『研究年報No.39 2015年度』を掲載しました。

公益財団法人成長科学協会
THE FOUNDATION FOR GROWTH SCIENCE
研 究 年 報
第39号 平成27年度
公益財団法人 成 長 科 学 協 会
序 文
当財団は設立後39年を迎えますが、設立以来その年度に行った研究助成の
成果を次の年度に研究年報として刊行し、全国の大学(医科大学・大学医学
部)等の図書館及び関係者に配布してきました。
その第39号として、平成27年度に行った指定課題研究( 6 件)、成育治療
研究( 1 件)、自由課題研究(21件)、FGHR臨床研究( 5 件)及び国外留
学( 2 件)の報告書をまとめて刊行する運びとなりました。これらの研究成
果の中に、国際的に高く評価されるものが年々増加しつつあることは喜ばし
い限りです。
また本年報には、同年度に当財団が開催した第28回公開シンポジウム
「自閉症とその周辺∼子どものコミュニケーションの今∼」の講演要旨を収
載しました。
本年報を通じて、平成27年度の当財団の研究助成関係などの活動状況を見
て頂きたいと思います。また、本年報は関係者の研究に寄与するものと考え
ており、その活用を強く願っております。
尚これらの研究助成費は、平成27年度に当財団に御寄付下された各位の寄
付金によるものです。ここにそれらの方々の御厚意に対し、衷心よりお礼申
し上げる次第であります。
平成 28 年 9 月
公益財団法人 成長科学協会理事長
田中敏章
凡 例
1. 内容は、当財団が平成 27 年度に助成した指定課題研究( 6 件)、成
育治療研究( 1 件)、自由課題研究(21 件)、F G H R 臨床研究( 5
件)、国外留学( 2 件)、計 35 件につき、それぞれ助成対象者より提
出された報告書を収載した。
2. 報告書を収載するにあたっては、前記の 5 項目の記載順とした。
各項目内における記載順は、指定課題研究は当該年度の事業計画
に記載の順、自由課題研究及び F GH R 臨床研究は報告者の氏名の
五十音順である。
3. 助成対象者については、指定課題研究及び自由課題研究は当財団に
おいて設定した「研究助成事業に関する実施要領」に基づき、それ
ぞれ公募のうえ選考したものである。
目 次
指定課題研究報告
成長ホルモン療法の治療効果におよぼす諸因子の解析並びにアドバース・イベントの調査に関する研究 ........................ 1
主任研究者
石井智弘
慶應義塾大学医学部小児科学教室
横谷 進、堀川玲子 国立成育医療研究センター生体防御系内科部
島津 章
国立病院機構京都医療センター臨床研究センター
田中弘之
岡山済生会総合病院小児科
和田尚弘
静岡県立こども病院腎臓内科
寺本 明
労働者健康福祉機構東京労災病院
村上信行
獨協医科大学越谷病院小児科
西 美和
広島赤十字・原爆病院小児科
羽二生邦彦
羽二生クリニック
依藤 亨
大阪市立総合医療センター小児代謝・内分泌内科
棚橋祐典
旭川医科大学小児科
伊藤純子
虎の門病院小児科
田島敏広
自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児科
高野幸路
北里大学医学部内分泌代謝内科学
望月貴博
大阪警察病院小児科
高橋 裕
神戸大学大学院医学研究科糖尿病内分泌内科学
長谷川奉延
慶應義塾大学医学部小児科学教室
成人成長ホルモン分泌不全症患者の診断・治療及び追跡調査に関する研究 .................................................................. 25
主任研究者
松野 彰
帝京大学医学部脳神経外科
高野幸路
北里大学医学部内分泌代謝内科学
田原重志
日本医科大学脳神経外科
成長ホルモン及び IGF- Ⅰ測定に関する研究 ................................................................................................................................ 33
主任研究者
勝又規行
国立成育医療研究センター研究所
島津 章
国立病院機構京都医療センター臨床研究センター
立花克彦
JCR ファーマ株式会社
肥塚直美
東京女子医科大学
横谷 進、堀川玲子 国立成育医療研究センター生体防御系内科部
望月貴博
大阪警察病院小児科
安藏 慎
東京都立大塚病院小児科
田中敏章
たなか成長クリニック
ヨウ素摂取と甲状腺機能、成長発達との関連に関する研究 ...................................................................................................... 39
主任研究者
布施養善
帝京大学医学部小児科遺伝代謝研究室
伊藤善也
日本赤十字北海道看護大学臨床医学領域
長崎啓祐
新潟大学医学部小児科学教室
南谷幹史
帝京大学ちば総合医療センター小児科
鬼形和道
島根大学医学部卒後臨床研修センター
山口真由
鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科
浦川由美子
元鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科
塚田 信
女子栄養大学研究所
中村 正、東出正人 株式会社江東微生物研究所微研中央研究所つくば
低身長児(者)の生活の質に関する研究
主任研究者
花木啓一
鳥取大学医学部保健学科母性 ・ 小児家族看護学講座 …………………… 47
金山俊介、青戸春香 鳥取大学医学部保健学科
西村直子
川崎医療福祉大学医療福祉学部保健看護学科
木村真司
島根大学医学部看護学科臨床看護学講座
神﨑 晋
鳥取大学医学部周産期・小児医学分野
長石純一
鳥取市立病院小児科
梶 俊策、片山 威 津山中央病院小児科
主任研究者
宮尾益知
どんぐり発達クリニック …………………………………………………… 53
野村智実
東京医科歯科大学大学院
柿沼美紀
日本獣医生命科学大学
上村佳世子
文京学院大学
廣中直行
株式会社 LSI メディエンス
丹羽洋子
育児文化研究所
成育治療研究報告
ヨウ素過剰が妊婦および新生児の甲状腺機能に影響する個体差 .............................................................................................. 59
鳴海覚志
慶應義塾大学地域小児医療調査研究寄附講座
(現:国立成育医療研究センター研究所分子内分泌研究部)
自由課題研究報告
韓国の特発性低身長コホートにおける NPR-B 機能低下変異陽性率と変異陽性率の国際比較 ............................................ 61
天野直子
東京都済生会中央病院
ターナー症候群の発達・成熟過程における空間認知機能を含む脳・認知機能および社会適応に関する要因の検討 ...... 63
荒木久美子
秋山成長クリニック小児科
稲田 勤
高知リハビリテーション学院言語療法学科
望月貴博
大阪警察病院小児科
藤田敬之助
大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学
甲村弘子
こうむら女性クリニック
荒木まり子
高知大学医学部小児思春期医学
優性遺伝性 GH1 遺伝子異常症の発症機序に関するヒト化 GH マウスを用いた研究 ............................................................ 85
有安大典
熊本大学生命資源研究・支援センター疾患モデル分野
グレリン遺伝子改変動物を用いた、老齢期の GH 分泌低下及び食欲低下に関するグレリンの役割の検討 ...................... 89
有安宏之
和歌山県立医科大学内科学第一講座
骨成長における FAM111A を中心とした分子メカニズムの解明 ............................................................................................. 93
磯島 豪
東京大学医学部附属病院小児科(現:帝京大学医学部小児科)
田村麻由子、北中幸子
東京大学医学部附属病院小児科
炎症性骨障害に対する GH および Melatonin の有用性と作用機序の検討 .............................................................................. 97
大塚文男
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科総合内科学分野
無機リン酸による成長制御機構の解明 ........................................................................................................................................ 101
川井正信
大阪府立母子保健総合医療センター研究所
新生児における IGF1/insulin シグナルの検討と低血糖の病態解明 ....................................................................................... 105
鞁嶋有紀
鳥取大学医学部周産期・小児医学分野
GH 産生下垂体腺腫における上皮成長因子受容体(EGFR)の発現と臨床特性との関連性 .............................................. 107
後藤雄子
大阪大学大学院医学系研究科脳神経機能再生学/脳神経外科
齋藤洋一
大阪大学大学院医学系研究科脳神経機能再生学/脳神経外科
押野 悟
大阪大学大学院医学系研究科脳神経外科
木下 学
大阪府立成人病センター脳神経外科
間葉系幹細胞から骨や筋肉への組織形成を制御する E8 標的分子の同定と分化誘導機構の解明 ..................................... 113
酒巻和弘
京都大学生命科学研究科
軟骨細胞の分化における IGF-1 遺伝子のエピジェネティック制御と成長ホルモンの作用 ................................................ 115
菅原 明
東北大学大学院医学系研究科分子内分泌学分野
横山 敦、伊藤 亮
東北大学大学院医学系研究科分子内分泌学分野
全ゲノムエクソン配列(エクソーム)解析による先天性下垂体機能低下症新規責任遺伝子の同定 ................................ 117
髙木優樹
東京都立小児総合医療センター内分泌代謝科
軟骨細胞分化・成長に必須の転写因子 Sox9 の上流を制御する新規転写因子の機能解析 ................................................. 119
高畑佳史
大阪大学大学院歯学研究科生化学教室
体質性低身長児 53 例における ACAN 遺伝子解析 .................................................................................................................... 125
棚橋祐典
旭川医科大学小児科
単純 X 線像のスコアリング法(くる病重症度スケール)による X 連鎖性低リン血症性くる病の病勢評価 .................. 127
原田大輔
地域医療機能推進機構大阪病院小児科
柏木博子、難波範行、清野佳紀 地域医療機能推進機構大阪病院小児科
毛髪中ヨウ素濃度分析によるヨウ素摂取量の評価についての研究(中間報告) .................................................................. 131
布施養善
帝京大学医学部小児科遺伝代謝研究室
伊藤善也
日本赤十字北海道看護大学臨床医学領域
吉田宗弘
関西大学化学生命工学部
山口真由
鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科
浦川由美子
元鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科
塚田 信
女子栄養大学研究所
横山次郎
日本農産工業株式会社
小川英伸、三牧正和
帝京大学医学部小児科
児玉浩子
帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科
散発性 GH 産生下垂体腫瘍における CDK2・3 遺伝子変異発現解析 ..................................................................................... 135
堀口和彦
群馬大学医学部附属病院内分泌糖尿病内科
佐藤哲郎、山田正信
群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学
登坂雅彦
群馬大学大学院医学系研究科脳神経外科学
Wolfram 症候群における成長障害メカニズムの解明−小胞体ストレスによる GH 分泌への影響− ................................ 139
森川俊太郎
北海道大学大学院医学研究科小児科学分野
山口健史、石津 桂、有賀 正 北海道大学大学院医学研究科小児科学分野
田島敏広
自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児科
中村明枝
国立成育医療研究センター研究所分子内分泌研究部
合成活性型ビタミン D3 によるⅡ型クル病の成長改善効果 ..................................................................................................... 147
森山賢治
武庫川女子大学薬学部臨床病態解析学講座
二若久美
武庫川女子大学薬学部臨床病態解析学講座 田上哲也
国立病院機構京都医療センター臨床研究センター
内分泌代謝高血圧研究部分子内分泌代謝研究室
メチル化異常に起因する成長障害においてヒドロキシメチル化が果たす役割の解明−インプリンティング異常症を中心
に− .................................................................................................................................................................................................... 153
山澤一樹
慶應義塾大学医学部小児科学教室
(現:東京医療センター臨床遺伝センター/小児科)
cAMP-protein kinase A シグナル異常による GH 細胞腫瘍化機構 ........................................................................................ 157
吉本勝彦
徳島大学大学院医歯薬学研究部分子薬理学分野
岩田武男、水澤典子
徳島大学大学院医歯薬学研究部分子薬理学分野
山田正三
虎の門病院内分泌センター間脳下垂体外科
FGHR 臨 床 研 究 報 告
出生前診断された POR 異常症男児における Backdoor Pathway の検討 ............................................................................. 161
小野裕之
浜松医科大学小児科
骨形成不全症の成長障害、側彎と関連因子の検討 .................................................................................................................... 163
窪田拓生
大阪大学大学院医学系研究科小児科学
12 歳時のレプチン濃度と adiposity rebound の関連 ................................................................................................................ 167
小山さとみ
獨協医科大学小児科
小児期発症原発性副甲状腺機能低下症の分子基盤の解明 ........................................................................................................ 171
三井俊賢
慶應義塾大学保健管理センター
Disorder of sex development の新規責任遺伝子の同定および病態の解明 ........................................................................... 173
八木弘子
東京都立小児総合医療センター遺伝子研究科
髙木優樹、長谷川行洋
東京都立小児総合医療センター内分泌代謝科
高田修治
国立成育医療研究センター研究所システム発生・再生医学研究部
国 外 留 学 報 告
宇都宮朱里
広島大学病院小児科 ……………………………………………………… 175
吉井啓介
国立成育医療研究センター内分泌代謝科 ……………………………… 177
公開シンポジウム
「自閉症とその周辺∼子どものコミュニケーションの今∼」
講演要旨
−心の発達研究委員会企画−
自閉症周辺児のコミュニケーションの発達と特徴
五十嵐一枝
……………………………………………………………………… 179
白百合女子大学児童文化学科
自閉症は増えているか? : コミュニケーションをめぐってどう理解すれば良いのか …………………………… 187
神尾陽子
国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所児童・思春期精神保健研究部
指 定 課 題 研 究 報 告
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
成長ホルモン療法の治療効果におよぼす諸因子の解析並びに
アドバース・イベントの調査に関する研究
主任研究者
石井智弘
(慶應義塾大学医学部小児科学教室)
共同研究者
横谷 進、堀川玲子
(国立成育医療研究センター生体防御系内科部)
島津 章
(国立病院機構京都医療センター臨床研究センター)
田中弘之
(岡山済生会総合病院小児科)
和田尚弘
(静岡県立こども病院腎臓内科)
寺本 明
(労働者健康福祉機構東京労災病院)
村上信行
(獨協医科大学越谷病院小児科)
西 美和
(広島赤十字・原爆病院小児科)
羽二生邦彦 (羽二生クリニック)
依藤 亨
(大阪市立総合医療センター小児代謝・内分泌内科)
棚橋祐典
(旭川医科大学小児科)
伊藤純子
(虎の門病院小児科)
田島敏広
(自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児科)
高野幸路
(北里大学医学部内分泌代謝内科学)
望月貴博
(大阪警察病院小児科)
高橋 裕
(神戸大学大学院医学研究科糖尿病内分泌内科学)
長谷川奉延 (慶應義塾大学医学部小児科学教室)
研究目的
わが国における成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症、ターナー症候群、小児慢性腎不全性低
身長症、Prader-Willi 症候群、軟骨異栄養症、SGA 性低身長症、成人成長ホルモン分泌不全症に対
する GH 療法の治療効果、およびアドバース・イベントを検討する。さらに、上記に関連した臨床
的データを収集する。
研究成果
本年度の研究のうち、特筆すべき成果として、
1. ターナー症候群の GnRH アナログの使用実態(望月貴博)
2. ターナー症候群における成長ホルモン療法の成人身長に及ぼす諸因子の検討
(羽二生邦彦、田中敏章、堀川玲子、横谷 進、長谷川奉延)
3. 小児腹膜透析患児の年齢、導入時年齢別の長期成長の推移(和田尚弘)
4. Prader-Willi 症候群における成長ホルモン療法に関する研究(棚橋祐典)
5. Prader-Willi 症候群(PWS)における女性ホルモン補充療法に関する検討(村上信行)
−1−
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
6. 軟骨無形成症の成人身長に対する成長ホルモン治療効果の検討(依藤 亨)
7. 成人成長ホルモン分泌不全症における成長ホルモン補充が 24 時間血糖プロファイルに及ぼす影
響(高野幸路、林 哲範)
8. 奇形症候群および染色体異常に対する成長ホルモン治療効果の検討(田島敏広)
9. 成長ホルモン治療に関連したアドバース・イベント解析に有用なこの 1 年間の学会報告
(西 美和)
10. 高血糖による血清 GH/IGF-I 値への影響(高橋 裕)
を以下にまとめる。
−2−
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
ターナー症候群の GnRH アナログの使用実態
望月貴博
大阪警察病院小児科
はじめに
ターナー症候群において、自然に思春期の開始を認め、初経を迎えることがある。この場合、成
人身長は無治療のターナー症候群の平均とされている 139.1cm よりも低い 136cm 程度になり、成長
ホルモン治療を行った場合でも 141.9cm[1, 2] になると報告されている。低身長(130cm 以下)での
思春期の開始により、成人身長の改善が成長ホルモンのみでは期待できない場合の治療として、女
性ホルモン分泌を抑制する GnRH アナログ製剤による治療が行われているが、その人数や治療期間、
効果について不明である。今回その実態について調査する。
対象
1991 年から 2013 年の間に提出された GH 治療中の TS 1752 名を対象とした。
方法
併用薬欄に GnRH アナログ製剤の記載があるものを抽出し解析を行った。治療終了までを報告さ
れていないため、最終報告時とその 1 年前程度になる報告時の身長から成長率を求め、145cm に到
達すると思われる年齢を算出した。
結果
GnRH アナログ製剤の併用の記載があるのは 16 例(0.9%)
。染色体核型については、45,XO:3 名、
45,XO/46,XX:4 名、46,XiXq:2 名、46,XXp-:2 名、45,XO/45,XXp-t (13q15q)、46,X,idic (X)
(p11.2)、45,X,der (X) t (X;7) (p22.1:p11.2) ,der (13:14) (q10;q10)、45,XO/46,X,r (X)、45,XO/46,X,r (X)
(P22.1q21) :各 1 名。両親の身長は、父 166.6±5.6cm、母 156.2±3.5cm。出生時の在胎週数による身
長 SDS:− 1.5±1.4、体重 SDS:− 1.3±1.5 であった。
GH 治療開始時においては、年齢 9.0±3.8 歳、身長 111.7±18.3cm、身長 SDS − 3.2±1.2、肥満度
33±22%、BMI SDS 0.4±1.0 であった。GnRH アナログ開始時は、年齢 11.7±2.3 歳、身長 127.7±
9.3cm、身長 SDS − 2.9±1.3、肥満度 20±22%、BMI SDS 0.03±1.1。GnRH アナログ開始後 1 年目
には n=14、年齢 12.5±2.4、130.9±9.7cm、身長 SDS − 2.8±1.5、成長率 4.3±1.6cm/ 年、肥満度
17±23 %、BMI SDS − 0.2±0.9。GnRH ア ナ ロ グ 開 始 後 2 年 目 は n=9、 年 齢 13.0±1.4、136.4±
5.6cm、身長 SDS − 2.7±1.1、成長率 4.0±1.1cm/ 年、肥満度 1.5±7.3%、BMI SDS − 0.4±0.7。
治療報告最終時から 145cm に達すると予想される年齢は 16.2(12.9 − 22.5)歳。
考察
GnRH アナログの使用症例の割合は、成長ホルモン治療中に自然月経を迎える割合として報告さ
れている 29%(31 人 /108 人)[3]に比べると非常に少なかった。GnRH 併用の報告されている施
−3−
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
設が小児内分泌の専門施設であったため、限られた施設で治療が行われている。GnRH アナログ製
剤の治療開始後 1 年目、2 年目の成長率が 5cm 以下であり、GnRH アナログ製剤の治療が目標身長
に到達するまで非常に長期になると予想されるが、150cm 程度の成人身長を期待するために治療終
了できる 145cm に達する年齢を算出したが 16.2 歳であり、GnRH アナログ製剤の治療期間は 4.5 年
と予想され、女性としての自己確立に問題を抱える可能性がある。
また最終登録データが、現在も治療を行っている症例と治療成績報告が成長ホルモンの治療終了
まで行われず中断してしまっていることが多く、成人身長、治療後の月経開始について解析はでき
なかった。
GnRH アナログ製剤の治療により成人身長の改善が期待できるのか、治療終了後の月経の開始、
骨塩量などについての安全性の確認が必要である。
結論
GnRH アナログ製剤使用症例の報告は少数であった。GnRH アナログ製剤の治療が、治療開始後
の成長率から長期に及ぶリスクがあった。
参考文献
1.
K. Fujita, S. Yokoya, K. Fujieda, A. Shimatsu, K. Tachibana, H. Tanaka, T. Tanizawa, A.
Teramoto, Y. Nishi, Y. Hasegawa, K. Haniu, R. Horikawa, T. Nagai, T. Tanaka : Adult Heights
of 258 Girls with Turner Syndrome on Low Dose of Growth Hormone Therapy in Japan.
Clinical Pediatric Endocrinology 19:63-68, 2010.
2.
望月貴博,藤田敬之助,横谷進.
:成人 Turner 症候群の長期フォローアップについて本人・家
族の会アンケートによる現状調査 . 日本小児科学会雑誌 , 114:43-47, 2010.
3.
岡田義昭:新版 ターナー症候群 . 株式会社メディカルレビュー社 . 東京 . 2001.
治療開始時年齢
治療開始時身長
最終報告時年齢
最終報告時身長
最終報告時治療状況
18.3
13.4
10.6
13.2
11.2
12.6
12.8
10.0
12.6
10.5
12.6
10.4
11.5
9.0
9.3
8.9
138.2
138.1
124.7
130.7
132.8
139.7
128.8
128.0
123.4
119.5
128.3
135.0
131.3
120.9
122.0
101.8
18.8
17.2
15.6
15.2
14.2
14.0
13.8
13.5
13.5
13.2
12.6
12.2
11.5
11.5
10.3
9.4
139.6
148.3
143.7
134.0
145.0
143.6
132.8
142.9
127.3
131.0
128.3
142.5
131.3
132.0
127.0
103.5
GnRHA+GH
GnRHA+GH
GnRHA+GH
GnRHA+GH
GH
GH
GnRHA+GH
GnRHA+GH
GnRHA+GH
GnRHA+GH
GnRHA+GH
GnRHA+GH
GnRHA+GH
GnRHA+GH
GnRHA+GH
GnRHA+GH
−4−
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
ターナー症候群における成長ホルモン療法の成人身長に及ぼす諸因子の検討
羽二生邦彦
羽二生クリニック
田中敏章
たなか成長クリニック
堀川玲子、横谷 進
国立成育医療研究センター生体防御系内科部
長谷川奉延
慶應義塾大学医学部小児科学教室
はじめに
ターナー症候群にヒト成長ホルモン(hGH)療法を行うと明らかに成人身長が改善する。しかし、
hGH 療法を施行されたターナー症候群(TS)の最終成人身長(FAH)は、著明な低身長から標準
を越える良好な身長まで大きな乖離が見られるが、これを規定する要因は不明である。この要因を
解明し、本症の FAH 改善の方策につき検討した。
対象と方法
これまで日本の成長科学協会に、ヒト成長ホルモン治療のためにターナー症候群患者を登録した
全国の主治医にアンケートを依頼し、現在 17 歳以上となっているターナー症候群患者の骨年齢が
14 歳となり、成人身長に到達するまでの一年ごとの身長の調査を行った[1]
。544 施設(1656 例)
にアンケート調査用紙を送付し、155 施設(592 例)より回答を得た。その内解析可能症例は 492
例で、年齢は 17.1 から 42.5 歳(平均 26.6±0.2 歳 SE)であった。性染色体をはじめ、得られたデー
ターが不十分な場合は成長科学協会(FGS)のデーターベースで補完された。個々のデーターの学
問 的 目 的 で の 使 用 に 関 し て は FGS へ の 登 録 時 に 同 意 を 得 た。 統 計 学 的 処 理 に は Dunnett の
Multiple comparison と Mann-Whitney の non-parametric analysis を用いた。
結果
308 例の TS が 0.5IU/kg/w の hGH 療法を施行され、Plateau に達した全例の平均の最終成人身
長(Final Adult Height:FAH)は 146.4cm±0.3(最大 162.0cm、最小 127.7cm)、hGH 開始時と成
人 身 長 到 達 時 の デ ー タ ー は 年 齢 が 10.7±0.2 対 20.1±0.2 歳、 身 長 と 身 長 SD( 健 常 女 児 比 ) が
118.9±0.9 対 146.4±0.3cm、− 3.3±0.05 対− 2.2±0.1SD、ΔHtSDS は 1.1±0.6 であった。一方、骨
年齢 15 歳時から成人身長到達までのデーターは 29 例で得られ、骨年齢 15 歳時の暦年例は平均が
17.0±0.4 歳(範囲 14.0 から 21.3 歳)で身長の平均は 144.6±0.9cm(範囲:133.6 から 153.8cm)
、成
人身長の平均は 146.2±0.9cm(範囲 : 135.3 から 153.8cm)
、成人身長到達までの身長の伸びは 1.6±
0.2cm(0 から 3.9cm)、暦年齢は 20.2±0.5 歳(範囲:15.0 から 24.6 歳)、成人身長到達までの年数
は 3.2±0.4 年(範囲:0 から 7.4 年)であった。
−5−
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
これら 308 例を任意に身長が上位 25% を Good outcome(Good)
、
下位 25% を Poor outcome
(Poor)
、
それらの中間を Standard outcome(Std)と分類し、各々の outcome に関与する要因につき検討し
た。表 1 に示すように成人身長は Good、Std、Poor は各々 152.5、146.7、139.5cm で Good、Poor
は Std に比し明らかな有意差を示した。なお、身長の SD 関連値はターナー女児(TS)の標準値と
比較した。
Multiple comparison における Standard group との比較では、Good outcome および Poor
outcome に寄与する因子[各々 Positive Factor (PF) と Negative Factor (NF) と命名]として表 1
に示す様な順位が得られた。
PF と NF のうち将来の最終成人身長の予測に役立ち、また相互に Overlap せず、更に治療後早
期の予測のために治療後 1 年の身体計測データーに限定して、前者には治療開始時の HtSDS (TS 比 )
( ≧ 0.4)、父の身長 ( ≧ 172cm)、治療開始 1 年後の ΔHtSD (TS 比 ) ( ≧ 0.5) を後者には治療開始時
の HtSDS (TS 比 ) ( ≦ − 0.7)、 治 療 開 始 1 年後の ΔHtSDS (TS 比 ) ( ≦− 0.2)、目標身長 ( ≦
152.5cm)、出生時体重 ( ≦ 2450g) を選び、所有するこれらの要因の数と共有する PF と NF の組み
合わせが、最終成人身長にどのような影響を及ぼしているかについて検討した。
PF ないし、NF の個数と成人身長との関係を検討したところ(表 2)、PF が 0 個の群に比し、そ
れが 1、2、3 個と増えるにつれて成人身長が高くなり(P 値 ; 3 個 VS 2 個、P=0.08 ; 3 個 VS 1 個、
P<0.05 ; 3 個 VS 0 個、P<0.001)、一方 NF の場合は、PF の場合とは逆に 0 個の群に比し、そ
れが 1、2、3 個以上と増えるにつれて成人身長が低くなった(P 値 ; 3 個 VS 2 個、P<0.05 ; 3 個
VS 1 個、P<0.001 ; 3 個 VS 0 個、P<0.001)
。
次に PF と NF を共有する場合の組み合わせとそれらの成人身長を検討した。表 3 からも明らか
なように、NF の個数が一定の時は PF を所有する個数が増えるにつれて成人身長が序々に増加し、
逆に PF の個数が一定の時は NF の個数が増えるにつれて成人身長が低下していることが分かる。
考察
hGH 療法を施行され、身長が Plateau に達した 308 例のターナー症候群の平均の最終成人身長
(Final Adult Height:FAH)は 146.4cm で、骨年齢 15 歳時から成人身長到達まで平均 3.2 年を要し、
この間に 1.6cm の伸びが見られた。
これらの TS において PF を多く有する例では成人身長が高く、NF を多く有する例では成人身長
が低くなる傾向が見られた。また NF、PF の個数が一定の場合も、各々 PF、NF の個数が増える
につれて成人身長が各々増減を示した。PF を有さず NF を複数有する例では FAH が著しく不良で
あった。これらの例では、FAH の改善のために hGH の投与量やタンパク質の摂取の増加、軽い運
動、充分な睡眠、タンパク同化ホルモンや低容量の女性ホルモンの投与等、より積極的な介入が必
要と思われた。
文献
1.
羽二生邦彦,田中敏章,堀川玲子,横谷進,長谷川奉延.ターナー症候群の最終成人身長と合
併症等に関するアンケート調査.成長科学協会研究年報,2010,34:29-32.
