国産材の現況・・・製材革命前夜

国産材の現況・・・製材革命前夜
梶原康太郎
1.はじめに
国産材製材には、今注文が殺到して対処出来ない異常な状態が続いており、長く厳し
かった不況の闇に、ようやく曙光が見えて来た感がする。世界的な木材需給の不均衡(供
給不足)の拡大に刺激された世界的な木材価格の高騰によるものだが、取り分け輸入材
製材のこれまでの圧倒的な競争力(低価格・大量安定供給神話)に黄信号が点り始めた
のが直接の原因である。
これに対し、国産材は総量では 40 億㎥、人工林でさえ 23 億㎥を超え、自給に耐え
られる蓄積量にまで充実し、国産材に対する内外の期待も急速に高まって来た。
こうした期待に応えるべく、近年林業・製材共に技術革新への関心(理解)が高まる
と同時に、供給力の強化に対する行政の支援も多様化して来た。
このように、国産材復権に向けた環境は整って来たにも拘らず、実際の対応において
は、官民共に未だ危機感に乏しく、改革の速度は極めて遅い。適切な対応が遅れると、
充実した資源の活用に道を拓く絶好のチャンスを失いかねない。しかし極最近、林業(素
材生産)、国産材製材共に、画期的な成果を挙げる革新的な事例も見られ始めた。こう
した革新的な先進事例の普及を促す環境整備が急がれる。
2.世界的な木材需給不均衡(供給不足)拡大
輸入材(欧州材)の低価格・安定供給神話に陰り
昨年来、国産材製材に注文が殺到する異常な事態が起きている。輸入材製品の高騰が
引き金だが、このような異常事態は 1993 年のウッドショック以来だ。低価格で希望通
りの数量が安定的に確保できると信じられて来た欧州材製材は、2005 年以降一転急騰
に転じた。欧州勢は、欧州域内その他中東、アフリカ等世界的な需要の拡大、及びユー
ロ高を背景に、価格・品質ともに厳しく魅力の薄れた対日輸出に対しては、シェア重視
から利益確保への戦略に転じた。ホワイトウッド(WW)集成材ラミナ価格は、2004
年頃までは、ほぼ 31,000~32,000 円/㎥で安定していた。しかし、2005 年以降上昇に
転じ、最近では大幅なユーロ高もあり 60,000 円/㎥を越す原価に付き始めている。原木
価格では、針葉樹合板の主原料とされてきた NZ・ラジアータ松、ロシア・カラマツが
現状ではそれぞれ 20,000 円/㎥前後まで、数年前の 2 倍以上にまで高騰してきた。
丸太、
製品共に「低価格・安定供給」神話が通じない転機を迎えたと言えよう。
このような輸入材価格の高騰にも拘らず、低迷を続けて来た国産材丸太にも、昨年来
1
ようやく価格に変化が見られはじめた。特にスギ曲材に値上がりが顕著であったが、本
年に入り各地で全面高となり、地域によっては市場の平均価格にも 20%近い上昇も見
られた。しかし、曲材丸太価格はじり高が続いているものの、直材とくに尺上大径材等
は、既に値下がりに転じており、全般的な値上がりが一過性の感さえ受ける。B・C 材
込み曲材は、カラマツ等輸入材の大幅な値上がりが収まらない関係から、じり高を続け
工場着 12,000 円/㎥レベルに至っている。しかし、国産材製材には、この度の様な急激
なKD材の大量の注文に応えるだけの供給力が備わっていない。それ故稼働時間の延長
等グリーン材の供給で対応して来たのが実情で、大径材主体の丸太の急激な値上がりの
背景でもあったと見られる。
ユーザーの要求はKD材
しかし既に輸入製品の内、入荷が絞られていた米松再割用原板等も、数量・価格とも
に緩んで来ており、2x4 部材に特に顕著だ。一昨年までの世界的な高騰劇の主役を演
じた中国とアメリカの内、アメリカの住宅バブルの崩壊で、アメリカ国内のランバーマ
ーケットの下落が続いている。急激な値上がりを見たスギ丸太への引き合いも落ち着き
を見せ始めているようだ。こうした短い間に起こった激しい変化を見ても、市場が求め
ているのは精度の高い KD 材、或いは集成材等、高性能資材であって、安いグリーン材
でも良いと言う訳では決してないと言うことだ。結局値段は高くとも、集成材や輸入
KD 材に戻らざるを得ない。即ち国産材の供給力の脆弱性が改めて証明される結果とな
った。価格の高騰で競争力が落ちたと言われながら、欧州材の入荷量は 2006 年には過
去最大を記録しているのである。従って、グリーン材に逃げ道を求めた製材やビルダー
は、過去に何度も同じ過ちを繰り返して来たと同様、再び信用を失墜し兼ねない。最終
ユーザー(施主)の利益に背を向けては生き残れないことは、KD に徹した欧州材、集
成材の急速な侵攻で身を持って経験済みのはずだが、それにも拘らず国産材業界は再び
同じ過ちを犯そうとしている。供給不足とは言え、現状はまだ海外から木材製品の輸入
が途絶えるほど、需給が逼迫しているわけではない。国産材も、あくまでも国際商品の
一つに過ぎず、
「価格」
「品質=KD」
「供給力」で国際競争力を確保しない限り、国内で
のシェアを挽回することは出来ない。現状の木材流通では、KD と言う「品質性能」は
「価格」
「供給力」にも増して重要視される傾向にあり、それ故に KD 材供給能力に欠
ける製材工場は、存在意義そのものが問われて来たはずだ。多少安くとも、施主が好ん
