保険とクレジット・デリバティブの法的区別の限界と実質

第 43 回日本保険学会九州部会(於 福岡大学商学部棟)
平成 28 年 2 月 20 日(土)
保険とクレジット・デリバティブの法的区別の限界と実質論の方向性
島根大学法文学部
嘉村 雄司
1
はじめに
(1)問題状況
・保険法・保険業法(保険規制)と「保険デリバティブ」との関係が問題
・保険デリバティブ:
「クレジット・デリバティブ」
「天候デリバティブ」「地震デリバティブ」
・
「リスク移転」機能 ⇒ 保険と保険デリバティブとの間に重要な共通点
・従来の学説:保険デリバティブ ⇒ 保険の要素の不存在 ⇒ 保険規制適用外
・近時の議論:
「クレジット・デリバティブ」⇒ 疑問が提起
(2)
「損害てん補基準」の展開とその限界の存在
・クレジット・デリバティブ取引:金銭債権に対応する信用リスクの移転を目的とした金融派生商品
〔例〕クレジット・デフォルト・スワップ(以下「CDS」)
・契約関係:プロテクションの買い手(リスクをヘッジする側)と売り手(リスクをとる側)
・プロテクションの対象主体となる企業等(以下「参照組織」
)の指定
・買い手:信用リスクを売り手に移転、対価として手数料支払
・売り手:参照組織に破産や元利金の不払い等の信用悪化事由(以下「クレジット・イベント」
)の発生 ⇒
買い手への支払
・形式:保険とは別
・対象とするリスク:信用保険や保証保険と共通
⇒ ・クレジット・デリバティブと保険との間に本質的な差異は存在しないのではないか?
・クレジット・デリバティブに対して保険規制が適用されないのはなぜか?
・保険法の適用範囲の問題を検討する際の論点:
「保険の要素を具備しているか?」
「保険規制を適用する必要性が存在するか?」
・クレジット・デリバティブ:主に前者を中心に議論
・学説:
「損害てん補の要素を具備していないこと」
(以下「損害てん補基準」
)
「保険技術の要素を具備していないこと」
(以下「保険技術基準」)
・保険技術基準に対する批判 ⇒ ・保険技術とデリバティブの技術との間に差異を見いだすことが困難
・デリバティブにおいても保険技術と同様の手段が用いられる可能性
・損害てん補基準 ⇒ 現在の支配的見解
1
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平成 28 年 2 月 20 日(土)
・アメリカ(ニューヨーク州)の議論:クレジット・デリバティブの一部 ⇒ 損害てん補の要素を具備?
・日本法 ⇒ 保険法(強行規定)、保険業法(引受規制・商品規制)を適用する余地があるか?
・本報告の目的:
「損害てん補基準」の限界を明らかにした上で、クレジット・デリバティブに対して保
険規制を適用すべきか検討
(3)検討方法
・アメリカ(ニューヨーク州)の議論を素材 ⇒ 日本法への示唆の提示
・ニューヨーク州:保険法の規定内容の面で他州のものと比べて整備
世界の主要な CDS 市場の 1 つを形成
・アメリカの保険規制:各州が規制権限を保持
保険契約法と保険監督法の双方が一体化
・ニューヨーク州の議論:
(2)と同様の議論が展開
損害てん補基準の限界の認識 ⇒ 保険規制を適用すべきでない「実質的理由」
の模索
・主な検討対象:損害てん補基準の限界が顕在化して以降のアメリカの議論
2
ニューヨーク州における「損害てん補基準」の展開と変容
(1)
「損害てん補基準」の展開
・2000 年商品先物現代化法(Commodity Futures Modernization Act)の制定
・連邦規制との関係整備
・州保険法との関係は不明確
・ニューヨーク州保険法の保険契約の定義(1101 条(a)(1)):
「『保険契約』とは、
『保険者』である一方の当事者が『保険契約者』または『保険金受取人』である
他方の当事者に対して、後者が、偶発的事故の発生によって不利な影響を受ける実質的な利害関係(a
material interest)を、その事故発生の際に有し、または有すると期待される場合において、その事故
の発生を条件として金銭的価値の給付を付与する義務を負ういっさいの合意またはその他の取引をい
う。
」
・NY 保険監督局(New York State Insurance Department)1 :保険契約とクレジット・デリバティブ
