はじめての合唱音楽(テキスト版)

はじめての合唱音楽(テキスト版)
~コーラスアンサンブルのための基本メソッド~
はじめに
この小冊子は、コーラスアンサンブルにおける歌唱の基本テクニックを習得
するために編纂されたものです。楽器としての声がどのように作られ、それを
いかに響かせていくのか。それを知ることは、合唱音楽を楽しんでいくための
出発点であります。当然のことながら個々人の声はそれぞれの個性を持ち合わ
せています。世の中には異なった方法論や理想が多数存在していますが、アン
サンブルを念頭に置いて編纂されたメソッドはそう多くありません。
(少なくと
も私はそう思うのですが…)まずは、アンサンブルメンバーとして等しく使う
ことになる基本テクニックの習得につとめ、自分独自の声(音色)については
無理なくゆっくりと向き合って行かれることをおすすめします。
この小冊子で得られる基本テクニックは、きわめてニュートラルなものであ
り、アンサンブルを楽しむために必要とされる基礎的な要素を多く含んでいま
す。どのようにすれば声という楽器をうまく表現することができるのか。聴衆
とのコミュニケーションに重要となる歌唱テクニックとは実際のところどうい
ったものなのか…あらゆるスタイルの合唱音楽を味わい楽しむ入門書として活
用していただければ幸いです。
(適切な方法で、気長に、少しずつでも継続して
練習することが最も大切であることは言うまでもありません)当団のコーラス
アンサンブルのサウンドがひとつのブランドとして確立されるまで、常に新鮮
に、そして柔軟に、一緒に楽しみながら…そんな姿勢でゆったりとかまえ、こ
のテキストが長い音楽生活のわずかな糧にでもなれば望外のよろこびです。難
しい知識を持たなくても体得できるようなプログラムを心がけましたが、文章
力がないために理解しづらい部分もあろうかと思います。最後になりましたが、
これまでご指導いただいた糸永起也、安部恵子、堀内輝生、鈴木茂夫、中村順
一先生をはじめ、古橋冨士雄、カール・ホグセット他、講習会等で何かとご教
授いただいた各氏にもこの場をおかりしてお礼申し上げます。
プロアルテ室内合唱団
-1-
主宰
吉川
-
=
曲練習の前に
目 次
-
=
1.コーラスアンサンブルの発声はウラ声?
P6
2.「ハモル」声ってどんな声?
P6
3.「ハモル」 声の特徴は ?
P6
4.人の声の音域について
P6-7
5.「ファルセット」とは一体どんな声?
P8
6.歌うときの姿勢は?
P8
7.楽器としての声は三つの部分からなる?
P8
8.お腹で支えられた声の響き
P9
9.のどにかかるブレーキ
P9
10.声にはこの三つの筋肉が大事
P9
11.コラム
P9
=
練習内容
=
1.準備体操(短縮版)
P10
2.「呼吸法のポイント」
P10-11
3.「臍下丹田呼吸」の練習
P11-12
4.呼吸練習での無声子音「S 音」を用いた練習
P12
5.呼吸練習での有声子音「Z 音」を用いた練習
P12
-2-
6.呼吸法のバリエーション運動
P13
7.ファルセット
P13-14
8.「中声」の練習
P14-15
9.「下降」の音型による練習
P15
10.音域を拡げる
P15-16
11.声の増幅と音色
P16
12.母音練習
その1
P16-17
13.母音練習
その2
P17-18
14.母音練習
その3
P18
15.「子音」の発音について
P19-21
16.音楽づくりのポイント
P21
17.純正調の音楽
P22-23
18.共鳴(レゾナンス)
P24
19.ホグセットのメソッドによる練習メニュー例
P24-25
20.発声器官の加括
P25
21.呼吸練習とリズム運動
P26
22.全身のストレッチ、ウォーミングアップ
P26
巻末資料
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和音練習譜例
-3-
曲練習の前に
合唱団では、曲の練習を始める前に<発声練習>が当たり前のように行われ
ています。内容はさまざまですが、大別すると次のようなものかと思われます。
<ストレッチ等の柔軟体操><呼吸練習><表情の練習(顔の筋肉を動かして
表情づくり)><五度音程内の音階練習と母音練習の組み合わせ><カデンツ
ァ等の和音練習>
このような練習の必要性は疑う余地のないものですが、大勢で一同にできる練習
ばかりではスキルアップが望めないという合唱団の実情もあります。個々の課題は
別々だからです。主宰の児童合唱における指導経験から見ても<発声練習>を効果
あるものにするには、個々のペースや集中度にあわせて行うということが大切である
という言葉につきます。児童の場合、反復練習ばかりでは退屈してしまい練習嫌いに
なってしまいますし、笑えないことに、練習への参加状況という厳しい数字となって如
実に結果があらわれます。楽しみながらいかに集中力を養っていくのか、指導力が問
われることは言うまでもありません。音階練習なども個々にチェックしなければいけま
せんし、変な癖がつかないよう気長にみてあげるような寛容さも求められます。個人
にメソッドが浸透し、そのノウハウを持って自主的に練習が進行するようになるまでに
多くの労力と信頼関係の構築が不可欠となりますが、これは児童に限らず多くの合唱
団にあてはまることではないでしょうか。 私の主宰するこの合唱団では、上記のよう
な練習前の<発声練習>は通常ありません。いきなり曲の練習に入りたいと思いま
す。後述のノウハウ(アンサンブルの柱となるもの)を利用して、練習場に来るまでの
車内や徒歩の中で筋肉をほぐしていくことはそんなに難しいことではありませんし、練
習場に来ればハミングなどで<ファルセット>からの声出しを各自でする、そういった
ことは、理想とするハーモニーづくりの基礎となります。基本的に、<体を温める><
声を温める><響きを整える>といったことは個々人にまかせされていると考えてい
ただいてけっこうです。これが最良の方法だと私は考えています。限られた練習時間
等の制約があるなかで、この意識を通じて集中力を高め、音楽する準備を自ら整えて
いくということは簡単なようでいてなかなか実践できないものです。以上のことをふま
-4-
え、曲練習の第一声を聴いた後、必要なプログラムを一つずつ実践していくことの方
が今は大事であると考えております。試行的にエチュード等も取り入れて、音楽と分
離された<発声練習>に陥らないよう注意したいものです。(初心者等のために理論
や基礎テクニックに比重を置いた練習は別日にクリニックとしてもうけたいとも思って
います。初心者には普段から経験者が付き添う等の配慮をしながら共に歩んでいき
ましょう)
ヴォイス・トレーニングの組み立て
●準備体操、リズム運動
(全身の加括、ストレッチング)
(リズム感覚の向上、自然な体の動き)
●呼吸練習
(歌唱に先立って呼吸に関係する器官を加括)
●共鳴および発声練習
(声帯、口腔内、呼吸に関係する器官を加括)
●ハーモニー練習
※純正調の練習を導入
(カデンツァ等による和音練習や仕上げのエチュード等)
参考
この冊子は当間修一、鈴木成夫、中村順一、カール・ホグセット氏のメソッドを
おりまぜながら編纂してありますので無断転用を禁止させていただきます。あくまでも
団内資料としてお使いくださいませ。
-5-
1.コーラスアンサンブルの発声はウラ声?
合唱の世界では「地声」を「胸声」、
「ウラ声」を「ファルセット=頭声」といいます。
良い発声とは・・・「ファルセット」と「胸声」をミックスさせることのできる発声法
ともいえます。「ファルセット」が出せる状態の上に「胸声」を加えることができる発
声法がニュートラルな状態であり、すべてのアンサンブルの基本となります。アンサン
ブルで重要となるのは「ファルセット」でもなく、
「胸声」でもない「中声(中間の声)」
が大切なのだということを取りあえず認識しておきましょう。
2.「ハモル」声ってどんな声?
「ハモリ」とは物理の世界で考えると音の振動数に関わることであり、響きを調和さ
せることです。すなわち、倍音を意識し、
「うなり」を聴き合い、整えることなのです。
ハモらない原因、それはメンバー個々が「ハモル」ことの真の意味を理解していないと
いうだけでなく、それぞれの発声が統一できていないこと、そして、教えられ、用いら
れている発声が 19 世紀から 20 世紀の始め頃のものに準拠する、
いわゆるベルカント(オ
ペラのソロを歌うための発声法)を用いているからです。「力強くより大きな声」が出
るように、また、大きなホールで歌うのに要求される「隅々まで声がよく聞こえるよう
に」、これはこれで必要なことです。現在もこれに近づけることを目指したレッスンが
平然と行われています。しかしながら、それほど恵まれた条件を持っていない多くのア
マチュアの人達には習得が難しいこともひとつの事実です。小編成のアンサンブルでは、
無理のない、「ソロ」もでき「ハモル」こともできる発声を自分達で創り出していかな
くてはならないと思います。そしてその発声法は、普通の人が「美しい声」で「よく響
かす」ことのできるメソッドであることが望ましいと言えます。
3.「ハモル」声の特徴は ?
