ●“e”と
“ i”の時代に地域に残されるもの・残すもの
情報化計画は、まさに情報化のための計画であり、いわば
“ e”と
“ i”
かねない。
の時代への流れを加速させる方策によって構成されている。そのた
われわれは、
“e”と
“i”の時代における共通化によるメリットを享受
め、現在の情報社会を生き抜いていくために必要な戦略的もしくは
する一方、集中化・均一化の波にとりこまれないよう自らの個性化を
戦術的な対策が、地域においてはほとんど講じられないことになる。
はかっていく必要がある。そのためには、失われつつある地域のプ
結果として、多くの地域では均一化していく世界に対して抗する手段
ライドとアイデンティティを再認識するようなフレームを準備し、個性
を持たず、独自のプライドやアイデンティティを失っていくことになり
的な蓄積資源を活用するタイプの地域振興策を実施せねばならない。
図表2 ●“e”
と
“i”の時代の進展による集中化・均一化のイメージ
効用
都市の選択確率
都市Aの選択確率
都市Bの選択確率
集積
都市A
都市B
"e"と"i"
効用
都市の選択確率
都市Aの選択確率
都市Bの選択確率
集積
都市A
都市B
※左:集積の増加が効用を級数的に増大させるようになる。
※右:距離抵抗の減少により、魅力の高い都市の圏域が拡大する。
図表3 ● 次世代に向けた地域情報化による将来像
(政策目標)
地方公共団体による地域公共ネットワークの整備
地方公共団体が、民間主導で整備される情報通信インフラの有効活用や、
通信事業者と連携・協力しつつ自ら光ファイバ網を構築する等、基盤整備
を積極的に行うこと等により、高速・大容量・双方向の自律分散型「 地域公
共ネットワーク」の整備に取り組み、住民サービスの充実を実現。
情報通信システムの相互接続性の確保
国際的な技術標準の採用や、ミドルウェア機能の構築、標準的システムの
プロトタイプ開発等により、自律分散的に整備される情報通信システム間
の相互接続性を確保。
資料)「次世代地域情報化ビジョン ― ICAN21構想 ― 」
( 地域情報化研究会)1999年
SRIC MOOK
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情報化 ●“e”と
“i”の時代に地域に残されるもの・残すもの
2
築していくことを提唱した。教科書に載っていなくても地域の人々の
地域遺産フレームによる地域独自の視点の保全
こころに残る、そんな「 みんなに親しまれる遺産」を掘り起こしてい
くことをコンセプトとし、地域住民のレベルで時を超えたコミュニケ
(1)地域のプライドとアイデンティティを伝えていくこと
ーションを図ろうとするものである。
地域のプライドやアイデンティティを再確認し、伝えていくというこ
とは、
「 過去」と対話し、
「 現在」に提示し、
「 将来」に遺していくとい
うことである。これは、これまでその地域で生活してきた人々、今の
3
地域遺産フレームの構築に関する検討
社会を構成している人々、そして将来ここで暮らす先の世代の人々
との時を超えたコミュニケーションといえる。“e”と
“i”の時代によ
る集中化、均一化の流れのなかで地域独自のことばを失ってしまう
前に、時を超えたコミュニケーションを始める必要がある。
( 1)地域遺産フレームの検討に関する全体イメージ
地域遺産フレームを考える際の全体イメージを考えると、大きく
は、概念の検討段階と、具体的作業内容の検討段階に分けることが
しかしながら、時間は不可逆的なものであり、現実に過去の人々
できる。また、具体的作業内容の段階としては、コンセプトに基づい
や未来の人々との対話を直接的に行うことはできない。そのため、
た登録基準や評価基準の構築などの流れと、地域遺産登録を円滑に
過去から伝えられたものを保全し、将来へと伝えていくというかた
進めるための組織体系の検討に大別される。
( 図表4)
ちをとることになる。このような時代のバトンリレーを考える上で参
考になる概念として、遺産( Heritage)が挙げられる。
( 2)地域遺産のコンセプトおよび登録基準や評価基準の検討
自然、歴史、文化などの地域が保有する遺産は、これまでの地域
コンセプト、登録基準やその評価基準については、各地域の特性
の姿や有り様を鮮烈に表現し、代弁する。これらについて考えるこ
を活かすために大きな差異が発生する。そのため、ここで汎用的な