との関係に関する意見書を発行
ニューヨーク州保険局は,2011 年にニューヨーク州銀行局(New York State Banking Department)
と統合し,現在は金融サービス局(Department of Financial Service)となっている。
2
1
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・New York Department of Insurance General Counsel Opinions, Re: Credit Default Option Facility,
2000 NY Insurance GC Opinions LEXIS 144 (June 16, 2000)(以下「2000 年の意見書」)
:
「売り手がクレジット・イベントの発生を条件として買い手に支払いを行うが、その支払いが買い手
の被る損害に依存しない場合においては、CDS 取引は保険契約とならない。
」
「CDS は、ニューヨーク
州保険法 1101 条(a)(1)の定義を満たさない。なぜなら、当該取引条件の下では、売り手はクレジット・
イベントの発生を条件として買い手に支払いを行うが、その支払いが買い手の被る損害に依存しない
からである。
」
(2)
「損害てん補基準」の変容
Circular 19 によるカバード CDS 規制提案
・AIG の経営危機問題 ⇒ ニューヨーク州保険監督局:新たな書簡の公表
・New York State Insurance Department, Circular Letter No. 19 (Sept. 22, 2008)(以下「書簡」)
:
2000 年の意見書は「プロテクションの買い手への支払いが実際の金銭的損害を条件としていない場
合において、CDS は保険契約ではない」ということを述べているに過ぎず、
「参照組織に実質的な利害
関係を有しまたは有することが合理的に期待される当事者がプロテクションを購入した場合において、
CDS は保険契約となるか」ということに取り組んだものではない。そのため、CDS 取引を行うことが
ニューヨーク州保険法 1101 条における「保険事業を営むこと」に該当する可能性がある。
・ニューヨーク州保険監督局長官エリック・ディナロによる連邦議会公聴会での補足説明
・Testimony to the United State House of Representatives Committee on Agriculture, Hearing to
Review the Role of Credit Derivatives in the U.S. Economy (by Eric Dinallo, Superintendent, New
York Insurance Department (Nov. 20, 2008)):
➀プロテクションの買い手が原資産を有する場合をカバード CDS とし、また、原資産を有しない場
合をネイキッド CDS とすることにより、
CDS 取引をカバード CDS とネイキッド CDS とに区別する、
②カバード CDS については、保険と同様の損害てん補の要素を備えていることを理由として保険契約
に該当する一方で、ネイキッド CDS については、この要素を備えていないことを理由として保険契約
に該当しない、③そもそも 2000 年の意見書はネイキッド CDS のみを対象にしており、カバード CDS
を射程に含めていなかったが、市場が勝手にカバード CDS も含めたものとして理解した。
Circular 19 のサプリメントによるカバード CDS 規制提案の無期限延長
・連邦政府 ⇒ CDS に対する規制を整備する計画の公表2
・ニューヨーク州保険監督局 ⇒ 規制提案を無期限延期3
Press Release, U.S. Department of the Treasury, PWG Announces Initiatives to Strengthen OTC
Derivatives Oversight and Infrastructure (Nov. 14, 2008).