ファルセットを基本とした場合、男性も女性も初めの頃は中性的な響きとなりますが、
この技法を身に付けると様々な流派の発声にもスムーズに移行することができます。
①声の立ち上がりが明確で精確なピッチコントロールができる。
②純正調の響きを作りだす基本ができる。
③きめ細やかな感情表現ができる。
(強弱の変化が自由である)
④自由な呼吸に支えられたのびのある響きをしている。(弾力性がある)
⑤明るい音色で広い音域をもちむらがない。
4.人の声の音域について
最低音は決まっています。通常はミの音です。これは声帯の長さが決まっているもの
ですから当然のことです。ミより低い声が出れば、平均より声帯が長いわけです。ミよ
り上で声が出なくなったら、人より声帯が短いと思えばよいということになります。最
高音は決まっていません。理論上は際限が無いということになっています。
「ミ」の音、
これは今後話を進めていく際にも大事なポイントです。記憶しておいてください。
-6-
発声での目的。それはただ一つです。二つの声区(ファルセット、胸声)を滑らかに
移行すること、そのテクニックを身に付けることなのです。そしてその鍵を握っている
のが、ファルセットなのです。「胸声」の声からでは達成できません。「ファルセット」
による声の強化がこれに繋がるのです。ちなみに、胸声と中声の転換点を第一換声点、
中声と頭声の転換点を第二換声点と言います。
第一換声点
① ソプラノ
♭ミ
一点変ホ
第二換声点
♯ファ
二点嬰ヘ
② メゾソプラノ
ファ 一点ヘ
ミ
二点ホ
③ アルト
ソ
一点ト
レ
二点ニ
④ テナー
リリック
ミ
一点ホ
ラ
一点イ
⑤ テナー
やや重いテナー
レ
一点ニ
ソ
一点ト
⑥ テナー
ドラマチック
ド
一点ハ
ファ
一点へ
シ
ロ
ミ
一点ホ
変ロ ♭ミ
ミ
一点変ホ
イ
レ
一点ニ
変イ
ド
一点ハ
⑦ バリトン リリック
⑧ バリトン ドラマチック
⑨ バス
⑩ バス
♭シ
ラ
低いバス
♭ラ
私たちが目指す「歌唱発声法」は「中声」によって達成されます。
「中声」の声を「胸
声区」
「ファルセット(頭声区)」に広げていこうとするものです。英語で'MIXED' VOICE
とも呼ばれる「中声」、この声の特徴はこの呼び名が示すように「声がミックス」され
た、コーディネイトされたというイメージでとらえると解りやすいでしょう。それでは
次に、
「中声」と「ファルセット」の声域(声区)を詳しく示しましょう。
(男声は1オ
クターブ下での音域で同じ区分となります)
①胸声区
②中声区
③頭声区
-7-
5.「ファルセット」とは一体どんな声?
歌っている人の体感では、頭の方で響いていると感じています。そしてその声は細く、
息混じりです。お腹や胸、そして首の筋肉を緊張させてはこの声は出ません。弛緩が必
要です。しかし本当に「ファルセット」を理解するには次の生理的な機能を知ることが
大事です。
「ファルセットのとき、声帯は伸展している」ということ、つまり声帯が「薄
く、のびている」のです。もうお解りだと思いますが、その反対の、声帯が縮んでいる
状態が「胸声」です。これから始まろうとしている私たちの発声への道、「二つの声区
を一つの声区のように結び合わせること」、その方法は、
「ファルセット」の強化とその
調整にあるということを知ることから始まるのです。では、なぜファルセットなのか?
それは次の理由によります。声帯は空気を吸うときに開き、発声するときに閉じます。
声帯の構造は、上から薄い粘膜上皮、声帯全体の形を変える中間層、そして一番深いと
ころにある筋肉層の3層からなっています。発声時の声帯はそのそれぞれの層の働きで、
薄くなったり、厚くなったり、強く閉じたり、弱く閉じたりできます。なかでも歌唱発
声にとって大事なことは、この声帯がこれらの内喉頭筋と呼ばれる筋肉群の働きによっ
て前後に引っぱったり、ゆるめられたりもするということでしょう。胸声区の低い声を
出す時に声帯は厚くなり、全体が振動しています。ファルセット区の高い声を出すとき
には、声帯は薄く引き延ばされ、部分的に振動されます。筋肉の縮められている状態か
ら伸展によって出される高音への移行は困難です。筋肉の伸展された状態から部分的に
縮めるほうが容易ですし、実際的でもあります。私たちの目指す美しい声は、声帯の最
大限の伸展、そして同時に声帯内筋の最小限の緊張によって得られます。
6.歌うときの姿勢は?
良い響きを作る出発点はもちろん良い姿勢です。自分の髪の毛でまっすぐ吊られたよ
うな、頭からかかとまで通る一本の線を想像しましょう。
① 両足を中心線から30度に開き、膝をやや外に開きます。この位置だと足がもっ
とも楽に体重を支えることができます。
② 膝をリラックスさせつま先とかかとで体重を支えます。
③ 背中と首を伸ばし身体の前も後ろも可能な限り背を伸ばします。
④ 尾骨を下げながら骨盤を内側上方へ動かします。
⑤ 背中と首のくびれた部分が伸びて頭部が自然な形で正面を向きます。
⑥ 人差し指が骨盤の前、親指は後ろにあてて骨盤を傾けて楽な姿勢を探します。
7.楽器としての声は三つの部分からなる?
声は、発動機と振動機、共鳴機の三つの構成からなる楽器です。空気は振動機に動き
を与えるモーターです。喉頭は、声帯の動きによって空気の流れを均一な吹きだしに変
えて音をつくるヴァイブレーターです。音は、咽喉、咽頭、口腔、鼻腔などの共鳴体で
共鳴します。まず均一で正しい空気の流れを作ることが肝要ということでしょうか。
-8-
8.お腹で支えられた声の響き
お腹で支えられた声の響きは、混声合唱の場合、四つの声部が混じり合って、さらに
深々とした人間そのものの声の美しさを感じさせます。のど声の場合、絶妙なアンサン
ブル、計算されたダイナミクスやルバートに物をいわせることはできても、魂の底から
感動を呼び起こすことは難しいとも言えます。声は声帯だけで出すのではなく、体全体
で出すものであります。声帯が振動して出た声は、体を使って増幅されます。体全体が
楽器であることを自覚し、小手先ではない本当の良い声をめざしましょう。
9.のどにかかるブレーキ
① 身体の関節機能が固い。特に背骨、股関節が固いと声帯に余分な力がかかり、声
がつぶれやすい。
② 呼吸法が悪い。胸式呼吸だと声帯に余分な力が加わる。
③ 精神的に解放されていない。例)発声に努力感がともなって苦しい。息もれが気
になってなんとなく声が出しにくい。こう歌いたいというのがあっても声になか
なか表せない。そのためにどう努力していいのかわからない。自分の声に対する
検証がなくて自信につながらない。自分ではちゃんと歌っているつもりなのに…
声に力がない。音域がせまい。遠くに声が届かない。
④ 幼少時に声を壊している。
⑤ 運動不足で持久的な体力が衰えている。
⑥ 声を直接出す訓練には興味を持つが、根本的によくするために下半身を鍛える、
体をほぐす、心を開くことなどへは関心をまったく示さない。
10.声にはこの三つの筋肉が大事
10.声にはこの三つの筋肉が大事
①軟口蓋
②声帯とその周りの筋肉
③横隔膜と肋間筋
この三種が同時に緊張を
おこせばどんな強い声をだしても声帯が壊れることはない。柔らかくて繊細な声も出せ
る。自分の意志でコントロールすることは難しいが、あくびの時などは自然になされて
いると言う。前述の喉にかかるブレーキをはずしながら、これらの筋力を鍛え、コント
ロールしていくことが大切である。
11.コラム
11.コラム
黒色の水が入った水槽があるとします。この水槽に新しく上から黄色の水を流し入れ
て、水槽の色を黄色で満たしたいとしたらどうしますか?ある人は水槽の下から黒色の
水を同時に抜き出しながら事をすすめるかも知れません。しかし、これでは水槽内の水
が混じるばかりで純粋な黄色になるには時間がかかってしまいます。一番てっとりばや
いのは黒色の水をいったん捨ててから空っぽの水槽に黄色い水をいれるという方法で
あることは言うまでもありません。音楽のレッスンでも同じことが言えます。前の団体
はこうだった…これではレッスン内容がなかなか浸透しませんね。こういう人に限って
“わたり鳥”になって長続きしなかったりします。そうならないようにしましょうね。
-9-
=
練習内容 =
1.準備体操(短縮版)
「首まわり」の運動
①首を回します。
(ゆっくりと)
◆6拍で一回りです。これを二回繰り返します。(一回目、伸ばされている部分に意
識を持ちながら。二回目、収縮されている部分に意識をもって)
◆逆周りです。6拍で一回り、これも二回繰り返します。(一回目、伸ばされている
部分に意識を持ちながら。二回目、収縮されている部分に意識をもって)
②首を前後に動かします。(ゆっくりと)
◆前、正面、後ろ、正面(四拍で一サイクル。これを二回繰り返して)
◆後ろ、正面、前、正面(四拍で一サイクル。これを二回繰り返して)
③首を左右に動かす。(ゆっくりと)
◆左、正面、右、正面(四拍で一サイクル。これを二回繰り返して)
◆右、正面、左、正面(四拍で一サイクル。これを二回繰り返して)
「胸郭」の運動
①胸郭を左右に広げる運動です。
◆顔は真っ直ぐ正面を向き、肩を後ろに引いていきます。肩胛骨どうしをくっつける
ように。胸郭を広げる運動です。(四拍)
◆ゆっくりと戻します。
(四拍)
◆顔は真っ直ぐ正面を向いたまま、肩を前の方にすぼめます。肩胛骨を広げ、胸を狭
めます。(四拍)
◆ゆっくりと戻します(四拍)この一連の動き(後方へ、前方へ)を二回繰り返す。
②胸郭を上下に広げる練習(肋骨間を広げる)
◆(吐きながら。口から吐きます)胸郭を狭める。胸椎を弛めることによって少し胸
は前に縮みます。
(四拍)
◆{吸いながら。鼻から吸います}もとに戻す。胸椎を伸ばしていきます。胸が立つ
(上がる、張り出る)感じです。(四拍)
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◆(更に吸いながら。鼻から吸います)頭を後ろへ倒しながらさらに胸郭(肋骨間)
を広げます。胸が反り返る感じです。(四拍)
◆(吐きながら。口から吐きます)もとに戻します。(四拍。これでもとの正面に戻
りました)
これらの運動をしているときは呼吸を止めず、
ご
ごく普通に吐いたり、吸ったりして行うのが良いでしょう。
2.「呼吸法のポイント」
① 歌う前に「吸」ってはいけません!
