電子情報通信学会ワードテンプレート (タイトル)

社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
IEICE Technical Report
点字・指点字学習ソフトウェアの試作
安齋 誠一†
今野 博文†
村上 聡†
大内 誠‡
†東北福祉大学 〒981-8522 宮城県仙台市青葉区国見 1 丁目 8 番 1 号
E-mail: †{fj05006, fj05050,fj05114}@tfu-us.tfu.ac.jp, ‡[email protected]
あらまし 近年,盲ろう者の間で指点字が少しずつ利用されるようになってきた。指点字は,視覚障害者が使用
してきた点字の仕組みを人間の指に置き換え,リアルタイムで会話をする全く新しいコミュニケーションの手段で
ある。しかし,現在,指点字の普及はまだまだ浅いと見られている。そこで,我々は,盲ろう者をサポートする者
が指点字を学び,多くの人々に指点字を知ってもらうためのソフトウェアを開発した。このソフトウェアを用いて
学習したところ,多くの実験参加者が約1ヶ月で点字と指点字の両方を習得することが可能であった。
キーワード 盲ろう,指点字,ソフトウェア,コミュニケーション,e ラーニング
「A prototype educational software to study Braille and Finger Braille.」
Seiichi ANZAI†
Hirofumi KONNO†
Satoshi MURAKAMI†
Makoto OHUCHI‡
†TOHOKU FUKUSHI University 1-8-1 Kunimi, Aoba-ku, Sendai, 981-8522 Japan
E-mail: †{fj05006, fj05050,fj05114}@tfu-us.tfu.ac.jp, ‡[email protected]
Abstract Only very recently has it become acceptable for Deaf-Blind people to use Finger Braille. Finger Braille was
devised by applying the rule of Braille to the six fingers. This provides a new means for Deaf-Blind people to communicate in
real time. However, it seems that Finger Braille has not yet become widespread. Accordingly, the authors developed
educational software so that Deaf-Blind supporters could learn Finger Braille and so that a lot of people might know about
Finger Braille. By using the prototype software, the authors evaluated its efficiency in learning. As the result of the experiment,
most participants were able to learn both Braille and Finger Braille in about a month.
Keyword Deaf-Blind,Finger Braille,Software,Communicate,e-Learning
1. は じ め に
ケーション方法(手話,触手話,指文字,指点字,ブ
1.1. 盲 ろう者 と指 点 字 の実 態
リスタ,点字,音声,パソコン,キュードスピーチ)
盲ろう者(視覚障害と聴覚障害の重複障害者)のコ
ミュニケーション方法である「指点字」を考案したの
によるニーズの分散化.
( 2)「 身 体 障 害 者 福 祉 法 」 に お い て ,「 盲 ろ う 障 害 」
は ,現 在 東 京 大 学 教 授 で あ る 福 島 智( ふ く し ま さ と し )
に 関 す る 規 定 が 無 く ,「 盲 ろ う 」と い う 障 害 が 固 有 の 障
である.福島は後天性の盲ろう者でありながらも,指
害として認められていないと同時に,指点字などの盲
点字を使いこなし,盲ろう者として初の大学進学を成
ろう者コミュニケーションをサポートする体制が, 未
し 遂 げ た .さ ら に 2008 年 6 月 に は ,全 盲 ろ う 者 と し て
だ確立されていない.
日本初の博士号を取得した.しかし, 指点字が考案さ
( 3)日 本 の 盲 ろ う 者 2 万 2 千 人 [2]に 対 し ,何 ら か の
れ て か ら 約 27 年 が 経 過 し た 現 在 ,そ の 普 及 は ま だ 浅 い
形で地域から通訳・介助事業を受けている盲ろう者は
と 見 ら れ る .2004 年 ,社 会 福 祉 法 人 全 国 盲 ろ う 者 協 会
797 人 ( 2007 年 12 月 現 在 ) に し か 満 た な い [3]と い う
による「盲ろう者生活実態調査」からも ,指点字を使
状況から,地域との情報交流の場が閉ざされ,コミュ
用して話すことができる盲ろう者は,調査に協力した
ニケーション方法を自ら習得できない 環境に置かれて
312 人 中 37 人 ( 12% ) と 低 い 数 値 を 示 し て い る [1].