とは、地域のプライドやアイデンティティを確立することにつながり、
ものを具体的に記述することは不可能であるので、基準について検
愛着心を醸成する効果があるため、
“ e”と
“ i”の時代において地域
討するための考え方についてのみ整理する。この場合、まず遺産あ
のとる効果的な施策として期待される。
りきとする帰納的な方法と、まず価値ありきとする演繹的な方法が
考えられる。
(2)地域遺産フレームの考え方
遺産に関するフレームとして、現在最も有名で完成度が高いのは
①帰納的な方法
世界遺産のフレームである。これは人類という壮大なレベルで見た
地域遺産として適切と考えられる遺産のリストを仮に作成し、その
場合の価値の体系であり、時を超えたコミュニケーションの試みで
リストに基づいて適切な基準を構成していく方法である。最初に暫
ある。しかし、地域のプライドとアイデンティティを再認識するという
定的とはいえリストを作成してしまうため、次年度以降の登録が低調
視点で眺める場合には、やや壮大すぎ、使い勝手が悪いことは事実
になるなどの問題が発生する可能性がある。
である。
この流れを受け、前作「 SRIC MOOK 002:地域遺産の制定によ
②演繹的な方法
る地域資源の継承」において世界遺産のフレームを基本としつつ、地
世界遺産の登録基準などを参考として、コンセプトに基づいて地
域に応じた独自のカスタマイズをはかることで独自のフレームを構
域遺産の登録基準を構築していく方法である。たたき台を作成する
図表4 ● 地域遺産フレームの検討に関する全体イメージ
地域遺産のコンセプトの検討
地域遺産の登録基準の検討
地域遺産に関連する組織体系の検討
地域遺産の評価基準の検討
地域遺産登録の開始
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“ i”の時代に地域に残されるもの・残すもの
までに時間がかかりすぎるなど、立ち上げ時の検討において、困難
参考として、地域レベルでの実施を念頭において検討すると図表6
が生じる可能性がある。もちろん、世界遺産の登録基準を活用する
のようなものが考えられる。組織体系については、実際の登録過程
ことも良いのだが、それでは単なる世界遺産の縮小版となってしま
を整理することで必要な主体を定めることができ、実際にはコンセ
い、地域遺産を制定する真意からははずれることになってしまうこと
プトに応じて住民や学識者などの適切な参加が求められる。
も問題である。
地域遺産は、基本的には世界遺産の枠組みを地域レベルで取り扱
なお、世界遺産の登録基準については、前作において分析を展開
えるようにカスタマイズするものである。しかし、根底にあるのはい
している。その結果として、世界遺産の登録基準が構成している概
ずれも遺産の概念であるため、規模や価値体系の捉え方を除けば大
念を3軸に分解すると、
「 Natural or Cultural」、
「 Global or
きな差異はない。
Local」、
「 Ancient or Contemporary」が抽出された。遺産の価
この登録過程では、世界遺産の場合と同様に毎年リストを更新し
値概念を踏襲することを考えるならば、前作でも述べたとおり、この
ていくことを想定している。
「○○100選」などと同じく1度にリスト
3軸を満たすような形での登録基準を作成することが望ましい。
を構築することは、地域遺産のコンセプトである継続性に適合しな
※分析の手法・結果や、各軸と登録基準との関係などの詳細は前作
いためである。
をご参照いただきたい。
この登録過程において必要な主体としては、委員会、分科会、事
務局、専門家、そして申請者が挙げられる。これらの主体として、具
( 3)地域遺産登録を円滑に進めるための組織体系の検討
体的には下記のような組織や個人などが考えられる。もちろん、こ
地域遺産の登録過程や運用上の主体を整理するために、オースト
ラリア連邦政府によって整理された世界遺産の登録過程(図表5)を
れらは一例であるが、全体を構築していく中で、既設の組織において
まかなえるかどうかは検討の重要な点となる。
図表5 ● 世界遺産の登録過程
Australian Government submits
nomination to World Heritage Committee Secretariat
World Heritage Committee Secretariat refers nomination