②「呼吸法」の練習は「吐」く練習です!
③「吐く練習」とは、もうこれ以上吐けないというところまで体に入っている空気を
全て吐き出すことです。そして出し切ったら瞬時に筋肉の力を抜きます。すると自
然に空気が入ってきます。全身力を抜いた状態で空気を受け入れます。
これが声楽発声時における「呼吸法」の全てです。
以下は若干の重要な補足説明。
・ 「吐く練習」のポイントは下腹部を引っ込めるようにして息を吐き出すことです。
・ 下腹部やその周りの筋肉を効果的に動かすには「大殿筋(だいでんきん)をしめ
る」ことです。つまり、肛門に向かってその周りの筋肉をぎゅーっとしめていくの
です。そうすれば下腹部も引っ込む動きを見せます。
・ 大殿筋をしめると腰が内転することを確かめましょう。
呼吸には大きく分けて三種類の呼吸法があります。
「胸式呼吸」
「肩式呼吸」
「腹式呼吸」
です。歌唱発声で用いられる呼吸は「腹式呼吸」だと広く知られています。
「腹式呼吸」
が「胸式呼吸」よりも良い理由は、吸い込む空気の量が多いこと、そして横隔膜を押し
下げられる運動によって胸や喉まわりの力みが押さえられることです。しかしながら実
際の歌唱時には「腹式呼吸」を基本としながら、他の2つの呼吸法を加えた総合的な「呼
吸法」を用いるのが理想です。「腹式呼吸」はこれまで「横隔膜」を中心としたもので
したが、当団では「臍下丹田(せいかたんでん)呼吸」と呼ばれているものを用います。
3.「臍下丹田(握りこぶしひとつおへそから下がった所に位置)呼吸」の練習
「臍下丹田(握りこぶしひとつおへそから下がった所に位置)呼吸」の練習
①
体をリラックスさせ(仰向けに寝て行うとよい)、手を丹田に添え、胸や肩の力
を抜いて(これが重要)、丹田を凹ませながら口からゆっくりと息を吐いていき
ます。(最初はお腹に力みが生じない程度の浅さで)
②
次に息を吸う時は添えた手を軽く意 識しながら、鼻からゆっくり、丹田に深く
空気を吸い込むようなイメージをもって膨らみを増していきます。(仰向けに寝
ての練習では、丹田が膨らんで出っ張ってくるのを観察してみるのがよいでしょ
う)丹田を中心とした胴体の、前、後、側が膨らむように入れるのがコツです。
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その後、しばらく下腹部(丹田)を膨らませた状態を保ち(このとき、胸に余計
な力みが生じてはいけません。拮抗筋によるバランスの良い、膨らませ状態の維
持が重要です)、吐き始める時もこの状態を少し保ちながら吐いていき、あとは
腹部の自然なしぼみによって静かに息を吐いていきます。
【注意】息を吸う時はどうしても身体に力が入りがちなので肩や胸の力を抜きな
がら行うのが重要なポイントです。「上虚下実」という言葉があるのですが、こ
れは上半身は力まず、下半身が充実しているという意味です。言い得て妙です。
4.呼吸練習での無声子音「
4.呼吸練習での無声子音「S
練習での無声子音「S 音」を用いた練習
鼻からゆっくり息を吸い(肩や胸に力が入らないように数秒から10秒ぐらいかけ
て)、息を前歯の裏側に当てて、息を漏らしていくという感じで(「S 音」)静かに口
から吐いていく。
(スタートの数秒前か 10 秒ぐらい前からカウントダウン。「スター
ト」後も、カウントを続ける。吐く時間(20 秒~30 秒)は徐々にゆっくり長く延ば
していくことを目標とします。)【注意】:息を吸う時も、吐く時も、決して力まない
ことが大切です。リラックスして息を吸い、そしてゆっくり、長い時間かけて吐くよ
うにします。苦しくなったらその時点でやめます。体を緊張させないことが重要です。
押し止めるのではなく均衡を保ちながら動かしていきます。
(最初は仰向けで練習)
<練習法とカウント>
吸う(5秒~10秒)-止める(2秒~3秒)-吐く(15秒、20秒〔そしてだ
んだん長く延ばしていく〕)
5.呼吸練習での有声子音「Z
5.呼吸練習での有声子音「Z 音」を用いた練習
声帯の振動を感じながら吐いていくことを目的とします。(この吐くことが、発声
することにつながるわけです。しかし、声帯を強く鳴らすのではなく前歯の振動をよ
り意識するようにします。前歯を振動させる正しい Z 音は声帯の負担を減らします。
Z 音は、
「S 音を出す時」と「歌唱時の正しい声を出す時」の中間の音です。4の練習
と同じようにカウントを取りながら息のコントロール。
<練習法とカウント>
吸う(5秒~10秒)-止める(2秒~3秒)-吐く(15秒、20秒〔そしてだ
んだん長く延ばしていく〕)
【重要】吸気のときは丹田に集中です。これまでの横隔膜を張り出す方法ではなく丹
田から動き始める(膨らむ)ことに注意して下さい。吸うこと=丹田の動きです。
勿論その時に上半身に力みが生じてはなりません。呼気のときは発声の状態と同じで
す。声帯の振動を感じながら(Z音)、息の当たるところを意識しながら吐いていき
ます。そして呼気の時間が長ければ長いほど歌唱の時に役立ちます。息が長く保てま
すし、フレーズも余裕をもって歌うことができるというわけです。呼気が震えず、力
強く、そしてしなやかさをもって長く保てるようになることがこの「呼吸法」の目的
です。
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6.呼吸法のバリエーション運動
① 時間のバリエーション
四分音符=60 ぐらいで練習。
<1><2>と丹田を凹(へこ)ませながら息を吐ききります。
<3>で一瞬のうちに筋肉をゆるめ、息を入れます。
(吸うのではなく、自然に入ってきます)
吐く拍数を増やしていきます。吸う拍は常に一拍です。
<1><2><3>と吐き、<4>で瞬間に息を入れる。
<1><2><3><4>と吐き、<5>で瞬間に息を入れる、と続きます。
吐くのは口からです。吸うときは鼻と口からです。
②
丹田を脹らませて(凸)息を吐く練習
「丹田を凹(へこ)ませて息を吐く練習」は【自然な呼吸(順式呼吸)】と呼びま
す。その動きの反対、「丹田を脹らませて(凸)息を吐く練習」は【コントロール
された呼吸(逆式呼吸)
】と呼ばれます。
「臍下丹田呼吸」の練習で行った丹田を膨
らませながら<息を吸う>運動を、<息を吐く>時に行います。息を吐きながら、
丹田を膨らませるわけです。(ここでも身体に力が入りがちです。力まずに行うの
が重要なポイントです)そしてその後の<息を吸う>は、膨らませた丹田の緊張を
解くだけです。自然に空気が身体の脱力とともに入ってきます。この吸気は深くあ
りません。また意識的に強く吸って身体をこわばらせないように慎重に行わなけれ
ばなりません。この動きによる呼気はあらゆる吸気の深さでも使うことができ、横
隔膜の下がり方が強大になります。したがって、腹、下腹部が全体にわたって膨ら
むことを知覚することができるはずです。この呼吸は力強い声を出したいとき、
(強
い)声を維持させたいとき、クレッシェンドをするとき、高音域を歌うときなどに
使用すると効果的です。また、スタッカートやアクセントはこの呼吸法で行った方
が正確かつ律動的です。(【注意】:この呼吸法ができない方は無理にする必要はな
いでしょう。基本的な呼吸(【自然な呼吸】)に慣れ、経験を積むことによってでき
るようになると思います。)※俗にお腹で支えると言うことがこれに相当します。
7.ファルセット
男声の場合、中庸な声でラの音から初めて上向していきます。そうするとレ~ファの
あたりで声がひっくり返ります。
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女声の場合はラの音からフォルテで下降していきます。ファ~レの付近がひっくり返
るところです。
つまり、中央ハ音から一つ右隣のレからファまでの間で「ひっくり返る」箇所、それ
が声の「換声点」と呼ばれているところです。この「換声点」の上方が「ファルセット」。
下方が胸声の音域です。
男声の場合はファの音(「ファルセット」の始まり)から始めます。もちろんファル
セットです。巧くファルセットが出るまで練習。一音一音丁寧に上に上がっていきます。
「ファルセット(頭声区)」
女声の場合は「中声区」の下のファからファルセットの練習です。(ファ~シの間で
声のひっくり返る人をよく見かけますが、これは胸声の強い人にありがちです。) 徹底
してファルセットの出し方を体で覚えます。(喉の状態だけではなく、体全体の正しい
姿勢と、脱力、リラックスした状態を体に覚えさせます)
「中声区」
8.「中声」の練習
女声も男声もそれぞれの換声点の上の音から始めます。つまり「ファルセット」の始
