はじめに - 田岡病院

はじめに
平成 22 年1月より下肢静脈瘤の血管内レーザー治療(以下レーザー治療)が
保険適用となったことより、当院でも下肢静脈瘤のレーザー治療を開始しまし
た。平成 23 年7月より平成 25 年 12 月までの間に 200 人 256 肢のレーザー治
療を行いましたので、その結果などについて述べます。私自身、静脈瘤以外の
患者さんを含め、約 1000 人の方の血管エコー検査を行ってきましたので、その
経験に基づき報告いたします。
下肢静脈瘤とは
下肢の静脈はおおまかに分類して、①脚の深いところにある深部静脈とよば
れる本幹 ②皮膚のやや浅いところを走り、足のくるぶしの内側からふくらは
ぎの内側を通り、太ももの付け根で本幹につながる大伏在静脈、くるぶしの後
ろからふくらはぎを通り、膝の後ろ付近で本幹につながる小伏在静脈 ③皮膚
の表面から血管が見える側枝と呼ばれる静脈、網目状とかくもの巣状の静脈な
どがあります。
そして、これらの静脈の特徴としまして、逆流防止の弁がいくつもあるとい
うことがあげられます。その弁があることによって、重力に逆らって、足の先
から心臓まで血液を帰すことができるわけです。しかし、なんらかの原因で、
この逆流防止の弁がきちんと閉まらなくなってしまいますと、静脈瘤の原因と
なってきます。
下肢静脈瘤の症状(当院にてレーザー治療を行った方々の)
イ. 倦怠感・疲労感(脚がだるい、重い、疲れる)
ロ. かゆみ、むくみ
ハ. うっ滞性皮膚炎、脂肪硬化、色素沈着、潰瘍など皮膚変化
ニ. 痛み、発赤(皮膚が熱を持ったり、赤くなる)
ホ. 高位結紮術後、硬化療法後の再発による症状
ヘ. 静脈瘤はあるが無症状
※ 注意!! むくみや痛みは、血栓性静脈炎や深部静脈血栓症のことがあります。
肺の血管に血液の塊が飛べば、致死的になることがあります。血液検査と
エコー検査で簡単に調べることができます。
万が一、血栓症でも治療が早ければ、重症になる前に治療することがで
きます。
静脈瘤の手術は日帰り手術が可能で、局所麻酔で行います。最近では、眠って
いる間に手術を行い、手術が終わる頃には目が覚める麻酔に取り組んでいます。
※当院使用のレーザー治療は保険適応です。また、医療保険の対象になります。
症状のある下肢静脈瘤で、エコー検査で強い逆流があれば、治療をすすめます。
当院にて一般的な静脈瘤の治療を行った方々の写真をお見せします。
手術前
手術前
手術後
手術後
長年悩んでいた静脈瘤が気にならなくなり、喜んでおられます。また、自分
では気がつきませんでしたが、犬の散歩に行っても脚が軽くなったそうです。
この方は 20 年前に他院にて手術を受けましたが、写真のように再発がみられ
ました。当院にてレーザー手術ならびに瘤切除の手術を受けられ、きれいな脚
を取り戻すとともに、痛みと脚の倦怠感が取れ、喜んでおられます。
手術前
手術後
この方は長年スカートをはいたことがなかったそうです
手術前
手術後
手術後スカートがはけるようになったと、喜んでおられます。
手術前
手術後
手術後静脈瘤がなくなるとともに、脚のだるさもなくなりました。
他の方の手術前後の写真と症状の良くなり具合をご報告します。
手術前
手術後
ごらんのように静脈瘤は消え、きれいな脚になりました。そして、何より
も脚のだるさとこむら返りがなくなり喜んでおられます。
手術前
手術後
手術後脚がきれいになるとともに、かゆみとだるさもなくなりました。
手術前
手術後
静脈瘤が消え、脚のだるさとこむら返りもなくなりました。
レーザー治療前
レーザー治療後
静脈瘤が消え、手術後脚のかゆみがなくなり、脚も軽くなりました。
レーザー治療前
レーザー治療後
約 10 年前に受けた右脚の手術時にはかなり出血があったので心配していま
したが、今回の左脚の手術は出血もなく痛みもありませんでした。こんなに簡
単であれば、もっと早く手術をするべきでした、とのことでした。
静脈瘤が進行すれば、皮膚症状や皮膚炎がみられるようになります。
手術前
手術後1か月
数年前より、皮膚炎として治療を受けたり、動脈の血流不全として治療を受けたりして
いたが、皮膚潰瘍はよくならなかった。しかし、静脈瘤のレーザー治療を行ったところ、
翌日より潰瘍の改善を認め、1か月後には潰瘍は治癒しました。