−6−
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
表 1 ターナー女性の成人身長への関与が想定される要因
Good group
n=77
n=308
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−7−
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Q ᅾ⫾㐌ᩘ
Birth Wt(g)
Standard group
n=154
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Q 成長科学協会 研究年報 No.39 2015
表 2 ターナー症候群における PF のみないし NF のみの個数と成人身長
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*(ターナー)は未治療ターナー症候群の成長曲線を用いて計算
表 3 ターナー症候群の PF と NF の組合せと成人身長
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* VS Positive Factor 0 個& Negative Factor 0 個群
−8−
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
小児腹膜透析患児の年齢、導入時年齢別の長期成長の推移
和田尚弘
静岡県立こども病院腎臓内科
はじめに
小児腎不全患者数は少なく、欧米諸国のほとんどが移植へ移行していることから、透析患者の長
期的な成長の推移のデータはほとんどない。わが国では長期透析患者も多いことから、今回小児
PD 研究会データの小児腹膜透析(PD)患児の多数例での透析導入後の成長を以前報告したが、導
入年齢別、性別による成長の推移を検討した。
対象
15 歳以下に PD 導入となり、小児 PD 研究会に登録されている患児 1364 名(男児 770 名、女児
594 名)の中で、GH 未使用例(GH 使用症例は使用前まで)1285 例(男児 715 例、女児 570 例)を
対象とした。PD 開始年齢は 7.9±5.0 才で、PD 施行中の成長(移植、死亡、血液透析移行症例は
PD 治療期間のみの身長)の身長データ 3204 個の身長 SD を算出した。性別、PD 導入時別に検討
した。
結果
PD 導入時の全体の身長 SD の平均は -2.14±1.84 で、その後直線的に身長 SD が低下した。男女別
では、PD 導入時年齢は男児 7.9±4.9 歳、女児 7.9±5.0 歳であり、開始時身長データのある 1131 名
(男児 629 名、女児 502 名)の平均身長 SD は男児− 2.15±1.84、女児− 2.13±1.95 とほとんど差は
見られなかった。PD 治療年数が長くなるとともに直線的に平均身長 SD は低下したが、男女差は認
められなかった。
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次に、年齢別に PD 導入時年齢が 0 ∼ 5 歳(464 名)
、6 ∼ 10 歳(362 名)
、11 ∼ 15 歳(454 名)
の 3 群に分けて検討した。導入時の平均身長 SD はそれぞれ− 2.26±2.02、− 2.06±1.57、− 2.09±
1.84 と低年齢群では身長 SD が低かった。PD 治療継続とともに、
どの年齢も徐々に身長 SD は低下し、
6 − 10 歳群がその低下率が強く、治療 5 年後には平均身長 SD は− 3.50±1.85 と 0 − 5 歳群とほと
んど変わらない値であった。一方、11 − 15 歳群では他の群と比較して低下率が低く、− 2.92±
2.00 であった。
−9−
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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考察
小児 PD 患者の治療後長期の成長の推移に男女差はほとんど認められなかった。一方、導入時年
齢には違いがみられた。特に 6 − 10 歳はその成長障害の程度が顕著であり、おそらくその年齢は
PD 導入後長期になると思春期になり、腎不全による成長障害がより明らかになると考えられた。
− 10 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
Prader-Willi 症候群における成長ホルモン療法に関する研究
棚橋祐典
旭川医科大学小児科
目的
Prader-Willi 症候群(PWS)における成長ホルモン(GH)療法は広く認知されているが、多くの
患者の治療データや臨床情報を収集・調査し、調査結果を共有することは治療方針に有用である。
本分担研究では、わが国における最大のデータベースである成長科学協会の申請登録データ解析
から、GH 治療後の身長の伸びと年齢および PWS の遺伝学的病型との関連について検討し、本疾患
における GH 治療の向上を図ることを目的とする。
昨年度は身長 SD スコアを通常の SD スコアと PWS 標準化 SD スコアとを用いて、ベースライン
からの成長 SDS の変化量(ΔSDS)について解析したが、今年度は年齢依存性についての検討と遺
伝子学的病型間の差異について検討した。
対象と方法
2002 年から 2009 年まで成長科学協会に登録申請された PWS 診断症例 165 例(男 92、女 73 例)
のうち、GH 治療が行われ治療経過を把握できた 97 例(男 57、女 40 例)を対象とした。全例に遺
伝学的病型を決定し、GH 治療開始 1 年から 3 年後の身長 SD スコアを解析した。身長 SDS スコア
を 2000 年度版標準曲線データから算出したものを用いる一方で、永井敏郎先生の作成された PWS
標準成長曲線データから算出した PWS 標準化 SDS スコアを用いての解析も行い、両者を比較検討
した。
結果
GH 治療開始時年齢は生後 4 か月から 16 歳、平均 6.1 歳であった。GH 治療開始後 1 年目、2 年目、
3 年目、4 年目につれてドロップアウトおよび未報告例があり、それぞれ 97 例、55 例、35 例、20
例の身長 SD スコアおよび PWS 標準の身長 SD スコアについて解析した。
1)年齢依存性
年齢別の GH 治療の効果を検討するために、GH 治療開始時の年齢を 0 − 3 歳(39 例)、4 − 8
歳(37 例)、9 − 16 歳(21 例)の 3 群に分け、治療後 1 年目、2 年目および 3 年目における治療前
(ベースライン)からの差(ΔSDS)を、身長 SD スコア(左図)および PWS 標準化 SD スコア(右
図)での解析で比較した。
− 11 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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9 − 16 歳の群では、一般の SDS スコアを用いた形跡では他の 2 群に比較して有意に ΔSDS スコ
アは低かったが、PWS 標準化スコアでの解析では、年齢間で ΔSDS スコアは有意差がなかった。
2)遺伝学的病型
PWS の遺伝学的病型を 15 番染色体欠失およびメチル化テストを施行し、片親性ダイソミーまた
は刷り込み変異を示すメチル化陽性例の 2 群に対して GH 治療の効果の差異を検討した。
染色体欠失例は 71 例(73%)、メチル化陽性例は 26 例(27%)であり、平均年齢はそれぞれ 5.7 歳、
7.0 歳であった。2 群間での GH 治療後の PWS 標準の身長 SD スコアの変化には有意差はなかった。
考察
PWS における身長 SDS に対する GH 治療の有用性は、SDS スコアあるいは PWS 標準化 SDS ス
コアを用いても同様に示された。
(昨年度の研究報告書にて報告)
年齢依存性について、身長 SDS を用いた解析では年長児(9 歳以降)における GH に対する身長
SDS の反応性の低下が示されたが、PWS 標準化身長 SDS では、ベースラインの違いのみで GH に
おける身長 SDS の反応性(ΔSDS)は年齢別には有意差がなかった。これは、一般の SDS スコア
においては PWS における思春期発来がないため、身長 SDS スコアが見かけ上思春期年齢では低く
なっていたことに起因すると思われる。思春期年齢での身長評価は、PWS 標準化 SDS スコアを用
いるべきであると考えられる。
遺伝学的病型による差異は、SDS スコアおよび PWS 標準化身長 SDS のどちらにおいてもみられ
なかった。欠失例、メチル化陽性例の頻度は従来からの頻度と一致しており、この 2 群間での他の
要素についての比較検討が必要と思われる。
結論
成長科学協会に登録された 97 例の PWS 症例における GH 治療データ解析から、一般の SDS ス
コアおよび PWS 標準化身長 SDS での解析の比較検討を行った。両者とも GH 治療の有用性は確認
できたが、特に思春期年齢では、PWS 標準化身長 SDS を用いた方が正確な評価ができると考えら
れた。
− 12 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
Prader-Willi 症候群(PWS)における女性ホルモン補充療法に関する検討
村上信行
獨協医科大学越谷病院小児科
対象
獨協医科大学越谷病院小児科にて現在フォロー中の PWS 患者で、女性ホルモン補充療法を行っ
た 10 名である。
方法
女性ホルモン補充療法を行った患者について遺伝型、治療開始年齢、成長ホルモン療法の有無、
知能評価、治療開始時の内分泌学的評価などを行った。骨密度、肥満指数(BMI)
、腰部% Fat に
ついて治療前と治療開始後 2 年について検討した。
結果
遺伝型は欠失 9 名、母性片親性ダイソミー 3 名である。治療開始年齢:15 歳 4 か月から 31 歳 5
か月(中央値 16 歳 11 か月)であった。また、
成長ホルモン療法後の患者は 8 名であった。知能検査:
40 ∼ 62(中央値 49.0)。開始時月経は無月経 9 名、過少 2 名、続発性無月経 1 名であった。開始時
LH:0.6 ∼ 7.9mUI/ml(中央値 2.75)
、開始時 FSH:5.6 ∼ 21.2mUI/ml(中央値 7.6)
、開始時 E2:
10 ∼ 32.7pg/ml(中央値 17.5)であった。その内、2 例は中枢性性腺機能低下と考えられた。また、
開始時の骨減少症は 2 名、骨粗鬆症は 0 名であった。骨密度は治療開始 2 年後では有意に上昇して
いた(P<0.05)
(図 1)。BMI(図 2)および腰部% Fat(図 3)ではそれぞれ有意差は認められなかっ
た。
考察
PWS では性腺機能低下症は必発であり、治療の対象と考えられる。しかしながら、これまで
PWS 女性に対しての性ホルモン補充療法は一定のものがなく、それぞれに治療が行われている。
PWS における女性ホルモン補充療法の適応およびその方法などを検討するために、当科において本
治療を行った患者について検討した。治療開始時の月経は多くは無月経であり、
血中エストラジオー
ルは低値から正常低値であった。中枢性性腺機能低下と考えられた患者は 2 例のみであった。治療
開始時に骨密度は低下していたが、T-score は− 1SD から 0SD のものが 8 例と多く、骨減少症と考
えられる− 2.5SD から− 1SD のものは 2 例であった。治療を行った患者の骨密度は必ずしも低下し
ていなかった。しかし骨密度は本治療開始 2 年後に有意に上昇しており、改善がみられた。一方、
BMI は有意差がみられなかったが上昇傾向がみられた。また、腰部 %Fat の上昇がみられる例が
あった。このことから本治療による体重増加、体組成の悪化が考えられた。しかし、本治療は成長
ホルモン療法に続いて行われた患者が 8 名と多く、成長ホルモン療法中止後に体重増加、体組成の
− 13 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
悪化がみられることから、成長ホルモン療法の中止による影響も十分に考えられる。PWS 患者は軽
度から中等度の知的障害を有しており、本治療により発来する生理の対処ができないのではないか
と考える保護者も多い。しかし、現在本治療が行われた患者の知能は日本の PWS 患者の知能の平
均的なものであり、保護者等の支援、指導があれば十分対処可能なものと考えられた。
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図1
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図2
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図3
結語
女性ホルモン補充療法を行った PWS 患者について検討を行った。本治療により骨密度の改善が
みられた。一方、体重の増加傾向がみられた。今後さらに検討を行い、本治療の適応および方法に
ついて検討を行う予定である。
− 14 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
軟骨無形成症の成人身長に対する成長ホルモン治療効果の検討
依藤 亨
大阪市立総合医療センター小児代謝・内分泌内科
はじめに
軟骨無形成症に対する成長ホルモン治療は、我が国では治験を経て 1997 年 4 月に保険承認され
た。本症に対する GH 治療は、海外で承認がなく独自の保険承認であるが、短期効果に基づくもの
で成人身長に対する検討は少ない(1)。保険承認後 18 年を経て、治療を受けた児の成人身長データが
蓄積してきたため検討を行える条件が揃いつつある。今後本症に対しての新たな治療が模索されつ
つある時期でもあり、先行する成長ホルモン治療の成人身長に対する効果を検討する必要がある。
本研究では成長科学協会に登録された軟骨無形成症患児で、脚延長を受けていない児で、ほぼ成人
身長に到達したと考えられる児について身長データを集積し、既存の日本人軟骨無形成症児の標準
成長曲線と比較してその効果を検討した。近年では成長ホルモンと脚延長術を併用されている症例
が多いが、脚延長術による延長分の評価に必ずしも信頼がおけないため、本研究では対象は脚延長
術を受けていないものに限定した。
対象
成長科学協会データベースに登録された軟骨無形成症患児 878 例の成長データ。
方法
(1) 大阪市立総合医療センター臨床研究倫理委員会において、本研究を行うことの審査を受け、承
認を得た。
(受付番号 150749)
(2) 成長科学協会登録データから、
(ア)経時的な成長データが存在し、女児 12 歳以上、男児 14 歳以上で年間成長率< 2cm となる
までのデータが存在するもの。
(イ)成長科学協会データベースでは脚延長の有無の記載が行われているが、データベース上脚
延長を行っていないものについても、念のため成長曲線上も脚延長を疑わせる急な身長増
加歴がないことを確認して、男児 24 例、女児 32 例を選択した。
(ウ)上記症例について、治療開始時年齢・身長と最終確認時年齢・身長を検討した。
− 15 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
結果
(1) 脚延長を行ったと思われる症例と自然経過をとったと思われる症例の例
脚延長を行ったと思われる症例
脚延長を行っていない症例
(2) 正常児の標準身長と比較した場合
男児
開始時平均身長 SDS
− 4.93
開始時平均年齢
9 歳 1 か月
終了時平均身長 SDS
− 5.12
終了時平均年齢
16 歳 10 か月
開始時平均身長 SDS
− 4.72
開始時平均年齢
7 歳 7 か月
終了時平均身長 SDS
− 4.91
終了時平均年齢
14 歳 8 か月
女児
正常児の標準身長と比較すると、男女とも開始時よりも終了時の身長 SDS は低下している。
しかしながら、身長 SDS が年齢とともに低下するのは軟骨無形成症児の一般的傾向であるため、
引き続き我が国における軟骨無形成症児の成長曲線(2)を対象として GH 治療効果を検討した。
− 16 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
(3) 日本人軟骨無形成症の標準成長曲線を対象としてプロット場合
グレー:開始時身長
濃黒:終了時身長
男女とも開始時身長は概ね軟骨無形成症児成長曲線の+ / − 2SD 内にあるのに対し、終了時で
は上方にシフトしており、+ 2SD を超える症例も少なからず認められることがわかる。
考案
成長科学協会のデータベースには、一般診療として GH 治療を受けた軟骨無形成症児と企業によ
る開発治験からの移行例のデータがともに含まれるが、診断は成長科学協会のエキスパートによる
X 線所見の確認、または治験時の X 線所見の中央判定を経ており、いずれも軟骨無形成症として特
徴的な所見を確認されている。全例に FGFR3 の変異同定が行われているわけではないが、他の骨
系統疾患の混入はないものと考えられる。同じ FGFR3 の変異による軽症型の軟骨低形成症では症
状にばらつきがあり、重症例では軟骨無形成症との鑑別が難しい可能性があるが、そういった症例
は軟骨無形成症と同様と扱ってよいと考えられる。本研究により、軟骨無形成症児に対する現行の
GH 治療に一定の成人身長改善効果があることが確認された。しかしながら、改善効果は他の適応
と比較して大きいものではなく、患者心理の改善や費用対効果の観点からは検討の余地があるもの
と考えられた。
軟骨無形成症に対する GH 治療効果の過去の報告として、原田らによる 28 例の長期効果の検討が
− 17 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
あり(1)
、1SD 程度の身長増加が得られたと報告されているが、症例数が比較的少なく、脚延長例
も含んでいる。本研究では全 56 例の評価を行っており、不正確になりがちな脚延長による増加分の
評価を行っていないため、より包括的な検討ができたと考えられる。現在、本症に対しては CNP
やスタチンなどの新規治療が開発されつつあるが、これら新規治療を評価するうえでの対照データ
としても重要な所見が得られた。
結語
(1) 軟骨無形成症患児に対する成長ホルモン治療が成人身長に及ぼす効果を検討した。
(2) 他の GH の適応症と比較して効果は少ない印象であったが、最終的に本症の自然経過としての
+ 2SD を超える症例が男女ともみられ、一定の効果はあるものと考えられた。
参考文献
1.
原田大輔.軟骨異栄養症に対する成長ホルモン補充療法の長期的治療効果の検討.平成 24 年
度成長科学協会自由課題研究報告書.
2.
立花克彦,他.全国調査に基づいた軟骨無形成症患児の身長の検討.小児科診療,1997;8:1363.
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
成人成長ホルモン分泌不全症における成長ホルモン補充が
24 時間血糖プロファイルに及ぼす影響
高野幸路、林 哲範
北里大学医学部内分泌代謝内科学
背景
In vitro の研究では、成長ホルモンはインスリンによる血糖降下作用を抑制することが知られて
いる。これは脂肪細胞などのインスリン作用の一部の標的細胞において、インスリンによる GLUT4
を介したぶどう糖流入を成長ホルモンが抑制することによると報告されている。このため、2 型糖
尿病を合併している成長ホルモン分泌不全症患者に成長ホルモン補充を行うと、短期では成長ホル
モンの補充によって血糖調節に軽度の悪化が認められる場合がある。しかしながら成長ホルモン補
充を継続すると、成長ホルモン補充の長期効果で腹腔内脂肪を中心とした体脂肪の減少がおこり、
除脂肪体重として測定される骨格筋の重量が増加することによりインスリン感受性の改善が生じ、
一旦悪化した血糖コントロールが回復してゆくことが知られている。これらの観察から、欧米にお
いては、糖尿病を合併した成人成長ホルモン分泌不全症患者においては成長ホルモンの補充は禁忌
ではなく、慎重投与となっている。一方、本邦では糖尿病を合併した成人成長ホルモン分泌不全症
患者に対する成長ホルモン補充は禁忌となっており、本邦以外の地域との大きな相違がある。近年、
成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)患者において、成長ホルモン補充を行わなかった場合に非
アルコール性脂肪肝炎(NASH)や、その進展としての肝硬変の患者が見られることが報告されて
いる。さらに、NASH を発症している患者に成長ホルモン補充を行うと、肝繊維化マーカーの改善
や肝生検の病理像での改善がみられることも報告され、成長ホルモン補充の重要性が指摘されてい
る。しかしながら、NASH を発症している症例は 2 型糖尿病を併発していることも多く、現在の本
邦の制度の上では成長ホルモンの補充による肝硬変への進展抑制が行えないという問題点が明らか
になってきている。この問題を解決するためには、成長ホルモン補充が血糖調節に異常のない
AGHD 患者や耐糖能異常(IGT)を伴う AGHD 患者において、GH 補充が一日血糖プロファイルを
どのように変化させるかを明らかにすることがまず必要である。
目的
本研究では、血糖調節に異常のない AGHD 患者や、耐糖能異常(IGT)をともなう AGHD 患者
に GH 補充を行った場合の血糖変動プロファイルを Continuous Glucose Monitoring(CGM)で解
析し、治療前と治療後 6 か月、1 年目の相違を解析することで、GH 補充が血糖調節に与える影響を
明らかにする。
方法
倫理委員会の承認を得て、この観察研究を行った。書面での informed consent を得た AGHD 患
者に対し、75g 経口糖負荷試験を行い、2 型糖尿病と診断されなかった場合に GH 補充前、補充開
始後 3 か月、1 年後に CGM モニタリングを 5 日間行い、その中の 2 日目から 4 日目までの 3 日間
− 19 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
の 24 時間血糖変動を解析して比較した。インスリン感受性に関係する体組成の変化、生化学デー
タ、腹部エコーによる脂肪肝の状態の評価、血糖平均指標などのデータも同時に測定した。
対象患者数は 10 名を計画している。
結果
現在までに、IGT 症例について補充前と補充開始後 3 か月の血糖変動の解析ができている。血糖
調節に異常のない(NGT)症例のエントリーはまだ達成できていない。
IGT 症例は、全例が成長ホルモンの皮下投与を眠前に行っていた。補充前と補充後、平均血糖や
変動に有意な変化は見られなかった。24 時間 CGM プロファイルを比較すると(図 1 に代表例を提
示)、早朝空腹時(6 − 8 時)の血糖は GH 補充により低下傾向となり、食後や食間の血糖には有意
な差は見られなかった。一方、GH 皮下注射後の就寝後から深夜にかけては、明らかに治療後の血
糖値が 20 − 30 mg/dL 高値の傾向が見られた。
考察
エントリー数が目標数に達しておらず、治療後 1 年目まで経過を終えた症例はまだ少ないが、
IGT 症例の AGHD 患者に GH を補充した場合に、治療前と治療開始 6 か月後では空腹時血糖は低
下傾向となり、食後と食間の血糖に有意な差は見られなかったものの、GH 皮下注後の就寝後から
深夜にかけて治療後に血糖値が軽度上昇する傾向が見られた。
治療後 1 年目に、これらの変化が治療前の状態に回復するのかなど今後の経過の観察が重要であ
る。今後目標症例数に達したところで、インスリン感受性に関与する体組成の変化、脂肪肝の状態
の変化などとの関連についても検討する予定である。また全国アンケートにより、耐糖能異常や軽
症糖尿病症例に対する成長ホルモン補充の経験とその経過を調べ、耐糖能異常者に対する成長ホル
モン補充の効果の経験を蓄積してゆくことも重要であることが理解できた。
図1
CGM による 24 時間血糖変動。3 日間の記録の平均と変動を示している。
治療前(赤)と治療後(青)を示している。
− 20 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
奇形症候群および染色体異常に対する成長ホルモン治療効果の検討
田島敏広
自治医科大学とちぎ子ども医療センター
はじめに
様々な奇形症候群、染色体異常で低身長を示すことがあり、成長ホルモン(以下 GH)治療が行
われることがある。
目的
今回、2005 年から 2015 年の 10 年間に、成長ホルモン分泌不全性低身長症として成長科学協会に
登録された奇形症候群あるいは染色体異常で GH 治療が行われた症例を調査し、GH の有効性を検
討した。
対象
奇形症候群あるいは染色体異常の中で、ダウン症候群 10 例、CHARGE 症候群 6 例、22q11.2 欠
失症候群 6 例、ラッセルシルバー症候群 4 例の登録があり、解析対象とした。
結果
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22q11.2
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6.19+3.17
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-3.47+1.26
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๓
4/2
1 ᖺᚋ
1/1
๓
1/5
1 ᖺᚋ
1/2
6.32+3.28
6.24+3.29
6.17+3.25
-3.09+0.61
-3.54+1.36
-3.50+1.40
-3.35+0.05
-3.56+1.26
-2.23+2.01
-1.88+2.89
-2.36+1.97
4.75+1.77
5.73+1.11
6.32+3.28
4.66+1.76
6.10+0.1
SDS
1 ᖺ㛫ࡢ
ᡂ㛗(cm)
(mean+SD)
まとめ
ダウン症候群、CHARGE 症候群に比較し、22q11.2 欠失症候群の場合、GH に対する反応性は良
好ではない傾向があった。今後、症例数を集めての検討が必要である。
− 21 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
成長ホルモン治療に関連したアドバースイベント解析に有用なこの 1 年間の学会報告
西 美和
広島赤十字・原爆病院
1.SGA 性低身長症に対する成長ホルモン治療中に蛋白尿を呈した 2 例
片山寿夫、田中弘之、他。
(岡山済生会総合病院小児科)
第 67 回中国四国小児科学会 宇部、H27 年 11 月 7,8 日
症例 1: 12 歳女児。在胎 35 週 1 日、出生体重 454g。GH 治療開始後 2 年後から蛋白尿出現。
イミダプリル治療で蛋白尿減少するも持続。
症例 2: 19 歳女児。在胎 35 週 1 日、出生体重 1140g。GH 治療開始後 6 年後から蛋白尿出現。
イミダプリル治療で蛋白尿減少するも持続。
⇒低出生体重児では、腎臓の発生・発達過程の問題などがあり、さらに高容量の GH 治療が
ネフロンへの負荷の増大を招き、蛋白尿を惹起する可能性もある。
2.Turner 症候群に潰瘍性大腸炎を合併した 3 歳児例
茂原研司、久保俊英、他。
(岡山医療センター小児科)
第 67 回中国四国小児科学会 宇部、H27 年 11 月 7,8 日
症例:モザイク 45,X
⇒ TS に炎症性腸疾患(IBD)を合併する頻度は 3.0%前後とされている。
本邦の潰瘍性大腸炎の発病率は約 2 人 /10 万人である。
3.髄芽腫治療後発症した角下嚢胞性歯原性腫瘍の GH 療法による増悪− Gorlin 症候群と異同−
末延聡一、他。
(大分大学小児科)
第 92 回日本小児科学会大分地方会 大分、H26 年 3 月 9 日
日本小児科学会雑誌 2015 年 3 月号.P.623.
症例: 9 歳男児。3 歳時に小脳虫部の髄芽腫摘出。9 歳時に右上顎に多嚢胞性腫瘤あり摘出。
術後 7 か月後から GH 治療開始。9 か月後に、上・下顎部に多発腫瘤の再発。
4.特発性成長ホルモン分泌不全性低身長症に対してアルギニン負荷試験後血尿を認めた 1 例
池田圭、他。
(名古屋記念病院小児科)
第 50 回中部日本小児科学会 信州大、H26 年 8 月 10 日
日本小児科学会雑誌 2015 年 3 月号.P.652.
症例: 5 歳男児。アルギニン負荷試験後 3 日後に肉眼的血尿、蛋白尿。血液検査、腹部超音
波検査では異常なし。入院 2 日目に蛋白尿消失、5 日目に血尿も消失。
⇒ 米国では、アルギニン負荷後の血尿は 3 例報告されている。
− 22 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
高血糖による血清 GH/IGF-I 値への影響
高橋 裕
神戸大学大学院医学研究科糖尿病内分泌内科学
背景
血清 IGF-I 値は GH 分泌の重要な指標のひとつであるが、栄養状態、肝障害、腎障害、コントロー
ル不良の糖尿病などで低下することが知られている。これまで我々は低栄養、飢餓時に GH 抵抗性
が生じ、IGF-I 値が低下する機序として、サーチュインのひとつである SIRT1 が GH シグナル伝達
に重要な STAT5 を脱アセチル化することにより、STAT5 の GH 受容体結合能を阻害することを報
告してきた 1)。糖尿病との関連について、1 型糖尿病患者では血清 IGF-I 値が低下するが、2 型糖尿
病において血清 IGF-I 値が低下するのかという点には議論があり、肥満の影響など考えられている。
今回我々は、2 型糖尿病で入院した症例において血清 GH、IGF-I 値を測定し、糖代謝関連指標との
関連について解析を行った。
方法
神戸大学附属病院に 2010 年から 2013 年に 2 型糖尿病で入院した 327 例の中で、妊娠、下垂体疾
患、甲状腺疾患の合併した症例を除外した 315 例において、糖代謝関連指標と入院翌日早朝空腹時
に測定した血清 GH、IGF-I 値に影響を及ぼす因子について後ろ向きに解析した。
結果
平均 HbA1c は 8.7%、BMI は 26.2 kg/m2 であり、これまでの欧米の報告と比較すると BMI は明
らかに低値だった。血清 GH 値とはいずれの糖代謝関連指標と相関は認めなかった。しかし血清
IGF-I 値は有意ではないものの、血糖、HbA1c が上昇するほど低下する傾向を認めた。そこで空腹
時血糖値 200 以上と未満、HbA1c 12% 以上と未満の 2 群で比較したところ、IGF-I SDS は空腹時血
糖値 200 以上群および HbA1c 12% 以上群では有意に低下を認めた(図 1)
。また多変量解析では、
血清 IGF-I 値は血清 C ペプチド値と有意な正の相関を認めた。さらに、フォローできた症例でコン
トロール改善群と悪化群における血清 IGF-I 値を比較すると、コントロール改善群においてのみ血
清 IGF-I 値の上昇を認めた 2)。
考察
コントロール不良の糖尿病を合併した先端巨大症では、見かけ上血清 IGF-I 値が正常値あるいは
低値を示す症例が報告されており、糖尿病の存在は血清 IGF-I 値を低下させる可能性がある。しか
しながら、1 型糖尿病患者では血清 IGF-I 値の低下が報告されているものの、これまでの欧米から
の 2 型糖尿病についての報告では、血清 IGF-I 値が低下あるいは変化しないなど一定の結果ではな
い。その理由として欧米の報告では肥満症例が大半であり、その影響が否定出来ない。今回の比較
− 23 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
的やせ型の日本人による検討では、空腹時血糖値 200 以上群および HbA1c 12% 以上群では有意に
低下を認めたことから、やはり糖尿病により影響を受けることが明らかとなった。血清 IGF-I 値は
血清 C ペプチド値と有意な正の相関を認めたことは、機序として特に門脈血中の内因性インスリン
が肝臓における GH 受容体発現を正に調節していることで説明できるかも知れない。今回の結果は
コントロール不良の 2 型糖尿病合併成人 GH 分泌不全症、先端巨大症の診断の一助となると考えら
れた。
(文献 2 より引用改変)
文献
1.
Yamamoto M, et al: SIRT1 regulates adaptive response of the growth hormone--insulin-like
growth factor-I axis under fasting conditions in liver. Proc Natl Acad Sci U S A 110 (37):
14948-14953, 2013.
2.
Suda K, et al: The influence of type 2 diabetes on serum GH and IGF-I levels in hospitalized
Japanese patients. Growth Horm IGF Res 29:4-10, 2016.
− 24 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
重症成人成長ホルモン分泌不全症患者の治療成績に関する研究
主任研究者
松野 彰(帝京大学医学部脳神経外科)
高野幸路(北里大学医学部内分泌代謝内科学)
田原重志(日本医科大学脳神経外科)
背景・目的
成人成長ホルモン分泌不全症の患者では、身体面での問題が脂肪体重の増加と除脂肪体重の減少
などの体組成の変化、脂質プロファイルの変化、骨密度の低下、動脈硬化病変の進行等の身体面で
の問題に加え、生命予後の悪化が引き起こされることが明らかになっている。成長ホルモンの補充
によりこれらの身体面での問題とともに、生命予後の悪化も改善することが複数の報告で証明され
た。近年では成人成長ホルモン分泌不全症患者に、脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の
合併が多いことも明らかになり、これについても成長ホルモン補充による改善効果が報告されてい
る。
わが国では、重症成人成長ホルモン分泌不全症患者に対して第 3 相の臨床試験が複数行われ、そ
れぞれで成長ホルモン補充療法が体組成、脂質プロファイルの改善をもたらすことが示された。こ
れらの成果により成長ホルモン補充療法は承認され、わが国でも多くの患者が補充療法の恩恵に浴
するようになっている。
成長ホルモン分泌不全症の患者に体組成の異常が多いこと、成長ホルモンの補充によりそれが改
善することは多くの成績で明らかになってきたが、成長ホルモンがどのような仕組みでこれらの改
善を起こすのかについては、これまでいくつかの報告があるものの、十分に明らかになってはいな
い。中でも、脂肪体重の減少については、成長ホルモンの補充により生じる筋肉量の増加により消
費エネルギーが増加することが主な作用機構ではないかと考えられてきたものの、十分には証明さ
れていない。海外の報告によると、成長ホルモンの補充によって有意な消費エネルギーの増加はみ
られていない。
この問題を解決するために、重症成人成長ホルモン分泌不全症患者に対して、安静時エネルギー
消費を呼気解析により計測し、成長ホルモン補充療法によってどのように経時的に変化してゆくか
を解析した。また、体組成計を用いた体組成解析と糖代謝指標、脂質プロファイルについても経時
的な変化を解析した。
糖代謝指標については、糖尿病合併の成長ホルモン分泌不全症患者に対する成長ホルモン補充療
法が海外では慎重投与となっているのに対し、本邦のみで禁忌となっている。近年その存在が明ら
かになった、成長ホルモン分泌不全症による NASH や肝硬変への進行中の症例において、糖尿病が
合併していると GH 補充ができない。これらの症例では、GH 欠乏状態が続くことによる NASH の
肝硬変への進行が危惧され、それによる健康障害が懸念されている。成長ホルモンは抗インスリン
作用があるため、補充の当初は糖代謝への悪影響が考えられるものの、長期の使用により内臓脂肪
減少、徐脂肪体重の増加などの体組成の改善により糖代謝改善効果もある。実際に、成長ホルモン
− 25 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
分泌不全症患者に成長ホルモン補充を行った際の糖代謝の変化については、長期的な糖代謝指標の
変化の観察、持続的血糖モニタリング(Continuous Glucose Monitoring)などによる詳細な血糖プ
ロファイルの長期観察などで明らかにしてゆく必要がある。本研究でも、消費エネルギーの変化と
ともに、糖代謝異常が生じるかを検討した。
目的
重症成人成長ホルモン分泌不全症患者に対して、安静時エネルギー消費を呼気解析により測定し、
成長ホルモン補充療法によってどのように経時的に変化してゆくかを解析した。また、体組成計を
用いた体組成解析と糖代謝指標、脂質プロファイルについても経時的な変化を解析し、成長ホルモ
ン補充療法がエネルギー消費、代謝に対して及ぼす影響を経時的に検討する。
対象
非糖尿病合併の重症成人成長ホルモン分泌不全症患者 7 名に対して、成長ホルモン補充療法を行
い、体組成、代謝量(REE)
、糖代謝、脂質代謝に関して長期的な効果を評価した。
検討項目
基礎代謝量(BEE; Basal Enegy Expenditure)
:ハリスベネディクトの式より
安静時代謝量(REE)
:間接熱量計 * を用い、安静空腹時に測定。
*Microlife Medical Home Solution 社製 Metabolicanalyzer(MedGem®)
体組成(Tanita 社製 Body Composition Analyser MC-180 を使用)
:体重、除脂肪体重(LBM)
、
脂肪量(FM)
脂質代謝:総コレステロール、中性脂肪、LDL-C、HDL-C
糖代謝:空腹時血糖値(FPG; Fasting Plasma Glucose)、HbA1c
結果
対象症例のまとめ
対象症例は 7 例(男女比 4 : 3)で、年齢は 24 − 58 歳(43±12 歳)、小児期発症が 3 例、成人期
発症が 4 例であった。GH 分泌不全の原因疾患は頭蓋咽頭腫が 5 例、下垂体疾患が 2 例であった。
全例が複数の下垂体ホルモン分泌不全を合併しており、補充療法が行われていた。補充療法のうち、
コートリルとチラーヂンSなどの副腎皮質ホルモン補充療法と甲状腺ホルモン補充療法について
は、sick day の際のコートリルの頓用以外は GH 補充療法の期間内で変更はなかった。
GH 補充による IGF-1 の変化
図 1 に示すように、成長ホルモンの補充により IGF-1 値は− 6.2±3.7、− 1.9±2.8 に改善したが、
− 1 SD を越えず、十分な補充はまだ達成できていなかった。GH の平均補充量は最終で 0.51±0.13
mg/day であった。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
GH 補充による REE の変化
図 2 に示すように、GH 補充前の安静時基礎代謝量 REE は、計算によって得られる本来想定され
る基礎代謝量 BEE に比較して有意ではなかったが低い傾向であった。GH 補充によって REE は経
時的に増加し、36 週目には有意に高値となり、BEE より高値となった。
GH 補充による体組成の変化
図 3 に体組成の 36 か月の変化を示す。GH 補充に伴い、体重、除脂肪体重、脂肪重量は有意な変
化を示さなかった。有意ではないものの徐脂肪体重は増加傾向を示し、脂肪重量は 24 か月目までは
減少傾向を示し、36 か月目でやや増加傾向を示した。
GH 補充による糖代謝指標の変化
図 4 に示すように、GH 補充前の空腹時血糖は 105.6±14.7 と高値であった。GH 補充によって、
空腹時血糖、HbA1c ともに大きな変化は認めなかったが、空腹時血糖については、有意ではなかっ
たものの 101.9±7.4 へと低下傾向を示した。HbA1c の値に変化は認められなかった。
GH 補充による脂質プロファイルの変化
図 5 に示すように、GH 補充によって脂質プロファイルに有意な変化は認められなかった。
中性脂肪値が有意ではないものの、低下傾向を示した。
考察
AGHD 患者に対して GH 補充療法を行うことで、REE は有意に増加した。しかし体重、徐脂肪
体重などの体組成や糖代謝、脂質代謝の改善は認められなかった。本研究では、体組成の測定に体
組成計を用いており、測定原理からも測定誤差が大きい測定方法であったことにより、有意な体組
成の変化を認めなかった可能性がある。また、
7 例中 3 例で GH 補充前より食欲亢進を自覚しており、
食事摂取量の増加が脂肪量の改善に至らなかった原因の可能性がある。また、症例の多くは視床下
部障害を伴う症例で、摂食中枢の障害が疑われる症例もあり、下垂体疾患に伴う GH 分泌不全症の
症例についても十分な症例数を検討することで、体組成の問題については検討を進める必要がある。
これらの体重管理の困難な症例を含めても、成長ホルモン補充を行っても血糖指標に悪化が認めら
れず、新規糖尿病の発症は見られなかった。また空腹時血糖については、改善傾向であったことは
特筆すべきことであった。
本報告は 2016 年 3 月末の時点で、36 週まで追跡可能であった症例についての中間解析である。
現在追跡途中の症例を含めて、十分な症例の蓄積を行っているところである。また一部の耐糖能異
常症例については、24 時間血糖モニタリング(CGM)を用いて、成長ホルモン補充が 24 時間の血
糖プロファイルをどのように変化させるかを経時的に追跡する研究を同時に進めている。重症成人
成長ホルモン分泌不全症における代謝異常の解析、GH 補充によるその変化を追跡しているところ
であり、十分な症例数が蓄積されたところで最終解析結果を報告したい。
− 27 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
結論
重症成人成長ホルモン分泌不全症患者に対する GH 補充療法開始後、36 か月の経過観察で
REE は著明な上昇を認めた。また空腹時血糖値、HbA1c の上昇は認めず、新規糖尿病発症は見ら
れなかった。
謝辞
症例の追跡、解析に大きく貢献していただいた北里大学内分泌代謝内科学林哲範先生、計画、解
析に貴重なご教示をいただいた北里大学内分泌代謝内科学教授七里眞義先生に感謝致します。
図 1 GH 補充による IGF-1 の変化
,*)6'
,*)6'
†
**
#
-2.9±2.3㻌 -2.6±2.6 -2.8±2.2
#
##
-1.9±2.1
-1.9±2.8
-6.2±3.7
0
0
0
0
0
%
HI
RU
H
**: P<0.01, #: P<0.005, ##: P<0.001,†: P<0.0005 vs before GH replacement
図 2 REE の経時的変化
P<0.001
1846±461
1481±224㻌
1251±434
− 28 −
((
SR
VW
5
((
SU
H
5
((
%
(QHUJ\([SHQGLWXUH
NFDOGD\
%
%
HI
RU
H
− 29 −
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0
0
HI
RU
H
0
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/HDQERG\PDVVNJ
0
HI
RU
H
)DWPDVVNJ
%RG\ZHLJKWNJ
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
図 3 体組成の経時的変化
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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図 4 糖代謝指標の経時的変化
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䢶䢰䢷
図 5 脂質プロファイルの経時的変化
− 30 −
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0
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%
HI
RU
H
7FKROPJGO
%
%
0
HI
RU
H
− 31 −
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0
HI
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H
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+'/&PJGO
0
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0
0
%
HI
RU
H
7ULJO\FHULGHPJGO
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
成長ホルモン (GH) 及び関連因子の測定に関する研究
主任研究者
勝又規行 (国立成育医療研究センター研究所)
共同研究者
島津 章 (国立病院機構京都医療センター)
立花克彦 (JCR ファーマ株式会社)
肥塚直美 (東京女子医科大学)
横谷 進、堀川玲子
(国立成育医療研究センター)
望月貴博 (大阪警察病院)
安藏 慎 (東京都立大塚病院)
顧問
田中敏章 (たなか成長クリニック)
はじめに
成長ホルモン(GH)と関連因子であるインスリン様成長因子 - Ⅰ(IGF-I)の測定は、GH 分泌不
全症および GH 分泌過剰症(先端巨大症・下垂体性巨人症)の診断と治療に必須であり、視床下部・
下垂体機能の指標の一つとしても用いられる。これらの測定値が測定キットによりばらつく問題の
対策として、成長科学協会 GH・関連因子検討専門委員会による測定値補正式の作成、リコンビナ
ント GH の較正標品の導入による測定値の標準化がこれまで行われてきた。その成果により GH 測
定キット間の測定値の乖離は許容範囲内となったが、再びキット間差の問題が顕在化したため、平
成 24 年度に専門委員会として実臨床の検体を用いて市販の GH 測定キットの互換性を検討し、実運
用でキットの種類による測定値の差をなくすため、補正式を作成した。平成 26 年度には、平成 24
年度に作成した補正式の妥当性を実臨床の検体を用いて検討した。本年度は、平成 24 年度および平
成 26 年度の両年度で、GH を測定することができた検体の測定値を用いて、各キットの測定値の再
現性を検討した。
研究の方法
現在、日本では 4 種類の GH 測定キット(エクルーシス試薬 hGH:ロシュ・ダイアグノスティッ
クス株式会社,略 ロシュ、アクセス hGH 試薬:ベックマン・コールター株式会社,略 ベックマン、
シーメンス・イムライズ GH II:シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社,略 シー
メンス、E テスト「TOSOH」II(HGH)
:東ソー株式会社,略 東ソー)が市販されている。これら
のうち、ロシュ、ベックマンおよびシーメンスの 3 種類のキットを用いた。
臨床検体(n=40)は分割し、− 70℃で凍結保存した。
ロシュ、ベックマンおよびシーメンスの 3 種類のキットを用い、臨床検体(n=40)の GH を、平
成 24 年度および平成 26 年度に測定した。
各キットの測定値の再現性を検討するために、平成 24 年度の測定値(横軸)を基準とした場合の
平成 26 年度の測定値(縦軸)の分布をプロットした。データの解析は線形回帰モデルで行った。
− 33 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
研究の結果
今回検討した国内市販 GH 測定キットの測定原理は、捕捉抗体にいずれもマウス抗 GH モノク
ローナル抗体を用い、標識抗体にマウスモノクローナル抗体もしくは他動物種のポリクローナル抗
体を用いたサンドイッチ型イムノアッセイ法であり、平成 24 年度と平成 26 年度で用いたキットの
規格に変更はなかった。
平成 24 年度の測定値(横軸)を基準とした場合の平成 26 年度の測定値(縦軸)をプロットすると、
図 1 から 3 に示すように、いずれのキットにおいても測定値はよく一致した。
考察
GH 測定がポリクローナル抗体を用いた競合型ラジオイムノアッセイ(RIA)法であった時代には、
測定キットにより測定値がばらつくことは比較的少なかった。しかし、モノクローナル抗体を用い
たサンドイッチ型測定法が登場すると、測定キットによる測定値の乖離が大きな問題となった。同
一患者の同一検体であっても、どの測定キットを使用したかによってその測定値が異なり、その結
果、診断が異なってしまう可能性が危惧された。そのため、成長科学協会では GH・関連因子検討
専門委員会が、使用する測定キットによって診断や GH 治療適応判定の結果が異なることを防ぐた
めに、平成 3 年度以降、各測定キットによる測定値の相関を検討し補正式を作成して用いることで
対処してきた 1)。平成 10 年度以降は、市販されているすべての測定キットによる測定値の平均を従
属変数として線形関係式を求め、それを補正式とした 2)。その後、測定キットによる測定値の乖離
のほとんどが各キットの標準品が異なる較正標品に準拠していることに起因しており、用いる標準
品をリコンビナント GH に統一すれば測定値の乖離を大幅に減少できることが明らかとなった 3)。
このため平成 17 年から、各キットの標準品はリコンビナント GH あるいはリコンビナント GH の較
正標品 4)(WHO IS 98/574)に準拠した GH を用いるように変更された。これにより、わが国にお
いて GH 測定値の標準化がなされたが、リコンビナント GH を標準品あるいは較正標品とした場合、
測定値は従来の補正値の 60% に減じたため、診断の手引きなどにおいてリコンビナント GH を標準
品とした場合の判定値が改訂された 5)。
しかし、最近キット間の測定値の乖離が再び出現したため、平成 24 年度および平成 26 年度にキッ
ト間の互換性について臨床検体を用いて検討した。その結果、測定値に通常の免疫学的測定法に内
在しうる測定誤差を凌駕するキット間差が明らかとなった。その原因は不明であったが、実運用で
は測定キットの相違による測定値の差を解決するため、平成 24 年度には補正値算出用の補正式を作
成し、この補正値を用いて診断や GH 治療適応判定を行うことを提唱し 6)、平成 26 年度には平成 24
年度に作成した補正式をしばらくは用い続けることが望ましいことを報告した 7)。
本年度は、平成 24 年度および平成 26 年度の両年度で、GH を測定することができた臨床検体の
測定値を用いて、各キットの測定値の再現性を検討した。その結果、各キットによる測定値の再現
性はきわめて良好であることが明らかになった。したがってわが国では、いずれの測定キットを用
いても再現性が高い測定結果が得られ、実運用では補正式を用いて補正値を算出し、この補正値を
用いれば均等な診断および GH 治療適応判定を一貫して行うことができるものと考えられる。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
キット間差は免疫学的検査法である限り避けられない問題である 8)。測定原理の相違、使用する
抗体の違い(ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体)
、抗体の認識部位の特異性(多様な
GH 分子形態に対する反応の相違)、抗原抗体反応の条件(非平衡状態または平衡状態)、いわゆる
マトリックス効果(血清添加の影響)
、用いられている標準標品の違いなどがキット間差に影響して
いると考えられるが、依然として原因の詳細は不明である。今回検討を行った平成 24 度から平成
26 年度の間には各キットの規格に変更はなかったが、規格が変更されれば、これらの要因による影
響も今後異なり得ると考えられるため、測定値の再現性についても再検討が必要になると考えられる。
わが国のみならず、国際的にも GH 測定の標準化に向けた試みがなされている 9)。理想的には、
測定キット毎に基準値や標準値を定めるべきであろう。しかし現実の対応として、測定値の互換や
補正、いわゆるハーモナイゼーション試料による解決策が考えられている。実運用では、キットの
種類による測定値の差をなくすため、補正式を用いて補正値を算出し、この補正値を用いて診断や
GH 治療適応判定を行うことが当面は望ましいと考えられる。
結論
現在市販されている 3 種類の GH 測定キットの測定値の再現性を検討し、良好な再現性を確認し
た。補正式を用いた補正値を用いれば、いずれのキットを用いても均等な医療を一貫して行うこと
ができる。
謝辞
本研究は、平成 27 年度公益財団法人成長科学協会指定課題研究助成および平成 27 年度厚生労働
科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害における診療ガイドライン作成に
関する研究」の助成の一部を得て行われた。また、ご協力いただいた株式会社エスアールエル検査
技術企画部鈴木智子博士、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社日浦美香子氏、ベックマン・コー
ルター株式会社西村和子氏、シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社船越達朗氏、
東ソー株式会社牧浩司氏に深謝する。
参考文献
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Tanaka T, Takano K, Haniu K, Nishi Y, Igarashi Y, Hirano T, Saito T, Tachibana K, Yokoya
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Saito T, Tachibana K, Shimatsu A, Katsumata N, Hizuka N, Fujieda K, Yokoya S, Tanaka T.