まりの音から練習を始めます。始めのうちは間違っても「胸声区」の音から始めてはい
けません。
①ファルセットで弱く声を出します。
②クレッシェンドしていきます。
③声を出し始めた時、響きは鼻に抜けていない状態ですが、クレッシェンドをしなが
ら響きを鼻に通していきます。そして同時に、鼻の奥の方から響き(息)が通り始
めたころから喉頭を少し下げます(喉を広げる)。この時、ファルセットの声が違
った風に変化すれば成功です。しかしそれが「胸声」になってはいけません。「胸
声」になる手前の声がよいのです。これを試みようとされている方にとっては、そ
- 14 -
の変化した声が「中声」なのかどうかが解らないはずです。これが紙上での限界で
す。しかし、次の事を試みてください。参考になるかもしれません。
④ディミヌエンドしていきます。「変化した声」(
「中声」だといいのですが)からだ
んだん声を弱くしていき、もとのファルセットに戻します。 もしファルセットに
戻れなかったら間違っているかもしれません。つまりそれは「中声」ではなかった
可能性が大です。「中声」から「ファルセット」への移行は簡単です(少しコツが
いりますが)。この練習法、つまり<>というクレッシェンドしてデクレッシェン
ドするメッサ・ディ・ヴォーチェ(messa di voce)と呼ばれる発声のテクニック
は、この「中声」作りのために用いられたものです。どういった意味か忘れられ、
用いられ方も解らないまま名前(メッサ・ディ・ヴォーチェ)だけが伝えられてき
てしまった経緯があります。
9.「下降」の音型による練習。(「上行」の音型を用いるのはその次の段階です)
音階がいいですね。(分散和音はまだです)(「ひっくり返り」の起こる音を中心とし
てその前後3音からなる音階です。最初は3~4つの音ぐらいから行えばいいと思いま
すが、進めば例えば女声だと、真ん中ラ・ソ・ファ・ミ・レ・ド・シ・ラ、男声だと、
高いファ・ミ・レ・ド・シ・ラ・ソ・ファなどを用います。この練習音域は個人差があ
りますので各個人にあった音階を見つけてください。またその音階は固定的に捉えず、
移動させていきます。ハミング(唇を閉じ、鼻腔に響かせます)でファルセット音域か
ら胸声音域へと向かいます。「ファルセット」から入って「ひっくり返り」音の通過時
に「中声」作りへの調整です。(何度も書きますが、ここのところを文章でなかなか表
現できないのがはがゆいです)次に、メゾピアノの声量と柔らかさで「ナーナーナーナ
ー」
「マーマーマーマー」を使っての練習です。
(その後「ルルルルル」を用いて歌うと
良いでしょう。「中声」ができた段階で、練習音型を変えます。下降の「分散和音」で
す。さらに、それができるようになれば、上行の「分散和音」に移ります。最後は、上行、
下降による「音階」
「分散和音」の統合です。
「声のひっくり返り」を無くす練習は、細
心の「声」を聴く集中力が必要です。しかし、「ひっくり返り」の無い「歌声」が達成
されたときの喜びは厖大です。お悩みの方は一度試みてください。
10.音域を拡げる
10.音域を拡げる
音域を高い方向に広げたい時は「ファルセット(頭声)」の発声理論が参考になりま
す。音域を低い方向に広げたい時は「声帯」及び「声帯周り」における筋肉の弛緩の実
行です。
①音域を高い方向に広げたい時
一音一音、半音階的進行で丁寧に、そして確実な発音(母音唱法の<a>か<e>)
で声を出していきます。開始音は「ファルセット音」からです。レガート唱法によっ
て声を半音づつ高めていきます。つまり一息で半音高い音へとつないでいきます(声
を切ってはいけません)。息を下から押し上げるようにして声を出してはいけません。
声を押し上げるように次の声へと移行してはなりません。(押し上げようとすると胸
の上部にストレスが生じます。そのストレスが喉頭内外の適切な運動を妨げます)
- 15 -
むしろ、上半身の積極的な弛緩、脱力を試みます。適正な発声が行われているかぎり、
あご、喉頭の周り、胸筋などには<力み>は生じません。発声されている声の響を額
の位置に保ちつつ、上向していきます。(息を押し上げて発声された場合、響は胸の
方向へと下がっていくはずです)高音域での発声は慎重さが必要です。筋肉に対して
細心の注意、集中力が必要になってきます。体全体の筋力バランスが要求されます(特
に強固な背筋と下半身の筋肉が必要です)。練習時間は短く、しかし毎日の発声トレ
ーニングは必須です。一音高くするのに、相当な時間がかかります。
②音域を低い方向に広げたい時
歌い始めようとする時、息を吸ってはいけません。(深く、多く吸って胸を高く保
たないように。これは胸に緊張を強いらせないようにするためです)下顎の関節を緩
めます。(だらっと口が開いていればいいですね。このまま放っておくと<よだれ>
が出てくるぐらいがいいです)半音づつ下がって声を出していきます。「ア」の母音
が良いでしょう。これは唇にも緊張させないという意味があります。他の母音では唇
を前に突き出したり、引き上げたり横に引っ張る要素が加わります。「ア」と言いな
がら(息を吐き出しながら)、半音下の音に移ります。移った時ロングトーンです。
(音が変わるとき途切れてはいけません。息をつぐことなく一息です)この半音下へ
と声が移るとき、胸の弛緩も同調させます。
(胸が下に下がっていくような感覚です)
ロングトーンで弛緩を完成させます。(声が震えないように、息や声帯のコントロー
ルの練習にもなります)ここで一息です。次に前述の降りた音から同じ要領で声を出
し、さらに半音したへと広げていきます。(更に胸を下げていくような、すなわち<
筋肉の弛緩>をさせていきます)声が出なくなるところまで降りていきます。これを
何度か繰り返します。
11.声の増幅と音色
11.声の増幅と音色
いつものように「中声」でご自身の歌いやすい音域で声を出します。声を出しながら
徐々に”目を大きく見開き”そして、同時に”眉毛と眉毛の間の筋肉を上に引き上げる”
ようにします。これだけなんです。これによって、鼻の奥の方が開いていくのが感じら
れれば OK です。声を出しながら試してください。どうですか、声が大きくなっていく
(広がる)のがお解りになると思います。簡単でしょ。すぐできると思います。これを
機会に発声に関係している顔の筋肉の名前を今回覚えることにしましょう。大きく分け
て●おでこ●目の回り●頬●口のまわりの筋肉です。これを使って「声に変化を与えま
す」。
12.母音練習
12.母音練習 その1
今まではファルセット「ア」の母音から<声だし>をしていましたが、これからは「イ」
の母音から始めます。ただしこれは「中声」による<声だし>です。ファルセットは今
まで通り、「ア」の母音、そして新たに「ウ」(ドイツ語の U-ウムラウトです)による
「声だし」を加えます。それではその理由と、実際の練習法について書きましょう。
- 16 -
まず、何故「イ」による母音練習なのか?それは、力んでしまいがちな「イ」の母音
は実は最も力まずに出せる母音だからです。(ただし明るい母音づくりをするため、高
い倍音を含ませる関係上、軟口蓋(口蓋帆)を上げ、鼻腔を拡げる作用はいりますが)
この力まない「イ」の母音ができれば「エ」もよく響くようになり、至っては「ア」の
母音がふくよかで深い響きになる効果をもたらします。実際にやってみましょう。
【練習】
まず、唇は横に開かず、つまり横に引っ張り上げないで、普通に弛緩した状態での口の
開け方です。(くどいようですが、口を横に引っ張らないように)軽く開いた唇、それ
は指が一本入る程の開きで充分です。ここからがポイントです。舌の先端は下の歯の根
っこに触れさせます(重要)。その舌に力を入れず「イ」を発音します。すると舌の真
ん中ほど(前よりです)が少し高くなるはずです。そこで鼻の奥を開くようにし、鼻孔
も開いて前方に当てるよう空気を流します。響きは鼻の先(前)で共鳴し、実際の空気
の流れ(呼気)も上の歯の根っこ当たり(硬口蓋)を通過しているはずです。力まない、
(鼻腔に)良く響いている「イ」になりましたか?この響きができると「エ」は簡単で
す。舌の中程(前よりですね)が高くなっているのを、低くするだけです。下顎を動か
してはいけません。口は「イ」のままです。舌だけが動くのです。どうですか?力まな
い、(鼻腔に)良く響いている「エ」になりましたか?(鼻腔は「イ」の時と同じよう
に、良く響く状態に保っています)これを母音作りの基本とします。この力まない、良
く響いた響きを体得したなら、次に唇を少し開いたアとエの中間母音を出します。(重