いる盲ろう者が,大勢いる可能性が高い.
情報の正確性と伝達速度において,指点字が点字や
点字タイプライター,手話よりも優れた方法と言われ
ているのにも拘らず,指点字が未だ普及されていない
事実について,そのいくつかの原因を以下に示す.
1.2. 研 究 の目 的
我々は,福島を始め全国盲ろう者協会がこれからの
課題として挙げている「通訳・介助者の育成」に着目
( 1) 盲 ろ う 者 の 種 類 ( 全 盲 ろ う , 全 盲 難 聴 , 弱 視 ろ
した.盲ろう者のコミュニケーション方法における
う,弱視難聴)と,そこから生まれる多様なコミュニ
様々なニーズから,最も新しい指点字を普及させるた
Copyright ©2009 by IEICE
め,そしてより多くの盲ろう者が介助と通訳を受けら
点字タイプライターを打つ動作と同じ指の使い方で,
れるようになるために,指点字とその基礎である点字
相手の指を打つ.指点字を受けている盲ろう者は,押
の学習ができるソフトウェアの開発を行うこととした.
された指とその指番号から当てはまる点字を頭の中で
尚,本ソフトウェアは盲ろう者自身が指点字を学習
組み立て,会話を読み取る.
するためのものではなく,健常者が将来,盲ろう者の
指点字通訳は,盲ろう者と通訳者が向き合った姿勢
指導・通訳・介助を行う上での1つの過程として指点
で 通 訳 す る 場 合( パ ー キ ン ス ブ レ ー ラ ー 型 対 面 式 )と ,
字を学習するためのものであり,指点字を習得するた
横に座って同じ方向を向いて通訳する場合(パーキン
めの利便性を追求した学習ソフトウェ アとなっている.
スブレーラー型横並び式)があるが,現在,指点字通
訳における形としてもっとも一般的に行われているの
2. 点 字 と 指 点 字 の 関 係 性
は パ ー キ ン ス ブ レ ー ラ ー 型 横 並 び 式 で あ る ( 図 3).
2.1. 点 字 から生 まれた指 点 字
指点字が生まれたきっかけは,福島が視覚障害、聴
覚障害の順に障害を発症した「盲ベース」の盲ろう者
であることが大きく関係している.初めて視覚障害を
持った福島が最初に学んだコミュニケーション方法が
盲ろう者の手
1
4
2
5
3
6
点字板と点筆を使用した点字であった.点字板にセッ
3
ト し た 紙 に 点 筆 で 点 を 打 つ ,と い う 動 作 で 点 字 を 書 く .
2
1
4
5 6
次に,点字板は打つ動作に時間が掛かるため ,さらに
時間を短縮できる点字タイプライターを使用して点 字
通訳者の手
を書くようになる.点字タイプライターには 6 つキー
があり,それらを指で押すことにより,点字を書く.
図 3 パーキンスブレーラー型横並び式と指番号
複数の点を同時に打てるため,点字板よりもはるかに
速 く 点 字 が 書 け る .そ し て ,聴 覚 障 害 を 持 っ て か ら は ,
3. 点 字 ・ 指 点 字 学 習 ソ フ ト ウ ェ ア の 開 発
声が聞こえないため,相手からの情報を受け取る時に
3.1. ソフトウェアの概 要 設 計
も点字を使用しなければならなくなった.しかしある
指点字の学習ツールをパソコンのソフトウェアと
とき,福島智が自分の指を母親に差し出し,指を 6 つ
して設計するにあたり,考えられるシステムの特性を
のキーに見立て,タイプライター同様に点字を打たせ
以 下 の ( 1) ~ ( 4) に 示 す .
て み た と こ ろ ,意 外 に も 点 字 を 読 み 取 る こ と が で き た .