to World Heritage Bureau for assessment
World Heritage Bureau obtains advice from IUCN
or ICOMOS and ICCROM
Nomination assessed at meeting of
World Heritage Bureau
World Heritage Bureau makes recommendation
to World Heritage Committee on suitability for listing
Additional information sought
from Australian Government
Decision on nomination at
December meeting of World Heritage Committee
Nomination rejected for
World Heritage List
Nomination accepted for
World Heritage List
Decision on nomination
deferred
Place inscribed on World Heritage List
資料)「Australia's World Heritage」( Commonwealth of Australia) 1995年
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妹尾 康志 ◎ Yasushi Senoo
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①委員会
③事務局
地域遺産の登録に関する最終的な決定機関であり、世界遺産にお
地域遺産に対する登録申請の窓口であり、世界遺産における世界
ける世界遺産委員会に相当する。しかし、地域遺産では予算・規模の
遺産センターに相当する。地域遺産では、行政機関の企画調整、自
問題から、評価実務の多くを分科会で行い、委員会は権威の付与的
然環境・文化財担当課などによって構成されるバーチャルな組織とし
な役割を果たす位置づけになる可能性が高い。
て構築される形態が考えられる。
具体的には、国であれば都道府県の代表者、都道府県であれば市
町村の代表者を含む形、条例などによって設置される場合、議会が
分科会の運営などについても、実際には事務局が担当することに
なると考えられる。
一部の役割を負うなどの形態が考えられる。
④専門家
②分科会
設定した登録基準などに沿って登録申請物件についての評価を行
地域遺産の登録に関する評価などを担当する機関であり、世界遺
い、分科会が委員会に対して提出する資料に対して助言を行う。世界
産におけるビューローに相当する。地域遺産では外部の有識者など
遺産ではIUCN、ICOMOS、ICCROMが担当しているが、地域遺産
を入れた形でのワーキンググループ的なものが考えられる。
においてもこれらの機関、またはその下部組織の協力をえることや
登録基準ごとに分科会を設置する形式、全体を1分科会で処理す
地元の専門家の組織化によって対応されると考えられる。
る形式などが考えられるが、評価が目的である以上、地域に近すぎ
ず遠すぎずという委員構成が求められる。そのため、地域出身者を
はじめ、地域と全く関係のない有識者なども必要であろう。
⑤申請者
国レベルで行う場合は都道府県、都道府県レベルで行う場合は市
図表6 ● 地域遺産における登録過程
(例)
事務局への登録申請
申請案件につき分科会において評価開始
遺産関連専門家(団体)による助言・評価
分科会における評価結果の委員会への報告作成
委員会における分科会報告の評価
申請者からの追加資料提出
委員会における審議
登録不適判定
地域遺産登録認定
登録保留・再検討
地域遺産登録・リストへの掲載
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情報化 ●“e”と
“ i”の時代に地域に残されるもの・残すもの
町村を申請者とする場合が多いと考えられる。これは、遺産として登
5
地域遺産と住民の関わりを継続的に進めるために
録する以上、その保全計画が必要であり、その多くは行政が担当し
ていると考えられるためである。
本稿では、
“ e”と
“ i”の時代に地域のプライドとアイデンティティを