要)ここで舌が歯の根っこから離れます。ここでも上手くだせるようになれば、「ア」
の母音です。この時さらに舌の先端が歯の根っこから遠ざかります。
13.母音練習
13.母音練習 その2
《発音に関与する名称について》 舌の名称は四つの部分に分けて、1)舌先〔したさ
き〕、2)前舌〔まえじた〕、3)中舌〔なかじた〕
、4)奥舌〔おくじた〕と読むことにし
ます。また口腔内部の名称として、上歯〔じょうし〕、下歯〔かし〕、歯茎〔はぐき〕、
硬口蓋〔こうこうがい〕
、軟口蓋〔なんこうがい〕も出てきます。
「母音」の発音
「イ」
口はやや横に開き、舌先はどこにも触れない状態で(舌先を軽く下歯の歯茎に触れ
てもよい)前舌を硬口蓋に近づけ(舌の後部は力まず低い位置)、その状態から息を上
歯の歯茎に当てて発音。
「エ」
口は「イ」より弛み、前舌を少し弛ませて「イ」の位置より低くする(舌先が軽く
下歯の歯茎に触れている場合はそのまま状態)。前舌から中舌(舌の真ん中部分)に
かけての高低によって音色が変化(舌の後部は「イ」に同じで力まないで低く)。 息
は上歯歯茎の上に当てる感じ。
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「ア」
口は「エ」より更に弛ませ自然な開きになり、舌は脱力して下あごに平坦な状態で
乗っている状態(舌先が下歯の歯茎に触れている)。息を上歯の歯茎の上に当てて発
音。
「オ」
口は「ア」より少し丸めた状態。舌は奥へ引っ張られ、舌先は下歯の歯茎から少し
離れ、奥舌がやや高くなるイメージ。息は硬口蓋の中程に向かって当て、口の奥の中
程が響くイメージ。
「ウ」
口は「オ」よりもさらに閉じた状態(できるかぎり唇には力をいれない)。舌もよ
り引っ張られ、舌先が下歯の歯茎から離れる距離も長い。息は軟口蓋に前部に当て、
口の奥の上を響かせるイメージです。
14.母音練習
14.母音練習 その3
「母音」の練習法(「母音」は非鼻母音として練習しなければなりません)
① 先ず、下あごの脱力に伴う自然な半開きの口を作ります。
(これが「ア」の発音ポ
ジションとなります)その状態で顎を動かさず、舌のみを動かして発音。舌の動
きと、それに伴った響きの変化がよく解ります。
「イ・エ・ア・オ・ウ」
「ウ・オ・
ア・エ・イ」
② 次に、「イ」の発音のために下あごを上あごに近づけ、少し緊張状態を保ちます。
「イ」「エ」
「ア」の母音を下あごの積極的な脱力の動きによって(舌の動きもそ
れに伴います)発音します。この動きでの発音は下あごの脱力の訓練にもなりま
す。
③ 「イ」
「エ」
「ア」のグループと「ア」
「オ」
「ウ」のグループに分けて練習。 まず、
舌の運動として「ウ」「オ」の練習。その後、構造的分離練習とした「イ」「エ」
「ア」、
「ア」
「エ」
「イ」/「ア」
「オ」
「ウ」
、
「ウ」
「オ」
「ア」をそれぞれ練習です。
- 18 -
15.
15.「子音」の発音について
まず、
「破裂音」
(はれつおん)、
「摩擦音」
(まさつおん)、
「弾き音(はじき音)」、
「破
擦音」(はさつおん)の違いを知ることから始めます。
「破裂音」=バ行、パ行、カ行「タ・テ・ト」、ガ行「ダ・デ・ド」、の子音。唇どうし
や舌のある部分が歯や口蓋のある部分にいったんついたあと、直ぐ離れて出す音。
「摩擦音」=サ行、ハ行の子音。狭いすき間を息が通るときの摩擦音。
「弾き音」=ラ行の子音。舌先が軽く歯茎を打って(はじいて)出す音。
「あら!」
「破擦音」
(はさつおん)=日本語での「チ・ツ・ジ・ズ」の子音。「ツ」のように、
まず、歯茎に舌先を付け「t」の位置からすぐさま「s」を発して出す音。
破裂音+摩擦音ということでこの名が付く。現在、
「ズ」と「ヅ」、
「ジ」と「ヂ」の区別
はありません。しかし歴史的には区別がありました。
「ジ」と「ズ」は「摩擦音」、
「ヅ」
と「ヂ」は「破裂音」であったようです。
「子音」の発音
(*色をつけてあるところは注意すべき箇所を示しています)
「カ行」
軟口蓋に奥舌をつけて息を止め、息を吐き出すと同時に瞬間的に離して発音。
「キ・ケ・カ・コ・ク」
「ガ行」
「カ行」より奥の軟口蓋に奥舌を当てて発音する。「ギ・ゲ・ガ・ゴ・グ」
「鼻濁音ガ行」
鼻に息を抜きながら発音する「ガ行」。優しく柔らかい響き。
「サ行」
「S」無声音と「Z」有声音の違いを知ることから練習を始める。「S」は無声摩擦
音で、「サ・ス・セ・ソ」は舌先を上の歯の歯茎に近づけそのすき間から息を強く出
し、摩擦させることで発音する。「シ」は舌の位置が少し後ろになり、舌先が積極的
に立っているイメージ(どこにも触れていません)。強調するときは摩擦音を長くと
る。「シ・セ・サ・ソ・ス」
「タ行」
「タ・テ・ト」は舌先を上歯や上歯の歯茎につけて、息を吐き出すと同時に瞬間的に
離して(破裂させて)発音。「チ」は「破擦音」としてでなく、口をやや横に開き、
舌先は下歯の歯茎の下、奥舌を少し上げて上歯と下歯の間に息をぶつけて発音。(摩
擦音を強調した、あるいは強調できる発音)「ツ」は「チ」と同じ舌の位置、そして
- 19 -
息の当て方をし、口を(唇を少し丸めて)前に出して発音。一般的に日本語の「チ」
「ツ」は破裂音+摩擦音の「破擦音」として分類されていますが、私は試案として「摩
擦音」として発音することを奨めます。これは発音後の脱力と口腔の広さを優先させ
てのことです。「チ・テ・タ・ト・ツ」
「ナ行」
上歯の歯茎に舌の先をくっつけ、鼻から息を吐きながら発音する。(鼻腔にまず響か
せます)「ニ・ネ・ナ・ノ・ヌ」
「ハ行」
声帯を閉じず、少しのすき間に息を流しての発音。「ハ・ヘ・ホ」の「h」は無声の
声門摩擦音で後に続く母音を待機している息の音。口の中は何も抵抗無く発せられる。
「ヒ」は硬口蓋に前舌を接近させ、その間を抜けてとおる息の摩擦音。上歯の根の辺
りに息をぶつけて発音。
(摩擦音)
「フ」は唇と歯は上下がそれぞれ接近しながら、し
かし触れ合わせず、唇に力を入れず息をやや強く発して発音(ろうそくを吹き消した
り、熱いお茶を吹いて冷ます時の「フー」のイメージで、柔らかい響き。
)
「パ行・バ行」
唇を閉じ、息を送って瞬間的に開いて発する音。「パ行」は声帯を震わせないで発す
る無声音。
「バ行」は声帯を震わせて発する有声音。
「マ行」
唇を閉じ、開きながら鼻に息を抜いて発音。
(鼻腔にまず響かせます)
「ミ・メ・マ・
モ・ム」
「ヤ行」
舌は「ヒ」とほぼ同じポジションを取り、硬口蓋(こうこうがい)に息をぶつけて発
音。「ヤ・ヨ・ユ」
「ラ行」
「弾き音」として発音します。
(*一般的にはラ行は「l」の「破裂音」としても発音
している)まず英語の「r」のように舌の先がそり返って硬口蓋のほうに向かい、そ
のあと、舌の先で上歯の歯茎を弾(はじ)いて発音。「リ・レ・ラ・ロ・ル」
「ワ行」
「ワ」は「ウ」の口の形から息を吐き出しながら素早く「ア」の形に移行して発音。
「ン」
話言葉の発音として「ン」には「日本橋」
「日本刀」
「日本画」のように 3 種類ありま
す。「日本橋」の「ン」は唇を閉じての発音(両唇音)、「日本刀」の「ン」は舌先を
上歯の歯茎に当てての発音、そして「日本画」の「ン」は軟口蓋に奥舌をつけて発す
- 20 -
る音です。私は「歌」でもこの 3 種を前後の言葉によって使い分けて使用しています
が、<奨め>としては良く響く、舌先を上歯の歯茎に当てての発音を推奨しています。
【練習に当たっての注意事項】
「母音」の練習時でも、「子音」の場合も、それぞ
れ《息の当てる場所》が大切だと思います。《息》よって声の色、明暗が変わりま
す。息が鼻に抜けることなく(もちろん鼻濁音は別)、口腔内の響く場所を感じな
がら、上向き方向の声、明るい声、力強い声、芯のある声づくりを心がけるように
して下さい。響きは、口腔→鼻腔→額(~頭頂)へと突き抜けていくイメージです。
口腔内だけに響きが留まらない《息》の方向・強さが秘訣かと思います。全体を通
して、練習では必要な筋肉だけが動きます。〔脱力〕がキーワードです。
16.音楽づくりのポイント
16.音楽づくりのポイント
先ず、音楽作りの基本はスコアを見ることから始めます。「見る」と言うことは、ま
だここでは「読む」ことではありません。絵画を鑑賞するかのように、全体を絵として
眺めてみることです。音符が密集しているところとそうでないところのコントラストを
見つめます。旋律線のうねりがどんな形をとっているか眺めるのです。良い作品ほど構
図的にも面白いものです。作品の全体を大雑把に掴むことが大切です。この時、作品の
特徴を知ることになります。レコードやCDのような録音を参考にしている人をよく見
