2007年夏季大会ーGIAダイアログー 事故未然防止に向けた各分野の

病院組織における安全管理
筑波大学附属病院
臨床医療管理部
本間 覚
病院組織におけるリスク
1)患者リスク
2)職員リスク
3)社会リスク
4)災害リスク
5)財政リスク
6)法的リスク
循環器(内)
循環器(外)
消化器(内)
消化器(外)
呼吸器(内)
呼吸器(外)
診療グループ
腎泌尿器(内) 血液浄化療法部
腎泌尿器(外)・男性機能科
内分泌代謝糖尿病(内)
ISO推進室
病院長 副病院長
病院会議
管理責任者
病院連絡会議
看
護
部
乳腺・甲状腺・内分泌(外)
薬
剤
部
脳神経(内)
手
術
部
脳神経(外)
検
査
部
膠原病リウマチアレルキ ゙ー内科
放 射 線 部
整
形
外
科
集 中 治 療 部 集中治療診療グループ
病
理
部 病理学的診断診療グループ
血
液
内
科
救
診療支援施設等
急
部 救急診療グループ
輸
血
部
リハビリテーション部
光学医療診療部
臨床医療管理部
物流センター
リスクマネージメント委員会
小 児 ( 内 )
小 児 ( 外 )
皮
膚
科
形 成 外科
医療情報部
眼
病 態 栄 養部
耳 鼻 咽 喉 科
歯 科 技 工室
歯・口腔外科
総合周産期母子医療センター
医療福祉支援セン ター 緩 和 ケ ア セ ン タ ー
婦人・周産期
総合臨床教育センター
精 神 神 経 科
臨床医療管理部
麻
感 染 管 理 室 細菌学的診断診療グループ
経 営 戦 略室
ISO推進室
科
酔
科
放射線腫瘍科
放射線診断・IVR
治 験 管 理室
総 合 診 療
つくばヒト組織診断センター
保健衛生外来
遺
伝
睡眠呼吸障害
総
病院総務部
務
課
経営企画・管理課
医
事
課
医療事故とは?
医療事
医療の全過程において発生するすべての障害で、
医療過
患者・医療従事者の別、過失の有無を問わない。
(病状の悪化、転倒による怪我、アレルギーなどを含む)。
<定義上の問題点>医療現場で病状が自然に悪化することはまれで
なく、
これを事故とすると件数は膨大になる。また過誤があったとの誤解
や不信を招きやすい。
医療過誤とは?
医療従事者の過失に起因して患者に障害が発生したもの。
<定義上の問題点>過失や因果関係の判定が専門的で一般にはわか
りにくく隠蔽の伏線になってきた。
医事紛争とは?
医療事故、医療過誤であることもないことも含む医療上の紛争。
身体の障害以外に、会計・接遇・設備などが原因となる。
防ぎたいのは
1
医療事故?医療過誤?医事紛争?
医療過誤以外の医療事故
(過失がない=不可抗力が多い=防ぎにくい)
1)今は防げないもの(大きな限界)=本当は大切だが・・・
医学:加齢老衰、疾病発生
→
社会:医療過疎、医療費抑制
科学・社会の進歩
→
政策・世論
の転換
2)防ぎにくい(限界ある)がある程度は可能
転倒防止
→
転ばない、転んでも怪我しない病院にする
特異体質
→
体質を改変する、アレルギーのない薬を作
る
その他
→
故障しない機器を作る
など
防ぎたいのは
2
医療事故?医療過誤?医事紛争?
医療過誤を防ぐ
= 隠蔽を防ぐ+医療従事者の過失を防ぐ
1)隠蔽を防ぐ
インシデント等事例報告制度、安全文化を育てる社会
cf 憲法38条と免責
2)過失を防ぐ
3層の取り組み
病院:安全管理体制とルール作り
部署:専門的品質管理、構成員指導、安全確保報告
個人:事例報告、エラーの防止、3ステップ戦略(設計・防
御・情報)
防ぎたいのは
3
医療事故?医療過誤?医事紛争?