( 1) 点 字 と 指 点 字 の 仕 組 み
このようにして指点字は,点字から点字タイプライタ
( 2) 点 字 と 指 点 字 の 学 習 方 法
ー,そして人間の指へとコミュニケーション方法を変
( 3) キ ー ボ ー ド 入 力 及 び ク リ ッ ク 入 力
化 さ せ て い っ た こ と に よ り 誕 生 し た [4].
( 4) デ ィ ス プ レ イ の 視 覚 的 効 果
これらの特性から,実際に点字板や点字タイプライ
ターを使用する学習方法を,ソフトウェアの中でいか
に実践的な感覚で再現できるか,そしてパソコンの入
力操作やディスプレイの視覚的表現から ,いかに学習
効率を上昇させることができるか,この 2 点が本ソフ
トウェア開発の課題である.
図 1 点字板
図 2 点字タイプライター
これらの課題と,2 章で述べた点字・指点字の関係
から,本ソフトウェアは大きく 2 つのサブシステムに
分割することにした.ソフトウェアの全体像は図 4 の
2.2. 指 点 字 の仕 組 み
ようになる.
「 点 字 学 習 コ ー ス 」で 点 字 の 仕 組 み を 理 解
指点字は点字の点を指に置き換えたものである .点
し,次に「指点字学習コース」に移行することで指点
字の 1 の点から3の点までを左手の人差し指 ,中指,
字の 6 点入力を学習できる,という流れである.尚,
薬指の順にそれぞれ配置し,4 の点から 6 の点までを
本 ソ フ ト ウ ェ ア の 開 発 に は Microsoft 社 製 の Visual
右手の人差し指,中指,薬指の順に配置する.この指
Basic2005 を 使 用 し た .
の配置は点字タイプライターで点字を書く 6 点入力の
技法(パーキンス式)を用いている.盲ろう者の 6 本
の指を点字タイプライターのキーに見立て, 通訳者は
次 に 図 7 に お い て ,「 点 字 を 打 つ 」 サ ブ シ ス テ ム の
点 字 ・指 点 字 学 習 ソ フ ト ウ ェ ア
概 要 を 表 す .「 点 字 を 読 む 」サ ブ シ ス テ ム と 同 様 に ,点
点字学習コース
指点字学習コース
点字を読む
指点字を打つ
字入力をクリック動作に置き換え,点字をパソコンの
画面上で打つことができる.この場合は,画面に表示
された墨字の問題を読み,頭の中で点字に変換して該
点字を打つ
図 4
当する点をクリックする.
自由練習
?
い
本ソフトウェアのシステム全体像
!
利用者
い ?
3.2. 点 字 学 習 コースの概 要
点字を学習するためのコースとして,本ソフトウェ
アに搭載した学習項目とその概要は図 4 にもあるよう
図 7
「点字を打つ」サブシステムの概要
に ,「 点 字 を 読 む 」 サ ブ シ ス テ ム と ,「 点 字 を 読 む 」 サ
初 心 者 が 点 字 を 打 つ に は ,本 来 な ら ば 点 字 板 ,点 筆 ,
ブシステムである.
図 5 は ,「 点 字 を 読 む 」 サ ブ シ ス テ ム の 内 容 を 表 し
用紙,点字一覧表といった学習環境をととのえなけれ
ている.大きな流れとしては,パソコンの画面上に表
ば な ら な い が ,「 点 字 を 打 つ 」サ ブ シ ス テ ム で は ,こ れ
示される点字の画像を,目で見て確認し,見た点字を
らが無くてもパソコンがあれば点字の知識を得ること
頭の中で墨字に変換する.回答はキーボードから文字
が 可 能 で あ る ( 図 8).
を直接入力するか,ローマ字入力か, または画面上に
表示されたソフトウェアキーボードでクリック入力す
る.正解の墨字は,決定ボタンを押した時点で画面に
表示される.
?
利用者
い
?
い
!
