シドニー都市圏の特徴 その3 モンスーンアジア生まれの分布

シドニー都市圏の特徴
その3
モンスーンアジア生まれの分布
一般にシドニーと呼ばれる地域はどの範囲をどこかというのは実際は非常に難しい。行政と
してのシドニー市はハーバーブリッジの南側の高層ビルが林立している人口約1万4千人の狭い範
囲でしかない。この地域は一般にシティと呼ばれている。もう1つのシドニーはいわゆるシドニー
都市圏で今回の調査対象でもある。図1はシドニー都市圏を示している。統計等でもシドニーとし
て捉えれられている地域で人口 393. 5 万人でグレート・ディバイディング山脈より東、ホークス
バリー川より南、王立公園より北側の範囲である。私はシドニー中心部より約 15km に住んでいた
が遠方へ行った時に「シドニーから来た」で理解されていた。シドニー都市圏には図1で示してあ
るように 40 の市がある。市の規模は大小あるが概ね日本の市町村と同じ程度の規模である。シド
ニー都市圏の広さは、南北約 70km、東西約 50km の広さ約 35,00㎢である 。(鳥取県は3,507㎢)
図1
シドニー都市圏都市名
1 Sydney、
2 Woollahra、
3 Waverley、
4 Randwick、
5 South Sydney、
6 Botany、
7 Rockdale、
8 Kogarah、
9 Hurstville、
10 C a n t e r b u r y 、
11 M a r r i c k v i l l e 、
12 L e i c h h a r d t 、
13 D r u m m o y n e 、
14 A s h f i e l d 、
15 B u r w o o d 、
16 S t r a t h f i e l d 、
17 C o n c o r d 、
18 A u b u r n 、
19 H u n t e r ' s H i l l 、
20 L a n e C o v e 、
21 N o r t h S y d n e y 、
22 W i l l o u g h b y 、
23 M o s m a n 、
24 M a n l y
シドニー都市圏行政区域
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1.東南アジア生まれの分布
図1
東南アジア生まれの分布(1996)
東南アジア生まれは 142,841 人とイギリス
生まれに次いで多い。分布は Sydney 市南部か
図2
東南アジア生まれの割合(1996)
ら南西 部 に 多 く な っ て お り 、 東 ・ 南 ヨ ー ロ ッ パ 生 ま れ や 中 近 東 生 ま れ の 分 布 と 似 て い る 。
F a i r f i e l d 市に 34,956 人 、Blacktown 市に 12,464 人、Canterbury 市 に 8,658 人 、Banckstown 市に 8,151
人などとなっている。これに対して北部の分布は少ない。海外生まれの中で東南アジア生まれの割
合をみると図2のように なっており、同じ
ような傾向が見られ、 Fairfield 市が最も高く
で 36 %占めている。次いで Sydney市が 21.7
%、 auburn市が 20.2 %とこの3市で 20 %を
超えている。全体的に Sydney 市周辺とその
南西部の市において割合 が高い。これに対
して Sydney 市の北側の地域では割合が低く
なっている。
国別に見ていくとベト ナム生まれが最も
多く 46,106 人となっている 。、ベ ト ナ ム 生
ま れ が 最 も 多 い の は Fairfield 市で 19,407 人
と全体の 42 %が集中している。これに対し
図3
ベトナム生まれの分布
てフィリピン生まれは 41,348 人で西部の
Blacktown市に 10,873 人で全体の 26.3 %が分布している。マレーシア 生 ま れ は 17,327 人 で 東 南 ア
ジ ア 生 ま れ の 分 布 よ り や や 北 寄 り 分 布 し て い る 。 イ ン ド ネ シ ア 生 ま れ が 15,493 人 な ど と な
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図4
フィリピン生まれの分布
図5
マレーシア生まれの分布
っている。
2. 南アジア生まれの分布
南アジア生まれは全体で 43,097 人
で、インド生まれが 24,643 人、スリ
ランカ生まれが 11,832 人と多いが同
じ旧イギリス植民地であったパキス
タンやバングラデシュなどイスラム
圏は少ない。 Sydney 市西部の Blackto
wn 市、 Parramatta 市で多くなってい
る。また、それより西側の市も多く
なっている。個別に見ていくとスリ
ランカ生まれの2位の分布地として
Strathfield市になっており、Strathfield
市全体に住む南アジア生まれの中で
スリランカ生まれがほとんどである 。
割合でも同じような傾向が見られ、
図6
南アジア生まれの分布
Blacktown市 、Parramatta 市とその西側の市の割合が高くなっている。
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図7
3.
