微生物検査データをいかに活用するか? 院内感染起因菌の細菌学的特徴 -緑膿菌とセラチアを中心に- 大阪大学医学部附属病院・臨床検査部 豊川真弘 院内感染の原因となりやすい微生物(細菌) 好気性菌 グラム陽性菌: 黄色ブドウ球菌(S.aureus),コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS) 腸球菌(Enterococcus spp.) グラム陰性菌: 腸内細菌(Klebsiella spp., Enterobacter spp., Serratia spp.) ブドウ糖非発酵菌(P.aeruginosa, B.cepacia, S.maltophilia) レジオネラ菌(L.pneumophila) 嫌気性菌 ディフィシル菌(C.difficile) 関西感染予防ネットワーク 1 院内感染の原因となりやすい微生物(その他) 真菌 カンジダ(Candida spp.),アスペルギルス(Aspergillus spp.) 抗酸菌 結核菌(M.tuberculosis) ウイルス 麻疹,水痘,風疹,ムンプス,アデノウイルス,インフルエンザ 針刺し事故 肝炎ウイルス(B型,C型),HIV,HTLV-1,梅毒 関西感染予防ネットワーク 院内感染の90%は細菌感染症 ウイルス 7% 2% 1% 結 核 真 菌 細菌 真菌 ウイルス 結核 90% 細 菌 関西感染予防ネットワーク 2 米国における院内感染症と起因菌 起因菌(全部位) % S.aureus その他:35% 尿路感染:35% 13 CNS 21% 11 35% 10 Enterococcus spp. 肺炎:13% 9 P.aeruginosa 13% 12 E.coli 14% 17% 血流感染:14% 手術部位感染:17% 5 K.pneumoniae 6 Enterobacter spp. 尿路感染 手術部位感染 血流感染 3 肺炎 その他の部位 P.mirabilis 5 C.albicans NNIS, 1990∼1996(n=101,821)より 2 Candida spp. 24 Others 関西感染予防ネットワーク 院内感染の要因と起因菌の特徴 要因 特徴 基礎疾患,医療行為 → 日和見感染菌 抗菌薬使用 → 薬剤耐性菌 病院定着菌 → 消毒薬耐性菌 関西感染予防ネットワーク 3 緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa ブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌(GNF) (生息場所) 類縁菌 ヒト:常在しない セパシア(Burkholderia cepacia) 自然:水中,土壌,植物,果物,野菜など マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia) 病院:水周り(水道栓,流し台など) アシネトバクター(Acinetobacter baumannii) (消毒薬耐性) クロルヘキシジン,界面活性剤に耐性 Chryseobacterium meningosepticum 関西感染予防ネットワーク 緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa なぜ緑色か? 青色色素ピオシアニンを産生するため 色素ピオシアニンは、呼吸器の繊毛上皮細胞の繊 毛運動をスローダウンさせる さらに抗微生物活性を有する 関西感染予防ネットワーク 4 緑膿菌 (病原因子) 莢膜多糖体:貪食抵抗性,抗生剤抵抗性 酵素・毒素(エラスターゼ,エキソトキシンA,エンドトキシン):組織障害,ショック (院内感染症) NNIS(1986∼1996) 呼吸器感染症(肺炎,肺化膿症,膿胸) 16.8% 尿路感染症(カテーテル留置例に多い) 11.5% 手術部位感染(創感染) 8.1% 敗血症 3.8% (市中感染症) 慢性呼吸器感染症(慢性閉塞性肺疾患患者):莢膜多糖体産生菌 慢性中耳炎 関西感染予防ネットワーク 抗菌薬使用に伴う緑膿菌の耐性化:同一患者 日付 7/27 7/30 8/2 血清型 C C C C C C PIPC S S S S S R CAZ S S S S R R CZOP S S S S I R IPM R R R R R R MEPM I I I I I R AMK R R R R R R CPFX I I R R I R 使用薬剤 IPM CZOP CAZ 8/6-a 8/6-b 8/13 PIPC+FOM 関西感染予防ネットワーク 5 薬剤耐性緑膿菌(MDRP)の定義 感染症新法:4類感染症,定点把握 イミペネム(チエナム) アミカシン(アミカマイシン) イミペネム 2362円 /0.5g シプロフロキサシン(シプロキサン) 3剤すべてに耐性! アミカシン シプロフロ キサシン 883円 /200mg 3800円 /300mg 関西感染予防ネットワーク 緑膿菌の薬剤感受性率 一般名(商品名) 全体(n=163) MDRP メタロ株(n=10) ピペラシリン(ペントシリン) 87% 0% ― セフタジジム(モダシン) 84% 0% ― セフォゾプラン(ファーストシン) 86% 0% ― アズトレオナム(アザクタム) 70% 0% ― メロペネム(メロペン) 80% 0% ― ゲンタマイシン(ゲンタシン) 71% 0% 10% アミカシン(アミカマイシン) 83% 0% 90% シプロフロキサシン(シプロキサン) 83% 0% ? レボフロキサシン(クラビット) 76% 0% 30% (阪大データ:2001年) (近畿耐性菌研究会データ) 関西感染予防ネットワーク 6 知っておくべき薬剤耐性菌と耐性の割合 略語 名称 MRSA :メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 VRE :バンコマイシン耐性腸球菌 稀 PRSP,PISP :ペニシリン耐性(低感受性)肺炎球菌 50∼80% 耐性の割合 50∼70% MDRP :薬剤耐性緑膿菌 ESBLs :拡張型β-ラクタマーゼ産生菌 略語なし :メタロβ-ラクタマーゼ産生菌 0∼3% MDR-TB :多剤耐性結核菌 0∼1% 0∼5% 1%以下 関西感染予防ネットワーク セラチア菌 Serratia marcescens 腸内細菌科のグラム陰性桿菌 類縁菌 腸管内 (生息場所) S.marcescens ± ヒト :腸管内常在菌(少数派) E.coli +++ 自然:水中,土壌,植物,昆虫,動物など K.pneumoniae +++ 病院:水周り(流し台など) Enterobacter spp. +++ (消毒薬耐性) Citrobacter spp. +++ クロルヘキシジン,界面活性剤に耐性 Proteus spp. +++ 関西感染予防ネットワーク 7 セラチア菌 (院内感染症) NNIS(1986∼1996) 呼吸器感染症(肺炎,肺化膿症,膿胸) 3.6% 手術部位感染(創感染) 1.4% 敗血症 1.2% 尿路感染症(カテーテル留置例に多い) 0.9% (細菌血症における感染源)→ セラチア菌:外因性感染が多い E.coli (116) K.pneumoniae (48) E.cloacae (12) S.marcescens (20) :泌尿生殖器(67),胆道(11),腹膜(10) :胆道(10),泌尿生殖器(8),腹膜(5) :胆道(2),気道(2) :泌尿生殖器(4),気道(4),血管カテーテル(3) (Melvin P:CID,1997) 関西感染予防ネットワーク セラチア菌の薬剤感受性率 一般名(商品名) 全体(n=163) メタロ株(n=27) ピペラシリン(ペントシリン) 52% ― セフメタゾール(セフメタゾン) 63% ― セフタジジム(モダシン) 55% ― アズトレオナム(アザクタム) 65% ― メロペネム(メロペン) 87% ― ゲンタマイシン(ゲンタシン) 97% 96% アミカシン(アミカマイシン) 90% 89% ミノサイクリン(ミノマイシン) 84% 74% レボフロキサシン(クラビット) 88% 74% (阪大データ:2001年) (近畿耐性菌研究会データ) 関西感染予防ネットワーク 8 院内感染対策が必要な場合 ①複数患者の無菌的材料(血液など)からセラチア菌が検出 された場合 (輸液ライン要注意) ②喀痰・尿からの検出率が増加した場合 ウルトラネブライザー,蓄尿ビン要注意 (共通の感染源の存在?) ③多剤耐性のセラチアが検出された場合 施設内拡散防止対策 対象:緑膿菌,セパシア,マルトフィリア,アシネトバクター,エンテロバクター 関西感染予防ネットワーク 資料:尿路感染症における起因菌 院内感染の約40% 66∼86%(尿道カテーテルが原因) 腸内細菌, Enterococcus spp.:内因性感染 P.aeruginosa, GNF:外因性感染 14% 11% 53% 22% グラム陰性桿菌 グラム陽性球菌 真菌 その他 NNIS, 1990∼1996(n=35,079) 病原菌 % S.aureus 2 CNS 4 Enterococcus spp. 16 P.aeruginosa 11 E.coli 24 K.pneumoniae 8 Enterobacter spp. 5 P.mirabilis 5 C.albicans 8 Candida spp. 3 Others 14 関西感染予防ネットワーク 9 資料:血流感染における起因菌 NNIS 院内感染の約14% 18% 8% 56% 18% グラム陽性球菌 グラム陰性桿菌 真菌 その他 NNIS, 1990∼1996(n=14,424) 武澤ら 病原菌 % (IVH) S.aureus 16 27.9 CNS 31 17.3 Enterococcus spp. 9 6.6 P.aeruginosa E.coli K.pneumoniae Enterobacter spp. 3 P.mirabilis 1 C.albicans Candida spp. Others 5 4.3 5 5 5.0 4 8.3 3 18 関西感染予防ネットワーク 資料:手術部位感染における起因菌 病原菌 % S.aureus 20 CNS 14 Enterococcus spp. 12 P.aeruginosa 8 E.coli 8 K.pneumoniae 3 Enterobacter spp. 7 P.mirabilis 3 C.albicans 3 Candida spp. 1 Others 院内感染の約17% 手術部位と起因菌との関係 ブドウ球菌: 心臓および胸部,脳神経外科, 整形外科,眼科,血管,頚部 人工物・インプラントの移植 グラム陰性桿菌,嫌気性菌: 消化器(虫垂,胆道,胃,大腸) , 泌尿器科,産婦人科 21 関西感染予防ネットワーク 10 資料:肺炎における起因菌 院内感染の約13% 29% 42% 6% 病原菌 % S.aureus 19 CNS 2 Enterococcus spp. 2 P.aeruginosa 17 E.coli 4 K.pneumoniae 8 Enterobacter spp. 11 P.mirabilis 2 C.albicans 5 Candida spp. 1 23% グラム陰性桿菌 グラム陽性球菌 真菌 その他 NNIS, 1990∼1996(n=13,433) Others 29 関西感染予防ネットワーク 11
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