主な血液検査と臓器機能検査 - Hi-HO

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臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
主な血液検査と臓器機能検査
●採血法
・抗凝固剤を含まない場合
室温に 30 分間放置した後、遠心して、血清と血餅に分離する。
・抗凝固剤を含む場合
採血後、直ちに遠心して、血漿、Buffy coat、赤血球に分離する。Buffy coat には、白血球と血小
板が含まれる。
・採血に使われる抗凝固剤:ヘパリン(抗トロンビン作用)、EDTA、クエン酸 Na、蓚酸 Na など(脱
Ca 作用)
●血液検査の種類
末梢血検査
赤血球の検査
赤血球数(RBC)
ヘモグロビン(Hb)
ヘマトクリット(Ht)
形態の観察(塗抹標本)
白血球の検査
白血球数(WBC)
白血球百分率、形態の観察(塗抹標本)
血小板の検査
血小板数(Plt)
形態の観察(塗抹標本)
赤血球沈降速度(ESR)
凝固・線溶検査
血清・血漿の検査
生化学検査
タンパク質
総タンパク(TP)
アルブミン(Alb)
タンパク質分画
急性反応タンパク(CRP)
酵素(GOT、GPT、LDH など)
非タンパク窒素
血中尿素窒素(BUN)
クレアチニン(Cre)
尿酸(UA)
糖質
グルコース
HbA1C
脂質
総コレステロール(TC)
中性脂肪(TG)
リポタンパク質分画
電解質 Na、K、Cl、Ca、P、Fe など
ビタミン ビタミン B12
ホルモン インスリンなど
その他 ビリルビンなど
血清学的検査 免疫グロブリン、抗原、抗体、補体など
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臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
●赤血球の検査
赤血球数(RBC)
ヘモグロビン(Hb)
ヘマトクリット(Ht)
男性
410∼530 万/μL
13.5∼17.6g/dL
36∼48%
女性
380∼480 万/μL
11.3∼15.2g/dL
34∼43%
・ウイントローブの赤血球恒数
平均赤血球容積(MCV)
平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)
平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)
・赤血球 1 個あたりの容積を表す。
・MCV = Ht÷RBC×10(fl)(f:femto,10−15)
・MCV の基準範囲:83∼93(fl)
・赤血球 1 個あたりのヘモグロビン量を表す。
・MCH= Hb÷RBC×10(pg)(p:pico,10−12)
・MCH の基準範囲:27∼32(pg)
・赤血球中のヘモグロビン濃度を%表す。
・MCHC = Hb÷Ht×100(%)
・MCHC: 32∼36(%)
・ウイントローブの赤血球恒数による貧血の分類
・DNA 合成障害により細胞分裂ができないので大球性(巨赤
大球性貧血(一般に正色素)
芽球)になる。成熟できずに崩壊(無効造血)して貧血に
MCV>93、MCHC>32
なる。
・悪性貧血(ビタミン B12 欠乏)、葉酸欠乏
・急性の失血、溶血などにより血液中の赤血球が失われて貧
血になる。
正球性正色素性貧血
・骨髄での赤血球産生が低下するために貧血になる。
MCV 正常、MCHC 正常
・再生不良性貧血、白血病、癌の骨髄転移、放射線、抗ガン
剤
・ヘモグロビン合成障害のためにヘモグロビン含量の少ない
小球性低色素性貧血
小型の赤血球が産生される。
MCV<83、MCH<27、MCHC<32
・鉄欠乏性貧血、ヘモグロビン異常症
・網赤血球数(男性 0.2∼2.7 %、女性 0.2∼2.6%)
網赤血球とは、成熟赤血球のすぐ前の段階の幼若赤血球で細胞質内に RNA を含む。細胞質には塩
基性色素で染色すると青緑色に染まる網状構造が認められる。溶血性貧血など骨髄での赤血球産生
が亢進する疾患で増加する。
・塗抹標本による形態の観察
●白血球の検査
桿状核好中球
分葉核好中球
好酸球
好塩基球
単球
男性
女性
3,900∼
3,500∼
9,800/μL 9,100/μL
2∼13%
38∼58%
0.5∼7%
0∼1%
2∼8%
リンパ球
27∼47%
白血球数
主な原因
・増加:細菌感染症、心筋梗塞、骨折、火傷、白血病など
・減少:腸チフス、ウイルス感染、再生不良性貧血など
・細菌感染症では分葉核好中球に対する桿状核好中球の比
率が増加する(核の左方移動)。
・アレルギー疾患、寄生虫疾患で増加する。
・慢性骨髄性白血病などで増加する。
・単球性白血病、膠原病、感染症(結核、梅毒など)
・増加:急性および慢性感染症(細菌性、ウイルス性)、
リンパ性白血病など
・減少:AIDS、再生不良性貧血
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臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
●血小板の検査
血小板数
血小板数増加
血小板数減少
・男性 13.1∼36.2 万/μL、女性 13.0∼36.9 万/μL
・慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症、出血など
・再生不良性貧血、急性白血病、播種性血管内凝固症候群(DIC)、脾機能亢進症
など
●血液凝固の検査
出血時間
(Duke 法)
プロトロンビン
時間(PT)
・皮膚にメスで小さな創傷(長さ 2mm、深さ 3mm)を作り、出血が自然に止ま
るまでに時間を測定する。
・血小板凝集による一次止血を反映している。
・基準範囲は 1∼3 分。
・血症減少症、血小板機能異常症で延長する。
・血漿に Ca2+と組織抽出成分を加えてフィブリンの塊ができるまでの時間を測
定する。
・凝固因子Ⅰ、Ⅱ、Ⅴ、Ⅶ、Ⅹ(肝臓で合成)に影響される。
・基準範囲は 10∼12 秒。
・先天性凝固異常症、重症肝障害、ビタミン K 不足、ワーファリン使用など
●赤血球沈降速度(erythrocyte sedimentation rate, ESR)、赤沈、血沈
・赤血球の凝集(連銭形成)に関係し、凝集が早くて大きいほど ESR は促進する。血清中のγ-グロブ
リンやフィブリノーゲンが増加すると ESR は促進する。
