First Draft: 2002.2.27 This Version: 2002.5.9 商業用店舗賃貸不動産の価値評価 テナント・マネジメントとリアルオプション 刈屋 武昭 金融工学研究センター 京都大学経済研究所 [email protected] www.kier.kyoto-u.ac.jp/fe 加藤 康之 京都大学経済研究所 野村證券金融研究所 内山 朋規 野村證券金融研究所 諏訪部 貴嗣 野村證券金融研究所 本稿は、応用金融工学(野村證券グループ)寄付部門の共同研究である。 1 1本稿のねらいと考察する問題 本稿の3つのねらい 2000年新借地借家法が施行された。新しい規制緩和は、つねに社会に対していろい ろなリアルオプション価値を増加させる。新借地借家法もその例外ではないが、中でも新 借家法では、賃貸人が賃借人を入れ替える権利を契約によって持つことができるリアルオ プションをあたえている。本稿は、このテナント入替権としてのリアルオプションの価値 問題を商業用店舗不動産の経営者の立場から評価するものである。そのオプション価値は、 そのオプションをもっとも有効に利用したときの価値と、これまでの旧借家法のもとにテ ナント入替なしに商業用店舗不動産を利用したときの価値の差となる。そこでは、テナン ト入替オプションが与えられると、変動賃料を採用するオプションが派生的に生成される。 実際、旧借地借家法のもとでは、入替権が与えられていないので商業用不動産では、たと えば売上高にリンクした変動賃料の導入はリスクであるので、実際に導入しにくかった。 しかしテナント入替オプションが賃貸人側に与えられると、変動賃料を導入し積極的な不 動産経営を行うことができ、価値向上を図ることができる。本稿のねらいのひとつは、新 借家法の政策評価を行うことである。 新借家法が提供するリアルオプションを不動産経営者がもっとも有効に利用した場合に 対してオプション価値を評価するために、一つのビジネスモデルのもとでのショッピング センターなど「商業用店舗不動産経営問題」を金融工学的視点から定式化する。この問題 は、実は不確実性に関わって当該不動産の価値を創造する経営問題であり、そのためのテ ナント・マネジメントに関わる経営問題である。この経営問題の分析枠組みを与えるのが 本稿のもうひとつのねらいである。その分析枠組みでは、テナント・マネジメントを 1)テナント入替を定式化するルールの問題と、 2)その方法を効果的にする賃料契約デザイン問題 の2つの組み合わせであるとみて、テナント入替ルールの違いと賃料契約デザインの違い による当該不動産の DDCF(Dynamic Discounted Cash Flow)価値を評価する枠組と分析 法を与える。その価値評価の枠組みは、ひとつの入れ替えルールと賃料契約デザインのも とで生成される、将来の賃料キャシュフローの割引現在価値を動学的分析モデルに基づい て計量的に評価するもので、モンテカルロ・シミュレーションにより不動産の価値を確率 分布として評価することを可能にする。それゆえこの経営問題は、ひとつのビジネスモデ ルの下での商業用店舗不動産の価値評価の問題でもある。 さらに本稿の3番目のねらいは、与えた分析枠組みのもとで代替的な賃料契約デザイン 問題とテナント入替問題について、シミュレーションにより比較し、最適なテナント入替 ルールと賃料デザインの組み合わせを導出することである。一般に金融工学的視点からの DDCF 法に基づく価値は、将来の確率的に変動するキャシュフローの価値であるから、そ の現在価値としての不動産や企業あるいは事業プロジェクトなどの価値は、まず最初に DDCF 確率分布として評価される、ということに注意する。その確率分布の平均値が通常 2 いう収益還元価値であるが、平均値が大きいからといって平均値からの乖離としてのリス クが大きい場合それを選択することにならない。リスクとリターンの関係を考慮する意思 決定の枠組みを確保するためには、価値を確率分布として捉えることが必要なので、本稿 ではこれを行う。したがって目的関数を設定し、その平均値を最適にする動的プログラミ ングなどを応用した分析枠組みとは異なる。もちろんリスクとリターンについての目的関 数を作り、契約ルールとテナント入替ルールに関する最適性を追求することも可能である が、入替ルールとモデルの非線型制構造による困難性のため、本稿ではその問題を直接に は扱わない。シミュレーションで、リスクとリターンの関係からテナント入れ替えルール の最適性を扱うのみである。 商業用不動産経営の視点と文献 商業用不動産の賃貸経営において重要な領域として (1) プロパティ・マネジメント(狭義) (2) テナント・マネジメント がある。前者は,建物やその技術的機能等のハードの側面にかんして、不動産の潜在的価 値を守り,テナントをひきつけることによって,キャシュフローを増加させる。他方,後 者は,テナントの組み合わせや契約デザイン等のソフトの面にかんして,バリューを創造 することを狙う。この両面の研究は,まだ緒についたばかりで,データの蓄積は十分でな く,今後一層の研究が必要な領域である。なお、一般には(1)(2)をあわせたものも(広 義の)プロパティ・マネジメントという。 本稿では,特に研究が少ないテナント・マネジメントの問題に関わり,基本的な分析枠 組みを定式化し,そのもとでシミュレーション分析を行う。日本では新借家法のもとに, 2000年3月からテナントとの定期借家契約が自由になり始めているので,テナント経 営による価値の追求という経営法も可能となりはじめている。実際,野村不動産は,テナ ントに対する退出を要求する権利(オプション)を確保することで,この経営を積極化しよう としている。その権利を経営側が確保する条件とは,テナントに対する賃料を市場価格に 比べて有利に設定していくとのことである。またラフォーレ原宿(森ビル)などはすでにその ような経営をしている。この経営問題は,当該商業用賃貸不動産の経営に関わる基本概念 (ビジネスモデル)と、それに対応したテナント配置問題、テナント選択問題とそれを可 能にする賃料契約のデザイン問題である。そこでの経営のねらいは,当該不動産の賃貸商 品のブランド価値の向上とそれによる長期的に安定的な価値の追及であろう。そのためには, テナントの選別は必須となる。特に,本稿のねらいとするショッピングセンターなどに代 表される商業用店舗不動産のテナント・マネジメント問題の場合,その問題は重要である。 地域的ショッピングセンターの賃料と売上高の関係の分析に関する文献としては、 Wheaton and Torto (1995) が有名である。そこでは 1968 年から 1993 年に対して、賃料の 上昇率のほうが売上高の上昇率より大きいことが分析されている。また Chun, Eppli and 3 Shilling(1999)では、先行研究 Benjamin, Boyle and Sirmans (1993), Miceli and Sirmans (1995) にそったモデルに基づいて、基礎賃料と変動賃料を売上高の関数として扱い,それ により固定賃料と変動賃料を識別し、ラグ効果について考慮した分析をしている。これら の分析では、マクロ的な視点からの需給分析的視点から,賃料とさまざまな業種の売上高 の関係を分析しようとしているのに対して,本稿では,ショッピングセンターなどの商業 用店舗不動産の所有者の経営問題をあつかい、将来のキャシュフロー価値分析を可能にす る枠組みを与え,シミュレーションによって契約デザインやテナント選別問題を考察する。 本稿の構成 具体的な内容は次のとおり。 2節 商業用店舗賃貸不動産経営問題の視点 3節 分析の枠組み 4節 モデルの定式化 5節 モンテカルロ・シュミレーションによる価値評価 2節では、商業用店舗不動産の経営問題は、ビジネス概念(モデル)に関わる問題と、 そのモデルのもとでのテナントの選択と賃料契約デザインに関わる問題に分かれることを 指摘し、本稿では後者の2つの問題を扱うことを議論する。この問題では、経営者は与え られたビジネスモデルのもとで、テナントと一緒にインセティブを共有し、価値創造を行 うものとして理解する。これはビジネスモデルを最も良く効果を発揮させる問題である。 そのため3節では、契約デザイン問題の1つの定式化として、固定賃料と変動賃料を組み 合わせてインティブ共有化を狙う契約デザイン問題を定式化する。またテナント選択問題 の定式化としては、集客能力と捕捉可能性から売上高に注目し、契約期間内に売上高に関 して一定の条件を満たさないテナントには、退出を要求するルールのもとでの問題を定式 化する。これは商業用店舗不動産の価値を維持し、ブランド構築を狙うものとして理解さ れる。すなわち商業用不動産価値は、経営との統合価値として理解されるものである。3 節では、テナントに最初の契約時点で一契約期間延長オプションを与える権利の価値評価 問題も議論する。4節では、分析の具体的なモデルを定式化する。不動産価値変動を引き 起こす不確実性として 1)賃料の一般水準の変動の不確実性 2)各テナントの売上高変動の不確実性 が基本となる。前者は、各契約期間の初期に固定賃料の水準を決めるもので、一般には景 気変動の他に、当該不動産の所在する地域の発展性や競争性にも関係している。しかし本 稿では、その簡単化と操作性から対数 DD プロセスを仮定する。同様に各テナントの売上 高の変動プロセスに対しても、対数 DD プロセスを仮定する。ただし、そのドリフトに対 しては、自らの過去のトレンドの変化の影響を受けてゆっくりと変化する指数平滑モデル を仮定する。この点は実際の変動に対応したノンマルコフ性を考慮している。これら2つ 4 のモデルは、経営者が実際の経営で直面する不確実性を表現するものに対して、それに戦 略的に関わる経営としては、固定賃料と変動賃料の組み合わせを決める契約デザインと、 テナント入替ルールである。 5節では、テナント入替ルールとして、売上高水準によるものと売上高変化率によるも のの 2 つを取り、比較する。そのため最初に、モデルの特徴や分析能力,現象記述能力を 調べるために、数多くのモンテカルロ・シュミレーションを行う。具体的にはまず売上高 入れ替えルールによらない場合として、 [5-1] 固定賃料・テナント入替なしの基本形の場合(旧借家法の場合) [5-2] 固定・変動賃料ミックス、テナント入替なしの場合 [5-3] 固定・変動賃料ミックス、完全テナント入替の場合 の3つの場合を設定し、いろいろなパラメータについて収益還元価値の確率分布を導出し、 モデルの特徴を比較検証する。比較は DDCF 的収益還元価値の確率分布のリターンとリス クに基づく。次ぎに売上高に基づいたテナント入替ルールを採用するケースとして [5-4] 固定・変動ミックス、(I)平均売上高変化率入替ルール、(II)売上高水準入替ル ール を考察し、これら4つのケースの結果について比較する。以上は売上高プロセスのボラテ ィリティが 20%の場合である。さらに [5-5] [5-4]の場合について、売上高ボラティリティ 10%のケース の場合も検証する。 結果として固定賃料と変動賃料の割合が 1:1 のとき、売上高水準による入替ルールの1 つのものが分析の範囲の中では最適となることが示される。 2 商業用店舗賃貸不動産の経営問題 商業用店舗不動産を以下ではショッピングセンターとして扱う。そのテナント・マネジ メント問題の場合, (1) ショッピングセンターのビジネス概念とそのもとでのテナントの業種の組み合わせ (業種ポートフォリオ)とその配置の問題 (2) 与えられた業種ポートフォリオと配置のもとでのテナントの選択と賃料契約デザイ ンに関わる問題 が具体的な問題となる。問題(1)は,当該ショッピングセンターの期待する顧客層に関係し て,グレード,機能,地域での役割,などの位置付けを設定して基本ビジネスモデル(概 念)を選択し,そのモデルに対応するテナントの業種の組み合わせ,配置を設定する問題 である。この問題は,ショッピングセンターの賃貸ビジネスの成否をになう問題であるが, 難しい問題である。アメリカのショッピングセンター(モール)では、最も典型的には,両側 に売り場面積を広くした高級デパートや,シアーズやペニーのような中級廉売家庭用品店 を置き,その間に靴や衣料などの専門店、マクドナルドなど食事ができる店などを配置し 5 ている。このパターンが一つのビジネス概念に対応したもので,顧客から見た魅力を作っ ているのかもしれない。いずれにしても,狙った顧客層にとって魅力ある業種の配置とそ のテナントの選別は、顧客を繰り返し呼び戻し,長時間滞在させ,消費を促し,結果とし てテナント間に利益に関して外部利益を発生させることになろう。しかし、この問題につ いては,データがないと議論できない問題であるので,本稿では業種の組み合わせとその 配置の概念は所与とする。 そこで本稿のねらいは,(2)に関する問題に対して,一つの問題の定式化の枠組とそのも とでの将来からキャシュフローの価値評価法を与えることに限定する。具体的には,貸し 手側がテナントに対する退去要求権を保有しているという前提のもとに、契約デザイン問 題と売上高に基づいたテナントの変更問題を扱う。このため 1)賃料契約に関しては、売上高にリンクした変動賃料と固定賃料の組み合わせを採用 2)テナントの属性として,テナントの売上高成長率とその変動性を考慮 する。売上高にリンクした変動賃料の一部採用は,マネジメントとテナントがインセンテ ィブを共有し,テナントの繁栄を一緒に追求することができるという意味で重要であろう。 また売上高が多いということは,集客能力が高いということであり,それが他のテナント のビジネスに対しても外部経済効果を生むことになる。加えて,売上高は捕捉がしやすい。 それゆえ,テナントの選別も 2)のようなテナント属性が一つの選別法となる。 1)は、契約デザインの問題で,ショッピングセンターのビジネス概念に対応して業種ごと もしくはテナント・業種の配置ごとにそのデザインが異なるものと考える。