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structural relationship. Clin Peadiatr Endocrinol. 2006;15:79-84.
− 35 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
3.
Tanaka T, Tachibana K, Shimatsu A, Katsumata N, Tsushima T, Hizuka N, Fujieda K,
Yokoya S, Irie M. A nationwide attempt to standardize growth hormone assays. Horm Res.
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collaborative study. Biologicals. 2001;29:97-106.
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島津章.GH・IGF-I 測定の変遷.内分泌 ・ 糖尿病科,2006;22:615-620.
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勝又規行,島津章,立花克彦,肥塚直美,横谷進, 圭太,堀川玲子,田中敏章.成長ホルモン
(GH)及び関連因子の測定に関する研究.平成 24 年度成長科学協会研究年報,2012; 36: 29-33.
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勝又規行,島津章,立花克彦,肥塚直美,横谷進,堀川玲子,
圭太,望月貴博,田中敏章.
成長ホルモン(GH)及び関連因子の測定に関する研究.平成 26 年度成長科学協会研究年報,
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Clemmons DR. Consensus statement on the standardization and evaluation of growth
hormone and insulin-like growth factor assays. Clin Chem. 2011;57:555-559.
図 1 GH 測定キット(ロシュ)による測定値の再現性
GH ᐃ࢟ࢵࢺ (ࣟࢩࣗ)
35
y = 0.9882x + 0.0128
R² = 0.9997
H26ᖺᗘGH (ng/ml)
30
25
20
15
10
5
0
0
5
10
15
20
25
H24ᖺᗘGH (ng/ml)
− 36 −
30
35
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図 2 GH 測定キット(ベックマン)による測定値の再現性
GH ᐃ࢟ࢵࢺ (࣋ࢵࢡ࣐ࣥ)
35
H26ᖺᗘGH (ng/ml)
30
y = 0.9637x + 0.0569
R² = 0.9857
25
20
15
10
5
0
0
5
10
15
20
25
30
35
H24ᖺᗘGH (ng/ml)
図 3 GH 測定キット(シーメンス)による測定値の再現性
GH ᐃ࢟ࢵࢺ (ࢩ࣮࣓ࣥࢫ)
35
y = 1.0174x - 0.0983
R² = 0.9985
H26ᖺᗘGH (ng/ml)
30
25
20
15
10
5
0
0
5
10
15
20
25
H24ᖺᗘGH (ng/ml)
− 37 −
30
35
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学童全国調査による日本人のヨウ素摂取状況に関する研究 第 1 報
主任研究者 布施養善
(帝京大学医学部小児科遺伝代謝研究室)
共同研究者 伊藤善也
(日本赤十字北海道看護大学臨床医学領域)
長崎啓祐
(新潟大学医学部小児科学教室)
南谷幹史
(帝京大学ちば総合医療センター小児科)
鬼形和道
(島根大学医学部卒後臨床研修センター)
山口真由
(鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科)
浦川由美子 (元鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科)
塚田 信
(女子栄養大学研究所)
中村 正、東出正人
(株式会社江東微生物研究所微研中央研究所つくば)
研究の背景
ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成に必須の微量元素、微量栄養素で、その欠乏あるいは過剰のいず
れもが甲状腺機能障害を主とする多彩な症状を示す。甲状腺腫は人類の歴史において紀元前から存
在しているが、ヨウ素欠乏症が主たる原因であると認識されたのは約 100 年前のヨウ素の発見以後
である。世界のヨウ素栄養状態は改善されてきているが、日本およびアジアの一部の国以外におい
ては、ヨウ素欠乏症が現在においても公衆衛生の重大な問題である。さらに最近、ヨウ素添加塩の
使用によってヨウ素欠乏症がなくなったとされる国において、再びヨウ素摂取量の減少が認められ、
妊産婦、乳幼児などにおいてヨウ素欠乏のリスクが高まっていると指摘されている。日本において
は、従来からヨウ素過剰摂取による甲状腺機能低下症が問題となるが、最近の我々の行った調査で
も若年者、授乳婦人において食事からのヨウ素摂取量が他の年齢層より少ないことが認められてい
る。
本研究は平成 25 年(2013 年)に日本甲状腺学会が臨床重要課題として「ヨウ素」を採りあげ設
置した委員会「日本人のヨウ素栄養状態の全国実態調査と甲状腺疾患との関係」と、公益財団法人
成長科学協会ヨウ素関連調査研究委員会(いずれも委員長は布施養善、副委員長は紫芝良昌)と協
力してすすめている。
研究目的
全国 47 都道府県において、地域のヨウ素栄養状態の国際的評価基準方法である児童の尿中ヨウ素
濃度を測定し、同時に保護者への栄養調査によるヨウ素摂取量調査を行い、日本人のヨウ素栄養状
態についてのナショナルデータを作成する。
− 39 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
研究方法
1. 調査地域:各県 1 地域、主に県庁所在地、政令指定都市とする。
2. 調査対象:小学校 1 学年から 6 学年までの男女児童約 600 名から 900 名とその保護者男女で調
査への参加に同意したもの
3. 調査項目:
1)児童の随時尿中ヨウ素濃度とクレアチニン濃度の測定
2)保護者への食物摂取頻度調査法(FFQ)による栄養調査
3)採尿日前の学校給食の献立
4. 尿中ヨウ素濃度の測定は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社の iCAP Q ICP-MS 質
量分析計を用いた。
研究結果
1.調査の進捗状況
調査期間は 2013 年 9 月から 2016 年 2 月で、2016 年 5 月現在、12 都道府県、28 小学校において
調査が終了した。調査地域は原則として各都道府県 1 か所であるが、北海道では 3 か所であり、対
象校は 1 か所で 1 から 5 校である。対象児童総数は 16,233 名で、その 65.7%である 10,663 名と保護
者男女 13,569 名より協力を得た(表 1)
。
表 1 調査地域と対象校・児童・保護者数
┴
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㟼ᒸ┴
༓ⴥ┴
ᗈᓥ┴
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ᐑᓮ┴
㛗ᓮ┴
㮵ඣᓥ
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㭯ᒸᕷ
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὾ᯇᕷ
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ᗈᓥᕷ
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ᐑᓮᕷ
㛗ᓮᕷ
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ᾆῧᕷ㻛すཎ⏫
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− 40 −
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
2.尿中ヨウ素濃度値の分布
対象児童の年齢は 6 歳から 12 歳で平均年齢は 9.5 歳である。合計 10,669 本の尿検体のヨウ素濃度
値は 13 から 42,335μg/L に分布し、中央値は 262.0μg/L(253.0μg/gCre)であった。ヨウ素濃度
値は左側に偏在した分布を示し、対数変換によって正規分布を示す(図 1)。
図1
尿中ヨウ素濃度の 25 パーセンタイル値と 75 パーセンタイル値は、それぞれ 157μg/L(151μg/
gCre)および 525μg/L(521μg/gCre)であった。また 5 パーセンタイル値と 95 パーセンタイル
値は、それぞれ 82μg/L(85μg/gCre)および 2033μg/L(1954μg/gCre)であった。
3.ヨウ素栄養状態の評価
WHO のヨウ素栄養状態の評価基準によると、6 歳から 12 歳の小児(学童)の尿中ヨウ素濃度中
央 値 が 100 か ら 199μg/L を 適 量(adequate)、200 か ら 299μg/L を 適 量 以 上(more than
adequate)のヨウ素摂取量としている。最近は 100 から 299μg/L までを適量とすることもある。
本調査では中央値は 262.0μg/L であるのでヨウ素摂取量は適量である。また、ヨウ素欠乏症の指標
とされる尿中ヨウ素濃度が 100μg/L 未満である割合は 8.7%であり、集団としてヨウ素欠乏ではな
− 41 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
い。
4.地域別の尿中ヨウ素濃度値
14 地域の尿中ヨウ素濃度の中央値は 221.5 から 1350μg/L に分布し、地域差が認められた(図 2)
。
中央値が 200 から 300μg/L 未満が 10 地域、400 から 1000μg/L 未満が 2 地域、1000μg/L 以上が
2 地域であった。
図2
表 2 各地域の児童の尿中ヨウ素濃度値
県
市
児童数
北海道
北海道
北海道
旭川市
中標津町
厚岸町
193
213
242
山形県
鶴岡市
610
群馬県
前橋市
918
千葉県
市原市
480
静岡県
浜松市
1326
長野県
松本市
1657
広島県
広島市
546
徳島県
徳島市
559
長崎県
長崎市
1109
宮崎県
宮崎市
1130
鹿児島
鹿児島市
浦添市
西原町
沖縄県
小計
593
1085
10661
各校の中央値 全体の中央値 UI が 100μg/L 未満の児童数
児童数
%
(μg/L)
(μg/L)
231.0
231.0
18
9.3
1071.0
1071.0
19
8.9
544.5
544.5
4
1.7
211.0
14
11.6
243.0
246.0
56
11.5
207.0
71
15.9
217.0
223.0
50
10.6
489.5
489.5
20
4.2
196.0
106
14.0
221.5
245.0
24
4.2
314.0
20
2.3
262.0
208.0
95
12.1
1350.0
1350.0
2
0.4
303.0
31
8.2
196.0
274.0
19
16.7
246.5
1
1.5
196.0
84
13.8
293.0
250.0
11
2.5
273.0
1
1.7
195.0
95
14.6
225.5
261.0
25
5.2
228.0
228.0
55
9.3
223.0
69
10.0
222.0
220.0
41
10.4
931.0
8.7
総数
177
196
212
105
430
426
409
456
679
513
778
682
497
331
105
60
527
382
53
563
373
427
597
331
9309
− 42 −
6から 11 歳
≧ 500μg/L の児童数
39
130
119
21
96
60
25
223
124
91
161
125
495
105
23
13
90
92
10
86
79
83
110
56
2456
%
22.0
66.3
56.1
20.0
22.3
14.1
6.1
48.9
18.3
17.7
20.7
18.3
99.6
31.7
21.9
21.7
17.1
24.1
18.9
15.3
21.2
19.4
18.4
16.9
26.4
総数
16
17
30
16
59
21
62
24
76
58
94
103
49
48
9
6
80
59
6
88
106
165
93
64
1349
12 歳
≧ 1200μg/L の児童数
0
17
2
2
4
1
3
5
5
2
4
5
33
12
1
0
6
3
1
5
11
15
8
1
146
%
0.0
100.0
6.7
12.5
6.8
4.8
4.8
20.8
6.6
3.4
4.3
4.9
67.3
25.0
11.1
0.0
7.5
5.1
16.7
5.7
10.4
9.1
8.6
1.6
10.8
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
5.日本人の食事摂取基準 2015 年版に基づくヨウ素摂取量の評価
栄養素の過剰摂取による健康障害の回避を目的として「耐容上限量」
(tolerable upper intake
level:UL)が年齢別に定められており、ヨウ素については 6 歳から 11 歳が 1 日 500μg/L、12 歳
から 14 歳が 1,200μg/L である。今回の調査では耐容上限量を超える割合は全体として 6 歳から 11
歳が 29.3%、12 歳が 12.4%であった。地域別では 6 歳から 11 歳において広島市が 99.6%と最も高く、
北海道の厚岸町、中標津町は 50%を越えていた(表 2)
。
6.同一地域における尿中ヨウ素濃度値の 12 年間の変化について
北海道の 2 地域では同じ小学校において、それぞれ 2 回、旭川市は 2002 年 8 月(308 名)と 2015
年 11 月(193 名)、中標津町は 2002 年 11 月(275 名)と 2014 年 9 月(213 名)に同様な調査を行っ
た。尿中ヨウ素測定法は化学的定量法から ICP-MS に変更されているが、両者の方法による測定値
はほぼ 100%相関することが確認されている。旭川市の尿中ヨウ素濃度の中央値は 296.4μg/L から
231.0μg/L に減少したのに対し、中標津町は 728.6μg/L から 1071.0μg/L に増加した。また尿中ヨ
ウ素濃度が 100μg/L 未満である割合は旭川市では 4.9% から 9.3%に、中標津町では 6.2% から
8.9%に増加した。尿中ヨウ素濃度値の分布パターンは旭川市では 2 回ともに同じであるが、中標津
町では変化がみられ、ヨウ素濃度値が 3 つのピークを示した(図 3)
。
図3
− 43 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
考案
全国の約 1/4 の都道府県において調査が終了した。尿中ヨウ素濃度から評価した日本人のヨウ素
摂取量は適量であり、6 歳から 12 歳の児童は平均的には 1 日 200 から 300μg 程度を摂取している
と推測され、従来の報告よりかなり少ない。ヨウ素摂取量は日常の食事の内容に大きく依存し、児
童の場合は家庭内での食事の他に学校給食の影響もあると考えられる。現在、保護者の栄養調査と
学校給食の献立の分析を行っているので、その結果により食事との関連が明らかになると思われる。
食物に含まれるヨウ素はほぼ全量が吸収され、その 9 割以上が尿中に排泄されると考えられてい
る。ヨウ素摂取量の評価において、尿中排泄量は生物学的指標として Golden Standard とされて
いる。排泄量を正確に評価するには 24 時間蓄尿を行うが、随時尿においてもクレアチニン補正を
した値が、1 日ヨウ素摂取量にほぼ等しいことが成人においては報告されている。本研究において、
小学生の随時尿中ヨウ素濃度の中央値は 262.0μg/L に対し、クレアチニン補正した中央値は 253.0
μ g/gCre と非常に近似した値であった。小児においても同じ考え方が妥当かどうかの結論は出て
いないが、集団において両者はヨウ素摂取量の評価に同じものとして用いることが出来ると考えら
れる。そこで、随時尿中ヨウ素濃度値を 1 日ヨウ素摂取量とほぼ等しいと見做して、 厚労省が策定
する日本人の食事摂取基準の耐容上限量を越える児童の数をみると、全体の 1/4 近くがこの値を超
えている。ヨウ素は健康人の場合、耐容上限量を超える量を一時的に摂取しても健康に影響がない
ことが知られている。しかし妊婦、授乳婦、高齢者、乳幼児などにおいてはヨウ素過剰摂取による
甲状腺機能異常のリスクが高いとされている。今回の調査で尿中ヨウ素濃度の中央値の高い地域に
おいては、再調査、近隣地域での調査、甲状腺機能検査などが必要であると考えられる。本調査は
継続して行う予定である。
謝辞
全国調査に協力して頂いた児童、保護者、小学校教職員、各地域の医師会、教育委員会に深謝致
します。また本調査の企画、準備において、鶴岡市立荘内病院小児科前部長伊藤末志、群馬大学教
授山田正信、群馬大学名誉教授森昌朋、松本市教育委員・花村医院院長花村潔、浜松医療センター
院長小林隆夫、岡山大学教授宮本香代子、徳島大学教授武田英二、宮崎大学学長池ノ上克、長崎大
学副学長山下俊一、鹿児島大学名誉教授松田惠明、豊見城中央病院理事長比嘉國郎、各先生のご尽
力を頂きましたことに篤くお礼申し上げます。
また尿中ヨウ素の測定を担当した(株)江東微生物研究所微研中央研究所つくば検査部の高橋紀
博、土方美智子両氏に感謝致します。
本研究の一部は第 58 回日本甲状腺学会学術集会(平成 27 年 11 月、福島市)において発表した。
− 44 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
参考文献
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Trace Elements 24:1-37.
3.
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August : 9-11.
4.
塚田信,他.2013 日本人学生のヨウ素摂取量調査−「日本食品標準成分表 2010」に基づいて.
日臨栄会誌 35:30-38.
5.
布施養善,他.2012 ヨウ素に特化した食物摂取頻度調査票による日本人のヨウ素摂取源と摂取
量についての研究.日臨栄会誌 34:18-28.
6.
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査による日本人のヨウ素摂取状況に関する研究 第 1 報 2. 新生児のヨウ素摂取と甲状腺機能
異常との関連に関する研究(中間報告)
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Fuse Y et al. 2011 Iodine status of pregnant and postpartum Japanese women: Effect of
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Endoclinol Metab 96:3846-3854.
9.
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10. Fuse Y et al. 2007 Smaller thyroid gland volume with high urinary iodine excretion in
Japanese schoolchildren: Normative reference values in an iodine-sufficient area and
comparison with the WHO/ICCIDD reference. Thyroid 17:145-155.
11. 伊藤善也,他.2003 学童の甲状腺容積と尿中ヨード排泄量に関する研究(旭川・中標津におけ
る調査),ヨード摂取と甲状腺機能に関する研究.成長科学協会平成 14 年度研究年報 26:56-60.
12. 布施養善,他.2003 学童の甲状腺容積と尿中ヨード排泄量に関する研究(東京都目黒区におけ
る調査)
.成長科学協会平成 14 年度研究年報 26:62-69.
13. 日本人の食事摂取基準 2015 年版.2014 厚生労働省ホームページ .
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/sessyu-kijun.html
− 45 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
低身長児の体格イメージの特徴について
主任研究者
花木啓一
(鳥取大学医学部保健学科母性 ・ 小児家族看護学講座)
共同研究者
金山俊介、青戸春香
(鳥取大学医学部保健学科)
西村直子
(川崎医療福祉大学医療福祉学部保健看護学科)
木村真司
(島根大学医学部看護学科臨床看護学講座)
神﨑 晋
(鳥取大学医学部周産期・小児医学分野)
長石純一
(鳥取市立病院小児科)
梶 俊策、片山 威
(津山中央病院小児科)
はじめに
低身長児が受ける心理社会的なストレスについては、その簡便な評価手法がないことより、今ま
で十分に明らかにされていない。私たちは、低身長児が受けるストレスと、ストレスコーピングや
心理社会適応の関連について調査を実施し、セルフエフィカシー(自己効力感)が心理社会的適応
の指標である自己概念と強く関連していることを明らかにしてきた 1)。
一方、低身長児は身長が低いという身体イメージに加えて、自身に「か弱い」や「弱々しい」な
どの体格イメージを抱きがちで、これは心理社会的適応や自己概念の形成に影響を及ぼすと考えら
れる。ところが、体格イメージの評価方法については従来、適切な方法が存在しなかったために、
低身長児の体格イメージについての知見は乏しいままであった。
そこで本研究では、模式図法とタッチパネル式デバイスによる体格イメージ評価と質問紙による
やせ願望の評価により、低身長児の体格イメージの特徴を明らかにすることを目的として調査を実
施したので報告する。
対象
小中学校に通っている 10 ∼ 15 歳の小児 685 名(男 365 名、女 320 名)を対象とした。その中で、
低身長傾向(身長 SDS ≦ − 1.5 SD)小児 49 名(男 31 名、女 18 名)を低身長傾向群とした。
方法
1)体格イメージ評価(模式図法)
対象者に、痩せから肥満の 5 段階の体型の模式図を示し、自身の現在の体型と一致する図、自身
の理想の体型と一致する図をそれぞれ選択させ、痩せ(1)から肥満(5)の 5 段階の体格イメージ
値として評価に用いた 2), 3), 4)。1 ∼ 5 段階は、それぞれ肥満度− 20%、− 10%、平均、+ 10%、+
20%を示す(図 1)
。
− 47 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
2)やせ願望
研究者らが作成した、小児のやせ願望についての質問紙(11 項目)により評価した。対象者の評
価に先立ち、10 ∼ 12 歳の健常小児 3 名を対象にして同質問紙への回答を求めたところ、回答後に
実施した当該小児への聴取によれば、質問内容を十分に理解していたことと、回答に困難を生じな
かったことが示されている。質問項目は、因子分析による因子構造の確認ならびに Cronbach の α
係数の算出による尺度の信頼性評価を行った。
3)体格イメージ評価(タッチパネル法)
携帯型イメージングデバイス(iPad)を用いて、自身の現在の体型と理想の体型をどのように認
識しているかを解析するソフトウエアを開発した。対象者には、撮影された自己像を水平方向へ無
段階に拡大縮小させ、自身が認識する現在の体型と理想の体型を選択させ、それぞれ実際の自己画
像からの伸縮率(実像を 100%)を算出して評価に用いた。前述の模式図法による値は、自分の体
型を客観視して 1 から 5 に判定するものであるのに対して、このタッチパネル法では現在の体型の
自己認識の正確度を測定するものであるので、同じ体格イメージ評価の名称ではあるが、特に現在
の体型についての情報の意味するものは異なっていることに注意が必要である 5)。
4)統計学的解析
統計解析には SPSS ver 21 を用い、基本統計量の算出を行った。群間の比較には t 検定を用いた。
有意水準はp< 0.05 とした。
5)倫理的配慮
本研究は、鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を得て実施した。
結果
1)身長 SDS
全対象(10 ∼ 15 歳の小児 685 名)については、性別年齢別標準身長より求めた身長 SDS は、男
− 0.089±0.96、女− 0.179±0.97 であった。男女別に身長 SDS の分布を示す。
低身長傾向群については、身長 SDS は、− 2.01±0.49(男− 2.00±0.38、女− 2.04±0.62)であった。
2)実測体型(肥満度と BMI-SDS)
身長と体重の実測値より、
性別年齢別身長別標準体重より算出された肥満度と BMI-SDS を算出し、
実際の体型を評価した。
全対象について、肥満度は男− 2.4±12.3%、女− 2.9±13.5%、BMI-SDS は男− 0.31±0.84、女−
0.33±0.99 であった。
低身長傾向群では、肥満度は+ 0.2±10.9%(男− 0.05±10.8%、女+ 0.66±11.4%)
、BMI-SDS は
− 0.67±0.75(男− 0.82±0.74、女− 0.42±0.72)であった。低身長傾向群では、肥満度はほぼ平均
値を、BMI-SDS はやせ傾向を示したのは両指標の特性の差によるものと判断された。
肥満度は低身長傾向群とそれ以外の対象の間で有意差を認めなかったが、BMI-SDS は男子だけの
対象では低身長傾向群で有意に低値であった(表 1)
。
− 48 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
3)体格イメージ(模式図法)
a)現在の体格イメージ
現在の体格イメージ値は、全対象では男 2.68±0.84、女 2.68±0.82 であった。低身長傾向群
では、2.30±0.69(男 2.07±0.65、女 2.67±0.59)であった。
現在の体格イメージ値は男子で、低身長傾向群はそれ以外の対象に比して有意に低値(痩せ
の方向)を示した(p < 0.001)。低身長傾向群のなかでも同様に、男子のそれは女子のそれよ
り有意に低値であった(表 1)
。
b)理想の体格イメージ
理想の体格イメージ値は、全対象では男 2.66±0.68、女 1.87±0.62 であった。低身長傾向群
では、2.32±0.73(男 2.69±0.60、女 1.72±0.46)であった。
理想の体格イメージ値は、全対象のなかでも低身長傾向群のなかでも、それぞれ女子は男子
より著明な高値を示した(p < 0.001)が、男女ともそれぞれ、低身長傾向群とそれ以外の対
象との間で有意差を認めなかった(表 1)
。
4)やせ願望スコア
質問紙により評価したやせ願望スコアは、全対象では男 20.8±8.3、女 31.7±11.2 であった。低身
長傾向群では、26.3±12.1(男 19.9±5.41、女 36.9±12.6)であった。
やせ願望スコアは、全対象のなかでも低身長傾向群のなかでも、それぞれ女子は男子より著明な
高値を示した(p < 0.001)が、男女ともそれぞれ低身長傾向群とそれ以外の対象との間で有意差を
認めなかった(表 1)。
5)体格イメージ(タッチパネル法)
タッチパネル法で体格イメージの評価を実施できたのは、29 名(男 16 名、女 13 名)であった。
性別年齢別標準身長より求めた身長 SDS は、男− 0.30±0.73、女− 0.38±1.19 であった。
実測体型はぞれぞれ、肥満度は男− 6.4±10.1%、女− 9.3±8.6%、BMI-SDS は、男− 0.63±0.87、
女− 0.79±0.87 であった。
模式図法の体格イメージの現在の体格イメージ値は男 2.7±0.79、女 2.6±0.96、理想の体格イメー
ジ値は男 2.6±0.81、女 1.7±0.48 であった。
タッチパネル法の体格イメージは、現在の体格イメージ粗値は男 100.44±4.6、女 102.3±7.3、理
想の体格イメージ粗値は男 101.5±6.3、女 98.0±6.1 であった。
模式図法とタッチパネル法の体格イメージの相関係数は、
現在の体格イメージで r=0.03(p=0.88)
、
理想の体格イメージで r=0.46(p<0.05)であった。理想の体格イメージについて、模式図法とタッ
チパネル法の関係を示す(図 2)
。
考察
小児にとって低身長であることが心理社会的ストレスを受ける要因のひとつになるとされてい
て 6)、小児が感じているストレスが低身長に起因していること、低身長であることによって心理社
会的適応に困難が生じていることを示した研究もわずかではあるが報告されている 7)。そして、自
− 49 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
身がもつ自分の身体イメージが低身長者の心理社会的適応に関連していることが注目されてい
る 8),9),10)。一方、低身長小児が感じる自己の身体イメージでは、身長が低いことに加えて、自身に「か
弱さ」や「弱々しさ」の体格イメージを抱きがちであることが経験される。このような意識はセル
フエフィカシーの低下に繋がり、自己概念や心理社会的適応に影響する可能性があると考えられる。
本研究では、現在の体格イメージ値が、男子の中だけで低身長傾向群で有意に低値であったこと
は特筆すべきことと考えられる。女子にはこの傾向は認められなかったので、低身長男子に特有の
体格イメージの特徴であることが示唆される。男子の低身長傾向群の実際の体格は(BMI-SDS 値で
は低値であったものの)肥満度ではほぼ平均体重を示していたにも拘わらず、低身長男子は、身長
による心理社会的ストレスを感じる中で、実際には痩せていないのに自身をより痩せていると認識
して、自身に「か弱さ」や「弱々しさ」の体格イメージを抱きがちであると考えられる。これらの
事実は、小児から成人にかけてのトランジション期にある低身長小児について、適切な心理社会的
適応をサポートする際の有用な情報となりうるものである。
本研究では、併せてタッチパネル法による身体イメージ測定機器の開発を行い、神経性食欲不振
症のスクリーニングには有用であることはすでに報告したが、低身長児についての検討はまだなさ
れていない。今回の検討で、理想の体型についてはタッチパネル法は模式図法と良好な相関を認め
たが、これはタッチパネル法も模式図法も、理想の体型をイメージしてそれを選択するという同様
の所作であることから予想された結果といえる。一方、現在の体型についての情報は両法で異なる。
模式図法では、現在の自分の体型を客観視して 1 から 5 を選択するものであるのに対して、タッチ
パネル法では自身の実像をどれだけ正確に認識しているか、つまり現在の体型の自己認識の正確度
を測定するものであるので、今回の検討で両法に有意な相関を認めなかったのは当然の帰結といえ
る。今後はタッチパネル法で得られた情報、つまり身体認識の正確度に神経性食欲不振症だけでな
く、低身長も関連しているかどうかの検討が必要となる。
参考文献
1.