・基準範囲:1 時間値 男性 2∼10mm、女性 3∼15mm
・軽度促進 ∼25mm、中等度促進 25∼50mm、高度促進 50∼mm
・非特異的検査で、診断に直接かかわることは少ないが、病勢、経過の把握には有用である。
促進
・急性感染症、慢性感染症(特に結核)
・悪性腫瘍、膠原病、多発性骨髄腫
・心筋梗塞(狭心症では基準範囲にある)
・炎症性腸疾患、貧血(血液希釈状態)など
遅延
・赤血球増多症(赤血球同士の反発による)
・脱水症(血液濃縮状態)
・重症肝障害(フィブリノーゲンの減少)
●C 反応性タンパク質(C-reactive protein, CRP)
・炎症組織のマクロファージから分泌されたサイトカインが肝細胞に働いて一連の急性期反応タンパ
クの産生を促進し、それらの血中濃度が上昇する。
・CRP は急性期反応タンパクの代表的成分で、肺炎双球菌の細胞壁の C 多糖体と沈降反応を起こす。
・基準値:0.06mg/dl 未満
・軽度増加(0.1∼1mg/dl)、中等度増加(1∼10mg/dl)、高度増加(10mg/dl 以上)
。
・感染症、各種炎症性疾患、自己免疫疾患、膠原病、悪性腫瘍、心筋梗塞などで増加する。
・最近では、高感度 CRP 測定法が実用化され、正常範囲内での高値が動脈硬化症の予後予測に有用
であることが示されている。
●肝機能検査
<肝臓のタンパク・脂質合成能をみる検査>
・アルブミン、コレステロール、中性脂肪、コリンエステラーゼ(ChE)、プロトロンビン時間(PT)
などは、慢性肝炎,肝硬変など肝実質障害、栄養不良で血中濃度が低下する。
・ChE:アルブミンと相関するが、より鋭敏な検査である。脂肪肝、ネフローゼ症候群、甲状腺機能
亢進症では血中濃度が上昇する。
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臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
<肝臓の代謝機能をみる検査>
ビリルビン
血中アンモニア
ガラクトース
負荷試験
・ジアゾ試薬による発色で測定されるものを、直接(抱合型)ビリルビンという。
・反応促進剤の存在下で測定されたものを総ビリルビンという。
・間接(非抱合型)ビリルビンは、総ビリルビンから直接ビリルビンを引いて求
める。
・アンモニアは、主に経口的に摂取したタンパク質を腸内細菌が分解するときに
生じ、肝臓の尿素合成能が低下すると血中濃度が上昇する。
・血中アンモニアの上昇は、肝性脳症、肝性昏睡の原因物質と考えられている。
・ガラクトースはほとんどが肝臓で代謝される。
・ガラクトースを静注して,血中半減期をもとめる。慢性肝炎、肝硬変で半減期
が延長する。
<組織の炎症をみる検査>
A/G 比
血清膠質反応
・急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変で低下(アルブミンの減少とグロブリンの増加)
する。
・血清にタンパク変性剤を加えて混濁や沈殿を見るもので、TTT と ZTT がある。
・チモール混濁反応(Thymol Turbidity Test, TTT):γ-グロブリン、特に IgM
の増加を反映する。
・クンケル反応 (Zinc Turbidity Test, ZTT)、硫酸亜鉛混濁反応:IgG と IgM の
増加を反映する。
<肝臓実質組織の障害をみる検査(逸脱酵素)>
・組織の障害により細胞内にある酵素が血液中に流出して、血中濃度が上昇する。
・GOT:Glutamic Oxaloacetic Transaminase、Aspartate Transaminase、AST
心筋、骨格筋、赤血球などにも存在する。
・GPT :Glutamic Pyruvic Transaminase、Alanine Transaminase、ALT
主に肝臓に存在し、特異性が高い。
・GOT・GPT の上昇の程度と疾患の関係
軽度上昇
中等度上昇
高度上昇
∼100 IU/L
100∼500 IU/L
500∼ IU/L
脂肪肝、肝硬変(代償期)など
慢性肝炎、アルコール性肝炎、肝硬変(非代償期)など
急性肝炎など
急性肝炎:GPT>GOT 、慢性肝炎・肝硬変:GOT>GPT
・LDH :Lactate Dehydrogenase
急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変で血中濃度が上昇する。
<特定の酵素の誘導(増加)をみる検査>
γ−GTP
ChE
・物質の抱合・排泄に関わる酵素である。(γ-Glutamyltranspeptidase)
・アルコール性肝障害で血中濃度が上昇する。
(100IU/L 以上)
・脂肪肝でも上昇するが 100IU/L 以下のことが多い。100IU/L 以上の場合は NASH を
疑う。
・脂肪肝、ネフローゼ症候群、甲状腺機能亢進症で血中濃度が上昇する。
<胆汁排泄の障害をみる検査>
・胆道系酵素(胆汁中に排泄される酵素)である ALP、LAP (Leucine Aminopeptidase)、γ-GTP は、
胆道閉塞、胆汁うっ滞で血中濃度が上昇する。ALP は骨疾患でも上昇する。
・胆汁の成分である血清コレステロール、血清胆汁酸、リン脂質は、胆道閉塞、胆汁うっ滞で血中濃
度が上昇する。
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臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
BSP 試験
(Bromsulphalein
Test)
ICG 試験
(Indocyanine green
Test)
・BSP は肝臓で抱合されて胆汁中に排泄される。
・BSP を静注して血液中の停滞率をみる。
・肝実質障害、胆道閉塞で上昇する。
・ICG は肝臓に取り込まれて抱合されずにそのまま胆汁中に排泄される。
・ICG を静注して血液中の停滞率をみる。
・肝実質障害、胆道閉塞で上昇する。
・検査による黄疸の鑑別診断
分類
原因
血中ビリルビン
尿中ビリルビン
尿中ウロビリノーゲン
溶血性黄疸
溶血性貧血
肝炎,肝硬変,薬物
中毒
胆石,胆のう炎,胆
管癌,膵臓癌
肝臓での抱合反応
が未熟
非抱合型↑
抱合型↑↑↑
非抱合型↑
−
+++
+
+∼++
抱合型↑↑↑
+∼+++
−∼±
非抱合型↑
−
−
肝細胞性黄疸
閉塞性黄疸
新生児黄疸
<肝炎ウイルスマーカー>
A 型肝炎