たとえば,コ ーヒーショップは、売上高があまり大きいものではなく,また相対的に変動性も大きくな いと考えられるが,ショッピングセンターのビジネス概念として必要で、集客能力を上げ るために必要な業種であろう。このような業種と、売上高が相対的に大きくかつ変動性が 大きな業種を組み合わせてテナントポートフォリオを作り、求めるビジネス概念に対応し たものを実現する。そのため契約デザインとして、業種ごとにその変動賃料と固定賃料の 組み合わせの選択問題を考察できる分析枠組みが必要となる。本稿では、そのための分析 枠組みと具体的なモデルを提供し、シミュレーションで変動賃料と固定賃料の割合につい ていくつかの組み合わせの結果として発生する DDCF 価値の確率分布を計量的に比較する。 2)は、固定賃料と変動賃料の組み合わせの契約デザインが与えられたもとで、売上高にリ ンクしたテナント入替を行ったときの、将来からキャシュフローの割引現在価値を確率分 布として評価する問題である。この問題は、売上高をテナント入替の指標とするが、その 場合でもそのルールに関しての選択問題がある。実際上は、リスクとリターンに関する目 的関数を、組み合わせルールと入替ルールに関して最適にすることが求められるが、本稿 のシミュレーションでは、売上高変化率と売上高水準に基づいた2つのルールを比較し、 リターン・リスクの視点から後者のルールが提案される。 6 3 分析の枠組の定式化 分析対象とする商業用店舗不動産物件は、ショッピングセンターに代表されるように、 M 個のスペースを持ち、各スペースには異なる業種のテナントが入居するものとする。契 約は定期借家契約に基づいた3年契約とし、分析枠組みを簡単にするためにテナント側か らの期前の退出を禁止する条項が含まれるものと仮定する。また経営側も契約期間内にテ ナントの退出を要求する権利がないものとする。従ってこれらのオプション権利の価値評 価問題は別の機会にゆずる。 価値評価の分析時間軸として、3年を1区間とした将来10契約区間(期間) ( k = 1,2 , L,10 )の 30 年とする。その 30 年にたいして現在を 0 時点として,月次分析 ( n = 1,2 , L,360 )を行い、賃料の収益還元価値確率分布をDDCF法によって求める。 したがって、たとえば第 2 契約区間は、月次分析時点としては n = 37 ,38 , L,72 となる。 期間を年表示するために h = 1 12 とおく。たとえば0時点から n 時点までの期間を nh 年と 表現する。その結果,将来のキャシュフローの現在価値割引率などを考える場合、年率表 現される。 当該不動産には賃貸スペースが I 個あるものとし、それを i = 1, L, I とする。各スペー スには,一定の業種に対応したテナントが入るものとする。 (1)賃料契約デザイン マネジメントがインセンティブを共有し,テナント一緒に価値を創造するというビジネ スコンセプトから、賃料は各契約区間内で固定賃料と売上高に連動した変動賃料とを組み 合わせたものを採用するものとする。変動賃料は,売上高の変動などに依存して業種ごと に設定される。その設定の仕方は、賃料に関する契約デザインの問題として、本稿の枠組 みの中ではパラメータの組み合わせ問題として議論される。 具体的には、第 i 賃貸スペース(特定業種に対応)しての坪当たり賃料は、第 n 月の添字と 一緒に X in (k ) ≡ X i ( k , m(k ) ) ( n = 36(k − 1) + m(k ) : 1 ≤ m(k ) ≤ 36 ) と表現する。この賃料は、 (3.1) [ ] ~ ~ X in (k ) = (1 − α i )X i f (k ) + α i β i × S in (k ) で与える。ここで、左辺は第 k 区間の第 n 月に第 i スペースから得られる賃料である。右辺 は、第 k 区間に対する固定賃料からの割合が (1 − α i ) と契約売上高にリンクした変動賃料 ~ β i Sin への割合が α i であることを示している。また(3.1)式では、第 k 契約区間の固定賃料 7 ~ ~ ~ X i f (k ) とその区間に属する月 n の契約売上高 S in ≡ Si (k , m(k ) ) に連動する変動賃料の和で ~ ~ 決定されることを示している。なお契約売上高 S in ≡ S in ( k ) とは、業種ごとに異なる売上高 水準の違いと、実際のテナントの売上高 S in ( k ) の変動性を考慮して、契約において定義す る売上高である。その定式化は後に与える。各契約区間の初期に決まる固定賃料は、市場 賃料によって ~ ~ X i f (k ) = X i12( k −1) , ~ ~ X in ≡ X i ( k , m(k ) ) は n 時点の市場賃料 (n = 36(k − 1) + m(k ) ) で与えられる。 (3.1)式のパラメータ {(α i , β i ) : i = 1, L , I } (3.2) における業種 I への依存度は、売上高の変動性と関係していると考えられる。 α i = 0 のと き、すなわち ~ ~ X in (k ) = X i f (k ) = X i 36 ( k −1) , のときは、通常の固定賃料契約の場合に対応するもので、各契約区間の期初に決まる固定 賃料で 3 年間一定となる場合である。 ~ さて契約売上高 S in ( k ) とそのもとでの変動賃料を議論するために、まず k = 1 の場合を考 察する。 n = 1 時点(第1月末)の賃料は ~ ~ X i1 (1) = (1 − α i ) X i f (1) + α i [ β i S i1 (1)] ~ ~ X i f (1) = X i 0 (3.3) ~ となる。 X i 0 は0時点での市場水準に業種性を調節したもので、36ヶ月間固定される賃料 ~ である。他方、 S i1 (1) は確率変数で n = 1 時点で実現する。それゆえ左辺の X i1 (1) も n = 1 時 点で実現する確率変数である。0 時点で新しいテナントを受け入れるにあたって、今後どの ような売上高をあげるのかわからないのであるから、将来の賃料キャシュフローはわから ない。そこで後に述べるテナント入替ルールを考慮して、契約上の売上高を定義しよう。 テナントの n 時点の売上高を S in とし、n − 1 時点から n 時点のその売上高変化率を年率表示 のもとに (3.4) rin = 1 log(Sin Sin −1 ) h (h = 1 12) 8 とおくと、実際の売上高は恒等的に S in = Sin −1 exp(rin h) と表現される。 n = 1 のとき、 S in は観測可能であるが S i 0 が観測不能であるので、 rin も観測 不能である。しかし、 n ≥ 2 に対しては rin は観測される。そこで経営側の n = 1 に対する要 (3.5) 求売上高を (3.6) ~ ~ ~ S i1 = X i f (1) = X i 0 として、入室後の最初の賃料を 0 時点で確定させて (3.7) ~ X i1 (1) = (1 − α i + α i β i ) X i 0 を要求する。この水準が経営側が0時点で第1月に対して要求する賃料である。 この表現で重要な点は、経営側から見た契約売上高に対して α i = 1, β i = 1, すなわち 100% ~ 売上高リンクとしても最初の月の要求水準は固定賃料 Χ io となるに過ぎない点である。その 意味で、契約上の売上高は実際の売上高を基準化した合理的なものであろう。また、α i = 0 ~ とすると固定賃料 Χ io となるが、 0 < α i < 1, 0 < β i < 1 のとき(3.7)の賃料ミックス X i1 (1) ~ は、市場固定賃料水準 X i 0 より小さくなることに注意しよう。これは、変動賃料のもとにテ ナントに退出要求権を確保しているコストとも考えられる。 δ i = 1−αi + αi βi とおく。 δ i を与えると( α i , β i )の双曲線が決まる。 n = 2 の場合の契約売上高は、観測可能な ri 2 を用いて (3.8) (3.9a) ~ ~ ~ S i 2 = Si1 exp(ri 2 h) = X io exp(ri 2 h) で定義する。このとき賃料は ~ ~ X i 2 (1) = (1 − α i ) X i f (1) + α i [ β i S i 2 ] となる。以下同様に契約売上高を観測可能な rin を用いて (3.9b) ~ ~ S in = S in −1 exp(rin h) で定義すると、 36 ≥ n ≥ 3 に対しても n 時点賃料は ~ ~ X in (1) = (1 − α i ) X i f (1) + α i [ β i S in ] で与えられる。これは(3.1)の k =1の場合に過ぎない。 第 k 契約区間に対しても、第 k − 1 契約区間から退出を要求されることなく継続して賃貸 9 しているテナントの場合は(3.1)となる。しかし n = 36(k − 1) 末に新しく入居するテナン トの場合、固定賃料の部分は、 36(k − 1) 時点の市場賃料 ~ ~ X i f (k ) = X i 36( k −1) である。他方 36(k − 1) + 1 時点変動賃料は、(3.6)と同様に契約売上高に基づいて ~ ~ S i12( k −1) +1 = X i f (k ) として (3.10) ~ X i 36( k −1) +1 (k ) = [1 − α i + α i β i ] X i 36( k −1) である。 n ≥ 36(k − 1) + 2 以降は、契約売上高(3.6)のもとに(3.1)で賃料が定義される。 (2)テナント入替ルール テナント・マネジメントとして重要な視点は、集客能力のあるテナントを入れて、テナ ント同志がその外部経済効果を発揮して互いに価値創造を行い、結果して不動産の価値を 高めることである。そのためには、積極的にテナントの入替を行うことである。集客能力 を測る指標としては売上高がその捕捉性も含めて実際的である。それゆえ、各契約区間の 終りにその区間の売上高に基づいてテナント入替ルールを (3.11) F ( Si 36( k −1) +1 , L , Si 36 k ) ≥ 0 ( k = 1, L , K ) と表現する。具体的な入替ルールとしては、テナントの退出準備期間と売上高の季節変動 を考慮して第 k 契約区間終了 6 ヶ月前までの過去 2 年間のテナント売上高変化率の平均が 一定以上であるというルール (3.12) ri (k ) = 1 36 k − 6 rij ≥ c(k ) ∑ 24 j =36( k −1) + 7 が考えられる。この賃料契約のもとでは売上高変化率が負になると、要求する固定賃料以 下になる可能性があるから、平均的にみた収益率が一定以上なることを求めるのは合理的 である。 別なルールとしては、契約期間終了 6 ヶ月前の時点の契約売上高の値そのものが一定水 準以上 (3.13) ~ ~ 36 k − 6 S j 36 k −6 (k ) = Si 36( k −1) +1 exp(∑ j =36( k −1) + 2 rij h) ≥ c(k ) というルールがあろう。あるいは季節変動を考慮して 2 年間分をとって ~ ~ Si 36 k −6 (k ) / Si 36( k −1) + 6 (k ) = exp(24ri (k )h) ≥ E (k ) 10 とも定義すると、(3.12)と同等となる。 この場合、固定賃料部分は変動賃料がある分だけ市場賃料よりもディスカウントされる。 変動賃料部分は当該月の売上高によって決定され、月末に支払らわれるものと仮定する。 3 番目の基準として、契約売上高の平均値を利用した (3.14) ~ ~ 36 k − 6 S i 36 k −6 (k ) = Si 36( k −1) +1 exp(∑ j =36( k −1) + 2 rij h) ≥ D(k ) なる基準も考えられよう。この場合、算術平均と幾何平均の関係から ~ ~ S j (k ) ≥ [ΠSij (k )]1 24 ~ 36 k − 6 ~ (k )r ] = Si 36( k −1) exp[∑ j =36( k −1) +1 w ij ij ~ w (k ) = (36k − 5 − j ) 24 ij と表現される。従って、売上高率でみると、 36(k − 1) + 1 時点から 36k − 6 時点までに対し て逆ウエイトを持っているものとも理解される。この観察からさらに売上高のウェイト付 基準 ∑ w (k )r (k ) ij ij ≥ c′(k ) なども考慮の対象となろう。 (3) 収益還元価値 上の契約デザインとテナント入替ルールのもとで将来のキャシュフローの現在価値 K (3.15) Vi = ∑ Vi (k ) k =1 と表現される。ここで、第 k 契約区間の第 i テナントからキャッシュフローの現在価値は、 (3.16) Vi (k ) = ∑ [(1 − α ) X nk n = nk −1 +1 ~f i i ] ~ (k ) + α i [ β iU in (k )] Ai D(n) である。また、 D (n ) は n 時点に発生するキャシュフロー割引率で、 Ai はスペース i の坪数 である。 ~ U in (k ) は k 期目のテナント売上高であり、第 1 契約に関しては上で議論したように、 ~ ~ U in (1) ≡ Sin (1) である。第2区間以降に関しては、テナントが入れ替えする可能性があるので、継続して 滞在するテナントと退出するテナントを区別するために 11 (3.17) ~ ~ Fk ( S36( k −1) +1 ,L, S36 k ) > 0 1 if Li (k ) = 0 otherwise とおく。この関数によって第 k 期の第 i テナントの契約上の売上高は (3.18) ~ ~ ~ U in (k ) = U in (k − 1) Li (k − 1) + Sin (k )[1 − Li (k − 1)] と表現される。