A4.7 〔参考訳〕 生殖の謎が解ける:精子を卵に合体させるタンパク質が発見された。 イギリスの科学者による Juno 分子の同定により、不妊治療・避妊分野で新たな発展に向けた窓が開かれる。 受精に関する基本的な鍵が、イギリスの科学者により解明された。それは、卵と精子を合体させる、これまで見つか っていなかったタンパク質の発見による。この分子はローマ神話で結婚・出産を司る神にちなんで Juno と名付けられ たが、卵の表面にあり、卵に侵入しようとしている精子にある男性側の相手と結合する。日本の研究者が 2005 年に精 子側のタンパク質を同定し、そこから 10 年に渡るその「相方」探しが始まった。2 つの分子の相互作用の過程を理解す ることで、不妊治療・避妊分野で新たな発展に向けた窓が開かれる。 「私たちは、生物学における長年の謎を解明した。それは、すべての精子・卵の表面に発現していて、受精の瞬間に 互いが結合する上で不可欠な分子を同定したことによる。 」 とケンブリッジシャー州のヒンクストンにあるウェルカムト ラスト・サンガー研究所の主任研究員 Gavin Wright 博士は言っている。 「この重要な相互作用がなければ、受精はまさ に起こらない。 この発見を使って、 不妊治療を改善したり、 新しい避妊具を開発したりすることができるかもしれない。 」 サンガー研究所のチームはまず、 日本の結婚の神社にちなんで名づけられた Izumo1 と呼ばれる精子側のタンパク質の、 人工型のものを作成した。 そしてこれを使い、 卵の表面にある結合の相手を探索した。1 つのタンパク質 Juno が Izumo1 の「残り半分」と特定された。 受精における Juno の重要性は、この分子を産生しないよう改変されたメスの実験用マウスにより明らかにされた。 このマウスはすべて不妊であり、その卵は通常の精子と融合することができなかった。Izumo1 を欠くオスマウスもま た、妊娠させることができず、オスの受精能力におけるこのタンパク質の役割が強く示すものであった。この研究は Nature 誌で報告されたが、Juno がすでに受精した卵に、他の精子が更に侵入するのを防ぐ役割を持つことも示唆して いる。 「Izumo と Juno の結合は、あらゆる生物の中で初めて明らかにされた、精子と卵との認識を司る重要な相互作用で ある」とサンガー研究所所属の共著者 Enrica Bianchi 博士は言った。 「2 つのタンパク質の結合は極めて弱い。これは、 これまで謎であった理由を説明するものであろう。 」精子と卵とが最初に結合した後、Juno は除かれ、40 分後には実際 に全く検出されなくなることを、科学者は発見した。これは、卵がある精子と受精した途端に、他の精子に対する障壁 を作る理由を説明することに役立つかもしれない。1 つ以上の精子による受精が起こると、染色体数が多くなりすぎた 異常で不幸な胚が形成されてしまう。 Juno は「葉酸受容体」タンパク質ファミリーに属するが、その仲間と異なり、葉酸に結合することはできない。研 究者たちは 3 種類の葉酸受容体に注目し、Juno だけが Izumo1 と結合することを見つけた。彼らは現在、不妊の女性 を調べて、Juno の欠損が不妊の根底にあるかどうかを知ろうとしている。もしそうなら、簡単な遺伝子診断によって、 医師は浪費やストレスを避けながら、患者に最も適切な治療を提供することができるようになるだろう。通常の IVF 治 療は、シャーレ上で精子を卵にランダムに受精させるが、Juno がなければうまくいかない。しかし、Icsi を使うことで Izumo1 と Juno の自然結合を回避することができるかもしれない。これは精子を卵に直接注入するという、人気を増 しつつある IVF の方法である。 不妊治療の第一人者で、シェフィールド大学の再生発生医学上級講師である Allan Pacey 博士は「これはとても刺激 的な論文だと思う。精子と卵とが最初に結合した時の、受精の初期段階に関わる重要な分子のいくつかについては、私 たちはいまだに極めて大雑把なままである。 しかし、 今回の報告は不妊診断の一助として非常に有用であるだけでなく、 ヒトと他の動物種の双方にとって、全く新しい避妊法を設計する一助としても有用であろう。Juno タンパク質の同定 により、多くの興味深い見通しが開かれている。おそらく、この発見について、最も分かりやすい生物医学的応用は、 このタンパク質の検査(あるいは血液試料でのその遺伝子の検査)が、妊娠能力の検査として使用できるか、ということ である。IVF において受精の失敗は極めてまれであることは分かっている。ゆえに、このタンパク質の欠損・機能不全 は、カップルの不妊の大きな要因ではおそらくないだろうと考えている。しかし、このことを正確に評価することがで きるよう、どれくらいの女性が、このタンパク質を欠く卵を持つのか知るうえで、役に立つであろう。第二の、そして 最も可能性のある応用は、このタンパク質の作用機序、あるいは精子のタンパク質 Izumo1 がこれと結合する機序を妨 げる薬剤・ワクチンを開発することができるか、ということである。これは、ヒトと他の動物種の両方で、ホルモンを 使わない新しい避妊法につながるかもしれない。 」 〔解答〕 設問 1 10 設問 2 8 設問 3 5 設問 4 1 設問 5 2 設問 6 16 設問 7 3 設問 8 7
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