「ゴールデン・サイクル」に立つ日本経済 ◆前半・後半の法則とジュグラー・サイクル 戦後の日本経済を振り返ってみると、復興期から高度成長期、石油危機やプラザ合意、バブルとそれ に続く「失われた 10 年」を経て、なお変わらず生き続ける周期的なリズムがあることに気づく。 それは、筆者が「前半・後半の法則」と名づけたものである。戦後日本経済では、景気拡張(拡大) 期間の全期間に対する比率が、規則的に西暦の 10 年間(ディケード)の前半の 5 年間は低く、後半の 5 年間は高い、というパターンが、1951 年から 2000 年までの 50 年間に 5 回、繰り返されてきた。 すなわち、景気拡張期間比率は、次の通りである。1950 年代では 51∼55 年が 75%に対し、56∼60 年(神武・岩戸景気)が 80%、60 年代では 61∼65 年の 60%に対して 66∼70 年(いざなぎ景気)が 95%、70 年代では 71∼75 年の 55%に対し、76∼80 年は 70%、となっている。続く 80 年代では、81 ∼85 年の 45%に対して 86∼90 年(平成バブル景気)は 80%、そして 90 年代は、91∼95 年の 45%に 対し、96∼2000 年には 65%と、すべて前半の 5 年間より、後半の 5 年間の方が景気拡張期間が相対的 に長かった。 しかも、よく見ると、景気拡張期間が特に長かった 56∼60 年(80%)、66∼70 年(95%)、86∼90 年(80%)は、いずれも設備投資の対名目 GDP 比率が大きく上昇して 20%台に達する動きを見せた時 期にあたっていることに気づく。これは、ある意味で当然のことであるが、大きな設備投資ブームのと きは経済成長率が相対的に高まり、景気拡張期間も長くなるわけである。こうしたことから、「前半・ 後半の法則」に見られる日本経済の 10 年周期が設備投資循環としてのジュグラー・サイクルを表して いることは明らかだろう。 では、2000 年代後半、つまり 06∼10 年はどうなるのだろうか。「前半・後半の法則」によれば、06 年からの 5 年間は、まさしく後半の好調な時代となる可能性が大きいことになる。 ◆高まる「いざなぎ超え」の確率 一方、短期の在庫循環ないしキッチン・サイクル(3∼4 年周期)の状況はどうなっていようか。日本 の鉱工業の出荷・在庫バランス(出荷の伸びから在庫の伸びを引いたもの。前年同期比ベース)の推移 を見ると、05 年いっぱいはマイナス(在庫過剰)が続いていたが、06 年 1-2 月平均で 1.9%ポイントと、 1 年ぶりのプラス(出荷超過)となった。 1 © Copyright 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 2006 All Rights Reserved.(無断転載複写を禁じます。 ) 日本の景気の転換点に半年から 9 ヵ月間の先行性を有する MURC 先行指数・日本景気版の動きを見 てみると、先行期間平均 9 ヵ月の長期先行系列と同 6 ヵ月の総合系列が、ともに 2 月まで上昇基調で推 移している。いま、仮に長期先行系列の先行期間から機械的に先延ばしをすると、現在の景気拡大は、 少なくとも 11 月までは持続することになる。しかも、それで終わりということでもない。もちろん、 原油価格の高騰など懸念要因はあるものの、既にこの 4 月で「平成バブル景気」 (51 ヵ月間)に並んだ とみられる今回の景気が、戦後最長の「いざなぎ景気」(57 ヵ月間)を超える確率はかなり高そうだ。 以上のように、05 年内に在庫調整が完了し、3∼4 年周期のキッチン・サイクルが、 「いざなぎ超え」 に向かって、上昇基調を継続する一方、前述したような、戦後第六波のジュグラー・サイクルの上昇局 面ともいうべき、空前の投資採算水準に見合った新たな、10 年周期的な設備投資の拡大局面が始まろう としている。 ◆クズネッツ・サイクルも上昇 このジュグラーの戦後第六波は、液晶・プラズマ TV や DVD、ハイブリッド・カーといった新・三 種の神器ともいうべき耐久消費財の普及とともに、国内工場立地の増加・都市再生事業の本格化・団塊 の世代並びに団塊ジュニア人口の移動等にその一端が見られる、クズネッツ・サイクルないし建設投資 循環の 20 年周期の上昇局面が 03 年より開始されていることによって、より強化されつつある。 国土交通省が先頃発表した 06 年 1 月 1 日時点の公示地価は、1991 年以来、15 年間にわたり下落を 続けてきた 3 大都市圏(東京・大阪・名古屋)の商業地で、ついに上昇に転じた。その意味で、日本経 済の歴史的局面に、私たちは立っているといえる。東京都は、住宅地も含めた全用途でも 15 年ぶりに 上昇に転じた。地方では、まだまだ厳しい落ち込みが続いているところもあるが、少なくとも大都市に 限っていえば、05 年までと 06 年からとでは、土地という日本経済の根幹にかかわる前提が異なってく ることを理解するべきだろう。 ◆復興期の位相に立ち戻るコンドラチェフ・サイクル 06 年には、もう 1 つの波であるコンドラチェフ・サイクルが、その 50∼60 年周期の回転により、つ いに戦後の復興期と同様の位相に立ち戻ってきたと解釈できる状況をもたらしつつある。重要なことは、 80 年代からのディス・インフレは 90 年代にはデフレへと変わっていき、2000 年代に入って、どうや らデフレも終局を迎えるに至っていると考えられることだ。おそらく、06 年近辺を境に、緩やかながら ディス・デフレ(脱デフレ)の時代が始まり、その流れは 20∼30 年の時間の経過とともに、インフレ へと姿を変えていくのではないかと私はみている。 こうして、06 年は、(1)キッチン、(2)ジュグラー、(3)クズネッツ、(4)コンドラチェフ、とい う短期・中期・長期・超長期のすべての日本経済の波動のベクトルが上向く年の始まりとなるだろう。 筆者は、この現象をゴールデン・サイクル(黄金循環)と命名する。そして、このサイクル現象は、同 時に戦後 60 年を経過した日本経済の再生(ルネッサンス)をも意味すると考えているのである。 (2006.4.17 記) 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング 投資調査部 http://www.murc.jp/shimanaka/index.html 2 © Copyright 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 2006 All Rights Reserved.(無断転載複写を禁じます。 )
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