3 New York State Insurance Department, First Supplement to Circular Letter No. 19 (Nov 20, 2008).
3
2
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・無期限延期の理由:ディナロの前記連邦議会公聴会での補足説明
①CDS 市場の最善の規制方法は、CDS が 1 つの市場のままでいることである、②同州が保険法の下
で CDS の一部を規制する一方で、
残りの CDS が規制されないかまたは他法の下で規制されることは、
効果的かつ効率的ではない、③連邦議会が規制提案を作成する頃には、CDS の一部を保険として規制
することから生ずる問題を防止するために、州法上の必要な変更点を検討する準備ができているだろ
う。
・①②:
「CDS 市場の分割回避」という実質的理由 ⇒ 規制提案の延期
・
「CDS 市場の分割」によって生ずる問題 ⇒ 不明確 ⇒ 抽象的な指摘
3
2008 年ニューヨーク州規制提案後のクレジット・デリバティブ規制の動向
(1)全米保険立法者協議会のモデル法と各州の法案によるクレジット・デリバティブ規制の動き
全米保険立法者協議会のモデル法
・全米保険立法者協議会(National Conference of Insurance Legislators)のモデル法の公表4
・
「カバード CDS」=「クレジット・デフォルト保険(credit default insurance)」
・
「カバード CDS の売り手」
=
「クレジット・デフォルト保険会社
(credit default insurance corporation)
」
・モデル法の内容:
「ニューヨーク州規制提案」+「ニューヨーク州保険法『金融保証保険会社』規制」
各州の法案
・ミズーリ州5:ニューヨーク州規制提案と同様の内容
・バージニア州6:
「ニューヨーク州規制提案」+「ニューヨーク州保険法『金融保証保険会社』規制」の
内容と同様
・ニューヨーク州7:モデル法と同様の内容
(2)ドット=フランク法における専占(federal preemption)規定の制定
*専占規定:連邦法違反の州法は無効になることを明らかにする規定
規制の概要
・ドット=フランク法第 7 編「ウオール・ストリートの透明性および説明責任(Wall Street Transparency
and Accountability)
」
:デリバティブ取引に関する新たな規制
・
「有価証券関連以外のデリバティブ(swap)」「有価証券関連デリバティブ(securities-based swap)」
として分類された合意(agreements)
・契約(contracts)
・取引(transactions)に適用(以下「有価
証券関連以外のデリバティブ」と「有価証券関連デリバティブ」を併せて「有価証券関連デリバティ
ブ等」ということがある)
National Conference of Insurance Legislators, Proposed Credit Default Insurance Model
Legislation (Adopted on Nov. 22, 2009. Amended on July 11, 2010).
5 Mo. Bulletin 08-12 (dated Nov. 19, 2008).
6 2009 Va. Acts H.B. 2320.
7 N.Y. Assem. A10783, 233rd Sess. (N.Y. 2010).
4
4
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・
「有価証券関連以外のデリバティブ」
:商品取引所法(Commodity Exchange Act))の適用、商品先物
取引委員会(Commodity Futures Trading Commission : CFTC)の監督権限
・
「有価証券関連デリバティブ」
:1934 年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934))の適用、証
券取引委員会(Securities and Exchange Commission : SEC)の監督権限
・
「有価証券関連以外のデリバティブ」の定義(721 条(a))
:
①金利その他のレート、通貨、商品(commodities)
、有価証券、債務証書(instruments of indebtedness)
、指数(indices)
、
定量的測定単位(quantitative measures)
、その他金融・経済上の利益(other financial or economic interest)ま
たはいかなる種類の財産(property of any kind)の売買に係る、ないしそれらの価値に基づく、プット、コール、
キャップ、フロアー、カラー、その他のオプション
②潜在的な金融・経済・商業上の結果に関連する事由(event)または偶発事由(contingency)の発生、不発生もし
くは発生の程度に依存する買付け、売付け、支払または受渡し(株式の配当を除く)