医事紛争を防ぐ
1)個人との対話:インフォームドコンセント
情報(病状/医療行為/利益と不利益)、選択、期待の適正化
2)社会との対話
損害補償、医療裁判、メディエーション(対話による合意形
成)
<受診者>
<医療者>
真相を知りたい
原因を究明したい
二度と起こさないで
再発防止したい
誠意ある対応と謝罪
適切な謝罪と対応
医療事故民事訴訟新受件数(最高裁調べ)
医療裁判の問題点
1
真の原因究明が行われず、再発防止につながらない
過失の有無だけが救済に連動するため、もっぱら個人の過失が議論される。真の原因究明が
行われないと、真の再発防止につながらない。
2
医療全体が歪み、国民全体の不利益になる
リスクを避ける防御的医療が敷衍し、治癒の機会が失われる。救急・産科・小児科・ 外科分野
などで医師が欠落、または専門的技術が後継されず国民全体の不利益が生じている。
3
事故隠蔽や黙秘戦術が促進する
裁判は証拠主義であり、とりわけ高度に専門的な領域では黙秘が戦術になり得る。法廷闘争
のために真実解明や防止策作成が遅れることは公共の利益に反する。
4
当事者間の感情的対立が激化する
法廷戦術を駆使した応酬が続き、互いの信頼関係が回復することは期待できない。その結果
判決結果に関わらず被害者の満足度が低い。
筑波大学附属病院の医療安全管理システ
病院リスクマネージメント委員会
病院長、手術部長、放射線部長、医療情報部長、
臨床医学系教員4名、臨床医療管理部2名、
薬剤部長、看護部長、看護師長(専任SRM)、病院部長
1)医療安全管理の体制、指針の作成/見直し
2)医療事故に係る対応/分析、改善策の立案/実施
体制・方
安全確保状況
報告
病
インシデン
ト ・オカレン
ス報告
全職員
臨床医療管理部
部長、部員、看護師長(専任SRM)、専門事務職員
1)医療安全管理の調査、指針の作成/実施
2)医療事故に係る分析/支援、改善策の立案/実
組織リスクマネージメント
すべての部署(診療グループ、部、室、課)にリスクマネー
ジャーを置く。52組織。
1)医療安全に関する業務の点検、構成員に対する指導
2)医療事故防止策および安全確保状況報告書の作成
個人リスクマネージメン
病院内の事例のうち、人身の安全に悪影響を及ぼす恐れがあるもののうち、
インシデント:実際には人身の安全が保たれたもの、オカレンス:別に定めるもの
1)職員はインシデントを報告するよう努めなければならない。
2)オカレンスを報告することは職員の義務とする。
3)オカレンスのうち死亡などの重要な事例は管理者に直ちに電話等で報告する。
4)本報告は医療事故を防止する目的のみに使用し人事考課等に用いない。
インシデント・オカレンス報告制度(全職員)
[ No Name ]
報告制度の目的は、病院診療の安全レベルを向上させることと、問題が
あるときは問題を病院一丸となって解決する態勢を迅速につくることです。
この目的を考えれば、報告する者に制限はありません。もちろん事案の状
況を詳しく知る人がもっとも望ましいと言えますが、問題点に気がついた
人ならどなたでも結構です。同じ事案に対して異なる部門の方が異なる視
点から問題点を指摘してくださるのも歓迎します。
報告制度は病院診療の安全レベルを向上させるためのシステムであり、
報告は病院の安全に対する貢献です。報告者に不利な処遇をすることは決
してありません。臨床医療管理部では、これをさらに徹底させ、資料の流
用を将来的に防ぐため、事案解析後に資料を「no name(固有名詞が記載
れていない状態)」にしています。
インシデント等事例報告総数と研修受講者数
報告総数と研修受講者数
3000
2500
総数(件)
研修受講者数(人)
2000
1500
1000
500
0
1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
<行為分類>
<業務分類>
転倒転落
システム、
連携、環境
その他
誤薬
確認
検査
医療行為
機器
技術
<発生場所>
病棟
手術室
外来
その他
説明
判断 観察
<影響度>
不適合なし
不適合あり
影響なし
死亡・後遺症
治療を要した
報告内容のうちわけ
簡単な処置
観察
医療事故の類型
(1)手術
a)難しい手術・放射線治療: 全身状態が悪い、重要臓器の近傍、・・
b)予期しない経過:
感染、出血、血栓、・・
c)主病以外の問題:
取違え、ガーゼ、体位、・・
(2)手術以外
a) 穿刺やカテーテル挿入:
心嚢、体腔、血管、気管、消化管、・・
b) 難しい病態や予期しない経過:
大動脈解離、心筋炎、肺塞栓、・・
c) 薬物:
とくに抗癌、強心、麻酔、鎮静、抗血栓薬
d)機器:
とくに人工呼吸器、モニターアラームの管理
fail safe/soft
故障(失敗)するという前提のもとに、故障が発生したときに安全側に導く設計。
踏み切りや信号など停止安全に応用できるが、機能停止できない状況では困難。
fail soft では重要な機能を残しながら柔らかく徐々に着地させる(例 人間)。
fault tolerance>avoidance/masking
故障(失敗)するという前提のもとに、正常時には不要な冗長化(多重性)を組み込み、
失敗を大事に結びつけない。複数エンジン、補助者、チーム医療、合議など。
fault avoidance では完全回避をめざすが、コストまたは masking の問題が生じる。
fool proof
人は間違うという前提のもとに、間違った行為を受け付けない設計。
IT化で実現しやすい。薬の量や併用禁忌、誤接続の防止に応用されている。
ただし理由を明示しないといけない、人間はfoolでなくあきらめないので。
医療を行う人・受ける人へ
よい医療を実現するために
(1)生・病・老・死をよく知る
(2)危険を乗り越えた先に利益があることを
知る
参考文献
1)
生・病・老・死を考える15章
庄司進一編著
朝日新聞社
2)
Harvard Medical Practice Study (1984年, 3万人/51病院)
入院中に医療的処置によって生じた有害事象(入院期間延長、障害をもって
退院)は、3.7%
(死亡0.5%、後遺症0.1%)
目標は事故防止ではなく、よい品質の医療
よ
い
高いQOL
高い生存率
品
質
適切な目標
実施
目標達成
適切な診断
病状把握
説明
説明不足
合併症
転倒転落
エラー
技術の不足
わる
い
医療過誤
予想外の出来事
誤薬
機器の不具合
医療過疎
行政処分
医療裁判