胸椎伸展運動の効果について 高見澤一樹 1) 西岡稔 1) 小沼亮 2) 北島

胸椎伸展運動の効果について
高見澤一樹 1) 西岡稔 1) 小沼亮 2)
1) 総合医療センター成田病院
2) 藤リハビリテーション学院
北島具秀(MD)1)
Key word
胸椎・FFD・肩関節
【はじめに】
胸椎には臓器の重さに対する支持,動作時の動的支持の役割があるとされている.また,胸椎後彎角
度が増加するほどバランス能力が低下するとの報告もあり,胸椎の変形が運動効率の悪い動作に繋がる
ことも考えられる.しかし,胸椎に着目した運動方法の報告は少なく,加齢に伴う脊柱変形に対する予
防策としても重要な課題であると考える.このような背景から今回,胸椎伸展運動の効果について検討
したので以下に報告する.
【方法】
対象は健常成人 35 名(男性 16 名,女性 19 名),平均年齢 20.1 歳(18-30 歳).対象を胸椎伸展運動を
行う A 群(n=20)とコントロール群の B 群(n=15)の 2 群に分類し,両群にて①胸椎伸展角度②指床
間距離(FFD)③肩関節屈曲角度を調査項目として比較検討した.胸椎伸展角度は WinSpineVer2.2.XX
(Zebris Medical GmbH 社製)を用い C7 と Th6 を結んだ線と Th6 と L1 を結んだ線との角度を測定
値とし,FFD はメジャーを使用し第 3 指と床との距離を測定値とした.また,肩関節屈曲角度について
は座位にて矢状面からデジタルカメラにて撮影,imageJ にて屈曲角度を 2 回測定し,その平均値を測
定値とした.統計処理には A 群,B 群の各調査項目を Wilcoxon 検定,群間比較については Mann-Whitney
の検定を用いて胸椎伸展運動の有効性を検討した(Bonferroni の補正を適用).また,群間比較の変化
値は割合(%)にて算出した.
【説明と同意】
対象者には本研究の趣旨を説明し同意を得た.
【結果】
A 群の胸椎伸展角度(平均±標準偏差)は運動前 157.8±5.4 度,運動後 160.9±4.5 度,FFD(平均±
標準偏差)は運動前 0±11.7 ㎝,運動後 3.6±9.5 ㎝,肩関節屈曲角度(平均±標準偏差)は運動前 148.0
±8.12 度,運動後 154.3±7.2 度となり各調査項目において有意差が認められた(P<0.016).これに対
し B 群に関しては各調査項目ともに有意差は認められなかった.一方,群間比較においては胸椎伸展角
度では A 群 1.95%,B 群-0.11%,FFD では A 群 59.43%,B 群 3.68%,肩関節屈曲角度では A 群 4.39%,
B 群 0.47%となり,FFD と肩関節屈曲角度の項目において有意差が認められた(P<0.016).
【考察】
胸椎伸展運動の効果として胸椎伸展角度への影響は認められなかったが,FFD と肩関節屈曲角度につい
ては影響を及ぼすことが示唆された.これは胸椎部に動作時の動的支持としての役割があることが推測
され,本運動は運動効率の良い動作へ身体を改善させる手段の一つであることが考えられる.