3次元形状デザインに自由変形を適用

No.29
2007.9
発行 富山県立大学 地域連携センター
■3次元形状デザインに自由変形を適用■
家電製品・携帯電話・自動車など、私達は多くの工業製品に囲まれて暮らしています。近年、
後発の工業国においても安く優れた製品が作れるようになり、我が国のリードが脅かされつつ
あります。資源のない日本にとっては、より付加価値の高い魅力ある製品を作り続けることが
重要です。すなわち、機械としての機能(精度・耐久性・軽量化・小型化・省エネなど)を追
求するだけでなく、製品の意匠性や操作性などを高めて、持って嬉しい・使って楽しいもので
あることが望まれます。そのような製品を作るためには、設計者の頭の中だけにある製品の姿
を目に見える形にすること、それも、デッサンや粘土模型よりも容易に扱える設計システムが
必要です。私の研究室では、3次元の形状デザインにおいて、製品の意匠性を高めるのに便利
で使い易いシステムを目指して、ソフトウェアの研究・開発を進めています。
【研究テーマの概要】
t-FFD による自由形状変形
3 次元の意匠デザインには、数十万枚以上の小さな三角形で構成する「メッシュモデル」が
よく使われます。データ形式が簡単である反面、形の一部を引っ張って伸ばす粘土のような変
形は、たくさんの三角形を一つ一つ動かさねばならず、とても困難です。そこで、少ない手順
で滑らかに変形するための手法として、自由形状変形(Free Form Deformation)が考えられ
ました。
t-FFD とは FFD の一種で、本学で開発しました(図 1、ACM Solid Modeling Sympo. 2003)
。
細かい三角形メッシュ M は変形前のウサギで、この耳を引っ張って伸ばす変形操作 を考え
ます。粗い三角形メッシュ B をシステムが用意し、設計者は操作 のような変形をすると、
システムが自動的に ・ を実行して耳の伸びたウサギ M’を作成します。このように、細
かい三角形を扱うのに、粗い三角形を使うことが特徴で、様々な応用が可能です。図 2 は、ド
ラゴンのアゴを変形範囲(紫色)とし、アゴ先端を指定した位置まで滑らかに伸ばしました。
図 3 は、手の指先に仮の骨格を作り、骨格の回転に合わせて指を曲げました。なお、t-FFD の
「t-」は三角形(Triangle)を意味しますが、富山発の技術であることも表わしています。
図1 t-FFD の仕組み
図2 t-FFD による直接変形
図3 t-FFD による骨格変形
テンセグリック・モデリングによる物理的な形状変形
例えば、水の入った袋の一部を押して全体に影響を及ぼすような変形では、t-FFD において
も多くの操作が必要になります。そこで、物理的な特性を3次元形状に与えるような、テンセ
グリック・モデリングを考案しました。その元となった「テンセグリティ」(Tensegrity)と
は、緊張(Tense)と統合(Integrity)を合わせた造語で、建築家のB・フラーが提唱する造
〈ご意見、ご感想等お寄せ下さい。〉
工学部 機械システム工学科 エコデザイン工学講座
准教授 小林 一也
TEL 0766-56-7500( 内線394)
電子メール [email protected]
形様式です。これを、3 次元形状モデルに応用したものが図 4 です。任意の三角形メッシュモ
デル(図では正二十面体)が与えられると、内部に「棒」と「ゴム紐」から成るテンセグリッ
ク構造を作ります。赤い点は固定され、青い点は自由に動くものとして、構造全体が釣り合い
の状態になるように計算します。形状の一部(二十面体の頂点)を動かすと、それに合わせて
全体が変形します。図 5 は、これを t-FFD の粗い三角形メッシュの変形に適用した例です。イ
ルカ に、粗いメッシュ を関連付け、テンセグリック構造 を生成し、形状全体に下向きの
力を与えて釣り合いの状態 を計算し、水に飛び込むような形 を作りました。有限要素法の
ような厳密な計算はしていませんが、わずかな操作で高速に変形結果が得られます。
テンセグリック・モデリングを人体形状変形に応用した例が、図 6 です。北陸エステアール
協同組合(南砺市 http://www.str.or.jp/)と 2005 ∼ 2006 年度に行なった共同研究で、補正下
着のオーダーメイドの際に、予想される体型変化を顧客に提示するシステムを目指しています。
同社が開発した人体スキャナ「クーゼット」で顧客の体型を読みとり、細かいメッシュ M を
得ます。そのサイズに合わせて粗いメッシュ B を生成し、内部にテンセグリック構造を作りま
す。上半身の補正下着は胸を締め付けるよう働きをするので、下着の種類ごとに「ゴム紐」
(図
6 右上の紫色の線)を設定します。この紐がテンセグリック構造を締め付けるものとして釣り
合いを計算すると、図 6 右下のような変形結果が得られます。将来は、体型の変化だけでなく、
どの程度の締め付けが起きているかを表示し、着用感が分かるようにしたいと考えています。
図4 テンセグリック変形
図5 テンセグリック・モデリングと t-FFD
図6 人体形状変形への応用
今回紹介する模型は、一見すると「大アゴ」を持っ
たクワガタムシのような概観をしています。クワガタ
ムシの大アゴは、ライバルを挟んだり、跳ね上げたり
する武器ですが、今回の模型は、棒やパイプなどを切
断するためのものです。それでは、以下に模型がどの
ように動作するかを説明しましょう。まず模型は、2
本のギザギザの長い刃 、刃が開閉できるように取り
付けられた長いネジ 、長いネジと組み合わされたナット で構成されており、これらが「さ
すまた」を想像させる形状のガイド に納められています。つぎに模型の動かし方ですが、ナッ
ト は横方向に移動しないように固定されているため、ナットを回転させると のネジが半透
明の矢印の方向に引き込まれます。この動きによって、ネジに取り付けられた 2 本のギザギザ
の刃も引き込まれ、「さすまた」部分に接触することで刃が閉じます。また、刃を閉じる力は、
ネジの増力機構によって増大されるため、棒やパイプを容易に切断することが可能となります。
さて、ここで話が変わりますが、今回紹介した模型は、これまで数点の模型を共同で復元し
てきた神谷佳孝氏が、今年度から本格的に模型の復元に参加することになり、製作を再開した
記念すべき作品です。今後は、佳孝氏の活躍にも期待してくださいね。
〈ダ・ヴィンチコーナーの見学希望等の問い合わせ先〉
工学部 知能デザイン工学科 マイクロナノシステム工学講座
准教授 神谷和秀(Kazuhide KAMIYA)e-mail [email protected]
TEL 0766 - 56 - 7500( 内線367) FAX 0766 - 56 - 8030
※この県立大学研究紹介は、
再生紙を使用しています。