クライアントの視点からみえてくるもの 張江洋直

医療法人荘和会講演
於:介護老人保健施設「しょうわ」09/032006
配布資料
クライアントの視点からみえてくるもの
――組織として医療・福祉サーヴィスを提供するとは、どのようなことか
張江洋直
1.クライアントとは何か
1−1.ことば(語源)から考えてみる
[ことばの問題1]
英語:client ①〔弁護士などの〕依頼人,②顧客,とくい,③〔古代ローマ〕被護民〔貴族
に従属する〕従者,家来.
(
『コンサイス英和辞典』三省堂)
*従者=an attendant=付添人
外来語:クライアント=〔依頼人・顧客の意〕
①広告代理店に依頼した広告主。
②ケース-ワークで、問題を抱えて訪れた人。来談者。
広義には、社会福祉の要援助者全般をいう。
③コンピューター-ネットワーク上でサービスを受ける側にあるシステム。
サーバー(サービスを提供するシステム)に対していう。
注意
(
『大辞林 』第2版三省堂)
*古代・中世の主従関係には、明確な「義務」が伴っている。→後述
1−2.
「依頼人」はなぜ「クライアント」と呼ばれるのだろうか?
[ことばの問題2]
一般的な傾向:日本語=「大和ことば」+「漢語」……漢語を使えると「教養」を感じる。
日本語=(
「大和ことば」+「漢語」
)+「外来語」……欧米語
*和製漢語→和製英語 /
欧米語は、
「はいから」
*欧米語は日本語に「ない」ニュアンスを伝えられる、と多くの人びとが感じた。
例:コミュニケーション;communication
→communicate (vt.)
①〔熱,動力などを〕伝える・伝達する・通達する /
②〔病気を〕感染させる /
③〔宗教〕聖餐を与える→communion①共にする,霊的交渉,②宗教団体・教会,③聖餐式
*外来語である「コミュニケーション」には単なる「伝達」以上の意味が込められている。
→これと同様に、「クライアント」には単なる「依頼者」以上の意味が込められている。
* 社会福祉の場合、この変化は「救済」から「権利」への史的変化と対応している。
1−3.社会関係の中で考えてみる
・身分社会の中での「主従関係」と平等を前提とする中での「主従関係」は決定的に異な
る。 → 理由:後者の場合は、「自己責任」が必然的に付随する。
「義務」はどうなるのだろうか。→クライアントに対して「提供者」はやはり必然的に義
務を負っている。
→ しかし、ここでの義務は「部分的」である。
→理由:ここで問題となるのが、「契約内容」である。
2.
「他者の視点に立つこと」は難しいのか
2-1.日常の場面で考えてみる↓
・「他者の視点に立つこと」は難しい。
↓
→ 絶望か? →
では、なぜ、できる場合もあるのだろうか。
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できる場合もある。
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於:介護老人保健施設「しょうわ」09/032006
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2−2.日常的だが、普段は気にも留めない水準で考えてみる
・
「ここ」と「そこ」はちがう。 → にもかかわらず、
「自然と」やっていることがある。
→「ここ」と「そこ」は「異なる」が、同時に「同じ」でもある。
立場の互換性の理念化 +
関連性の互換性の理念化
↓
*「視点」と「立場」と「関連性」とは、よく似たことば→類意語
3.組織とは何か
3−1.組織と集団は何がちがうのか
組織 < 集団
→ つまり、組織は集団に含まれるカテゴリー
組織はシステムである。
→ つまり、組織には必ず達成すべき目的が存在する。
3−2.
「個人」の集まりが組織なのか
答えは、
「肯定的」でもあり、同時に「否定的」でもある。
→「肯定」の場合:実際、組織の構成要素は諸個人である。
→「否定」の場合:
「個人」は個人としては組織の一員ではない。
4. 「クライアント」「組織」
、そして「私らしく」あること
4−1.誰のための「情報」なのか:[事例]インフォームド・コンセント
informed-consent(説明と同意)のこと。
→「患者が自分の病気と医療行為について、知りたいことを“知る権利”があり、治療方
法を自分で決める“決定する権利”を持つことをいう。個人主義の意識が高いアメリカで
生まれ、80 年代半ばから日本でも必要性が認識されてきている。
」
留意点:1997 年と 2006 年
→ここでは「平等」が前提とされている。
→しかし、「情報の集積」において、「患者」と「医療者」とは平等ではない。
→必要とされるのは、相互信頼に基づく「関係性」である。
*近年では医療領域にかぎらず、例えば行政と市民との関係にも用いられてきている。
4−2.
「クライアント」や「組織」の視点を取り込んだ「私」であること
→組織は諸個人の集まりである。
→だから、どのような諸個人が集まっているのかで、その組織の「質」が決まる。
→「しなやかな視点」をもった諸個人の集まりという組織が望まれる。
しかし、
「しなやかな視点」は決意だけでは維持できない。
留意点:人間的な諸経験は、必ずルーティン(routine)化される。
*私は「routineer」か否かを考えてみよう。 routineer:(〔創意に欠ける,機械的な〕事務屋)
*組織として、
「小さな失敗」を評価し、問題点を明らかにして、全体化すること(組織の
構成メンバー全員であるひとり一人が問題を捉え返し、かつ共有すること)が必須である。
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