12.ベンゾジアゼピン受容体プローブ合成法

12.ベンゾジアゼピン受容体プローブ合成法
12.ベンゾジアゼピン受容体プローブ合成法
12-1.[11C]フルマゼニル(Ro15-1788)合成法
フルマゼニルはスイスの Roche 社により開発された強力なベンゾジアゼピン拮抗薬であり、
ベンゾジアゼピン受容体の分布に対応した特異的な脳内局所分布を示すことが報告されている。
[11C]フ ル マ ゼ ニ ル についてもその標識合成法やヒトでの PET によるベンゾジアゼピン受容
体の測定が報告されている 1-3)。
A-1.[11C]よう化メチル法
(鈴木
和年)
下記の反応スキームにより合成する 3,4)。
N
N
COOC2H5
NaH/DMF
N
F
O
COOC2H5
11CH I
3
N
N
N
F
H
11
O
CH3
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
Demethyl Ro15-1788(Ro 15-5528)———Roche 社提供品、ABX 製
無水 DMF———Aldrich(22705-6)(註1)
NaH ———和光純薬(7646-69-7)(註2)
註1) 乾燥 N2 で置換した褐色バイアル瓶に小分けして使用する。
註2) 無水ヘキサンで数回洗浄し、減圧乾燥した後無水 DMF を加える(~0.2 g NaH/1 mL
DMF)。使用時にはよく撹拌する。
[方法]
Demethyl Ro15-1788 の DMF 溶液(1 mg/mL、0.4 mL)
(註1)に NaH の DMF 溶液(10
L、1 mg 程度の NaH を含む)を加え、–15C 程度に冷却し、これに N2 気流下(100 mL/min)
[11C]よう化メチルを通し、捕集する。
50C で 1 分間反応させた後、反応液を HPLC 注入用容器(註2)に窒素気流下移送する。
注射用蒸留水(0.5 mL)で反応容器、輸送ラインを洗浄し、反応液と混合した後、HPLC に導
入し、分離精製する。
精製された[11C]フ ル マ ゼ ニ ル は、ロータリエバポレーターのフラスコに分取し、溶媒を除
143
いた後、生理食塩水(11 mL)に溶解し、メンブレンフィルターを通して無菌バイアルに捕集
する。この化合物は比較的安定で、調製後 1 時間以上にわたり 95%以上の放射化学純度を保っ
ていた。
註1) 本品についてもスピペロンの DMF 溶液と同様、1 ヵ月程度の利用は可能と思われるが
まだその実績はない。
註2) [11C]メチルスピペロンの項参照。
[HPLC 分取条件]
カラム: Megapak SIL C18-10(内径 10 mm X 長さ 250 mm)、日本分光製
溶離液: CH3CN/6 mM H3PO4(160/340)
流
速: 6 mL/min
検出器: UV(254 nm)
[11C]Ro15-1788
Ro15-5528
溶出時間: 原料 5 分;目的物 8 分
UV
RI
0
5
10
Elapsed Time (min)
A-2.[11C]メチルトリフレート法
(石渡
喜一)
下記の反応スキームにより合成する。
N
N
COOC2H5
N
11CH OTf
3
NaOH/acetone
N
F
O
COOC2H5
N
H
N
F
11
O
[使用試薬]
[11C]メチルトリフレート
デメチル Ro15-1788(Ro 15-5528)———ABX 製
アセトン特級試薬
水酸化ナトリウム特級試薬
144
CH3
12.ベンゾジアゼピン受容体プローブ合成法
[方法]
0.2 M NaOH(5 L)を含むデメチル Ro15-1788 のアセトン溶液(0.5 mg/mL、0.25 mL)
(註1)に、室温下で He 気流下(30 mL/min)[11C]メチルトリフレートを通して捕集する。
直ちに反応液に H2O で 2 倍希釈した HPLC 溶璃液(1.3 mL)を加えて希釈し、HPLC により
分離精製する。
以下の処理及び注意点は、[11C]よう化メチル法に準ずる。
註1) デメチル Ro15-1788 のアセトン溶液は、数ヶ月は室温で保存して使用することができ
る。但し、保存中に針状結晶が析出してくるので、使用前に加熱して再溶解する。な
お、粉末状のデメチル Ro15-1788 はアセトンに 1 mg/mL 程度までは溶ける。
[合成法の特徴と問題点]
[11C]よう化メチル法及び[11C]メチルトリフレート法ともに極めて高収率で[11C]フ ル マ ゼ
ニ ル を 合成できる。しかし、前者では、NaH が過剰の時、また、NaH 添加後からメチル化反
応までの時間が長くなると、デメチル Ro15-1788 が徐々に分解して、収率の低下をきたす。一
方、後者では、無水性を気にすることなく、デメチル Ro15-1788 に対して 1 当量以上の NaOH
が必要であるが、大過剰の NaOH 存在下では収率が多少低下する傾向がみられた。
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:Finepak SIL C18S(5 m、内径 4.6 mm X 長さ 150 mm)、日本分光
溶離液:CH3CN/AcOH /100 mM AcONH4(250/1/250)
流
速:2 mL/min
検出器:UV(254 nm)、線検出器
保持時間:原料 1.2 分;目的物 1.5 分
ii)
カラム:TSKgel ODS-140HTP(内径 2.1 mm×長さ 50 mm、2.3 m)、東ソー
溶離液:CH3CN/50 mM AcOH/50 mM AcONH4 (20/40/40)
流
速:0.5 mL/min
検出器:UV、260 nm、線検出器
保持時間:原料 1.1 分;目的物 1.6 分
C.その他
[毒性]
LD50(静注)
、 マウス:100~300 mg/kg
ラット:100~1,000 mg/kg
145
[被曝線量]4)
臓器
線量(Gy/MBq)
臓器
線量(Gy/MBq)
小腸壁
21
生殖腺
2.4
膀胱
14
甲状腺
1.6
腎臓
3.3
骨表面
1.3
肝臓
2.6
肺
1.2
参考文献
1.