B 型肝炎
C 型肝炎
・IgG 型 HA 抗体、IgM 型 HA 抗体、HAV RNA
・HBs 抗原、HBs 抗体、HBc 抗原、HBc 抗体、IgM 型 HBc 抗体、HBe 抗原、HBe
抗体、HBV DNA
・HCV 抗体、HCV コア抗体、HCV RNA
<腫瘍マーカー>
・α-フェトプロテイン:肝臓癌で血中濃度が上昇する。
●膵機能検査
<消化酵素の逸脱>
・アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン、エラスターゼ−Iなど。
・血清アミラーゼは早く正常化するが、尿中アミラーゼの回復はやや遷延する。
・アミラーゼは唾液腺型と膵型のアイソザイムがある。
・膵型アイソザイムは、急性膵炎、慢性膵炎などで血中濃度が上昇し、唾液腺型アイソザイムはおた
ふく風邪で血中濃度が上昇する。
<131I−トリオレイン脂肪消化吸収試験>
・脂肪の消化吸収障害があると、糞便中の排泄量が増加する。
<PFD(Panceatic Function Diagnostant)試験>
・膵外分泌機能をみる検査である。
・経口投与された BTPABA (N-Benzoyl-L-Tryosyl-p-aminobenzoic Acid)が、膵酵素であるキモトリ
プシンにより分解されて、PABA (p-Aminobenzoic Acid)を遊離する。PABA は小腸で吸収されて尿
中に排泄される。BTPABA 投与後 6 時間の PABA 尿中排泄量を測定する。
・慢性膵炎、膵癌、膵管閉塞(膵石,膵頭部癌)などで低下する。
<パンクレオザイミン・セクレチン試験>
・膵臓外分泌機能みる検査である。
・パンクレオザイミンは消化酵素の合成・分泌を促進し、胆嚢を収縮させる。
・セクレチンは重炭酸を水の分泌を促進する。
・刺激後の膵液の量、重炭酸塩濃度、アミラーゼを測定する。
・慢性膵炎、膵癌、膵管閉塞(膵石,膵頭部癌)などで低下する。
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臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
●腎機能検査
<血清尿素窒素(Blood Urea Nitrogen,BUN)>
・尿素はタンパク質の分解により、肝臓で生成され、尿中に排泄されるが、尿細管では一部再吸収さ
れる。
・尿素窒素は尿中に排泄される非タンパク性窒素の 80%を占める。
・尿素の排泄にかかわる腎機能以外の因子として、食事タンパクの摂取量、体内タンパク質の異化、
組織崩壊などの影響を受ける。
・腎疾患では、糸球体腎炎,腎不全,尿路閉塞などで血中濃度が上昇する。(排泄の減少)
・腎以外では、高タンパク食、消化管出血、心不全、脱水などで血中濃度が上昇する。(産生の増加)
・肝不全,低タンパク食では低下する。
:10≧では高タンパク食など腎外因子が関与、10<では腎性
・BUN/クレアチニン比(基準値 10:1)
因子が関与していると考えられる。
<血清クレアチニン(Creatinine)>
・筋肉のクレアチン由来で、糸球体で濾過され、尿細管で再吸収されずに排泄される。
・1 日排泄量は筋肉量に比例する。
・食事や腎臓以外の臓器の影響を受けにくいので、BUN より腎疾患に特異的である。
・腎疾患では、慢性糸球体腎炎,腎不全,尿路閉塞などで血中濃度が上昇する。
(排泄の減少)
・腎以外では、心不全、脱水など腎血流量が低下するときに血中濃度が上昇する。(排泄の減少)
<糸球体濾過値(Glomerular Filtration Rate,GFR)>
・クリアランスとは、血中のある物質(X)を単位時間に除去するのに要する血液量を意味する。
・ある物質の尿中濃度を Ux、血漿濃度を Px とし、1 分間尿量を V とすると、腎クリアランス(Cx)
は、Cx=Ux×V/Px であらわされる。
・X が糸球体で自由に濾過され、尿細管で分泌も再吸収もされないとき、Cx は糸球体濾過値(GFR)
をあらわす。
1分間に尿中に排泄さ れた量
1.48
(基準値 70∼130 ml/min)
GFR =
×
血漿中の濃度
体表面積
・チオ硫酸ナトリウムを用いる外因性の試験と、クレアチニンを用いる内因性の試験がある。
・腎疾患では、慢性糸球体腎炎、腎不全などで低下する。
・腎以外では、心不全、脱水などで腎血流量が減少するときに低下する。
<腎血漿流量(Renal plasma flow, RPF)>
・パラアミノ馬尿酸(p-Aminohippuric Acid,PHA)は、腎臓を 1 回通過すると 90%尿中に排泄さ
れるので、1 分間に尿中に排泄される量は 1 分間に糸球体を通過した血漿量と同じになる。
RPF =
1分間に尿中に排泄さ れた量
1.48
×
血漿中の濃度
体表面積
(基準値 350∼650 ml/min)
・腎疾患では、慢性糸球体腎炎、腎不全などで低下する。
・腎以外では、心不全、脱水など腎血流量が減少するときに低下する。
<フィッシュバーグ尿濃縮試験>
・尿濃縮能を見る検査。
・前日夕食(乾燥食)後、飲水を禁止し、翌朝の尿比重が 1.025 以上なら正常。
・腎疾患では腎不全など尿の濃縮障害で低値となる。
・腎以外では下垂体後葉からの抗利尿ホルモン(バソプレッシン)分泌不全(尿崩症)で低値となる。
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臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
●高脂血症の検査
<脂質プロフィール>
・総コレステロール(TC)
総コレステロールが上昇する疾患
家族性高コレステロ
ール血症(Ⅱa 型)
ネフローゼ症候群
胆汁うっ滞
甲状腺機能低下症
糖尿病
肥満
副腎皮質ホルモン
・LDL 受容体の欠損。常染色体優性遺伝。ホモ接合体では 600∼1,000mg/dl、
ヘテロ接合体でも 300∼500mg/dl になる。
・コレステロール合成の増加と胆汁酸への異化の障害。
・胆汁の排泄障害。
・胆汁酸への異化の減少。
・アポ B の糖化により LDL 受容体との親和性が低下し、LDL が血液中に
停滞。
・コレステロール合成増加。
・コレステロール合成増加。
総コレステロールが低下する疾患
甲状腺機能亢進症
下垂体機能低下症
肝硬変
吸収不良症候群
栄養不良
・胆汁酸への異化亢進。
・遊離脂肪酸動員の減少により、コレステロール合成が低下。