点字板
用紙
参考書
図 8
図 5
「点字を読む」サブシステムの概要
「点字を打つ」サブシステムの学習環境
以上が「点字を読む」と「点字を打つ」サブシステ
ムの特徴である.この 2 つのシステムに共通したメリ
一方,図 6 は点字の初心者が参考書を見ながら,自
ットとしては,利用者に読ませる,または打たせる点
分が読んだ点字が正解かどうかを確認している様子を
字を問題形式で常に表示できる点と,その正しい解答
表している.この場合,点字の一覧表から正解を探索
が 利 用 者 の タ イ ミ ン グ で ,瞬 時 に 表 示 さ れ る 点 で あ る .
しなければならないが,種類が多いので正解確認に大
しかしながら,実物の点字を使わないので,紙に打た
幅 な 時 間 を 要 す る .仮 に 間 違 っ て 点 字 を 読 ん で い た ら ,
れた点字や点字板の感触を得られないのがこのシステ
間違っていることに気がつかないケースも考えられる.
ムの欠点であると言える.
本ソフトウェアを利用することにより,このようなわ
ずらわしさから解放されることになる.
3.3. 指 点 字 学 習 コースの概 要
指点字を学習するためのサブシステムとしては,
「指点字を打つ」サブシステムと「自由練習」サブシ
?
あ い う え お
か き く け こ
ステムから構成される.2 章において,指点字と点字
タイプライターの関係を述べたが,その点字タイプラ
イターの 6 点入力の仕組みをパソコンのキーボードに
さ し す せ そ
利用者
が で き る の が ,「 指 点 字 を 打 つ 」 サ ブ シ ス テ ム で あ る .
点字一覧表
図 6
対 応 さ せ ( 図 9), 6 点 入 力 , つ ま り 指 点 字 を 打 つ こ と
初心者が点字一覧表を使用した場合
図 10 の よ う に , キ ー ボ ー ド の ホ ー ム ポ ジ シ ョ ン を 6
つのキーとしている.
( 4) 点 字 の 一 覧 表 を 表 示 す る 機 能 .
画面上の
い
相手の手
( 5) 点 字 の 基 礎 知 識 や 必 要 な 使 い 方 を 表 示 し た ヒ ン
ト 機 能 ( 図 12 右 ).
( 6) 指 点 字 通 訳 時 に 必 要 な マ ナ ー や 知 識 を ク イ ズ 形
式で紹介する機能.
利用者の手
図 9
A
パソコンに対応させた指点字
S
3
図 10
D
2
F
G
H
J
1
4
K
L
5
6
6 点入力とホームポジション
図 12
図 11 は「 指 点 字 を 打 つ 」サ ブ シ ス テ ム の 概 要 で あ る .
「 点 字 を 読 む 」,「 点 字 を 打 つ 」 サ ブ シ ス テ ム 同 様 , パ
「点字を打つ」練習画面とヒント機能
4. 点 字 ・ 指 点 字 学 習 ソ フ ト ウ ェ ア の 試 用 実 験
4.1. 実 験 の目 的
ソコンの画面上に墨字で問題が表示され, それらを図
本ソフトウェアを長期に渡り試用し,点字と指点字
10 の よ う に 6 点 入 力 で 回 答 す る .キ ー ボ ー ド と ,画 面
習得レベルを検証することで,本ソフトウェアの学習
上に表示された指はそれぞれ連動し,キーを押すとそ
効果がどの程度なのかを調査する.また,アンケート
れに対応する指が光る仕組みになっている.
を実施し,意見を参考に今後の課題を見つける.
あ
?
●
あ
!
4.2. 実 験 の概 要
( 1) 被 験 者 は , 点 字 及 び 指 点 字 を 全 く 知 ら な い 大 学
生 8 名に協力を依頼し,被験者自身のノートパソコン
に本ソフトウェアをインストール した.
利用者の手
図 11
「指点字を打つ」サブシステムの概要
( 2) 実 験 期 間 は 2008 年 10 月 17 日 か ら 2008 年 12
月 18 日 ま で の 約 2 ヶ 月 間 と し ,被 験 者 は 各 自 自 宅 で 好
きな時間に本ソフトウェアを試用 する.
「自由練習」サブシステムは,覚えた指点字を応用
して練習するためのシステムである. 仕組みは「指点
字を打つ」サブシステムと同じだが,異なる点は出題
される問題文を利用者が自由に考えて登録する点であ
る.利用者の身近な言葉や単語を指点字で練習するこ
とが可能である.