でグリーン材を求めているわけではない。精度の高い KD 材であれば、売る苦労が全く
必要がないほど強烈な追い風が吹いている今こそ、国産材復権のまたとないチャンスと
言える。しかし、グリーン材で逃げるようなその場限りの不適切な対応を続ける限り、
チャンスは捉えられないだろう。
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大規模製材の登場は時代の要請
然しながら、周知の通り一部の製材に、最近こうした状況を変えようとする動きも見
られる。伊万里に集成材ラミナ専門の大規模製材を立ち上げた中国木材は、伊万里での
増設に加え、次に宮崎県日向市(細島)に年間 30 万㎥規模の製材建設計画を表明して
いる。銘建工業も熊本進出計画を進めており、集成材製造に進出した宮崎の吉田産業で
も、曲材丸太の大量消費が始まっている。その他鹿児島や大分でも同様の計画が聞かれ
る。これらの製材が、曲材丸太を利用しながら、輸入材に対する国際競争力の確保を視
野に入れた、劇的な低コスト製材に踏み込んでくるだろうとは容易に想像がつく。その
事は、大局的に見れば生産の停滞が続く我が国林業の再生、復活にとって極めて望まし
いことは言うまでも無い。それにも拘らず、日向市の地元業界からは、進出に対し猛烈
な反対運動が起こっているのも周知の通り。理由は、①丸太の獲得競争が激化し、小規
模な地元製材は丸太の確保が困難になること。更には②大量の丸太消費が始まれば、伐
採跡地の再植林が追いつかず森林崩壊を助長しかねない等環境への悪化を掲げている。
しかしその反論はあまりにも時代錯誤と言わざるを得ないのではないか。製材の国際競
争力確立は時代の要請であり、大規模製材の登場は当然の帰結と言うべきだ。更に下記
に述べる間伐施業の事例等、革新的な施業システムが普及すれば、最近九州等で見かけ
る再植林を放棄した皆伐施業なども、今後は見直されるのではないだろうか。
国産材資源の充実・・自給可能な蓄積量
我が国の人工林資源は成熟度を高め昭和 57 年の 10 億 5 千万㎥から 20 年後の平成
14 年には 2.3 倍の 23 億 3 千万㎥にまで増えてきた。2,500 万 ha の森林全体では蓄積
量は 40 億㎥を超え蓄積量は増大し、しかも高樹齢・大径材化が進んでいる。これに対
し生産量は年間 1,800 万㎥、全蓄積量に対しては 0.45%、人工林蓄積量に対してさえ
も 0.77%と 1%にも届かぬ極めて低い利用率だ。ドイツでは森林面積 1,000 万 ha から
の年間生産量が 5,000 万㎥もあり、将来 8,000 万㎥まで増産する計画だと聞く。ドイツ
では平均的に 120 年伐期で年生長量は 10 ㎥/ha とされている。日本でも長伐期択伐施
業方式が定着を見れば、ドイツ同様人工林の年間生長量は 10 ㎥/ha とみなして良いの
ではないかと言われ始めている。即ち、我が国の人工林も、近い将来ドイツ同様 5,000
~6,000 万㎥の生産余力を持つと見てよいのではないだろうか。諸外国の生産実績に対
し我が国の現状はあまりにも貧弱すぎると言わざるを得ない。
我が国人工林資源の推移
面積(千 ha)
蓄積量(千㎥)
昭和 37 年
6,738
559,840
昭和 57 年
9,847
1,049,666
平成 14 年
10,318
2,330,644
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革命的な低コスト素材生産システムの登場
既に上記の蓄積量を誇る我が国では、現状でも年間 5,000~6,000 万㎥の木材生産が
実行されて当然で、そのレベルの生産であれば蓄積量はなお増大が続くと見られる。九
州地域で現状の生産量の上に年間 100 万㎥程度増産されても、対策を誤らなければ、
危惧されるような森林荒廃が起こる心配はない。例えば、下記に登場する兵庫県の素材
生産業者(Y 木材)の場合、宮崎県の業者が反対運動で指摘するような皆伐施業は全く
行わず、全て間伐である。林内作業車道を 4~5mとかなり広く取り、密度も 200m/ha
前後と作業道の占める面積比率もかなり高い。しかし山主は間伐でも実質手取りが 100
万円/ha 前後保証され、同時に幅の広い機能的な作業道の開設により、将来長期に渡り
継続して低コストで安定的に間伐(択伐)収入が得られるため、皆伐を希望する者は居
ないと言い、この会社では 10 年後まで間伐施業の予約で満杯と聞く。即ち、宮崎でも
こうした施業方式の普及が望まれる訳であるが、実際にY木材方式の普及が進むと、む
しろ森林の適正な整備が促進され、森林の荒廃は逆に予防されるはずだ。
林業経営改善の鍵は「作業道整備」と「曲材利用」
最近大規模に皆伐された跡地の、再植林放棄による森林荒廃がクローズアップされて
いる。最近の丸太高騰が原因だと言われる。価格が高騰した今をチャンスと皆伐で一気
に収穫してしまうのが得策と考えているのであろうが、再植林放棄は許されるべきもの
ではない。むしろ、Y 木材方式(Y 木材に限らず、大型フォワーダの走行可能な 3m幅
の作業車道を 200m/ha 程度の密度で開設して生産性を上げている業者は全国的に増え
