地上型レーザスキャナによる不安定化した切土法面の変動計測

全地連「技術 e-フォーラム 2004」福岡
【124】
地上型レーザスキャナによる不安定化した切土法面の変動計測
国際航業株式会社
1.はじめに
○新谷 ちか子
〃
松谷 泰生 .
〃
三戸 嘉之 .
〃
本多 政彦 .
図-2の移動杭の変動ベクトル図では,法面上端で
不安定化した道路法面の挙動把握調査と対策工検討
14 日間に 53cm,中段で 40cm と大きく変動しているに
のために,地上型レーザスキャナによって詳細な地形
もかかわらず,法面末端部でほとんど変動がなかった。
計測を行い,法面全体の変位状況の詳細把握を試みた。
(2) 既往調査での課題
以下では,この地上型レーザスキャナによる複数時
期の計測と,変動範囲ならびに変動量の解析による変
動機構の検討について紹介する。
これらの当初調査で対策工検討に不足していた情報
として以下の事項が挙げられる。
a.変動機構が不明である。
2.現地状況
中段付近をすべり面とした地すべり性の変動か,
約 20 年前に施工された道路沿いの切土法面の押し
トップリングか判断するにはデータが不足(移動
出しが発生し,モルタル吹付けが剥がれ落ちたり,背
杭測量により法面中段より上端の変位が若干大
後の尾根に道路に平行な伸張方向をもつ開口亀裂が発
きいが点数が少ないため,有意な差か否か不明)。
生するなどの変状が発生した。これにともない,挙動
b.当初 32 点設置した移動杭は,法面内 22 点中,中
把握調査と対策工検討が行われることになった。
段~下部の 5 点が,法面変状の進行に伴ない順次
対象となるこの切土法面は,幅約 70m,比高約 50
m,勾配 45 度程度で,ほぼ道路と同走向で約 70 度山
側傾斜の三波川帯の結晶片岩を主体とする。
剥落したこともあり,変動の範囲を確定できない。
このため,変動範囲・変動量の把握による変動機構
の解明と適切な対策工の検討を目的として,法面内へ
の立ち入りが不要な地上型レーザスキャナによる計測
を複数回行い,その地形変化の解析を行った。
4.地上型レーザスキャナとは
地上型レーザスキャナは,計測対象地内に立ち入ら
ずに,高密度の地形データを迅速に計測でき,人力で
持ち運びできることから,近年,斜面(特に急崖)や
図―1
現地状況(尾根末端部切土)
文化財発掘時等の形状計測に活用されてきている。
340°
3.従来手法による計測と課題
レーザ
スキャナ
(1) 当初からの挙動把握調査
挙動把握調査では,当初,トータルステーションに
レーザ
80°
よって法面内外に設置された 32 ヶ所の移動杭を定期的
に計測するとともに,法面背後でのボーリング調査や
斜面
レーザ反射時
間と方位から
点座標を取得
パイプ歪み計設置などにより調査が進められた。
ノート PC
表-1
型式
製造元・型番
計測距離
測距精度
図―3
計測原理
地上型レーザスキャナの諸元
地上型
レーザスキャナ
RIEGL LMS-Z210
2~350m
±2.5 ㎝
ノンプリズム型トー
タルステーション
~150m
5mm+3ppm
ミリラジアン
レーザの拡散角
測定能率
図―2
変動ベクトル図(3/21 と 4/4 の比較)
動作環境
ミリラジアン
3 m rad (距離
0.6 m rad
100m で半径 15cm)
6
1
×10 点 / 1h
×10 点 / 1 h
暗闇可,大雨,霧,
暗闇・大雨・降雪可
降雪不可
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5.三次元モデル化と変動状況の解析
までの 36 日間では,最大 4.5m 以上も変位した。この
(1) 三次元モデルの構築
間,吹き付けの剥落や表層の小崩壊が何度か発生した
現地では3月下旬から4月の1ヶ月強の間に述べ8
日間計測を行い,約5~10cm 間隔,40 万点前後の点群
データを取得した。この点群データから各時期毎に,
以下の手順で三次元モデルを構築した。
ため,4月中旬には,道路を迂回させたうえで,法面
下部に大規模な盛土が行われた。
この三次元モデルの変動量分布は,トータルステー
ションにより計測した移動杭の変動ベクトル図とも整
a.点群の反射強度から法面外側の基準点を抽出
合的である。このことから,地上型レーザスキャナ計
b.法面外側の移動杭測量を基に公共座標系に変換
測による三次元モデル自体の比較により,2~3cm 以
c.植生や電線などの不要データを手動で除去
上の変位であれば面的に把握できることが確認された。
d.計測地点を視点として点群を平面に投影して TIN
6.おわりに
(三角網)を構築することで三次元の面を定義
(1) 変動機構の判定
地上型レーザスキャナにより法面形状を詳細に計測
(2) 変動量・範囲の把握
構築した各時期のモデルのズレの大きさに応じて着
することで,法面内に設置した移動杭のみの計測だけ
色した変動分布図を作成した(図-4~5)。このズレ
では把握が困難だった,変動の大きい範囲とその変動
は,計測した全点群ごとに,道路に直交の水平方向の
量を,定量的に把握できた。
ズレを変動量として求めたものである。なお,計測は,
この解析の結果,上部から中段にかけて変位量は,
法面の斜め下方から行ったため,法面小段はほぼ死角
漸移的に減少しており,下部ではほとんど変位してい
となったことから,モデルに誤差が大きく,見かけ上,
なかった。また,現地の状況が地すべりよりもトップ
2時期の差が大きくなっている。
リングの一般的な現象を示していたこととも考え合わ
せ,対象法面の挙動は,約 70°山側傾斜の結晶片岩(受
け盤)斜面でのトップリングによる現象と判断した。
このような挙動機構の判定は,従来,移動杭測量な
小段
ど変状の断片的データや地質状況その他を総合して経
験的・定性的に判断していた。当地点では,法面の面
小段
的な変位を綿密に把握したことにより,定量的な挙動
小段
機構判定が行えた。
(2) 今後の課題
小段
今回の計測・解析で残された課題としては,以下の
小段
事項が挙げられる。
a.公共座標系への変換用の基準点を計測点群デー
タから抽出する際の座標の誤差が,数 cm と大き
図―4
水平変動分布図(4/4-4/6 平面図)
い。ただし,今回は三次元モデルのズレによる変
※ 小段は計測地点から死角となるため誤差大
動分布図と法面内の移動杭測量の成果と整合的
なことが確認できたことから,モデル全体として
小段
見たときの誤差はこれより小さいと考えられる。
b.図-4~5に示した変動分布は道路に直交する
水平方向の差を取ったものであり,変動量自体を
表したものではない。移動杭測量による実際の変
動方向は,水平より若干斜め下方へ向かっている。
今後は,事例を増やして精度の検証を進めるととも
に,計測手法や基準点の抽出方法,ならびに,実際の
変動方向を考慮に入れた変状の可視化について改良を
検討していく必要がある。
《参考文献》
図―5
水平変動分布図(4/4-4/6 法面正面)
1) 小山内信智・他3:3Dレーザースキャナーの切
土斜面地すべり観測への適用性,砂防学会研究発表
これらの図では,法面の下部にはほとんど変位がな
会概要集,2003.5
く,中段から上部にかけて,変位が漸移的に大きくな
2) 三戸嘉之・他6:のり面・崖地の高密度三次元座
っている。上部では2日間に上端で 15cm 程度,中段で
標データの取得と応用地質分野への活用,pp.351~
6cm 程度変位してる。なお,計測期間の当初から最後
364,応用地質,Vol42,No6,2002.6