A4892K 第26号 2013年5月19日発行 東洋紡 ニュースレター 遺伝子検査について 核酸増幅を利用しない方法(続き) 2.ハイブリッドキャプチャー法(Hybrid Capture) ハイブリッドキャプチャー法は、核酸増幅を利用しない遺伝子検査方法です。検体にRNAプ ローブを添加して、標的遺伝子に、ハイブリダイゼーションさせます。「標的DNA/RNAハイブ リッド」を「固相化した抗DNA/RNAハイブリッド抗体」により補足します。アルカリフォスファター ゼ等で標識した「抗DNA/RNA抗体(標識抗体)」と反応させて、多くの「標識抗体」と「標的 DNA/RNAハイブリッド」が結合します。その後、化学発光基質を添加すると、発光反応が生じ ます。その発光を測定することで、標的遺伝子を検出することができます。 3.インベーダー法(Invader) ① ② ③ ④ 図1 インベーダー法について Invader法は、PCR増幅を必要としないSNP(DNA 上の1塩基の置換変異)同定法です。Invader法は、 2つのアレルに特異的な2種類のプローブ(アリルプ ローブおよびインベーダープローブ)とCleavase(Flap Endonuclease)と呼ばれるエンドヌクレアーゼが使用 されます。 ①この2つのプローブをテンプレートDNAと混ぜて二 本鎖形成反応を行うと、アリルプローブとテンプレー トで形成される二本鎖のSNP部位にインベーダープ ローブが1塩基侵入することになります。 ②Cleavaseは、この構造を認識してアリルプローブ の二本鎖を形成していないフラップ配列部分を切断 します。 ③反応液内には、2種のアリルプローブのフラップ 配列に相補的な一本鎖部分を有する検出プローブ (FRET)が入っており、切断されたフラップは相当す る検出プローブに結合します。 検出プローブは、その分子内で二本鎖を形成する 構造を持ち、蛍光基と消光基で標識されており、分 子内で消光しています。 ④ここにフラップが結合すると、蛍光基を標識した一 本鎖部分がCleavaseにより切断され、FRETが解除 され蛍光が発光します。 この方法では、一定温度で実施でき、PCRも不要 であることからコストが抑えられる利点がありますが、 サンプルDNAが他の方法に比べ大量に必要となる 欠点もあります。 参考文献 遺伝子検査技術 克誠堂出版 より 東洋紡 ニュースレター 保険適用されている遺伝子検査と遺伝子検出技術について 番号 D004-2 D006-2 D006-3 D006-4 D006-5 D006-6 D006-7 D006-8 D006-9 D023 点数 悪性腫瘍組織検査 1 悪性腫瘍遺伝子検査 イ EGFR遺伝子検査 ロ K-ras遺伝子検査 ハ EWS-Fli 1遺伝子検査 ニ TLS-CHOP遺伝子検査 ホ SYT-SSX遺伝子検査 ヘ c-kit遺伝子検査 ト マイクロサテライト不安定正検査 チ センチネルリンパ節生検に係る遺伝子検査 造血器腫瘍遺伝子検査 Major BCR-ABL1mRNA 遺伝子学的検査 染色体検査 免疫関連遺伝子再構成 UDPグルクロン酸転移酵素遺伝子多型 サイトケラチン19(KRT19)mRNA検出 WT1mRNA 微生物核酸同定・定量検査 1 細菌核酸検出(白血球)(1菌種当たり) 2 淋菌核酸検出、クラミジア・トラコマチス核酸検出 3 HBV核酸定量 4 淋菌及びクラミジア・トラコマチス同時核酸検出、レ ジオネラ核酸検出、マイコプラズマ核酸検出 5 HCV核酸検出、HPV核酸検出 インフルエンザ核酸検出、抗酸菌核酸同定、結核菌 6 群核酸検出 マイコバクテリウム・アビウム及びイントラセルラー 7 (MAC)核酸検出 HCV核酸定量、HBV核酸プレコア変異及びコアプロ 8 モーター変異検出、ブドウ球菌メチシリン耐性遺伝 子検出、SARSコロナウイルス核酸検出 9 HIV-1核酸定量 10 結核菌群リファンピシン耐性遺伝子検出 11 HPVジェノタイプ判定 12 HIVジェノタイプ薬剤耐性 方法 2100 2100 2100 2100 2100 2500 2100 2100 2100 1200 4000 2730 2520 2100 2100 2520 PCR,SSCP,RFLP PCR,LCR.サザンブロット TMA PCR.,LCR,サザンブロット インベーダー OSNA RT-PCR 130 210 DNAプローブ,LCR,SDA,PCR 290 分岐DNAプローブ,TMA,PCR 300 TMA,HPA,PCR,SDA 360 PCR,TMA 410 LCR,LAMP 保険診療において、多くの遺伝子 検査項目が承認されています(表2)。 検査項目としては、感染症はもちろん テーラーメイド医療の項目も増加して います。検査項目によっては、対象 の検出方法が限定されている項目も あります。 東洋紡ニュースレターでは、前号か ら体外診断薬の遺伝子測定方法に ついて紹介してきました。