表すものとして、地域遺産を提案した。遺産はひととの関わりの中
4
で継承されるものであり、長期にわたって継続的に推進していくこと
わが国における地域遺産フレーム検討の動き
が求められるため、教育と参加の仕組みが重要視される。
前作でも述べたが、登録基準は地域遺産の価値体系を示しており、
1997年のSRIC MOOK 002に前作を掲載して以後、わが国に
おいても地域遺産フレームについての検討の動きがみられる
生涯学習や学校教育の材料とすることで、遺産の継承に向けての統
一的な理解を図ることができる。また、住民が「自分たちの遺産」で
特に、北海道では1997年に堀知事によって「 北の世界遺産」の
あるという認識を持てるよう、費用の確保や活動の実施に関しても、
提唱がなされ、北海道庁赤れんが政策検討チーム「 北の世界遺産プ
できる限り民間の活動を主体とした枠組みを構築していくことが望
ロジェクト」によって、
「北の世界遺産」のフレームについての検討が
ましい。そのためには、予算上同じ金額を投資するにしても、直接
2年間にわたってなされている。この結果、名称も「 北海道遺産」と
投資するよりも、住民や企業からの寄付金について、それと同額の
変更されるなど、より地域遺産の概念が全面に押し出されており、
地方税を免除するというような形をとることも一案であろう。
2000年度からはいよいよ具体的な遺産の選定へ向けての段階に
移行するとのことである。
このように、地方自治体をはじめとした公共の立場からは、地域
遺産を効果的に活用するために、住民が遺産と親しむことができる
この「北海道遺産」の取り組み(図表7)は、現時点では唯一の事例
と思われるが、近年の動向から鑑みるに、今後、各地でも同様の動
きが起きることが期待される。
環境を整えること、また、主体的に遺産に親しもうとする土壌を醸
成することが必要である。
地域遺産の成功の鍵は、そのための仕組みが巧みかどうかにある。
図表7 ●「北海道遺産」の取り組みイメージ
「遺産」の掘り起こし
○「北海道遺産」の理念を幅広く普及させ、道民みんなで「 北海道遺産」となるものを掘り起こします。
○ 掘り起こされた候補をリストアップして発信することにより、相互の情報交換を図り、より機運を高めていきます。
「遺産」の選定
○ 推薦された候補の中から
「北海道遺産」を選定します。
○ 選定にあたっては、北海道オリジナルの基準を用いるとともに、たくさんの人が参加できるようなプロセスで選んでいきます。
「遺産」の保全と活用
○「北海道遺産」を大切に守り育て、魅力を高めていくために、地域の皆さんが中心となって、保全と活用の方策を検討します。
○ 個々の「 遺産」によって方法はいろいろです。地域の皆さん・企業・行政が協力して様々な方策(メニュー)を組み合わせることによ
り、各々の遺産に合った保全と活用を行います。
「遺産」を活用した地域づくり
○ 個々の遺産に関わる
「人」
「 情報」
「移動手段」などをネットワークすることにより、
「 北海道遺産」の魅力をより高めていきます。
○「北海道遺産」を素材として、地域一円、北海道全体が一つの生きたミュージアムとなるような魅力ある地域を創っていきます。
資料)
「 北海道遺産の提案」
( 北海道庁北の世界遺産推進方策検討プロジェクトチーム)1999年
■Epilogue −My Last Regret−
ぼくが地域振興の仕事をはじめた頃、情報化が進めば地域格差はなくなる、地域格差がなくなれば真の地方の時代が来ると言われてた。そ
んなことはないってわかってた。けど、ぼくにはどうしようもないこともわかってた。そうしているうちに、
“e”の時代は大都市に情報を集中さ
せていき、
“i”の時代は地方の均一化を進展させていく。地域格差は依然として残り、地域特性は失われていく。
集中化と均一化の流れをとらえ、その利点を最大限に活用しながらも、それに飲み込まれることなく、想い出という名の遺伝子を、いかに
失うことなく次代へと伝えていくか。大都市からの距離という障壁に守られ、バブル経済も地価高騰も届かなかったぼくの故郷も、
“e”と
“i”の
速度からは逃れられそうにない。
そして、今日もぼくは東京にいて、地域振興の仕事に取り組んでいる。故郷から連れてきた、きんぎょちょうちんを机の片隅にぶら下げて。
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