Nishimura N, Hanaki K. Psychosocial profiles of children with achondroplasia in terms of
their short stature-related stress: a nationwide survey in Japan. J Clin Nurs, 2014:23(21-22):
3045-56.
2.
Storz NS Greene WH. Body weight, body image, and perception of fad diets in adolescent
girls. J Nutr Educ 1983:15, 15-18.
3.
Ohtahara H, Ohzeki T, Hanaki K, Motozumi H, Shiraki K. Abnormal perception of body
weight is not solely observed in pubertal girls: incorrect body image in children and its
relationship to body weight. Acta Psychiatr Scand. 1993 Mar;87(3):218-22.
4.
Ohzeki T, Ohtahara H, Hanaki K, Urashima H, Tsukuda T, Tanaka Y, Shiraki K. Maternal
perception of children’s weight in relation to eating disorders. Acta Psychiatr Scand. 1996
Oct;94(4):279-80.
5.
花木啓一,金山俊介.肥満とやせ.小児内科,2016:48(3), 309-314.
− 50 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
6.
Sandberg DE,Michael P. The psychosocial stress related to short stature: does their
presence imply psychological dysfunction? In: Drotar D, editor, Measuring health-related
quality of life in children and adolescents; implications for research and practice. Mahwah,
New Jersey, Lawrence Erlbaum Associates.287-312, 1998.
7.
Noeker M, Haverkamp F. Adjustment in Conditions with Short Stature: A Conceptual
Framework. Journal of Endocrinology and Metabolism 13:1585-1594, 2000.
8.
Hunt L, Rebecca AH, Sandberg DE. Perceived versus Measured Height. Hormone Research
53:129-138, 1999.
9.
Grew RS, Stabler B, Williams RW, et al. Facilitating Patient Understanding in the Treatment
of Growth Delay. CLINICAL PEDIATRICS 22:685-690, 1983.
10. 西村直子,花木啓一,他.低身長児が自分の身長に抱くイメージと心理社会的適応の関連 : 対
面式イメージ身長評価法を用いて.成長,17(1), 33-40, 2011.
表 1 対象者の実際の体格、体格イメージ、やせ願望
男女差と低身長傾向群での検討
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図 1 体格イメージ測定のための 5 段階模式図
− 51 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
図 2 対象者自身の操作により身体像の認識を評価するソフトウエア
タブレット PC 上で稼働し、対象者の「現在の体型」と「理想の体型」の自己認識を評価するソフ
トウエア。撮影した対象者の立位正面像を、対象者自身が水平方向へ任意に伸縮させ、その中から
対象者が「現在の体型」、「理想の体型」と判断する画像を選択する。それぞれ、実像(100%)から
の伸縮率を評価の指標とする。
神経性食欲不振症者は、健常やせ者と比較して理想と現在の身体イメージ値の差が大きく、この差
が 12%以上では、やせ者のなかから神経性食欲不振症者を感度 70%、特異度 91.4% で選別可能であっ
た 5)。
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図 3 理想の体型: 模式図法とタッチパネル法の比較
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− 52 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
幼児期の自閉症児における食事内容と母の心理的側面の検討
主任研究者
宮尾益知
(どんぐり発達クリニック)
共同研究者
野村智実
(東京医科歯科大学大学院)
柿沼美紀
(日本獣医生命科学大学)
上村佳世子 (文京学院大学)
廣中直行
(株式会社 LSI メディエンス)
丹羽洋子
(育児文化研究所)
1.諸言
人間にとっての食事は、生存に必要な栄養を摂取する生理的側面のみの営みではなく、心理的・
社会的側面にも関連した行動である。特に、発達途上にある幼児期の子どもにとって、食事は成長
に必要な栄養摂取の機会になることに加え、咀嚼や味覚等、摂食に関連する身体機能の発育、家族
や同年齢の子どもとの団らん、食事を通じた快の感情の学習、食事マナーを中心とした社会的規範
の学習等、多くの要素を伴う複合的な活動である。また、幼児期は食習慣や食行動の基礎が形成す
る時期でもあり、家庭で食生活管理や子どもへの食育を主として行う母親の影響は大きい 1),2)。発達
障害を有する子どもの場合、こだわり等の疾患特性から食生活や食行動に問題を生じることも多く、
母親に負担を生じることが推測される。しかし、母親の心理的側面と発達障害児の食事との関連を
評価した研究は少ない。
2.目的
幼児期の発達障害児を有する母親を対象に、子どもの食行動の特徴、食事に対する母親の思い、
子どもの身体的発育、および母親の心理的側面について評価する。
3.方法
対象は、児童精神科クリニックに通院している幼児期の発達障害児を有する母親とし、研究参加
の同意が得られる方とした。
調査は以下の質問紙・尺度を用いて実施した。
①自作の質問紙: 属性情報、子どもの食行動の特徴、食事に対する母親の思い、食事の困難な点
と工夫点についてデータを収集する。
②育児ストレス:育児ストレス尺度(PSI-SF)日本語版を用いて測定する。
③抑うつ:抑うつ尺度(CES-D)を用いて評価する。
− 53 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
4.結果
<調査対象者について>
症例数:17 名
平均年齢:5 歳(3 歳 3 か月∼ 6 歳 8 か月)
性別:男児 15 名、女児 2 名
疾患:PDD、ASD、ADHD
合併症:あり 1 名(知的障害)、なし:13 名、不明:3 名
回答者:母親 17 名 平均年齢 38.4 歳 母親の就労状況:あり 7 名、なし:9 名、不明:1 名
<子どもの身体的特徴>
●身長
+ 2SD
+ 1SD
0
− 1SD
− 2SD
不明
㌟㛗
1
2
6
5
2
1
6% 6%
12%
29%
●体重
+ 2SD
+ 1SD
0
− 1SD
− 2SD
12%
㸩㸰SD
㸩㸯SD
㸮
㸫㸯SD
㸫㸰SD
୙᫂
35%
య㔜
0%
1
2
10
4
0
6%
23%
12%
㸩㸰SD
㸩㸯SD
㸮
㸫㸯SD
㸫㸰SD
59%
<子どもの食行動の特徴(複数回答)>
Ꮚ࡝ࡶࡢ㣗஦୰ࡢᵝᏊ
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
− 54 −
その他の回答
★食べる量が少ない
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
Ꮚ࡝ࡶࡀ㣗஦୰࡟ࡍࡿ⾜ື
その他の回答
★よくこぼす
★好きな物だけ食べる
★少し食べると立ち
上がって遊ぶ
★片付けると怒る
★ダラダラ食い
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
㣗஦୰ࡢ㛵ࢃࡾ
その他の回答
★食事中席を立ったり
遊んだりしたら片付
ける
14
12
10
8
6
4
2
0
<食事に関する時間>
●食事の所要時間
朝食:平均 21.8 分(5 分∼ 40 分) 母の就労あり:平均 22.1 分、就労なし:平均 21.5 分
昼食:平均 25.3 分(10 分∼ 40 分)
夕食:平均 35.0 分(15 分∼ 60 分)
●平均的な食事時間
ᮅ㣗
᫨㣗
ኤ㣗
7:00㹼7:30
12
11:00㹼11:30
3
17:00㹼18:00
4
7:31㹼8:00
2
11:31㹼12:00
9
18:01㹼19:00
8
8:01㹼8:30
2
12:01㹼12:30
2
19:01㹼
4
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1
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3
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1
− 55 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
<食事に関わる母親の思い>
●調理に対する困難感
とても感じる
やや感じる
あまり感じない
全く感じない
不明
1
6
8
1
1
●食事をとらせることへの困難感
とても感じる
やや感じる
あまり感じない
全く感じない
不明
1
6
5
3
2
●食事場面での子どもの騒がしさ
とても騒がしい
やや騒がしい
あまり騒がしくない
全く騒がしくない
不明
6%
2
11
3
0
1
●調理や食事をとらせることに
ストレスを感じているか
とても感じる
2
やや感じる
8
あまり感じない
4
全く感じない
2
不明
1
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6% 6%
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18%
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35%
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29%
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0
6
8
2
1
●食事を楽しいと感じているか
とても感じる
やや感じる
あまり感じない
全く感じない
不明
ㄪ⌮࡟ᑐࡍࡿᅔ㞴ឤ
6%
0%
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12%
35%
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47%
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0% 6%
12%
17%
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୙᫂
65%
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6%
12%
12%
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23%
47%
− 56 −
୙᫂
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
●食事に対する困難な点(自由記載)
食行動に関連するもの
食べることにあまり興味がなさそうに感じる/姿勢良く座らせるこ
と/こぼさず食べること/テレビを消すのを嫌がる/最後まで食べ
ない/食事中じっとしていられない/嫌いな物を口に入れると吐く
/食具をうまく使えず、手を使ってしまう
食習慣に関連するもの
見た目で食べる、食べないを決めてしまう/偏食はないが量のムラが
多い/特定の物を嫌がるのでメニューに困る/食べやすいメニュー
を意識した結果、偏りが出ているのではないかと気になる/薄味だ
と食べない事がある/好きな物しか食べない/苦手な物は食べさせ
ないと口に入れてくれない
その他
卵アレルギーのため、食材チェックが少し大変
●工夫している点
調理に関連するもの
好きな物に苦手な物を入れる/見た目が興味をそそる物を作る/な
るべく好きな物、食べてくれそうな物を作る
食環境に関連するもの
食具を好きなキャラクターにする/テレビを消す/「おいしいね」
と言いながら一緒に食べる/体が動かないように肘掛等を設置して
いる/おもちゃなどが目につかないようにしている
食行動に関連するもの
食事中席を立ったら片づける/時間を区切って食事させる
食習慣に関連するもの
嫌いそうな物は少し味見させることから始める/食事を食べないと
おやつをあげない
その他
野菜の産地を子どもに伝える/スーパーで子どもに好きなメニュー
を考えてもらう/食べられない物は無理して与えず、タイミングを
見て与えるようにしている
<母親のストレス・抑うつと子どもの身長・体重との関連>
母親の抑うつ
20
9
27
16
15
8
9
8
16
育児ストレス
234
203
268
211
257
245
219
225
192
0
0
0
0
子どもの身長
+ 1SD − 1SD − 1SD − 1SD + 1SD − 2SD
子どもの体重
+ 1SD
0
0
0
− 1SD
母親の抑うつ
28
2
24
3
10
28
34
17
育児ストレス
262
160
224
213
188
265
306
240
子どもの身長
+ 2SD
− 2SD
0
0
− 1SD
− 1SD
0
0
子どもの体重
+ 2SD
−1SD
0
0
+1SD
− 1SD
0
0
※ 抑うつ(CES-D)のカットオフ値:16
※ 育児ストレス(PSI)のカットオフ値:260
− 57 −
0
− 1SD
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
5.考察
今回の調査では、症例数が少ないものの平均的な幼児期の子どもよりも低身長の子どもが多い傾
向が認められた。食事の時間、特に夕食の時間が極端に遅い対象はおらず、成長に大きく影響する
睡眠時間の減少は生じていないことが推測される。また、臨床的介入を要する母親と介入を要さな
いものの育児ストレスや抑うつの数値が高い母親が多く、その母親の子どもに ±1-2SD の子どもが
多い傾向が認められたことから、母親の心理的側面が子どもの身体的成長に影響する可能性が示唆
された。その背景として、大半の母親は子どもの食事中の様子や食行動に気になる点を抱いており、
子どもの摂食行動を促すための働きかけを行っていた。また、約 60%の母親は食事に対するストレ
スを感じており、母親のストレスが子どもの栄養の摂取量や栄養素の吸収に影響していることが考
えられる。本調査では、対象者数が限られており統計的有意差は認められないが、今後さらなる調
査を行うことで、母親の心理的側面と子どもの成長との関連を明確にしていく必要があると考えら
れる。
6.引用文献
1.
富岡文枝,丸谷美智子,中保彰子.
:食生活における親子のかかわりに関する研究.民族衛生,
63;14-29, 1997.
2.
富岡文枝 : 母親の食意識及び態度が子どもの食行動に与える影響 . 栄養学雑誌,56;19-32, 1998.
− 58 −
成 育 治 療 研 究 報 告
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
個体のヨウ素感受性を規定する遺伝因子の探索
鳴海覚志
慶應義塾大学地域小児医療調査研究寄附講座
目的
ヨウ素摂取過剰による甲状腺機能異常の感受性を規定する遺伝因子を探索し同定すること。
方法
当初、妊婦、新生児のコホートを用いて、個体のヨウ素感受性を規定する遺伝因子を探索する計
画であったが、共同研究施設での倫理審査に想定外の時間を要し、検体収集を行えなかった。しか
しながら、本研究の一環として開発した手法を用いて、個体ヨウ素感受性の遺伝因子に関わる新知
見を得たので報告する。
症例報告(表参照)
【症例】
症例 1:在胎 32 週、出生体重 1,148g で出生。日齢 4 の新生児マス・スクリーニングで異常を認めず。
先天性心疾患のため日齢 22 に造影 CT を行った。日齢 44 のスクリーニング再検での TSH 高値を
契機に甲状腺機能低下症と診断し、日齢 74 まで LT4 を投与した。エコーで甲状腺低形成を認めた。
日齢 129 の造影 CT を再度行ったが、この際には有意な TSH 増加を認めなかった。先天性甲状腺
機能低下症に関わる既知 11 遺伝子には変異を認めなかった。
症例 2:在胎 38 週、出生体重 2,056g で出生。日齢 4 の新生児マス・スクリーニングで異常を認めず。
先天性心疾患のため日齢 52 に心血管造影を行った。日齢 62 のスクリーニング再検での TSH 高値
を契機に甲状腺機能低下症と診断し、3 歳まで LT4 を投与した。遺伝子変異スクリーニングの結果、
DUOX2 にヘテロ接合性変異(p.Cys1411Tyr)を認めた。
ヨウ素造影剤
造影剤使用後初回検査成績
新生児
ヨウ素量
TSH
FT4
尿中ヨウ素
スクリーニング 日齢
日齢
(mg/kg)
(mU/L)(ng/dL) (μg/L)
LT4 内服
甲状腺
形態
遺伝子解析
症例 1
(造影 1 回目)
陰性
22
600
44
150
0.4
1,770
日齢 46-74
低形成
変異なし
症例 1
(造影 2 回目)
陰性
129
600
131
4.2
1.1
133,000
なし
低形成
変異なし
陰性
52
1,500
62
360
0.9
ND
日齢 52-3 歳
正常
症例 2
− 59 −
DUOX2
ヘテロ変異
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
考察
新生児・乳児期にヨウ素造影剤曝露を受けても全例で甲状腺機能低下症を発症する訳でなく、一
個人でも毎回甲状腺機能低下症を発症する訳でない。造影 CT や心血管造影によるヨウ素曝露後の
甲状腺機能低下症の発症には、造影剤使用時期や甲状腺ホルモン合成予備能低下が関与すると推測
される。
本研究助成に関連した発表・論文
・学会発表
志村和浩,石井智弘,柴田浩憲,阿部清美,鳴海覚志,長谷川奉延.「新生児・乳児期早期のヨ
ウ素造影剤使用後に一過性甲状腺機能低下症を呈した 2 例」
第 49 回日本小児内分泌学会学術
集会.2015 年 10 月 10 日,東京.
・論文
なし
− 60 −
自 由 課 題 研 究 報 告
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
韓国の特発性低身長コホートにおける NPR-B 機能低下変異陽性率と
変異陽性率の国際比較
天野直子
東京都済生会中央病院
1.本研究の背景
NPR2 遺伝子によりコードされるナトリウムペプチド受容体 B(NPR-B)は、C 型ナトリウム利
尿ペプチド(CNP)の結合により cGMP を産生する。NPR2 ホモ接合性変異例を有する大家系にお
いて、NPR2 遺伝子変異のヘテロ接合性保因者の平均身長 SD スコアは、非保因者に比較し有意に
低いと報告された。以上より、低身長症集団に NPR2 遺伝子のヘテロ接合性変異例が存在すると考
えられる。我々は、本邦における特発性低身長症 101 例を対象として解析を行い、2 例において機
能喪失型変異を同定し、CNP-NPRB 系の機能低下により低身長症を起こしうることを明らかにして
いる。さらに南米との共同研究により、特発性低身長症(47 例)を対象に、解析に NPR2 機能喪失
型変異を見出している。
2.本研究の目的
韓国の特発性低身長症コホート(約 100 例)における NPR2 機能低下変異頻度と本邦および南米
の変異頻度と比較し、さらに同定された変異の機能喪失メカニズムを明らかにすることである。
3.研究の方法
① 韓国の特発性低身長コホートの集積
韓国 Hallym University Medical Center(Min Jae Kang 氏)との共同研究により、韓国の特発性
低身長症約 100 例のゲノム DNA を集積する。
② NPR2・NPPC 遺伝子解析
韓国の特発性低身長症コホート(約 100 例)を対象に、NPR2 、NPPC 遺伝子の全翻訳領域を
PCR- 直接シークエンス法で解析する。
③ 機能解析
野生型コンストラクト(pcDNA3.1/HA-tagged NPR 2)に同定した配列変化を mutagenesis する。
作成した発現ベクター(野生型、変異型)を COS7 細胞に一過性強制発現させ、機能解析を行う。
cGMP 定量(EIA 法)を行い、同定した配列変化から機能喪失型変異を確定する。同定した機能喪
失型変異の機能喪失メカニズムを明らかにするために、タンパク質発現(ウェスタンブロット法)
、
細胞内局在(蛍光免疫染色)の解析を行う。
④ 特発性低身長症における NPR2 機能喪失型変異頻度の国際比較
我々は、すでに本邦と南米の特発性低身長コホートで同様の研究を行い、機能喪失型変異を本邦
2/101 例、南米 3/47 例同定している。本研究では、これらの結果と韓国の特発性低身長症コホート
との間で変異陽性率を比較する。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
4.結果
① 韓国の特発性低身長コホートの特徴
N=120
性別
男 60 女 60
身長 SDS:範囲(中央値)
− 4.0 ∼− 1.8(− 2.2)
② NPR2・NPPC 遺伝子解析
現 在、 約 半 数 例 の 解 析 が 終 了 し、1 か 所 に ア ミ ノ 酸 変 化 を 伴 う 配 列 変 化(c.1483C>T, p.
Arg495Cys)を同定した。同定した配列変化は過去に報告がなく、Polyphen2 0.999、SIFT 0.15 で
あった。
5.考察
現在、NPR2、NPPC 遺伝子解析途中であり、遺伝子解析終了後に機能解析に進む予定である。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
ターナー症候群の発達・成熟過程における空間認知機能を含む
脳・認知機能および社会適応に関する要因の検討
荒木久美子
秋山成長クリニック小児科
稲田 勤
高知リハビリテーション学院言語療法学科
望月貴博
大阪警察病院小児科
藤田敬之助
大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学
甲村弘子
こうむら女性クリニック
荒木まり子
高知大学医学部小児思春期医学
はじめに
ターナー症候群は空間認知や顔貌認知だけでなく、学習や社会適応などの問題 1)-4)で悩まれてい
ることが多い。私たちは平成 26 年度の研究 5)で、ターナー症候群の若年成人女性と 30 歳以上の女
性の脳・認知機能を検討した。その結果、30 歳以上の女性は若年成人女性と比較して脳・認知機能
が全般的に低く、空間認知障害だけでなく聴覚認知障害も多く、社会適応が不良な場合は処理速度
も低下していることが明らかになった。そこで、本年度は 30 歳以上の一般女性の脳・認知機能の検
討を行い、同年齢のターナー症候群女性と比較検討して脳・認知機能の差を明らかにするとともに、
社会適応に関する社会心理的な要因を検討した。さらに、ターナー症候群女性と一般女性における
若年成人女性と 30 歳以上の女性の脳・認知機能の比較を行い、加齢による脳・認知機能の変化の差
を明らかにするとともに、脳・認知機能の発達や成熟過程と社会経験が及ぼす影響を解析して社会
適応に関する要因を検討した。
対象と方法
対象は、研究の趣旨を説明して協力してもらえた地方都市在住の 30 歳以上の一般女性 6 人(38.5±
3.3 歳)である(表 1)
。
方法は、神経心理学的検査としてWechsler Adult Intelligence Scale-Third Edition(WAIS-Ⅲ)6)
と聞き取り調査を実施し、平成26年度の本研究 5)に報告した明らかな発達障害のない30歳以上の
ターナー症候群女性6人(39.2±7.0歳)の検査結果と比較検討した。さらに、一般女性とターナー症
候群女性の加齢による脳・認知機能の推移を比較検討するために、平成25年度の本研究 7)で報告した
一般の若年成人である専門学校の女子学生7人(20.0±0.1歳)と、平成23年度の本研究 8)で報告した明
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
らかな発達障害のない若年のターナー症候群成人女性7人(21.7±1.7歳)の検査結果を比較検討した。
WAIS-Ⅲは言語性IQおよび動作性IQと全検査IQに加えて、言語理解、知覚統合、作動記憶、処理速
度の4つの群指数の評価を行い、さらに下位検査の中で絵画完成と積木模様、組合せの3項目の評価
点の合計(基準値30)を空間認知スコアとして評価した。
統計検定は平均値、標準偏差および変動係数を算出し、T 検定を行った。
結果
1.30歳以上の一般女性6人のWAIS-Ⅲと聞き取り調査の結果
図1と表2に30歳以上の一般女性のWAIS -Ⅲの結果を示した。6人の言語性IQの平均値は96.0±
18.2、動作性IQの平均値は91.3±8.7、全検査IQの平均値は93.3±14.2と全般的にやや低いながらも平
均であった。群指数では、言語理解の平均値は95.8±17.8と平均であったが、知覚統合の平均値
86.5±9.0と作動記憶の平均値88.2±9.6はやや低く、処理速度の平均値110.3±21.9は平均よりやや高
かった。処理速度の平均値は知覚統合や作動記憶の平均値より有意(p<0.05)に高かった。空間認
知スコアの平均値は24.5±2.3と正常であった。下位検査については、言語性検査の算数の評価点は
6.2±2.1とやや低かった。理解の評価点は13.5±4.3と高く、算数の評価点や数唱の評価点8.8±2.5、
知識の評価点8.3±4.6より有意(それぞれp<0.01、p<0.01、p<0.05)に高かった。表3の個人のさま
ざまな能力の差を示す変動係数については、言語性検査と動作性検査の下位検査の各項目の評価点
の変動係数は大きかったが、有意差は認められなかった。しかし、IQと群指数の変動係数は小さ
く、言語性検査および動作性検査とはそれぞれp<0.01の有意差が認められた。
30歳以上の一般女性の聞き取り調査とWAIS-Ⅲの結果のまとめを表4に示した。症例3を除く一般
女性の5人は結婚されてお子様がおられ、学校卒業後は普通に就職された後に結婚・出産退職され
てしばらくは育児と主婦業をされ、その後再就職して仕事に復帰されていた。症例4と6は結婚前に
は病院勤務をされておられ、症例6は准看護師から正看護師の資格も取得されていた。症例3は独身
で父母と同居され、大学卒業後しばらくは派遣職員であったが、現在の司書としての仕事は評価が
高かった。学歴や仕事は違うが、6人とも社会適応状況や適応への努力は普通かそれ以上であり、
生活への満足度は高かった。しかし、言語性IQについては症例2と4がやや低く、一般的な知識の不
足が原因と考えられ、動作性IQについては症例4を除いて5人が何らかの苦手な課題を持たれていた
が、仕事や家庭生活で困ることはないようであった。症例2については言語性IQ、動作性IQともに
やや低下しているが、対人関係は良好で仕事ではパートの責任者であり、主婦として家庭生活や家
計の維持も普通にできていた。聴覚認知機能については、症例2、4と6は聴覚把持が苦手だが、視
覚認知については6人すべてが正常であった。
2.30 歳以上のターナー症候群女性と一般女性の脳・認知機能の比較検討
30歳以上の一般女性6人と、平成26年度の本研究 5)で報告した30歳以上のターナー症候群女性6人
のWAIS-Ⅲの評価の比較を図2と図3、図4、表5に示した。30歳以上のターナー症候群女性の言語性
IQは90.3±10.8、動作性IQ69.8±4.1、全検査IQは79.0±8.8で、30歳以上の一般女性と比べてIQはす
べてやや低く、動作性IQについては有意差(p<0.01)が認められた。群指数については、言語理解
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96.0±9.7、知覚統合70.2±9.4、作動記憶80.3±16.1、処理速度77.7±11.1で、一般女性と比べて言語
理解に差はなかったが、その他の群指数はすべてやや低下しており、知覚統合と処理速度について
は有意差(それぞれp<0.05、p<0.01)が認められた。また、空間認知スコアの平均値は17.3±4.1と
一般女性より有意(p<0.01)に低下していた。下位検査については、ターナー症候群女性の言語性
検査では理解の評価点が8.0±3.5で、一般成人の13.5±4.3より有意(p<0.05)に低下していた。動作
性検査の評価点については全般的に一般女性より低い傾向を示し、符号、絵画配列、記号探しの評
価点では有意差(それぞれp<0.05、p<0.05、p<0.01)が認められた。
次に、WAIS-ⅢのIQと群指数の変動係数の比較を表6に示した。ターナー症候群女性のIQと群指
数の変動係数の平均値は12.4±4.3で、一般女性の平均値14.8±4.5と比較して差は認められなかっ
た。表7に各個人のWAIS-Ⅲの変動係数を示した。ターナー症候群女性は一般女性と同じく、言語
性検査と動作性検査の下位検査の各項目の評価点の変動係数は大きかったが、IQと群指数の変動係
数は小さく、言語性検査および動作性検査とはそれぞれp<0.05とp<0.01の有意差が認められた。し
かし、ターナー症候群女性は一般女性と比較してそれぞれの変動係数の平均値はほぼ同じで、有意
差は認められなかった。
ターナー症候群女性の臨床像と聞き取り調査とWAIS-Ⅲの結果のまとめを表8と表9に、一般女性
との比較を図5に示した。ターナー症候群女性では学歴は一般女性と差はなかったが、結婚は2人と
少なかった。仕事や社会適応については、一般女性は全員が良好で満足されているのに比べて、
ターナー症候群女性では症例2と症例6の2人が仕事や適応に困られていた。また、ターナー症候群
女性は一般女性と比較して運動苦手が多く、音楽活動や資格の取得に差はなかったがパソコンや
ゲームなどは少なく、段取りや対応、地図は苦手であった。WAIS-Ⅲについてはターナー症候群女
性も一般女性も問題点が多く、特に動作性検査ではほとんどの人が困られていたが、ターナー症候
群女性の困る程度は一般女性より重度であった。聴覚認知障害についてはターナー症候群女性が一
般女性よりやや多かった。しかし、視覚認知障害についてはターナー症候群女性が6人すべてに問
題が認められたのに対して一般女性は1人も問題がなく、明らかな差が認められた。
3.一般の若年成人女性と 30 歳以上の女性の脳・認知機能の比較検討
30 歳以上の一般女性 6 人と、平成 25 年度の本研究 7)で報告した若年の女子学生 7 人の WAIS-Ⅲ
の評価の比較を図 6 と図 7、図 8、表 10 に示した。女子学生の言語性 IQ の平均値は 93.9±10.8、動
作性 IQ 89.1±12.3、全検査 IQ 90.9±7.9 で、30 歳以上の女性と比べて明らかな差は認められなかっ
た。女子学生の群指数については、言語理解の平均値 95.6±14.3、知覚統合 89.0±10.4、作動記憶
91.9±7.9、処理速度 97.6±7.0、空間認知スコア 25.1±5.5 で、30 歳以上の女性と比べて有意差は認
められなかったが、処理速度はやや低い傾向を示した。下位検査については、女子学生と 30 歳以上
の女性に有意差はなく、空間認知スコアにも明らかな差は認められなかった。
女子学生の聞き取り調査やWAIS-Ⅲの結果を表11に、30歳以上の女性との比較を図9に示した。
女子学生は30歳以上の女性と比較して運動苦手やパソコンやゲーム、資格取得には差はなかった
が、音楽経験がやや多かった。段取りや対応苦手は明らかに多かったが、地図苦手はなかった。
WAIS-Ⅲについては、女子学生も30歳以上の女性と同様に問題点が多かった。言語性検査では、女
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子学生で一般的知識の弱さが7人中4人とやや多かったのに対して30歳以上の女性では2人と少な
かったが、30歳以上の女性では6人中3人に聴覚認知障害が認められた。動作性検査では、女子学生
に視覚認知障害が7人中3人認められたのに対して、30歳以上の女性では1人も認められなかった。
4.ターナー症候群女性と一般女性の年齢別の脳・認知機能の比較
ターナー症候群女性と一般女性の年齢別のWAIS-Ⅲの評価の比較を図10と図11、図12、図13に示
した。ターナー症候群女性は一般女性に比して、IQや群指数、空間認知スコアは全般的にやや低
く、加齢により脳・認知機能はさらに低下する傾向を示したが、一般女性は加齢による低下は認め
られず、処理速度については加齢によりむしろ向上する傾向を示した。また、ターナー症候群では
若年成人女性の脳・認知機能は一般女性との差は認められなかったが、30歳以降では動作性IQや群
指数の中の知覚統合、処理速度、空間認知スコアが一般女性より有意に低下していた(それぞれ
p<0.01、p<0.05、p<0.01、p<0.01)。下位検査についても、ターナー症候群女性は一般女性に比し
て全般的に低く、加齢により脳・認知機能はさらに低下する傾向が認められたが、一般女性は加齢
による低下は認められず、理解や符号、記号探しについては加齢によりむしろ向上する傾向を示し
た。
ターナー症候群女性と一般女性の、年齢別の聞き取り調査やWAIS-Ⅲの評価の比較を図14と図15
に示した。ターナー症候群女性は一般女性に比して、若年成人でも段取りや対応、地図苦手が多
く、資格の取得は少なく、WAIS-Ⅲの動作性検査での問題点が多い傾向を示した。また、視覚認知
障害だけでなく、聴覚認知障害も多く、加齢によりさらに問題が増える傾向が認められ、特に視覚
認知障害は全例に認められた。一般女性については、女子学生では段取りや対応苦手がやや多く、
脳・認知機能についても困る問題が多かったが、加齢により聴覚認知障害を除いては困る問題が少
なくなる傾向が認められた。
考察
今回検討した 30 歳以上の一般女性は地方都市に在住されており、学業や資格は普通であるが社会
適応は良好で、資格を生かして再就職された人が多く、仕事にも生活にも満足されていた。WAISⅢの結果は全般的には平均であったが、IQ の個人差が大きかった。群指数の処理速度は知覚統合や
作動記憶より著しく高く、特に症例 2 と症例 3 では高値であった。下位検査は言語性検査の算数が
低く、理解が高かったが、この傾向はすべての症例で認められた。個人の様々な能力の偏移を見る
ために変動係数を検討したが個人差が大きく、特に症例 2 で大きかった。言語性検査と動作性検査
の下位検査の項目の評価点の変動係数は差がなかったが、IQ と群指数の変動係数は著しく小さく、
下位検査の評価点の偏移は IQ と群指数の偏移にあまり影響しないと考えられた。
この結果から、仕事も家庭も順調な 30 歳以上の一般女性の脳・認知機能は、全般的には平均では
あるが個人差や個人内の能力の偏移は比較的大きく、処理速度や理解が高い傾向が認められた。特
に、仕事の評価の高い症例 2 と 3 の処理速度や理解が著しく高いことは特筆すべきことであると考
えられる。症例 2 は IQ が境界線レベルであり、聴覚認知や細部への注意、課題の規則性が苦手で、
個人内の能力の偏移が比較的大きいにもかかわらずパートの仕事の責任を任されており、その社会
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適応の良さは注目すべきことと思われた。
WAIS-Ⅲの解釈では、処理速度は知的能力の発達や認知情報保持による推理、高次の課題解決の
ための記憶の効率的利用とされており 6), 9)、その基本検査は符号と記号探しである。符号は処理想
度だけでなく、短期記憶、学習能力、視覚認知、視覚と運動の協応、視覚的探査能力、認知的柔軟
性、注意力および動機づけを評価する検査で、視覚的処理と順序づけ処理にも関連するとされてい
る。記号探しは処理速度に加えて視覚的短期記憶、視覚と運動の協応、認知的柔軟性、視覚弁別お
よび集中力や聴覚的理解、知覚統合、プランニング、学習能力にも関係する。一方、理解は言語的
推理と言語概念化、言語理解と言語表現、過去の経験を評価して利用する能力、実践的知識を表現
する能力を評価し、慣習的な行動基準についての知識、社会的判断力と社会的成熟度、常識にも関
連する 9)。算数は精神的処理や集中力、注意力、短期記憶と長期記憶、数的推理能力および精神的
覚醒や順序づけ、流動的推理および論理的推理にも関連する。
今回の30歳以上の一般女性の社会適応は良好であるが、各個人の個人内の能力の偏移は比較的大
きいので、若年の時からこのような脳・認知機能の大きな偏移があったとすれば、通常はミスが増
えて作業能力が低くなるため社会適応が非常に難しいと考えられる。しかし、社会適応が非常に良
好であることから、その女性が努力して環境や人間関係、仕事に慣れていき、社会経験を重ねてい
くことで過去の経験を評価して利用する能力や実践的知識を表現する能力および慣習的な行動基準
についての知識、社会的判断力と社会的成熟度、常識が育成されて理解の能力が向上し、さらに認
知情報保持による推理や高次の課題解決のための記憶の効率的利用ができるようになり、処理速度
も向上したのではないかと推察された。すなわち、これらの能力は若年の時には明らかではなかっ
たが、社会に出てから状況に合わせてさまざまな経験や努力をされた結果として獲得されたのでは
ないかと考えられた。今回の検討では、WAIS-Ⅲでは6人中に5人に何らかの問題が認められ、下位
検査の算数の評価が低いことから推察されるように、3人は聴覚認知も苦手であった。しかし、視
覚認知に関しては6人とも大きな問題がなく、段取りや対応、地図で困る人は少なかったので、社
会適応には聴覚認知より視覚認知がより重要である可能性も考えられた。
次に、30歳以上のターナー症候群女性 5)と一般女性の脳・認知機能の比較検討では、WAIS-Ⅲで
ターナー症候群女性は一般女性より動作性IQおよび知覚統合、処理速度、空間認知スコアが著明に
低く、言語性検査では理解が、動作性検査では符号と絵画配列、記号探しが著しく低下していた。
