インターネット広告に対してユーザが抱くネガティブな感情に 関する研究 A Study on Negative Emotions of Users with Respect to Internet Advertisement コミュニケーション学講座 0312012125 中島 聡一郎 指導教員:齊藤義仰,西岡大 利用者保護に関する調査研究」5) ,「ユーザの自発的閲覧 1. はじめに インターネット広告業界規模は平成 25 年のデータによ ると,平成 17 年から好調に規模を拡大しており,平成 21 年には広告規模第 2 位の新聞を抜き,テレビに次ぐ広告媒 体に成長している 1) .今後もインターネット広告の業界規 模は拡大するものとみられ,その広告費は 1 兆円を超える との試算もある.一方,インターネットを利用するユーザ の中には,ブログや SNS などの Web ページ上や Youtube 等 の動画サイトに毎回のように表示されるインターネット広 告に,ネガティブな感情を持っているユーザも存在する 2). ユーザがインターネット広告に対してネガティブな感情を 抱いていることで,インターネット広告を意図的に避けた り,インターネット広告の内容を見ずに削除している.こ のようにインターネット広告会社がいくらインターネット 広告を考え出稿してもユーザの目に届いていないのが現状 である.実際,インターネット広告にネガティブな感情を を誘導するインターネット広告に関する研究」 2),などか らインターネット広告に対して抱くネガティブな感情につ いて調査を行った. 文献 4 では研究目的として主に 4 つあげられる.一つ目 はインターネット広告としての範囲を確定する.二つ目は インターネット広告の用語を整理する.三つ目はインター ネット広告の媒体特性を明らかにする.最後にインターネ ット広告を加えたメディアプランニングを検討することと ある. 文献 5 は総務省情報通信政策研究所が 2010 年 3 月に公 表した調査研究である.目的として「行動ターゲティング 広告」が利用者に広く受容されるため,企業や情勢にどの ような取り組みが求まられるかについて,考察することと している. 3. 予備調査 持つユーザの中にはインターネット広告自動削除アプリ 本研究における関連研究である「メディアプランニング 「Adblock Plus」という,広告をブロックする拡張機能を におけるインターネット広告の役割」において,主要広告 利用しているユーザもいる.2014 年第 2 四半期時点におけ 媒体におけるそれぞれの特徴をあげておりインターネット る全世界での利用ユーザ数が 1 億 4400 万にのぼる.現状, 媒体の短所として信頼性が低いとしている. 「行動ターゲテ 「広告ブロック」ソフトによってブロックされているイン ィング広告の経済効果と利用者保護に関する調査研究」で ターネット広告は全体の約 14%であり 2015 年の推定額で は「行動ターゲティング広告」におけるユーザの理解不足 218 億ドルの損失額に上るという調査結果が報告されてい を問題視している. 「ユーザの自発的閲覧を誘導するインタ 3) る.また,損失額は年々増加傾向にある . ーネット広告に関する研究」ではユーザにとって必要のな 以上のことからも,インターネット広告に対するユーザ い,興味のないインターネット広告を配信しているとある. のネガティブな感情を改善することは急務であると言える. これら関連研究よりあげられる「インターネット媒体へ しかし,ユーザがインターネット広告に対して抱く「ネガ の信頼性の低さ」,「ユーザの理解不足」,「必要のないまた ティブな感情」が一体どのような感情なのか,またインタ 興味のないインターネット広告の配信」などがインターネ ーネット広告に対して抱く感情としてどのようなネガティ ット広告に対してユーザがネガティブな感情を抱く一因に ブな感情を強く抱くのかはまだ明らかになっていない.本 なっていると考えられる. 研究ではユーザがインターネット広告に対して抱いている また,インターネット広告自動削除アプリ「Adblock Plus」 ネガティブな感情がどのような感情なのか,またインター のレビューから実際の利用者の声を収集した.レビューの ネット広告に対して抱く感情としてどのようなネガティブ 内容からそれぞれインターネット広告に対してどのような な感情を強く抱くのかを明らかにする. 感情を抱いているのかカテゴリ分けを行った.カテゴリ分 2. 関連研究 インターネット広告に抱くネガティブな感情とはどの ような感情があるのかインターネット広告に関する関連研 究である「メディアプランニングにおけるインターネット 広告の役割」 4)や「行動ターゲティング広告の経済効果と けを行った結果, 「Adblock Plus」のレビューからは自身に とって無駄である,鬱陶しい・うるさいインターネット広 告が削除された,またインターネット広告自体に煩わしい, 疑わしいというレビューが多く見られた. 関連研究であげられたネガティブな感情を抱く一因や インターネット広告自動削除アプリ「Adblock Plus」のレ ケート調査の結果を表 1 に示す.