学術コーナー 尿中有形成分測定装置の役割と利用について

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学術コーナー
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尿中有形成分測定装置の役割と利用について
富士レビオ株式会社
モルフォロジー事業推進部
狩 野 宏 晃
【はじめに】
尿検査は、非侵襲の検査として診療科を問わず実施され、診療の初期段階で病態を把握す
る重要な検査として位置づけられています。さらに尿沈渣検査は腎・尿路系疾患をより詳
細、的確に把握するため、尿定性検査とは異なる目的・視点で実施されています。
一方、現在の検査室は医療サービスとしての検査情報提供のクオリティと業務・作業効率
の向上が求められており、尿検査の領域においても尿定性検査、尿化学検査のみならず尿沈
渣検査も含めた運用方法の改善が必要となってきました。
尿沈渣検査は尿中の有形成分を観察しその形態から分類を行うという特性上、他検査に比
べ自動化の普及が遅れていました。尿沈渣検査の自動化は、1
98
2年に米国のIRIS
Interna-
tional, Inc.によって開発されたYellow IRISによって始まりました。国内へのYellow IRIS
導入の後、1990年代には国内メーカー装置も開発され、近年では尿中有形成分の検出、分類
能力などの性能が向上した数機種の測定装置のルーチン利用が普及しています1,2)。
また、201
1年3月に発行された「尿沈渣検査法2
0
10」には尿中有形成分測定装置の活用に
ついて記載されており、検出精度や詳細分類の限界などの特性を十分理解することで、一般
検査業務の省力化や迅速化への貢献、成分画像の保存による臨床への情報提供や教育面の有
用性などの利点を活かすことができるとの見解が示されています3)。
本稿では、尿中有形成分測定装置の役割と利用に際しての考え方、具体的な運用方法につ
いて述べさせていただきます。
【尿中有形成分測定装置の役割】
尿沈渣検査は腎・尿路系の病態を把握する上で重要な意義を持っています。尿沈渣検査で
は尿中の有形成分形態から、上皮細胞類、塩類・結晶類、円柱類など臨床的に意義のある成
分を検出することで、病変部位、重症度の推定が行われます。また非侵襲的に得られる尿を
検体とすることから採取に対する患者負担は少なく、腎・尿路系病変の有無を把握するため
のスクリーニング検査として広く実施されています。
一方で、その実施には検査技師による複数の作業が発生し、正確な計数、有形成分の判別
には熟練を要します。またスクリーニングとして実施される尿沈渣検査ではほとんど意義あ
る成分が確認されない場合が多く、これらの検体についても尿沈渣検査が有効である場合と
同様に標本作製、顕微鏡による観察が行われます。
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検査室を含めた医療の効率化が求められる中、熟練した技術を持つ検査技師の技術を活か
すとともに、適切に尿沈渣検査の実施が必要な検体を抽出し適正・迅速な処理を行うことが
必要であると考えられます。
近年、こうした尿沈渣検査の課題への対応として、尿中有形成分測定装置の利用が普及し
ています。装置の利用により尿中有形成分の比較的少ない検体を迅速に処理し、必要な検体
についてのみ尿沈渣検査を実施することで、作業負担を軽減と正確な検査結果報告の両立が
期待されます。
【尿中有形成分測定装置の利用】
尿中有形成分測定装置はその特性を把握した上で効果的に利用することが必要であり、導
入にあたっては各機種の分類性能や報告形式を理解し、各診療科のニーズに対応した運用フ
ローを構築する必要があります。また日本臨床検査標準協議会(JCCLS)発行の尿沈渣検査
法提案指針(JCCLS
GP1―P3)1)では、尿中有形成分測定装置での検査を尿沈渣検査とは異
なるものと位置づけ、尿中有形成分情報として取り扱うことが望ましいとの考え方が示され
ています。
尿中有形成分測定装置は装置毎に報告可能な測定項目が規定されています。そのため、上
皮細胞類、円柱類や塩類・結晶類の詳細分類を要する検体については、装置にて得られた有
形成分画像または尿沈渣検査による確認が行われます。
尿沈渣検査の実施が必要な検体の抽出は、尿中有形成分測定装置による測定値、画像情報