蜂窩織炎として治療を受ける
難治性の皮膚炎
その他下肢静脈瘤による皮膚症状のいろいろ
※色素沈着がある場合は、レーザー治療後少しずつ薄れていきます。しかし、
完全に色素沈着がなくなるには半年以上、なかには 1~2 年かかることがありま
す。このような皮膚症状のある方は早めに診察、治療を受けることをお勧めし
ます。
再発例の皮膚症状
※高位結紮術、硬化療法後の再発例です。再発した場合は重症例が多く見られ
ます。向かって左端の方は再発のため、難治性皮膚潰瘍ができました。レーザ
ー治療により、潰瘍は治りつつあります。右端の方は、ストリッピング、硬化
療法、他県にてレーザー治療まで受けましたが、再発のため左脚の下部が痛く
て夜も眠れなくなっていました。レーザー治療後のその夜から痛みがなくなり、
眠れるようになったと喜んでおられます。
皮膚炎例のレーザー治療前後
治療前
治療後
※皮膚症状を起こしてから日が浅ければ、上の方のように治療後すぐに皮膚症
状の軽減が期待されます。しかし、日時が経過すればするほど、皮膚の変化
が取れるのに半年~1 年以上かかることがあります。早めに治療しましょう!!
※今まではふくらはぎから太ももの内側にある大伏在静脈の治療例をお見せし
ました。次はふくらはぎの後ろから膝の後ろにある小伏在静脈の治療例をお
見せします。
小伏在静脈瘤
膝の後ろからふくらはぎの後ろ側にある静脈を小伏在静脈といいます。この
静脈も静脈瘤の原因となり、倦怠感、浮腫、こむら返りなどの症状が強ければ、
治療が必要なことがあります。
小伏在静脈瘤でレーザー治療を行った方々の一部を示します。診断はエコーで
行い、静脈の太さと逆流状態、症状から手術をした方がいいかどうか決めます。
診断自体は容易ですが、治療にあたっては、エコー検査で脛骨神経、腓腹神経
の位置をきちんと調べる必要があります。神経麻痺を起こすことがありますが、
当院では合併症を起こした方はいません。
以下、小伏在静脈瘤の方々の写真をお見せします。
小伏在静脈瘤治療例
レーザー治療前
レーザー治療後
レーザー治療後の硬化療法
大伏在静脈瘤、あるいは小伏在静脈瘤にともなったぼこぼこ浮き出た側枝静
脈瘤はレーザー以外の瘤切除や硬化療法によって、治療されます。反対に脚の
表面に“みみずがはうような”瘤状の静脈瘤が認められても、レーザー治療が
必要でないこともあります。
膝の後ろの側枝静脈瘤
硬化療法施行翌日
上の写真の方は 2 週間前に左小伏在静脈瘤のレーザー治療を行いました。小
伏在静脈瘤は完全閉塞が認められ、熱感と痛みはなくなりましたが、側枝静脈
瘤が残存したため、硬化療法を追加しました。硬化療法翌日の写真を示します
が、静脈瘤はほぼ消失しました。圧迫を除去した直後なので、圧迫の痕と皮下
出血がありますが、一週間以内にはきれいになります。問題なければ、病院へ
はこなくてもいいと伝えているため、その後は来院していません。
ここで注意が必要なことは、表面から見える血管だけの治療すなわち硬化療
法や瘤切除を行ってはならないということです。大伏在静脈瘤や小伏在静脈瘤
の治療時あるいはその後に硬化療法や瘤切除を行なわなければなりません。
そうしなければ、かなりの割合で再発がみられます。
今まで、ご覧いただきましたように、静脈瘤にはさまざまなタイプがありま
す。静脈瘤は皮膚に浮き出た血管の状態や血管の場所よってくもの巣静脈瘤、
網目状静脈瘤、側枝静脈瘤、大伏在静脈瘤、小伏在静脈瘤などに分けられます。
そして、大伏在静脈瘤、小伏在静脈瘤がレーザー治療の対象になります。
皮膚に浮きでている瘤状の血管(側枝静脈瘤)だけでは治療の対象にはなり
ません。くもの巣状静脈瘤や網目状静脈瘤の治療の目的は美容的なもので、レ
ーザー治療の対象にはなりません。一般的には硬化療法が行われます。側枝静
脈瘤の多くは大伏在静脈瘤や小伏在静脈瘤にともなってみられますが、側枝静
脈瘤自体もレーザー治療の対象にはなりません。
レーザー治療の目的とする血管はぼこぼこと浮き出た血管ではなくて、やや
深いところにある大伏在静脈あるいは小伏在静脈と呼ばれる血管が治療の対象
になります。
そこで、皆様方は下の写真の患者さんのうち、どの方が下肢静脈瘤のレーザー
治療が必要であったと思われますか?手前より A,B,C とします
A
B
答えは次のうちどれでしょうか?