この式は Li (k ) = 1 の場合、第 k − 1 区間から継続して滞在するテナントの売 ~ 上高を表すものとする。すなわち、n > 36(k − 1) に対して U in ( k − 1) は k − 1 区間から k 区間 へ契約が継続された結果、賃料売上高リンクも第 k 区間から継続されているものとする。 (4) 契約延長オプション テナントにとっては、テナント入替ルールが何であれ、1期間 3 年だけで退出を要求さ れることは、初期投資や移動コストなどからみて厳しいことであろう。偶然に環境が不利 に働くこともあろう。しかし実際には厳しくプロパティ・マネジメントをすることが、2 節 で議論した視点からみて不動産価値を向上していくことでもある。そこで1つの解決法は、 テナントが契約時点で 1 期間延長する権利(オプション)を購入できることである。この オプションを最初に購入した場合、継続条件(3.11)が満たされない場合でも、さらに 1 期間ビジネスを継続できることになる。このオプションの価値は、経営側からの機会損失 に対応するものと理解される。そこで、第 1 区間初期時点 n = 0 に契約するテナントでオプ ションを購入しない場合(3.16)を用いて Vi (1) + Vi (2) となる。 Vi ( 2) は(3.17)(3.18)により入替ルールのもとでの収益である。他方 2 区間継 続して滞在する場合、第 1 区間の総額の現在価値は Vi (1) であるが、第 2 区間の最初の時点 で新規に入居する水準に戻さないものとすると、当該テナントの契約売上高プロセスは、0 ~ 時点から出発したパスをたどる。第 2 区間でのこのパスを S in (1) (n ≥ 37) と書くと、その もとでの第 2 区間の収益総額の現在価値は Vi* (2) = 72 ~f ∑ [(1 − α ) X n =37 i i ~ (2) + α i β i S in (1)]Ai D(n) となる。それゆえ、経営からみた収益機会逸失リスク(ペイオフ)は W = [Vi (1) + Vi (2) − Vi (1) − Vi* (2)]+ 72 ~ ~ ~ = { ∑ α i β i [ Sin (1) Li (1) + Sin (2)(1 − Li (1)) − Sin (1)] Ai D(n)}+ n =37 72 ~ ~ = { ∑ α i β i [ S in (2) − S in (1)](1 − Li (1)) Ai D(n)}+ n =37 12 ~ + となる。ただし a = max ( a, 0) である。また S in ( 2) は第 2 区間の新規テナントの契約売上 ~ 高、S in (1) は第 1 区間からの継続したテナントのそれである。このペイオフの 0 時点価値は、 無裁定性のもとに E 0 [W ] と評価される。 4 モデルの定式化 3節で与えた分析枠組を用いて実際に分析する場合、 (1)各契約区間の初期時点で固定される賃料は、その時点の市場価格であるので、 賃料市場価格モデル (2)テナントの業種ごとの売上高変動モデル が必要となる。以下これらを定式化する。 (1)賃料市場価格モデル 市場賃料の価格変動モデルとして次の対数 DD プロセスを考察する(刈屋(1997))。 [ (4.1) ~ ~ X in = X in −1 exp µ Xin−1h + γ Xin−1 hε~Xin ~ µ Xin−1、γ Xn−1は過去の X inに依存 ε~ ∼iid N (0,1) ] Xin ここで、市場賃料のドリフト µ Xin −1 としては、指数平滑モデルを採用する。 (4.2) ~ X µ Xin −1 = φ xi log ~ in −1 + (1 − φ Xi )µ Xin − 2 X in − 2 を採用する。これはノンマルコフモデルである。モデルは業種(テナント) i に依存す るが、以下では省略する。市場賃料プロセスのパラメータについては、初期ドリフト µ X 0 = 0% 、ボラティリティ γ X = 5% 、初期市場賃料 X 0 = 1 (円/坪)、平滑化パラメー タ φ X = 0 .2 、 を 基 本 ケ ー ス と す る 。 平 滑 パ ラ メ ー タ φ X は 、 賃 料 変 化 の 新 し い 情 報 ~ ~ ~ log[ X n −1 X n − 2 ] をどの程度の割合で吸収して賃料水準 X n を変えていくかを示すパラメー タである。 φ X が小さいと、月々の変化をゆっくりと吸収していくことになる。また業種へ ~ ~ の依存性の定式化として、 X in = λi X n とする。業種の賃料調整は λi によって行われるもの ~ として X n は市場水準を表す。 図 4−1 は、基本ケースのもとでのパラメータで発生させたサンプルパスである。 13 図 4−1 サンプルパス (注) 初期ドリフト µ X 0 = 0% 、ボラティリティ γ X = 5% 、初期市場賃料 X 0 = 1(円/坪)、平滑化パ ラメータ φ X = 0.2 で、発生させた 50 個のパス. (2)売上高変動モデル すでに述べたように契約上の売上高のプロセスは、式(3.9)で定義される。 ~ ~ Sin (k ) = Sin −1 (k ) exp(rin h) 収益率 rin のモデルとして rin = µ in −1h + γ i hε in と仮定する。その結果、契約売上高のプロセスとして対数DDモデル [ (4.3) ~ ~ Sin (k ) = Sin −1 (k ) exp µin −1h + γ i hε~in ~ µin −1、γ iは過去のSinに依存 ε~ ∼iid N (0,1) ] in となる。ドリフト µ in として賃料変動モデルと同様に、指数平滑モデル 14 (4.4) µ in−1 ~ S in−1 (k ) = φi log ~ + (1 − φi )µ in−2 S in−2 (k ) = φi rin−1h + (1 − φi ) µ in−2 を採用し、またボラティリティ γ i は一定と仮定する。売上高のボラティリティは、賃料の 市場水準のそれより大きいと考えられる。 (3)割引率の問題 D( n) は将来n時点で発生する1円の現在(0時点)価値であり、金利の期間構造から決まる 期間 nh のスポットレート r0 ( n) (年率)を用いて (4.5) D (n) = ( 1 + r (n) )− nh と表現される。スポットレートに基づく金利の期間構造を割引率として用いることは、金 融工学的無裁定価格理論から見て自然である。その場合、キャシュが発生する時点に依存 して割引率が異なる。期間構造は0時点で与えられているから、0時点割引率関数も上の 現在価値評価では所与となる。 他方、これまでの静学的な収益還元的価値評価の慣行では、不動産投資の収益性に関わる 複雑なリスクを考慮して、リスクを上乗せした投資家側から要求するキャップレートと呼 ばれる「利回り水準」 r * (キャシュの発生時点に関わらず一定)を外性的に与えて、割引 率としてその利回り水準 r を用いている。すなわち、不動産投資評価の慣行では上の割引 率関数で (4.6) r0 (n) = r * とおいたものを用いている。このような慣行の背後には、一つにはキャシュフローの不確 実性に関する構造的なモデルを利用しないため、主観的判断を含んだ将来のキャシュフロ ーの評価の不確定性についての割引率の意味も含まれている、と考えられる。このような 立場からキャップレートを外から与える場合、それをどのように設定するかがしばしば議 論の対象になっているが、いろいろな投資家がいるのであるから、いろいろなキャップレ ートにたいして、いろいろな収益還元価値を考えれば良い。 金融工学的視点からは、(4.6)のようなフラットな金利の期間構造(すなわち金利を一定)と する場合でも、その金利はリスクプレミアムを載せない無リスク金利を用いて、(4.6)を(4.5) に代入した割引率を用いる。リスクは収益還元価値としての確率分布から直接に考慮をす るのである。本稿では金利の期間構造は一定とし、連続時間複利を用いている。 15 5 モンテカルロ・シミュレーションによるモデルの評価 モンテカルロ・シミュレーションによって、商業用店舗不動産の価値分布の評価を行う。 ~ ~ ~ X in = λi X n として、業種の賃料調整は λi によって行われるものとして X n は市場水準を 表すものとし、そのプロセスは(4.1)の対数 DD プロセスに従うものとする。以下では λ i = 1 の場合を扱う。市場賃料プロセスのパラメータについては、標準形として (5.1) 初期ドリフト µ X 0 = 0% 、ボラティリティ γ X = 5% 、 初期市場賃料 X 0 = 1 (円/坪) 、平滑化パラメータ φ X = 0.2 を基本パラメータとする。断りのない限りこの基本ケースのパラメータ値を利用する。ま た売上高のプロセス(4.3)のパラメータとして、売上高の変動のほうが賃料より変動が大き いものとして (5.2) 初期ドリフトμ=0、平滑パラメータφ=0.2、ボラティリティγ=0.2 を基本パラメータとする。ボラティリティ 10%の場合も簡単に述べる。 収益還元価値は 分布の平均値にスペースの広さを掛け合わせたものとなる。複数テナン ト(テナントポートフォリオ)の場合のリスクリターンの選択問題は、今回の分析では考 慮していない。 テナント入替ルールと契約デザインの組み合わせ 以下のシミュレーションは契約デザインとテナント・マネジメントに関して [5-1] 固定賃料のみの契約の場合( α = 0 )でテナント入替をしない場合 [5-2] 変動賃料を組み込む( α > 0 )が、テナント入替をしない場合 [5-3] 変動賃料と各期 100%テナント入替の場合 [5-4] 変動賃料を組み込み( α > 0 )、テナント入替をする場合で入替ルールとして (I)平均売上高変化率ルールの場合 (II)2 年 6 ヵ月後の契約売上高水準ルールの場合 [5-5] [5-4]の場合について売上高のボラティリティ 10%の場合 にわけて行う。各分布は 10 万回のパスに基づいている。[5-1]が旧借家法のケースであり、 それ以外が新借家法のケースである。 [5−1] 固定賃料+テナント入替なし(旧借家法) まず α i = 0 の場合、すなわち変動賃料を採用せず、すべて固定賃料での契約を行う場合 について、DDCF 価値分布の分析を行う。この場合には、各契約区間の初期値を与える市 16 場賃料の変動リスクのみが、不動産価値分布を評価する上での不確実性となる。 (a) 最初に、この不確実性を表すパラメータ γ X の変化に対する価値分布の変化をみる。 表 5-1(a)と図 5-1(a)は、不動産価値のリスクに対して最も影響度が高いと思われる市場賃 料プロセスのボラティリティ γ X を基本ケースから変化させた場合の不動産価値分布の変 化をまとめたものである。図 5−1(a1)は密度関数を、(a2)は分布関数を描いてある。この表 と図から、 γ X の増減は不動産価値の DDCF 確率分布に対して大きな影響を及ぼすことが わかる。具体的には γ X が大きくなると次のことを観察できる。 1)価値分布の平均値は、5%程度まで比較的安定的だが標準偏差は急激に増加する。 2)歪度、尖度が大きくなり右裾の長い分布となる。賃料の変動が年率5%程度位まで は若干裾が厚いが、対称的で正規分布に近い特徴を示している。 3)リスクの尺度としての最小値、下位 5%点、10%点単調に減少し、リスクが大きく増 大する。 4)分布関数の図からわかるように、 γ X の変化に対して価値分布はすべてほぼ 311.2 の付近で交わり、その値以下となる確率はほぼ 0.46 である。 他方最大値や上位分位点も増加し、ハイリスク・ハイリターンの構造となる。 この表で標準的なケース(5.1)の場合の DDCF 分布特性値を (5.3) 平均 316.8 最小値 174.2 標準偏差 48.94 下方偏差 31.77 下位 5%点 245.4 下位 10%点 258.3 と要約しておく1。旧借家法から新借家法への移行に伴うことによって得られるリアルオプ ション価値を評価するの基準の値となるのはこの平均値と下方標準偏差である。 (b) 次に、基本ケースから初期ドリフト µ 0 を変化させた場合を調べる。表 5-1(b1)より µ 0 の増加と共に分布は右へとシフトして行くとともに、わずかではあるが標準偏差も増加す る。(b2)は µ 0 が大きくなっていくと実際ほぼ確率優位性を示している。これも γ X = 0.05 の 設定と関係するが、分布形状には大きな変化は見られない(図 5-1(b)参照)。また最小値や 下位分位点は上昇し、リスクは小さくなっている。 (c)最後に、基本パラメータ(5.1)に対して、ドリフトの平滑化パラメータ φ X を変化させ た場合をみてみよう。 φ X が 0 の場合、ドリフトは常に初期値のまま(基本ケースでは 0) であり、 φ X が1に近づくにつれてドリフトの変化も激しくなる。 γ X = 0.05 であることの ためか、結果としては、表 5-1(c)にあるように不動産価値の分布形状はそれほど変化しなか った(図 5-1(c)参照)。 1 ここで、下方偏差 = ∑ min(V N n =1 n 2 − V ,0 ) / (n − 1) とした。これ以降、 V として不動産価値分布の平均を 取ったものを下方偏差、標準ケースの平均値(317.0)をとったものを下方偏差②と呼ぶ。 17 以上のことから、市場賃料のボラティリティが 5%程度の場合は、価値の分布は φ X 、µ X 0 の設定に大きくは依存せず、大まかに言えば正規分布ではないものの比較的に正規分布的 である。 