・肝臓でのコレステロール合成低下。
・食事由来のコレステロールの消化・吸収の障害。
・中性脂肪(トリグリセリド、TG)
中性脂肪が上昇する疾患
家族性高キロミクロ
ン血症(Ⅰ型)
家族性複合型高脂血
症(Ⅱb 型)
家族性高中性脂肪血
症(Ⅳ型)
家族性Ⅴ型高脂血症
甲状腺機能低下症
糖尿病
肥満
ネフローゼ症候群
過剰なアルコール
過剰な糖質
副腎皮質ホルモン
経口避妊薬
急性膵炎
・LPL 活性の低下、あるいはアポ C-Ⅱの欠損。常染色体劣性遺伝
・VLDL 合成促進。常染色体優性遺伝。
・VLDL の合成促進と処理障害。常染色体優性遺伝。
・VLDL とキロミクロンが増加する。
・LPL 活性の低下。
・インスリン作用不足により LPL や HTGL 活性が低下。
・VLDL 合成促進。
・血液中に LPL 抑制因子が存在。
・VLDL 合成促進。
・VLDL 合成促進。
・VLDL 合成促進
・VLDL 合成促進と LPL 活性の低下
・キロミクロン増加。キロミクロンの増加が急性膵炎を引き起こす。
中性脂肪が低下する疾患
甲状腺機能亢進症
肝硬変
吸収不良症候群
栄養不良
・LPL による異化の亢進。
・VLDL 合成減少。
・VLDL 合成減少。
・VLDL 合成減少。
・HDL-コレステロール(HDL-C)
HDL-C が上昇する疾患
CETP 欠損症
適度のアルコール
適度な運動
・キロミクロン、VLDL へのコレステロール転送が障害される。
・VLDL 代謝の促進。
・VLDL 代謝の促進。
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臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
HDL-C が低下する疾患
家族性高中性脂肪血
症(Ⅳ型)
肥満・糖尿病
運動不足
・VLDL 代謝の障害
・VLDL 代謝の障害
・LDL‐コレステロール(LDL-C)の濃度を求め方(間接法)
中性脂肪
LDLコレステロール=総コ レステロール−HDLコレステロール−
5
<電気泳動法によるリポタンパク質の分画>
キロミクロン(原点)
β
Pre-β
α
−
+
キロミクロン
VLDL
LDL
HDL
<その他の血清脂質の検査>
・レムナント・コレステロール(RLP-C)
レムナント・リポタンパク質はキロミクロンや VLDL が LPL によって加水分解を受けた中間代謝
産物で、強い動脈硬化促進因子である。高中性脂肪血症に伴って出現することが多い。
・リポプロテイン(a)(Lp(a))
高分子糖タンパク質であるアポ(a)と LDL 様粒子の複合体。Lp(a)の血中濃度の増加と動脈硬化
性疾患の関連が指摘されている。LDL よりも酸化的修飾を受けやすいことや血栓形成を促進するこ
とが動脈硬化症を促進すると考えられている。
●血糖値の検査
<いつ採血したか>
・早朝空腹時(空腹時血糖、FBS,Fasting Blood Suger)
・食後 2 時間(食後血糖)
・外来受診時(随時血糖)
<どのように採決したか>
・全血または血漿(血漿は全血より 10∼15%高い)
・毛細管血または静脈血(毛細管血が静脈血より高い)
・長時間保存する場合は解糖阻止剤(NaF,EDTA)を添加し,4℃に保存.(約 12 時間安定)
<血糖コントロール状態の判定基準>
評価
HbA1c(%)
空腹時血糖値
食後 2 時間血糖値
優
<5.8
80∼110
80∼140
良
5.8∼6.5
110∼130
140∼180
可
6.5∼8.0
130∼160
180∼220
不可
≧8.0
≧160
≧220
<75g 経口ブドウ糖負荷試験(Oral Glucose Tolerance Test,OGTT)>
・10∼14 時間絶食後、早朝空腹時に実施する。
(前日は過激な運動、アルコールを禁止)
・負荷する糖液:トレラン G(ブドウ糖 36.5%、多糖類 33.7%)浸透圧低く副作用少ない。
マルトース(膵外分泌機能が低下している場合に使用)
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臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
・実施中は安楽な姿勢で座席に座る。トイレ以外の歩行は禁止。喫煙は禁止。
・採血時間:服用前、糖液服用開始時刻から 30 分後、60 分後、90 分後、120 分後、180 分後
・糖液は 5 分以内に服用
・75g 経口糖負荷試験による判定区分と判定基準(静脈血漿 mg/dl)
WHO(1997)
日本糖尿病学会(1999)
糖尿病型
空腹時≧126
and/or 2 時間値≧200
境界型
糖尿病型にも正常型にも属さないもの
正常型
空腹時<110
and
2 時間値<140
糖尿病
空腹時≧126 and/or 2 時間値≧200
耐糖能異常
2 時間値 140∼200
Impaired Fasting Glucose
(IFG)空腹時 110∼125
正常型
空腹時<110 and 2 時間値<140
<血糖自己測定の意義>
・家庭での血糖値を知ることにより、より緻密なインスリン量の調節が可能となり、より厳格な血糖
コントロールを可能にする。(第 4 の治療法)
・低血糖の識別
・運動中の補食とインスリン量の調節
・教育的意義:血糖値と食事、運動、インスリン注射治療などの関係を理解させる。治療に対する動
機付け。
<血糖自己測定の適応>
・1 型糖尿病患者(不安定型糖尿病、強化インスリン療法実施者、ポンプなど特殊なインスリン療法
実施者)
・インスリン治療を必要とする 2 型糖尿病患者
・糖尿病妊婦および妊娠を希望する糖尿病女性
・Sick Day
・現在では、インスリン治療者のみ保険適応
・費用:測定器は 1 万円前後、センサーは 1 回 140 円前後、針 1 回 20 円前後
<血糖自己測定の実施条件>
・患者と医師との間に十分な相互理解と信頼関係をもちうること
・糖尿病教育が十分に行われていること
・得られた血糖値に対して適正な判断が下せる判断力と知識を持っていること
・性格的にあまり神経質でないこと
・測定手技に習熟するだけの能力を持っていること
<血糖自己測定の実施方法>
・何日おきか、1 日何回か、いつ測定するかは、症例ごとに異なる。
・空腹時血糖(毎日)、食前・食後 2 時間(2 週間に 1 回)
・1 日 1 回法(第 1・2 日は、朝食前、第 3・4 日は、朝食後 2 時間..