変動係数については明らかな差はなかったが、アンケート調査と聞き取り調査およびWAIS-Ⅲの結
果では、ターナー症候群女性は一般女性と比べて比較的重度の視覚認知障害があり、遂行機能の低
下も推察された。
ターナー症候群の特徴として動作性 IQ が言語性 IQ より低下し、群指数の知覚統合や空間認知ス
コアが低いが、今回の検討では処理速度や理解、符号、絵画配列、記号探しも著明に低下していた。
処理速度の基本検査は前述の通り符号と記号探し 6), 9)であり、絵画配列は知覚統合因子の一つで結
果の予測や時間的順序の理解および時間概念を意味しており、昨年度の本研究で私たちが初めて 30
歳以上のターナー症候群での低下を報告した 5)。理解についても明らかな低下が認められたが、今
回対象とした 30 歳以上の一般女性の平均がやや高いので、その影響で有意差が認められた可能性も
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否定できないと思われた。これらの結果から、30 歳以上のターナー症候群女性では同年齢の一般女
性と比較して、従来から指摘されていた聴覚認知障害や比較的重度の視覚認知障害だけでなく、認
知情報保持による推理、高次の課題解決のための記憶の効率的利用や場面の展開を考える結果予測
や時間概念などの社会的な認知機能の低下が認められ、社会適応には困難が伴うことが推察された。
また、この原因についてはこの 2 群の時代の差がないことから、社会や教育の差というよりターナー
症候群の脳・認知機能の特性によるものではないかと考えられた。
さらに、ターナー症候群女性と比較するために、一般の若年成人女性と30歳以上の女性の脳・認
知機能の比較検討を行った。WAIS-Ⅲでは女子学生と30歳以上の一般女性では、IQや群指数に明ら
かな差は認められなかったが、女子学生の処理速度がやや低い傾向が認められた。下位検査や空間
認知スコアにも明らかな差は認められなかったが、言語性検査の理解については女子学生がやや低
い傾向を示した。アンケート調査と聞き取り調査およびWAIS-Ⅲの結果では、女子学生は一般女性
と比較して段取りや対応が苦手で比較的軽度の視覚認知障害が多かった。これらの結果から、女子
学生は30歳以上の一般女性より処理速度や理解がやや低く、視覚認知機能や遂行機能の低下が推察
されたが、30歳以上になるとこれらの苦手な問題は少なくなり、聴覚認知障害が増えると考えられ
た。すなわち、一般女性では、学生時代は社会適応には不利と考えられるさまざまな問題を抱えて
いるが、社会に出て経験と努力を重ねていくとそれらの問題は軽減されて理解や処理速度、遂行機
能が向上していくが、30歳以上になると聴覚認知障害がやや増えると推察された。
ついで、社会経験や努力による脳・認知機能の差を明らかにするために、ターナー症候群女性と
一般女性の年齢別の比較を行った。ターナー症候群では若年成人女性の脳・認知機能は一般女性と
の差は認められなかったが、30 歳以降では動作性 IQ や群指数の知覚統合、処理速度、空間認知ス
コアが一般女性より著明に低下していた。すなわち、ターナー症候群女性は一般女性に比して全般
的に脳・認知機能が低く、加齢によりさらに著明に低下する傾向が認められたが、一般女性は加齢
による低下は明らかではなく、理解や処理速度については加齢によりむしろ向上する傾向が認めら
れた。また、ターナー症候群女性は若年成人でも段取りや対応が苦手で地図苦手も多く、視覚認知
障害だけでなく聴覚認知障害も認められたが、加齢により問題はさらに増える傾向が認められ、30
歳以上になるとすべての人に比較的重度の視覚認知障害が認められた。一方、一般女性については、
女子学生では段取りや対応苦手がやや多く、脳・認知機能についても困る問題が多かったが、加齢
により脳・認知機能は向上し、聴覚認知障害を除いて困る問題が少なくなる傾向が認められた。
本研究で注目すべきことは、ターナー症候群女性の脳・認知機能は、若年成人では一般女性と比
較して明らかな差は認められないが、30歳以上になると視覚認知障害だけでなく、動作性IQや群指
数の知覚統合、処理速度が一般女性より著明に低下していたことである。しかし、一般女性の脳・
認知機能については、女子学生は多少の問題が認められたが、30歳以上になると能力やその偏移の
個人差は大きくなるが、処理速度や理解は向上してこれらの問題が改善されることが判明した。す
なわち、一般女性では成人になっても社会での経験や努力で脳・認知機能は年齢とともに成熟して
向上するが、ターナー症候群女性ではむしろ低下しており、経験や努力による脳・認知機能の向上
や成熟はあまり期待できないことが推察された。今回の検討はWAIS-Ⅲと聞き取り調査による評価
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だけであるが、30歳以上の社会適応の良い一般女性の能力とその偏移の個人差が大きいことは驚き
の結果であった。しかし、同年齢の一般女性との比較でターナー症候群女性の脳・認知機能の特性
がより明らかになったと考えられ、興味深い結果であった。
昨年度に報告した 30 歳以上のターナー症候群女性の検討 5)においても、30 歳以上の女性は若年
成人より全般的に脳・認知機能がやや低下し、視覚認知障害だけでなく聴覚認知障害も多くなり、
年齢や経験による脳機能の向上や成熟があまり認められないことが示唆されたが、今回の一般女性
との比較で、成人になってからの脳・認知機能の成熟の差がより明らかになったと考えられた。今
後の課題としては、成人になってからのターナー症候群女性の脳・認知機能の向上をどのようにし
て支援していくかが重要である。ターナー症候群女性は視覚認知障害だけでなく聴覚認知障害を持
つことが多く処理速度も遅いので、一般女性とは異なるきめ細やかな支援を行わないと脳・認知機
能の成熟が期待できないことが推察され、職業選択や職業の訓練方法にも工夫が必要である。
ターナー症候群成人女性の生活については、健康に関する問題は一般女性より多いと報告されて
いる 10)− 12)。デンマークの 1960 年代から実施されている登録事例 10)の報告では、30 歳以降の収入や
教育は普通で引退が早く、米国の NIH の報告 11)では一般女性より教育や職業はよいと報告されて
いる。ノルウェーのアンケート調査 12)では、教育レベルや仕事は一般女性と同じで生活にはよく適
応できていると報告されたが、その後の追跡調査 13)で自己肯定や生活への満足度が少なく、若い時
の身体や精神の健康状態が影響する可能性が示唆された。わが国でのターナー症候群成人女性の仕
事や学業については、私たちのアンケート調査 14)で一般女性と差がないことが判明したが、収入や
満足度などの調査などはできておらず、今後のさらなる検討が必要である。
今回の検討は対象人数が少なく、WAIS-Ⅲと聞き取り調査による検討だけで、性格特性などの詳
細な検討はできていない。今後は人数を増やして脳・認知機能をさらに詳細に評価して検討してい
くと同時に、同じ人を経年的に継続して評価を行い、個人の社会経験による成熟の過程を長期にわ
たってみていく必要があると考える。今回の検討から、ターナー症候群女性は一般女性のように経
験から普通に学んでいくことはあまり期待できず、脳・認知機能の成熟のためには小児期だけでな
く成人になっても特別な支援が必要で、特に新しい環境で生活を始めるときには事前に時間をかけ
て十分な準備をすることが望ましいと思われる。
今後の課題は支援の具体的な方法であるが、私たちが作製した成人の訓練方法 8)だけでは不十分
と思われる。イギリス・ターナー協会の冊子 15)では、ターナー症候群の問題として集中力の不足や
短期記憶力や筋肉の協調運動の低下、スタミナやエネルギーの不足、技能のバランスが取れていな
い、指示についていけないことを挙げており、対応策として1対 1 の対応をすること、資料やプリ
ントを使い言葉ではっきりと詳細な指示を出すこと、予定表やノートを活用してリストを作ること、
慣れるまでは十分な時間をかけること、同時に複数の作業を避けることなどのアドバイスをしてい
る。これらの問題は小児期から認められることが多いので、教育面での配慮も必要である。視覚認
知機能や目と手の協調運動の問題については、学校などで何らかの問題が判明した時点で必ず評価
を行い、必要に応じてできるだけ早い時期から訓練を開始することがその後のスムーズな社会適応
につながると考えられるので、特に注意が必要である。
− 69 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
文献
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15. 監修 藤田敬之助,訳 荒木久美子.:ターナー女性の学校生活と教育.イギリス・ターナー協会
の冊子とわが国の体験談.株式会社 メディカルレビュー社.東京.2016.
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図 1 30歳以上の一般女性のWAIS-Ⅲの結果
160
140
120
100
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60
40
20
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図 2 30歳以上のターナー症候群女性と一般女性のWAIS-Ⅲの比較
ターナー症候群女性
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100
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20
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図 3 30歳以上のターナー症候群女性と一般女性のWAIS-Ⅲの比較
120
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図 4 30歳以上のターナー症候群女性と一般女性のWAIS-Ⅲの下位検査評価点の比較
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40
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15
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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図 5 30歳以上のターナー女性と一般女性の聞き取り調査とWAIS-Ⅲの比較
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図 6 女子学生と30歳以上の一般女性のWAIS-Ⅲの評価
女子学生
140
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160
140
120
100
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図 7 女子学生と30歳以上の一般女性のWAIS-Ⅲの評価
120
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40
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図 8 女子学生と30歳以上の一般女性のWAIS-Ⅲの下位検査評価点の比較
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図 9 女子学生と30歳以上の一般女性の聞き取り調査とWAIS-Ⅲの比較
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図 11 年齢別のターナー症候群女性と一般女性のWAIS-Ⅲの比較
120
100
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若年成人
60
40
20
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120
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図 12 ターナー症候群女性と一般女性の年齢別のWAIS-Ⅲの下位検査評価点の比較
12
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図 13 年齢別のターナー症候群女性と一般女性のWAIS-Ⅲ下位検査評価点の比較
25
20
若年成人
15
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図 14 ターナー症候群女性と一般女性の年齢別の聞き取り調査とWAIS-Ⅲの比較
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図 15 年齢別のターナー症候群女性と一般女性の聞き取り調査とWAIS-Ⅲの比較
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
表 4 30歳以上の一般女性のアンケート調査と聞き取り調査およびWAIS-Ⅲの結果
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表 5 30歳以上のターナー症候群女性と一般女性のWAIS-Ⅲの比較
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
表 6 30歳以上のターナー症候群女性と一般女性のWAIS-Ⅲの平均値とSDおよび変動係数の比較
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表 7 30歳以上のターナー症候群女性と一般女性の個人のWAIS-ⅢのSDと変動係数の比較
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
表 8 30歳以上のターナー症候群女性の臨床像
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表 9 30歳以上のターナー女性の聞き取り調査およびWAIS-Ⅲの結果
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表 10 女子学生と30歳以上の一般女性のWAIS-Ⅲの比較
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表 11 女子学生の聞き取り調査とWAIS-Ⅲの比較
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− 83 −
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
優性遺伝性 GH1 遺伝子異常症の発症機序に関するヒト化 GH マウスを用いた研究
有安大典
熊本大学生命資源研究・支援センター
疾患モデル分野
背景・及び昨年度までの研究経過
GH は骨の長軸方向の成長に必須のホルモンであり、下垂体前葉から分泌される。GH 分泌不全に
起因する低身長症は、小児 3500 ∼ 10000 人に 1 人の割合で発症し、うち一部は GH をコードする
GH1 遺伝子の異常が原因である。
GH1 遺伝子の欠失をヘテロに有する患者の身長は正常であり、正常な GH 分泌には 1 アレルの野
生型 GH1 遺伝子だけで十分であることが推察される(図 1)。しかし、GH1 遺伝子イントロン 3 ス
プライスサイト変異をヘテロに有する患者は、片方のアレルが野生型であるにもかかわらず GH 分
泌不全を呈する(図 2)。この疾患は優性遺伝性 GH1 遺伝子異常症と呼ばれ、発症機序として変異
型アレルによる優性阻害効果が提唱されている。しかし、数々の先行研究にもかかわらず、優性阻
害効果の詳細は、本症が初めて報告されてから 20 年以上経過した現在でもいまだ不明である。
本症ではスプライシングエラーにより、120 塩基対のエクソン 3 がインフレームに欠失した変異
型 GH(Δ3 GH)が産生されることが知られており、優性阻害効果は細胞内で共存する野生型 GH
と Δ3 GH の相互作用により発揮されるという説と、Δ3 GH 単独により発揮されるという説が存在
する。前者では、野生型 GH と Δ3 GH がヘテロダイマーを形成して蓄積し、アポトーシスが起こ
、後者では小胞体に局在する
る報告があり(Kannenberg K et al., J Neuroendocrinol 19:882,2007)
Δ 3 GH により小胞体ストレスおよびアポトーシスが惹起される報告がある
(研究業績 3)
。いずれも、
優性阻害効果に細胞死が関与すると考える点で共通している。
【図 2】本症
【図 1】GH1 遺伝子ヘテロ欠失
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3
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− 85 −
4
5
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
上記の先行研究はいずれも in vitro の報告であり、優性阻害効果の解明のためにはモデル動物を
用いた解析が不可欠である。既報の本症モデル動物は Δ3 GH トランスジェニックマウス(Δ3Tg)
のみであり、GH ノックアウト(KO)マウスに近い重度の成長障害を呈する(McGuinness L et al.,
Endocrinology 144:720,2003)。しかしヒト本症患者の成長障害は、KO マウスがモデルになるヒト
GH1 遺伝子ホモ欠失患者より軽度であり、両者の表現型には解離がある。また、Δ3Tg はトランス
ジーンの発現が確認できないほど重度の細胞死が起こるため、優性阻害効果の詳細は解析されてい
ない。すなわち、Δ3Tg は本症の病態を正確に再現できていないことが強く示唆される。
そこで申請者らは、所属研究室において独自に開発された変異 lox サイトを用いた遺伝子組み換
、
えを容易にする「exchangeable vector」を用いて(Araki K et al., Nucleic Acids Res 3:e103,2002)
両アレルのマウス Gh 遺伝子を、それぞれヒト野生型 GH1 遺伝子(WThGH1)と、Δ3 GH を産生
するヒト変異型 GH1 遺伝子(Δ3hGH1)に置換した「ヒト化 GH マウス」を作製した。表現型を調
べた結果、ヘテロ欠失モデルより小さく、ホモ欠失モデルより大きい軽度の成長障害を呈した(図 3)
。
この表現型は Δ3Tg では再現できないヒト本症患者の臨床像と酷似しており、臨床像を正確に再現
する本症モデルマウスの作製にこの 20 年間で初めて成功したと考える。
【図 3】
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目的
本研究の目的は、このヒト化 GH モデルマウスを用いて、本症における優性阻害効果の分子生物
学的詳細を解明することである。
方法
成長曲線上、WThGH1/Δ3hGH1はWThGH1/WThGH1やWThGH1/−と比べて生後4週齢より明
らかな成長障害をきたすため、優性阻害効果の検証は概ね生後4週齢で行った。
1.得られた表現型が GH 分泌不全によるものであることを以下の方法で確認した。
A. 血漿中 IGF-1 値を測定(ELISA 法)
B. 抗 GH 抗体によるウェスタンブロッティング
C. RTPCR による GH1 mRNA の発現の検証
2.GH 産生細胞の細胞死が関与するかどうかを TUNEL 法で検証した。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
結果
1.GH 分泌能の検証
1-A. 血漿 IGF1 値(ELISA 法)
我々はWThGH1/WThGH1、WThGH1/−、WThGH1/Δ3hGH1、−/−を用いて、4週齢の血
漿中IGF-1値をELISA法にて検証した。その結果、WThGH1/Δ3hGH1ではWThGH1/WThGH1
やWThGH1/−と比べて有意にIGF-1値が低値であり、成長障害がGH分泌不全によることを示唆
する結果となった。なお、−/−では血漿中IGF1値は感度未満であり、マウスにおいてもIGF-1値
がGH分泌能の良い指標になることを確認できた。
1-B. 抗 GH 抗体によるウェスタンブロッティング
我々は4週齢の下垂体を用いて抗G H抗体によるウェスタンブロッティングを行った。
WThGH1/Δ3hGH1では、WThGH1/WThGH1やWThGH1/−と比べて野生型GHのシグナルが著
明に低下しており、優性阻害効果は下垂体での野生型GH産生障害によるものであることが強く
示唆された。
1-C. RTPCR による hGH1 mRNA の発現検証
我々は4週齢の下垂体からR N Aを抽出し、R T P C RでG H1 m R N Aの発現量を検証した。
WThGH1/Δ3hGH1では、WThGH1/WThGH1やWThGH1/−と比べてmRNAのレベルからGH1
の発現が低下していることが明らかとなった。
2.TUNEL 法による組織学的検証
我々は上記の mRNA レベルでの発現低下が細胞死の結果である可能性を考え、4 週齢の下垂体を
用いて組織学的検証を行った。その結果、WThGH1/Δ3hGH1 の下垂体では細胞構築が完全に保
たれ、アポトーシス陰性であることが明らかとなった。
考察
上記結果から、本症優性阻害効果の本態は、下垂体における野生型 GH1 mRNA の産生低下によ
るものであることが示唆される。下垂体前葉は複数のホルモン産生細胞の集合体であるため、上述
の下垂体における GH1 mRNA の低下は、個々の GH 産生細胞内での GH1 mRNA の低下か、GH 産
生細胞数の低下のいずれかによると考えられる。そのため、今後 GH 産生細胞数の評価を行う必要
がある。GH に対する免疫染色で GH 産生細胞数の評価は理論的に可能であるが、発現が低下する
因子に対する免疫染色では、正確な評価は難しい。そのため、GH 産生細胞特異的に発現している
と考えられる GH 放出ホルモン受容体(GHRHR)に対する抗体を用いて免疫染色を行う。
上述のように、従来の先行研究では、本症における Δ3 GH の優性阻害効果はタンパクレベルで
発揮されるものであり、GH 分泌不全の経時的な増悪には細胞死が関与しているということが大前
提となっていた。しかしながら、我々の作製したモデルマウスを用いた解析では、細胞死を伴わな
い mRNA レベルの優性阻害効果が見られており、優性阻害効果は先行研究では捉えられない全く
違った機序で起こっていると考えられる。
− 87 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
グレリン遺伝子改変動物を用いた、老齢期の GH 分泌低下及び
食欲低下に関するグレリンの役割の検討
有安宏之
和歌山県立医科大学内科学第一講座
研究の背景と目的
我が国において、総人口に占める 65 歳以上の人の割合(高齢化率)は、昭和 25(1950)年の
5.1%から平成 22(2010)年には 7.7%に上昇しており、今後も高齢化は急速に進展することが予想
されている(文献①)
。老齢期には GH 分泌低下(ソマトポーズ)や摂取カロリー低下(加齢性食欲
不振)を認めることが多く、加齢に伴う筋肉量・骨量低下、ひいては高齢者の生活の質を低下させ
る一因となることから、ソマトポーズや加齢性食欲不振への対応は今後の重要課題と思われる。
グレリンは、GH sequretagogue (GHS) 受容体の内因性リガンドとして国立循環器病センターの
児島、寒川らによって発見されたアシル化ペプチドであり、GH 分泌促進作用および摂食亢進作用
を有している(文献②、③)
。ヒトにおいてグレリンの血中濃度は痩せで高く、肥満者では低下して
いるが、加齢に伴って低下することも知られており(文献④)、グレリンの薬理作用を勘案すると、
ソマトポーズや加齢性食欲不振に対するグレリン補充療法は検討するに値すると思われる。そこで
本研究では、グレリン遺伝子改変動物やグレリン産生細胞株を移植したマウスなどを用いて、ソマ
トポーズや加齢性食欲不振におけるグレリンの役割を検討するとともに、それらの病態に対する治
療薬としてのグレリンの有効性について基礎的検討を行うことを目的としている。
研究方法
医学研究に汎用されるマウスの寿命は約 2 年(100 週)であり、マウスの血清 IGF-1 濃度は生後
25 週頃をピークに加齢に伴って徐々に低下していく(文献⑤)。また、摂餌量も徐々に低下してい
き、ヒトのソマトポーズや加齢性食欲低下と同様の病態をとる。
① 後天的グレリン分泌低下マウスを用いた検討
我々は、これまでにヒトグレリンプロモーターの下流にジフテリアトキシン受容体を組み込んだ
コンストラクトを用いた Tg マウスの作成に成功している(文献⑥、⑦)
。このマウスは、ジフテリ
アトキシンを投与することによって、任意の週齢で血中グレリン濃度を低下させることができる。
このマウスを用いて、老年期の GH・IGF-1 分泌動態、摂食・エネルギー状態、行動量などの表現型
について検討する。また、CT・DEXA を用いて体組成(体脂肪量・筋肉量・骨量)の検討を行う。
さらに、骨格筋や肝臓における GH 受容体、IGF-1、STAT5 などの処分子の遺伝子発現やタンパク
のリン酸化などについても検討を行う。中枢の摂食関連の分子についても遺伝子発現量の検討を実
施する。
② グレリン産生細胞株を移植したヌードマウス(グレリン分泌亢進モデル)における検討
我々は、グレリン分泌細胞の株化に成功している。この細胞は、グレリンの分泌に関して生理的
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
な調節機能が保存されている
(文献⑧)
。この細胞を移植されたヌードマウスの血中グレリン濃度は、
生理的変動をある程度維持しつつ上昇し、その結果、血清 IGF-1 濃度が上昇する(文献⑨)
。この細
胞を老齢のヌードマウスに移植し、上記①と同様の解析を行う。
③ グレリン・GOAT (ghrelin-o-acyl transferase) double Tg マウス(持続型グレリン分泌亢進
モデル)における検討
我々は、Serum Amyloid P プロモーターを用いて、アシル化グレリンを過剰産生するマウスを有
している。このマウスに中鎖脂肪酸含有食を与えると、血清グレリン濃度が持続的に高まる。この
マウスを利用して、上記①と同様の解析を行う。
研究結果
野生型の約 2 年齢(100 週齢)のマウスを得て、それらに対してグレリン投与試験を実施した。
120µg/kg のグレリンは、高齢マウスにおいても摂食促進作用を発揮した(生食 vs. グレリン:
0.288±0.038g vs. 0.433±0.072g)。また、成長ホルモン分泌に関しても、高齢マウスにおいて
120µg/kg のグレリン投与は GH 分泌を促進させた(生食 vs. グレリン:8.4±0.6 ng/ml vs. 151.7±
35.6 ng/ml)。
ヒトグレリンプロモーターの下流に、ジフテリアトキシン受容体を組み込んだコンストラクトを
用いた Tg マウス(25 週齢:雄)に、50 ng/kg のジフテリアトキシンを週 2 回 30 週齢まで投与し、
グレリン分泌を低下させた。30 週齢の時点で、Control chew で飼育した群では野生型マウスとグ
レリン分泌低下マウスの間で体重差を認めなかった(野生型 vs. グレリン分泌低下マウス:34.7±
0.7g vs. 33.7±0.5g)。DEXA 法で測定した体組成も、両者の間で有意差を認めなかった。High Fat
diet 下で飼育した場合には、グレリン分泌低下マウスで体重の増加が有意に抑制されていた(野生
型 vs. グレリン分泌低下マウス:45.7±0.7g vs. 42.8±0.7g)
。DEXA 法で体組成を計測すると、この
差は徐脂肪体重の減少によるものであった(野生型 vs. グレリン分泌低下マウス:22.3±0.8g vs.
20.8±0.6g)。血清 GH/IGF-I 濃度や平均摂餌量は、Control chew、High Fat Diet ともに両群間で有
意差を認めなかった。本検討に使用したマウスは、25 − 30 週齢と、青壮年期に相当すると思われ
る。高齢のマウスにおける検討が必要であるが、期間内にふさわしい週齢に到達せず、継続検討し
ている。
考察と今後の予定
老齢期のマウスにおいても、グレリンの単回投与によって摂食促進作用と GH 分泌促進作用が得
られることが判った。複数回もしくは、持続投与によっても同様の結果が得られるか否か検討する
必要がある。またグレリン分泌低下マウスでは、徐脂肪体重が減少することが判った。さらなる高
齢マウスでも検討する必要があるが、ソマトポーズや加齢性食欲不振の治療薬としてのグレリンの
有効性が期待される。当初我々は、②グレリン産生細胞株を移植したヌードマウス(グレリン分泌
亢進モデル)における検討と、③グレリン・GOAT (ghrelin-o-acyl transferase) double Tg マウス(持
続型グレリン分泌亢進モデル)における検討も計画していたが、本研究期間内に結果を得るに至ら
なかった。引き続き検討を実施していく。
− 90 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
文献
1.
平成 26 年版高齢社会白書(全体版)
.内閣府.
2.
Kojima M, Hosoda H, Date Y, et al. (1999) Ghrelin is a growth-hormone-releasing acylated
peptide from stomach. Nature. 402:656-660.
3.
Nakazato M, Murakami N, Date Y, et al. (2001) A role for ghrelin in the central regulation of
feeding. Nature. 409:194-198.
4.
Akamizu T, Murayama T, Teramukai S, et al. (2006) Plasma ghrelin levels in healthy elderly
volunteers: the levels of acylated ghrelin in elderly females correlate positively with serum
IGF-I levels and bowel movement frequency and negatively with systolic blood pressure.
J Endocrinol. 188:333-344.
5.
Ariyasu H, Iwakura H, Yamada G, et al. (2008). Efficacy of ghrelin as a therapeutic approach
for age-related physiological changes. Endocrinology. 149:3722-3728.
6.
Ariyasu H, Yamada G, Iwakura H, et al. (2014) Reduction in circulating ghrelin concentration
after maturation does not affect food intake. Endocr J. 61:1041-1052.
7.
Ariyasu H, Iwakura H, Yamada G, et al. (2010) A postweaning reduction in circulating
ghrelin temporarily alters growth hormone (GH) responsiveness to GH-releasing hormone in
male mice but does not affect somatic growth. Endocrinology. 151:1743-1750.
8.
Iwakura H, Li Y, Ariyasu H, et al. (2010) Establishment of a novel ghrelin-producing cell line.
Endocrinology. 151:2940-2945.
9.
Iwakura H, Ariyasu H, Hosoda H, et al. (2011) Oxytocin and dopamine stimulate ghrelin
secretion by the ghrelin-producing cell line, MGN3-1 in vitro. Endocrinology. 152:2619-25.
− 91 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
骨成長における FAM111A を中心とした分子メカニズムの解明
磯島 豪、田村麻由子、北中幸子
東京大学医学部附属病院小児科
背景
FAM111A 遺伝子は、Kenny-Caffey 症候群(KCS)2 型の原因遺伝子として、応募者らが同定し
た遺伝子である 1)。FAM111A は最近、プロテオミクスを用いた網羅的解析で、DNA の複製の際に
Proliferating Cell Nuclear Antigen(PCNA : 増殖細胞核抗原)と共に働き、細胞周期が S 期に入る
のに重要な蛋白質であることが報告された 2)が、それ以外の生体内における機能はほとんどわかっ
ていない。
KCS2 型は、著明な低身長、副甲状腺機能低下症、長管骨の骨膜肥厚などを特徴とする症候群で
ある。しかし、FAM111A の生体内における機能についてはほとんどわかっていないため、それら
の症状の発症機序は全く不明である。本研究は、FAM111A の機能を分子生物学的に解析すること
により、KCS2 型にみられる各症状(低身長、副甲状腺機能低下症)の発症機序を解明することを
目的とした。
対象と方法
FAM111A の生体内での機能は不明のため、KCS の症状をもとに下記のような探索的な実験を
行った。
(1)FAM111A 遺伝子のマウス軟骨内における発現の分布の検討
KCS2 型の表現型から FAM111A が内軟骨内骨化や膜性骨化に重要な蛋白質であることが明らか
ではあるが、どの分子と相互作用しているかは全く不明である。そこで、野生型マウスの骨の免疫
染色を行い、骨分化の中でどの段階で最も発現しているかを検討することで、相互作用をする分子
の探索を行う。
(2)軟骨前駆細胞 ATDC5 細胞を用いた in vitro での FAM111A および骨分化マーカーの発現のパ
ターンの解析
軟骨の分化の in vivo のモデルである ATDC5 細胞を用いて、時間とともに FAM111A がどのよ
うに発現していくかを検討する。さらに、KCS2 型のホットスポットである R569H、報告のある
Y511H、Osteocraniostenosis で同定された変異 D528G を強制発現させて、その影響について骨分
化マーカーの発現パターンの違いなどを解析する。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
結果
(1)免疫染色
胎児マウス(E17)骨免疫染色において、FAM111A は増殖層、前肥大層、肥大層すべての層に
強く染色され(左)、核を染めると細胞膜に強く発現していることが判明した(右)
。FAM111A は
骨増殖において重要な蛋白であることが改めて認識された。
(2)ATDC5 細胞系を用いた解析
KCS2 型のホットスポットである R569H と Osteocraniostenosis で変異を報告されている D528G
を、pcDDNA3 に組み込んだプラスミドを作成して ATDC5 細胞(未分化の段階)に強制発現させ
て、細胞を回収して RNA から cDNA を作成して、軟骨分化のマーカーである Col2a1 と Col10a1 の
発現量をリアルタイム PCR にて解析した。
Relative quantity chart
Col2a1
Col10a1
上記図に示すように、変異型においては col2a1 も col10a1 の発現量も低下していた。
未分化においても軟骨分化マーカーの発現に影響することから、ATDC5 細胞を分化させること
で、変異により骨分化マーカーの発現がどのように変化していくかについて検討するために、ウイ
ルスベクターを用いて変異型を強制発現できる ATDC 細胞株を作成し実験中である。
− 94 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
考察
FAM111A の生体内における機能はほとんど分かっていないため、基礎的な実験から開始した。
本年度の研究により明らかになったことは、
① FAM111A は、胎児マウス骨において強度に発現しており、細胞膜に特に強く発現していること。
② ATDC5 細胞を用いた in vivo 系において FAM111A の変異体を強制発現させると、分化前から
すでに骨分化マーカーである col2a1 と col10a1 の発現に影響を与えること。
①については今後トランスジェニックマウスを作成予定であり、野生型マウスとの骨での発現の
違いについて検討していく予定である。
②については col2a1 と col10a1 ともに、ATDC5 細胞系においては、分化後期において発現が増
えてくるマーカーである。そのため変異体を強制発現させた後に、ATDC5 細胞を分化させるとさ
らに様々な影響を与える可能性を示唆するものであった。現在ウイルスベクターに変異体をいれた
ATDC5 細胞株を用いて詳細な実験を行っている。今後はさらに、野生型と変異型との発現の違う
蛋白の同定を行い、FAM111A の関係するネットワークの解明を目指す予定である。
FAM111A は機能が全く不明な遺伝子であるため、機能解明には時間がかかると考えられるが、
現在その基礎となる実験を開始することができたと考えている。今後はこれらの実験を進めること
で、FAM111A の生体内での機能が解明されることが期待される。
文献
1.
Isojima T, Doi K, Mitsui J, et al. A recurrent de novo FAM111A mutation causes KennyCaffey syndrome type2. J Bone Miner Res 29:992-998, 2014.
2.
Alabert C, Bukowski-Wills JC, Lee SB, et al. Nascent chromatin capture proteomics
determines chromatin dynamics during DNA replication and identifies unknown fork
component. Nat Cell Biol 16:281-293, 2014.