表 5-1(a) 不動産価値のγ依存性 γ(%) 1 2 5 10 20 平均 311.2 311.8 316.8 336.7 429.9 標準偏差 下方偏差 下方偏差② 9.44 19.05 48.94 110.48 352.22 6.57 13.02 31.77 64.64 154.15 10.20 16.09 31.77 52.26 78.90 歪度 0.11 0.25 0.61 1.35 4.92 尖度 2.993 3.114 3.729 6.482 79.396 最小値 273.6 243.9 174.2 108.8 61.4 下位5%点 下位10%点 296.0 282.0 245.4 198.4 139.7 299.2 288.1 258.3 218.4 164.9 中央値 311.0 311.0 312.1 316.7 330.7 上位10%点 上位5%点 323.5 336.7 381.2 479.6 790.8 最大値 327.0 352.2 344.5 413.0 404.1 656.1 543.0 1382.5 1043.7 15736.9 (注)φ=0.2,μ0=0%,X0=1 として,γを 1,2,5,10,20%に変化させた場合の不動産価値. 表 5-1(b) 不動産価値のμ依存性 μ(%) 0 1 2 5 10 20 50 平均 317.1 318.1 319.4 322.9 329.9 343.7 388.8 標準偏差 下方偏差 下方偏差② 49.16 49.23 49.44 50.13 51.29 53.62 61.77 31.90 31.93 32.09 32.55 33.36 34.80 40.15 31.75 31.15 30.56 28.96 25.86 20.39 8.90 歪度 0.616 0.614 0.612 0.599 0.607 0.619 0.608 尖度 3.730 3.667 3.704 3.604 3.772 3.754 3.722 最小値 174.4 167.3 164.3 182.7 178.1 189.0 204.6 下位5%点 下位10%点 245.6 246.4 247.1 249.6 254.7 265.6 298.6 258.4 259.3 260.4 263.0 268.4 279.7 314.8 中央値 312.3 313.3 314.6 318.0 325.1 338.6 383.0 上位10%点 上位5%点 381.8 382.8 384.4 389.4 397.6 414.3 469.7 405.1 406.4 407.8 412.9 421.6 439.3 499.2 最大値 665.3 606.9 654.0 613.2 753.9 710.4 794.8 (注) φ=0.2,γ=5%, X0=1 として,μを 0~50%に変化させた場合の不動産価値. 表 5-1(c) 不動産価値のφ依存性 φ 0.0 0.2 0.4 0.5 0.6 0.8 1.0 平均 317.1 318.1 319.4 322.9 329.9 343.7 388.8 標準偏差 下方偏差 下方偏差② 49.16 49.23 49.44 50.13 51.29 53.62 61.77 31.90 31.93 32.09 32.55 33.36 34.80 40.15 31.75 31.15 30.56 28.96 25.86 20.39 8.90 歪度 0.616 0.614 0.612 0.599 0.607 0.619 0.608 尖度 3.730 3.667 3.704 3.604 3.772 3.754 3.722 最小値 174.4 167.3 164.3 182.7 178.1 189.0 204.6 下位5%点 下位10%点 245.6 246.4 247.1 249.6 254.7 265.6 298.6 258.4 259.3 260.4 263.0 268.4 279.7 314.8 中央値 312.3 313.3 314.6 318.0 325.1 338.6 383.0 上位10%点 上位5%点 381.8 382.8 384.4 389.4 397.6 414.3 469.7 405.1 406.4 407.8 412.9 421.6 439.3 499.2 最大値 665.3 606.9 654.0 613.2 753.9 710.4 794.8 (注)γ=5%,μ0=0%,X0=1 として,φを 0,0.2,0.4,0.5,0.6,0.8,1 に変化させた場合の不動産価値 18 図 5-1(a1) 不動産価値のγ依存性 図 5-1(b1) 不動産価値のμ依存性 図 5-1(c1) 不動産価値のμ依存性 19 図 5-1(a2) 不動産価値のγ依存性 図 5-1(b2) 不動産価値のμ依存性 図 5-1(c2) 不動産価値のφ依存性 20 [5−2] 固定・変動賃料ミックス+テナント入替なし 次に、賃料契約として売上高に連動した賃料を採用した場合について分析を行う。売上 高の従うプロセスは市場賃料プロセスと同型であり、パラメータ変化に対する現在価値分 布形状の変化も類似しているので、[5−1]のケースに対応した変動賃料部分単独の分析は省 略する。なおこの場合は、テナント入替をしないで変動賃料を導入するのでリスクとなり うる。したがって、旧借家法の延長上のケースであるといえよう。 市場賃料のプロセスは基本ケース(5.1)である。売上高のプロセスとしては、売上高変 動リスクの方が、市場賃料変動リスクよりも大きいことを想定して(5.2)のようにμ=0、φ =0.2、γ=0.2 定式化を基本ケースとした。分析は次の 3 つのケースにわけて行った。 (a)10 万回の試行で得られた固定(市場)賃料の現在価値の期待値と変動賃料(契約売 上高分)現在価値の期待値が一致するように、変動賃料のディスカウント率を決 めた β = 0.713 のケース(表 5-2(a),図 5-2(a)) (b)退出案求権を求める代りに賃料を割引くケースとして、 δ = 0.9 として α ともに変 動賃料のウェイト β を変化させるケース(表 5-2(b), 図 5-2(b)) (c) β = 1 のケース(表 5-2(c), 図 5-2(c)) これらの表から次のことが観察される。 いずれのケースも変動賃料を導入することによって、分布の標準偏差が大きくなる。固 定賃料部分の価値と変動賃料部分の価値の相関は、相関係数 − 0.005 と非常に低い。経営に とっては、不動産が持つ市場賃料リスクを低下させる上でこのような結果は有意義なもの であるが、契約売上高リンク変動賃料の変動性そのものが非常に大きいため、その恩恵を それほど受けていないように見える。 具体的に見てみよう。表 5-2(a)のケースは、平均を固定して変動賃料を導入するケースに 対応する。このとき変動賃料を組み入れる割合 α を増加させると、当然のことながら標準 偏差が大きく増加し、また歪度,尖度も大きく増加する。下方リスクを見る上で重要な下 位5%点、10%点も単調に減少、下方偏差も単調に増加し、リスクが大きくなる。それ ゆえ、経営としては望ましいケースでない。 表 5-2(b)は、最初の賃料水準が市場水準の 0.9 に割引くケースで、 α を変えると β が変 わるケースである。この場合、経営側からみると平均と標準偏差の関係でみても、(a)のケ ースを上回るものではない。下位5%点,10%点は(a)に比べて小さく、リスクが大きい ことがわかる。 表 5-2(c)のケースは、最初の時点では固定賃料の水準から出発し、その後 α %の割合で契 約売上高にリンクした賃料を求めるものである。この場合、 α =0(固定賃料のみ)の場 合に比べて α が増加すると平均と標準偏差が増加し、ハイリターン・ハイリスクの構造に ある。しかし、下方リスクとしての下位5%点,10%点の値をみると、例えば α = 0.1 ,0.2 21 の場合では、α =0の場合に比べて共に値が増加してリスクは小さくなっている。同様に、 下方偏差②(固定賃料のみの場合の期待値を基準価値としたもの)も、低下していること からも、リスクの低下が観察できる。それゆえ経営側としては、さらにテナント入替ルー ルを適用して収益を増加できる可能性があるケースである。図 5−2(c2)には分布関数を 描いてあるが、実際 α = 0.1 ,0.2 の分布関数は それが 0 の場合に比べて右側にあり、確率 優位性を確保している。その意味は、テナント入替をしなくてももし売上高の変動が本稿 で仮定しているものである限り、20%程度の変動賃料を導入してもよいともいえるが、そ れは最初のテナントの選択がうまくいった場合ともいえる。 表 5-2(a) 変動賃料の導入による不動産価値の変化( β = 0.713 ) α 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 平均 標準偏差 下方偏差 下方偏差② 317.0 317.0 317.0 317.0 317.0 317.0 317.0 317.0 317.0 317.0 317.0 49.04 52.65 69.46 92.53 118.25 145.23 172.87 200.90 229.18 257.62 286.19 31.83 32.78 37.85 45.13 53.97 63.93 74.67 85.92 97.54 109.41 121.46 31.74 32.70 37.76 45.03 53.87 63.83 74.56 85.82 97.44 109.31 121.35 歪度 0.615 1.224 3.126 4.344 4.912 5.176 5.304 5.367 5.398 5.412 5.416 尖度 3.734 10.102 39.519 62.048 73.205 78.513 81.113 82.417 83.064 83.364 83.474 最小値 下位5%点 下位10%点 173.1 172.9 162.2 151.3 140.4 124.9 106.8 88.8 70.7 52.6 29.4 245.4 243.9 235.1 223.0 208.5 192.1 174.1 154.6 134.0 112.4 90.0 258.4 256.7 248.1 236.2 221.9 205.8 188.3 169.6 150.0 129.8 109.2 中央値 上位10%点 上位5%点 312.3 310.9 305.6 297.8 289.0 280.0 270.8 262.0 253.5 245.3 237.2 381.1 383.4 394.8 412.3 436.0 461.2 487.7 514.7 542.5 570.8 598.8 最大値 404.5 680.3 409.2 1424.5 432.4 2587.8 470.8 3751.1 514.1 4914.4 560.3 6077.7 607.3 7241.0 654.6 8404.4 701.8 9567.7 749.8 10731.0 798.0 11894.3 (注)不動産価値の平均が一定になるように β を選択した。 表 5-2(b) 変動賃料の導入による不動産価値の変化( δ = 0.9 、 β 可変) α 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 平均 285.3 298.0 310.8 323.6 336.3 349.1 361.8 374.6 387.4 400.1 標準偏差 下方偏差 下方偏差② 44.13 56.19 87.38 124.03 162.48 201.71 241.33 281.18 321.18 361.28 28.64 32.85 43.15 56.28 71.04 86.74 102.99 119.57 136.37 153.33 50.43 45.47 47.24 51.66 57.57 64.39 71.82 79.66 87.78 96.11 歪度 0.615 2.171 4.224 4.956 5.223 5.332 5.381 5.404 5.413 5.416 尖度 3.734 23.602 59.732 74.081 79.455 81.699 82.713 83.184 83.395 83.474 最小値 下位5%点 下位10%点 155.8 157.7 149.8 142.0 127.0 110.3 93.6 77.0 60.3 37.1 (注) ディスカウント率 δ が 0.9 になるように β を選択した. α 220.8 225.8 220.5 211.0 198.5 184.0 167.9 150.6 132.4 113.6 232.5 237.9 233.4 224.6 213.1 199.8 185.4 170.0 154.0 137.9 中央値 上位10%点 上位5%点 281.0 290.4 293.1 293.9 294.3 294.6 295.4 296.5 298.0 299.5 343.0 364.8 401.5 448.0 497.2 548.0 599.5 651.3 703.8 755.9 364.0 393.8 455.9 530.5 608.6 687.8 767.4 846.6 927.1 1007.3 最大値 612.3 1877.3 3519.6 5161.8 6804.0 8446.3 10088.5 11730.7 13372.9 15015.2 = 0 となる β は存在しないので省略. 