Living Together―私たちはすでにHIVと共に生きている 特定非営利活動法人ぷれいす東京代表 第20回日本エイズ学会学術集会会長 池上 千寿子 蔓延しているために「恋愛ならば大丈夫」と思い込 「なにげない一言」 んだりします。ふたつには性感染は自業自得でウイ KT ルスではなく本人の責任とレッテルを貼られがちな ので周囲には言えません。その結果,職場や家庭や 地域には「感染者はいないはず」が前提となってし まい,感染した人はますます孤立します。このよう な環境こそがケアと予防の双方を妨げ,感染を広げ る温床なのです。 ぷれいす東京では,HIV感染は他人事ではなく自 分事だという意識の転換がどうしたらできるのかを 調査・研究してきました。その結果,疫学数値,ウ イルスや免疫,感染経路と予防方法等の情報提供だ けでは他人事のままで予防行動の動機付けにはなり にくいことが示唆されました。「自分にもおこりう る」ということが知識ではなく,「気づき」として 腑に落ちたときに初めて他人事から自分事になるの です。その「気づき」を提供してくれるのが他なら ぬ当事者の語りであり手記なのです。 HIV陽性者は特別な遠い人ではなく,当たり前に 隣にいて自分と同じように生活している人だという こと,HIVの有無に関わらず私たちはHIVと共にあ る社会に生きているということ,このことに気づく ことが支えあうケアの環境を整備し,誰がHIVを持 っているかの詮索ではなく,だれもが予防すること (ぷれいす東京冊子 が大切なのだという意識を育てるのではないでしょ 「Living Together-Our Stories」 )より) A5判36p/定価700円(税込) 申込FAX:03-3361-8835・MAIL:[email protected] うか。このことからぷれいす東京では,Living Together−ケアと予防をつなぐ戦略,というキャ ンペーンを実践してきました。職場,地域,学校で 自分が共感した手記を朗読しあい,感想を語り合い, 気づいたことを伝えあう,という取り組みです。 昨年,第20回日本エイズ学会・学術集会の会長を 日本で報告されたHIV感染者AIDS患者の数はす 務めましたが,そのテーマをLiving Together−ネ でに12,000人を超え,増え続けています。おもにセ ットワークを広げ真の連携を創ろう−としました。 ックスで感染するので文字通りだれにでも感染の可 1,500人をこす参加をいただき,多くの当事者と研 能性はあるのですが,多くの人は「自分や家族には 究者,ケアと予防の専門職が一堂に会してエイズの 関係が無い」と感じていないでしょうか。ひとつに リアリティーを捉えなおし,複合的な対策にむけて は性感染といえば性風俗が原因だろうという誤解が 議論を深めることができたと思います。 3/2007 複十字 No.314 25
© Copyright 2024 Paperzz