2013/ 6/ 4 情報ネットワーク社会論 第7章 はじめに 〈監視〉のまなざしの遍在 – 〈監視〉の主体と客体の区別 ? – 〈監視〉から保護されるべき〈プライバシー〉 ? 1. 〈監視社会〉とは何か 2. 〈プライバシー〉問題の構築と展開 3. まなざしと権力 〈監視〉を制御しうる社会規範の構築は可能か 4. 〈情報公共圏〉の構築 – D.ライアンの〈監視社会〉論 – 〈プライバシー〉概念の社会的構築と変遷 – 新たな規範構築の方向性を社会学的に構想 2013/ 6/ 4 担当者 吉田 純 (高等教育研究開発推進センター) 1 〈監視〉のテクノロジー 1. 〈監視社会〉とは何か 情報ネットワーク社会のジレンマ – 自由を束縛・剥奪するためではなく、 自由を確保・拡大するための〈監視〉 • 「自由に振る舞えないのならそれらを監視する意味は なく、自由に振る舞う存在こそ監視する価値もあるとい うのが今日的状況である」(柏原 2008: 239) 〈監視〉(surveillance) – 「個人データを収集・処理するすべての行為」 • 属性・行為の断片のカテゴリー化・数値化・デジタル化のプ ロセス • 得られたデータベースに対する情報技術的処理のプロセス – 監視システムの不可視化(ブラックボックス化) • システムが顕在化するのは「裂け目」(「個人情報漏洩」)が 生じた時 〈監視社会〉 – 「統治や管理 のプロセスにおいて 情報通信テクノロジーに依拠する社会」 *デイヴィッド・ライアン『監視社会』(青土社、2002) 〈監視〉の2つの顔 配慮(Care) – リスクからの保護・セキュリティの上昇 – 「自由」の可能性の拡大 [Enabling] – 〈監視〉の正当化 管理(Control) – リスク管理のための指導・規制・束縛 – 「高リスク」と判断されたグループの選別・排除 Twitter質問ハッシュタグ: #sis_tq7 〈監視〉のまなざしへの順応 – 情報社会への参加=監視システムへの能動的参加 〈監視〉の「不当性・反社会性」 〈監視〉⇒社会の秩序編成そのもの – 集団の分類・類別化 • 「 適格性やアクセス権を判定し、囲い込み、排除するべ く、執拗に選別・モニター・類別化を行うにつれて……社 会的分割を強化する強力な手段となっていく」 〈プライバシー〉概念の限界 – 〈監視〉を社会的問題ではなく個人的問題に還元 • • 「単に、個人的空間を侵害する手段、個人のプライヴァ シーを侵犯する手段ではない」 「プライヴァシー〔保護〕政策の施行下でも、不当で反社 会的な特性を呈しうる」 1 2013/ 6/ 4 情報ネットワーク社会論 第7章 2. 〈プライバシー〉問題の構築と展開 構築される物語 – 「私たちが〈他者のまなざし〉の“対象物”になって しまうという〈危機の物語〉」 • 「私たちの情報を得ようとし、管轄しようとし、ひいては 支配・所有しようとする危険な他者」 – 「〈まなざし〉をめぐる他者と自己との〈せめぎあ い〉の問題」 加藤晴明 2003 「電子ネットワーク時代のプライバシー―― 〈他者のまなざし〉による〈危機の物語〉から、〈まなざしの共有 化〉へ」 『社会情報学研究』第7号 〈システム〉の〈まなざし〉への対抗 〈まなざし〉の出現・拡張 最初の〈まなざし〉の主体=近代的国民国家 – 国民に関する情報の収集・蓄積による管理・監視 • 「近現代の国家は…その発端からして『情報社会』で あった」(Giddens 1985) • 再帰性(知識の再帰的適用)のダイナミズムの一環 〈まなざし〉を拡張するテクノロジー – 印刷、視聴覚機器、コンピュータ…… – それらを活用する諸メディアの発達 プライバシー侵害に対する意識の推移 (平成16年版 『情報通信白書』) 〈プライバシー権〉の成立 – 19世紀アメリカ:有名人のスキャンダルを売り物にする 「イエロー・ジャーナリズム」 – 取材・報道から自己の生活を遮断する権利 =「ひとりにしてもらえる権利」の確立 〈プライバシー権〉の再定義: 「自己に関する情報をコントロールする権利」 – 1970~80年代:行政・企業へのコンピュータの普及 • 「国民総背番号制」をめぐる議論 – 〈システム〉の〈まなざし〉から個人の〈生活世界〉を保護 • 情報社会の規範形成の方向づけ 〈まなざし〉の〈ネットワーク化〉(1) 〈まなざし〉をめぐる〈せめぎあい〉の構図の転換 – 〈システム〉と〈生活世界〉を横断して多方向に交錯 杉並区・住基ネットへの 「参加にあたっての対策」 1.「健全なIT社会実現に向けた自治体の研究提言機構 の創設」 • 「国に先立ちさまざまな提言を行う自治体相互の……機構」 住基ネットへの杉並区の対応(加藤 2003) – 「情報鎖国」から「情報開国」への「いばらの道」 – 〈ネットワークのまなざし〉の受容・ 〈まなざしの共有化〉 – 「きめ細かな公私協同のまちづくり」 – 〈生活世界〉の視点からの〈まなざしのネットワーク 化〉の方向性を探る Twitter質問ハッシュタグ: #sis_tq7 2.