( 3)学 習 手 順 は ,「 点 字 を 読 む 」,「 点 字 を 打 つ 」,「 指
点字を打つ」の項目順に行い,最低 1 週間ずつそれぞ
れの項目内容を中心に学習する.
( 4) 1 週 間 経 過 す る ご と に , 点 字 と 指 点 字 の 各 サ ブ
シ ス テ ム に 搭 載 さ れ た 全 18 項 目 の テ ス ト か ら 1 項 目 を
選択し,テストを行う.実験期間中は毎週1回定期的
に行い,全 8 回の定期テストを行う.
3.4. ソフトウェアのその他 の機能
以下には本ソフトウェアのその他の機能と,実際の
画面を示す.
( 5) 定 期 テ ス ト 時 以 外 は , 各 自 時 間 の あ る 限 り 練 習
と テ ス ト を 繰 り 返 し ,18 項 目 す べ て の テ ス ト の 合 格 を
目指す.
( 1) 本 ソ フ ト ウ ェ ア を 始 め て 使 用 す る 人 に 向 け た 、
以上の条件を被験者に説明し,定期テストの指示は
ソフトウェアの使い方や,点字・指点字の基礎知識を
メールを利用して行った.テスト終了後には,日付,
学習するための機能.
テスト項目名,正解率,学習時間がソフトウェア内部
( 2) 点 字 と 指 点 字 の 各 サ ブ シ ス テ ム に よ る , 五 十 音
に自動的に記録される.それらのデータを元に,学習
か ら ア ル フ ァ ベ ッ ト ま で の 各 種 練 習 機 能 ( 図 12 左 ).
時 間 と , テ ス ト 項 目 の 合 格 数 ( 全 18 項 目 ) を 比 較 し ,
( 3)点 字 、指 点 字 か ら 18 項 目 に 問 題 を 分 け て 出 題 し 、
それを解答するテスト機能.
学習効果を数値で表す.
表 2
4.3. テストについて
テ ス ト は 図 13 の よ う に ,
「 五 十 音 」,
「 濁 音・半 濁 音 」,
機能についての解答
とても良い
良い
悪い
とても悪い
「 拗 音 」,「 拗 濁 音 ・ 拗 半 濁 音 」,「 数 字 」,「 ア ル フ ァ ベ
点字を読む
6
7
0
0
ッ ト 」 に 問 題 文 を 分 割 し , STEP1 か ら 順 に 割 り 当 て て
点字を打つ
5
8
0
0
い る .ま た 、各 STEP は 更 に 2 つ に 分 割 し ,
「 基 礎 」で
指点字を打つ
7
4
0
0
は そ の 項 目 に 該 当 す る 文 字 を 1 文 字 ず つ 出 題 し ,「 単
語」では 3 文字以上の単語を出題する.問題文はすべ
4.5. 実 験 結 果
て 10 問 だ が ,「 単 語 」 テ ス ト で 8 割 以 上 正 解 し た 場 合
実験結果を分析し,以下に「定期テストの回数と合
の み , そ の STEP を 合 格 と す る . 図 13 の STEP1 か ら
格 数 」( 図 14) と 「 次 の テ ス ト を 合 格 す る ま で の 学 習
STEP6 は ,「 点 字 を 読 む 」 サ ブ シ ス テ ム の テ ス ト 項 目
時 間 」( 図 15) を 示 す .
で あ る が ,「 点 字 を 打 つ 」 サ ブ シ ス テ ム ,「 指 点 字 を 打
定期テストの内容を限定しなかったため,点字,指
つ 」サ ブ シ ス テ ム に も ,
「 五 十 音 」か ら「 ア ル フ ァ ベ ッ
点 字 ,そ れ ぞ れ の 定 着 度 を 示 す こ と は で き な か っ た が ,
ト 」ま で 順 に 分 割 し て い る .「 点 字 を 打 つ 」サ ブ シ ス テ
図 14 で は , A~ H の 被 験 者 8 人 中 5 人 が 18 項 目 の テ
ム は ,STEP7 か ら STEP12 ま で 、「 指 点 字 を 打 つ 」サ ブ
ストをすべて合格し,点字と指点字を習得したと言え
シ ス テ ム は , STEP13 か ら STEP18 ま で と し , 全 18 項
る .さ ら に ,図 15 か ら は 各 テ ス ト 項 目 を 合 格 す る ま で
目に類別している.