ている)に見られる如く、機能的な作業車道を確保した上での間伐(強度間伐)の場合、
十分な間伐収入が確保される上に、育林費用が極めて軽微で済み、しかも、長期にわた
り択伐収入が確保されるため、皆伐に比べはるかに有利になるはずだ。こうした施業方
式が普及すれば、木材生産の拡大による森林崩壊の危惧は杞憂となろう。
我が国の森林は①急峻であり②小規模零細であり③労働力不足が進み、全く儲からな
いお荷物だと言われ、際限なく補助金が投入されて来た(地域により格差が見られるが、
現状は概ね 30 万円/ha 程度)。しかし、実情はほとんど改善されていない。然し、Y木
材方式では、我が国林業の決定的な隘路と言われてきた諸問題を難なく乗り越えて、現
実に革命的な成果を上げている。
Y 木材では・・・5 人チームで 1 日 100 ㎥を出材。1 人 1 日 20 ㎥、年間出材量 5,000
㎥。4 チームで年間生産量 100,000 ㎥。1 ㎥当り伐出作業代 6,000 円。間伐補助金や作
業道開設補助金等は全て山主の収入となっている。山主の収入は 1 ヘクタール当り 100
万円前後となるため、10 年先まで施業の予約で詰まっていると言う。若い従業員には
年俸 600 万円が支給されている。基本的に施業は全て間伐であり、皆伐は行わないと
言う。林内の作業車道は 4~5m幅、ヘクタール当り約 200mの密度。施業規模は最低
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限 30~50ha 程度の団地化が必要だが、実際には 100 万円/ha 前後の収入が魅力で、団
地化を進める上で山主の合意を得るのは比較的容易だと聞く。
合板工場では曲材の曲規格は矢高 2%未満である。曲規格の緩和によって、生産比率
は平均 25%以上アップ(九州森林管理局の実績)しており、これが山主の実質収入の
増大に大きく寄与しているのは疑いない事実。
尤も、継続的な生産に適しない保安林や水源林等の環境保全林と、生産適地とは峻別
して扱う対策が必要であろう。
3m幅 作業車道‐(1)
3m幅
8tフォワーダ
プロセッサ
作業車道‐(2)
受け皿整備が林業改革の必須条件
こうした生産がスムースに進むためには、受入を制限しない安定した受け皿の存在が
不可欠だ。兵庫県は裏日本に林ベニア等大型の針葉樹合板工場が控えており、全国的に
合板工場のスギ曲材使用量は急速に増加している。即ちこれまでは、例えば大規模な製
材を計画する場合、丸太の安定確保に対する不安が主要な懸念材料であったが、実は信
頼出来る大規模な受け皿が備わると、必要な丸太の供給は付随して実現されると言う、
Y 木材の事例は将にその実証事例と言えるだろう。
新生産システムでは、丸太の供給体制の整備に補助金が投入されて、各地で対策が進
められているが、実際にはまだ具体的な成果はあまり聞かれない。それは、ほとんどの
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場合、受け皿整備と言う基本的な条件が欠落したまま進めようとされているからだ。森
林整備を急がねばならない我が国では、何よりも先ず受け皿の確立が先行されるべきだ。
Y 木材の事例は必ずしも特異ではなく、作業道の幅も 3m程度で、高い作業性を発揮す
る事例は他にも見られる上に、特に高額の投資も必要としない。必要とされるのは大規
模な受け皿の存在と革新的な経営理念だ。こうした革新的な素材生産システムに対する
理解の広がりが、儲からない、お荷物だと言われて来た林業を、儲かる林業へと変えて
行く林業革命に繋がるのであろうと期待される。未整備林を解消し、飛躍的な生産拡大
を実現する上での、最も現実的且つ効果的な戦略と言えるのではないだろうか。
製材にも技術革新の流れが
林業にこうした革命的な改革が見られ始めたのと呼応して、製材にも革命的な動きが
見られ始めた。一例が宮崎県の Y 産業。ここでは既存の国産製材機械のラインに、ア
メリカ製の「曲/カーブ」製材システムと「高速ボードエッジャー」を導入し、曲材の
効率的利用に加え、従来と比べ飛躍的な生産性の向上に挑戦している。
外材製材では、中国木材(株)の新しい関東工場(米松)、
(株)オービスの兵庫工場
(ラジエーターパイン)が、欧米型の革新的製材システムで統一された製材工場として
近く登場する。Y 産業のように海外の革新的製材装置を一部採用した製材に加え、上記
の中国木材、オービス等欧米の革新的製材システムを全面的に取り入れた製材の稼動状
況が公開されることになれば、我が国国産材製材も一気に方向転換を迫られるのは間違
いない。
コスト競争力を付けた大規模製材が、高値で原料の安定確保に動くのは避けられない
ことだ。劇的なコスト縮減を果たした大規模製材、或いは合板工場等の出現を契機に、
林業(丸太の供給システム)や、丸太に対する評価等にも大きな変化(曲材や大経材の
価格訂正)が現れており、その流れは特に九州地域で顕著に見られる。「出荷者に魅力
の乏しい原木市場には丸太が集まらず、価格に追随出来ない製材工場は丸太が確保でき
ない」。そういう事態の到来が目前に迫っていると見るべきであろう。