.
)
.)など
・1 日 2 回法(第 1・2 日は、朝食前・朝食後 2 時間、第 3・4 日は、昼食前・昼食後..
・Sick day では、随時あるいは 4 時間毎
<血糖自己測定の結果の評価>
・測定回数の半分以上が以下の基準を満たす。
良
可
食前
80∼140mg/dl
80∼160mg/dl
食後
<160mg/dl
<180mg/dl
就寝前
100∼160mg/dl
100∼180mg/dl
臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
44
<血糖自己測定の治療へのフィードバック方法>
・スライディングスケール方式
血糖値を測定し、そのつどインスリン量を微調整する。
例:150∼180mg/dl→2 単位追加、181∼200mg/dl→4 単位追加、201∼mg/dl→6 単位追加
・アルゴリズム方式
1 日数回血糖値を測定し、その結果を見てインスリン量を微調整する。
食事量・運動量が変化していないことを確認して、その責任インスリンの量を 1∼2 単位ずつ増減
する。
●血糖値のコントロール状態を把握するための検査
<グリコヘモグロビン(HbA1C)>
・測定法:イオン交換樹脂クロマトグラフィーで糖化したヘモグロビン A(HbA1)を分離.HbA1C
は HbA1 の主成分で、主としてグルコースが結合したもの。HbA1c には中間物質アルミジ
ン(不安定型 HbA1c)と最終産物ケトアミン(安定型 HbA1c)がある。一般に総 HbA1c
の 10∼20%が不安定型である。実際の臨床検査では、前処置により不安定型を除き安定型
のみを測定している。
・意義:グリコヘモグロビンン半減期は 28.7 日であることから過去 1∼2 ヵ月の平均血糖値を反映し
ていると考えられる。随時血糖値とあわせて糖尿病のスクリーニング検査としても利用され
る。
・基準範囲:4.3∼5.8%
・判定基準:<5.8(優)、5.8∼6.5(良)、6.5∼8.0(可)、≧8.0(不可)
<フルクトサミン>
・測定法:血清タンパク質の糖化を測定する。
・意義:主としてアルブミンの糖化に依存、半減胃が 16.5 日であることから過去 1∼2 週間の平均血
糖値を反映している、一般に小児では低値、妊娠では妊娠週数に応じて低下している。血清
タンパクが 3.0 g/dl 以下になると低値になる。また、個人差が大きい。
・基準範囲:205∼285 μmol/l
・判定基準:約 290(良好)、約 320(ほぼ良好)、約 340(やや不良)
、380 以上(不良)
<グリコアルブミン>
・糖化アルブミンを測定
・意義:過去 1∼2 週間の平均血糖値を反映している。フルクトサミンよりも個人差が少ない。
・基準範囲:12∼18%
<1,5-アンヒドロ-D-グルチトール(1,5-AG)>
・食物に含まれるポリオールの一種でグルコースと構造が似ている。正常では糸球体で濾過されたう
ち 99%が尿細管で再吸収される。
・高血糖があると再吸収が阻害され、尿中排泄が増加し、血中濃度が低下する。
・意義:血糖値が改善され尿糖が出なくなると、0.3 μg/ml/日の割合で増加。1 週間以内の血糖値の変
動を反映。
・基準範囲:≧14 μg/ml(血漿)
・判定基準:≧10.0(優)、8.0∼9.9(良)、3.1∼7.9(可)、≦3(不可)
<尿糖自己測定>
・糖排泄閾値(約 170 mg/dl)を越えると陽性になる。
・血糖値の測定に比べ不正確だが、ある一定時間の大まかな指標として有用。
●糖尿病の代謝異常に関する検査
・血中・尿中ケトン体
・血中脂質(総コレステロール、中性脂肪、HDL−コレステロール)
臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
45
糖尿病では中性脂肪産生過剰によるⅣ型高脂血症(VLDL 増加、)が特徴だが、LDL 合成増加ある
いは利用低下がおこるとⅡb 型高脂血症(VLDL+LDL 増加)となる。
・電解質、浸透圧、酸塩基平衡など
著しい高血糖がある場合、血清浸透圧上昇により、血管内に水分が移動して低 Na 血症となる。
糖尿病性腎症が進行して腎不全になると、高 K 血症、高 P 血症、低 Ca 血症が出現する。
ケトアシドーシスや腎不全により、代謝性アシドーシスが出現する。
グルコース BUN
血漿浸透圧=2 × Na+
+
18
2.8
●インスリン分泌能に関する検査
<血中インスリン濃度>
・空腹時の血清インスリン濃度
高値:2 型(NIDDM)、境界型、肥満、インスリン抵抗性、異常インスリン、インスリノーマ(イ
ンスリン産生腫瘍で低血糖を起こす)など
低値:1 型(IDDM)、慢性膵炎など
・グルコース負荷による分泌刺激
1 型(IDDM)では低下
2 型(NIDDM)、境界型では初期分泌が低下し、遅れて高値になる。
(遅延反応)
<血中・尿中 C−ペプチド濃度>
・C−ペプチドは膵 B 細胞からインスリンと等モル分泌され、大半は腎臓で代謝、5∼12%が尿中に
排泄される。
・血中 C ペプチドはインスリン分泌量に平行して変動する。
・尿中 C ペプチド:1 日尿排泄量を測定することにより、インスリン分泌能を評価できる。インスリ
ン治療中でも、内因性インスリン分泌能を評価できる。
<HOMA(Homeostasis Model Assessment)>
・空腹時血糖値とインスリン濃度から、インスリン抵抗性とインスリン分泌不全を診断する。