(1)A,B,C すべて (2)A,B のみ (3)A,C のみ
正解は以下説明します。
C
(4)B,C のみ
下肢静脈瘤の症状と治療
下肢静脈瘤で症状がないときの治療目的は美容的な意味からです。症状のあ
るときは症状の強さとエコー検査で静脈機能不全の程度を診断し、治療を行う
べきかどうか判断しなければなりません。静脈瘤の治療は症状があまり強くな
ければ、急ぐ必要はありませんが、ある程度急ぐかどうかはエコー検査の結果
が判断材料になります。
先ほどお示しした質問の正解は(3)です。A の方は倦怠感が強く、弾性ストッキ
ングをずっと着用していましたが、たち仕事をしている関係上夕方には脚がパ
ンパンに浮腫んでいました。エコー検査で両方の大伏在静脈が.通常の 2 倍以上
に拡張しており、強い逆流が認められました。また、左脚の一部は 3 倍以上に
拡張していました。B の方はご覧のような静脈瘤がみられましたが、大伏在静
脈はあまり拡張しておらず、逆流もありませんでした。C の方は下肢の浮腫み
がみられ、大伏在静脈が 7.5X7.4 ㎜と拡張しており、逆流も著明でした。また、
うっ滞による皮膚炎の症状が出始めていました。
A,C の方はレーザー治療を行いました。B の方は特に治療は必要ありません
でしたが、美容的な意味で治療を希望したために、表面の血管の瘤切除と硬化
療法を行い、見た目にもきれいな脚になりました。
A の方は術後脚が浮腫まなくなり、脚のだるさもほぼなくなり、とても喜ん
でおられます。C の方も、術後は脚のだるさがなくなり、よくつっていたのが、
ほとんどつらなくなりました。B の方は瘤切除と硬化療法を併用し、きれいな
脚になりました。次のページで術前(再掲)と術後の写真をお見せします。
Aの方のエコー所見
赤く染まった逆流のある静脈が見られます
逆流波形が確認できます
左脚も同様の所見でした
B の方のエコー所見
大伏在静脈はほとんど拡張していません
逆流波形も認められません
C の方のエコー所見
血液が逆流しています
波形でも逆流があります
Bの方の術前後を示します
術前
瘤切除+硬化療法後
予想が外れた方も多いのではないのでしょうか?静脈瘤の診断は決して見た
目だけで、判断してはいけません。見た目だけで判断した場合、例えば A の方
は、静脈瘤はないと診断されかねません。
下肢静脈瘤の診断と治療方針
必ず、エコー検査を行い、大伏在静脈、小伏在静脈(これらの静脈はレーザ
ー治療などの対象になります)の太さ、逆流時間、逆流量、血管のつながり具
合などをきちんと調べなければなりません。そういったことを調べないで、単
に高位結紮術、硬化療法を行った場合は再発することがあり、再発した場合は
皮膚炎ができたり、潰瘍ができたり非常に重症化することがあります。
エコー検査は外来にて簡単に行うことが可能です。レーザー治療の対象とな
るものは、大伏在静脈(脚の内側の血管)、小伏在静脈(ふくらはぎの後ろの血
管)が 1.5~2 倍以上に太くなり、強い逆流のあるものです。エコー検査では、
静脈は 0.1mm 単位まで測定可能で、逆流の程度、逆流の場所も簡単に知ること
ができます。
エコー検査を参考にして、症状の強さ、皮膚所見、などが治療を行うかどう
かの決め手になります。
※ 足首の上あたりが痒い、湿疹様のものがなかなか治らない、下肢の蜂窩織
炎をくり返す場合は静脈瘤が原因のことがあります。
静脈瘤の治療法
倦怠感・疲労感、こむら返りなどの症状は弾性ストッキングをはくことによ
って良くなることがあり、ストッキングも一つの治療法です。しかし、脚のだ
るさが強く、こむら返りなどの症状があまり良くならない人、ストッキングに
よるしめつけが耐えられないような人は、レーザー治療を含めた治療を考えた
方がいいかもしれません。