Wagner H.N., Burn H.D., Dannals R.F., et al.: Science, 221, 1264–1266 (1983).
2.
Maziere M., Hantraye P., Prenant C., et al.: Appl. Radiat. Isot., 35, 973–976 (1984).
3.
Suzuki K., Inoue O., Hashimoto K., et al.: Int. J. Appl. Radiat. Isot., 36, 971–976
(1985).
4.
放射線医学総合研究所サイクロトロン製造放射薬剤品質管理基準
12-2.[11C]PK11195 合成法
PK11195((2−chlorophenyl)−N−methyl−(1−methylpropyl)−3−isoquino1inecarboxamide)
は Rhone Poulenc Sante 社により開発された薬物である。PK11195 は心筋,肺,副腎,唾液
線,グリア細胞に高密度に存在する末梢性ベンゾジアゼピン受容体と特異的に結合するアンタ
ゴニストであると考えられている。
[11C]PK11195 は 1983 年仏のフレデリックジュリオ研究所で標識合成され、心筋イメ一ジン
グ剤として臨床研究が開始され、その後種々の研究機関で利用されてきた
1)。当初は脳腫瘍の
イメージングに用いられたが 2)、光学活性体((R)体)開発に伴い 3)神経変成疾患、脳梗塞等の
イメージングに用いられるようになってきた 4)。
A-1.NaOH 法
(籏野
下記の反応スキームにより合成する。
O
O
N
H
N
N
11
Cl
CH3I
NaOH/DMSO
[使用試薬]
[11C]よう化メチル(註1)
146
N
11
Cl
CH3
健太郎)
12.ベンゾジアゼピン受容体プローブ合成法
デメチル(R)PK11195ABX(160.0001)
無水 DMSOAldrich(27,685-5)
水酸化ナトリウムSigma(S-8045)
ポリソルベート 80特級 polyoxyethylene(20) sorbitan monooleate
(和光純薬
164-15741)
註1) 本法は LiALH4 法による[11C]よう化メチルについてのみ検証されている。
[方法]
水酸化ナトリウムの DMSO 懸濁液を調製する。適当なガラスバイアルを攪拌回転子、ガラス
ビーズ(2.5 mm, BioSpec Products, Bartlesville, OK, USA)とともに乾熱滅菌する。窒素置
換したグローブボックス中で水酸化ナトリウムペレット1片(100 mg 程度)を加え、密栓する。
ここに無水 DMSO を加えペレットが崩れるまで攪拌する(註1)。
デメチル PK11195(1 mg)を含むバイアルに上記の懸濁液(0.3 mL)を加え溶解する。室
温にて、これに N2 気流下(100 mL/min)[11C]よう化メチルを通し、100ºC で 4 分間反応させ
る。反応液は N2 気流下 HPLC 用インジェクタに輸送し、分離精製する。[11C]PK11195 を含む
分画はロータリエバポレーターに導入し、減圧下分離溶媒を除いた後、注射用生理食塩水(510
mL )にて溶解する。(註2)メンブレンフィルタ(0.22 µm)に通し、無菌バイアルに捕集
する。(註3)
註1) 1週間程度か?ガラスビーズを用いることでペレットの崩壊を早めることが出来る。
この懸濁液は半年程度有効である。報告 3)では水酸化カリウムの DMSO 懸濁液を用い
ているが、どちらの塩基でも同様に合成できると考えられる。
註2) 0.25%ポリソルベート 80 を含む。
註3) Millex-GV(ミリポア)フィルタを用いると吸着が少なく良好である。
[合成法の特長と問題点]
安定した収率で成績体が得られる。しかし、同様の方法で[11C]メチルトリフレートを使用し
たときは、無効であった(石渡、未発表データ)。
[HPLC 分取条件]
カラム:CAPCELL PAK C-18 UG120(内径 20 mm X 長さ 250 mm)、資生堂
溶離液:CH3CN/H2O(72/28)
流
速:10 mL/min
検出器:UV(235 nm)、放射能検出器
保持時間:原料 16 分、目的物 13 分
147
A-2.KOH 法
(西山
新吾、加藤
O
N
11
Cl
周作)
O
N
H
N
孝一、田沢
CH3I
N
KOH/DMSO
11
CH3
Cl
[使用試薬]
[11C]よう化メチル
デメチル(R)PK11195ABX(1600.0001)
無水 DMSOAldrich(276855-100ML)
水酸化カリウム(試薬特級)和光純薬(168-21815)(註1)
ポリソルベート 80(日本薬局方)和光純薬(169-22722)
プロピレングリコール(日本薬局方)丸石製薬
註1) ペレット状の水酸化カリウムを乳鉢ですりつぶし、粉末状態でデシケーターに保存す