かけますが、この件に関しては、私はこの初めてスコアを開いたときと、スコアを勉強
し終わった時に聴く二回を大事にしましょう。何回聴くかではなく、どの機会に聴くか
が大切です。さて、こういった勉強法の本質が重要です。すなわち、始めから細かい所
にこだわりながら進めていくのではなく、大きく捉えることから始め、小さな項目へ進
めていく。そしてその行程がいったん終わると、今度は逆に小さな項目がどのように大
きな項目と関わっているかを考えながら全体のイメージを仕上げとして構築する。作曲
家の人物、活動期の時代背景、傾向などを調べます。「歌詞」の意味、出典、時代背景
を調べます。曲の特徴を掴みます(ポリフォニーかホモフォニーか?形式は?等です)
全体を構成するための大きな段落を見つけます。(意味内容の転換、転調、休符等によ
って示されることが多いです)フレーズを探し、小さな単位別に区切っていきます。上
の二つは相互に行います。ピアノなどで音を確かめながら、メロディー、ハーモニーを
見ていきます。テンポのチェックです。ダイナミック(書かれてある強弱)をチェック
です。アゴーギクの有無とその用いる程度のチェックです。アーティキュレーション(音
と音の間の切れ方。レガートからスタッカート間には無限大の結び付け方があります)
を決め、整える。各パートのバランスを整えます。全体を通した時のテンポ設定を最終
チェックします。自分のイメージに近づけるよう練習に臨みます。練習時における幾つ
かのチェックポイントです。ピッチが正しく保たれているか。フレーズの終わりが遅く
なりすぎてはいないか?またピッチが下がっていないか? 各パートのバランスはどう
か? テンポの変わり目が巧くいっているか?(どの音が前のテンポでどの音から新し
いテンポになるのか?)発声が統一されているか?以上のことをチェックして音楽作り
をすればすっきりとして安定した演奏となるでしょう。後は合唱団と指揮者の個性で味
付けをします。
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17.純正調の音楽
17.純正調の音楽
響き(ハーモニー)の練習は徹底的に「ユニゾン」と「オクターブ」、そして「純正
の5度」の体得から始められることをお奨めします。特に、「純正5度」の練習は、声
のコントロール、声の協和性、自然倍音など合唱の基本となるものです。ちょっと厳し
いかもしれませんが、この「純正5度」の響きを体得することなくして合唱はできない
と考えます。音楽の歴史、いや、人間の「響き」を聴き取る歴史はまさにこの5度から
始まったのですから。純正5度の響きを味わう喜びは格別です。徹底的に純正の響きを
体得してはじめて、その後の和声の歴史、響きの歴史が理解できます。音楽における響
きの歴史とは、純正の響きから適度に濁った響きへの流れです。つまり、<うなり>ゼ
ロという協和の響きから<うなり>のある響きへの歴史なんですね。<うなり>ゼロを
知ってはじめて<濁り>の度合いも解るというものです。ヨーロッパ中世の響きは純正
でした。(<うなり>ゼロの、ユニゾン、オクターブ、五度、四度です)<うなり>=
音がずれているときに「ウワ~ン、ウワ~ン」と繰り返す波のように聞こえる現象。調
律はこの<うなり>を聴きながら音高を調整します。※弦楽器の調律法はこれによる。
以下のような 4 度平行、5 度平行の曲が残されています。
4度による平行オルガヌム。
以下の曲をうなりの無い、純正な響きで当時の人たちは歌うことを理想としました。
5度による平行オルガヌム。(上の声部が主声部、下の声部がオルガヌム)
少し時代が経つと自由な平行オルガヌムが現れます。下の楽曲では、開始、段落、終止
は同度、完全4度音程の並進行を中心に、斜進行や反進行による経過的な長2度、長3
度、完全5度が現れています。
余談ですが、グレゴリオ聖歌を歌う際に用いられる「ピタゴラス音階」、実は今日標準
化してしまった平均率に比べて全音が広く、半音は驚くほど狭い音程なのです。また、
「ピタゴラス音律」では、3度の響きが驚くほど不協和になります。
- 22 -
「純正律」
さて、我々合唱に関わる者にとっての<実践のハーモニー(純正の響き)>がやって
きました。純正の響き、それは二人の声(二つの音)でも、3人(三つの音)による三
和音でも、「倍音の法則」に従えば「うなり=ゼロ」の純正な響きが得られるというこ
とは前にも書きましたが、簡単です。(鍵盤楽器に助けてもらう必要はありません)耳
を澄ませ、
「うなり=ゼロ」を聴き取る。それだけです。
(純粋な五度の響きの中で、3
度をどうハモらすか、ですね。〔平均率に慣れてしまっている人は、3度を平均率より
低く取ることになります〕こうした意味でも純粋な5度や4度を体得することは必須で
す)問題は「純正な響き」をどのようにして作るかということではありません。私たち
合唱をする者にとって考えなければならないのは、旋律である横の流れと純正の響きと
をどう関係づけるか?ということです。難しさは純正の響き作りにあるわけではありま
せん。音楽の横の流れの中でどう対応させるか?にあります。「純正律」では平均率に
比べて第三音、第六音、第七音が 10 セント以上低いのが特徴です。全音も広い全音(大
全音)と狭い全音(小全音)が存在します。C を基準とした音階では「ドミソ」「ファ
ラド」
「ソシレ」
「ミソシ」
「ラドミ」が純正の和音となります。
「レファラ」はとても不
協和に響き、使えません。
(「シレファ」は完全5度を含まない不協和な響きとなるため
使用されませんでした)「純正律」で調整された鍵盤楽器を使う場合、調が変わればそ
のごとに楽器を変えなくてはならなくなります。繰り返しますが、合唱では何ら問題は
起こらないのですね。自由に調整できるのが「声」だからです。和声の響きは「純正」
から「調整された響き」への歴史です。純正の響きを得ることはそんなに難しいことで
はないのですが、音楽表現ではどのような響きとするか、それが重要なわけです。
「ピタゴラス音律」音階では今日の「平均率」音階と比べると以下のような特徴があります。
1
ピタゴラス音階
2
5
6
7
8
ド レ ミ ファ ソ
ラ
シ
ド
セント
3
+4 +8
4
-2
+2 +6.0 +10
平均率に比べて全音は+4、そして半音は-10 という狭さでした。
「純正律」音階では以下のようになります。
純正律
セント
1
2
3
4
5
6
7
8
ド
レ
ミ
ファ
ソ
ラ
シ
ド
-2
+2
+3.9 -13.7
- 23 -
-15.6 -11.7
18.共鳴(レゾナンス)
18.共鳴(レゾナンス)
まず音声を出す準備を整えます。
① まず驚いたふりをしてアー!と声を出してみましょう。その時、声を出す前に空
気が体の中へ自然に素早く取り込まれているのを感じましょう。息の吸い込みの
際はできるかぎり静かに行い、息を吸い入れるのではなく肺がひとりでに満たさ
れたという感覚を大切にします。
② 腹壁(へそから手のひら一枚分下のあたり)に指をあて筋肉の動きを確認します。
もう一方の手を胸骨にあてます。身体の底から音が始まる感じを味わい、音を出
す前に胸骨が若干持ち上がるのを感じます。音が出るにしたがって横隔膜ゆっく
り引き上げられて行きます。空気を使い果たしたら横隔膜を下げて広げながら肺
を満たします。このコントロールができるようになったら柔らかな音声からはじ
めることができるようになります。
次に、鼻音ngで歌い始めます。鼻音は舌の後部が軟口蓋にあがり、逆に軟口蓋は
下がってきて下と付き、作られます。こうすると音は自由に出ることができなくなり、
頭の中心で共鳴するようになります。この基音の上にさまざまな倍音を作れることを
確認しましょう。口を小さく開けていると低い倍音が鳴り、広げていくと倍音が高く
なっていきます。訓練すると完全な倍音列を並べることもできます。
次に、ngからaに開く練習をします。a音に移る時には舌が軟口蓋から離れるの
を感じます。舌を下げると軟口蓋が口蓋垂とともに上がっていくのがわかります。
次に、a-ae-e-iの練習をします。iに向かって舌はだんだん上にあがって
いきます。逆に口は次第に閉まっていきます。口の幅は全ての母音で同じにします。
鼻孔は大きく開き、音は鼻孔から抜けていくようにし、高く丸くなった口腔の天井に
音がつたう感じを意識します。響きが明るくきれいになったか、倍音が聞こえるか、
母音が変わると倍音も変化し、大きく開けた口であるほど高い倍音がでることを確認
します。
19.ホグセットのメソッドによる練習メニュー例