その他、研 究用途や、保険適用されている遺伝 子検出法について、追加して紹介し ます。 421 PCR,分岐DNAプローブ 450 ED-PCR LAMP 520 PCR 850 2000 6000 表2 保険適用されている遺伝子検査項目 参考文献 医科診療保険点数表 平成24年4月版 発行所 社会保険研究所 より 1.シークエンス法(sequencing) ゲノムDNA上の遺伝子変異やPCR、RT-PCRなどの増幅産物が目的とするものであるかを 確認する方法の一つとしてシークエンス解析があります。DNAの塩基配列決定法には多くの 方法がありますが、ここでは検査室として最も導入しやすいダイデオキシヌクレオチドとサイク ルシークエンス法を基本原理としたキャピラリー電気泳動による塩基配列決定法を紹介しま す。 1.ダイデオキシ法とサイクルシークエンス反応 ダイデオキシ法は、DNAポリメラーゼがDNAを合成する反応を利用して塩基配列を決定する 方法です。DNAポリメラーゼは、鋳型DNAに結合したプライマーをもとにデオキシヌクレオチド (dNTP)が連結し、5’から3’に相補鎖DNA鎖を合成する。このとき一定の割合で蛍光標識ダイ デオキシヌクレオチド(ddNTP)を混在させておくと、一定の確率でddNTPが取り込まれる。蛍光 標識ddNTPが取り込まれたDNA鎖は、それ以降の合成反応が停止し、種々の長さのDNA鎖 が合成される。 サイクルシーケンス反応は、このダイデオキシ法を、サーマルサイクラーを用いて熱変性、 アニーリング、DNA伸長反応を連続的に繰り返す方法です。反応試薬には、鋳型DNA、シー クエンスプライマー、DNAポリメラーゼ、および蛍光標識ddNTPを含むdNTPを用い、96℃で鋳 型DNAを熱変性し、50℃でシークエンスプライマーを鋳型DNAにアニーリングさせ、60℃で DNA合成反応を行います。このとき一定の割合で蛍光標識ddNTPが取り込まれ、合成反応が 停止し、鋳型DNAの塩基配列に対応した種々の長さの産物が合成されます。 2.キャピラリー電気泳動 サイクルシークエンス反応によって合成されたシークエンス反応産物をエタノール沈殿法な どを用いて精製し、ホルムアミドなどの変性条件下に電気泳動を行います。シークエンス反応 産物は、長さの短い順に泳動され一塩基ごとに分離されます。それぞれのddNTPによって異 なる蛍光色素によって標識されているので、レーザー光とCCDカメラによって異なる色の蛍光 ピークとして検出され、塩基配列を解析することができます。 引用文献 遺伝子検査技術 克誠堂出版 より 第26号 2.サザンブロット法(Southern blot) 1975年Southernは、細胞DNAを制限酵素で消化し、得られた 種々の長さのDNA断片をアガロース電気泳動で分離し、アルカ リ処理により一本鎖にした後、ニトロセルロース膜に転写し、標 識DNAプローブとハイブリダイズさせることによって目的とする 遺伝子を容易に同定する方法を考案しました。それ以降、この 技術は、考案者の名前にちなんでサザンブロット法と命名され ました。 サザンブロット法は、目的とする遺伝子の全体像やクローン化 されたDNAの性状を明らかにする場合になどに用いられ、サザ ンブロット法を用いた実験だけでも多くの情報が得られます。サ ザンブロット法は、以下の3ステップからなります。 a) DNA断片をアガロースゲル電気泳動によって分離する。 b)分離されたDNA断片をメンブランに転写する。 c)メンブラン上のDNA断片にプローブDNAをハイブリダイズさせ、 目的の断片を検出する。 図3 サザンブロット法でのゲル内DNA のメンブランへの転写 引用文献 遺伝子検査技術 克誠堂出版 より 3.SSCP法(Single Strand Conformational Polymorphism) 熱変性させた一本鎖DNAを常温に戻すと分子 内水素結合により高次構造を形成します。わずか な塩基配列の変異によりこの高次構造が変化し、 非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動の移動度 が変ります。この原理を利用して、遺伝子の変異 や多型を検出する手法がSSCP (Single Strand Conformational Polymorphism)です。特に、PCRに より増幅して得られた増幅産物を試料DNAとして 検出操作を実施する場合、PCR-SSCPとよばれま す。SSCPは未知の変異を検出できるが、全ての 変異を分離できるということでもありません。また、 一本鎖DNAの高次構造は温度に大きく影響され ることから、再現性の高い結果を得るためには水 冷型の電気泳動装置を用いることが必要です。 