③金利その他のレート、通貨、商品、有価証券、債務証書、指数、定量的測定単位、その他金融・経済上の利益の一
部や価値に基づいて、支払の固定的または偶発的な交換の執行ベースを提供し、取引の当事者間で資産に対する現
在・将来の直接・間接の所有利益を譲渡することなく、価値・水準の将来における変化に関連する金融リスクの全
部・一部の移転
④一般に有価証券関連以外のデリバティブの取引として認識されている、または将来に認識されることになる合意・
契約・取引
⑤有価証券関連以外のデリバティブ合意(swap agreement)の定義を満たす有価証券関連デリバティブ合意(その
重要な条件が、有価証券、有価証券グループ、有価証券指数またはこれらにおける金利の価格・利回り・価値・ボ
ラティリティに基づくもの)
⑥①~⑤の合意・契約・取引の組合せまたはオプション
・クレジット・デリバティブが具体例として明示
・
「有価証券関連デリバティブ」の定義(761 条(a))
:
①限定的な有価証券指数(narrow-based security index)(その金利・価値を含む)
②単一の有価証券または貸付契約(その金利・価値を含む)
③単一の有価証券発行者もしくは限定的な有価証券指数を構成する銘柄の各発行者に関連する事由(event)の発生、
不発生もしくは発生の程度(当該事由が当該発行者の財務諸表・財務状況・財務債務に直接影響を及ぼす場合に限
る)
・①~③に該当 ⇒「有価証券関連デリバティブ」
、それ以外 ⇒「有価証券関連以外のデリバティブ」
・専占規定 ⇒ 722 条(b):
「有価証券関連以外のデリバティブ」は、①保険と解してはならない、②いか
なる州法の下でも保険契約として規制することはできない。
767 条:
「有価証券関連デリバティブ」は、州法のいかなる規定の下でも、保険契約とし
て規制することはできない。
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保険とクレジット・デリバティブの区別の基準
・CFTC と SEC(以下「CFTC 等」
)
:
「有価証券関連デリバティブ等」に関する規則を作成
・連邦官報(Federal Register)8における CFTC 等の解説
・保険との関係で問題となる定義規定:
「有価証券関連以外のデリバティブ」の定義の②
・保険免責条項(Insurance Safe Harbor)の要件を満たす合意・契約・取引 ⇒「有価証券関連デリバ
ティブ等」から除外
・
「商品テスト(Product Test)
」
(CFTC 規則 1.3(xxx)(4)(i)(A)、SEC 規則 3a69-1(a)(1))
:
「有価証券関連以外のデリバティブ」および「有価証券関連デリバティブ」は、条項もしくは法律によって、以下を
履行の条件とする合意・契約・取引を含んではならない。
①合意・契約・取引の受取人(beneficiary)は、当該合意・契約・取引の存続期間を通じて、当該合意・契約・取引
の目的である被保険利益(insurable interest)を有すること、および、それにより当該利益に関する損害リスク(risk
of loss)を負うこと
②損害の発生・損害の証明を義務付けること、および、支払・補償は被保険利益の価値に限定されること
③被保険利益から切り離して、制度市場(organized market)もしくは店頭(over the counter)で取引されないこ
と
④金融保証保険のみに関しては、債務者の支払不履行(payment default)もしくは支払不能(insolvency)の場合に
おける期限の利益喪失条項(acceleration of payments under policy)は保険者の裁量に委ねられること
・クレジット・デリバティブと保険との関係で主に議論されているのは➀の要件
・「有価証券関連デリバティブ等」⇒ 被保険利益が要求されていない ⇒ 保険と区別する方法として有
意義
・
「被保険利益」の意義:各州によって異なる可能性
・ニューヨーク州保険法との関係:同法 1101 条(a)(1)「実質的な利害関係(a material interest)
」
・ニューヨーク州規制提案との相違点:
「実質的な利害関係」の保有が合意・契約・取引の中で義務付け
られているか否か。
・保険免責条項は保険の定義ではないこと、包括的な免責条項でもないこと
・同条項の要件を満たす合意・契約・取引 ⇒「有価証券関連デリバティブ等」とならない。
・同条項の要件を満たさない合意・契約・取引 ⇒ ・全て「有価証券関連デリバティブ等」となるわけ
ではない。
・関連する事実や状況の分析に基づいて、保険となる
か、「有価証券関連デリバティブ等」となるか判断
CFTC & SEC, Further Definition of “Swap”, “Security-Based Swap”, and “Security-Based
Agreement”; Mixed Swaps; Security-Based Agreement Recordkeeping; Final Rule, 77 FR 48208 (Aug.
13, 2012).