19.ホグセットのメソッドによる練習メニュー例
① 両腕を頭上にあげ、声を出しながら(高い音でア~下降)ゆっくり腕を降ろす。
胸を落とさず、姿勢を良くします。上に引き上げるようにしてゆったりと声を
出しはじめ、自然に落としていきます。
② 肩を上げ下げします。肩を後ろに回します。回すときにン~と寝起きのような
声を出しながら数回繰り返します。
③ 下腹部(お腹から手のひらひとつ下)に手をあてます。声を出さずに驚いた表
情をします。するとピクッと下腹部が引かれます。お腹から声が出ることを自
覚するために数回くりかえします。その後すごく驚いた表情でオ~と声を出し
ます。声の土台を意識します。
④ もう片方の手を胸にあてア~と声を出します。声を出すまでは胸が上がってい
- 24 -
ますが。声が出ている間にお腹が引っ込んでいきます。胸が上下にストレッチ
され、この形をくずさないことが重要です。ダメな例は胸が沈んでいくことで
す。胸はいつも同じ高さにあります。
⑤ 両手を胸にあて、オ~(下降スケール)と声を出します。体を使って声を出す
と音の出だしをコントロールできます。声は押すことのないようにし、音の出
だしをやさしくきれいに出せるように意識を集中させます。
⑥ いろんな母音でロングトーンの練習をします。ン~オ~ア、グラ~ツィ~ア
⑦ スケールで練習します。バ~イ~ア~イ~ア~イ~ア~イ~ア(下降)、バ~
イ~ア~イ~バ~イ~ア~イ~ア(上昇)※イの時にきれいな響きになるよう
にします。ドミソ(上昇)~ド(ロングトーン)~シラソファミレド(下降、
強く)
20.発声器官の加括
20.発声器官の加括
① 口を大きく開閉します。顔の上半分をよく使います。
② 口をイ~ウの母音のかたちで動かします。
③ 頬をふくらませたりすぼませたりします。
④ 口をモグモグ動かします。
⑤ 力をこめて目の開閉を繰り返します。
⑥ 目を開いたまま、視線を前後左右に動かし、最後に回します。
⑦ 舌を強く出し入れします。
⑧ 舌先を丸くすぼめて出し入れします。
⑨ 上を向いて、激しく口を開閉します。
⑩ 上を向いたまま、首のつけ根を収縮させます。
⑪ のどぼとけを上下させます。
⑫ 出すことのできる最高音で子犬の鳴き声のような声をだす。前頭部、後頭部、
首のうしろの3点に響きの緊張感を持つことが大切です
⑬ 巻き舌で最低音か最高音まで上下します。頬を引きあげ、響きを顔面上部に集
めます。
⑭ 舌を思い切り出して最低音から最高音まで上下します。
⑮ 各母音で音を下から上に引き上げます。(軽く奥歯をかんで行います)
⑯ 息を吸いながら発声します。口を横に引っ張り、各母音のロングトーンで行い
ます。(声帯をうすく平均して使います)
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21.呼吸練習とリズム運動
21.呼吸練習とリズム運動
① 舌を出して犬の呼吸をスタッカートで行う。
② SまたはZの子音で音を出しながら、八分音符、八分休符の繰り返しのリズムで、
また、八分音符、八分休符、付点四分音符の繰り返しのリズムで行います。
③ 4321 16分音符4つで1セット 4拍目に休符(ブレス)を入れ、その位
置を4321とずらしていく呼吸練習です。
④ 321 3連符で上記と同じパターンで練習する。
⑤ 手2拍子(横に開いて降ろす) 3拍子(開いて閉じる閉じたまま)
⑥ 手3拍子 足2拍子 上記と同じ要領で行う。
⑦ 手を
肩-横-下
足を 右-左-右尻-左-右-左尻
⑧ 右2拍子 左3拍子 その逆パターン 6拍での入れ替え
⑨ 左右の手を一拍ずつ、ずらしていく。a肩-上-肩-横-肩-下 b肩-上-肩
-前-肩-横-肩-下
⑩ 床に座り込んで呼吸練習(床から足を通ってお尻に向かって息が入る感じ)
⑪ 足幅は肩幅で、上半身を脱力して呼吸練習(腰からお尻に向かってふくらみを感
じること)
⑫ 立った状態で、肩甲骨を両側から閉じ、胸はいっぱいに開いて大きく呼吸する。
逆に、背中を開き、胸は閉じるようにして大きく呼吸する。息の流れを感じるこ
とが大切なので頭は落としすぎないこと。
22.全身のストレッチ、ウォーミングアップ
22.全身のストレッチ、ウォーミングアップ
① 両手首をブラブラ振る。力をこめて指の開閉をする。
② 足を前後に開き腰を入れる。足幅を肩幅にとり、膝を内側と外側へ動かす。膝の
屈伸、回転、左右させる。
③ 肩を上下(上で止めて脱力)そのまま踵をあげ、肩だけ先に下ろし、最後に肩を
戻す。(姿勢の保持)
④ 両手指をくんで前に、かえして伸ばす、上に、はずして左右の手でそれぞれ天井
を押す、両腕を横にもってきて壁をおす等々
⑤ 右手で左足の付け根をつかんで腰をひねる(クロス)、もう片方の手は天井にま
っすぐ伸ばす。
⑥ こぶしを口に加えて息を強く吐く練習。その後、口を大きく開き、Kの子音を強
くはじき、その瞬間にお腹をつきだすように力をこめる練習を行う。(Ga、Y
a、Daで行う)
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ホームページ
“合唱音楽の楽しみ”より抜粋
“はじめての合唱音楽”
http://kimiaki.jugem.cc/?cid=6
http://www55.tok2.com/home2/kimiaki/
“メーリングリスト” http://groups.yahoo.co.jp/group/harmony0505/
倍音
人間に聞こえている音には、その音だけでなく、多くの違う音が混じ
っています。騙されたと思ってピアノの低い音を叩いて耳をすませてみ
ましょう。最初はよくわかりませんが、繰り返しているうちに、その音
と違う音がいくつか混ざって聞こえることに気づくでしょう。しかもそ
の音は最初に聞こえていた音と調和していることに気づくのではないか
と思います。最初にはっきり聞こえる<基音>とその他に<倍音>と言
われる音がいくつも含まれています。高音域になるに従い、倍音の含ま
れる数は少なくなり、しかもその倍音の音量も小さくなるので耳では聞
き取れなくなります。ちなみに楽器の音色は、<基音>に対してどの程
度の強さで<倍音>が含まれているかに関係している。倍音成分を組み
合わせて多種多様な音色を人工的に発声しているシンセサイザーは、2
0世紀後半の音響学と電子工学が生み出したという現代的な楽器という
わけです。
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音楽の三要素
音楽の授業等で、
『リズム』、
『メロディー』、
『ハーモニー』を『音楽の三
要素』と教わったりしますよね。音楽とは『音の性質』ではなくて、音
に反応する『人間の性質』であり、音楽に三要素があるということは、
人間の側に音楽を聴く際の三つの層があるということでもあります。ま
た、これらは、民族、文化背景、時代によっても感じ方の差が著しいも
のであります。近代以降の音楽では、三要素に『音色(サウンド)』とい
う要素を加えます。
『リズム』は特殊な場合を除いてメロディーやハーモ
ニーを動かす時間軸であり、
『メロディー』は音楽の最上層部で線的に動
くもの、
『ハーモニー』は二声以上の和音の連結を表します。さらに難し
く言えば、音のパラメータ(変数)は「高さ(音高)」「長さ(持続)」「大
きさ(音量)」「音色」の四つであり、音高は音の振動数(Hz)、長さは
その時間軸上の持続時間(t)、音量は振動の振幅の大きさ(dB)、音
色はその波形で表されます。ある本によれば、1分間に40~200く
らいのパルスを、人間は自分の心臓の鼓動とシンクロさせて『リズム』
と感じ、百ヘルツ~千ヘルツほどまでの音高の音の上下を、人間の声の
音域や呼吸とシンクロさせて『メロディー』と感じている。
『ハーモニー』
はクラシックで最も発達をとげた音楽要素であり、自然倍音のシステム
を基にし、その中で声部を動かすことによって人間の感情と微妙なシン
クロを生み出すんだとか…結局のところ音楽の構造を解析しようとする
試みは、すべて人間の精神や肉体構造を解析していく試みに等しいと言
えるかもしれませんね。
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音の不思議
音は空気中を波となって伝わり、その波が1秒間にいくつ生じるかに
よって<音の高さ>が決まってきます。音源が振動すると、周りの空気
を交互に<密な部分>と<希薄な部分>とに変化させ、次々と押しやっ
て我々の耳にまで運びます。空気中の<密な部分>と<希薄な部分>と
