焙煎機の構造について

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焙 煎 機 の 構 造 に つ い て
一般的に小型ドラム式焙煎機(容量10㎏以下)の形式は直火式、半熱風式、
熱風式の三つに大別することが出来ます。この分類は、主に釜とバーナーの位
置関係を表したもので、従来からの呼称ですが基本的な構造はほぼ同じです。
焙煎機の構造を説明するにあたり、まず熱が伝わる方式には「伝導」
「対流」
「放
射(輻射)」の三つがあり、実際には単独で熱が伝わるのではなく、三つの方式
が組み合わさった状態で伝わること、また原則として「熱は高い方から低い方
にしか伝わらない」ことを念頭において比較考察を進めたいと思います。
・伝導伝熱 : 物(物体)を移動して熱が伝わる。
・対流伝熱 : 液体や気体が移動して熱が伝わる。
・放射(輻射)伝熱 : 液体や気体などの伝熱媒体を必要とせず熱が伝わる。
直火式焙煎機の構造
豆を入れる釜はパンチ穴が明いた鉄板(通常φ4mm ぐらいの穴で開口率30%
前後)を円筒に製缶したもので、その真下にバーナーが配置されています。
釜とバーナーとの距離も比較的近く、炎を直接豆に当てる様に焙煎を行う機
械もあります。バーナーは、ブンゼン式と呼ばれる大気圧バーナーが一般的
で、旧式の焙煎機には鋳鉄製の配管にピンホールやスリット(溝)の入った
パイプバーナーが多く採用されています。
排気ファン
ダンパー
排気
釜
風
熱
空気の流れ
バーナー
冷却箱
排気
排気ファン
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この直火式は古くから「豆の個性をよく表現する」と言われ主流をなしてき
たものです。しかし、この表現は評価基準が曖昧な時代の価値観を、客観的
な比較検証が行なわれないまま伝承されて来たように思われます。現実には
煎りムラや焦げ目が出やすく、豆の芯まで熱を通すのが難しい焙煎機です。
ムラや芯残りが出やすい原因は熱の伝わり方にあります。豆の表面に直接炎
を当てるような直火式は、伝熱の原理からすると「対流」が主になります。
豆が熱源である炎に触れたり、近すぎたりすると、豆の表面だけが一気に温
度上昇します。表面の温度が高温になり、熱源に近い温度になれば(表面が
焦げれば)熱源と豆表面の温度差が小さくなり、熱は伝わりにくくなります。
仮に、炎の先端が 300℃、豆の表面も 300℃では、熱は豆に移動できません。
他の料理で例えれば〖鰹のたたき〗のように表面だけ焼けて、中は生のまま
の状態を作ります。
(熱の移動には温度差が必要です)もちろん、そのような
調理法が適している料理もありますが、コーヒーの生豆に限ればニュークロ
ップのように水分含有量の多い豆は芯残りしやすく焙煎を難しくさせます。
これらは直火式の構造上避けられない問題です。しかし、火力変化を敏感に
伝えられる特徴があるので、それを生かした個性的な焙煎を可能にします。
その状況でも直火式の傾向を十分考慮して、芯残りのしない火力設定で操作
する必要があります。いずれにしても、熟練には時間がかかる形式です。
最近では、この問題を改善しようと釜は直火のままで、バーナーを離して、
火力だけを上げる改造もあるようですが、距離を離せば離すほど、従来の直
火式の特徴は失われ、熱風式の要素が大きくなり、熱効率も悪くなります。
熱風式焙煎機の構造
バーナーは釜から離れた位置にあって、送風と共に熱風を釜に送り込んで焙
煎を行います。そのため釜は穴の明いていない鉄板を円筒に製缶したもので
す。熱風を送り込む構造のため、外観は従来のドラム式焙煎機としての型を
なす必要がなくなり、デザイン性のある機械も見られます。
大手ロースターが採用する焙煎機もこのタイプのもので、一度に大量の焙煎
をしなければならない工業用として、大型化を可能にしています。バーナー
は、ガンタイプのものが多く、燃焼量の大きいものまで許容しています。機
種によっては、排気された熱をもう一度バーナー室に循環させて、熱効率を
上げると共に、燃料のランニングコストを軽減させるタイプもあります。