6
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2008 年ニューヨーク州規制提案後の学説の動向
(1)ニューヨーク州規制提案を肯定する若干の動き
・2000 年の意見書と同様の主張をする見解
・2 つの特徴的な点
⇒ ・多くの学説:
「カバード CDS」が保険の要素を具備していることを認識し始めたこと
・ニューヨーク州規制提案を肯定する見解の登場9:少数説
(2)実質的理由に基づく批判の登場――トッド・ヘンダーソンの見解――
・トッド・ヘンダーソンの見解10:批判論を包括的・詳細に展開
・5 つの実質的理由
①線引き問題(Line-Drawing Problems)
・あらゆる契約 ⇒ 保険としての性質 〔例〕オプションその他のデリバティブ
・保険法がこのような契約に適用 ⇒「何が保険なのか」という線引き問題が発生
②クレジット・デリバティブ取引の目的の多様性
・クレジット・デリバティブの目的 ⇒ 保険(insurance)
」+「裁定取引(arbitrage)
」
③リスク集積の欠如
・
「カバード CDS」⇒「一般的には」リスク集積の不存在
・クレジット・デリバティブ ⇒ 保険会社の破綻の場合に生ずる問題が「一般的には」不存在
④規制範囲の限界
・金融商品の代替性(fungibility)
・一部のみの規制 ⇒ 市場活動(market activity)を規制のない市場に移転
・ニューヨーク州規制提案 ⇒ 現物決済型の CDS のみを対象 ⇒ 現金決済型の CDS で複製可能
⑤モラル・ハザードの問題
・クレジット・デリバティブ ⇒ 保険と同様のモラル・ハザードの問題が発生
・モラル・ハザードの問題 ⇒ 市場による規律、契約条項による対応、ISDA による対応
Oskari Juurikkala, Credit Default Swaps and Insurance: Against the Potts Opinion, 26 J. INT'L
BANKING L. & REG. 128 (2011); Oskari Juurikkala, Financial Engineering Meets Legal Alchemy:
Decoding the Mystery of Credit Default Swaps, FORDHAM J. CORP. & FIN. L. 425 (2014).
10 M. Todd Henderson, Credit Derivatives Are Not "Insurance", 16 CONN. INS. L. J. 1 (2009).
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保険とクレジット・デリバティブの法的区別の再構成
(1)
「損害てん補基準」の限界と保険規制の可能性
・
「損害てん補基準」=「2000 年の意見書の見解」⇒ 「ネイキッド CDS」に射程が限定?
・日本法:
「ネイキッド CDS」と「カバード CDS」を分けて規制することが解釈上可能か?
・契約法の分野:デリバティブに関する包括的な契約法は存在しない ⇒ 可能
・監督法の分野:
「クレジット・デリバティブ」=「金商法上の店頭デリバティブ取引の一種」
金融商品取引法 22 条柱書:
「この法律において『店頭デリバティブ取引』とは、金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行う次
に掲げる取引(その内容等を勘案し、公益又は投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるもの
として政令で定めるものを除く。
)をいう。
」
同法 22 項 6 号イ:
「当事者の一方が金銭を支払い、これに対して当事者があらかじめ定めた次に掲げるいずれかの事由が発生し
た場合において相手方が金銭を支払うことを約する取引(当該事由が発生した場合において、当事者の一方が
金融商品、金融商品に係る権利又は金銭債権(金融商品であるもの及び金融商品に係る権利であるものを除く。
)
を移転することを約するものを含み、第二号から前号までに掲げるものを除く。
)又はこれに類似する取引
イ
法人の信用状態に係る事由その他これに類似するものとして政令で定めるもの」
金融商品施行令 1 条の 13:
「法第二条第二十一項第五号イ及び第二十二項第六号イに規定する政令で定めるものは、法人でない者の信用
状態に係る事由その他事業を行う者における当該事業の経営の根幹にかかわる事由として内閣府令で定めるも
のとする。
」
金融商品取引法第 2 条に規定する定義に関する内閣府令 20 条:
「令第一条の十三に規定する内閣府令で定める事由は、債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として行
われる金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他の債務者に有利となる取決めとする。」
・保険業法:
「クレジット・デリバティブ」=「付随業務」
保険業法 98 条 1 項 6 号:
「保険会社は、第九十七条の規定により行う業務のほか、当該業務に付随する次に掲げる業務その他の業務を
行うことができる。
六
デリバティブ取引(資産の運用のために行うもの及び有価証券関連デリバティブ取引に該当するものを
除く。次号において同じ。
)であって内閣府令で定めるもの(第四号に掲げる業務に該当するものを除く。
)
」
保険業法施行規則 52 条の 2 の 2:
「法第九十八条第一項第六号及び第七号に規定する内閣府令で定めるものは、金融商品取引法第二条第二十項
に規定するデリバティブ取引(資産の運用のために行うもの及び有価証券関連デリバティブ取引に該当するも
のを除く。
)とする。
」
金融商品取引法 2 条 20 項:
「この法律において「デリバティブ取引」とは、市場デリバティブ取引、店頭デリバティブ取引又は外国市場
デリバティブ取引をいう。
」
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・金商法 2 条 22 項 6 号の内容 ⇒「保険」まで含まれる可能性
・保険は店頭デリバティブの定義から明示的に除外
金融商品取引法施行令 1 条の 15 第 2 号:
「法第二条第二十二項に規定する公益又は投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとし
て政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
二
保険業法第二条第一項に規定する保険業及び同項各号に掲げる事業に係る契約の締結」
・除外規定の理由:立案担当者の解説11:
「
(保険)については、実際に生じた損害をてん補するものであり、実需を超えた投機的な取引として
行われることは通常考え難いこと、また、……保険業法による規制も及んでいること等から、店頭デ
リバティブ取引としての規制(……)を及ぼす必要はないと考えられる。」
(括弧内報告者)
・
「損害てん補基準に基づく整理」+「保険業法による規制の存在」
・
「損害てん補の要素が存在しないネイキッド CDS」=「店頭デリバティブ」?
