海保 博之(かいほ ひろゆき:東京成徳大学学長) 主な担当授業名:なし 専門:心理学方法論、ポジティブ心理学、認知心理学 第17話 3つの心理学 ●素人心理学 人間は、だいたい 4 歳前後になると、自分には心があることを知ります。それから心に ついての自分なりの「心理学」を頭の中に作り上げていきます。そして、青年期になると、 いっぱしの素人「心理学者」になり、自分の心について深く内省シ豊かに語れるようにな ります。 ●ポップ心理学 少し大きな本屋には、必ず、心理学コーナーがあります。そこには、あなたの心をコ ントロールする方法を魅力的に書きたてた本がたくさん並べられています。その多くが、 「ポップ心理学」と呼ばれているものです。 個人的な体験をベースに心について語ってくれます。心のついてのベストセラー本の多 くがこのたぐいになります。 ●学問的心理学 実は、「素人心理学」も「ポップ心理学」も、大学で学ぶ学問としての心理学とは似て 非なるものなのです。 いずれも、心について述べているという点では似ているのですが、その内容の真実性・ 妥当性の保証という点で非となります。 学問的心理学の中身(知識)は、それが真実・妥当であることを、実験や調査からの データで保証することが求められるのです。さらに、学問的心理学の知識(中身)は、理 論という大きな枠組みのなかに位置づけられています。 − 17 − 第18話 ポジティブ心理学ってどんなもの ●ポジティブに生きよう ポジティブ心理学の主張は、 「ポジティブに考えればあなたの人生、幸福感に満ち溢れ る」ということになります。スローガン的に言うなら、こうです。 ・楽観的に考えよう ・明るく元気で前向きに ・笑顔と感謝と挨拶で周りに元気を感染 しかし、そうそう簡単にはいかないのが心の世界です。 ●ポジティブ心理の何が問題か ポジティブ心理のすすめの問題点は ・現実認識を甘いものにする ・厳しくもつらい現実に敢然と立ち向かうことを回避させる ・みずからのこころの真実とは裏腹な偽善的な対応を導いてしまう こうしたことが、心を鍛えるためにネガティブに働くことになってしまう恐れがないか という懸念です。 要はバランスの問題だと思います。 よく耳にする「7つほめて、3つ叱れ」 「ネガティブに事態を深読みし、ポジティブに 元気に行動する」は意外にいいところをついていると思います。 ●こころを自分でコントロールする さらにもう一つ面倒なことがあります。 精神主義、つまり、人は自分で自分の心身をコントロールできるとする考えです。最初 にあげたようなポジティブ心理のすすめ。わかってはいてもできないというのが現実です。 ポジティブ心理学では、 「やればできる」という精神主義を克服する手助けとして、ポ ジティブになれるためのさまざまな心理技法を開発しているのです。 − 18 −
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