空腹時血糖値 × インスリン濃度
405
インスリン濃度 × 360
HOMA −β=
空腹時血糖値 - 63
HOMA − R=
・HOMA-R(正常:∼2.5、疑い:2.5∼5.0、インスリン抵抗性:5.0∼)
・HOMA-β(正常:40∼50%、分泌低下:∼40%)
●糖尿病の成因診断のための検査
<自己免疫性の 1 型の診断に用いられるもの>
・膵島抗体(Islet Cell Antigen, ICA)
・膵島細胞膜抗体(Islet Cell Surface Antigen, ICSA)
・抗グルタミン酸脱炭酸酵素抗体(抗 GAD 抗体)
・抗 IA-2 抗体(インスリノーマ関連チロシンホスファターゼ様タンパク質)
<膵β細胞機能にかかわる遺伝子異常の診断に用いられるもの>
・グルコキナーゼ、ミトコンドリア DNA、アミリン、HNF(転写因子)などの遺伝子
<インスリン作用の伝達機構にかかわる遺伝子異常の診断に用いられるもの>
・インスリン遺伝子、インスリン受容体遺伝子
<免疫機序によるまれな病態の診断に用いられるもの>
・インスリン自己抗体、インスリン受容体抗体
46
臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
●糖尿病の合併症に関する検査
・糖尿病性網膜症:眼底検査
・糖尿病性腎症:尿タンパク、尿中アルブミン排泄
腎機能検査(クレアチニン・クリアランス、BUN、血清クレアチニン)
・尿中アルブミンの検査(アルブミン排泄率,AER)
カテゴリー
正常
微量アルブミン尿
臨床的アルブミン尿
24 時間尿
(mg/24h)
<30
30∼300
>300
時間尿
(μg/分)
<20
20∼200
>200
随時尿
(μg/mg クレアチニン)
<30
30∼300
>300
・糖尿病性神経症
末梢神経障害:知覚障害、振動覚、神経伝導速度、腱反射
自立神経障害:起立性低血圧、R-R 間隔
・大血管障害 Macroangiopathy(動脈硬化症)
血圧、心電図、CT、MRI、血管造影、頸動脈エコーなど
●高○×血症と低○×血症の考え方
・ある電解質の血中濃度はその電解質の体内含量と細胞外液量によって決まる。
・ある電解質の体内含量が増加していても、細胞外液量はそれ以上に増加していれば低○×血症にな
る。
・ある電解質の体内含量が減少していても、細胞外液量はそれ以上に減少していれば高○×血症にな
る。
●体内 Na 量の調節
・Na は細胞外液中の陽イオンで 90%を占めていて、細胞外液量と浸透圧を決めるもっとも主要な因
子である。
・糸球体で濾過された Na の約 85%は近位尿細管とヘンレのループの上行脚で再吸収される。
・体内の Na が不足しているときは、アルドステロンの作用により皮質集合管で残りの約 15%のほと
んどが再吸収される。
・Na の排泄量は 1∼400mEq/day の範囲で調節可能である。
(400mEq は食塩で約 23.4g に相当する)
●高 Na 血症
・血清 Na 濃度が 145mEq/l 以上を高 Na 血症という。
・主な原因
水分欠乏
Na 過剰負荷
Na 貯留
発汗、尿崩症、浸透圧利尿などにより、水分の喪失が、Na の喪失を上回った場合
点滴による過剰な Na 投与や、食塩の過剰摂取
原発性アルドステロン症、クッシング症候群
・細胞外液が高浸透圧になるために、細胞内から水が移動して細胞内脱水の状態になり、口渇、頭痛、
幻覚、けいれん、意識障害などの症状が出現する。
●低 Na 血症
・血清 Na 濃度が 135mEq/l 以下を低 Na 血症という。
・主な原因
水分欠乏
水分の過剰
Na 喪失
見かけ上
・下痢、嘔吐、浸透圧利尿などにより、Na の喪失が、水分の喪失を上回った場合。
・水分欠乏に対して、Na を含まない輸液を行った場合。
心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群など、Na 貯留を超えて水が貯留した場合
副腎不全(アジソン病)
高脂血症、高タンパク血症
・細胞外液の浸透圧が低下する場合は、水が細胞内に移動し、細胞内浮腫をきたす。
47
臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
・脳浮腫を起こすと、頭痛、悪心、嘔吐、けいれん、意識障害などが出現する。
●体内 K 量の調節
・体内の K の大部分(98%)は細胞内に存在する。
・体内の過剰な K は、アルドステロンの作用により遠位尿細管で排泄される。
●高 K 血症
・血清 K 濃度が 5mEq/l 以上を高 K 血症という。
・主な原因
排泄障害
細胞外への移動
過剰摂取
・腎不全、抗アルドステロン薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬
・アシドーシス:細胞外液の H+が細胞内へ移動するのと交換して K が細胞外へ
放出される
・組織崩壊、消化管出血
・K 含有製剤、K 含有食品
・脱力感、四肢麻痺、しびれ感、悪心、嘔吐、不整脈などの症状が現れる。
・心電図で、T 波の増高(先鋭化)が見られる。
●低 K 血症
・血清 K 濃度が 3.5mEq/l 以下を低 K 血症という。
・主な原因
排泄増加
細胞内への移動
摂取不足
・原発性アルドステロン症、クッシング症候群
・K 排泄性利尿薬
・下痢・嘔吐
・アルカローシス:細胞内の H+が細胞外へ移動するのと交換して K が細胞内へ
取り込まれる