森林が本来の多面的な機能を発揮する上で、必要とされる規模の森林整備を実行する
には、木材の生産量は、現在の生産量の少なくとも 3 倍以上必要であろう。それは中国
木材の日向進出で驚くような些細なレベルには止まらない。中国木材の日向市(細島)
進出計画に対し、地元業界で起こっている猛烈な反対運動は、欧米に 10 数年遅れて日
本にも訪れた将に製材革命の嵐を予感させる。
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3.欧米に於ける製材革命
1990 年台は欧米、特に欧州(北欧)で激しい製材革命の嵐が吹き荒れた 10 年だった。
曲/カーブ製材システムの登場、高性能スキャナーの開発、シャープチェーン等ワンウ
エイ方式による高能率送材システムの進歩等々、製材の大規模工業化を促す様々な革新
的技術の開発が一気に進んだ時代であった。こうした技術革新の成果は、次の 3 点に集
約されよう。
①生産性が劇的に向上・・・生産量は 1/10 の人数で 5~10 倍にもなり、一人当たりの
労働生産性はそれまでの 50~100 倍にも向上。
②付加価値歩留りの飛躍的向上・・・高性能なスキャナーの進歩による、驚異的なスピ
ードと価値歩留りの向上。
③低質(小径木、曲材)材の効率的利用・・・資源問題と環境問題を同時に解決。
技術革新によってもたらされた製材革命が、如何に凄まじい過酷なものであったかは、
フィンランドに例を取れば、製材工場数が 1990 年代の 10 年間で 1/50(現材は大小併
せて約 200 工場)にまで激減した事実からも窺われる。
生産性が 50~100 倍も高まるとなれば、新しい技術革新に踏み切るか、撤退するか
の 2 者択一を迫られたことは想像に難くない。2004 年に北欧の製材を視察した際には、
2000 年にようやく新システムに移行したと言う製材にも数社訪れたが、その時点でフ
ィンランドでは、旧式のシステムの稼動は全く見られない状況だった。尤も、主伐期が
120 年程度に伸び,長伐期択伐施業方式が定着し、高樹齢材の出材比率が高いドイツで
は、技術革新前の非能率的な「オサ鋸」が、「小規模付加価値追求型製材」としてまだ
現役で頑張っている製材も見られるようだが、丸太の成長が遅い北欧では、技術革新は
既に 2000 年以前にほとんど終わっていた。
北欧から我が国への製品輸入が始まった 1993 年は、将にウッドショックが始まった
年だが、KD 材の低コスト大量供給を武器に、極めて短期間の内に日本の市場を席巻し
た背景は,技術革新の成果であったと言って過言ではない。1990 以降に本格的に起こ
った技術革新の結果、欧州の製材は劇的な製材コストの削減に成功を収めた。上述の如
く、50~100 倍と言う驚異的な生産性の向上に加え、それまではチップ・パルプ材とさ
れていた低質材(小径木・曲材)の製材利用よって、原材料コストの低減にも成功して
いたからである。この時期に、日本ではウッドショックによる木材価格の高騰に加え、
阪神淡路大震災における木造住宅倒壊の教訓等から、KD 材・集成材等高性能資材への
ニーズが高まっていた。しかし、そうしたニーズに対し、日本の製材工場経営者は極め
て鈍感で、本格的な製材のコストダウンや、KD への取り組みに対しても非常に消極的
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であった。それ故技術革新を進め国際競争力を飛躍的に高めた欧州材にとって、KD 材
ニーズが高まりつつあった日本の市場は、又とない魅力的な市場だったのである。
競争力格差の源は「製造コスト格差」
欧州材が急速に圧倒的な低価格を武器に日本に上陸し始めた当時、欧州材と国産材と
の製品価格差の原因は、原木価格の差に帰せられるのが常であった。事実、1995~1996
年当時では、スギ直材丸太の原木市場価格(17,000~18,000 円/㎥)に対し、ホワイト
ウッド(WW)の製材工場着値はスギの約 1/3(5,500~6,000 円/㎥)
、即ちスギの価格
は WW の 3 倍近くもしていたのである。B 材丸太でさえ 11,000~12,000 円/㎥で WW
の 2 倍の高値であった。それが昨今現地価格の上昇、為替の円安、スギ丸太価格の下落
から、双方とも 10,000 円/㎥前後で並ぶ状況になった(最近スギも価格訂正され 15~
20%値上がりしているが)。このように原木価格格差はほぼ解消されたにも拘らず、何
故なお製品価格差の解消が進まないのか。
その理由については、過去に繰り返し指摘して来たとおり、最大の理由は、①製材・
乾燥等の製造コストの格差の是正が進まないことによるものだ。更に日本では、②原木
市場を経由することで発生する流通経費増。低質曲材の有効利用が進まないために生じ
る実質的価格上昇等の未解決の課題もある。
欧州材製品は、日本への輸入製品(集成材ラミナ、間柱、再割用原板、2x4 部材)
を見ても分るとおり、基本的には板挽き製材である。従って丸太は直材、曲材と区別さ
れず混合状態で利用される。価格も当然直・曲込みで決められるため、原状でもスギ直