− 95 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
炎症性骨障害に対する GH および Melatonin の有用性と作用機序の検討
大塚文男
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
総合内科学分野
はじめに
骨粗鬆症は現在の高齢化社会における大きな医療問題であるが、その的確な診療には、種々の原
因による骨粗鬆症発症の分子機序の解明と各骨代謝異常に対する的確な治療戦略が重要である。炎
症病態における骨代謝では、骨吸収を促進する TNFƠ を始めとする炎症性サイトカインと、骨形成
に寄与する BMPs (Bone Morphogenetic Proteins) が骨芽細胞の分化において相互拮抗的に作用す
る。
我々は BMP 分子の機能解析を種々の臓器・組織において進めており、卵巣・下垂体・副腎・甲
状腺などの内分泌臓器や、腎・血管系において多彩な BMP の機能を明らかにしてきた。最近の検
討では、種々の未分化間葉系細胞においても BMP の発現・応答性を確認し、BMP 応答性に骨芽細
胞分化を認めること、TNFƠ/BMP の細胞内シグナル連関として MAPK/NFκB 経路が鍵となるこ
と(BBRC 2007)、ステロイド(MCE 2010, Steroids 2013)や脂質異常治療薬(JOE 2008, Regul
Pept 2010, MCE 2012)、BMP-3b(MCE 2012)が骨分化過程でこの経路を制御することを明らかに
した。
本研究では、炎症に伴うサイトカイン増強に関連した骨粗鬆症の発症機転に注目し、成長ホルモ
ン(GH)/IGF-I および松果体ホルモン Melatonin の影響について検討した。夜間に分泌が増加し、
老化により減少するという共通点をもつ GH/IGF-I および Melatonin の作用に着目し、関節リウマ
チや膠原病・加齢により見られる炎症性骨病変において、局所因子やサイトカインによる骨形成・
骨芽細胞分化への影響、GH/IGF-I および Melatonin による骨庇護の有用性について検討した。
今年度の主な研究概要と成果
前年度の助成研究から、骨親和性薬剤と炎症性サイトカインのシグナル連関が明らかになり、こ
れを糸口にリウマチ性骨病変形成の分子機序を探った。本研究期間では、骨の分化シグナルである
BMP と GH/IGF-I の関係、抗酸化作用と内因性骨形成因子の誘導作用が知られる Melatonin にも着
目し、種々のサイトカインの骨障害への影響とその機序を明らかにすべく基礎的検討を行った。
関節リウマチなどの炎症性疾患では、炎症性サイトカインの発現亢進により、骨芽細胞・活性化 T
cell や滑膜線維芽細胞に RANKL 発現が誘導され、破骨細胞が活性化される。一方、抗 TNFƠ 治療
により、TNFƠ を制御することにより関節破壊・炎症性骨粗鬆症を抑制すると骨修復を来すことか
ら、炎症性骨障害への治療目標は、骨破壊の抑止から骨修復の促進が重要と認識されてきた。本研
究では、骨親和性ホルモンによる骨破壊抑止への有効性とその作用機序を検討し、以下の3つの主
な成果を得た。
− 97 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
・GH/IGF-I と BMP-2 による骨芽細胞分化への影響とアンドロゲンの関与:
GH や Androgen の減少は骨量減少の成因となる。Androgen 受容体(AR)を発現する骨芽細胞
は骨量維持に重要であるが、GH および androgen と BMP の相互作用が鍵といえる。マウス筋芽細
胞 C2C12 を GH 処理すると、BMP-2 による Smad1/5/8 シグナルが増強され、Androgen 処理では
BMP-2 誘導性の Runx2・ALP・Osteocalcin などの骨芽細胞分化マーカーの発現が増加した。一方で、
BMP-2 は AR・GH 受容体(GHR)の発現レベルを減弱した。GH 処理により IGF-I の発現は増加し
た が、 こ れ は Androgen 処 理 に よ り 抑 制 さ れ た。 さ ら に、 内 因 性 IGF-I を 抑 制 し て も BMP・
Androgen・GH による骨芽細胞分化には影響を与えないことから、GH は直接的に骨分化に作用す
る可能性が示唆された。このように、Androgen・GH/IGF-I は BMP による骨芽細胞の分化誘導を
促進するが、
一方で BMP シグナルは Androgen や GH の作用を制御する。Androgen と GH/IGF-I は、
BMP とリンクしながら骨芽細胞分化を調節するといえる。この結果は Androgen・GH 併用療法の
骨庇護効果に関連すると考え研究を進めている。
・メラトニンによる骨芽細胞分化への影響:
日内リズム調節に寄与する Melatonin は、加齢によりその分泌位相が変化し、分泌量も減少する
一つの Aging ホルモンとして認識できる。この Melatonin の骨に対する影響とその機序は十分に知
られていないが、直接作用としての骨保護作用も報告されており、そのメカニズムと応用性を検討
するために骨芽細胞分化モデルとして C2C12・MC3T3E1 細胞を用いて評価した。Melatonin は濃
度反応性に骨芽細胞分化マーカーである Runx2・Osteocalcin・ALP の発現を増加した。BMP-2,-4、
そして新しい循環因子 BMP-9 の存在下でも、Melatonin は相加的に骨分化を促進した。炎症性サイ
トカイン TNFα による骨芽細胞の分化抑制作用が Melatonin 添加により減弱することから、炎症
性サイトカインによる骨分化抑制にも Melatonin が拮抗できる可能性がある。しかし、Melatonin
は BMP による Smad1/5/8 リン酸化シグナル強度を大きく変化しなかったことから、Melatonin は
BMP シグナルと独立した骨分化活性を発揮すると考えられた。現在、GH/IGF-I および Androgen
による骨形成作用との機能連関および骨分化における Melatonin 受容体シグナルについて、MAPK、
PKC、PKA 経路に着目して検討を進めている。また、関節リウマチの滑膜に発現が増加している
FGF-8 の作用も考慮している。FGF-8 は、MAPK を介して TNFƠ と相加的に BMP 誘導性の骨芽
細胞分化に拮抗することから、炎症に伴う骨破壊の機序として FGF-8/TNFƠ 相互作用の可能性を
想定し、Melatonin による炎症性骨障害の制御の可能性を検討中である。
・メラトニンによる他の内分泌調節系への影響:
Melatonin は全身的に種々の内分泌動態にも関連しているが、骨への影響をもたらす可能性のあ
るホルモンへの影響も併せて検討した。Melatonin は下垂体前葉と副腎皮質に作用して ACTHCortisol 分泌を抑制するが、Melatonin による Aldosterone や Catecholamine 分泌への影響は十分に
知られていない。我々は、副腎皮質に発現する BMP-6 および Activin がそれぞれ Ang II-MAPK・
ACTH-cAMP/PKA を介して Aldo 分泌調節に寄与することを報告してきた。今回の検討では、
Melatonin・ACTH の共存下で Activin 受容体シグナル Smad2 の活性化が増強すること、Melatonin
は ACTH 受容体発現には影響しないが、Activin 受容体 ALK4 の発現を増強し、抑制性 Smad6/7
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
の発現を減弱して、ACTH による Aldosterone 合成を促進することが示された。副腎髄質では、
Melatonin が副腎髄質の BMP-4 と協調的に Catecholamine 合成を抑制する一方で、Glucocorticoid
による Catecholamine 合成は増強するという皮髄連関による Catecholamine 産生調節機能の存在も
示された。Melatonin は副腎皮質・髄質機能にも間接的に影響するが、これらが骨にもたらす作用
については今後検討が必要である。
おわりに
本研究では、何れの病態でも少なからず関与する骨老化(Aging of the Bone)という視点から、
骨芽細胞の機能を重視した病態へアプローチした。
骨芽細胞の骨形成機能を重視した病態へのアプローチを介して、炎症に起因する骨粗鬆症や骨破
壊に対して、BMP・GH/IGF、Androgen そして Melatonin が有用である可能性が示唆された。今
後は骨老化や炎症性骨障害の分子機序を解明し、種々の骨移行薬の適応拡大や創薬を目指して研究
を展開したい。
謝辞
本研究助成につきまして深く感謝申し上げます。貴協会への謝辞を以下の3論文において記して
おります。
1.
Toma K, Otsuka F, et al. BMP-6 modulates somatostatin effects on luteinizing hormone
production by gonadrotrope cells. Peptides. 76:96-101, 2016.
2.
Katsuyama T, Otsuka F, et al. Regulatory effects of fibroblast growth factor-8 and tumor
necrosis factor-Ơ on osteoblast marker expression induced by bone morphogenetic protein-2.
Peptides. 73:88-94. 2015.
3.
Hara T, Otsuka F, et al. Mutual effects of melatonin and activin on induction of aldosterone
production by human adrenocortical cells. J Steroid Biochem Mol Biol. 152:8-15, 2015.
− 99 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
Osteoblast
differentiation
図 1 GH・Androgen・Melatonin による骨芽細胞への影響とその作用点
BMP による骨芽細胞の分化誘導に対して、GH/IGF-I および Androgen は相加的な増強作用を示す。
この機序として、GH・Androgen ともに BMP 受容体 -Smad シグナルの活性化を促すことが示され
た。一方で、Melatonin は MT1 作用を介して独自の経路で骨芽細胞分化を促進する。リウマチ性疾
患に見られるような炎症性サイトカイン TNFƠ・FGF-8 の存在下では、BMP-Smad シグナルが抑制
されて骨芽細胞の分化機転が減弱している。GH/IGF-I・Androgen・Melatonin は、これらのサイ
トカインに拮抗的に作用する。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
無機リン酸による成長制御機構の解明
川井正信
大阪府立母子保健総合医療センター研究所
A. 背景と目的
リンは、骨格形成にかかわる重要な栄養素である。小児期におけるリンの不足は成長障害の原因
となるが、その分子機序は不明な点が多い。一方、IGF-1 はヒトの成長を規定する重要な因子で、
IGF-1 により惹起されるシグナルの活性化は、内軟骨性骨化を活性化する。PTEN は、脱リン酸化
活性を有するタンパク質であるが、IGF-1 シグナルに対して阻害的に作用することが知られている。
実際動物実験では、PTEN が成長を負に規定する重要な因子であることが報告されている。そこで
本研究では PTEN に着目し、細胞外無機リン酸(Pi)の成長促進作用を PTEN の制御という観点
から検討を行い、Pi による成長規定メカニズムを解明することを目的とする。
B. 方法
1.Pi による PTEN 発現制御機構の解析
In vitro の系で、種々の細胞外 Pi 濃度(0-4mM)環境に対する PTEN の発現変化を Western
Blot 法で検討した。
2.Pi シグナルと IGF-1 のクロストークの解析
a. In vitro での解析: Pi 刺激が AKT およびその下流の分子である mTORC1 の活性化に与え
る影響を検討した。さらに、Pi 刺激による AKT/mTORC1 への作用が PTEN を介している
のか検討するために、PTEN をノックダウンした細胞を作成し検討を行った。
b. Ex vivo での解析:マウス胎仔中足骨器官培養系を用いて解析した。IGF-1 による中足骨の
長軸成長促進効果が、細胞外 Pi 濃度により影響を受けるか検討した。
c. In vivo での解析:低リン血症および成長障害を呈する Hyp マウスを用いて検討を行った。
Hyp マウスの成長板における PTEN/mTORC1 シグナルを検討した。
C. 結果
1.細胞外 Pi 刺激は、PTEN の膜局在を減少させる。
間葉系の細胞を用いて、Pi 刺激と PTEN の発現の関連性を Western blot 法で検討した。Pi 刺激は
濃度依存性、そして時間依存性に PTEN の発現を減少させた(図 1A)
。細胞分画を行い、さらに詳
細に検討したところ、Pi 刺激は膜に局在する PTEN の発現を減少させることが判明した(図 1B)
。
PTEN が脱リン酸化酵素としての作用を発揮するには、膜における局在が重要であるため、Pi 刺激
に伴う PTEN の膜局在の減少は、下流の AKT シグナルを活性化することが想定された。
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図1
A:Pi(0-4mM)で 16 時間処理した細胞から蛋白質を回収し、Western Blot 法で
Pten と Gapdh の発現を検討した。
B:Pi(0 or 4mM)で 16 時間処理した細胞から形質膜分画と細胞質分画を回収し、
Western Blot 法で Pten、Integrinb1 と Gapdh の発現を検討した。
2.細胞外 Pi 刺激は、AKT/mTORC1 シグナルを活性化する。
PTEN は AKT シグナルに対して阻害的に作用することから、細胞外 Pi 刺激が AKT シグナルに
及ぼす影響を検討した。Pi 刺激は、AKT およびその下流である mTORC1 を活性化(S6K のリン
酸化で評価)し、さらにこの Pi の作用は PTEN をノックダウンした細胞では認めなかった(図 2)。
これらの結果から、Pi 刺激は PTEN の発現を減少させることで、AKT/mTORC1 を活性化するこ
とが明らかとなった。
図2
㻌
A:Pi(0-4mM)で 16 時間処理した細胞から蛋白質を回収し、Western Blot 法でリン
酸化 Akt の発現を検討した。
B:アデノウイルスを用いて、Pten の発現をノックダウンし、Pi(0 or 4mM)による
Akt および S6K のリン酸化の変化を検討した。
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3.X 連鎖性低リン血症マウス (Hyp マウス ) の成長板では、PTEN の発現が増加し、その結果
mTORC1 の活性が減弱している。
次に、Pi 刺激が内軟骨性骨化にあたえる影響を、X 連鎖性低リン血症モデルマウス(Hyp マウス)
を用いて検討した。Hyp マウスは既報通り低リン血症を呈し、重篤なクル病を呈した。Hyp マウス
成長板における組織学的検討を行ったところ、Hyp マウスでは肥大化軟骨層における PTEN の発現
が増加し、その結果 mTORC1 の活性(S6 のリン酸化で評価)が低下していた(図 3)。Rapamycin
を野生型マウスに投与し、mTORC1 の活性を阻害すると Hyp マウスと同様の軟骨の表現型を示し
たことから、肥大化軟骨細胞における mTORC1 の活性低下は、Hyp マウスにおけるクル病の一因
になっている可能性が考えられた。
図3
Hyp マウスでは、肥大化軟骨細胞層の延長を認める(HE 染色)。また Hyp 肥大化軟
骨細胞層では、PTEN の発現上昇とともにリン酸化 S6 ribosomal protein(pS6)の発
現が減少しており、mTORC1 活性の低下が示唆される。赤線は肥大化軟骨細胞層
(H:hypertrophic zone)を示す。
4.Pi 刺激を行った胎仔中足骨では、IGF-1 の反応性が亢進している。
最後に、Pi による PTEN 発現抑制が IGF-1 による軟骨分化に与える影響を、胎仔中足骨器官培養
系を用いて検討を行った。胎仔中足骨の長軸成長率に注目し評価したところ、細胞外 Pi 濃度が高い
群(Pi 2mM)は Pi を添加していない群(Pi 0mM)に比べ、IGF-1 による胎仔中足骨の長軸成長率
が増加していた。この結果は、細胞外 Pi 濃度により IGF-1 の反応性が規定される可能性を示唆して
いる。
D. 考察
小児の成長は多くの因子により規定されるが、中でも Pi は、成長軟骨の分化・成熟過程で重要な
役割を果たしている。実際、X 連鎖性低リン血症性くる病(XLH)やビタミン D 欠乏症患児では、
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
低リン血症に伴い成長障害を呈する。これまでの研究から、低リン血症は肥大化軟骨細胞のアポ
トーシスを抑制することで成長障害の原因になることが示唆されているが、その分子機序は不明で
あった。本研究結果から、細胞外 Pi 刺激に伴い PTEN の発現が減少し、その結果 AKT/mTORC1
シグナルが活性化することが判明した。このシグナル経路は、低リン血症を呈する Hyp マウスでも
確認することができたため、低リン血症に伴う mTORC1 の活性低下が低リン血症に伴う軟骨細胞
分化・成熟異常の一因と考えられた。また、mTORC1 活性の評価としてタンパク質合成に関わる
S6 ribosomal protein のリン酸化を検討したが、S6 タンパク質のリン酸化は Hyp マウスの肥大化軟
骨層で減弱しており、Hyp マウスの肥大化軟骨細胞ではタンパク質合成が低下していることが示唆
された。肥大化軟骨細胞層は、より未熟な軟骨細胞層に比べ局所のリン濃度が上昇している。その
ため、低リン血症の状態は肥大化軟骨細胞における局所リン濃度の低下を引き起こし、その結果
PTEN 発現上昇とともに AKT/mTORC1 シグナルを減弱させ、タンパク質合成低下を介して肥大
化軟骨細胞の成熟を阻害しているのではないかと考えられた。ただ、Pi 刺激がどのようにして
PTEN の発現を減少させるのかなど、その詳細な機序は不明であり、今後の研究課題と考えられた。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
新生児における IGF1/insulin シグナルの検討と低血糖の病態解明
鞁嶋有紀
鳥取大学医学部周産期・小児医学分野
背景・目的
新生児低血糖症は、SGA(small for gestational age)を含む低出生体重児に多い合併症であるが、
詳細な機序は未だ不明な部分がある。一方、低出生体重児の臍帯血における低 IGF1 血症は指摘さ
れているが、IGF1 レセプターおよびインスリンレセプターの発現について検討された報告は殆どな
い。私達は、低出生体重児を含む新生児の臍帯血の IGF1/ インスリンシグナル系蛋白の mRNA 量を
測定し、出生体重および低血糖を合併した児について後方視的に検討することにより、新生児の成
長と IGF1/insulin シグナルとの関連、および低血糖の病態を明らかにすることを目的とする。
方法
当院総合周産期母子医療センターで出生し同意を得た新生児の臍帯血を採取する。一部の血清は
診療に不随した検査であるため匿名化せずに、外部検査機関(SRL)にてインスリン、IGF1 の検査
を委託する。残りは連結可能匿名化された上で、RNA 抽出専用容器に保存し、研究担当者により
RNA を採取後 1 週間以内に抽出する。
・匿名化した RNA の研究は以下の方法で行われる
①
臍帯血はすぐに匿名化した上で、専用容器(パックスジーン RNA 採血管 日本ベクトン・ディッ
キンソン)に採取する。
②
研究担当者により当大学生命機能研究支援センターにて、PAXgene Blood RNA Kit(QIAGEN)
にて RNA の抽出を行う。
③
抽出後、以下の項目についてリアルタイム PCR 法にて mRNA の発現量について検討する。
INSR、IGF1R、IRS1、IRS2、GLUT4、GLUT2
後方視的に、正期産児、早期産児、AGA(在胎週数平均体重児)
、SGA(在胎週数低体重児)グルー
プ間で測定量の比較を行う。また、低血糖を呈した児とそうでない児との測定値を比較する。
結果
研究は継続中であるが、現在の所、症例数 44 症例において臍帯血を採取し、RNA を抽出した。
なお、本研究は鳥取大学医学部倫理委員会の承認をうけており、同意を得られた症例が対象となっ
ている。臍帯血は 3 − 4 日以内にすべて RNA を抽出した。44 症例の内訳は、
正期産 39 例
(SGA8 例、
非 SGA31 例)
、早産 5 例(SGA1 例、非 SGA4 例)となっている。また、血糖値が 50 未満の低血糖
症例は 9 例 /44 例あり、低血糖症例 9 例の内訳は、SGA 5 例(正期産 4 例、早産 1 例)
、非 SGA4
例(正期産 3 例、早産 1 例)である。抽出された RNA は− 30℃にて冷凍保存し、同時期にすべて
cDNA とし、現在リアルタイム PCR にて、INSR、IGF1R、IRS1、IRS2、GLUT4、GLUT2 の臍帯
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
血中の mRNA 発現量を解析中である。
(現在解析途中のため、解析結果は報告できない。
)
今後も、早産症例においてもサンプル数を増やし、解析していく予定である。
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GH 産生下垂体腺腫における上皮成長因子受容体(EGFR)の発現と
臨床特性との関連性
後藤雄子、齋藤洋一
大阪大学大学院医学系研究科
脳神経機能再生学/脳神経外科
押野 悟
大阪大学大学院医学系研究科脳神経外科
木下 学
大阪府立成人病センター脳神経外科
目的
上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor : EGFR)は細胞の増殖や成長に関わる
受容体型チロシンキナーゼであり、下垂体腫瘍においては腫瘍増殖能との関連が報告されている
(LeRiche VK. et al.JCEM 1996)。本研究では、GH 産生下垂体腺腫における EGFR 発現とその活性
について、内分泌学的活性、臨床特性との関連性を検討する。
対象
2010 − 2014 年の 5 年間に大阪大学医学部附属病院で手術を行ったトルコ鞍腫瘍 250 例のうち、
病理組織学的検討可能である下垂体腺腫症例 100 例。また mRNA 解析においては、2014 − 2015 年
に同院にて手術を行った下垂体腺腫 30 例を対象とした。
方法− 1:EGFR 免疫染色
①手術で採取した腫瘍組織をホルマリン固定パラフィン包埋切片とし、免疫染色(EGFR wild type
(wt) 及びリン酸化部位に特異的な py1197、MIB-1 Labeling Index)を行う。免疫染色は Dako 試薬
を用いた抗原賦活法によって行う。EGFR 発現強度は、
光学顕微鏡 40 倍視野での陽性細胞の割合で、
0(陰性)
、+1(一部の腫瘍細胞に不連続に陽性)
、+2(多くの腫瘍細胞に陽性)
、+3(細胞質、細
胞膜に強陽性)まで 4 段階に評価する(図 1)。
②手術検体で採取した腫瘍組織(凍結)から mRNA を採取し、EGFR mRNA を同定、発現を定量
的に評価する。
− 107 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
図1
ุᐃ 0
ุᐃ +䠍
ุᐃ +䠎
ุᐃ +䠏
上記①②について、それぞれ患者の臨床背景、腫瘍の形態学、生物学的な特性との関連について
検討を行う。GH 産生腫瘍とその他の機能性腺腫(PRL 産生腫瘍、ACTH 産生腫瘍、TSH 産生腫
瘍)、非機能性腺腫に分け、同様に検討する。
方法− 2:EGFR mRNA 発現量
手術検体として採取後− 70 度で凍結保存しておいた下垂体腫瘍組織 30 検体(ACTH: 2, GH: 13,
PRL: 7, nonfunc: 8)を RNA later® − ICE Solution で RNA を安定化させたのち、PureLink® RNA
Mini Kit(Ambion ®) で RNA を抽 出 した。抽出した RNA から SuperScript ® VILO TM cDNA
Synthesis Kit(Life Technologies)によって cDNA 合成した。合成した cDNA を EGFR(TaqMan®
Gene Expression Assays)の primer を用いて増幅し、リアルタイム PCR 法によって解析した。
結果− 1:EGFR 免疫染色
免疫染色の工程を含め、病理組織学的検討可能であったのは下垂体腺腫 64 例であった。腺腫の種
類と患者特性を<表 1 >に示す(平均年齢 43.6 歳、男 / 女 : 28/36 例)
。
1. EGFR wt、pY1197 陽性例は、非機能性腺腫と比較して機能性腺腫に有意に多かった(chi-square
test p=0.03)<表 2 >。
2. pY+3 陽性症例は機能性腺腫に有意に多く(chi-square test p=0.02)
、特に GHoma、ACTHoma
で多かった<表 3 >。
3. GH 産生腺腫において、患者年齢が高齢であるほど EGFR wt および pY1197 の陽性度が高かっ
た(<図 2 ><図 3 >、p<0.05)。
4. 陽性強度が EGFR pY > wt である 6 症例は再発 ACTHoma 2 例を含み、MIB-1 LI は高かった(平
均 7.9%)。
5. GHoma、PRLoma、ACTHoma、非機能性腺腫の 4 群間においては、性差、年齢、MIB-1LI に有
意差は認めなかった。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
表1
total n=64
age
M:F
MIB-1 LI
(n=42)
GHoma
n=18
PRLoma
n=22
ACTHoma
n=7
非機能腺腫
n=17
48.6±10.4
29.1±10.1
49.3±17.7
54.9±15.0
8:10
9:13
3:4
9:8
2.1 ± 2.0
(n=13)
4.6 ± 4.2
(n=18)
7.8 ± 5.2
(n=6)
3.2 ± 1.5
(n=5)
表 2 機能性腺腫、非機能性腺腫における EGFR wild type(wt)および pY1197 発現陽性例の分布
EGFR 発現
(wt, pY1197)
陰性
(0)
陽性
(+1, +2, +3)
合計
22
25
47
非機能性腺腫
13
4
17
合計
35
29
64
機能性腺腫
(GH、PRL、ACTH)
表 3 機能性腺腫、非機能性腺腫における EGFR pY1197 発現 +3 陽性とそれ以外の陽性例の分布
pY1197
(0, +1, +2)
機能性腺腫
(GH、PRL、ACTH)
pY1197
(+3)
合計
39
8
47
非機能性腺腫
17
0
17
合計
58
8
64
図 2 GH 産生腺腫における EGFR wt 陽性度と年齢との関係
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
図 3 GH 産生腺腫における EGFR pY1197 陽性度と年齢との関係
結果− 2:EGFR mRNA 発現量
手術時に摘出した組織のうち、余剰検体から mRNA 発現量解析し得たのは 28 検体であった。
1. EGHR mRNA 発現量は、PRL 産生腫瘍に有意に多かった<図 4 >。
2. GH 産生腫瘍 13 例では検体による差が大きく、mRNA 定量では明らかな特徴は認められなかっ
た<図 5 >。
図 4 EGFR mRNA 発現量 (Y 軸は ACTH(左端)を基準とした比)
EGFR mRNA (඲౛㸧
300
200
100
ACTH
ACTH
GH
GH
GH
GH
GH
GH
GH
GH
GH
GH
GH
GH
GH
PRL
PRL
PRL
PRL
PRL
PRL
PRL
non
non
non
non
non
non
0
図 5 EGFR mRNA 発現量 (Y 軸は GH 左端(1)を基準とした比)
EGFR mRNA(GH⏘⏕⭘⒆㸧
600
400
200
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
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考察
下垂体腺腫において EGFR 発現は腫瘍の増殖能と関連性が示唆されている(LeRiche VK. et al.
1996 JCEM)。特に pituitary carcinoma の mRNA 定量解析において、EGFR WT、リン酸化タイプ
共に強く発現していたとの報告もあることから(Onguru O. et al. 2004 MolPathol. )、EGFR シグナ
ルの活性化は腫瘍増殖能に関連していると考えられた。今回の検討では EGFR 免疫染色において、
機能性腺腫が非機能性腺腫と比べて有意に活性化(リン酸化)EGFR が陽性となったことは、腫瘍
の内分泌活性との関連を示唆する結果であった。GH 産生腺腫とその他の腺腫を比較すると、MIB-1 LI との関連性はなく、腫瘍増殖能との関連性は示せなかったが、腺腫は carcinoma と異なり腫瘍増
殖能は低いためと考えられる。EGFR mRNA 定量解析においては、PRL 産生腫瘍が他の腺腫と比
較して発現量が有意に高かったが、これまで文献的な検討はないため明確な機序は不明であるもの
の、特に発現量の多かった 3 例は 10 代 2 名、20 代 1 名の女性であり、他の腺腫と比較して年齢層
が低いことが関係している可能性が考えられた。乳がんにおける EGFR 発現は若年患者に多いとい
う報告もあり(Rimawi, M.F. et al. 2006 J Clin Oncol)
、エストロゲンとの関連が示唆される。また、
GH 産生腫瘍においては発現量に検体差が大きかったが、最も発現量の多かった 1 例は 30 代前半の
女性であった。全体を通して明らかな特徴性は見いだせなかったが、いずれも症例数を増やしての
解析検討が望まれる。
結語
免疫組織学的検討において、EGFR の発現とリン酸化 EGFR の発現は機能性腺腫において高かっ
た。GH 産生腫瘍において、高齢であるほど EGFR 発現陽性度が高かった。EGFR mRNA 発現の定
量解析において、年齢と性別(女性)の関連性が示唆されたが症例数を増やしての検討が必要であ
る。
謝辞
本研究は公益財団法人成長科学協会の研究助成金により行えました。
参考文献
1.
LeRiche V.K., Assa S.L., Ezzat S. Epidermal growth factor and its receptor (EGF-R) in human
pituitary adenomas: EGF-R correlates with tumor aggressiveness. JCEM. 81:1996.
2.
Onguru O, Scheithauer B.., Kovacs K,. Vidal S., Jin L., Zhang S., Ruebel K.H., Lloyd
R.V.ModPathol. 17:2004.
3.
Rimawi. M. F., Weiss H. L., Bhatia P., Chamness G., Elledge R. M.EGFR expression in breast
cancer: Association with biologic phenotype, prognosis, and resistance to adjuvant therapy. J
Clin Oncol. 24:2006.
− 111 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
間葉系幹細胞から骨や筋肉への組織形成を制御する
E8 標的分子の同定と分化誘導機構の解明
酒巻和弘
京都大学生命科学研究科
研究目的
γ ヘルペスウイルスの遺伝子産物 E8 は、ヒト培養細胞へのアポトーシス誘導に対し抑制因子と
して働くことが知られている。我々は、E8 の生体での生理作用を理解するため、中胚葉系組織で
E8 が特異的に発現するトランスジェニックマウスを作製したところ、予想に反して骨組織や筋肉組
織に異常が生じて、発育や成長が抑制されることを見出した。本研究は、このような中胚葉系組織
の形成異常を引き起こす E8 の作用機序を分子レベルで解明するため、間葉(中胚葉)系幹細胞を
用いて、E8 の生理機能活性、並びに E8 の強制発現に伴う幹細胞の遺伝子発現様式を明らかにする。
研究計画と方法
間葉(中胚葉)系幹細胞株を用いて E8 の作用を特定し、E8 による標的分子の機能制御が幹細胞
から骨芽細胞を含めた各系譜細胞への分化誘導に影響を与える可能性を検証する。そのため、以下
の計画を実施する。
(1)E8 の生理機能の解析
マウス間葉(中胚葉)系幹細胞株である C3H10T1/2 細胞を用いて、ヒト培養細胞において認め
られた E8 の細胞死抑制機能を調べる。
[方法]E8 発現細胞において、アゴニスティックな抗 Fas
抗体の処理によるアポトーシス誘導に対し、耐性を示し生存することを細胞生物学的手法によって
確かめる。
(2)E8 の発現誘導系の開発
後発的に E8 がコンディショナルに発現誘導される系を確立する。[方法]loxP 配列で EGFP 遺
伝子を挟み、その後に E8 遺伝子が挿入されたプラスミドを作製後、Cre 発現用プラスミドと共に
細胞に導入する。Cre リコンビナーゼを介する組換えにより EGFP 遺伝子が排除され、その結果 E8
発現誘導されることをイムノブロッティング法により確認する。
(3)マイクロアレイ法による E8 存在下での遺伝子発現の解析
E8 の発現によって、C3H10T1/2 細胞株における遺伝子の発現様式が変動する可能性が考えられ
るため、遺伝子群の発現傾向を調べる。
[方法]E8 を発現する細胞株と親株の間において、マイク
ロアレイ法で発現量に変動のある遺伝子を探索する。さらに発現様式についてシグナル−ネット
ワークの解析を進め、発現変動したシグナル経路上位の因子と E8 標的分子との関係を精査する。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
結果と考察
E8 が発現する C3H10T1/2 細胞株は、抗 Fas 抗体によるアポトーシス誘導に対し耐性を示した。
この結果より、E8 がマウス間葉(中胚葉)系幹細胞株においても機能分子として働くことが明らか
となった。次に Cre 存在下で E8 の発現を誘導すると、抗 Fas 抗体処理に対しても耐性となること
も判明した。この遺伝子導入細胞では、Cre により完全に EGFP 遺伝子が排除されており、EGFP
タンパク質は検出されなかった。効率良く E8 をコンディショナルに発現誘導する系が確立できた。
また E8 を発現する細胞株と親株の間において、マイクロアレイ法で発現量に変動のある遺伝子を
調べた結果、E8 存在下で 9 遺伝子が 4 ∼ 8 倍増加し、逆に 34 遺伝子が 4 ∼ 8 倍減少し、さらに 26
遺伝子が 8 倍以上減少することが判明した。これら変動した遺伝子群の中には、骨芽細胞・筋芽細胞・
脂肪細胞等に分化する際に変化する遺伝子が多数含まれており、E8 が存在することで間葉(中胚葉)
系幹細胞からの分化が抑制されている可能性が示唆された。
特に、アレイ解析の結果から注目すべき遺伝子として、Klf4 遺伝子と Nov 遺伝子が挙げられる。
両遺伝子は、共に E8 存在下で有意に増加していた。Klf4 は、iPS 細胞の樹立に必要な初期化因子の
一つである。この遺伝子の増加は、E8 が発現することにより幹細胞の未分化状態を積極的に導いて
いる可能性を示唆している。また Nov 遺伝子について、遺伝子欠損マウスでは骨の過形成が起こる
こと、トランスジェニックマウスでは骨減少症が起きることがこれまでに報告されている。E8 によ
り Nov 遺伝子の発現が促進されたことが起因となって、我々のトランスジェニックマウスにおいて
骨組織の形成に異常が生じたと考えられる。今後どのように E8 が両遺伝子の発現を誘導するのか、
その制御機構に着目した研究に期待が寄せられる。
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軟骨細胞の分化における IGF-1 遺伝子の
エピジェネティック制御と成長ホルモンの作用
菅原 明、横山 敦、伊藤 亮
東北大学大学院医学系研究科分子内分泌学分野
間葉系幹細胞から軟骨細胞が分化する際には、DNA のメチル化が密接に関連することが知られ
ている。近年、Ten‒eleven translocation (TET) ファミリータンパクが 5-メチルシトシン(5mC)
を 5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)へと変化させることにより、DNA の脱メチル化に関与し
ていることが明らかとなった。しかしながら、軟骨細胞が分化する際の DNA メチル化のパターン
と各 TET ファミリータンパクの作用の関係性は未だ不明である。本研究で我々は、C3H10T1/2 細
胞が軟骨細胞に分化する際に、5mC のヒドロキシル化が上昇することおよび TET1 の発現が上昇す
ることを見出した。一方、TET1 をノックダウンしたところ、軟骨細胞の分化マーカーである 2 型
や 10 型コラーゲンの発現減少が認められた。さらに、IGF-1 遺伝子のプロモーター領域を解析した
ところ、転写開始点近傍の CpG アイランド(CGI1 と CGI2)で他の領域に比してより高頻度に
5mC のヒドロキシル化が上昇することが見出された。以上の結果から、TET1 が IGF-1 遺伝子のプ
ロモーター領域 DNA の脱メチル化を誘導することにより、軟骨細胞の分化が進む可能性が考えら
れた。TET1 発現におよぼす成長ホルモンの作用に関しては、今後さらに検討を進める予定である。
文献
Ito R, Shimada H, Yazawa K, Sato I, Imai Y, Sugawara A, Yokoyama A. Hydroxylation of
methylated DNA by TET1 in chondrocyte differentiation of C3H10T1/2 cells. BiochemBiophys
Rep. 2016;5:134‒140.
