5 奨学制度

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奨学制度
実質的学生負担の状況は、学生納付金のみならず奨学金の状況を併せ考察
する必要がある。公的資金による各国の中心的奨学制度と学生納付金の状況
を整理すると、次の表のとおりとなる。奨学制度のみを比較すると、わが国
が特に劣っているとも言い難いが、学生納付金の状況と奨学金の受給率を併
せ考えると、わが国学生支援の水準が低いことは否定しがたい。
各国アンダーグラジュエイト学生奨学制度
奨学金態様
有利子貸与
イギリス
奨学金年額(万円) 受給率(%)授業料等年額
(万円)
(1 £= 180 円)
利 率 : イ ン フ 限度額
(2001) レ率
自宅
全員
54.4
自宅外 84.6
アメリカ
多様
連邦政府分
(1 $= 125 円)
95年度平均額
(1995)
フランス
67.0
給付
(1999)
原則希望者
学生の半数は
( 1 9 9 9 全額免除
年度74%)
55.6
州立平均
(全受給率
99年度
68.4 %) 41.8
(1 F= 17 円)
99年最高基本額
19.4
97年登録料
21.2
1.4
35.0
ドイツ
半 額 給 与 ・ 半 (1 DM=55円)
(1999) 額貸与無利子
99年最高額
親同居 43.2
別
居 56.8
- 32 -
18.2
原則無償
国立
日本
貸与(有利子、 国公立
(2001) 無利子)
自宅
無利子
16.2
授業料
50.4
49.7
自宅外 57.6
私立
無利子
自宅
入学料
6.0
61.2
自宅外 73.2
27.7÷4
計
56.6
全無利子
8.0
有利子
8.9
36,60,96,
120から学生選 有 ・ 無 利 子
択
16.9
1)イギリス
①
学部段階の学生の生活費については、地方教育当局の審査に基づき
貸与を受けることができる。貸与の上限額は次の表のとおりである。
貸与額は、学生・両親の収入によっても制限されるが、上限額の7
5%までは収入に関係なく貸与される。貸与は、SLCを通じて行わ
れる。(Financial Support for Higher Education Students in 2001/2002 によ
る。以下のデータ、叙述についても同様である。)
奨学金貸与限度額(2001年度入学者分)
学
生
区
分
貸与年額限度額 (ポンド)
ロンドン
4,700
その他地域
3,815
自 宅 外
自宅通学
3,020
- 33 -
②
奨学金の返還は、卒業後の4月からであるが、返還額は年間所得に
より異なり、年間所得が1万ポンド以下の者は返還を猶予される。
年間返還額は、年収から1万ポンド差し引いた残額の9%とされ、
徴収は税務署が行う。貸与額には消費者物価指数相当のインフレ率に
よる利息が付される。
③
65歳になった時点で返還残額がある場合には、返還が免除される。
奨 学 金 返 還 額
年間所得(ポンド)
④
返還月額(ポンド) 返還額の所得比(%)
10,000以下
0
0
11,000
7
0.8
12,000
15
1.5
15,000
37
3.0
17,000
52
3.7
20,000
75
4.5
上記奨学制度の他にも、数学、理科の教員養成、障害者学生支援な
ど特定目的の給付または貸与制の補完的奨学制度がある。
⑤
大学院学生については、別に各リサーチ・カウンシルによるリサー
チ・スチューデントシップ等の奨学制度がある。
- 34 -
2)米国
ⅰ アンダーグラジュエイト段階
①
米国では、連邦政府の奨学制度を中心に多様な奨学制度が発達して
おり、アンダーグラジュエイトの学生の70%近くが何らかの支援を
受けている。特に私立大学では80%が支援を受けており、かつ大学
自身の奨学金の比重も高く、私学の高額な授業料に対応していること
が読みとれる。
(以下のデータは、Digest of Education Statistics 2000(N
CES)により作成。)
支援主体別学生(フルタイム)支援状況(1995年度)
支援を受けた学生比率(%)
支 援 主 体
全
関
公
立
非営利私立
連邦政府
55.6
50.8
64.0
州
府
19.8
17.4
28.1
学
27.7
18.8
56.3
他
10.9
9.3
14.0
68.4
62.8
80.3
政
大
そ
の
上記いずれか
②
機
奨学事業の形態は多様であるが、給付制奨学金、ローン(政府保障
を含む)と大学におけるアルバイト雇用経費の支援に大別できる。連
邦政府はローンによる支援に比重をかけつつある。
- 35 -
支援形態別学生(フルタイム)支援状況(1995年度)
支援を受けた学生比率 (%)
支
援
形
態
連邦政府支援者 その他支援者
全支援者
奨学金給付
30.6
41.0
54.1
ローン
43.2
1.7
43.7
大学雇用経費支援
9.0
不
明
11.0
その他
5.0
5.9
10.9
