【パラダイム】 公務員制度改革の必要性 北海道大学公共政策大学院 院長・教授 宮脇 淳 衆議院議員選挙以降、郵政民営化、年金、少子化など、さまざまな問題について政策議論が展開されている。 しかし、政治がどんな政策を描いたとしても、それを実現するには政治改革と同時に行政改革が不可欠である。 特殊法人や補助金の改革など、従来の体質を強く温存し期待はずれの結果にとどまった政策も少なくない。これ は、政策の具体化に向けた制度設計や運営の枠組みを霞ヶ関が独占すると共に、政治がコントロールする能力 を失ってきた結果である。政策を左右し得る行政を具体的に改革しなければ、選挙で提示したどんな政策も「絵 に描いた餅」、「意図せざる結果」に陥る危険性がある。そこで求められるのが、予算制度改革と国家公務員改革 を柱とした行政改革である。 政策は、徴候政策と原因政策と呼ばれる二つの種類に分けられる。徴候政策とは、抱えている問題の本質に は手を触れず表面的な課題にのみ働きかける政策である。国民年金の議論を不明確にしたままの年金統合論、 道路法の見直しをしない中での道路公団改革、消費税の引き上げ議論を回避したままの財政再建議論などは、 いずれも本質的な問題を回避した徴候政策といえる。この徴候政策は、改革的政策の顔をもつものの、既存構 造の中にすぐに埋没し、従来の古い問題点を再確認するだけの結果となる。 問題の本質に働きかける原因政策、その中心に位置づけられる真の国家公務員改革とは何か。それは、国家 公務員制度・組織の中に潜む見えない非効率の排除にある。すなわち、公務員の組織や行動メカニズムの中に 組み込まれた改革的政策実現の壁となる要因を掘り起こし排除することである。こうした要因は、細分化した職 種と省庁人事による強固な縦割り、エリート選考型の公務員試験による統治体質、給与体系や職階制に支えら れた多層構造などの中で官僚行動のメカニズムとして培われる。加えて、官と民を明確に二分化した閉鎖的公務 員制度は、官と民の連携などの取り組みの壁となり、競争的環境の導入や公共サービスの多様化を阻害してい る。官僚の行動メカニズムの中に組み込まれた見えない非効率要因を残したまま人件費や人員の削減を続けて も、国家公務員組織の体質は温存され、改革的政策はその体質の中に埋没する。 見えない非効率を克服するには、組織や構成員の地位の独占性を排除すること、情報共有を進め組織や行 動の権限階層を減らすこと、業務成果に対する数値的把握を進めること、そして、業務の多様化に対して横断的 専門家集団を形成し恒常的に担える制度を形成すること、などが必要である。こうした取り組みを進めるには、現 行の公務員制度の徹底した見直しが不可欠である。見えない非効率を多く抱えた組織は、省益・局益といった縦 割り型自己利益追求の体質を深めるだけでなく、情報の偏在を通じて「意図しないリスク」を抱える。意図しないリ スクとは、国民が認識しない中で政策の本旨が変わることである。 さらに、国と地方を全体として眺めた場合、公務員の縦割り毎の階層は極めて多く、見えない非効率を異常な までに深刻化させている。地方分権を進め、国、地方を通じた多層性を排除しなければ、政策の質は改善されな い。そして、何よりも重要なのは、公務員改革を団塊の世代が大量退職した後の行政組織と公共サービスのあり 方を睨んで進めなければならないことである。膨れ上がった組織と業務を抱えたままでは、大量退職後には行政 そして政策の執行も機能不全に陥る。単なる公務員をめぐる数値の削減だけでなく、次世代を睨んだ公務員制 度の具体的提示とそれを提示できるイメージを越えた政策形成能力が強く政治に求められている。 「PHP 政策研究レポート」(Vol.8 No.96)2005 年 9 月 1
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