低栄養、不適切な輸液
・脱力感、呼吸筋麻痺、腸管麻痺などが出現する。
・心電図で、T 波の平低が見られる。
●体内 Ca 量の調節
・体内 Ca の 99%は骨に存在する。
・Ca は骨の成分だけでなく、酵素活性、血液凝固、筋肉の収縮、神経伝達、ホルモン分泌などに必
要な成分である。
・ビタミン D は、腸管での Ca の吸収を促進する。
・副甲状腺ホルモン(PTH、パラソルモン)は、骨からの Ca の動員を促進する(骨吸収)。
・さらに、PTH は腎臓での Ca の再吸収を促進すると同時にビタミン D の活性化も促進して血清 Ca
濃度を上昇させる。
●高 Ca 血症
・血清 Ca 濃度が 11.0mg/dl 以上を高 Ca 血症という。
・主な原因
PTH 作用の過剰
ビタミン D 作用の過剰
骨吸収の亢進
Ca 再吸収の亢進
その他
副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍が産生する PTH 様物質
ビタミン D 中毒(過剰なビタミン D 製剤内服)
悪性腫瘍の骨転移
サイアザイド系利尿薬
ミルクアルカリ症候群(過剰な Ca の摂取)
・高 Ca 血症では、全身倦怠感、食欲不振、集中力低下、傾眠傾向、尿路結石症が出現する。
・腎臓での尿濃縮能が低下し、多尿、脱水が出現し、高度の場合急性腎不全となる。
48
臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
●低 Ca 血症
・血清 Ca 濃度が 9.0mg/dl 以下を低 Ca 血症という。
・主な原因
PTH 作用の不足
ビタミン D、Ca の吸収障害
ビタミン D の活性化障害
副甲状腺機能低下症、偽性副甲状腺機能低下症(PTH 受容体の異
常)
膵疾患、胆道疾患、小腸疾患による脂肪吸収障害
腎不全、不十分な日光暴露
・血清 Ca は 50%がイオンとして、45%が血清タンパク質と結合して、5%が陰イオンと結合して存
在しているので、低タンパク血症では見かけ上低 Ca 血症となるが、Ca2+イオンの濃度は低下して
いないことがある。
・Ca2+イオンの濃度は、アシドーシスで増加し、アルカローシスで低下するので、血清中の総 Ca 濃
度が基準範囲にあるからといって低 Ca 血症、高 Ca 血症は否定できない。
・低 Ca 血症の症状は、神経・筋肉の興奮性の増加が特徴で、筋肉の引きつれ、テタニー、けいれん
などが出現する。
●酸塩基平衡と緩衝系
・酸と塩基(ブレンステッド・ローリーの定義)
HA(酸)⇔H+ + A−(共役塩基)
解離常数 K=[H+]×[A−]/[HA]
・ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式
[H+]=K×[HA]/[A−]
pH=−log[H+]=pK+log[A−]/[HA]
・pH は酸とその共役塩基の濃度の比によって決まる。
→酸が増加するか、その共役塩基が減少すると pH は低下する。
→酸が減少するか、その共役塩基が増加すると pH は上昇する。
→溶液に酸または塩基を加えたときは、[A−]≒[HA]のときが pH の変化がもっとも小さい。
→ある緩衝系の緩衝作用は pK 付近でもっとも強い。
●血液の緩衝系
①炭酸−重炭酸塩緩衝系(H2CO3−HCO3−系)
H2CO3 ⇔ H+ + HCO3− (pK 6.1)
②リン酸緩衝系(H2PO4−−HPO42−系)
H2PO4− ⇔ H+ + HPO42− (pK 6.8)
③タンパク質緩衝系
H-タンパク質 ⇔ H+ + タンパク質−
・炭酸−重炭酸塩緩衝系の緩衝作用は、pH7.4 付近では弱いが、量的に多いために血液の緩衝系では
もっとも重要である。
・H2CO3 濃度は CO2 分圧によって決められ、主に呼吸によって調節される。HCO3−濃度は主に腎臓
での排泄・再吸収によって調節される。
●アシドーシスとアルカローシスの分類と病態
・pH=6.1 + log[HCO3−]/[H2CO3]
[HCO3−]/[H2CO3]が低下すると pH は低下(アシドーシス)する。
[HCO3−]/[H2CO3]が増加すると pH は上昇(アルカローシス)する。
H2CO3 濃度は CO2 分圧で決まる([H2CO3]=0.03×pCO2)(H2O +
−
代謝性アシドーシス
+
呼吸性代償
CO2 ⇔
H2CO3)
・体内で酸の産生が増加すると、HCO3 が緩衝塩基として消費されて
H2CO3 が生成されるので pH は低下する。
・H2CO3 濃度が増加すると CO2 分圧が上昇する。
・pH の低下、CO2 分圧の上昇は呼吸中枢を刺激し、大気中への CO2 排泄
49
臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
代謝性アルカローシス
+
呼吸性代償
呼吸性アシドーシス
+
腎性代償
呼吸性アルカローシス
+
腎性代償
が増加する。
・その結果、H2CO3 濃度が低下するので pH はもとに戻る。
・血液中の HCO3−濃度が増加すると pH は上昇する。
・pH の上昇は呼吸を抑制するので CO2 の排泄を抑制する。
・その結果、CO2 分圧は上昇し、H2CO3 濃度が上昇するので pH はもと
に戻る。
・CO2 分圧の上昇は呼吸を刺激するので代償は不完全であることが多い。
・肺からの CO2 排泄が障害されると、血液の CO2 分圧が上昇して H2CO3
濃度が増加するので pH は低下する。