材丸太は WW 丸太価格に比べると居所は高い。スギも直・曲材込みで板挽きできれば、
WW 並に原木コストは下げられるが、それには「曲/カーブ」製材が可能な製材装置の
採用が不可欠である(欧米の装置には、
「曲挽き」
「直線挽き」変換機能が備わっており、
曲挽き機能による板挽きのみではなく、直線精度を重視する「柱」や「桁」の直線挽き
製材も可能)
。
技術革新で製品原価は 1/2 に
通常 3 万㎥規模の製材では、製材コスト、乾燥加工コストともにかなり合理化の進ん
だ製材で 7,000 円/㎥(製材コストは原木ベース、乾燥加工コストは製品ベース)前後
であろう。これに対し欧州の大規模製材では、何れも 2,000 円/㎥前後である。製材コ
スト、乾燥加工コストに其々5,000 円/㎥のコスト差が付けば、製品原価でどれほどの格
差となるかと言えば、(10,000 円/㎥の丸太で板挽きした場合の主製品原価)53,000:
32,000、即ち格差は 21,000 円/㎥になる。更に曲材が利用出来ない工場では、原木価格
差が、この上に更に製品原価に加算されほぼ 2:1 となる。即ち輸入材に対抗するには、
国産材製材も、輸入材に比肩出来るだけの製造(製材・乾燥)のコスト競争力を持たね
ばならないということだ。
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製材淘汰は目前
欧州の大規模と言われる範疇に入る製材は、概ね 1 シフト 20~40 万㎥(原木ベース)
で、通常2乃至 3 シフト操業で徹底的にコスト縮減を追及している。我が国の場合、原
料の供給システムが未整備であり、1 工場 30 万㎥が現状では最大と考えられる。従っ
て量の面では欧州の製材にコスト縮減効果は劣るが、しかし、一方我が国では、国産材
大規模製材計画に対しては 1/2~1/3 の補助制度があり、これの活用によって量的ハン
ディキャップが補える利点に恵まれている。こうしたメリットを生かせば、欧州の製材
に近い、現状と比べれば将に劇的なレベルへのコスト縮減も夢ではない。
欧州の製材が、技術革新を契機に、製材革命を体験したと同様、国産材製材の世界で
も、欧米型の革新的製材システムを採用するか否かの二者択一の選択に、躊躇を許され
ない時代が到来しつつあると見て良いだろう。
製材革命に伴う木材の生産拡大が、我が国の森林自然環境の保全に果たす貢献度の大
きさを考慮するならば、厳しくとも技術革新、製材革命を覚悟すべきだ。
4.国産材製材の動向
数年前より見られ始めた国産材製材の規模拡大傾向は、最近一段と活発になってきた
上に、規模も 10 万㎥を超える計画が珍しくない。これらの製材では、輸入材との直接
対決(国産材のシェア拡大)を鮮明に打ち出しており、積極的な技術革新への取り組み
が特徴的だ。一方 2~3 万㎥規模から 2 倍程度への拡張を目指す製材も多く見られる。
特にこの度の国産材志向の高まりからこの傾向に拍車が掛かったかに見える。しかし、
これらの製材では、生産量(供給量)の増加にもかかわらず、コスト縮減にはあまり効
果が見られないのが問題だ。同時にこれらの製材では、一般的に乾燥装置の整備にまで
は手が回らないのが実情だ。しかし、乾燥能力を持たない製材が、今後もこれまで同様
製材経営を続けられると言う保証は無い。
乾燥がきめ手
10 万㎥を越す大規模製材では、乾燥材出荷が基本的なスタンスだ。現在 WW 集成材
管柱が 75,000 円/㎥に対し、スギ KD 管柱は精々53,000 円/㎥。間柱でも WW の輸入コ
ストが 60,000 円/㎥を超えようとしているのに対し、スギ芯去り KD 間柱が同じく
53,000~55,000 円/㎥と、WW に対するスギの価格差は余りにも大きい。この最も大き
な理由として指摘されるのが、①品質のばらつき(含水率基準の不統一)と、②供給力
不足である。
JAS にも、製材の乾燥材規格は規定されているが、現実の流通材の含水率は、個々
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の製材毎に異なり、JAS とは無関係に流通しているのが実態である。実質的には乾燥
精度の低い製品に偏る傾向が強く、ユーザーの不信を買う要因となっている。規格が統
一されている欧州材或いは集成材との大きな価格差を生む最大の理由である。欧州材や
集成材の急速なシェア拡大の秘密は、統一された規格材の大量安定供給にあった。乾燥
能力を備えた大規模製材の登場を機に、含水率基準もより需要の実体に沿った、全国統
一基準による流通に変革が進むと見て間違いなかろう。製材工場、地域を問わず、同一
製品に対し同一の基準が設定されなければ、高規格・高性能資材としての流通は期待で
きない。国産材 KD 製品の需要拡大には、避けては通れない課題である。そういう事態
になれば(欧州は現実にそういう状態である)、乾燥能力を持たない製材は、製材とし
て機能し得なくなるのは明らか。
希薄な危機感
それにも拘らず抜本的な改革が実行できない理由はなんなのか。一つは過大な設備投
資に対する逡巡であろう。製品は全て乾燥材を基本にすれば、乾燥及び乾燥材加工施設