表 5-2 (c) 変動賃料の導入による不動産価値の変化( β = 1 ) α 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 (注) 平均 317.0 329.7 342.5 355.2 368.0 380.8 393.5 406.3 419.1 431.8 444.6 標準偏差 下方偏差 下方偏差② 49.04 59.72 89.43 125.29 163.30 202.25 241.69 281.41 321.31 361.32 401.42 31.83 35.61 45.35 57.92 72.22 87.56 103.54 119.92 136.57 153.40 170.36 31.74 28.00 29.78 33.79 39.22 45.64 52.78 60.41 68.40 76.63 85.04 歪度 0.615 1.880 3.955 4.811 5.144 5.289 5.357 5.390 5.406 5.414 5.416 尖度 3.734 19.170 54.635 71.185 77.868 80.804 82.200 82.894 83.242 83.408 83.474 最小値 173.1 176.1 168.2 160.4 148.5 131.8 115.2 98.5 81.8 65.1 41.3 下位5%点 下位10%点 245.4 251.1 246.5 237.9 226.5 212.8 197.5 181.0 163.3 145.1 126.2 258.4 264.5 260.7 252.8 242.2 229.7 215.8 201.0 185.3 169.4 153.2 中央値 312.3 322.0 325.3 326.4 326.8 327.0 327.8 328.6 329.6 331.2 332.7 上位10%点 上位5%点 381.1 402.1 437.1 482.0 530.4 580.8 631.4 683.5 735.2 787.5 839.9 404.5 432.4 490.6 563.8 641.1 720.4 799.3 879.1 958.7 1038.9 1119.3 最大値 680.3 1903.5 3545.7 5187.9 6830.2 8472.4 10114.6 11756.8 13399.1 15041.3 16683.5 β =1 を選択した. 22 図 5-2 売上高のサンプルパス 図 5-2(a1) 変動賃料の導入による不動産価値の変化( β = 0.709 ) 図 5-2(b1) 変動賃料の導入による不動産価値の変化( δ = 0.9 、 β 可変) 23 図 5-2(c1) 変動賃料の導入による不動産価値の変化( β =1) 図 5-2(a2) 変動賃料の導入による不動産価値の変化( β = 0.709 ) 24 図 5-2(b2) 変動賃料の導入による不動産価値の変化( δ = 0.9 、 β 可変) 図 5-2(c2) 変動賃料の導入による不動産価値の変化( β =1) [5−3] 固定・変動賃料ミックス+各期100% テナント入替の場合 次に、契約に変動賃料を一部採用し、さらにテナントの入替を積極的に行う場合につい て考える。最も極端なケースとして各期末にすべてのテナントを入れ替える場合について 前節と同条件でのシミュレーション結果を示す。 β = 0.709 ,(表 5-3 (a),図 5-3 (a)) (b) δ = 0.9 , β 可変 , (表 5-3 (b),図 5-3 (b)) (a) (c) β = 1 ,(表 5-3 (c),図 5-3 (c)) 前節と異なり、テナントを毎期入れ替えることから、賃料や売上高のパスが分断されて 各期の固定賃料初期水準に戻されるために、変動賃料に対する組み入れ比率を上げても、 25 平均値は増加しても標準偏差が大きく抑制されている。また下方リスクも減少する。しか しケース(a)(b)では、固定賃料のみの場合に比べて、平均値の水準が下落する。他方、(c)の ケースは、 α とともに平均値が増加し、かつ下方リスクとしての最小値、下位5%点,下 位10%点は増加するのでリスクは減少している。さらに、(c)のケースでは、変動賃料 100% としても、固定賃料( α =0)の場合と比べて、最小値はわずかながら下がるがほとんど 同じで、また下位分位点はともに大きくなって、リスクは小さくなっている。その意味で やはり、注目のケースである。図 5-3(a)(b)(c)にこの状況がグラフ化されている。 [5-2(c)]と[5-3(c)]のケースを比較すると、次のことがいえる。定期借家法が利用できない 場合、最初のテナントが継続的に滞在する限り、変動賃料の導入はハイリスクとなる。実 際リターンの増加よりリスクの増加のほうが大きい。他方、定期借家法をフルに活用して、 毎期テナントを入れ替えた場合、リスクを抑えてリターンを増加できる。それゆえ、売上 高の高いテナントを選択するテナント入替ルールによって、さらにリスクを小さくし平均 値を高める可能性がある。これを見るのが 5-4 節である。 表 5-3(a) 変動賃料の導入による不動産価値分布の変化( β =0.713) α 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 (注) 平均 317.0 308.6 300.3 292.0 283.6 275.3 267.0 258.6 250.3 242.0 233.6 標準偏差 下方偏差 下方偏差② 49.04 47.77 46.57 45.42 44.35 43.34 42.41 41.57 40.81 40.15 39.58 31.83 31.01 30.22 29.48 28.78 28.13 27.52 26.97 26.47 26.03 25.65 31.74 36.16 40.98 46.20 51.81 57.77 64.07 70.67 77.54 84.64 91.95 歪度 0.615 0.614 0.614 0.614 0.615 0.615 0.616 0.618 0.619 0.622 0.625 尖度 3.734 3.735 3.737 3.739 3.742 3.746 3.751 3.757 3.764 3.771 3.779 最小値 173.1 169.4 165.7 162.0 158.3 154.0 147.7 141.1 134.1 127.1 120.1 下位5%点 下位10%点 245.4 238.8 232.3 225.6 218.9 212.1 205.0 197.9 190.7 183.4 175.9 258.4 251.6 244.7 237.7 230.7 223.6 216.4 209.1 201.6 194.1 186.4 中央値 312.3 304.0 295.9 287.6 279.3 271.1 262.9 254.7 246.4 238.0 229.7 上位10%点 上位5%点 381.1 371.3 361.4 351.6 341.9 332.3 322.7 313.3 303.9 294.7 285.5 404.5 393.8 383.3 372.8 362.6 352.6 342.6 332.9 323.4 313.9 304.4 最大値 680.3 671.5 662.7 654.0 645.2 636.4 627.6 618.8 610.1 601.3 592.5 β =0.709 を選択した. 表 5-3(b) 変動賃料の導入による不動産価値分布の変化(δ=0.9、 β 可変) α 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 平均 285.3 286.3 287.4 288.5 289.6 290.6 291.7 292.8 293.8 294.9 標準偏差 下方偏差 下方偏差② 44.13 44.35 44.69 45.14 45.70 46.36 47.12 47.98 48.93 49.96 28.64 28.79 29.01 29.30 29.65 30.08 30.57 31.11 31.72 32.38 50.43 49.74 49.13 48.60 48.14 47.75 47.43 47.17 46.98 46.86 歪度 0.615 0.614 0.614 0.615 0.615 0.617 0.618 0.620 0.622 0.625 尖度 3.734 3.736 3.739 3.743 3.747 3.753 3.759 3.766 3.773 3.779 最小値 155.8 157.6 159.4 161.2 161.5 160.1 158.1 155.9 153.8 151.7 (注) ディスカウント率 δ が 0.9 になるように β を選択した. α 下位5%点 下位10%点 220.8 221.6 222.2 222.6 222.8 222.9 222.9 222.7 222.4 222.1 232.5 233.4 234.0 234.6 235.0 235.4 235.6 235.6 235.5 235.3 中央値 281.0 282.1 283.1 284.1 285.1 286.2 287.2 288.1 289.1 290.0 上位10%点 上位5%点 343.0 344.6 346.0 347.8 349.6 351.6 353.7 355.9 358.1 360.4 364.0 365.4 367.0 368.9 371.1 373.4 376.0 378.7 381.5 384.3 最大値 612.3 627.4 642.4 657.5 672.6 687.7 702.7 717.8 732.9 748.0 = 0 となる β は存在しないので省略. 表 5-3(c) 変動賃料の導入による不動産価値分布の変化( β =1) 26 α 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 (注) 平均 317.0 318.0 319.1 320.2 321.3 322.3 323.4 324.5 325.5 326.6 327.7 標準偏差 下方偏差 下方偏差② 49.04 49.25 49.57 49.99 50.51 51.13 51.83 52.63 53.51 54.47 55.51 31.83 31.97 32.17 32.45 32.78 33.17 33.63 34.14 34.70 35.31 35.97 31.74 31.23 30.80 30.44 30.14 29.91 29.75 29.64 29.60 29.61 29.67 歪度 0.615 0.614 0.614 0.615 0.615 0.616 0.617 0.619 0.621 0.623 0.625 尖度 3.734 3.736 3.738 3.742 3.745 3.750 3.755 3.761 3.767 3.773 3.779 最小値 下位5%点 下位10%点 173.1 174.9 176.7 178.5 180.1 178.7 177.1 174.9 172.8 170.7 168.5 245.4 246.1 246.8 247.2 247.6 247.7 247.7 247.6 247.4 247.1 246.7 258.4 259.2 259.9 260.5 261.0 261.4 261.6 261.8 261.7 261.6 261.5 中央値 上位10%点 上位5%点 312.3 313.3 314.3 315.4 316.4 317.4 318.5 319.4 320.3 321.3 322.3 381.1 382.7 384.2 385.9 387.7 389.5 391.5 393.7 395.9 398.1 400.5 404.5 405.8 407.3 409.2 411.3 413.6 415.9 418.6 421.3 424.2 427.0 最大値 680.3 695.4 710.5 725.5 740.6 755.7 770.8 785.8 800.9 816.0 831.1 β =1 を選択した. 図 5-3 テナント・マネジメント導入時のサンプルパス 図 5-3(a) テナント・マネジメントの導入による不動産価値( β =0.709) 27 図 5-3(b) テナント・マネジメントの導入による不動産価値(δ=0.9) 図 5-3(c) テナント・マネジメントの導入による不動産価値( β =1) 図 5-3(a) テナント・マネジメントの導入による不動産価値( β =0.709) 28 図 5-3(b) テナント・マネジメントの導入による不動産価値(δ=0.9) 図 5-3(c) テナント・マネジメントの導入による不動産価値( β =1) [5−4] 固定・変動賃料ミックス+テナント入替ルール採用 本節では、テナント入替ルールを利用したテナント・マネジメントを行うケースを分析 する。ここでは変動賃料50%の場合の α = 0.5, β = 1 に固定した分析をする。 本節では、二つのテナント入替ルール(I)平均売上高変化率ルール, (II)契約売上高水 準ルール,に基づいたテナント・マネジメントを行うことで、不動産価値の分布がどのよ うに変化するのかを分析する。パラメータは前節までと同様である。 29 (I)平均売上高変化率入替ルール 表 5-4I(a) はテナント入替ルールとして、2 年間の平均売上高成長率を使用した場合の、 不動産価値シミュレーション結果である。また、表 5-4I(b)は、各期末においての契約継続 確率を示したものである。以下では(3.12)の平均売上高変化率の閾値 c(k)を c と書く 今回の分析で最も緩やかな基準とした c = −0.4 の場合、表 5-4I(b)にあるように毎期ほぼ 90%の確率で契約が継続されることがわかる。結果として分布形状は、テナント・マネジ メントを行わないケース(表 5-2(c))とほぼ同じものになっている。 c を上昇させて0に近 づけるに従って、契約継続率は減少していく。その結果、分布の標準偏差は低下していく。 対照的に、平均値、中央値は c = −0.1 に近づくに従って上昇している(ハイリターン・ロ ーリスク化) 。これは、平均的な売上高変化率の減少傾向が見られるテナントとは、契約を 継続しないことによる効果だと言える。このゾーンにおいては、分布形状が狭まりつつ全 体的には右へとシフトしていくという点で、収益を狙いリスク回避したい経営にとっては 好ましい状況へと近づいている。 c = 0 を超えると平均値、中央値は減少に転じる。