・pH が低下すると、腎臓では H+の排泄、HCO3−の再吸収が亢進するの
で pH はもとに戻る。
・換気の亢進など肺からの CO2 排泄が増加すると、血液の CO2 分圧が低
下して H2CO3 濃度が低下するので pH は上昇する。
・pH が上昇すると、腎臓では H+の排泄、HCO3−の再吸収が抑制される
ので pH はもとに戻る。
●アシドーシスとアルカローシスの主な原因
代謝性アシドーシス
代謝性アルカローシス
呼吸性アシドーシス
呼吸性アルカローシス
・HCO3−の体外への喪失
下痢
・体内の酸の産生過剰
乳酸アシドーシス、糖尿病性ケトアシドーシス、尿毒症、飢餓、尿毒
症
・酸の過剰投与
・H+の体外への喪失が増加すると、体内での HCO3−産生が増加してア
ルカローシスになる。
嘔吐による胃酸の喪失、尿中への排泄増加、利尿薬の使用など。
利尿薬は Cl−不足をきたすので HCO3−の排泄が妨げられる。
・低 K 血症では、細胞内 K+の細胞外へ移行に伴って、H+が細胞内への
移行するために、細胞外アルカローシス、細胞内アシドーシスの状態
になる。
・HCO3−の過剰投与
・呼吸中枢の抑制
薬物、睡眠時無呼吸症候群など
・呼吸筋の異常
重症筋無力症、脊髄障害など
・肺のガス交換の障害
慢性閉塞性肺疾患、重症の肺炎や喘息など
・低酸素血症
肺疾患(肺炎、肺線維症など)、心不全などにより低酸素血症になると
呼吸が促進され CO2 分圧が低下する。
・過換気症候群(心理的過換気)
●免疫血清検査
・抗原抗体反応を利用した検査で、感染症、アレルギー疾患、自己免疫疾患、血液型などの検査に用
いられる。
・主な検査
感染症
・ASO(抗ストレプトリジン O):溶血連鎖球菌感染
・梅毒血清反応:梅毒
・寒冷凝集素反応:マイコプラズマ
50
臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
アレルギー
(アレルゲン)
自己免疫疾患
・皮内テスト:少量の抗原を皮内注射する。
・PK 反応(プラウスニッツ・キュストナー反応):患者の血清と抗原を、アレル
ギー内人に皮内注射する(受動免疫)。
・特異的 IgE の測定
RIST(radioimmunosorbent test)
:125I でラベルした IgE と抗原の結合を患者
の IgE がどの程度阻止するかを測定する。
RAST(radioallergosorbent test)
:抗原に結合した患者の IgE を 125I でラベル
した抗 IgE 抗体で検出する。
・食物除去試験・食物負荷試験(誘発試験)
・リウマチ因子(RA テスト):関節リウマチ
・抗核抗体:SLE など膠原病
・抗サイログロビン抗体・抗マイクロゾーム抗体:バセドウ病、橋本病
・抗 GAD 抗体:1 型糖尿病
・血清補体価:膠原病、自己免疫疾患、糸球体腎炎など補体系が活性化されると
減少する。
●微生物学検査
・感染巣から、起炎菌を分離・同定する。
・起炎菌の薬剤感受性(どの抗生物質が有功か?)を調べる。
●病理検査
・患者から採取した細胞や組織を、顕微鏡を用いて病理学的な診断を行う。
・体液中の細胞や、病変部の洗浄、擦過、吸引などにより採取した細胞について、異常細胞の有無や、
個々の細胞の悪性度の判定を行うことを細胞診という。
・細胞診は癌の集団検診やスクリーニング検査に用いられる。
・患者の病変のある臓器から組織の一部を針やメスで採取して、病理組織学的検査を行うことを生検
という。
・細胞診では個々の細胞の異常の有無を見るが、生検では組織の異常の有無を見る。
●検査食
<潜血検査食>
・目的:糞便中に含まれる微量の血液を検出する。
消化管出血をきたす疾患:胃十二指腸潰瘍、胃癌、潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸癌など。
・検査方法:化学的方法:オルトトリジン法、グアヤック法
免疫学的方法:ヒトヘモグロビンに対する特異的抗体で検出
・実施方法:化学的方法で実施する場合:検査 3 日前から疑陽性をきたす食品を除いた潜血検査食を
開始する。
免疫学的方法で実施する場合:潜血検査食は不要。
・潜血検査食では、以下の食品を除く
ヘモグリビン、ミオグロビンを多く含むもの(獣,鳥肉類,魚の血合など)
ビタミン C、ペルオキシダーゼ、クロロフィルを多く含むもの(生野菜、いも類、わさび、かぶな
ど)
・疑陽性をきたす薬剤(鉄、銅、コバルト、マンガン、クロム、ビタミン C)は除く
・消化管出血をきたす可能性のある薬剤(解熱性鎮痛剤(サリチル酸製剤、インドメタシン)など)
は除く。
<甲状腺機能検査食>
・目的:甲状腺による放射性ヨード(123I, 131I)の取り込みを測定する。
・実施方法:検査 1∼2 週間前から開始
臨床栄養学Ⅰ(臨床検査)
ヨード含量の多い海草類、魚介類、レバー、大豆などを制限
1日のヨード量を 200 μg 以下にする。
<低残渣食(注腸検査食)>
・目的:大腸の内視鏡検査、X線検査(注腸検査)
大腸,肛門の術前処置
大腸炎症性疾患の治療食
・実施方法:検査前日(朝食)から開始
低残渣、低脂肪食。
十分な水分と下剤を併用。
<乾燥食>
・目的:腎臓の尿濃縮能を調べる。
(フィッシュバーグ尿濃縮試験)
・実施方法:前日の夕食から開始
乾燥食:水分 100g以下の高タンパク食、液体摂取量は 200ml 以下。
以後翌朝まで絶飲食とする。
・判定:翌朝の尿比重が 1.025 以上なら正常。
51