に対する投資も膨大となる上、広大な用地も必要となる。革新的な製材設備まで加えた
膨大な投資総額に対する抵抗感を払拭するには、我が国では残念ながら、まだかなり時
間が掛かりそうに思える。それに今ひとつは、危機感の不足にあると言えるだろう。
2006 年の欧州材の輸入量は、大方の予測を裏切り、過去最高を記録した。輸入材の全
般的な値上がり、円安の進行、運送費の値上がり等々コスト高要因が重なり、それにつ
れて輸入材、特に欧州材の輸入量は減ると見られていた。しかし、現実は予想に反して
欧州材は過去最高の輸入量を記録する結果となった。これは何を意味するのか。結局は、
KD 材等高性能資材については、値段は高くとも欧州材に依存しなければ、安定確保が
得られないのが実情であり、国産材製材の供給力の脆弱性を裏付けたに他ならない。
グリーン材時代の終焉
多くの中・小規模国産材製材及びそれらの製材との繋がりが濃いい地域ビルダー等は、
この度の高騰劇も、グリーン材対応で凌いだようだが、最終需要家の立場は全く考慮さ
れていない。最終消費者の側に立つ意識が希薄なビルダーは、何れ消費者から見放され
るのは自明であり、KD 対応が出来ない製材も同様と思わなければならない。欧州でも
小規模な製材も存在はするが、KD施設と製材施設は一体なのである。それが製材の辿
る道であり、我が国でもその方向性がかなりはっきりとして来た事情は、最近の乾燥材
指向の高まりから理解は進んでいるはずだが、それにも拘らず、グリーン材製材から脱
却できず、劇的な製材コスト縮減に躊躇するのは、いまだ危機感が希薄な証と言わざる
を得ない。
近年、顕著な製材工場数減少の主要な原因にも、乾燥材需要への対応力の不備が指摘
されてきた。乾燥施設を兼備する大規模製材の増加が、今後製材の淘汰を一層加速する
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ことになるのは間違いないだろう。
KD 材需要の増加に対応するために、製材のコスト縮減は後回しで、乾燥施設の増設
に走る傾向にも疑問を呈さざるを得ない。輸入材との競争要因は「乾燥」のみではない。
「精度の高い乾燥」と言う品質性能は、「低価格」「高性能」「供給安定性」と言う競争
力 3 要素の中の一つであり、価格や供給力で競争する以前の基本的要素であって、国産
材の KD 製品だからと言うだけで、選択的に採用されるわけではない。
「低価格」の条
件も備えなければならないのは当然である。即ち、単なる KD 材製品ではなく、
「安く
て精度の高い KD 材製品」でなければならない。即ち、乾燥前の製品原価自体も下げな
ければ意味を成さないのであり、製材コスト削減と一体での乾燥能力の増強でなければ
ならないことは言うまでもないだろう。個々で留意すべきは、乾燥の低コスト化におい
ても、大規模の効果は無視できないことだ。
平均的な規模(115 ㎡)の木造住宅に使用する木材量を 20 ㎥に置いた場合、構造材
は基本的に KD 材或いは集成材が使用されており、グリーン材を使用する場合でも羽柄
材を中心に約 5~7 ㎥程度であろう。仮に 7 ㎥として、グリーンと KD の価格差は、7
×15,000 即ち約 10 万円程度である。2,000 万円以上の住宅購入金額にとって、10 万円
程度の負担増であれば、KD 材使用を選択するのが施主の常識であろう。それにも拘ら
ずグリーン材の使用が続くのは、今なお使用木質部材に関して、多くの施主が情報開示
をまったく受けていない結果である。しかし、この傾向はかなり改善が進んでおり、近
い将来に訪れるであろう住宅着工戸数の減退期に入る頃には、グリーン材は欧州同様、
建築材としては流通し得なくなっているだろうと考えられる。日本の木造住宅の耐用年
数も、欧米のレベル即ち 70 年以上に伸ばし、住宅の資産価値が年数の経過とともに落
ちない方向へ舵を切り直さねばならないとの共通認識が、我が国でも広がりを見せ始め
ている。税法上の耐用年数は木造住宅では 20~22 年、鉄筋コンクリートでも 47 年で
ある。日本では築 30 年以上ともなれば、中古住宅の販売価格は土地の評価額のみで建
物の評価はゼロに近い。このような不合理を是正する対策の一環としても、KD 材の供
給能力を早急に高めねばならないのは言うまでもない。ただその場合、何度も繰り返す
が、トータルコストで輸入材に対する国際競争力を付けなければ、国産材のシェア回復
は望みが薄いことを認識せねばならないと言うことだ。
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住宅の寿命
住宅総戸数①
平均新築戸数
寿命の目安
ア メ リ カ
124,377,000②
1,753,750⑤
70.9 年
イ ギ リ ス
25,617,000
179,300
⑥
142.9 年
フ ラ ン ス
29,495,000③
322,000⑥
91.6 年
ド
ツ
38,924,800③
276,100⑥
141.0 年
本
53,890,900
イ
日
③
1,200,095
④
資料:①賃貸用・二次的住宅・空き家を含む
44.9 年
⑦
②AMERICAN HOUSING