与えら れたパラメタ―の下では、c=0の場合が最適といえよう。 本ケー スの 売上高 プロ セスの パラ メータ 設定 とテナ ント 入替ル ール のもと で は 、 c = −0.1 で契約継続確率はおよそ 75%、 c = 0 で 50%、 c = 0.1 で 25%となっている。ま た、表 5-4I(b)からわかるように、3 年×10 期間の契約更新を行う中で、各期間における契 約継続確率には相違がみられない。つまり、前期の契約時点では平均売上高変化率が高く て継続したテナントでも、3 年が経過した後の平均売上高変化率は、新規テナントと同程度 であるということである。これは売上高変化率をずっと高くしていくことが困難であるか らである。いずれにせよ、毎期 50%の割合で、入替があるのは望ましいことではないかも しれない。 旧借家法と新借家法のもとでのオプションとしての 50%変動賃料契約と c = −0.1 の入 替ルールのケースを比較するとオプション価値は 400.6−316.8=83.8 とかなり大きい。ま たリスクの大きさも下方偏差②でみる限りかなり小さくなっている。 テナントのリバランスのもう一つの効果として、固定賃料と変動賃料の相関の低下が挙 げられる。表 5-4I(c)は各基準値での市場賃料と変動賃料との相関係数を示しているが、c が 上昇しテナントとの契約継続確率が低下するとともに、相関係数が高くなっている。新規 テナントとは市場賃料をベースにした契約をすることになるため、新規契約を繰り返すこ とによって変動賃料部分も市場賃料からの影響を強く受けるようになる。 30 表 5-4I (a) 平均売上高変化率入替ルール c 平均 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 標準偏差 382.3 388.1 399.9 400.6 376.8 350.8 334.2 326.0 323.1 322.4 197.73 195.70 186.45 161.49 111.69 73.04 58.56 53.63 51.91 51.42 下方偏差 下方偏差② 87.23 86.08 80.93 68.08 52.19 41.73 36.71 34.48 33.61 33.36 歪度 44.57 40.54 30.55 20.63 19.57 23.00 26.78 29.08 29.87 30.03 尖度 4.503 4.594 4.962 6.255 5.748 2.839 1.026 0.694 0.631 0.614 最小値 58.742 60.967 71.160 116.053 90.820 40.203 7.246 4.037 3.752 3.690 下位5%点 132.7 132.7 156.5 162.2 173.6 172.8 172.8 171.4 171.4 171.4 214.1 220.8 239.8 263.2 266.3 259.2 252.6 248.9 247.8 247.6 下位10%点 231.6 239.1 258.9 280.9 282.8 274.2 266.7 262.6 261.3 261.1 中央値 上位10%点 329.4 336.4 353.3 364.5 356.2 340.4 327.6 320.7 318.2 317.6 上位5%点 582.7 583.9 579.1 540.8 481.8 435.8 409.3 396.1 391.2 389.9 723.4 724.2 713.3 647.8 542.3 473.9 438.0 422.4 416.5 414.9 最大値 8295.8 8295.8 8295.8 8295.8 4159.8 2591.0 1383.9 726.8 711.5 644.9 β =1 とした.c は年率換算値とした。 (注) 表 5-4I (b)平均売上高変化率入替ルールの各期末における契約継続確率 c -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 (注) 1 99.7% 98.0% 91.3% 75.0% 49.9% 25.0% 8.9% 2.2% 0.4% 0.1% 2 99.7% 97.9% 91.3% 75.2% 50.1% 25.1% 8.8% 2.1% 0.4% 0.0% 3 99.7% 98.0% 91.1% 75.1% 50.0% 25.1% 8.9% 2.1% 0.4% 0.0% 4 99.7% 97.9% 91.3% 75.1% 49.9% 25.0% 8.9% 2.2% 0.4% 0.0% 5 99.6% 97.8% 91.1% 75.1% 49.9% 24.9% 8.7% 2.1% 0.3% 0.0% 6 99.6% 97.8% 91.2% 75.2% 50.1% 25.0% 8.8% 2.1% 0.3% 0.0% 7 99.6% 97.9% 91.1% 74.9% 50.0% 24.9% 8.8% 2.1% 0.3% 0.0% 8 99.7% 97.9% 91.1% 75.0% 50.1% 25.1% 8.9% 2.1% 0.3% 0.0% 9 99.7% 97.9% 91.1% 75.0% 50.0% 25.0% 8.8% 2.2% 0.4% 0.0% c は年率換算値とした。1∼9 は、期(3 年)をあらわす。 表 5-4I (c)平均売上高変化率入替ルールにおける固定賃料価値と変動賃料価値の相関 c 相関係数 (注) -0.4 0.005 -0.3 0.016 -0.2 0.053 -0.1 0.133 0.0 0.265 0.1 0.479 0.2 0.688 0.3 0.823 0.4 0.887 0.5 0.909 c は年率換算値とした。 31 図5-4 I c 水準別サンプルパス (注)同一のサンプルパスに対して、異なる c を適用した場合の売上高推移.入れ替えを認識し易くするために、値は売 上高の自然対数値とした。 表 5-4I (a) 売上高変化率入替ルールの場合の不動産価値 32 表 5-4I (a) 売上高変化率入替ルールの場合の不動産価値 (II)契約売上高水準入替ルール 表 5-4Ⅱ(a)はテナント入替ルールとして、2 年 6 ヶ月経過時点での契約売上高水準ルール (3.13)を使用した場合の、不動産価値確率分布についてのシミュレーション結果である。 なお(3.13)のルールの閾値を c で表す。また、表 5-4II(b)は、各期末においての契約継 続確率を示してある。 売上高変化率ルールの場合と同様に、基準が厳しく(上昇)なるほど契約継続率は低下 する(表 5-4II(b))。しかし、売上高変化率ルールの場合と異なって、期間の経過と共に契約 継続率が上昇する。これはビジネスが好調で契約継続がされたテナントの売上高水準は、 新規テナントよりも高いと考えられることからも自明である。 c = 1 の場合は、入居の契約 高水準を維持することを要求する場合で、その場合 1 期目終了時でこの基準をクリアでき たテナントは 50%程度であるが、2 期目には約 60%と以下単調に増加し、 9 期目には 77.6% のテナントが契約を継続することができる結果となっている。 基準を変更したことによってテナントとの契約継続確率が変化した結果、分布形状も異 なるものとなった。 c = 1 の場合、分布の標準偏差は大きいものの、平均値,中央値は上昇 し、分布全体の右へのシフトが見られ、下方リスクも小さくなっている。平均売上高変化 率ルールの c = −0.1 の場合に比べても、下位 5%、10%点の値どちらもルール c = 1 の方が 高くなっていること、下方偏差②が低くなっていることからも、契約売上高水準ルールの 優位性がわかる。 固定賃料の基本ケースの結果(5.3)と比べると、平均は圧倒的に大きく、最小値、下位 5% 点、下位 10%点の値は大きく、下方偏差②が低く、下方リスクは小さくなっている。その 意味で新借家法のオプション価値(439.4−316.8=122.6)はきわめて大きく下方偏差② はかなり小さい。 33 表 5-4II (a) c 平均 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 385.7 400.5 418.8 434.5 439.4 428.2 406.1 382.2 361.9 347.7 (注) β 標準偏差 197.56 193.03 192.78 194.73 197.25 195.61 185.70 168.31 146.37 125.46 契約売上高水準ルールのもとでの価値分布特性 下方偏差② 84.02 80.39 79.96 81.95 85.07 85.45 79.79 69.35 57.90 49.10 歪度 38.84 27.50 19.20 16.04 17.99 22.08 25.63 27.83 28.97 29.49 尖度 4.773 4.976 5.216 5.088 4.932 4.910 5.099 5.475 6.623 7.356 最小値 55.033 58.906 68.229 65.398 62.802 63.503 69.462 81.157 124.934 151.238 下位5%点 144.1 165.3 170.6 173.6 172.2 172.2 172.2 172.2 172.2 172.2 227.0 248.8 266.7 275.9 269.7 257.8 251.6 249.1 248.2 247.8 下位10%点 242.5 263.8 282.9 294.6 291.4 277.3 268.0 264.0 262.2 261.6 中央値 上位10%点 330.8 346.6 365.9 382.5 389.7 380.9 358.9 337.0 325.9 321.2 579.9 586.0 603.0 620.7 628.6 616.4 583.1 537.5 484.4 442.7 上位5%点 720.9 726.7 743.4 764.4 772.2 755.3 712.9 657.5 591.1 527.4 最大値 6500.0 6500.0 6701.2 6701.2 6701.2 6701.2 6701.2 6701.2 6701.2 6701.2 = 1 とした. c は年率換算値とした。 表 5-4II (b) c 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 (注) 下方偏差 1 100.0% 99.7% 93.7% 74.7% 49.9% 29.3% 15.9% 8.0% 3.9% 2.0% 契約売上高水準ルールのもとでの各期末における契約継続確率 2 100.0% 96.8% 87.9% 78.0% 61.9% 41.5% 24.6% 13.3% 6.8% 3.5% 3 99.5% 95.1% 89.4% 81.3% 67.3% 48.8% 30.7% 17.5% 9.4% 5.0% 4 99.0% 94.9% 90.3% 83.1% 70.8% 53.1% 35.1% 21.0% 11.8% 6.5% 5 98.6% 95.0% 91.1% 84.6% 73.3% 56.9% 39.0% 24.3% 14.1% 8.0% 6 98.2% 95.2% 91.6% 85.4% 74.8% 59.3% 41.9% 26.9% 16.3% 9.5% 7 98.1% 95.5% 92.0% 86.3% 76.1% 61.3% 44.2% 29.3% 18.2% 10.8% 8 98.0% 95.8% 92.5% 86.9% 77.1% 62.8% 46.3% 31.5% 20.1% 12.3% 9 98.0% 95.9% 93.0% 87.4% 78.0% 64.3% 48.3% 33.4% 21.8% 13.7% 1.8 0.302 2.0 0.328 β = 1 とした. c は年率換算値とした。1∼9 は、期(3 年)をあらわす。 表 5-4II (c)契約売上高水準ルールにおける固定賃料価値と変動賃料価値の相関 c 相関係数 (注) 0.2 0.006 0.4 0.021 0.6 0.040 0.8 0.065 1.0 0.106 1.2 0.165 1.4 0.221 1.6 0.266 c は年率換算値とした。 図 5-4II サンプルパス 34 (注)同一のサンプルパスに対して、異なる K を適用した場合の売上高推移.入れ替えを認識し易くするために、値は 売上高の自然対数値とした。 図5-4II (a) 契約売上高水準入替ルールの場合の DDCF 値の分布 35 図5-4II (a) 契約売上高水準入替ルールの場合の DDCF 値の分布 [5-5] 売上高ボラティリティγ=10%の場合 (I)平均売上高変化率ルール 表 5-5I(a)には価値分布特性を掲げ、図 5-5I(b)には分布を描いてある。閾値 c を動かした 場合、c=-0.1 もしくは 0 の場合がリターンと下方リスクの点では最適であろう。c=0 の場 合と固定賃料基本ケースと比較すると、平均値は依然として高く(337.2)、最小値は少し下 がるが、中央値、下位分位点は大きくなっているので総じて下方リスクは小さくなってい る。また表 5-5I(b)にあるように、契約継続率はボラティリティ 20%の場合(表 5-4I(b))とほ とんど同じで、毎期 50%の割合で入替が起こる。 