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排気ファン
ダンパー
排気
釜
熱風
空気の流れ
バーナー
冷却箱
排気
排気ファン
バーナーの持つ熱量(エネルギー)が高いので、高温の熱風を送ることが可
能で、焙煎時間はおのずと短縮されます。店頭で注文を受けて即座に焙煎す
るオン・デマンド方式のお店もあり、そこでは少量タイプの高速熱風焙煎機
が設置され、鮮度を売りにしたコーヒーが提供されています。
このように高温の熱風を直接豆に当てる焙煎も、伝熱の原理からすると「対
流」が主になります。釜に送られる熱エネルギーは熱風だけが頼りになるの
で、火力コントロールと送風制御は精度のあるものが要求されます。
また、高速焙煎の場合は、一般的に送られる熱風の温度が高いので、豆の表
面だけを急速に熱風の温度に近づけてしまい、熱が中まで入りにくい状況を
作ります。これは直火式で指摘した原因と同じ現象です。短時間で高速焙煎
を行いたい場合でも、火力は過激にならないように注意が必要です。
半熱風式焙煎機の構造
基本的な構造は直火式と同じですが、豆を入れる釜は熱風式のように、穴の
明いていない鉄板を円筒に製缶したものです。下からバーナーで釜を加熱し
ながら同時に背面から熱風を送り込む構造です。半熱風式と呼ばれる由縁は、
この直火式と熱風式の特徴を併せ持ったところからです。
バーナーは縦型の混合管を装備したブンゼン式(大気圧バーナー)や、セラ
ミックの焼結板を装備した輻射バーナーなどが採用されています。バーナー
と釜の位置関係は、従来の直火式よりも離れた位置にあります。
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排気ファン
ダンパー
排気
釜
熱風
空気の流れ
バーナー
冷却箱
排気
排気ファン
伝熱の原理からすると、釜内面からの「伝導」と熱風の「対流」が主になり、
釜本体の「蓄熱」も組み合わさって、複合的な熱の伝わりになります。
一番の特徴は、加熱された「釜の蓄熱」を利用できる点にあります。これは
オーブンなどの加熱方法と同じ理屈になり、送られる熱風と、釜の攪拌とが
相乗した間接的な熱の伝わり方です。火力変化には穏やかな反応になります。
良好な攪拌は、豆を釜の内面から離し浮かせるような動作になり、伝導によ
る直接的な過熱を抑え、豆の表面温度を低く維持します。そのため焦げるこ
とが抑えられ、熱の移動が効率よく行われ、熱が入り易い環境を作ります。
しかし、釜の攪拌が良好ではなく、火力が強すぎる場合は、釜内面からの伝
導伝熱の方が大きくなり、豆の表面だけが加熱される弊害も出てきます。
釜の性能は、いかに熱を伝えられるかが要点です。バーナーとの位置関係、
火力調整の有効性、攪拌の均一性が考慮された設計が必要になります。
羽根が付いた釜が回転していても、投入した生豆が均一に攪拌されていると
は限らない。フルバッチの生豆を投入しても手前に押され団子状にならず、
均一な攪拌が行えること。そうしなければ熱も均等に伝えられません。
直火であろうが、半熱風であろうが、いずれの形式でも「釜内部の熱伝達の
環境を明確にすること」。第一に、ここが要点にならなければすべてに意味が
なくなります。焙煎機の形式がコーヒーの味を決めている訳ではないのです。
焙 煎 = 生豆に適切に熱を加えること ⇒ 焙煎機の形式はそのための手段
結果的に、形式の違いが出るような焙煎は上手な焙煎とはいえません。
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焙煎機の伝熱
焙煎機もメーカーによってさまざまな機種があって、それぞれに長所や短所
があると思います。基本的な「伝熱の原理」をどう理解しているかで焙煎機
の捕らえ方も違ってきます。いずれの形式でも、豆の表面を急激に加熱する
ような焙煎は、物理的に熱が伝わりにくくなります。
適正な焙煎は、
「熱量」
「排気量」
「時間」の要素が無理なく調和して、芯まで
熱が通ったものでなければなりません。時間は、熱量と送風量で決まるので、
どのような焙煎にしたかは、火力と排気量の適正値を探る作業になります。
あくまで時間は結果なので、最初から時間ありきの焙煎ではありません。