「区における運用を監視する第三者機関の設置」 • 「住基ネットの運用状況を監視し、その結果を公表し、区民か らの苦情・要望を処理するとともに、必要な改善の勧告などを 行う」 3.緊急時対応策の構築 • 「本人確認情報の漏えい、または不適正な利用が明らかと なった場合などにおいて、住基ネットからの切断などを含め、 取るべき対応策」 http://www2.city.suginami.tokyo.jp/library/file/jyukinet_kekka.pdf 2 2013/ 6/ 4 情報ネットワーク社会論 第7章 〈まなざし〉の〈ネットワーク化〉(2) 「個人情報保護法」をめぐる論議 – 公共的情報と〈プライバシー〉との境界を政治システムが 定義 – 公共的情報に対して向けられるべき〈まなざし〉の遮断 – 「個人情報保護」への過剰反応 – 〈プライバシー〉 ⇒〈まなざしのネットワーク化〉への抵抗の論理 – 個人による積極的な「自己の情報化」 – 個人間でのプライバシー問題の発生・〈せめぎあい〉 – 個人情報保護と「自己情報発信権」の矛盾 – 〈システム〉の一方向的な〈まなざし〉に対する一方 向的な対抗の論理 – 「理性的・自律的な個人」による自己決定 ⇔不可視化する〈監視〉メカニズム – 「個人情報の使われ方が極力リアルタイムにわかる ような情報の流れの……透明化」(加藤 2003) • SNSを通じた個人情報暴露 マクロな〈監視〉メカニズムへの射程拡大の必要 – 「公/私」の境界線の自明性の喪失 3. まなざしと権力 パノプティコン まなざし(パースペクティブ)の一方向性・非対称性 「理想の監獄建築」 – 18世紀、ベンサムが提唱 – 監視の自動化 可視 × 〈プライバシー〉概念の限界 遍在化する“まなざし”自体の可視化・共有化へ 〈生活世界〉へのインターネットの浸透 A 新たな規範形成の方向性 近代の「ディシプリン」(身体管理の技術)の原型 B (M.フーコー 『監獄の誕生』) – 監視のまなざしの内面化 ⇒ 「従順な身体」としての主体の形成 不可視 • 唯一の隠れ家としての「内面」[プライバシー]の発見 「不可視の権力」の生成 – 近代的組織・制度に一般化 15 「スーパーパノプティコン」 の出現* 個人情報のデータベース化 – 「パノプティコンは、自分の内的生を改善しようと 望む主体を産出する。対照的に、スーパーパノプ ティコンは、対象を構成する。つまり、アイデンティ ティの分散した個人、これらのアイデンティティが コンピュータによってどのように解釈されているか に気づかずにいる個人を。」 (D.ライアン) 監視の永続化・完全化 ⇒ 主体形成の失敗 – 「現実に確保されてしまっている永続的な監視に よっても、『主体』という同一性は結晶しない」 *M.ポスター 『情報様式論』 (岩波現代文庫 2001) [解説:大澤真幸] Twitter質問ハッシュタグ: #sis_tq7 17 • 軍隊、工場、学校、病院…… 16 パノプティコンと スーパーパノプティコン 「不可視の権力」の基本的構造は不変 相違点 – 「不可視性」の高度化 • 監視塔~パノプティコン全体が不可視化 • 監視の中心の分散化・多元化 – 主体・内面(プライバシー)のデータベース化・断片化 • 監視に対抗する「隠れ家」の消失 – 「監視から守られるべき領域」の自明性の喪失 18 3 2013/ 6/ 4 情報ネットワーク社会論 第7章 「監視」問題への再アプローチ 4. 〈情報公共圏〉の構築 「個人の再-身体化」 ……ライアンの提案 – 「生身の個人という意識から派生するコミュニケー ション倫理 」 – 「信頼関係の中での自発的な自己開示」 「まなざしのネットワーキング」による補完 – 「監視社会」問題の本質: まなざしの一方向性/権力の不可視性 ⇒ まなざしの双方向化/権力の可視化 ライアンの提案:「監視の倫理」の構築 – 「生身の個人という意識から派生するコミュニケー ション倫理 」の再発見 – 「信頼関係の中での自発的な自己開示」 実現のために必要な媒介=〈情報公共圏〉 – ミクロレベル=対面的コミュニケーション – マクロレベル=〈監視〉メカニズムによる秩序編成 • FTF空間の理想的モデルに依存することなく 19 〈情報公共圏〉の含意(1) 可視化・知識共有・コミュニケーション – 〈監視〉メカニズム・〈まなざしのネットワーク〉の 可視化 – 動員されている情報テクノロジーについての 知識の共有 – 〈監視〉を制御する規範形成のための コミュニケーション 〈情報公共圏〉の含意(2) 〈情報公共圏〉による〈監視〉制御のための 二つの条件 – 〈公共圏〉と〈親密圏〉との境界線を再帰的=反省 的にコントロール • 〈プライバシー〉の再定義 – 〈監視〉に動員される情報テクノロジーの専門家の 参加 ⇒クライアントたる非専門家・一般市民との コミュニケーション • 社会秩序編成に寄与する〈アーキテクチャ〉の可視化 Twitter質問ハッシュタグ: #sis_tq7 4
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