る。吸湿し、秤量しにくくなった場合は、再調製する。
[方法]
デメチル PK11195(1 mg)と水酸化カリウム粉末(2 mg)を同じバイアルに天秤で量りと
り、セプタム等で密栓しておく。合成を開始する直前に、無水 DMSO(0.3 mL)を加え、水が
入らない様に約 10 秒間超音波をかける。デメチル PK11195 と水酸化カリウムが溶解した溶液
を、合成準備が終了した反応容器へ移す(註1)。
室温にて、これに N2 気流下(50 mL/min)[11C]よう化メチルを通し、100˚C で 4 分間反応
させる。反応液は窒素ガス気流下 HPLC 用インジェクタに輸送し、分離精製する。
148
12.ベンゾジアゼピン受容体プローブ合成法
[11C]PK11195 を含む分画はロータリエバポレーターに導入し、減圧下分離溶媒を除いた後、
注射用生理食塩液(10 mL、1%ポリソルベート 80 および 9%プロピレングリコールを含む)に
溶解する。その後、メンブレンフィルター(ミリポア製 Millex-GV 0.22 m)に通し、滅菌バ
イアルに捕集する。
註1) 溶解しない水酸化カリウム粉末(大きい粒)は必ずしも移す必要はない。
[合成法の特長と問題点]
安定した収率で成績体が得られる。反応溶媒として DMF を使用した場合には目的物は得ら
れなかった。
[HPLC 分取条件]
カラム:COSMOSIL 5C18-AR-Ⅱ(内径 10 mm X 長さ 250 mm)、ナカライテスク
溶離液:CH3CN/H2O(70/30)
流
速:6 mL/min
検出器:UV、235 nm、放射能検出器
保持時間:原料 8 分、目的物 6 分
B.分析法
[放射化学的純度]
HPLC
i)
カラム:CAPCELL PAK C-18 UG120(内径 4.6 mm X 250 mm)、資生堂
溶離液:CH3CN/H2O(65/35)
流
速:1 mL/min
検出器:UV(215 nm)、放射能検出器
保持時間:目的物 9.3 分
ii)
カラム:COSMOSIL 5C18-AR-Ⅱ(内径 4.6 mm X 長さ 100 mm)、ナカライテスク
149
溶離液:CH3CN/H2O(65/35)
流
速:2 mL/min
検出器:UV、215 nm、放射能検出器
保持時間:目的物 2 分
C.その他
[毒性]
PK11195 は水に難溶性のため、その物自体の静脈内投与による LD50 値は溶剤による影響の
ため求めることはできないが、腹腔内投与でのマウスにおける LD50 値は約 1600 mg/kg である。
また、ビーグル犬において 1 mL(2.5 mg)/kg/day を 15 日間投与した実験報告では、主要臓
器における病理所見には何ら異常を認めなかった、と報告されている(Rhone・Poulenc Sante
社資料)。
37 GBq(1 Ci)/mo1 の比放射能で標識した 370 MBq(10 mCi)の[11C]PK11195 を体重 60
kg のヒトに投与したと仮定すると 10,000,000 倍以上の安全係数を有する事となり、毒性上問
題は無いと考えられる。
最終薬剤 0.2 mL を ddY マウスに投与し、投与直後および 4 日間にわたって生死・中毒症の
観察を行なった(1 群 10 匹)。その結果、死亡例は認められず、また何らの中毒症状も認めら
れなかった。
[被曝線量]
ヒト全身 PET 動態計測による。
線量データ15)
実効線量:5.1 Sv/MBq
腎臓:14.0 Gy/MBq、脾臓:12.5 Gy/MBq、小腸:12.2 Gy/MBq
全身:2.8 Gy/MBq
線量データ26)
実効線量当量:4.6 Sv/MBq
膀胱壁:12.0 Gy/MBq、腎臓:11.4 Gy/MBq、胆嚢壁:8.0 Gy/MBq
全身:2.8 Gy/MBq
参考文献
1.
Camsonne R., Crouzel C., Comar D., et al.: J. Label. Compd. Radiopharm., 21, 985–991
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Shah F., Hume S. P., Pike V. W., et al.: Nucl. Med. Biol., 21, 573–581 (1994).
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Hirvonen J., Roivainen A., Virta J., et al.: Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 37, 606–612
(2010).
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Kumar A., Muzik O., Chugani D., et al.: J. Nucl. Med., 51, 139–144 (2010).
150