火力の目安は、豆温度が1分間に何℃上昇するかで管理を行います。生豆投
入後、7分以降~1ハゼまでの過程で、6℃前後の上昇が基本になります。
特に排気(送風)は目視できないので調整には熟練が必要です。焙煎の過程
で、俗に「蒸らし」という工程は、ただダンパーを閉めた状態で行なうので
はなく、ニュートラルより少しだけ開けて、熱を送る必要があります。この
蒸らし状態の時から、釜は大気圧より低い「負圧の状態」になっています。
バーナーからの熱は、釜から大気中へと通過させないと焙煎の進行に必要な
熱エネルギーを豆に供給できません。この調整を排気ダンパーで行います。
空気は温度が1℃上がれば 1/273 熱膨張して軽くなります。
(この逆もあり)
途中で火力を変えるような焙煎は、ダンパー操作に関係なく排気筒のドラフ
ト効果まで変えてしまうので、工程にはそれを織り込む必要があります。
釜に入る熱エネルギーは、排気の流量でコントロールされています。従って
ダンパー操作と火力は焙煎の要。また同時に送風は酸素の供給も行ないます。
豆はバーナー室ではなく釜の中にあるので、いくらバーナーの火力を増強し
ても、その熱を釜の中に送り込むコントロールができなければ、豆は適正に
焼けません。焙煎を科学的に捕らえても、燃えようとする豆にはその燃焼に
応じた「熱」と「酸素」の供給がなければ、焼きも進行しません。
生豆の水分は、最初から均等に抜けるのではなく、1 バゼ後から急速に乾燥度
を上げます。豆温度を正確に測れる焙煎機であれば、1分間に6℃前後で上
昇していた焙煎も、1 ハゼ後に4℃上昇ぐらいに鈍ることが観測されます。
この現象は、水が水蒸気になる際に起こる「蒸発熱」の作用だと推察します。
水分含有率が高く濃緑色で肉厚な生豆ほどより顕著に現れます。
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バーナーからの熱は、焙煎に活かされるより無秩序に拡散し捨てられる割合
が大きく、少しの気候変化でも焙煎に影響します。特に焙煎室の環境が一年
を通して安定しない現場では、時季的に夏と冬で火力にブレが生じます。
しかし、どの形式の焙煎機にもバランスが取れるポイントが必ずあります。
問題はその調整法です。
焙煎機の設置では、排気筒の重要性を軽視している事例が多く見られます。
機械的に優れた焙煎機でも、排気筒の排気効率を考慮しなければ性能が十分
に発揮できない場合があります。更に、燃焼排ガスの排出には建築基準法に
規定があり、例えクリーナーの設置があっても法令の遵守は必須です。
どんなに品質が良いとされるスペシャルティコーヒーでも「最終的にコーヒ
ー独自の香味は焙煎によって創造されるもの」です。(珈琲大全から引用)
故に「生豆の品質が先にありき」ではありません。
生かすも殺すも「品質の良し悪し」は適正な焙煎ができた結果で問われる最
終的な問題です。カップ評価で抽出器具の違いが出ない方法を採用しても、
焙煎が適正を欠いていれば、そのカッピング自体に意味がなくなります。
しかし、豆の色(焙煎度)、形、表面ツヤなどを正確に見極め、再現性のある
「煎り止め」が出来るかどうかは、個人の技量とセンスになるので、焙煎技
術は一律に規定することが出来ません。焙煎が個性的な由縁です。
従って、他人が行なった評価と自分が行なう評価とは、必ずしもイコールに
はならないということです。評価点数はあくまで暫定的です。
これは結果的に良い場合と、悪い場合がありますが、焙煎人は終生このジレ
ンマと向き合うことになります。
スペシャルティという規格は生豆だけではなく、それを扱う者がいかにスペ
シャリストであるか、ということも同時に要求されます。それは生豆の品質
に始まり、焙煎技術、抽出、カッピング評価までの作業を一連のプロセスと
見なし、それぞれの段階で客観的な判断が出来て、内容確認や見直しを行い
ながら継続的なレベルアップに繋げられる「感性」が必要になります。
記)大和鉄工所
岡 崎
出展・参考書籍
・「珈琲大全」「スペシャルティコーヒー大全」田口護 著 発行:NHK出版
・「燃焼工学」小林清志、他2名共著 発行:理工学社
・「ガス燃焼の理論と実際」吉田邦夫 監修
発行:省エネルギーセンター