インド生まれの分布
図8
スリランカ生まれの分布
東アジア生まれの分布
日本人は全体で 6,503 人である
がその分布は図11で示したよう
に地域的な偏りが見られる。
Sydney 市とはシドニー湾を隔てて
対岸ノースショアと呼ばれる地域
や Sydney 市とその東側の地域に集
中している 。North Sydneyに 1,199
人と最も多く、ノースショアの
Warringah 市 847 人、 Manly 市 258
人、 Hornsby 市 220 人、 Mosman 市
217 人、などとなっており、また
Sydney市 368 人、 Woollahara市 983
人、 South Sydney市 792 人、
Waverley市 349 人、 Randwick市 321
図9
日本人生まれの分布
人など Sydney 市とその周辺にも多く見られる。著者は3年間シドニー都市圏で生活していたがノ
ースショアの Warringah 市に住んでいた。この Warringah市にはシドニー日本人学校もあり、企業の
人たちやその家族などが住んでいる。学齢期の子どもを持つ家庭で子どもをシドニー日本人学校へ
通わせようとすると他の地域からの通学はほとんど不可能なのでこの地域に住まないといけな
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図10
中国生まれの分布
図11
韓国生まれの分布
い。これに対して Sydney 市やその周辺に住んでいるのは留学生やワーキングホリデーの人たちで
ある。シドニー都市圏内には総合大学が4つあるがその中の代表的な大学であるシドニー大学やN
SW(ニュー・サウス・ウェールズ)州立大学はこの地域にあり、必然的に留学生もこの地域に集
中する。3年間住んでいたが留学生やワーキングホリデーの人たちとはほとんど交流することもな
かった。同じ日本人といっても状況が大きく異なっている。
中国生まれの分布は sydney 市の周辺とその南部に多く分布している。 cantaerburyに 4207 人 、
Fairfieldに 3854 人、 Ahfieldに 2942 人住んでいる。東南アジア生まれや東ヨーロッパ生まれに近い
分布をしている。韓国生まれも中国生まれと同様な分布をしている。しかし中国生まれの多い
Fairfield 市には分布していない。
4.シドニーのベトナム
カブラマッタ
次に各地域ごとの状況について見ていくと海外生まれ
の割合が最も高い Fairfield 市は東南アジア生まれが最も
多く 34,956 人おり、更にこの東南アジア生まれの中でベ
トナム生まれが 24,737 人となっており、海外生まれの中
で東南アジア生まれの割合は 36 %に及ぶ、ベトナム生
まれだけでも 25.5 %も占めている。まさしく「 シドニ
ーの中のベトナム 」といっても過言ではないであろう。
ベトナム生まれだけで Fairfield市の人口の 13.6 %も占め
写真1
カブラマッタの商店街
ている。シドニー大都市圏内に 46,106 人のベトナム生まれが住んでいるがその中で Fairfield市に実
に 53.7 %集中している。この Fairfield市の中でカブラマッタにはベトナム系住民が集中しており、
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ベトナム人街ともいえる地域になっている。カブラ
マッタ地区はシドニー中心部とはシティレールと呼
ばれる州営鉄道で結ばれている。カブラマッタ駅は
カブラマッタ地区の玄関口である。駅の西側には商
店街が形成され、写真1のように中国語やベトナム
語の看板があふれている。また、商店街の中には写
真2のように中華街の門も作れれている。ここで交
わされる言語は広東語を中心とした中国語やベトナ
写真2
カブラマッタの中華街の門
ム語である。また、商店街の近くには写真3のよう
な移民用の集合住宅もある。シドニーへ来たベトナ
ム系移民はこの町に住み、仕事を探すことになるが
なかなか仕事はなく暴力組織に入ってしまう人も多
い。著者が滞在していた間にも暴力組織壊滅運動を
行っていた地元選出の州議会議員が暗殺されたり、
暴力組織同士の抗争でボスが暗殺されるという事件
も起こっていた。この集合住宅からは周辺の状況を
写真3
移民用の集合住宅
見ている者もおり、やや物騒な気配
も感じる。しかし、商店街などは危
険を感じることもなく気軽に買い物
南アメリカ
西ヨーロッパ
オセアニア
東ヨーロッパ
東アジア
ができるように思う。シドニーにい
てベトナムを感じることのできる場
所である。このカブラマッタはベト
南ヨーロッパ
ナム系住民だけが多いわけでなく、
ユーゴスラビア、イタリア、ポーラ
ンド、ドイツ、レバノン各生まれな
中東
東南アジア
ど各国の出身者がおり、まさに「人
種のるつぼ」ともいえる状況になっ
ている。東南アジア、東ヨーロッパ
図12カブラマッタの住民の出生地
(除くオーストラリア)
生まれの人々の割合が高い地域である。カブラマッタで話されている言語(英語を除く)は、中国
語が第1位で 31.9 %、ベトナム語が第2位で 20.6 %を占めこの2言語で約5割を占めている。そ
して南ヨーロッパのスペイン語、イタリア語が続き、東ヨーロッパのセルビア・クロアチア語とな
っている。このように多民族国家オーストラリアを代表するような地域である。
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