55.6
45.7
68.4
上記いずれか
③
フルタイムの学生一人当たりの支援額は、複数の支援を合算すると、
6,382ドルである。
- 36 -
支援形態別学生(フルタイム)支援額(1995年度)
学生一人当たり年平均支援額(ドル)
支
援
形
態
連邦政府支援
その他支援
全支援
奨学金給付
2,001
3,559
3,864
ローン
4,288
2,747
4,345
大学雇用経費支援
不
明
不
明
1,371
その他
6,334
3,463
4,904
上記いずれか
5,362
3,883
6,382
ⅱ 大学院段階
①
大学院学生についても、連邦政府が支援の中心であり、特に医学等
のプロフェッショナル・コースでは、74%の学生が連邦政府の支援
を受けている。一方、大学の支援を受けている学生が43%おり、大
学院段階では、大学が学生支援に力を注いでいることが伺える。
②
支援形態は、アンダーグラジュエイト段階に比して、ローンの比重
が大きいのは共通であるが、フェローシップ等の奨学金給付の割合が
少なく、その代わり、ティーチング・アシスタント、リサーチ・アシ
スタント等の大学による雇用の形を取るアシスタントシップと授業料
免除が相当の比重を占めている。そのいずれもが支援主体は大学であ
るが、リサーチ・アシスタントの財源の相当部分は連邦政府からの研
究費を財源とするものであり、その意味では、特にドクターの支援に
関しては、かなりの部分が実質的には連邦による支援と見ることがで
きる。
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支援主体別大学院学生(フルタイム)支援状況(1995年度)
支援を受けた学生比率 (%)
支援主体
全コース
連邦政府
マスター
ドクター
プロフェッショナル
49.3
43.6
27.6
73.9
4.1
2.4
0.6
9.4
43.4
42.8
75.7
31.6
雇用者
9.6
16.4
4.0
2.2
その他
22.7
22.5
53.4
8.7
上記いずれか
76.1
72.6
82.9
83.2
州政府
大学
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支援形態別大学院学生(フルタイム)支援状況(1995)
支援を受けた学生比率(%)
支援形態
全コース
マスター
ドクター
奨学金給付
5.2
4.3
15.8
1.4
授業料免除
11.7
13.5
24.3
3.0
アシスタント
19.5
20.2
51.8
4.0
5.0
6.6
5.5
1.3
48.7
43.1
25.2
74.4
雇用者支援
ローン
連邦政府保証
連邦政府ロ ー ン
全支援形態
48.0
8.1
42.5
5.1
76.1
72.6
25.2
1.5
82.9
プロフェッショナル
73.0
18.4
83.2
3)フランス
①
大学の第一期及び第二期課程の学生に対しては、通学距離、子供の有
無、世帯年収等により6段階の等級を決定し、等級に応じた基本奨学金
額を支給する。パリ近郊、コルシカ、海外領土などの学生に対しては、
さらに割増金額が加算される。
②
1999年度において、学生の21.2%が奨学金を受給している。
基本奨学金額は、最高の等級で20,682フランであり、奨学金受給
者の42.1%がこれに該当する。
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4)ドイツ
①
中心的奨学制度は、1971年の連邦教育助成法に基づく奨学金であ
る。その他、各州政府や各種財団等による奨学金がある。
②
連邦教育助成法による奨学制度の骨子は次のとおりである。
ⅰ
学生の生活・教育に必要な経費は、基本的に親が負担すべきである
が、親の負担能力を越える部分について国が奨学金を支給する。具体
的には、奨学金の最高限度額から親等の収入(一定額を控除する)を
差し引いた額が奨学金額となる。
連邦教育助成法奨学金最高金額(1999年度)
学生の生活態様
親と同居
親と別居
備考
ⅱ
奨学金最高年額 (マルク)
旧西ドイツ地域
7,860
旧東ドイツ地域
7,800
旧西ドイツ地域
10,230
旧東ドイツ地域
8,400
BMBF "Bundesausbildungsförderungsgesetz, BAföG (1999) による。
奨学金は、半額給与、半額無利子貸与である。なお、1996年の
連邦教育助成法の改正により、最長支給期間(学生の専攻の標準学修
期間を参考に定められている。)を超えて在学する学生について、有
利子学生ローンが導入された。
ⅲ
奨学金については、連邦が65%、各邦が35%を負担する。有利
子ローンは連邦調整銀行が負担する。
ⅳ
奨学金(有利子ローンを除く)の受給者の全学生に対する割合は、
約18.2%である。
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