で<音波>と称する一つの波を作ります。その波の山と波の山の距離を
<波長>と言い、その<波長>の長さの違いによって音の高さは異なっ
てきます。ちなみに、時報は1秒間に440回往復運動している音波か
らなり波長は約77センチ、ピアノの最低音は1秒間に12メートルも
の長い波を作って27.5回送っており、最高音は1秒間に8センチの短
い波を4186個作って送っているそうです。ここからがいよいよ本題
です。<音>は見えないわけですが、この<見えない音>を見えるよう
に言葉巧みに表現して合唱団の<ピッチ>や<ハーモニー>を修正して
いるのが指揮者であります。また、歌い手は<見えない音>を<見えな
い楽器>で苦労しながら演奏しているわけです。さらに、その<見えな
い音楽>を他者に伝えるために<楽譜>という目に見えるものに置き換
えようとした人たちのおかげで、現代の我々が何世紀も前の音楽を知り、
楽しむことができるのであります。
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合唱団でのパートについて
合唱団に入団すると、自分に合ったパートはどこなのか、指導する指揮
者やヴォイストレーナーに声を聞いてもらうことになります。声質や音
域だけでなく、合唱団の状況も考慮した上でパートが決定されることに
なります。通常、女声はソプラノ(必要に応じてメゾソプラノ)またはア
ルトに、男声はテノールまたはバス(必要に応じてバリトン)に分けられ
ます。音楽性を最優先とし、自分たちの目指す演奏水準を確保するため
に、
『ソプラノ何名』とか『男性パート若干名』といった募集案内もみか
けます。さらには、
『楽譜が読める方または音大出身の方限定』といった
ものもあります。人の声はみなその人になりの魅力をもった響きを奏で
ます。管理人が児童合唱を指導していて学んだのは、話し声と歌ってい
る時の声質は全く違う場合があり、どのパートが気持ちよく歌えるのか、
自分の声の魅力を最大限に生かせるのはどこなのか、本人の希望や自覚
とは別次元で慎重に見極める必要があるということです。混声であって
も固定観念にとらわれずに適切な発声法のもとで出された声を基準に判
断していく必要があるということは言うまでもありません。そういった
意味でも指導者の責任は重大であり、合唱団の響きや音楽性に惹かれて
入団してきた『かけがえのない一人』として団員に接することができる
かどうかが大切であると管理人は常々反省するのでした。
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音程とピッチ
音程とは2つの音の高低の<差>です。その基本的な単位は<全音>と
<半音>です。ピアノの鍵盤を例にすると、白い鍵盤ミとファの間とシ
とドの間を除いて、白い鍵盤どうしの間は<全音>であり、全ての黒い
鍵盤は白い鍵盤との間に必ず<半音>を作っているということになりま
す。ピッチとは音の高さという意味で用いられており、これには物理的
な音の高さである<絶対音高>と複数の音の比較による<相対音高>の
二つがあります。前者は単位として<ヘルツ>を使うことが多いのです
が、音楽に用いられる音は、音律によって相対的な高さを決定できるた
め、どれかひとつの音の<絶対音高>が与えられれば、他の音のそれも
確定されるということになります。この確定の基礎になる音の高さを<
標準音高、標準ピッチ>などと言い、中央のドよりも6度上のラの音に
する習慣が古くからありました。この<標準ピッチ>を得るには、この
高さに制作された音叉を用いることが多く、合唱団でも無伴奏の曲を演
奏するときに中心者がこれを用いて、各パートに歌いだしの音を与える
こともあります。ちなみに、オーケストラがチューニングする時には、
通常440か442のいずれかが採用されている。ウィーーン・フィル
やベルリン・フィルは445~446の高いピッチを設定し、張りのあ
る明快なサウンドを響かせています。それとは対照的に、オリジナル古
楽器による演奏の場合は、楽器の性能や当時の演奏習慣から、ピッチの
設定は低めであります。
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練習内容について
合唱団で毎回どんな内容の練習が行なわれているのか…初めての方には興味関心(もし
くは不安)のある部分ですよね。合唱団によっても違うのでしょうが、「準備体操」、「呼
吸練習」、「発声練習」、「パート練習」、「全体練習(アンサンブル)」といった内容に大
別されます。まず、声を出すための準備、楽器をあたためるウォーミングアップとして
十分な体操を行います。次に、歌うためには息の流れが大切であり、意識的なブレスコ
ントロールが必要なので、呼吸・ブレス練習を行います。続いて、喉を開き、息の流れ
に乗せて声を十分に響かせ、音色や音量の調節が自在にできるように発声練習を行いま
す。ここまでの一連の過程は、専門のヴォイストレーナーによる指導を受けている場合、
団内の練習責任者が行なっている場合、指揮者が関わっている場合の三つに大別されま
す。さらに続いて、新曲の場合は音取りや言葉付けの確認、全体練習が進んできた場合
でもパート内の音色の統一を図る目的等で、パート練習を行います。そして最後に全体
練習。これは、指揮者によって様々ですが、反復練習を取り入れながら音楽を形作って
いくことになります。初めての曲の場合には、少しずつ全容が見えてくる楽しさがあり
ます。近くに本番があるかどうかによって、練習で取り扱う曲数も練習内容も変わって
きますが、通常は、指揮者と合唱団との話し合いのもとに練習計画が立てられ、それに
基づいて充実した練習が行なわれています。合唱団の練習では、声を出すための基本的
なテクニック等を身に付けるために多くの時間を費やします。管理人の経験や反省から
言えば、訓練のための練習に陥ったりしないよう、
(自分達が求める)実際の音楽のイ
メージを抱きながら、「なぜこのトレーニングが必要なのか」といったメソッドへの共通
理解が大切であると言えます。「アマチュアだからこれでいい、この程度でいい」、とい
った妥協もあるでしょうが、その線をどこで引くかは団員の熱意にもよるのでしょう。
管理人が思うに、「これでいい」と「これがいい」には大きな違いがあり、指揮者の中には
常に「で」と「が」の葛藤が繰り広げられているんでしょうね、きっと。
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ブレス/カンニングブレス
久々の更新です。ブレスとは息つぎのことで、楽譜上に(V)の記号
で示されています。いかに音楽のフレーズを壊さない場所、速さ、回数
で行なうか-とても難しい課題ですよね。アンサンブルでは、単に生理
的な呼吸にまかせるというわけにもいかないので、どこでブレスをとる
かを事前に決め、何回もシュミレーションすることになります。という
ことで、合唱では普段の基礎トレーニングやコミュニケーションを大切
にします。ちなみに楽器の世界では、鼻で息を吸い続けながら口で演奏
するという『循環呼吸』なる技術があるそうです。話がそれましたが、
楽器の管理(健康管理)、本番では衣装、照明、ホールの残響、緊張感と
いった様々な要素が加わるので、声というデリケート楽器は普段から地
道に磨きをかけていくことが求められます。合唱の場合、一人で歌うわ
けではないので、周囲の人の呼吸を感じながら、ブレスの位置が重なら
ないよう、文字通りカンニングブレスをして、音楽の流れが途切れない
ようにすることができます。普段は当たり前の事として意識していませ
んが、合唱の場合、オケとは違って、パート譜ではなく、全パートが掲
載されたスコアを全員が使ってアンサンブルをしており、演奏者がお互
いに感じやすい距離でいつも練習しているわけですから、なにげない旋
律ひとつをとってみても、声という響きの魅力を最大限に生かしていけ
るような楽器(声・体)づくり、合唱団の雰囲気づくり(美意識なんか
も含めて)といったものを大切にしていきたいですね。他にもいろいろ
書きたいけど、フレーズや共鳴の項で述べたいと思います。
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和音練習譜例
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発行 プロアルテ室内合唱団
平成16年10月1日
編集:主宰 吉川
無断転用は厳禁です!
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