に ,毎 回 平 均 14.7 分 の 時 間 が あ れ ば ,点 字 と 指 点 字 を
覚えることが可能であることが分かった .
点字を読む
STEP1
基礎
テスト
五十音
単語
点字を打つ
STEP2
基礎
テスト
濁音・半濁音
単語
指点字を打つ
STEP3
基礎
テスト
拗音
単語
STEP4
基礎
拗濁音・拗半濁
単語
図 13
音
STEP5
基礎
数字
単語
STEP6
基礎
アルファベット
単語
テストの概要
4.4. アンケート結 果
実験開始から 1 ヶ月が経過した時点で,被験者にア
ンケートを実施し,ソフトウェアの使いやすさ,機能
について 4 段階の評価をいただいた.アンケートは実
験の被験者 8 名と,本ソフトウェアをインストールし
A
1
C
D
E
F
G
H
2
3
4
5
6
7
8
最終
定期テストの回数(回)
図 14
定期テストの回数と合格数
平均
50
45
学 40
習 35
時 30
間 25
( 20
分 15
) 10
5
0
1 2
3 4 5
6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18
合格数(個)
た が ,実 験 に は 参 加 し な か っ た 5 名 の 計 13 名 の 結 果 で
ある.尚,表 1 と表 2 の「指点字を打つ」は,無回答
B
テ 18
ス 16
ト 14
の 12
合 10
格 8
数 6
( 4
個 2
)
0
図 15
次のテストを合格するまでの学習時間
が各 2 名見られた.以下にアンケート結果の表 1 と表
4.6. 考 察
2 を示す.
表 1
アンケートの表 1 において,1 名の「悪い」という
使いやすさについての回答
とても良い
良い
悪い
とても悪い
回答には,3 章で述べた本ソフトウェアの欠点と同じ
点字を読む
7
6
0
0
内容の意見が加えてあった.それは「点字は実際に触
点字を打つ
5
7
1
0
ったり打ったりしなければ意味が無い 」という意見で
指点字を打つ
8
3
0
0
ある.我々は指点字を理解するために点字学習コース
を設けたが、その意図を伝えることが重要であること
が分かった.逆に伝わらない場合は,本ソフトウェア
を全く利用されない可能性もある.また,表 1 と表 2
で ,「 点 字 を 読 む 」 と 「 点 字 を 打 つ 」 の 「 と て も 良 い 」
と い う 回 答 が「 指 点 字 を 打 つ 」よ り も 少 な い 点 か ら も ,
実物の点字を画面上で表現することの 難しさが分かる.
図 14 の グ ラ フ か ら は , 被 験 者 の 学 習 パ タ ー ン が 3
通 り で あ る こ と が 分 か る . A, B, D, E は 6 回 目 の 定
期 テ ス ト の 時 点 で ,16 項 目 合 格 し て い る こ と か ら ,学
習意欲が高く,ソフトウェアの使用頻繁が高いと考え
図 16
基礎学習サブシステム
られる.
一 方 C, F, G は 最 終 的 に 16 項 目 以 上 合 格 し て い る
以上により,点字と指点字の視覚的な表現,学習意
が ,6 回 目 の 定 期 テ ス ト ま で は 合 格 数 が 4 以 下 で あ る .
欲の向上と継続,アルファベットと数字の学習方法,
C の 2 回目から 7 回目,F の 1 回目から 4 回目の期間
基礎学習サブシステムのより円滑なアプローチ,の 4
で合格数が全く変化していないのは, C と F がソフト
つが本ソフトウェアの課題である.また,これらの学
ウェアを使用せず,定期テストを実施していないから
習プログラム,機能,視覚的アプローチ を改善するこ
で あ る . こ の こ と か ら , A, B, D, E と 比 較 す る と 学
とが,本ソフトウェアの更なる効果を発揮する と言え
習意欲が低く,ソフトウェアの使用頻度も低いと考え
る.