確認による判定、定性検査結果などを考慮した運用基準に従って行われます。この運用基準
は装置特性や臨床ニーズによって医療機関ごとに設定されます。したがって、沈渣鏡検実施
数の削減度合い(鏡検率)によって示される尿中有形測定装置の導入効果は、設定された運
用基準によって変化します。
有形成分測定装置を利用した際の報告形式例(図1)
)
自動分類報告
尿中にほとんど有形成分が認められない、または質的・量的に確認を要する成分がみら
れない場合には装置の自動分析性能による測定結果が報告されます。
*
画像閲覧による確認・修正後報告(画像閲覧可能な装置)
異常値が確認された場合、または円柱、結晶など詳細分類が必要な成分が検出された場
合には取得した有形成分画像を閲覧し確認を行います。必要に応じ、装置上で表示され
る画像により確認、修正、詳細分類が行われ、確定した結果が報告されます。
+
尿沈渣報告
定性検査結果、自動分類報告値、画像閲覧による報告値、定性検査と本装置との比較
(赤血球数、白血球数)を検証し、尿沈渣検査を実施するべき検体が抽出されます。特
に異型細胞、尿細管上皮細胞、円柱など、異常度の高い成分が検出された(される可能
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図1
尿中有形成分測定装置
運用フロー例
性が高い)尿検体については沈渣鏡検の実施が望まれます。
現在国内で市販されている主な尿中有形成分測定装置には、オートフォーカスカメラで取
、FCM(フローサイトメト
得した画像を解析プログラムで分類するU―SCANNER(T社)
00i(S社)、フローセルとCCDカメラによる
リー)による尿中有形成分の分析を行うUF―10
0
0エリート(F社)
画像撮影とパターン認識を用いるアイキュー2
0
0スプリント/アイキュー2
があります。
各測定装置にはそれぞれの測定法に応じた特性があり、測定可能項目、結果の出力様式、
結果確認の方法などに違いがあります。導入にあたっては、各医療施設の運用に適した測定
装置が選択され、施設ごとの運用基準が設定されます。
0エリートは、高い自動分類性
弊社製品であるアイキュー20
0スプリント/アイキュー20
能・自動報告機能によって尿検査の効率化に貢献するとともに、取得された成分画像の利用
による付加価値の提供が可能となっております。これらの特長により、上記した尿中有形成
分測定装置の運用フローに対応し、尿中有形成分測定装置の目的である要沈渣鏡検の抽出を
より的確に行えると考えております。
また、測定者の作業負担軽減や設置スペースに配慮し、シンプルな試薬構成、容易なオペ
レーション、コンパクトな本体設計など、検査室の導入を容易とする仕様を有しています。
【まとめ】
尿中有形成分測定装置の導入にあたっては、効率的かつ臨床のニーズに対応した結果報告
が期待されます。その一方で、尿中有形成分測定装置は生化学・免疫血清自動分析のように
項目ごとに独立した反応系で特定物質を検出する装置とは異なり、試料に含まれる複数・多
様な有形成分の機器分析を行うため少数成分検出の精度、詳細分類の限界などの特性を有し
ています3)。また報告項目や報告単位、尿沈渣検査の実施基準は医療施設によって異なるた
め、装置の利用方法は施設ごとに設定する必要があります。
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したがって、装置導入時には臨床のニーズ聞き取りを十分に行い、前述の要素を組み入れ
た適切な運用フローを構築する必要があります。それにより、定性検査から尿沈渣検査に至
る一連の作業の効率化が実現され、装置のもつ自動分類能力や画像閲覧機能を最大限に発揮
することができます。
今後、尿中有形成分測定装置の利用によって、尿沈渣検査を含めた尿検査全体の効率化が
達成されることを期待しております。
【参考文献】
1)臨床病理レビュー
4
4,臨床病理刊行会,2
00
7
特集第1
4
0号.13
9―1
2)油野友二:6.
これからの尿中有形成分測定装置の位置づけ.Medical Technology, 39:
9,2
01
1
91
6―91
3)尿沈渣検査法2
0
10.日本臨床衛生検査技師会,2
0
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