第7回北海道 アルコール・薬物依存予防 、早期発見、解決市民 フォーラム 2012 年 11 月 3 日(土)札幌市教育文化 会館 1 階小ホール 特別講演 3. アルコール依存症の治療のエビデンスと動機づけ面接 原井宏明 医療法人和楽会なごやメンタルクリニック 院長 エビデンスに基づく系統的レビュー 依存症に対する治療法は無数にある。ランダム化比較試験(以下 RCT)による検証を経た ものでも 40 以上はある。ではどの治療でも効果は同じだろうか? アルコール依存症に対する治療の RCT に関する系統的レビューがある(1)。48 の治療 法が評価されている。評価の高いトップ 5 は短期介入と動機づけ面接,アカンプロセー ト,地域強化アプローチ(CRA),読書療法である。ビリ 5 はリラクセーションと直面化, いわゆる内省的精神療法,一般的な飲酒カウンセリング,酒害教育である。これらの治 療は,治療なしよりもむしろ結果が悪い。治療するつもりで,かえって酒の量を増やし ている。 結果は治療次第 この系統的レビューが意味することははっきりしている。治療には優劣がある。ある治 療は最も単純な読書療法よりも悪い。このレビューが意味するところをまとめてみよう。 知見 1 量を増やしても効果は同じ 治療の回数,長さを変えても転帰は変わらない。Post hoc 分析で,治療転帰を予測する 因子を調べると,治療期間や治療アドヒアランスは転帰と相関する。長期間,自助グル ープに通い続けることは断酒と相関する。では,「行け」と命じることは断酒という結 果につながるだろうか?実は,逆である。治療を長く続ける・自助グループに通い続け ることは,原因ではなく,結果である。断酒しているからこそ,治療を続け,通い続け る。動機づけが無い患者を長く治療し,無理に通わせても効果はない。 知見 2 短く 1 回でも 0 回とは大きな違い 患者の動機づけを強めるためにデザインされたカウンセリングは治療無しと比べると 大きな効果がある。 知見 3 治療者効果 読書療法と行動療法,行動療法+リラクセーション+主張性訓練,行動療法+認知療法 を比較した RCT がある。9 人の治療者が行った。読書療法を含め,同じ治療成績だっ た。一方,Post hoc 分析では,治療者間には大きな差があった。Truax による正確な共 感のレベルを測定する尺度に従って,治療セッションの様子を評価すると,共感度の高 い治療者ほど転帰が良かった。行動療法にあれこれ加えても結果は良くならない。結果 が変わるのは,どの治療者が担当するか?によってである。 第7回北海道 アルコール・薬物依存予防 、早期発見、解決市民 フォーラム 2012 年 11 月 3 日(土)札幌市教育文化 会館 1 階小ホール 特別講演 3. 動機づけ面接へ 問題があれば,その原因を当人の側にあり,当人に与える治療の種類が治療転帰を変 えると考えるのが一般常識である。Miller は逆に考えた。問題の原因は治療者の側にあ る。治療の種類ではなく,治療者がどのような態度を見せるか,どのような言動をする かによって転帰が変わる,そして意思のように見えるもの,すなわち 動機づけ は治 療者とのやりとりの結果,生じてくるものであり,患者の行動を変える原因ではない, と考えた。医者の常識では 病気が治らなければ,それは患者の病気のせい であり, 病気が治れば,それは治療のせい である。治らないとされている病気が治れば,医 者が考案した治療の画期的効果だ,として論文に発表する。医者毎に治療結果が違うこ とを知ってはいるが,それを論文にすることはしない。病気が悪くなったことを医者の せいにする論文はもちろん出てこない。Miller はそれはフェアではない,と考えた。 それが 1983 年に 動機づけ面接 の概念を生み出すことにつながった。 動機づけ面接とは,患者の中にある矛盾を拡大し、両面性をもった複雑な感情である ア ンビバレンス を探って明らかにし,矛盾を解消する方向に患者が向かうようにしてい く。こうすることによって,患者の中から動機づけを呼び覚まし,行動を自ら変えてい く方向にもっていくことができる。クライエント中心かつ準指示的な方法である。 文献 1) Miller WR, Brown JM, Simpson TL, et al. What works? A methodological analysis of the alcohol treatment outcome literature. In: Hester RK, Miller WR, editors. Handbook of alcoholism treatment approaches: Effective alternatives (3rd ed). Needham Heights, MA, US: Allyn & Bacon; 2003. p. 12-44.
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