通信市場に関する憲法改革案を政府が発表-寡占企業の株価が一時急落 (メキシコ事務所) 2013/03/26 通商弘報 通信市場に関して、憲法改正を含む改革案が政府から発表された。ペニャ・ニエト大統領が所信表明 演説ならびに「メキシコのための協約」で約束した 項目の 1 つで、健全な市場競争を促すことが主眼だ。 同改革案に市場は直ちに反応し、特定市場において寡占状態にある企業の株価が下落した。 <公正な競争環境の整備などが目的> 大統領府は 3 月 11 日、メキシコ通信市場の改革を目的とした憲法改正を含む案を発表した。意義・目 的は次の 3 つだ。 (1)表現と情報の自由に関する権利の強化、ならびに情報・通信技術や、放送、インターネットを含む通 信サービスにアクセスする権利の確立。 (2)テレビ・ラジオ放送、固定・携帯電話、データ・通信サービス分野における有効な競争を促す措置の 採用。 (3)実質的にインフラやその利用をより効率的にする条件を作ること。それにより、サービスの価格低下 や質の向上に資する。 今回の発表に先立って、2012 年 12 月の大統領就任時に与野党間で結んだ「メキシコのための協約」 の項目 37~45 には、次の 9 項目が明記されている。 (1)連邦公正取引委員会の強化、(2)公正取引専門の司法機能の創設、(3)ブロードバンドへのアク セス権ならびに規制機関の決議の有効性確 立、(4)連邦通信委員会(COFETEL)の独立性強化、(5) 強固な通信基幹網の開発、(6)公共施設のブロードバンドアクセス、(7)ラジオ、テレ ビ放送の競争、(8) 電話、データサービスの競争、(9)テレビ、ラジオ、電話、データサービスにおける競争に資する措置の 採用。 また、大統領就任所信表明演説に盛り込まれた 13 の短期的課題の 10 番目には「ブロードバンドへの アクセス権、電話、データサービス、テレビ、ラジオのより大きな競争を生むための一連の改革を憲法に 盛り込む」とある。 <情報技術へのアクセス権など 5 項目で構成> これらを踏まえて、今回の通信市場改革案は次の 5 項目で構成されている。 (1)情報技術へのアクセス権 憲法第 6 条の基本的権利の強化策として、表現、情報へのアクセス、情報技術へのアクセスの自由に も基本的権利を広げる。具体的には、a.正確かつ タイムリーで、多数の情報に自由にアクセスする権利、 b.メディアを問わず、あらゆる情報や考えを求める、受け取る、広める権利、c.メディアを問わず意 見、 情報、考えを広める自由の不可侵性、d.検閲や普及の自由を制限することの禁止など。 (2)公益サービスとしての通信 通信は公益サービスだとの考え方から、次の 2 つを指摘している。 ○通信は公益サービスで、競争、質、多数性、カバー範囲、相互接続、自由なアクセス、継続性などが 国家によって保証される。 ○放送は公益サービスで、競争や質が保証されるとともに、その便益が全ての国民にいきわたり、かつ 多数性、真実性や、国家アイデンティティーの価値を保つものとする。 <独立の規制機関を設置> (3)独立規制機関 競争を促進し、今回の改革案に含まれる権利に実効性を与えるために、連邦経済公正取引委員会 (CFCE)、ならびに連邦通信機関(IFT)を憲法 上の独立機関として創設する。具体的には、a.その決定 ならびに機能において独立、b.予算執行において独立、c.それぞれ固有の政令を公布、d.一般手 続き 規定の公布が可能、とする。 CFCE の機能は、a.自由競争の阻害要因の排除や、独占・集中を防止する措置の命令、b.不当競争を 排除するため、必要な割合で資産、権利、持ち分、株式などの売却を命令するなど。 IFT の機能は、a.放送、通信分野の規制、推進、監督、b.放送、通信の事業認可(コンセッション)の与 奪、c.コンセッションを受けた者に対 する罰則、d.自由競争の阻害要因を効果的に排除する目的で、同 市場参加者を非対称に規制する、e.周波利用の全国的、地域的(親子、持ち合いを含めた) 集中に制 限を加える、f.これらの制限を履行するために、資産、権利、持ち分などの売却を命令するなど。 (4)専門司法機能 連邦裁判官審議会により、公正取引、通信、放送分野に特化した高等管区裁判所、ならびに初等地 区裁判所を設立する。CFCE または IFT の決議、規定などに対しての行政措置停止などの庇(ひ)護裁 判(アンパロ)は認めないなど。 <放送、通信事業の認可は原則入札で決定> (5)放送、通信のコンセッション 原則入札によって付与される。最大限の競争を促し、公益に反する集中を生むことを防ぎ、最終ユー ザーに対するサービス価格を低減させることを保証する。経済的要因のみで落札者を決定することはな く、公共機関などに対しては(入札ではなく)直接付与する。 また、効果的な罰則の規程を定めるものとする。特に独占的行為に関する決議の不履行については、 コンセッション権利を剥奪する。IFT が現在の独 占状況について調査をし、各種条件、規定を再整備し た上で、コンセッション被付与者が 1 つの周波でマルチサービスが提供できるよう法的に確立するなど。 移行措置として、IFT が発足すれば、次の措置を実施する。 (1)180 日以内に、全国カバーのテレビチャンネルを新規に最低 2 チャンネル増やすべく、放送周波の新 規コンセッションの入札を実施する。 (2)公共放送と有料放送間で再送信義務を課すマストキャリー・マストオファーを規定する。 (3)独占状況を調査し、それに応じて非対称の規制(ドミナント規制、注)に従わせる。 (4)電話、有料テレビ、インターネットの地域独占網を解体する。 (5)現行のコンセッション付与状況を点検する。 <発表を受けて市場がすぐに反応> 独占性にメスが入るとの観測から、3 月 11 日から 13 日の間に携帯電話通信大手アメリカモビルの株 価は 13%下落、テレビ局の TV アステカが 4.3%、同じくテレビサが 3.2%下落した。一方で、後発参入企 業については、チャンスが広がるとの期待から同時期に株価が上昇するなどの現 象がみられた。 通信大手アメリカモビルは固定電話市場の約 8 割、携帯電話市場の約 7 割を占める企業。テレビ放送 市場(地上波)はテレビサと TV アステカの 2 大テレビ局が寡占する市場で、テレビサの市場占有率は 6 割強、TV アステカのそれは 3 割強に達する。 なお、今回の改革案では通信、ラジオ・テレビ放送分野における外資規制の緩和も計画されている。 現状では、携帯電話部門を除き、通信(電気通信、 衛星通信)事業の外資出資比率は 49%までとされ ており、またラジオ放送、ケーブルテレビを除くテレビ放送事業は、定款に外国人排除条項を設ける(外 資の参加を許さない)メキシコ企業のみが許可されている。 今回の改革法案では、通信分野については 100%まで、テレビ・ラジオ放送分野については 49%まで 外国資本の参加を認めることを、憲法改正法案の付則第 5 条に盛り込んでいる。 (注)通信市場への影響力が大きく支配的(ドミナント)だと判断される通信事業者に対し、他事業者より 厳しい規制を課すこと。 (中島伸浩) (メキシコ)
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