図4 SSCP法の原理 引用文献 もっと知りたい!PCR実験 より 講談社 4.RFLP法(Restriction Fragment Length Polymorphisms) RFLPとは、Restriction Fragment Length Polymorphismsの略であり、制限酵素切断パ ターンにより遺伝子多型を検出する方法です。 SNPの部位が制限酵素認識配列にある場合の み適用できる方法です。以前は、サザンハイブ リダイゼーションにより検出を行っていましたが、 PCRで対象となる領域を増幅することにより、ア ガロースゲル電気泳動により簡単に検出できる ようになりました。 図5 RFLP法の原理 引用文献 もっと知りたい!PCR実験 より 講談社 主な学会開催予定(2013年5月~2013年6月) 学会名 開催日 開催場所 参考URL 5/9-10 名古屋国際会議場(愛知) http://www.c-linkage.co.jp/jacs30/ 日本産科婦人科学会学術講演会 (第65回) 5/10-12 ロイトン札幌他(北海道) http://jsog.umin.ac.jp/65/index65.htm 日本腎臓学会学術総会(第56回) 東京国際フォーラム(東京) http://jsn56.umin.jp/ 日本アレルギー学会春季臨床大会(第25回) 5/11-12 パシフィコ横浜(神奈川) http://jsa25.umin.jp/ 日本産業衛生学会(第86回) 5/15-17 ひめぎんホール(愛媛) http://jsoh86.umin.jp/index.html 日本糖尿病学会年次学術集会(第56回) 5/16-18 ホテル日航熊本他(熊本) http://www2.convention.co.jp/jds56/ 日本医学検査学会(第62回) 5/18-19 サンポートホール高松他(香川) http://www.convention-w.jp/62jamt/ 日本血液病理研究会(第16回) 5/18 国立京都国際会館(京都) http://shinsen.biz/ketsueki16/ 日本内分泌外科学会総会(第25回) 5/23-24 山形テルサ(山形) http://www2.convention.co.jp/25jaes/ 日本神経学会学術大会(第54回) 5/29-6/1 東京国際フォーラム(東京) http://www.congre.co.jp/neuro54/ グランドプリンス新高輪(東京) http://jscc54s.umin.jp/ 2013年5月 日本呼吸器外科学会総会(第30回) 5/10-13 日本臨床細胞学会総会(春期大会)(第54回) 5/31-6/2 2013年6月 日本感染症学会学術講演会(第87回) 6/5-6 パシフィコ横浜(神奈川) http://jaid_jsc.umin.jp/ 日本化学療法学会学術総会(第61回) 6/5-6 パシフィコ横浜(神奈川) http://jaid_jsc.umin.jp/ 日本肝臓学会総会(第49回) 6/6-7 京王プラザホテル(東京) http://accessbrain.co.jp/jsh49/index.html 日本医療機器学会大会(第88回) 6/6-8 横浜パシフィコ(神奈川) http://www.jsmi.gr.jp/connection/index.html 日本病理学会総会(第102回) 6/6-8 ロイトン札幌(北海道) http://www.congre.co.jp/jsp2013/ 日本臨床ウイルス学会(第54回) 6/8-9 倉敷市芸文館(岡山) http://www.med-gakkai.org/jacv54/ 日本遺伝カウンセリング学会学術集会(第37回) 6/20-23 川崎市産業振興会館 http://www.congre.co.jp/jsgc37/ 日本透析医学会学術集会・総会(第58回) 6/21-23 福岡国際会議場他 http://www.congre.co.jp/jsdt2013/ 日本病院学会(第63回) 6/27-28 朱鷺メッセ他 http://www.hospital.or.jp/gakkai.html 日本ヘリコバクター学会学術集会(第19回) 6/28-29 長崎大学他 http://aeplan.co.jp/jshr2013/Japanese/index.html 日本臨床検査専門医会春季大会(第23回) 6/28-29 湯本富士屋ホテル http://www.jaclap.org/spring/index.html *開催日等は変更される場合があります。参加される際は必ずご確認ください。 *「The Medical & Test Journal」より抜粋 東洋紡株式会社 診断システム事業部 本社 大阪市北区堂島浜二丁目2番8号 東洋紡ビル 〒530-8230 TEL: 06-6348-3335 URL: http://www.toyobo.co.jp/seihin/dsg/
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