表 5-5I(a) 平均売上高変化率入替ルールの場合の価値分布特性 c 平均 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 標準偏差 下方偏差 下方偏差② 327.5 327.5 328.4 339.0 337.2 322.8 318.5 318.2 318.2 318.2 64.55 64.55 64.31 61.11 54.56 50.65 49.69 49.61 49.61 49.61 39.12 39.12 38.98 37.27 34.86 32.88 32.26 32.22 32.21 32.21 歪度 32.72 32.72 32.08 24.67 23.56 29.46 31.35 31.47 31.47 31.47 尖度 1.135 1.135 1.136 1.121 0.771 0.611 0.610 0.609 0.609 0.609 5.719 5.718 5.733 5.891 4.524 3.694 3.681 3.680 3.681 3.681 最小値 163.0 163.0 163.0 180.0 168.9 151.6 151.6 151.6 151.6 151.6 下位5%点 下位10%点 241.8 241.8 242.9 256.8 259.2 249.0 246.1 245.9 245.9 245.9 255.9 255.9 257.0 270.7 273.2 262.3 259.2 259.0 259.0 259.0 中央値 317.9 317.9 318.9 330.5 331.5 318.0 313.7 313.5 313.5 313.5 上位10%点 上位5%点 411.0 411.0 411.6 417.2 408.0 389.4 384.0 383.6 383.6 383.6 446.0 446.0 446.5 450.4 434.9 413.5 407.3 406.7 406.7 406.7 最大値 921.4 921.4 921.4 921.4 913.8 639.7 613.7 613.7 613.7 613.7 (注)β=1 とした.cは年率換算値とした。 表 5-5I(b) 平均売上高変化率ルールの場合の各期末における契約継続確率 c -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 1 100.0% 100.0% 99.7% 91.0% 49.7% 8.9% 0.3% 0.0% 0.0% 0.0% 2 100.0% 100.0% 99.6% 91.1% 49.7% 8.7% 0.4% 0.0% 0.0% 0.0% 3 100.0% 100.0% 99.6% 91.0% 50.1% 9.1% 0.4% 0.0% 0.0% 0.0% 4 100.0% 100.0% 99.6% 91.0% 49.9% 8.7% 0.3% 0.0% 0.0% 0.0% 5 100.0% 100.0% 99.7% 91.2% 50.3% 9.0% 0.3% 0.0% 0.0% 0.0% 6 100.0% 100.0% 99.6% 91.2% 50.2% 8.9% 0.4% 0.0% 0.0% 0.0% 7 100.0% 100.0% 99.7% 91.1% 50.0% 9.0% 0.4% 0.0% 0.0% 0.0% 8 100.0% 100.0% 99.7% 91.2% 49.8% 8.8% 0.3% 0.0% 0.0% 0.0% 9 100.0% 100.0% 99.6% 90.9% 50.0% 8.6% 0.3% 0.0% 0.0% 0.0% 36 (注)cは年率換算値とした。1∼9 は、期(3 年)をあらわす。 図 5-5I(a) 売上高変化率ルールの場合の不動産価値分布 (II)売上高水準ルール 他方、売上高水準入替ルールを用いても、ボラティリティ 20%の場合に対応している。 表 5-5II(a)にあるように、閾値が c=0.8 もしくは 1 の場合が全体的に最適で、固定賃料基本 ケース(5.3)より優れている。また(I)のケースと比べても、リターンは大きく下方リスク は小さいので水準ルールのほうが優れているといえよう。契約継続率(表 5−5II(b))も表 5 −4II(b)と比べほとんど変わりがなく、残存率が単調に上がっていく。 表 5-5II(a) 売上高水準入替ルールの場合の価値分布特性 c 平均 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 327.9 330.0 337.4 348.4 354.1 343.5 330.0 323.1 320.3 319.2 標準偏差 下方偏差 下方偏差② 64.86 63.26 60.14 59.26 64.23 69.02 64.52 58.17 53.90 51.79 39.22 37.72 35.49 35.83 41.24 43.81 38.90 35.07 33.35 32.70 歪度 32.59 29.80 23.52 19.03 22.37 28.48 30.86 31.29 31.34 31.35 尖度 1.163 1.250 1.334 1.207 0.836 0.842 1.087 1.144 1.013 0.885 6.037 6.351 6.894 6.718 5.501 4.739 5.296 5.798 5.386 5.045 最小値 158.0 174.2 177.4 175.3 172.6 172.6 172.6 172.6 172.6 172.6 下位5%点 下位10%点 242.3 248.4 260.8 269.8 258.4 248.8 246.6 246.2 246.2 246.2 中央値 256.1 261.0 272.9 284.2 276.9 262.6 259.5 259.1 259.1 259.1 318.2 319.5 327.1 339.8 349.3 336.3 317.8 314.2 313.7 313.6 上位10%点 上位5%点 411.2 411.4 414.0 423.0 433.6 432.1 417.8 399.1 388.4 385.0 447.6 447.8 449.4 456.5 465.7 464.3 450.5 433.7 417.8 410.4 最大値 1189.6 1189.6 1189.6 1189.6 1189.6 1189.6 1029.0 1029.0 861.6 840.8 (注)β=1 とした.cは年率換算値とした。 表 4−20 テナント入替ルール(b)売上高水準を使用した場合 各期末における契約継続確率 c 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 1 100.0% 100.0% 99.9% 91.0% 50.2% 14.0% 2.3% 0.3% 0.0% 0.0% 2 100.0% 100.0% 97.9% 86.1% 62.1% 24.2% 5.3% 0.9% 0.1% 0.0% 3 100.0% 99.8% 96.2% 87.4% 66.6% 31.0% 8.8% 1.9% 0.3% 0.1% 4 100.0% 99.5% 95.6% 88.2% 69.1% 36.2% 12.3% 3.4% 0.8% 0.2% 5 100.0% 99.1% 95.6% 88.8% 71.0% 40.2% 15.7% 5.2% 1.5% 0.4% 6 100.0% 98.9% 95.6% 89.2% 72.3% 43.0% 18.7% 6.8% 2.3% 0.7% 7 100.0% 98.6% 95.7% 89.4% 73.1% 45.3% 21.2% 8.6% 3.2% 1.2% 8 99.9% 98.5% 95.8% 89.5% 73.8% 47.4% 23.7% 10.4% 4.3% 1.7% 9 99.9% 98.4% 95.9% 89.7% 74.2% 48.7% 25.8% 12.0% 5.4% 2.3% 37 (注)β=1とした.cは年率換算値とした。1∼9 は、期(3 年)をあらわす。 図 5−5II(b)売上高水準入替ルールのもとでの価値の分布 6 テナント入替コストの考慮 ここまで、テナントの入替時のコストを考慮しないで議論を進めてきた。しかし、実際 にはテナント入替の際には、賃貸スペースの改装費用、レイアウト変更費用などのコスト がかかることがあると考えられる2。ここでは、テナント入替に伴う賃貸スペースの改装コ ~ スト C i ( k ) を契約時点での市場賃料の関数であると考え、 ( ~ ~ C i (k ) = f X i 36( k −1) ) と表現する。具体的には、 ~ ~ C i (k ) = A + BX i 36( k −1) のように、k期のテナント入替コストが契約時点の市場賃料の線形式であらわされるケー スを考える。たとえばA=0、B=12の場合、テナント入替時にPMが負担する費用は 市場賃料 1 年分に相当するということを意味する。 表6-1I(a)にはテナント入替ルールとして売上高変化率を用い、コスト関数としてA=0、 B=6 を取った場合、すなわち市場賃料の 6 ヶ月分のコストがかかる場合の不動産価値分布 2 森ビルにインタビューした際には、時には賃料収入数年分の改装費用がかかるケースも存 在するということであった。しかし、このような高い入替コストは、森ビルが積極的にリ フォームを行うことで不動産価値を高めて行く経営をしているためであろう。ここでは賃 貸人のほうが契約によって入替権を保有することからこのように仮定する。 38 特性を掲げた。表6-1I(b)は同様の入替ルールの基で、B=12 とした場合の結果である。 表6-1II(a),(b)には売上高水準ルールを用いた場合の同様の結果を示した。また、図6-1 I,II で各入替ルールに対して、コストの変化によるリスク(ここでは下方偏差②を使用)と 期待値の変化を図示した。 どちらの入替ルールを採用した場合も、cの値が高く入替頻度が高くなる場合ほど、コ ストの影響を強く受けて価値分布の期待値は低下し、コストを考慮しない場合に比べて下 方リスクは増加することがわかる。表より、入替コストが市場賃料 1 年分程度の場合には、 入替ルールを採用することによって依然として不動産価値の期待値を上昇させ下方リスク を抑えることが可能であることがわかる。また、図6-1I(a)からは、入れ替えコストが市場 賃料の 2 年分に達すると売上高変化率ルールを採用した場合には、テナントの入替による 不動産価値の期待値の上昇はほとんど見られなくなることがわかる。一方で、売上高水準 ルールを採用した場合には、コストが 3 年分であったとしても期待値を上昇させる余地が 存在することがわかる。これは、入替のコストが高い場合でも、極端に売上高が低迷して いるテナントを入れ替えることが不動産価値の向上につながることを示していると言える。 表 6-1I(a) 売上高変化率入替ルールでA=0,B=6 ヶ月の場合の価値分布特性 c -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 平均 382.2 387.6 397.8 394.7 364.9 332.9 312.5 302.7 299.4 298.6 標準偏差 197.74 195.77 186.79 162.37 112.52 72.44 56.14 50.12 47.99 47.38 下方偏差 87.22 86.06 80.97 68.37 52.24 40.83 34.86 32.09 31.02 30.73 下方偏差② 歪度 44.60 40.76 31.46 23.20 24.71 31.24 37.59 41.20 42.40 42.64 4.503 4.594 4.954 6.214 5.743 2.997 1.130 0.730 0.641 0.616 尖度 58.736 60.914 70.833 114.343 89.926 42.717 8.171 4.206 3.792 3.697 最小値 132.7 132.7 154.1 157.1 165.1 163.4 161.7 159.6 159.6 159.6 下位5%点 214.1 220.6 238.0 257.1 254.6 243.7 235.0 231.0 229.9 229.7 下位10%点 231.6 238.7 257.0 274.7 271.1 258.2 248.4 243.7 242.3 242.1 中央値 329.3 335.8 350.7 358.0 343.8 322.2 305.8 297.5 294.8 294.2 上位10%点 582.6 583.6 577.8 536.3 470.9 416.7 384.0 368.1 362.3 360.7 上位5%点 723.4 723.7 712.4 644.4 532.8 454.8 412.2 392.7 385.8 383.8 最大値 8295.8 8295.8 8295.8 8295.8 4159.8 2588.4 1369.7 699.9 688.9 598.9 (注)β=1 とした.cは年率換算値とした。 表 6-1I(b) 売上高変化率入替ルールでA=0,B=1 年の場合の価値分布特性 c -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 平均 382.2 387.1 395.7 388.7 352.9 315.0 290.8 279.4 275.7 274.8 標準偏差 197.75 195.85 187.16 163.32 113.52 72.15 53.99 46.72 44.11 43.38 下方偏差 87.22 86.06 81.06 68.77 52.48 40.13 33.13 29.74 28.46 28.11 下方偏差② 歪度 44.64 41.00 32.45 26.09 30.77 41.28 50.89 56.13 57.83 58.17 4.503 4.593 4.944 6.165 5.713 3.133 1.253 0.782 0.658 0.620 尖度 58.728 60.853 70.468 112.461 88.512 44.705 9.261 4.457 3.857 3.707 最小値 132.7 132.7 150.6 152.1 156.6 154.1 150.6 147.7 147.7 147.7 下位5%点 214.0 220.3 236.2 250.6 242.4 227.7 217.3 213.1 212.0 211.8 下位10%点 231.5 238.2 255.0 268.3 258.9 241.8 230.0 224.7 223.3 223.1 中央値 329.2 335.1 348.1 351.3 331.1 303.9 283.9 274.3 271.3 270.7 上位10%点 582.6 583.2 576.4 532.2 459.7 397.9 358.9 340.4 333.5 331.7 上位5%点 723.4 723.7 711.3 641.4 523.0 436.6 386.6 363.4 355.1 352.9 最大値 8295.8 8295.8 8295.8 8295.8 4159.8 2585.8 1355.5 673.0 666.2 558.6 (注)β=1 とした.cは年率換算値とした。 