静脈瘤があるが、症状のない人は経過観察あるいは弾性ストッキングで様子
をみてもいいと思います。美容上の目的で治療を希望すれば、エコー検査を参
考にしてレーザー治療、レーザー治療+瘤切除(あるいは硬化療法)などが選
択されます
今まで述べてきましたように、下肢のむくみが強い場合やうっ滞性皮膚炎、
脂肪硬化、潰瘍などの皮膚病変がある場合は早期の治療が必要です。血管がボ
コボコと浮き出ているような静脈瘤があっても症状があまり強くない場合は,
弾性ストッキングなどで経過をみてもいいかもしれません。
皮膚炎があり静脈機能不全が原因の場合でも、皮膚炎の期間が長くなければ、
治療により皮膚炎は短期間でよくなりますので、治療は急いだ方がいいと思い
ます。
※血管が浮き出ていなくても、調べると大伏在静脈や小伏在静脈が太くなっ
ており強い逆流があるために、治療が必要なことがあります。下図の方のよう
に脚がむくむということで検査したところ、静脈瘤が原因でした。
レーザー治療前
レーザー治療後
1.レーザー治療の成績
レーザー治療の成功率は、レーザー治療の効果が得られず、他の治療法で
治癒したものが 256 肢中1肢、症状が取れなかったものが 1 肢ありましたので、
成功率は 99.2%でした。
倦怠感、こむら返り、痛み、むくみなどの症状はほぼ全員の方が消失しまし
た。静脈瘤の軽減、消失はほぼ全員で認められました。少し残っていても、美
容上の希望があれば、硬化療法を行えば良くなります。
下肢のむくみ、うっ滞性皮膚炎、脂肪硬化、潰瘍のあった方はレーザー治療
後ほぼ全て皮膚炎の消失、軽減を認めています。なかには、台所仕事をはじめ
たとたん脚がぬけるようにダルくなり、約 20 年間台所仕事がつらかったのが、
レーザー治療後はそれが完全になくなったという方がおいでました。
また、3 人の方は膝の痛みとして整形外科で治療を受けていましたが、あま
り良くならなかったのが、レーザー治療後膝の痛みが取れました。
2人の方は下腿の不全穿通枝という枝があり、皮膚炎が少し残っております
が、穿通枝の結紮術を追加することで、良くなりました。色素の沈着や皮膚の
硬くなったものは時間の経過とともに良くなりますが、長引けば長引くほど良
くなるまでに時間がかかります。皮膚症状のある方は一度診察を受けられるこ
とをお勧めします。
当院にて現在までにレーザー治療を受けられた方では、静脈瘤の再発は認め
ていませんし、特に合併症もありませんでした。
2.切らずに治す治療法
イ. 大伏在静脈瘤、小伏在静脈瘤のみの場合はレーザー治療だけで良くな
るため、瘤切除を行う必要がなく、切る(切るといっても 2,3mmの
創です)必要はありません。
ロ. 脚の表面にボコボコと浮き出た静脈瘤(側枝静脈瘤)を合併するもの
でも、レーザー治療で良くなることもありますが、残る場合は表面の
静脈瘤に硬化療法を加えることにより、切らずに治すことができます。
切らない治療を希望する方は申し出てください。
3,結論
過去三十数年間、ストリッピング、高位結紮術、硬化療法などの下肢静脈瘤
の治療に取り組んできたものとして、下肢静脈瘤のレーザー治療は良好な結果
が得られる、いい治療法と考えられます。
4.この 2 年 4 か月間で田岡病院にて行った治療法
イ. レーザー治療 256 肢
ロ. 硬化療法 約 100 肢
ハ. ストリッピング、瘤切除(レーザー治療に伴ったものは除く)40 肢
ニ. 弾性ストッキングなど保存的治療 約 600 肢
網目状静脈瘤、蜘蛛の巣状静脈瘤などを含め、静脈瘤にも様々な状態・病状
がありますが、エコー検査によって簡単かつ正確に診断可能です。
気になることがございましたら、気軽に何でもご相談ください。診察日以外で
も、対応可能です。
担当医:中井 義廣(血管外科)