③国連欧州経済委員会(02 年)、④総務省(05 年)、⑤AMERICAN
SURVEY(05 年)
HOUSIG
SURVEY(02~05 年の
年平均)、⑥国連欧州経済委員会(01~02 年の年平均)、⑦国土交通省(01~06 年の年平均)
住宅寿命の算定方法:住宅総戸数を新築戸数の新築戸数の年平均で割り算出。日本の場合、単純計算で 44.9
年で全ての住宅が新しいものになる。
(出典:NEWSWEEK 日本版 2007/3/14 P-46)
参考までに 1 戸当りの平均床面積と中古住宅流通量の割合を以下に示す。欧州各国と
比べると、日本の住宅の現状はかつて言われたような「ウサギ小屋」ではない。しかし、
中古住宅の流通量の割合が、欧米レベルまで高まらなければ、生活に余裕は生まれない。
特に、食料・エネルギー等生活を支える基盤となる資源の世界的な逼迫、価格高騰が予
測される将来、住宅に対する投資の抑制は、生活の安定化にとって避けては通れない重
要課題となるはずだ。
1 戸当り平均床面積(㎡)
アメリカ(01 年) イギリス(01 年) フランス(02 年) ドイツ(02 年)
162
87
90
90
日本(03 年)
94.85
資料:総務省統計局
中古住宅流通量の割合(%)
アメリカ
イギリス
フランス
日本
77
86
71
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資料:国土交通省「社会資本整備審議会資料」
数字は、全住宅取引量(新設住宅着工戸数+中古住宅取引数)に占める中古住宅流通量の割合
高樹齢・大径材比率が高まる
下記の数値は、九州大分県の或る原木市場(U‐共販所)に於ける、H17 年の丸太の
径級別比率である。30cm 以上が 20%以上を占めるまでに大径材化は進んでいる。
1 本当り平均材積:
16cm 以下:30%
H15(0.111 ㎥)
、H16(0.113 ㎥)
、H17(0.117 ㎥)
18cm 以上:70%(18~28cm:50%、30cm~:20%)
14~22cm:45%
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更に大分県のスギ齢級別構成表を見れば、10 年後には 50 年生以上の森林が、ほぼ
90%近くを占めることになる。高樹齢・大径材化は予想以上に進んでいる。
次の写真は末口 32cm の丸太(45 年生)の木口写真と、30cm 上材のロットの写真で
ある。60 年生では末口径は 40cm を超えてくる。これからも推測されるとおり、丸太
の大径化の進行は早い。16cm 以上の中目材製材では、1 日 2,000 本の製材でも年間 1
シフト 14~15 万㎥規模となる。
30cm 以上の丸太は、現状平角用として製材されている米松丸太と、大きさにおいて
ほとんど遜色が無い。これまで芯持ちが一般的であったスギ平角も、30cm 上の供給量
の増大によっては、芯去り製品に移行できる可能性が高まる。60 年生以上の出材量の
増加で、強度特性が高まる上に、芯を外すことによって乾燥はより容易になり、スギ丸
太の利用度が一層高まると期待される。14~22cm は、全て 3mにカットしても全量で
45%であり、柱丸太比率は地域によっては今後更に減少すると予測される。
30cm 上材ロット
末口径 32cm
大分県スギ齢級別構成表
~7齢級
8齢級
9齢級
10齢級
11齢級
12齢級~
合計
面積ha
35,101
19,589
23,718
26,051
18,850
17,472 140,781
比率%
24.9
13.9
16.9
18.5
13.4
12.4
100
材積千m3
8,531
8,509
11,250
13,672
10,600
11,364
63,926
比率%
13.3
13.3
17.6
21.4
16.6
17.8
100
愛媛県でもほぼ状況はほぼ同様であり、8年後には 95%が 50 年生以上で占められる
ことになる。
愛媛県針葉樹人工林資源
1~7 齢級
蓄積量齢級別比率
8 齢級
9 齢級
比率(%)蓄積量:1,000 ㎥
10 齢級
11 齢級
12 齢級
13 齢級~
蓄積量
1993
54.3
17.9
10.1
5.2
4.0
2.3
6.2
49,709
2005
15.2
15.7
22.0
20.9
11.4
5.4
9.4
65,647
人工林資源の 90%が 50 年生以上に達する 8 年後の木材需要は、人口減少(特に 30
歳台全般の主たる住宅取得年齢層の極度の落ち込み)
、中古住宅流通量の増加等による、
新設住宅着工戸数の大幅な減少予測からも、相当大きく減少すると想像される。逆に丸
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太は、環境保全的見地からも一段と生産拡大への要請が強まるのは必至であろう。
消費拡大・・活路は輸出
国産材製材が国内需要のみを対象にしているのであれば、丸太の消費量は、合板利用、
チップ・パルプ利用等を含めても、森林の生長量にバランスする量に届かないだろう。