られる.
H に関しては,7 回目の定期テストまでの合格数が
5. ま と め
変化していないが,定期テストは必ず実施しており,
本論文では,盲ろう者と指点字の実態を調査した結
ソフトウェアの使用時間も加算されていたことから,
果から,
「 通 訳・介 助 者 の 育 成 」の 必 要 性 に つ い て 取 り
学習意欲が極端に低いと言える.
上げた.次に,指点字を普及させるためのソフトウェ
A から G の共通点は,1 週間で 6 項目以上のテスト
アを提案した.学習の基礎となる点字の仕組みや,ソ
に合格している週があるという点である. これは点字
フトウェアとしての機能と学習効果の関係を検討しな
や指点字の仕組みを理解し,効率よく学習に臨んでい
がら,実際にソフトウェアの試作を行った.これを用
た期間である.逆に合格までに時間を要している項目
いて実験を行ったところ,8 人中 5 人が本ソフトウェ
は,数字とアルファベットである可能性が高い.アル
アのテストをすべてクリアし,約 1 ヶ月間で点字と指
ファベットと数字には 6 点の規則性が無いためである.
点字を覚えられることがわかった.
こ れ は 図 15 の 平 均 学 習 時 間 を 高 め て い る 要 因 と し て
も考えられる.
よって,本ソフトウェアは,点字と指点字の学習に
有効であることが判明した.
図 15 で は ,1 つ 目 の テ ス ト を 合 格 す る ま で の 学 習 時
間 が ,2 つ 目 以 降 の 時 間 と 比 べ 大 幅 に 加 算 さ れ て い る .
これは,初めて本ソフトウェアを使用する際,点字と
指点字の基礎知識を学習するため,その学習時間が加
算されているからである.基礎知識は,本ソフトウェ
アのトップメニューの「初めての方はこちら 」ボタン
を選択することで学習可能となっている.点字や指点
字 の 仕 組 み ,本 ソ フ ト ウ ェ ア の 使 用 方 法 な ど ,11 項 目
を順番に選択し,画像と文章で学習する基礎学習サブ
シ ス テ ム で あ る ( 図 16).
文
献
[1] 社 会 福 祉 法 人 全 国 盲 ろ う 者 協 会 ,“ 盲 ろ う 者 生 活
実 態 調 査 ,” 盲 ろ う 者 へ の 通 訳 ・ 介 助 , 社 会 福 祉
法 人 全 国 盲 ろ う 者 協 会( 偏 ),pp.168-177,有 限 会
社 読 書 工 房 , 東 京 , 2008.
[2] 厚 生 労 働 省 ,“ 身 体 障 害 者 数 ,” 平 成 18 年 身 体 障
害 児 ・ 者 実 態 調 査 結 果 ,厚 生 労 働 省 社 会 ・ 援 護 局
障 害 保 健 福 祉 部 企 画 課 ( 偏 ), pp.3-10, 2009.
[3] 社 会 福 祉 法 人 全 国 盲 ろ う 者 協 会 ,“ 盲 ろ う 者 の 人
数 と 種 類 ,” 盲 ろ う 者 へ の 通 訳 ・ 介 助 , 社 会 福 祉
法 人 全 国 盲 ろ う 者 協 会( 偏 ),pp.8-9,有 限 会 社 読
書 工 房 , 東 京 , 2008.
[4] 福 島 智 ,“ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン … そ れ は 盲 ろ う 者
の 命 を 支 え る も の ,” 盲 ろ う 者 向 け 通 訳 ・ 介 助 マ
ニ ュ ア ル ,社 会 福 祉 法 人 全 国 盲 ろ う 者 協 会( 偏 ),
pp.6-11, 社 会 福 祉 法 人 全 国 盲 ろ う 者 協 会 , 東 京 ,
2003.