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全ゲノムエクソン配列(エクソーム)解析による
先天性下垂体機能低下症新規責任遺伝子の同定
髙木優樹
東京都立小児総合医療センター内分泌代謝科
研究の学術的背景
下垂体は前葉と後葉に分かれ、前葉からは 5 つの系統のホルモンが分泌される。それぞれのホル
モンを分泌する 5 系統の細胞への発生・分化(すなわち正常な下垂体前葉の発生・分化)には、非
常に多くの転写因子あるいは液性因子が複雑なカスケードを作りながら関与している。これら転写
因子・液性因子の遺伝子変異により、ヒトおよび実験動物で先天性下垂体機能低下症(Congenital
hypopituitarism 以下 CH)を発症することが報告されている。申請者は日本人 CH 患者 91 名で、
既知の CH 責任遺伝子(POU1F1, PROP1, HESX1, LHX3, LHX4, OTX2, SOX2, SOX3, GLI2 )を
PCR-Direct sequence 法ならびに MLPA 法で網羅的に解析し、遺伝子変異陽性率は 3/91=3.3% にす
ぎないことを報告した(Takagi et al. PLoS ONE, 2012)。また、染色体構造異常が疑われる、下垂
体外合併奇形を有する症候性 CH30 名に対して array CGH 法による染色体微細構造変化解析を行い、
眼の発生に必須である PAX6 遺伝子が CH の新規責任遺伝子変異であることを見出した(Takagi et
al. EJE, 2014)。しかしながら PAX6 変異による CH も全体の 2% に過ぎず、本疾患の発症原因が大
部分不明であることに変わりはない。これは現時点で未知の遺伝子異常が CH 発症に関与すること
を強く示唆する。
本研究の目的
大部分原因不明な CH の新規責任遺伝子を、次世代シーケンサーを用いたエクソーム解析法で同
定し、CH の分子病態を解明することである。現在までにエクソーム解析による CH 新規責任遺伝
子同定の報告は、血族婚同胞例の 1 家系をサンプルとした GPR161 遺伝子の 1 報のみ(Karaca E et
al. J Clin Endocrinol Metab.2015)である。
対象
先行研究で既知の CH 責任遺伝子変異が除外されている日本人 CH コホート 120 名。
方法
本研究では、第 1 段階として常染色体劣性遺伝を呈する CH 患者家系(罹患同胞対)2 家系、な
らびに弧発例 3 家系(発端者+両親のトリオ)に対してエクソーム解析を行う。エクソーム解析は、
試料を用いたアッセイ(配列データの取得)と、バイオインフォマティクス解析(配列データと標
準ゲノム配列の照合、配列変化の同定と既知多型配列との照合、生物学的影響の推測など)から成
り立つ。CH は表現型、重症度が幅広く、非罹患と思われる両親のいずれかが変異を有している可
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
能性も否定できない。すでに我々は CH の代表的既知責任遺伝子である LHX4 遺伝子変異陽性者の
家族解析により、低身長を認めず、無症状の LHX4 変異陽性例が存在することを報告している
(Takagi et al PLoS ONE. 2012)。そのため、エクソームで原因が解明された他の多くの疾患と異な
り、de novo アプローチが必ずしも通用しない。
得られた候補遺伝子の中で視床下部・下垂体に発現が無いものは除外可能である。よって第 2 段
階として、ヒト胎児下垂体での遺伝子発現パターンを確認する。組織別の遺伝子発現パターンは各
種データベースに集積されているが、必ずしもヒト胎児の下垂体における発現データは存在しない。
よって発現パターンの確認には、健常人の iPS 細胞より下垂体へと分化させる過程で得られた下垂
体組織(Suga Neuroendocrinology. 2014)より RNA を回収し、発現アレイ解析を行うことで独自
のデータベースの構築を検討している(名古屋大学医学部糖尿病・内分泌内科須賀先生との共同研
究)。このデータをもとに、エクソーム解析で得られた候補遺伝子と照合し、適合するものがあれば
有力な候補遺伝子となる。
最後に候補遺伝子の変異検索を、エクソーム解析を行っていない非家系患者に対しても行い、真
の責任遺伝子であるかを検証する。また、機能がある程度予想されているものであれば、変異タン
パクの機能解析を検討する。機能が全く未知のものである場合は、遺伝子改変動物の作成も視野に
入れ機能解析を検討する。
結果
エクソーム解析:現在までに 16 家系(トリオ解析 8 家系+発端者のみ 8 家系)の解析を終了してい
る。De novo 変異は計 12 個存在したが、複数の家系で共通した変異は存在しなかった。巨脳症+成
長ホルモン分泌低下症の 1 例で、AKT3 遺伝子に de novo 変異を同定した。
発現解析:健常人の iPS 細胞より下垂体へと分化させる過程で得られた下垂体組織より RNA(day
10、30、40、90)を回収し、day 10 をコントロールとして遺伝子発現の増減を agilent expression
array で確認した。
考察
小規模のコホートを用いての denovo アプローチは困難である。
AKT3 異常症により成長ホルモン分泌低下が起こる可能性が示唆された。
発現プロファイルを用いて、今後新規候補遺伝子を探索する予定である。
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軟骨細胞分化・成長に必須の転写因子 Sox9 の上流を制御する
新規転写因子の機能解析
高畑佳史
大阪大学大学院歯学研究科生化学教室
緒言
骨格の伸張は、細胞内の情報伝達機構や転写因子などによる調節を介して緻密に制御される。例
えば、転写因子 Sox9 は間葉系幹細胞から成長軟骨細胞への分化のマスターレギュレーターとして
必須であることは周知の事実である。そのため、転写因子 Sox9 の発現を調節する転写因子を同定
し理解することは軟骨細胞の分化・機能の制御機構解明にとどまらず、Sox9 の上流に対して特異的
あるいは重点的に作用する薬剤の開発が、軟骨成長障害に対し光明を与える可能性が見込まれる。
我々は以前、Sox9 の発現レベルは Bone morphogenetic protein 2(BMP2)の刺激によって誘導
されることを明らかにした。しかしながら、BMP2 刺激によって生じる下流のシグナル伝達系、転
写因子の作用機構は未だ不明な点が多い。なぜなら、BMP2 刺激によって生じる Sox9 の発現誘導
は転写レベルで速やかに行われるため、従来の Microarray 解析等では発現誘導に関わる遺伝子を
捉えることが困難であった。
そこで我々はエピジェネティクス情報に着目し、最新のゲノム編集技術である enChIP 法を駆使
することで、Sox9 遺伝子の上流に存在する転写因子のスクリーニングを行い、幾つかの転写因子の
候補を得ることができた。なかでも COE ファミリータンパク質が Sox9 の発現に関与することが分
かり、本研究ではそれらの転写因子が Sox9 の発現誘導を起こすメカニズムをより詳細に明らかに
することを目的とした。
材料と方法
1.材料
マウス間葉系幹細胞株 C3H10T1/2 は、理科学研究所 Cell Bank より購入した。C3H10T1/2 細胞は、
10% DMEM 培地で、37℃、5% CO2 条件下で培養した。
2.レトロウィルスベクターを用いた遺伝子導入
C3H10T1/2 細胞に COE ファミリータンパク質を高効率で発現させるため、レトロウィルスを用
いた遺伝子導入法を選択した。レトロウィルスベクターは pMXs-puro に N 末端側に Flag tag を付け、
mouse COE1、COE2 ま た は COE3 の cDNA を 組 み 込 ん で 作 成 し た。plat-E 細 胞 に
Polyethyleneimine(Polyscience)を用いて pMXs-Venus、pMXs-COE1、pMXs-COE2、pMXsCOE3 をそれぞれトランスフェクションした。6 時間後に新しい培地に交換し、さらに 48 時間イン
キュベートした培養上清を 45μm のシリンジフィルターでろ過し、それをレトロウィルス液として
使用した。対数増殖期である C3H10T1/2 細胞にレトロウィルス液を培地に対して 10% の割合で加
え、4 μg/mL polybrene を含む培地で 48 時間感染させた。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
同 様 に ShRNA を 用 い た ノ ッ ク ダ ウ ン 法 に つ い て も レ ト ロ ウ ィ ル ス ベ ク タ ー RNAi-Ready
pSIREN-RetroQ Vector(clontech)を用いた。制限酵素 EcoRI/BamHI でベクターを切断し、
ターゲッ
ト配列を含むオリゴ DNA を挿入した。ノックダウン効率の条件等を最適化するため以下の 3 種類
のオリゴ DNA を使用した。また GFP ターゲット配列をコントロールとして用いた。
3.RT-qPCR 法による mRNA の定量
培養した C3H10T1/2 細胞から Nucleospin RNA(Macherey-Nagel)を用いて、Total RNA を抽
出した。抽出した total RNA 1μg を PrimeScript II Reverse Transcriptase(Takara)を用いて添
付文書に従い、逆転写反応を行った。得られた complementary DNA(cDNA)溶液 20μL を水で
10 倍希釈し PCR 反応に使用した。PCR 反応を行う機器として StepOnePlus リアルタイム PCR シ
ステム(Applied Biosystems)を使用し、試薬は Thunderbird (R) probe qPCR Mix(TOYOBO)
、
または Thunderbird (R) SYBR (R) qPCR Mix(TOYOBO)を用いた。遺伝子発現の定量は内部標
準として β-actin の相対的発現量を元に計算した。使用した Primer は以下の通りである。
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結果
1.レトロウィルス感染による遺伝子発現の最適化
C3H10T1/2 細胞にレトロウィルスにより Venus を感染させ、遺伝子発現の確認を行った。イン
フェクションの効率は Venus による緑色蛍光を観察し、9 割以上の細胞に遺伝子が発現しているこ
とを確認した(Fig 1A)。ウィルスによって高効率の発現系が構築できたので、以後目的タンパク
質を発現させる時も同様の条件で実験を行った。
2.COE ファミリータンパク質強制発現系による Sox9 遺伝子発現量の検討
C3H10T1/2 細胞にレトロウィルスにより Venus、COE1、COE2 および COE3 をそれぞれ感染さ
せ、RT-qPCR 法により Sox9 遺伝子の mRNA 発現量を測定した。さらに Sox9 遺伝子の下流にある
Col II 遺伝子についても同様に mRNA 発現量を測定した。その結果、COE1 または COE2 を強制発
現させた C3H10T1/2 細胞において、Sox9 遺伝子発現の著明な上昇が観察された(Fig 1C)。しか
しながら、COE3 の強制発現は Sox9 遺伝子の発現量に影響を与えなかった。さらに COE1、COE2
の強制発現による Sox9 遺伝子の発現上昇により、Sox9 の下流で制御される Col II 遺伝子の発現も
増加していることが明らかとなった(Fig 1D)
。
Figure 1 COE 関連タンパク質の強制発現系の評価
(A)C3H10T1/2 細胞にレトロウィルスを感染させ、Venus 発現を指標に遺伝子導入
効率を観察した。
(B) pMXs-puro ベクターに挿入した Flag タグ付き COE1、
COE2 および COE3 遺伝子。
(C) COE1、COE2 および COE3 遺伝子過剰発現による Sox9 mRNA の定量結果。
(D)COE1、COE2 および COE3 遺伝子過剰発現による Col II mRNA の定量結果。
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3.3shRNA による COE ファミリー遺伝子ノックダウンによる影響
次に、COE 遺伝子過剰発現系による影響と比較検討するため、shRNA を用いた COE 遺伝子ノッ
クダウン時における Sox9 遺伝子の発現量について検討を行った。まず、COE1 の shRNA ベクター
を 3 種類作成した。3 種類の shRNA ベクターを C3H10T1/2 細胞に遺伝子導入を行い、導入後 72
時 間 後 に RNA を 回 収 し、COE1 お よ び Sox9 遺 伝 子 の mRNA 発 現 量 を 測 定 し た。 そ の 結 果
ShCOE1.a、ShCOE1.c 導入群ではコントロール群に比べ、COE1 遺伝子のノックダウン効果が認め
られたが、ShCOE1.b では効果が見られなかった。その中でも最も著明にノックダウン効果が観察
されたのは ShCOE1.c のベクターであった(Fig 2A)。同様に Sox9 遺伝子発現量についても検討し
た結果、ShCOE1.c のベクター導入群においてのみ Sox9 遺伝子の発現低下が認められた(Fig 2B)
。
Figure 2 shRNA を用いた COE 遺伝子ノックダウンによる影響
C3H10T1/2 細胞にレトロウィルスを用いて 3 種類の ShCOE1 を発現させ、72 時間後
に RNA を回収した。COE1(A)および Sox9(B)の mRNA 発現の結果図。
考察
本研究で明らかにした最も重要な所見は、C3H10T1/2 細胞を用いて Sox9 プロモーターを標的に
enChIP 法を行い、スクリーニングで得られたタンパク質が Sox9 の転写制御に関与していることを
明らかにしたことである。この発見は、BMP2 により Sox9 が活性化されるシグナル経路の詳細な
解明と、下流の遺伝子の活性化を明らかにする糸口になりうる可能性がある。実際に本研究では、
予備実験としてスクリーニングで得た新規転写因子は免疫染色により核内に存在することがわかっ
ており、さらに Flag 抗体を用いた ChIP assay により Sox9 プロモーターに結合するデータを得て
いる。現在この転写因子のドメインを解析し、さらなる分子メカニズムの解明を試みている。
しかし、BMP2 によるシグナルがどのようなメカニズムで転写因子を活性化するのかについては
未だ不明である。上流である BMP2 の刺激により、どのように転写因子の細胞内での機能が変化し、
Sox9 の発現を誘導するかを解明するのは今後の検討課題としたい。最終的にはスクリーニングで得
られた転写因子の制御を通じて、軟骨の成長障害の、新規治療法の理論構築および軟骨の成長を促
す新規薬剤の開発を目指していきたい。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
謝辞
本研究は、
公益財団法人成長科学協会からの平成 27 年度研究助成金を受けて遂行したものであり、
本稿を終えるにあたりここに厚く御礼申し上げます。
参考文献
1.
Fujita, T., Asano, Y., Ohtsuka, J., Takada, Y., Saito, K., Ohki, R. and Fujii, H. (2013).
Identification of telomere-associated molecules by engineered DNA-binding moleculemediated chromatin immunoprecipitation (enChIP). Scientific Reports , 3 .
2.
Fujita, T. and Fujii, H. (2014). Identification of proteins associated with an IFNγ-responsive
promoter by a retroviral expression system for enChIP using CRISPR. PloS One , 9 (7),
e103084.
3.
Hata, K., Takashima, R., Amano, K., Ono, K., Nakanishi, M., Yoshida, M., Wakabayashi, M.,
Matusa, A., Maeda Y., Suzuki, Y, Sugano, S., Whitsun, R, Nishimura R and Yoneda, T (2013).
Arid5b facilitates chondrogenesis by recruiting the histone demethylase Phf2 to Sox9regulated genes. Nature Communications , 4 , 2850.
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
体質性低身長児 53 例における ACAN 遺伝子解析
棚橋祐典
旭川医科大学小児科
研究の背景と目的
Aggrecan は軟骨の細胞外基質の主要構成蛋白であり、それをコードする ACAN 遺伝子の変異は、
Spondyloepiphyseal dysplasia, Kimberley type や Spondyloepimetaphyseal dysplasia, aggrecan
type、Osteochondritis dissecans, short stature, and early-onset osteoarthritis とよばれる骨系統疾
患を呈するが、近年、特発性低身長児において ACAN 遺伝子ヘテロ接合性変異が同定された。そ
の表現型として、前思春期から認める骨年齢の促進や思春期における成長不良が指摘されている。
体質性低身長児における ACAN 遺伝子異常の関与を明らかにすべく、昨年度 ACAN 遺伝子の一
部の領域について遺伝子解析を行い、遺伝子変異を同定した。今回、残る領域についてさらなる解
析を進め、表現型と併せて検討を行った。
対象と方法
対象は、身長 SD スコア− 2SD 以下の低身長小児(特発性低身長、家族性低身長、SGA 性低身長
症を含む)53 例。インフォームドコンセントを得た後、末消血リンパ球からの genomic DNA 抽出
を行い、PCR‒ ダイレクトシークエンス法にて ACAN 遺伝子の coding exon および exon-intron 境
界部について塩基配列を決定した。なお、長鎖の反復配列を有する exon 12(4566bp)の一部(約
1800bp)を除外して解析を行った。
結果
53 例中 3 例(5.7%)において、それぞれ① c.553C>A(p.P185T)、② c.1496C>A(p.A499D)、③
c.2471C>T(p.S824F)という新規のミスセンス変異をいずれもヘテロ接合性に同定した。いずれも
SNP のデータベースにはない変異であった。また、PolyPhen‒2 にて①②は“Probably damaging”
、
③は“Benign”という結果であり、①②において機能低下が予測された。
3 例の診断はいずれも特発性低身長で、一例は思春期未発来でまだ成人身長に達しておらず、残
り 2 例は転居等の理由で成人身長までの経過を追うことができなかった。既報と異なり、骨年齢は
それぞれ① 2.5 歳(暦年齢 3.3 歳)、② 3.5 歳(暦年齢 4.8 歳)、③ 8.8 歳(暦年齢 8.8 歳)と明らかな
促進を認めなかった(表 1)
。
考察
今回、体質性低身長児 53 例を対象として、PCR ‒ ダイレクトシークエンス法による ACAN 遺伝
子解析を行ったところ、3 例(5.7%)において変異が同定され、体質性低身長における遺伝子異常
として比較的頻度が高いものである可能性が示された。また表現型に関して、既報で指摘された骨
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
年齢促進は認められなかったことから、多彩な表現型を有する可能性が示唆された。遺伝子型表現
型連関を明らかにするために今後症例数を増やし、さらなる解析を進めていく必要がある。
表 1 ACAN 遺伝子変異を有する 3 例の表現型
Genotype
Ĭ P185T
ĭ A499D
Į S824F
Age (years) / Sex
13.5 / male
4.8 / female
8.8 / female
Gestational age (weeks)
38
40
39
Birth length (cm) / weight (g)
45.7 / 2350
47.3 / 2750
46.0 / 2464
Height of Father / Mother (cm)
165 / 150
161 / 156
173 / 157
Height (cm)
136.8
93.5
120.6
Height-SDS
-2.7
-2.5
-1.5
IGF-1 (ng/ml)
163 (at 3-year-old)
130
140 (at 5-year-old)
Bone age (years)
2.5
3.5
8.8
Chronological age at evaluation
of the bone age (years)
3.3
4.8
8.8
GH provocation test
ND
normal
normal
Diagnosis
ISS
ISS
ISS
PolyPhen-2
Probably damaging
Probably damaging
Benign
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
単純 X 線像のスコアリング法(くる病重症度スケール)による
X 連鎖性低リン血症性くる病の病勢評価
原田大輔、柏木博子、難波範行、清野佳紀
地域医療機能推進機構大阪病院小児科
背景
XLH は先天的に骨の石灰化異常をきたす疾患で、
その原因遺伝子は PHEX (phosphate-regulating
gene with homology to endopeptidases on the X chromosome)遺伝子である(1)
。発症の詳細な
機序は不明な点も多いが、血中の FGF23(fibroblast growth factor 23)濃度が上昇することにより
尿細管でのリンの再吸収率が低下し、低リン血症や高 ALP 血症、骨幹端のくる病変化、骨変形や
成長障害などをきたすことが知られている(2)。現在のところ根本的な治療法は存在しないため、
その治療は活性型ビタミン D と中性リン酸塩の投与で骨の石灰化の改善を目指すが、いずれも対症
療法であり、成長期の XLH 患者では症状の改善と増悪を繰り返すことが多い。
診断時や治療中に特に病勢を鋭敏に反映して薬の開始や増量の根拠となるのは、単純 X 線像のく
る病変化と血中アルカリフォスファターゼ(ALP)値である。血中の ALP 値は継時的変化も評価
しやすいが、骨所見はより実際的な病勢を反映するものであるため両者はともに必要不可欠な指標
である。骨の単純 X 線像におけるくる病変化とは、Fraying や Flairing、Cupping などの変化を指
すが、その重症度評価法は一般的ではなく、客観的な病勢の把握は困難なのが現状である。
近年、ビタミン D 欠乏性くる病患者の単純 X 線像を評価する「くる病重症度スケール」(RSS:
rickets severity scale)が発表された(3)。これはビタミン D 欠乏性くる病診断時の単純 X 線像に
ついて、その重症度を 10 段階で評価するものである。XLH はビタミン D 欠乏性くる病と比較して
長期間骨幹端のくる病変化が持続するため、診断時をはじめとしてその後治療中にも繰り返し単純
X 線像の評価が必要である。
対象と方法
RSS は手関節と膝関節の単純 X 線写真において、左右の橈骨・尺骨の遠位端と左右の大腿骨遠位
端・脛骨近位端の合計 8 箇所の骨幹端所見を評価する。それぞれでくる病変化の有無とそれらの成
長軟骨板における割合を加点法で評価する(正常 0 点、最重症 10 点)。具体的には、上肢骨はくる
病変化の重症度(0 − 2 点)を左右のうちより重症側の橈・尺骨 2 箇所と、下肢骨のくる病変化重
症度(0 − 3 点)を左右のうちより重症側の大腿骨・脛骨 2 箇所をすべて加算して、合計 0 − 10 点
の点数をつけて評価する。評価の例を図 1 に示す。
対象は当院で治療中の XLH 患児 18 人。RSS を XLH 患者に応用して点数化し、血液検査所見や
成長率などとの相関関係を評価して、その評価法が XLH の病勢を的確に反映しているかを検討し、
日常診療において XLH の病勢を簡便かつ客観的に評価する方法を確立する。
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結果
今回検討した 18 名の XLH 患者はすべての患者は成長期の小児であり、活性型ビタミン D 製剤お
よびリン酸塩製剤で治療されている。対象患者の評価時年齢は 8.1 歳、のべ観察期間が 122 年、の
べ評価回数が 212 回であった(表 1)。
治療中の長管骨骨幹端のくる病所見および RSS の推移、および血清 ALP 値の推移の例を図 2 に
示す。治療開始にともなってくる病変化が改善傾向を示し、同時に RSS も低下傾向を示している。
また血清 ALP 値も治療開始後に改善傾向を示した。
全 18 症例それぞれの RSS の平均値は 2.6±1.8 点(0 − 8 点)であり、血中 ALP 値と強い相関関
係を示した(r = 0.74)
(図 3)。その他の検討として、血清 P 値や血清 Ca 値、Tmp/GFR などの血
液検査所見や身長 SD スコア、成長率 SD スコアなどとの相関関係を検討したが、いずれも有意な
相関関係は得られなかった。
考察
XLH に対する標準治療法は対症療法であり、成長期の XLH 患者は増悪と緩解を繰り返すため、
定期的な病勢の評価および投薬量の変更が治療上不可欠である。XLH 治療の目標は、骨のくる病変
化の改善・維持と悪化の予防である。現在のところ最も鋭敏な指標は血清 ALP 活性であるが、病
勢は単純 X 線像や成長率、血清 P 濃度などを元に総合的に判断される。しかし、単純 X 線像の評
価は主治医の主観によるところが多く、単純 X 線像をスコアリング化することでくる病変化の客観
的評価が可能になり、コントロールのよい指標になりうる。今回の検討から RSS は、血中 ALP 値
との相関関係を認めたことから XLH の病勢をよく表していると考えられた。
小児 XLH の病勢を客観的に評価できる指標として、RSS が効果的に活用できる可能性が示され
た。
参考文献
1.
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
表 1 患者背景
ᝈ⪅⫼ᬒ
XLH ᝈ⪅
18 ே㸦⏨㸸ዪ㸻8㸸10㸧
ᖹᆒᖺ㱋
5.5±3.2 ṓ
ࡢ࡭ホ౯ᅇᩘ
212 ᅇ
ࡢ࡭ほᐹᮇ㛫
122 ᖺ㛫
RSS ᖹᆒⅬ
2.6±1.8 Ⅼ
図 1 くる病重症度スケール(RSS)評価の例
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
図 2 治療にともなう骨幹端のくる病所見と RSS および血清 ALP 値の推移
図 3 RSS と血清 ALP 値の相関図
5000
r=0.74
ALP (IU/L)
4000
3000
2000
1000
0
RSS㸦Ⅼ㸧
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毛髪中ヨウ素濃度分析によるヨウ素摂取量の評価についての研究(中間報告)
布施養善
帝京大学医学部小児科遺伝代謝研究室
伊藤善也
日本赤十字北海道看護大学臨床医学領域
吉田宗弘
関西大学化学生命工学部
山口真由
鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科
浦川由美子
元鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科
塚田 信
女子栄養大学研究所
横山次郎
日本農産工業株式会社
小川英伸、三牧正和
帝京大学医学部小児科
児玉浩子
帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科
研究の背景
ヨウ素摂取過剰あるいは不足による甲状腺機能障害のリスクは乳幼児、高齢者において高いこと
が知られており、乳幼児では一過性あるいは永続性の甲状腺機能障害による発育・発達異常が起こ
ることがある。ヨウ素は食品中からほぼすべて吸収され、90%以上が尿中に排泄されるため尿中ヨ
ウ素排泄量はヨウ素摂取量の生物学的指標であり、集団あるいは地域のヨウ素栄養状態は学齢期の
小児の随時尿中ヨウ素濃度の中央値から評価する(Zimmermann et. al, 2015)
。
しかし、尿中ヨウ素量は過去 1 − 2 日の短期間のヨウ素摂取量を反映するので、長期間の日常的
なヨウ素摂取量を個人レベルで評価するには適していない。また間接的なヨウ素摂取量の指標とし
て食物摂取頻度調査法(FFQ)(布施ほか 2012)や秤量調査法などの栄養調査法があり、前者はあ
る期間の平均的ヨウ素摂取量、後者は直近の摂取量を評価するものである。
毛髪中に微量元素が蓄積することは従来から報告されているが、最近、毛髪中ヨウ素濃度がヨウ
素栄養状態を反映する可能性を示唆する報告がなされた(Momcilovic et al. 2014)
。毛髪は血中から
微量元素ほか種々の物質を取り込み、また血中に排出している。毛髪は周期をもって継続的に成長
し、毛周期は初期成長期∼成長期(4 ∼ 7 年)、退行期(伸びない状態で 2 ∼ 4 週間)
、休止期(伸
びないで抜け落ちる状態で数か月間)に分けられる。成長期毛髪の成長速度は 0.3 − 0.4mm/ 日、
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
約 1cm/ 月とされているが、加齢とともに速度が減少する。毛髪中のミネラル成分の分析は疾患の
スクリーニング方法として 1970 年代初めに始まった(Campbell et al. 1985)
。その後、測定法の進
歩とともに商業的目的で日本も含め諸外国においても行われているが、疾患のスクリーニング法と
しての有効性は認められていない。
毛髪中ヨウ素についての報告は 1923 年ころから散見するが非常に少ない。Fellenberg は自分の
毛髪を測定してヨウ素濃度を 1.08μg/g(ppm)と報告している(Fellenberg 1923)
。イスラエルの
Ganor らはヨウ素欠乏地域と充足地域から、7 ∼ 17 歳の小児各 15 名において、毛髪と 24 時間蓄尿
検体のヨウ素濃度を化学的定量法で測定した。両地域の小児の毛髪ヨウ素濃度の平均値(範囲)は
それぞれ 140(30 − 410)μg/g と 150(30 − 480)μg/g であり、尿中ヨウ素濃度、飲料水ヨウ素
含有量とに関わらず、ほぼ同じ値であった(Ganor et al. 1964)
。カナダの Gibson らは生後 0 から 3
日の新生児 99 名、内訳は早期産児(在胎 26 − 36 週)37 名、満期低出生体重児 24 名(出生体重
2500g 以下、在胎 38 − 42 週)、満期産児 38 名において、ヨウ素を含む微量元素を中性子放射化分
析(Harrison et al. 1969)によって測定した。毛髪ヨウ素の中央値は低出生体重児において 115ppm
と、対照例の 14.5ppm よりも髙値であった(Gibson et al. 1979)
。
本邦の報告では、大森らはバセドウ病患者(20 名)およびバセドウ病寛解期患者(21 名)の毛髪
中ヨウ素濃度を放射化分析によって測定した。ヨウ素の幾何的平均値(SD)は正常人では 0.35(2.4)
ppm であるのに対して、バセドウ病患者は 0.25(3.5)ppm、バセドウ病寛解期患者は 0.2(1.8)
ppm と低値であった(大森ほか 2004)。Yasuda らは自閉症スペクトラムに属する 1 ∼ 15 歳の小児
360 名において、24 種類の毛髪中ミネラルを誘導結合プラズマ質量分析法(Inductively Coupled
Plasma Mass Spectrometry, ICP-MS)を用いて測定し、患児では全般的なミネラルバランスの障害
があると報告した。ヨウ素については、患児の毛髪中の平均値は対照例が約 0.4 − 0.6ppm であるの
に対して約 0.2 − 0.3ppm であり、有意に低値であった(Yasuda et al. 2005)
。同じ著者は 20 − 60
歳の男性 1540 例において毛髪ヨウ素濃度を測定した。年齢毎に分けると、20 代:377ppb、30 代:
428ppb、40 代:412ppb、50 代:534ppb、60 代:644ppb と、年齢とともに濃度が増加した(Yasuda
2007)。最近、クロアチアの MomĀiloviþ らは、870 名の健常成人の毛髪ヨウ素量を ICP-MS によっ
て測定し、中央値は 0.499μg/g であり、統計学的処理によって適切なヨウ素栄養状態の毛髪ヨウ素
濃度値は 0.565 − 0.736μg/g であると報告した(MomĀiloviþ et al. 2014)
。
これらの報告の毛髪ヨウ素濃度値は、Gibson らのもの以外は 1ppm 以下のようであるが、同時に
他の方法によるヨウ素摂取量の評価がなされていないため、長期のヨウ素摂取量を反映しているか
どうかの判断は困難である。
研究の目的
1.毛髪中ヨウ素濃度測定方法を確立すること。
2.個人レベルでの長期間のヨウ素摂取量を、毛髪中ヨウ素濃度値によって正確に評価することが可
能かを検証すること。
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
研究方法
1)対象は、公益財団法人成長科学協会ヨウ素関連調査委員会が行っている「ヨウ素を多量に含む食
品摂取の健康リスクについて−甲状腺機能への影響についての研究」において対象とした健康成人
男女のうち毛髪の提供に同意したもので、各 300 名、合計 600 名とする。
2)毛髪の採取方法
後頭部の外後頭隆起直上の部位の毛髪を、頭皮から約 1cm の位置で切断して毛髪切片を 0.5 − 1g
採取する(毛髪切片 1cm はほぼ 1 か月の生長に相当する長さである)。
3)毛髪のヨウ素含有量の測定
ICP-MS を用いて測定する。毛髪には洗剤、リンス剤、整髪料、着色料などが日常的に使われる
ので、毛髪表面に種々の物資が吸着されている。これらを除去することも目的とした前処理が重要
であり、酸処理、アルカリ処理、マイクロウエーブ分解などを試みる。
4)随時尿を採取し、ヨウ素濃度は ICP-MS を用いクレアチニン濃度は酵素法で測定する。
5)血清 TSH、FT4、FT3 を測定する。
6)FFQ により日常的なヨウ素摂取量を算出する。
7)毛髪中ヨウ素濃度の分布、標準範囲、年齢、性別との関連を検討する。
8)毛髪中ヨウ素濃度とヨウ素摂取量および甲状腺機能との関連を検討する。
本研究の特色
1)毛髪中の微量元素を測定する方法は、非侵襲的に長期間の平均的な微量元素への曝露量、摂取量
を評価できることが知られているが、ヨウ素についても当てはまるかどうかは報告がなく、従って
健常人の正常値、標準値は報告されていない。
2)毛髪中ヨウ素量が個人レベルの長期間のヨウ素摂取量を正確に反映するならば、ヨウ素について
の新しい生物学的指標となり得る。個人レベルでのヨウ素摂取不足、ヨウ素過剰摂取の診断が正確
に行える。
3)毛髪中微量元素は原子吸光法、放射光分析、ICP 発光分析、ICP-MS などを用いられているが、
ヨウ素については最も感度の高い微量元素測定法である ICP-MS によって測定すること。
研究の進捗状況(2016 年 4 月の時点)
1)毛髪、尿、血液検体は約 20 検体である。FFQ も同数回収されている。
2)帝京大学中央機器室に設置されているサーモフィッシャーサイエンティフィック社の iCAP Q
ICP-MS 質量分析計を用いて測定の予備実験を行っている。
文献
1.