輸入針葉樹丸太の多くは国産材で将来代替が進むと見られる。ロシア赤松等は、ほとん
どが建築用羽柄材製材向けであり、50 年生以上のスギ大径材で代替して差し支えない。
桁製材用の米松丸太も、60 年生以上の大径材の出材が本格化し、末口 30cm 以上の丸
太比率が 30~40%台に増えてくれば、米松丸太に十分替わり得るだろう。しかし、そ
れとても消費量は年間 300 万㎥内外に過ぎない。欧州材、北米材、ロシア材製品もト
ータル年間 800 万㎥内外であり、これらを全て国産材に切り替えたとしても、丸太換
算すれば 2,500 万㎥、現状の素材生産量 1,800 万㎥と合わせても 4,600 万㎥である。国
内での木材需要の減少を考慮すれば、海外への製品輸出が実行されない限り、国内需要
に対しては過剰となり、森林整備停滞の改善が進まない。
即ち、国産材製材の進むべき方向は、資源の生長量にバランスする量の生産を維持し
て行けるだけの製材規模を確保し、海外輸出に活路を開くに十分な国際競争力を確立す
ることだ。
国産材が、国際商品としての競争力を持つならば、国産材の展望は極めて明るい。以
下の中国の木材需給予測からも窺える通り、2015 年の中国の木材不足量は、現状の 2
倍、1 億 4,000 万㎥にも及ぶ。これは日本の年間の総需要量をはるかに凌ぐ量である。
木材不足は中国に止まらない。経済発展を続ける巨大インド、人口増が続くアメリカ
等々需要の増大に対し、供給余力を持つ木材資源国は稀であり、国産材に対する世界的
な期待は、今後益々大きくなるのは間違いない。しかし、対策を誤れば、資源の価値を
喪失しかねない危険性も孕んでいることも忘れてはならない。
中国の木材需給予測
2005 年
2015 年
生産・建築用木材需要
2 億 3,000 万㎥
3 億 3,000 万㎥
国
量
1 億 7,000 万㎥
1 億 9,000 万㎥
量
6,000 万㎥
1 億 4,000 万㎥
不
内
生
足
産
5.おわりに
国産材復権への諸条件は揃って来たが、本格的に国産材時代を根付かせる確かな処方
箋はあるのか。その一つの答えは、過酷な製材革命を潜り抜け、自信と誇りに満ちた林
業・木材産業を確立した北欧に見ることが出来るだろう。ここでは林業のデータベース
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化及びインフラの充実により、生長と生産がバランスした林業経営が定着しているが、
その背景にあるのが技術革新によって確立された「製材の国際競争力」に他ならない。
国産材産業に課された喫緊の課題が、丸太消費量の飛躍的拡大にあることは言うまで
もないが、その条件が①丸太の生産拡大と、丸太の受け皿としての②革新的大規模製材
整備である。
丸太の生産拡大に向けて、林家の生産(整備)意欲を刺激する尤も現実的な道は、
「儲
かる林業」の実現、即ち①収入を増やし、②支出を減らす以外にはない。今実行可能な
増収対策として考えられるのは、①曲材及び高樹齢・大径材の再評価と、②木材の生産
比率の向上だ(矢高 2%未満まで利用率を上げれば、生産比率が 25%前後向上)
。支出
削減対策としては、①素材生産コストの縮減、②丸太流通コストの削減等が挙げられる。
これらの対策の要となるのが、丸太の受け皿としての「競争力を持つ大規模製材」であ
る。即ち、①曲製材可能な高性能装置を装備し、②劇的な低コストを実現する技術革新
が必須である。これにより曲材・尺上大径材等の大量且つ高価格での受け入れが可能と
なり、林家収入の増大が計られる。一方、Y 木材方式に代表される革新的な素材生産シ
ステムの導入が進めば、素材生産量の拡大と共に、素材生産コストは劇的に縮小し、①
林家の支出縮減と、②林業事業体の経営の安定化(高収益)が確保され、結果的に林家
収入の劇的な改善に繋がる。同時に、施業量の拡大を通じ、素材生産事業体の経営強化
と、作業従事者の高収入も確保されるだろう。しかもこれら一連の循環は、製材コスト・
乾燥コストを劇的に縮減した「大規模製材」が実現されて始めて可能と言える。
大規模需要者の登場により、直納システムルートの拡大が既に各地で進み始めたのを
機に、原木市場或いは丸太の共販所のあり方も問われている。だが、直納システムのパ
イプが拡大しても、我が国の地理的条件や丸太の内容等を考慮すれば、原木市場の施設
や機能が全く不用になると言うことはあり得ないだろうと考えられる。ただ如何なる場
合でも、出荷者に対する魅力の濃淡によって、原木市場も出荷者から選別・選択される
時代に向かうことは間違いない。従来どおりの販売手数料や椪積料に収入を依存する方
式を続けるのみでは、時代の要請に応えられないだろう。
①
②
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写真①は間伐された九州のスギ人工林であり、写真②は長伐期択伐施業が実施されて
いる愛媛県・久万高原町のスギ人工林である。心を込めて手入れをすれば、スギ人工林
もこのような素晴らしい森林となる。人工林は将に「宝の山」である。
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