調査結果では,関連研究, ビューからあげられたネガティブな感情以外にもインター 「Adblock Plus」のレビューからあげられたインターネッ ネット広告に対して抱くネガティブな感情があるのか「ソ ト広告に対して抱くネガティブな感情と思われる「鬱陶し ーシャルメディアにおける災害情報の伝播と感情:東日本 い」が 149 点, 「厭わしい」が 114 点, 「怪しい」が 111 点, 6) 大震災に際する事例」 であげられているネガティブ感情 「訝しい」が 74 点,「胡散臭い」が 128 点とどのネガティ のリストよりネガティブな感情を調査した.当該研究では, ブな感情も平均を上回る結果となった. 「怒り」と「不安」に該当するネガティブな感情をリスト 表 1:アンケート調査結果(平均以上) 化している.例として「怒り」には腹立たしいや苛立たし い,鬱陶しい,厭わしいなどがある.また,「不安」には怪 しい,訝しい,気味悪い,胡散臭いなどがある. 関連研究よりあげられた「インターネット媒体への信頼 性の低さ」,「ユーザの理解不足」によってユーザがインタ ーネット広告に対して怪しい,訝しい,胡散臭いというネ ガティブな感情を抱いている.また, 「必要のないまた興味 のないインターネット広告の配信」によって鬱陶しい,厭 わしいというネガティブな感情を抱いてしまうと考えられ る.さらに, 「Adblock Plus」のレビューで多くあげられた 本調査の結果を踏まえユーザはインターネット広告に対 「うるさい」, 「面倒」がネガティブ感情リストの鬱陶しい, して「不安」というネガティブな感情より「怒り」という 「煩わしい」が厭わしい,「疑わしい」が怪しい,訝しい, ネガティブな感情を強く抱くといえる.したがってユーザ 胡散臭いにそれぞれ該当すると考えられる. がインターネット広告に対して抱く「怒り」の感情を軽減 そこで文献 6 よりあげられるネガティブな感情がインタ させることが出来れば,広告ブロックによる損失の軽減に ーネット広告に対して抱くネガティブな感情にどの程度当 つながると考えられる.そこでユーザの行動や表情などか てはまるのか分析を調査にて行う.調査の分析結果を基に, ら「怒り」を感知した際,インターネット広告の配信を控 インターネット広告に対して抱くネガティブな感情とはど えるようなシステムを考える. のようなものなのか,またどのネガティブな感情を強く抱 5. おわりに くのかを明らかにする. 本研究では,ユーザがインターネット広告に抱くネガテ 4. 本調査 ィブな感情を具体的にどのようなものなのかまたどのよう 文献 6 のネガティブ感情のリストを利用しユーザ調査を なネガティブな感情を強く抱いているのか調査を行った. 実施した.行ったユーザ調査ではインターネット広告に対 調査の結果ユーザはインターネット広告に対して「不安」 して抱くネガティブな感情としてあげられた「鬱陶しい」, よりも「怒り」のネガティブ感情を強く抱いていることが 「厭わしい」,「怪しい」,「訝しい」,「胡散臭い」というネ 明らかになった.今後は本研究の調査結果をもとにユーザ ガティブな感情が,文献 6 であげられたネガティブな感情 がインターネット広告に抱くネガティブな感情の軽減策, と比較しインターネット広告に対して抱くネガティブな感 改善策の考案を今後の課題とする. 情としてどのように位置するのかを調査する目的でアンケ ートを行った. 参考文献 本調査では大学生の男女(27 人,男 23 人,女 4 人,18 1) 株式会社 CyberZ:スマートフォン広告市場動向調査, https://cyber-z.co.jp/cp-upfiles/2015/02/【CyberZ】2015 年 版スマートフォン広告市場動向調査 150218.pdf. 2) 四之宮 一仁, 濱本和彦:ユーザの自発的閲覧を誘導するイン ターネット広告に関する研究,FIT2011(第 10 回情報科学技術フォ ーラム),pp503-506(2011). 3) PegeFair,Adobe:The cost of ad blocking,PageFair and Adobe 2015 Ad Blocking Report. 4) 新井 亨:メディアプランニングにおけるインターネット広告 の役割,商学研究第 46 巻 1・2 号,pp67-81(2005). 5) 総務省 情報通信政策研究所:行動ターゲティング広告の経済 効果と利用者保護に関する調査研究 報告書,2010 年 3 月. 6) 三浦 麻子,鳥海 不二夫,小森 政嗣,平石 界:ソーシャルメ ディアにおける災害情報の伝播と感情:東日本大震災に際する事 例,人口知能学会論文誌 31 巻 1 号 pp1-9(2016). 才~23 才)を対象に SD 法を用いた調査を行った.対象の ネガティブな感情に関して 1,まったく当てはまらないか ら 7,非常に当てはまるまでの 7 段階で評価を行ってもら った.また,対象者の属性を調査するために普段のインタ ーネット広告の利用頻度や総合的なインターネット広告に 対しての印象について調査を行った. 本調査の結果から各ネガティブな感情の度合いを明ら かにするためにまったく当てはまらないを「1 点」,非常に 当てはまるを「7 点」として各回答者の対象感情における 合計点を総回答者数で割ることにより算出した.上記の方 法を用いて平均を算出した結果 70.5396825 となった.アン 2
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