表 6-1II(a) 売上高水準入替ルールでA=0,B=6 ヶ月の場合の価値分布特性 c 平均 標準偏差 下方偏差 下方偏差② 歪度 (注)β=1 とした.cは年率換算値とした。 0.2 362.5 197.29 83.44 52.02 4.901 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 377.6 396.6 414.5 422.3 415.1 397.0 375.9 358.2 345.3 192.58 190.95 192.26 193.44 190.42 179.80 162.27 142.33 121.14 79.38 78.28 79.58 81.31 80.74 75.23 65.49 55.44 47.54 38.60 27.28 20.74 20.31 23.20 26.10 28.04 29.07 29.57 5.134 5.177 5.089 5.012 5.046 5.301 6.020 7.262 7.873 尖度 58.794 63.266 64.092 62.133 60.960 62.620 70.888 93.918 140.323 162.849 最小値 145.6 169.0 180.8 182.3 176.2 172.9 172.9 172.9 172.9 172.9 下位5%点 206.4 229.8 250.2 263.8 263.5 256.1 251.5 249.2 248.2 247.8 下位10%点 221.0 243.9 264.7 280.2 283.1 274.5 267.1 263.8 262.1 261.5 中央値 306.7 322.6 342.6 361.2 370.9 367.3 351.2 334.8 325.2 320.9 上位10%点 557.0 562.5 578.5 597.9 606.6 595.0 563.8 519.5 472.5 434.9 上位5%点 694.8 700.5 716.6 738.4 746.1 730.4 689.4 633.6 572.1 514.8 最大値 6594.3 6594.3 6594.3 6594.3 6594.3 6594.3 6594.3 6594.3 6594.3 5955.3 39 表 6-1II(b) 売上高水準入替ルールでA=0,B=1年の場合の価値分布特性 c 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 平均 339.0 354.7 374.8 394.6 405.5 402.1 387.9 370.1 354.6 343.2 標準偏差 196.73 191.70 189.59 190.12 190.08 185.74 174.38 156.96 137.73 117.39 下方偏差 82.65 78.20 76.59 77.05 77.54 76.00 70.61 61.90 53.08 46.12 下方偏差② 歪度 66.80 51.52 37.22 26.87 23.11 24.34 26.56 28.21 29.13 29.59 4.941 5.197 5.269 5.226 5.219 5.329 5.639 6.405 7.694 8.263 尖度 59.443 64.351 65.731 64.564 64.659 67.980 78.271 104.450 155.729 178.982 最小値 130.6 157.6 173.2 179.6 174.4 172.9 172.9 172.9 172.9 172.9 下位5%点 185.9 211.1 234.0 252.0 257.8 254.4 251.0 249.1 248.1 247.8 下位10%点 199.4 223.9 247.0 266.0 275.0 271.6 266.2 263.5 262.1 261.5 中央値 282.6 298.8 319.5 339.9 352.4 353.5 344.1 332.0 324.5 320.6 上位10%点 532.4 538.1 554.7 574.5 583.7 573.2 543.4 501.5 458.9 427.9 上位5%点 670.3 675.8 692.3 714.3 723.9 708.0 668.3 613.6 553.7 500.5 最大値 6570.1 6570.1 6570.1 6570.1 6570.1 6570.1 6570.1 6570.1 6570.1 5934.5 (注)β=1 とした.cは年率換算値とした。 図 6-1I(a)売上高変化率入替ルールのもとでの価値分布のリスク対期待値 (注)α=0.5,β=1 とした.cは年率換算値とした。入替コスト関数のB=0,6,12,24,36 ヶ月のケースについて、 価値分布のリスク(下方偏差②)と期待値をプロットした。図中の各点は入替の際のトリガーcの値を示す。 40 図 6-1I(b)売上高水準入替ルールのもとでの価値の分布のリスク対期待値 (注) α=0.5,β=1 とした.cは年率換算値とした。入替コスト関数のB=0,6,12,24,36 ヶ月のケースについて、 価値分布のリスク(下方偏差②)と期待値をプロットした。図中の各点は入れ替えの際のトリガーcの値を示す。 7 テナント入替コストと最適変動賃料比率 次に、与えられたテナント入替コストのもとでの最適変動賃料について考える。 図7-1I は売上高変化率ルールのもとで、変動賃料比率と入替基準を変化させた場合の不 動産価値分布の変化を示したものである。下方偏差②をリスクの基準として採用した場合 を想定した。入替コストとしては、市場賃料の 24 ヶ月分を想定した。また、β=1 とした。 図中の赤い実線は、入替基準cを固定して変動賃料比率αi を変化させた場合の価値分布の 変化を、青い点線は変動賃料比率αi を固定して入替基準cを変化させた場合の価値分布の 変化をあらわす。 図中に示された領域は、売上高変動率ルールのもとで達成可能な不動産価値分布特性の 集合をあらわしていると言える。マーコヴィッツのポートフォリオ理論における有効フロ ンティアのように、達成可能なテナント・マネジメント戦略集合の中で、その戦略よりも 低いリスク(この場合は下方偏差②)で同じリターン、もしくは同じリスクで高いリター ンを持つような戦略が存在しない戦略の集合が存在することがわかる。たとえば図 5−7I 41 中の外側の黒太線がそれに該当する。この線は入替基準値cを−0.2 として変動賃料比率を 0%から 100%まで変化させた戦略集合をあらわす。また、リスク 1 単位当りの価値(平均 価値/下方偏差②)を最大にする戦略は、入替基準値−0.2、変動賃料比率 20%となる。最 適戦略の元での平均不動産価値は 346.78、下方偏差②は 26.68 である。 図7-1II は同様に売上高水準ルールを採用した場合についての結果を示したものである。 このルールのもとでの最適戦略は入替基準値c=0.6、変動賃料率 35%となる。最適戦略の もとでの平均不動産価値は 382.58、下方偏差②は 24.26 となり、売上高変化率ルールでの 最適戦略よりも平均値が高く、リスク(下方偏差)が低いものとなっている。 戦略の最適性については、プロパティーマネジャーがリスクとリターンに関してどのよ うな効用を持っているのか、当該物件以外に所有している他の不動産との関係を考慮する べきかといったことにも影響されると考えられるため、一概には議論できない。しかし、 本節で提示された結果からは、プロパティーマネジャーが実現可能なテナント・マネジメ ント戦略の中から、自分にとって最適な不動産価値分布特性を選択することが可能である ことを示唆される。 図 7-1I 売上高変化率入替ルールのもとでのテナント・マネジメント戦略集合 (注)変動賃料率αi とトリガーcを変化させた場合の価値分布のリスク(下方偏差②)と期待値のプロット。入替コス ト関数のB=24 ヶ月、β=1 とした。図中の赤い実線は、トリガーcを固定して変動賃料比率αi を変化させた場合の 価値分布の変化を、青い点線は変動賃料比率αi を固定してトリガーcを変化させた場合の価値分布の変化をあらわす。 太い黒実線はそれぞれトリガーc=−0.2、変動賃料率 20%をあらわす。 42 図 7-2II 売上高水準入替ルールのもとでのテナント・マネジメント戦略集合 (注) α=0.5,β=1 とした.cは年率換算値とした。入替コスト関数のB=0,6,12,24,36 ヶ月のケースについ て、価値分布のリスク(下方偏差②)と期待値をプロットした。図中の各点は入替の際のトリガーcの値を示す。(注) 変動賃料率αi とトリガーcを変化させた場合の価値分布のリスク(下方偏差②)と期待値のプロット。入替コスト関数 のB=24 ヶ月、β=1 とした。図中の赤い実線は、トリガーcを固定して変動賃料比率αi を変化させた場合の価値分 布の変化を、青い点線は変動賃料比率αi を固定してトリガーcを変化させた場合の価値分布の変化をあらわす。太い黒 実線はそれぞれトリガーc=0.6、変動賃料率 35%をあらわす。 6 結論 本論文では、商業用店舗不動産経営問題を定式化し、テナント賃料契約デザイン問題と テナント入れ替え問題に関わって、賃料契約デザインの違いとテナント入替ルールの違い による当該不動産の DDCF(Dynamic Discounted Cash Flow)確率分布の違いから、その収 益還元的価値とリスクを評価する枠組と分析法の提案を行った。モデルの前提条件の下で のシミュレーション分析結果からは、変動賃料の導入、適切なテナント入れ替えといった 積極的なテナント・マネジメントが、当該不動産物件の価値の確率分布形状を変化させ、 企業価値創造につながる様子が観測された。特に現実的なパラメータ設定のもとに、最適 な入替ルールやそのもとでの最適な変動賃料の比率を求めることができることをみた。金 融工学的リアルオプション思考法のもとに企業価値創造を図るテナント経営戦略の構築に その有効性を提示できたと考えられる。さらにこの結果は、新借家法が社会に提供したオ プション価値を評価するものであり、その価値はきわめて大きいことを示している。 参考文献 [1] Benjamin, John D., Glenn W. Boyle, and C.F. Sirmans, 1992, Price Discrimination in 43 Shopping Center Lease, Journal of Urban Economics, 32, 299-317. [2] Chun, Eppli and Shilling, 1999, A Simulation Analysis of the Relationship between Retail Sales and Shopping Center Rents, Working Paper. [3] Miceli, Thomas J. and C.F. Sirmans, 1995, Contracting with Spatial Externalities and Agency Problems: The Case of Retail Leases, Regional Science and Urban Economics 25, 355-372. [4] Wheaton, William C. and Raymond G. Torto, 1995, Retail Sales and Retail Real Estate, Real Estate Finance, 12, 22-31. [5] 刈屋武昭, 2001, 不動産収益還元価値評価モデルと賃料キャッシュフローのリスク分析法、 第1回日本不動産金融工学会発表資料. [6] 刈屋武昭, 1997, 金融工学の基礎, 東洋経済新報社. [7] 外舘光則,1997,期限付借家契約と契約更新権のオプションバリュー,日本経済研究 No.35, 1997.12. 付録 平均と分散の導出 5−1,5−2,5−3 節の場合の DDCF 価値確率分布の平均と分散を解析的に導出する。 モデル Yn = Yn −1 exp( µ n −1h + σ hε n ) µ n −1 = φ yn −1 + (1 − φ ) µ n − 2 , yn −1 = log Yn −1 Yn −2 = µ n − 2 h + σ hε n −1 の平均と分散を計算する。まず繰返代入法により µ n −1 = µ 0 λn −1 + φσ h [ε n −1 + λε n − 2 + L + λn − 2ε1 ] λ = φ h + (1 − φ ) となる。その結果 n −1 ∑µ i =1 i = a + φσ h [ε n −1 + (λ + 1) ε n − 2 + (λ2 + λ + 1)ε n −3 + L + (λn − 2 + λn −3 + L + λ + 1)ε1 ] an = µ 0 (λn −1 + λn − 2 + L + λ ) と評価される。 44
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