オーストリッチ生産管理と衛生管理の基礎と実際*1 Deeming 著・編 大原睦生(訳) クロアカ(総排泄腔)の構造 オーストリッチのクロアカは排便に参与する直腸である糞洞、尿管及び生殖管が連結する尿洞及び プロクトデューム*2 の 3 部からなる消化器系、泌尿生殖器系の共通の終末部である。直腸は糞洞に 入る「直腸のくぼみ」に続く。この「直腸のくぼみ」は直腸排便道の良く発達したヒダで糞洞から分けら れている。糞洞は、黒く丈夫な膜で被われた大きな嚢であり、腹側は膀胱のとして働くかのように大き く拡張している。糞洞と尿洞は糞洞のヒダで部分的に分離されている。 尿洞は短く、尿管と雌では左卵管、雄では二つの精管の出口がある。卵管と二つの精管の開口部 は尿管の開口部の腹側にある。尿管の開口部は小さな乳頭の上にある。一方、精管の開口部は、一 般的な鳥のように乳頭の後ろにある。尿洞のヒダが尿洞とプロクトデュームを分けている。 プロクトデュームはクロアカの一番後ろにあって、尿や糞など全ての排泄物が通過する。ファブリキ ウス嚢がプロクトデュームの背部にある。雄ではファルスがプロクトデュームの腹側の壁(底)にみら れる。オーストリッチとエミューのファブリキウス嚢はプロクトデュームの背部と側部の壁と分けられな い構造で、プロクトデュームの拡張が起源ではない。 性判別 性判別(性鑑別)はクロアカのファルスかクリトリスの存在を検査することで行っている。これは主に 雛の段階で行われ、その方法は視覚による認識、指先による触診や直腸鏡による検査である。鳥の 性判別について記載した多くの著者はクロアカの脱出を防ぐため、丁寧で慎重な方法で行っている。 Gandini と Keffen(1985)は、体重 0.8~15kg の小さい鳥の視覚的検査方法としてプロクトデューム の腹側を反転する方法を発表している。深いしわのファルスの存在や確認できる血管が雄と雌の区 別に利用される。Stwat(1989)は若い雛ではファルスとクリトリスが同じようなサイズであるが、ファ ルスは断面が円錐形で精液の溝を見せる。一方、クリトリスは横方向に圧迫されていて、溝が見られ ない。また、Stewat(1989)は、1~3 カ月齢の鳥では簡単な方法で、この間ではどの月齢でも判別で きると報告している。Fowler(1991)は背面に溝があり、10~40mm の断面が円形を示すのが雄の ファルスと説明した。雌雛のファルスは断面が扁平で長さが 5~10mm、背面の溝がかすかにみられ、 生殖器の盛り上がりが認められる。Berns と Rautenfeld(1977)は雄のファルスは触診可能な軟骨 状基質の繊維体があるが、雌では認められないと報告している。 体重が 15~54kg の大きな鳥になると、指先による触診をクロアカに指を入れ行うことができ、プロ クトデュームの壁でファルスの存在を触診できる。Samour ら(1984)は触診に加えて肛門鏡を用い て検査している。人間用の肛門鏡が、肛門道の底部にあるファルスの検査に活用することができる。 繁殖の調節 オーストリッチは、通常、季節繁殖動物と考えられているが、実際は環境で繁殖を変化できるのか もしれない。イスラエルで、毎月、産卵したという報告がある。Melltt(1993)によると、南アフリカでは 昔から 6 月から 2 月までとされているが、南半球における繁殖季節は 3 月/4 月に始まり、春の 9 月 かそれより遅くまでである。ジンバブエにおける野生の鳥では、7 月から 12 月/1 月までの期間に産卵 16 が観察されているが、一方、南アフリカの飼育環境の交雑種では少なくとも 2 月末まで産卵が継続し ている。アメリカではオーストリッチの繁殖季節は夏であるが、早ければ 1 月から始まり、遅ければ 10 月まで繁殖季節が長くなっている。北部アメリカの鳥では 5 月から 9 月が産卵期であるが、南部の鳥 では一年中産卵する可能性がある。いくつかの報告によると、繁殖季節は光周期で同期化され、日 中時間の増加に一致する。Jarvis ら(1985)によるとジンバブエの野生のオーストリッチは、降雨に 関係なく 7 月から 12 月に産卵し、繁殖季節の調節における日中時間の役割を裏付けている。しかし、 他の研究では繁殖季節の開始や繁殖のピークは、本降りの雨や豊富な飼料の存在する季節と一致 していると報告されている。Degen ら(1994)は繁殖活性の開始は、降雨が必要なのではなく、十分 な飼料をある期間得ることによっておこるという説を唱えている。南アフリカのオーストリッチは 8 月か ら 11 月に繁殖活性のピークを示し、7 月から 12 月に主に産卵する。しかし、2 月まで産卵が続くこと がある。Degen ら(1994)は、飼育されているオーストリッチの繁殖に関係するホルモンレベルの季節 変化は穏やかで、野生の他種の鳥よりは、鶏に類似していると、予測している。 オーストリッチの繁殖に関する内分泌の知見は少なく、雄鳥の繁殖の内分泌的な制御の報告も少 ない。オーストリッチの血漿中の黄体形成ホルモン(LH)レベルは、雄鳥のレベルが雌よりも約 3 倍 高く、雄は雌より劇的な季節的変化を示す。Degen ら(1994)は、オーストリッチの LH レベルは、雄 でも雌でも繁殖季節の始まる 1 カ月前から増加を示し、その後、残りの繁殖期間に徐々に低下するこ とを報告した。雄におけるテストステロンのレベルは繁殖季節開始後、1 カ月間増加していて、LH レ ベルの増加より遅れ、ほぼ 4 カ月高いレベルを維持する。南アフリカにおいて、雄の血漿テストステロ ンレベルは 5 月にピークである 461nmol/l となり、最も低い時期は、繁殖季節の終わりの 1 月の 63nmol/l である。 雌鳥の血清 LH レベルは繁殖季節が始まる前 1 カ月に増加し、残りの繁殖期間に徐々に低下する。 これとは異なり、卵の形成に影響するエストロゲンのレベルは産卵季節の最初 1 カ月から季節の終 わりの前 1 カ月まで高いレベルを示す。産卵のピークに一致するシーズンの 3 カ月間エストロゲンの レベルはピークにある。 受精に及ぼす要因 雄鳥の不妊 雄鳥の不妊の原因がまだ成熟していない結果ということがある。オーストリッチの年齢を正確に知 る方法は無いので、時に、若すぎる雄を繁殖に用いることがある。雌雄とも、2 年で性成熟に達する が、雄の繁殖能力の成熟はおよそ 4 歳である。雌では、通常、雄より 1 年早く性的に成熟する。雄は 時期やサイクルがはずれている可能性がある。雄鳥が、繁殖季節開始における性的活動の開始に 関して、雌に後れをとっていることが知られて、その期間が未受精卵の産卵に関係している。 雄鳥の性的衝動が弱い時や産卵期間が長引くことで雄に極度の疲労が蓄積する時、受精に影響 が現れる。雌雄のオーストリッチに繁殖季節において繁殖の静止期が観察される。これらの期間は 3 ~4 週間持続し、雄から赤い色が抜け、雌の産卵が中断するという特徴がある。南アフリカでは、この 期間、雄と雌を分けるのが常識的に行われている。 (今後に続く) *1 この記事は【 The Ostrich Biology, Production and Health (1999) Edited by Deeming 】に掲載 されたものです。 17 *2 名称は「家禽学」朝倉書店(東京)2000 年に基づいた。 18
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