・
「損害てん補の要素が存在するカバード CDS」=「保険業」?
(2)
「損害てん補基準」から実質的理由付けによる区別へ
ヘンダーソンの見解の検討
①「線引き問題」の検討
・デリバティブ:リスクの移転が双方向 ⇒ 保険とは違う取引
・オプション、天候デリバティブ、地震デリバティブ:プレミアムの支払と引換に損失のみを相手方
に移転 ⇒ 保険との区別は曖昧 ⇒ 部分的には線引き問題が存在
・
「保険と区別できないデリバティブに対してなぜ保険規制を適用すべきでないのか」という実質的理
由を検討しなければならない。
②「クレジット・デリバティブ取引の目的の多様性」の検討
・裁定取引目的と保険目的は同時に存在可能
・裁定取引目的の存在が保険規制を適用すべきでないことの理由になるのか疑問
③「リスク集積の欠如」の検討
・
「カバード CDS」に限定 ⇒ 新しい考え方
・
「ネイキッド CDS」は損害てん補基準、「カバード CDS」は保険技術基準で整理?
・リスク集積が存在する可能性、保険会社と同様の問題が生じる可能性
11
松下美帆=酒井敦史=館大輔「金融商品取引法の対象商品・取引」商事 1809 号 30 頁(2007 年)
。
9
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④「規制範囲の限界」の検討
・問題:保険規制を回避することだけを目的として「取引の移転」が行われること(以下「規制潜脱
目的の取引移転」ということがある)
・ニューヨーク州規制提案の延期理由「CDS 市場の分割回避」の問題を敷衍
・カバード CDS と同様の内容を持つ取引を容易に複製できるのか?
・保険規制の適用によって取引当事者に発生する負担は相当なものになると推定
⑤「モラル・ハザードの問題」の検討
・
「保険規制がクレジット・デリバティブに包括的に適用されるか」という議論では問題とならない。
・
「モラル・ハザードを抑止するために設けられた個々の保険規制をクレジット・デリバティブに課す
べきか」という議論(立法論)において問題となる。
わが国おける解釈論
・
「市場の分割」⇒ 規制の非有効性や非効率性が生じることが問題 ⇒ 「規制潜脱目的の取引移転」
・
「ネイキッド CDS」と「カバード CDS」に分けて規制すべきではない。
・カバード CDS ⇒「損害てん補の要素」を具備 ⇒ 保険法1条「保険」、保険業法2条1項「保険業」
に該当する可能性
・
「規制潜脱目的の取引移転」の問題 ⇒「保険」や「保険業」には該当しないと解釈すべき。
・
「保険規制を適用する必要性が存在するかどうか」という観点から整理し直すもの
6
結語
・本報告の結論は従来の学説と同様。しかし、本報告が提示する理由付けの方がより説得的
・アメリカの議論:再度整理する契機となった点で有意義
本報告の射程
・
「規制潜脱目的の取引移転」という観点からの整理 ⇒ オプション、天候デリバティブ、地震デリバテ
ィブにも応用可能
本報告の残された課題
・保険に適用される制約と同様の制約が必要ではないか? ⇒「規制の整合性」の問題
・保険における「被保険利益」との関係が問題
・近時のアメリカの学説 ⇒ 被保険利益の要件との関係を議論
・今後は被保険利益の要件との関係について検討が必要
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