Zimmermann MB, Boelaert K. 2015 Iodine deficiency and thyroid disorders. Lancet Diabetes
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
散発性 GH 産生下垂体腫瘍における CDK2・3 遺伝子変異発現解析
堀口和彦
群馬大学医学部附属病院内分泌糖尿病内科
佐藤哲郎、山田正信
群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学
登坂雅彦
群馬大学大学院医学系研究科脳神経外科学
背景と目的
我々は GH 産生下垂体腫瘍において Men1・MLL-p27Kip1 経路異常が腫瘍発症に関与することを明
らかとし、細胞周期異常の GH 産生下垂体腫瘍発症への関与を明らかとした 1)。さらに、この経路
の重要な構成因子である Men1 遺伝子の異常により発症する多発性内分泌腫瘍症 1 型(MEN1 型)
では、下垂体腫瘍が発症するが、p27Kip1 遺伝子異常でも MEN1 型が発症することが報告されてい
る 2)。これらのことから、細胞周期の異常が内分泌異常発症に重要な役割を持つ可能性に注目し、
特に p27Kip1 が直接制御する CDK2 遺伝子と、同遺伝子と相同性の高い CDK3 遺伝子に注目した。こ
れまで CDK2、CDK3 遺伝子変異が何らかの腫瘍発症の原因となる報告はないが、同じく細胞周期
を制御する CDK4 遺伝子の活性型変異が家族性悪性黒色腫の原因として報告され、同変異のノック
インマウスでは皮膚の悪性腫瘍のみならず 30% で下垂体腫瘍を発症することから、CDK 遺伝子変
異が下垂体腫瘍発症の原因となる可能性が示唆されている 3)。今回我々は、CDK2・3 遺伝子変異の
GH 産生下垂体腫瘍発症への関与を明らかとすることを目的とした。
方法 対象は、当院脳神経外科で下垂体腫瘍摘出術を受けた GH 産生下垂体腫瘍 20 例、非機能性下垂体
腫瘍 18 例、ACTH 産生下垂体腫瘍 5 例とし、群馬大学の倫理委員会の承認、並びに対象患者より
インフォームドコンセントを得た上で行った。GH 産生下垂体腫瘍については GNAS 遺伝子変異の
ない症例を対象とした。下垂体腫瘍摘出検体より mRNA を抽出、逆転写し cDNA を作成した。
CDK2 並びに CDK3 遺伝子全領域をシークエンスすることができるようにプライマーを設計し、作
成した cDNA を用いてダイレクトシークエンス法により CDK2 並びに CDK3 遺伝子のシークエン
ス解析を行った。
結果
遺伝子解析結果を表 1 に示す。CDK2 遺伝子には c. 84 G>A 遺伝子多型を GH 産生腫瘍 2 例、非
機能性腫瘍 1 例に、c. 585 G>A 遺伝子多型を GH 産生腫瘍 1 例に認めた。両遺伝子多型とも同義変
異であり、アミノ酸配列に変化はなく、また dbSNP データベース上に良性の一塩基多型として報
告されていた。CDK3 遺伝子には c. 91 T>C 遺伝子多型を GH 産生腫瘍 1 例に、c. 507 C>T 遺伝子
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
多型を非機能性腫瘍 1 例に認めた。c. 507 C>T 遺伝子多型は同義変異であったが、c. 91 T>C 遺伝
子多型は 254 番目のメチオニンがスレオニンに置換される非同義変異であった。しかし、両遺伝子
多型とも dbSNP データベースで良性の一塩基多型として報告されていた。すべての SNP はヘテロ
接合性に認められた。
表 1 遺伝子解析結果
遺伝子
Polymorphism
CDK2
c. 84 G>A
c. 585 G>A
Codon change
refSNP ID
症例数
-(Glu)
rs2069398
GH 2 例、NF 1 例
-(Glu)
rs2069406
GH 1 例
CDK3
c. 91 T>C
Met254Thr
rs17884251
GH 1 例
c. 507 C>T
-(Arg)
rs61747000
NF 1 例
GH:GH 産生腫瘍、NF:非機能性腫瘍
考察
今回、GH 産生下垂体腫瘍 20 例を含む下垂体腫瘍 43 例を対象として、PCR ダイレクトシークエ
ンス法を用いて CDK2、CDK3 遺伝子変異解析を行ったところ、腫瘍発症に関与するような新規遺
伝子変異は認められなかった。CDK2 遺伝子に二つ、CDK3 遺伝子に二つの既報の良性一塩基多型
を認められた。症例数が少ないため、これら四つの SNP の頻度についてデータベースと比較するこ
とはできないが、GH 産生腫瘍において明らかにこれら SNP の頻度が上昇している傾向は認めず、
これらの SNP が腫瘍発症に関与している可能性は低いと考えられた。 これまでの GH 産生下垂体腫瘍発症に関与する原因遺伝子として、GNAS 遺伝子変異が報告され、
散発性 GH 産生下垂体腫瘍の 8 − 43 % に本遺伝子の体細胞変異が認められることが明らかとなっ
GH 産生下垂体腫瘍の 3 % で AIP 遺伝子変異が認められることも報告されている。
ている 4),5)。また、
さらに、近年 GH 産生下垂体腫瘍の 5 % が GPR101 遺伝子の機能獲得型変異によることも報告さ
れ 6)、GH 産生下垂体腫瘍発症に関与する遺伝子異常が徐々に明らかとなっている。しかし、これら
の遺伝子変異で GH 産生下垂体腫瘍発症の原因を説明することはできず、その他の遺伝子変異が原
因となっている可能性も考えられるが、機能を元に予想した遺伝子のみの解析では効率が良いとは
いえない。近年、次世代シークエンサーを用いた遺伝子変異の網羅的解析が可能となっており、今
後多数例の GH 産生下垂体腫瘍を用いて、次世代シークエンサーを用いた網羅的な解析により、GH
産生下垂体腫瘍の原因遺伝子の解析が必要であると考えられた。
参考文献
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Horiguchi K, Yamada M, Satoh T, Hashimoto K, Hirato J, Tosaka M, Yamada S, and Mori M.
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
Wolfram 症候群における成長障害メカニズムの解明
‒ 小胞体ストレスによる GH 分泌への影響−
森川俊太郎、山口健史、石津 桂、有賀 正
北海道大学大学院医学研究科小児科学分野
田島敏広
自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児科
中村明枝
国立成育医療研究センター研究所分子内分泌研究部
背景
小胞体でタンパクの立体構造が形成される過程で、異常なタンパク質が蓄積することを小胞体ス
トレスと呼ぶ。また、細胞には恒常性を維持しようとする品質管理機構があり、この小胞体ストレ
スに対する反応を小胞体ストレス応答
(UPR)と呼ぶ。小胞体ストレスが UPR の容量を超えてしまっ
た場合、細胞のアポトーシスを誘導して除去する仕組みも備えられている。
Wolfram 症候群(WS)は成長障害、中枢性尿崩症、インスリン依存性糖尿病、視神経萎縮、難
聴を 4 候とする予後不良な遺伝性疾患である。それぞれの発症時期には幅があり、糖尿病と視神経
萎縮は学童期から 10 代前後にかけて発症することが多い。WS の責任遺伝子として 4 番染色体短腕
に位置する WFS1 遺伝子が同定されている。WFS1 遺伝子は 8 つのエクソンから構成されており、
これまで報告されている変異の大多数は C 末端の膜貫通領域に同定されている。常染色体劣性遺伝
形式による発症がほとんどであるが、近年、常染色体優性遺伝形式での WS も報告されている。
WFS1 遺伝子によってコードされる WFS1 は各臓器の小胞体膜、特に膵臓 β 細胞に多く発現す
る、9 つの膜貫通領域を持つ 100kDa の蛋白である。WS は UPR の障害による疾患と考えられてお
り、変異 WFS1 による UPR 経路を障害が膵 β 細胞のアポトーシスを誘導し、WS を発症すると考
えられている。
WFS1 の機能に関しては不明な点も多いが、近年、① UPR 経路の転写因子である ATF6 の分解・
制御に関わる、② Sarcoendoplasmic reticulum Ca2+‒ATPase(SERCA2b)を介した小胞体内 Ca2+
調節に関わる分子であることが報告されている。
我々は乳児期早期に発症した重症 WS 女児において、WFS1 遺伝子のヘテロ接合性新規変異
(p.N325_M328del)を同定した。今回、その変異 WFS1 の機能について検討した。
目的
変異 WFS1(p.N325_M328del)の機能を解析し、患児における WS の早期発症・重症化の病態を
解明する。
− 139 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
方法
(1)変異型 WFS1 発現プラスミドの作成
野生型 hWFS1 cDNA が挿入された pcDNA3.1 プラスミドは、浦野文彦先生(ワシントン大学)
、
田部勝也先生(山口大学)の御厚意により分与いただいた。我々が同定した患児の変異(p.N325_
M328del;以下、Del)のほか、既報の p.Q194X と p.L543R 変異は、KOD-plus-Mutagenesis kit
(Toyobo, Tokyo, Japan)を用いて作成した。また、FLAG 融合 WFS1 プラスミド(浦野文彦先生
より分与)、GFP 融合 WFS1 プラスミド(Origene より購入)においても同様の手法を用いて変異
WFS1 を作成した。なお、作成した変異 WFS1 は PCR ダイレクトシークエンス法によりその配列
を確認した。
(2)レポーターアッセイ
1.ERSE レポーターアッセイ
HEK293T 細胞に野生型(WT)
、Del、p.Q194X、p.L543R プラスミドと共に、ERSE(rat
GRP78)-luciferase プラスミド、renilla reniformis-luciferase プラスミドをトランスフェクショ
ンし、24 時間後に dual-luciferase reporter assay system(Promega)を用いてアッセイを行っ
た。Thapsigargin 刺激を行う場合は、トランスフェクションから 24 時間後に 10nM で 6 時間
の条件で細胞に添加とした。
2.ATF6α レポーターアッセイ
HEK293T 細 胞 に WT、Del、p.Q194X、p.L543R プ ラ ス ミ ド と 共 に、pGL4.39(luc2P/
ATF6)プラスミド(Promega)と renilla reniformis-luciferase プラスミドをトランスフェクショ
ンし、24 時間後に dual-luciferase reporter assay system を用いてアッセイを行った。ケミカ
ルシャペロンである 4-phenylbutyrate(4-PBA)を使用する場合は、4mM で 24 時間の条件で
細胞に添加とした。
3.レポーターアッセイを用いた細胞質内 Ca2+ の検討
HEK293T 細 胞 に WT、Del、p.Q194X、p.L543R プ ラ ス ミ ド と 共 に、pGL4.30(luc2P/
NFAT)プラスミド(Promega)と renilla reniformis-luciferase プラスミドをトランスフェクショ
ンし、24 時間後に dual-luciferase reporter assay system を用いてアッセイを行った。
(3)細胞内局在
上記の方法を用いて作成した GFP 融合 WFS1 プラスミド(WT, Del, p.Q194X, p.L543R)を、ス
ライドガラス上で培養した HEK293T 細胞にトランスフェクションした。24 時間後に ER-ID Red
assay kit(Enzo life sciences)を用いて小胞体を蛍光標識し、GFP タンパクの局在を蛍光顕微鏡
(FLUOVIEW FV1000 ; Olympus)を用いて観察した。
(4)アポトーシスの検討
上記の方法を用いて作成した GFP 融合 WFS1 プラスミド(WT, Del, p.Q194X, p.L543R)を、ス
ラ イ ド ガ ラ ス 上 で 培 養 し た HEK293T 細 胞 に ト ラ ン ス フ ェ ク シ ョ ン し た。24 時 間 後 に GFPCERTIFIED Apoptosis/Necrosis detection kit(Enzo life sciences)を用いて annexin-V を蛍光標
識し、GFP タンパクを発現した細胞のアポトーシスについて観察した。
− 140 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
(5)ウェスタンブロット
上記の方法を用いて作成した FLAG 融合 WFS1 プラスミド(WT, Del, p.Q194X, p.L543R)とと
もに、HA 融合 ATF6α プラスミド(Genecopoeia)をトランスフェクションした。24 時間後にタ
ンパクを抽出し、NuPAGE LDS Sample Buffer(Thermo)で変性させ、NuPAGE Novex 4-12%
Bis-Tris Protein Gels(Thermo)を用いて泳動しウェスタンブロットを行った。一次抗体としては、
それぞれ抗 HA 抗体(和光)(3000 倍、4℃、overnight)
、抗 FLAG 抗体(Sigma Aldrich)
(3000 倍、
4℃、overnight)、抗 β actin 抗体(Sigma Aldrich)
(3000 倍、室温、1 時間)の条件で行った。二
次抗体としては HRP labelled 抗マウス IgG(GE Healthcare)を用い、ECL Western blotting
reagents(GE Healthcare)で検出した。
(6)RT − PCR
HEK293T 細胞に WT、Del プラスミドをトランスフェクションし、24 時間後に NucleoSpin
RNA Plus(TAKARA)を用いて total mRNA を抽出した。Homo sapiens SERCA2b プライマー
(Forward:atggagaacgcgcacaccaa, Reverse:tcaagaccagaacatatcgc)を用いて TaKaRa One Step
RNA PCR Kit(Takara)により RT − PCR を施行。PCR 産物をアガロースゲルで電気泳動した。
それぞれコントロールとして、Homo sapiensβ-actin の RT − PCR も行った。
結果
1.ERSE レポーターアッセイ
患児の変異
(p.N325_M328del;Del)は小胞体ストレス誘導剤である thapsigargin の有無に関わらず、
ERSE プロモーター活性を上昇させ、「恒常的な小胞体ストレス」を誘導することが示唆された
(Fig.1)。
Fig.1
***
5
*
*
*
4.5
*
4
*
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
pcDNA3
WT
del
194
543
pcDNA3
WT
del
194
7KDSVLJDUJLQ
− 141 −
543
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
また同じレポーターアッセイの系を用いて WT と Del を同量でトランスフェクションしたところ、
やはり thapsigargin の有無に関わらない恒常的な小胞体ストレスを認めた。以上より、患児の変異
には優性阻害効果があることが示唆された(Fig.2)
。
Fig.2
*
4.5
4
*
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
7KDSVLJDUJLQ
‫ش‬
ٔ
‫ش‬
:7
ٔ
:7 'HO
2.細胞内局在
野生型 WFS1 と既報の 2 つの WFS1 変異は、小胞体と細胞内局在が一致した。一方で患児の変
異においては、一部は小胞体の局在と一致するものの細胞形態が変化しており、早期にアポトーシ
スなどを生じている可能性が示唆された(Fig.3)
。
Fig.3
*)3
(5
0HUJH
:7
:)6૗౮৖ਜ਼
S4;
S4;
S/5
S/5
S1B0GHO
'HO
S1B0GHO
− 142 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
3.アポトーシスの検討
Annexin-V の標識によりアポトーシスの検討を行ったところ、患児の変異を発現した細胞では、
他の変異と比較しても有意に強いアポトーシスが誘導されていることが示された(Fig.4)
。
Fig.4
*)3
$QQH[LQ 9
0HUJH
WT
Del
S4;
S/5
4,ウェスタンブロット
ウェスタンブロットを用いて検討したところ、Del、p.Q194X、p.L543R の WFS1 タンパク発現量
は低下していた(Fig.5)
。野生型、Del、p.L543R と ATF6 を共発現させた細胞では、ATF6 の発現
量が低下する一方、WFS1 発現量の少なかった p.Q194X では ATF6 発現量が増加していた。Del に
おいても、野生型と同等の正常な ATF6 分解能を有していることを示唆している。
Fig.5
N'D
,%:)6
N'D
N'D
,%$7)
N'D
,%̣ DFWLQ
− 143 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
5.ATF6α レポーターアッセイ
患児の変異(p.N325_M328del;Del)では ATF6 プロモーター領域の活性化を認め、また小胞体ケ
ミカルシャペロンである 4-PBA を加えることにより活性は抑制された。以上より、ATF6 プロモー
ター領域の恒常的活性化の背景には、異常タンパクの蓄積、つまり恒常的な小胞体ストレスの存在
が示唆された(Fig.6)
。
Fig.6
*
3.5
*
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
WT
del
194
543
WT*
del*
194*
543*
4ͲPBA
また、ATF6 タンパクの発現量をウェスタンブロットで検討したところ、WT では 90kDa の
ATF6 タンパクが、患児の変異では 50kDa の ATF6 タンパク発現量が増加していた。つまり、患
児の変異では切断された ATF6 タンパク(= UPR 経路の作動により活性化した ATF6)が増大し
ていることが確認された(Fig.7)
。
Fig.7
*
:7
07
,%$7)
N'D
N'D
,%̣DFWLQ
− 144 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
6.レポーターアッセイを用いた細胞質内 Ca2+ の検討
。細胞質内 Ca2+ の上昇は小胞体内 Ca2+ の枯
患児の変異では細胞質内 Ca2+ の上昇を認めた(Fig.8)
渇を反映しており、そこに SERCA2b の活性もしくは発現量の変化が影響しているものと推測した。
そこで、RT-PCR で SERCA2b mRNA 量を検討したところ、患児の変異においては SERCA2b 発現
量の有意な低下を認めた(Fig.9)
。
Fig.8
Fig.9
**
02&.:7
'HO
*
6(5&$E
̣ DFWLQ
:7
07
考察
新規 WFS1 遺伝子変異(p.N325_M328del)は、恒常的に強い小胞体ストレスを誘導しているこ
とを証明した。また、今回同定した変異には優性阻害効果があることを証明した。患児の変異
WFS1 は SERCA2b の発現量を低下させ、小胞体内 Ca2+ の恒常性を破綻させる。小胞体内 Ca2+ の
破綻が calnexin などの Ca2+ 依存性シャペロンの機能を障害し、そこに恒常的な小胞体ストレスが生
じ、ATF6 を介した UPR 経路が活性化しているものと考える(Fig.10)
。
膵臓 β 細胞での恒常的な UPR 経路の活性化が細胞のアポトーシスを誘導し、この患児における
WS 症状を重症化させているものと推測する。今回同定した恒常的な小胞体ストレスは他の変異
WFS1 では認められないことから、今後本研究を進めることで、下垂体前葉 GH 分泌能への影響も
含めた WFS1 の未知の機能を同定することができると考える。
結論
新規ヘテロ接合性 WFS1 遺伝子変異(p.N325_M328del)は、小胞体内 Ca2+ の流出を増加させる
ことで恒常的な ER ストレスと細胞アポトーシスを誘導し、WS の早期重症化の病因となる。
− 145 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
Fig.10
&Dൂோਙ৵ཝ৬३কঌটথ
ਫଞपਃચ
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− 146 −
$7)1
OXFLIHUDVH
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
合成活性型ビタミン D3 によるⅡ型クル病の成長改善効果
森山賢治、二若久美
武庫川女子大学薬学部臨床病態解析学講座
田上哲也
国立病院機構京都医療センター臨床研究センター
内分泌代謝高血圧研究部分子内分泌代謝研究室
研究の背景と目的
遺伝性ビタミン D 依存性クル病(Vitamin D dependent rickets;VDDR)−Ⅱ型は、VDR 遺伝子
突然変異による不活性型変異によりビタミン D(VD3)の生理作用が障害される。主な所見は、低
カルシウム血症、低リン血症、二次性副甲状腺機能亢進症とそれに伴う低身長など、所謂、クル病
所見を生後数週間以内に発症する。
Ⅱ型クル病に対する現在の治療法としては、カルシトリオールを投与する他に方法が無い。実際
の症例報告では、徐々に投与量を増加させてカルシトリオールによる改善効果を一定程度得たとい
う報告があるものの、全ての症例において効果が得られた訳ではない。よってカルシトリオールの
必要量は症例によって大きく異なる上、カルシトリオールのみでは治療の困難な症例が存在する。
現在、臨床で用いられている合成型 VD3 は、カルシトリオール以外にも 7 種存在するが、Ⅱ型ク
ル病の治療適応をもっている訳ではない。
今回、現在我が国の臨床現場で用いられている VD3 製剤については、変異型 VDR(mVDR)と
の治療効果に関する分子生物学的な比較検討はこれまでなされていない。以上の現状を踏まえ、
VDDR II の内 LBD に変異をもつ既報症例に基づき、mVDR 7 症例と VD3 製剤 7 種を用いて治療
効果の評価を試みた。
研究方法
1)プラスミド構築
VDR レポータープラスミドは、mouse osteopontin プロモーター上の VDRE を pGL3 ベクターに
クローニングし作製した。mVDR 発現プラスミド(pCMX-mVDRs)は、pCMX-VDR をテンプレー
トとして、PrimeSTAR Mutagenesis Basal Kit を用いて変異を導入した。
2)細胞培養
ヒト胎児腎細胞株 HEK293 由来 TSA201 細胞は、DMEM で 37℃、5%CO2 条件下で培養を行った。
マウス骨芽細胞前駆細胞 MC3T3-E1 は、MEMα で培養し、10 日間培養して骨芽細胞に分化させた。
3)遺伝子導入及びレポーターアッセイ
TSA201 細胞を播種後、VDRE-tk-Luc、pCMX-VDR もしくは pCMX、及び pGL4.70 をリン酸カ
ルシウム法で細胞に同時導入した。6 時間培養後、フェノールレッド不含 DMEM に培地交換し、
各 VD3 製剤 10nM もしくは vehicle を添加した後、ルシフェラーゼ活性を測定した。転写共役因子
− 147 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
の関与については、Gal4-NCoR、Gal4-SMRT、Gal4-SRC1、Gal4-CBP、Gal4-GRIP1、Gal4-p300 を使
用して、Mammalian two-hybrid アッセイを行い確認した。
4)ウエスタンブロッティング
mVDR の発現と細胞内局在を確認するために、TSA201 細胞に構築した pCMX-mVDRs を導入
し、カルシトリオール 10nM 添加後に、Nuclear Extract Kit を用いて細胞質及び核分画を抽出した。
一次抗体として抗 VDR ポリクローナル抗体、二次抗体として HRP 標識抗ウサギ IgG 抗体を用いた。
研究結果
既存 VD3 製剤 10nM で刺激したところ、野生型 VDR(WT-VDR)の転写活性は、タカルシトー
ル、ファレカルシトリオール、マキサカルシトール刺激時にカルシトリオールと比較して有意に高
かった。一方で、アルファカルシドールおよびエルデカルシトールによる転写活性はカルシトリオー
ルと比較して有意に低かった(図 1)
。
次に、mVDR の核内への移行を確認するために、ウエスタンブロッティングによる mVDR 発現
解析を行った。変異導入箇所は図2a に示す。その結果、mVDR も WT-VDR と同様に主として核
内に移行していることが確認された(図2b)
。また、カルシトリオール 10nM による転写活性の上
昇を確認したところ、野生型 VDR(WT-VDR)の転写活性と比較して I314S 及び G319V は有意に
転写活性が高く、その他の mVDRs は有意に転写活性が低かった(図2c)
。
mVDRs に対する各 VD3 製剤の転写活性を比較検討したところ、ファレカルシトリオールとマキ
サカルシトールによる転写活性は、I314S(図3d)及び G319V(図3e)でカルシトリオールによ
る転写活性と同等であったのに対して、その他の mVDR ではカルシトリオールによる転写活性よ
りも有意に高かった(図3)
。
前段の結果から、ファレカルシトリオール及びマキサカルシトールによる転写活性がカルシトリ
オールよりも高かった Q259E、I268T、H305Q、R391C、E420K の 5 変異について、濃度勾配を配
し て 転 写 活 性 を 検 討 し た。 そ の 結 果、 マ キ サ カ ル シ ト ー ル に よ る 転 写 活 性 は、R391C を 除 く
mVDRs で濃度依存的に増加した。ファレカルシトリオールによる転写活性は、用いた全ての
mVDRs で濃度依存的に増加した。また、1.0nM 及び 10.0nM 添加時の転写活性は、全ての mVDRs
でカルシトリオールよりもファレカルシトリオールで有意に高かった(図4)
。
VDR を含む核内受容体は、リガンド依存的な転写制御のためにコファクターとの相互作用も重要
な意味をもつ。よって Mammalian two-hybrid アッセイを用いて、VDR とコファクターの相互作用
にファレカルシトリオールとマキサカルシトールが及ぼす作用について検討を行った。ファレカル
シトリオールとマキサカルシトールは、コアクチベーターである SRC1、GRIP1、CBP1、p300 の結
合を濃度依存的に促進し(図5a-d)、さらにファレカルシトリオールはコリプレッサーである
NCoR、SMRT の解離を促進した(図5e, f)。また、ファレカルシトリオールはカルシトリオール
よりも有意に SRC1(図 a, 1.0 nM)
、GRIP1(図5b, 10.0nM)、CBP(図5c, 10.0nM)の結合を促進
し、SMRT(図5f, 10.0nM)の解離を促進した。一方で、I268T とコファクターとの相互作用に、
ファレカルシトリオールは影響を及ぼさなかった(図5g-i.)
。
− 148 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
考察
本研究では、現在利用可能な VDR リガンドとして、7 つ VD3 製剤を用いて WT-VDR を介した
転写活性を評価指標として比較した。次いで、この効果を実際の臨床に直接還元することを目的と
して、VDDRII に注目し、この疾患をもつ患者に関する症例報告より得られたデータに基づいて転
写活性を指標として治療効果を推測した。今回の研究の結果、
カルシポトリオール、
タカルシトール、
ファレカルシトリオール、マキサカルシトールについては、WT-VDR に対して天然型であるカルシ
トリオールと同等か、もしくはそれ以上の転写活性化作用を認めた。一方で、アルファカルシドー
ルとエルデカルシトールの 2 剤は、WT-VDR に対する転写活性化作用が非常に弱かった。
VDDR II は、VDR 遺伝子変異によって引き起こされるクル病である。LBD 領域に遺伝子変異が
存在する VDDR II の症例における VDR に対しては、カルシトリオールが本来の親和性で結合でき
ないため、VDR による標的遺伝子の転写活性が影響を受ける。これによりクル病症状を発症する。
LBD に変異をもつ VDDRII の治療法としては、主として高濃度のカルシトリオールとカルシウム
の投与が行われるが、その治療効果は LBD の変異部位によって大きな差があることがわかってい
る。既報では、LBD 領域に変異を有する VDDRII の症例の内、I314S は薬理量の VD3 で、Q259E、
H305Q、G319V、R391C は高濃度のカルシトリオールで治療可能であったとされている。一方
I268T と E420K の2症例は、高濃度のカルシトリオール投与でも症状の改善は得られなかったとさ
れるが、転写活性による評価とも齟齬の無い結果であった。
高濃度のカルシトリオール投与によって症状が改善された症例(Q259E, H305Q, R391C)におい
ても、本実験の結果でも高濃度のカルシトリオール刺激においてのみ、未刺激と比較して有意に転
写活性が増加した。これは既報の記載通り、カルシトリオールの添加量増加により転写活性が促進
されることが今回の細胞実験でも再現された。一方ファレカルシトリオール刺激による転写活性は、
低濃度刺激から全ての濃度で同濃度のカルシトリオール刺激と比較して有意に高かった。
I268T は乳児期より重度のクル病を発症する重症例であり、高濃度のカルシトリオール投与でも
治療効果は無いと報告されている。本研究結果でも、I268T における高濃度カルシトリオールによ
る転写活性は未刺激と比較して 4.2 倍とあまり増加しなかった。一方で、I268T におけるファレカ
ルシトリオール 10.0nM 刺激による転写活性は、カルシトリオール 10.0nM 刺激に対して 37.9 倍と
有意に高かった。これらの結果から、ファレカルシトリオールはカルシトリオールとは異なる受容
体結合性を有しているために、高い転写活性化作用を有することが推察された。更に Mammalian
two-hybrid アッセイの結果より、ファレカルシトリオールはコアクチベーターのリクルートを促進
しコリプレッサーのリクルートを抑制することで転写を活性化したと示唆された。
本研究では、既存医薬品と実際の症例を in vitro の実験系で転写活性の比較検討を行うことに
よって治療効果の評価を試みた。今後本研究成果に基づき、in vivo、更には臨床症例に応用可能な
新規薬剤の開発を目指して検討を行う予定である。
謝辞
今回の研究を行うにあたり、多大な研究助成金を賜りました成長科学協会に対し、心より謝辞を申
し述べます。
− 149 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
図1
45
pCMX-VDR(WT) / DR3-tk-Luc
***
40
***
***
35
RLU
30
25
20
15
10
***
5
***
0
vehicle
calcitriol
alfacalcidol
5000
0
eldecalcitol
calcipotriol
reporter only
mock
tacalcitol
falecalcitriol
maxacalcitol
pCMX-VDR(WT)
図2
a
DBD
Hinge
LBD
ȕ-turn
H1
H3
H2
H4 H5
H7
H6
I268T
H9
H8
H10
G319V
Q259E
H11
R391C
H12
E420K
I314S
H305Q
DBD: DNA Binding Domain
b
WT
Q259E
I268T
LBD: Ligand Binding Domain
H305Q
I314S
G319V
H: Helix
R391C
E420K
VDR
ȕ-actin
Nucleus
VDR
ȕ-actin
Cytoplasm
c
pCMX-VDRs / VDRE-tk-Luc /
calcitriol 10.0 nM
5
***
RLU
4
***
3
***
2
***
1
***
***
0
WT
Q259E
I268T
H305Q
− 150 −
I314S
G319V
R391C
***
E420K
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
図3
a
2
b
pCMX-mVDR(Q259E) /
VDRE-tk-Luc
7
*
6
*
c
pCMX-mVDR(I268T) /
VDRE-tk-Luc *
1
2
4
*
RLU
RLU
RLU
5
pCMX-mVDR(H305Q) /
VDRE-tk-Luc
*
3
3
1
2
*
1
0
0
e
pCMX-mVDR(I314S) /
VDRE-tk-Luc
2
1
0
g
2
0
pCMX-mVDR(G319V) /
VDRE-tk-Luc
f
1
2
pCMX-mVDR(R391C) /
VDRE-tk-Luc
*
RLU
RLU
2
RLU
d
*
1
0
0
pCMX-mVDR(E420K) /
VDRE-tk-Luc
*
RLU
*
1
0
図4
pCMX-VDR(WT) /
'5-tk-Luc
a
b
5
***
***
3
***
***
***
***
2
***
***
3
RLU
RLU
4
pCMX-VDR(Q259E) /
DR-tk-Luc
4
***
***
2
1
1
0
vehicle
c
0.1nM
1.0nM
0
10.0nM
vehicle
d
pCMX-VDR(I268T) /
'5-tk-Luc
**
***
0.1nM
1.0nM
10.0nM
pCMX-VDR(H305Q) /
'5-tk-luc
6
5
4
***
**
***
5
***
***
4
3
RLU
RLU
***
2
***
2
1
1
0
0
vehicle
e
3
0.1nM
1.0nM
pCMX-VDR(R391C) /
'5-tk-Luc
9
8
vehicle
10.0nM
f
10.0nM
***
**
***
7
6
RLU
***
5
4
1
3
2
1
0
0
vehicle
0.1nM
1.0nM
10.0nM
vehicle
0.1nM
4 calcitriol
3
2
1
0
pCMX-mVDR(E420K)
falecalcitriol/ VDRE-tk-Luc
maxacalcitol
vehicle
0 1nM
1 0nM
10 0nM
R
L
U
RLU
1.0nM
pCMX-VDR(E420K) /
'5-tk-Luc
2
***
0.1nM
− 151 −
1.0nM
10.0nM
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
図5
a
b
VP16-VDR, Gal4-SRC1 /
UAS-E1b-TATA-Luc
8
VP16-VDR, Gal4-CBP /
UAS-E1b-TATA-Luc
6
6
4
RLU
4
RLU
6
RLU
c
VP16-VDR, Gal4-GRIP1 /
UAS-E1b-TATA-Luc
8
4
2
2
2
0
0
0
vehicle
d3
0.1nM
1.0nM
10.0nM
vehicle
e12
VP16-VDR, Gal4-p300 /
UAS-E1b-TATA-Luc
0.1nM
1.0nM
vehicle
10.0nM
f
VP16-VDR, Gal4-NCoR /
UAS-E1b-TATA-Luc
0.1nM
1.0nM
10.0nM
VP16-VDR, Gal4-SMRT /
UAS-E1b-TATA-Luc
3
10
2
1
2
RLU
RLU
RLU
8
6
4
1
2
0
0
vehicle
0.1nM
1.0nM
10.0nM
0
vehicle
0.1nM
1.0nM
10.0nM
vehicle
0.1nM
1.0nM
10.0nM
R
L
U
calcitriol
falecalcitriol / VDRE-tk-Luc
maxacalcitol
pCMX-mVDR(E420K)
YHKLFOH
Q0
Q0
Q0
VP16-mVDR(I268T), Gal4-SRC1 /
UAS-E1b-TATA-Luc
h
2.0
0.5
0.0
i
VP16-mVDR(I268T), Gal4-GRIP1 /
UAS-E1b-TATA-Luc
1.0
RLU
RLU
1.0
RLU
g
1.0
0.1nM
1.0nM
10.0nM
0.5
0.0
0.0
vehicle
VP16-mVDR(I268T), Gal4-SMRT /
UAS-E1b-TATA-Luc
vehicle
Ϯ
Ϭ
0.1nM
1.0nM
10.0nM
calcitriol
falecalcitriol
Gal4ͲSMRT/UASͲ…
ǀĞŚŝĐůĞ
Ϭ ϭŶD
ϭ ϬŶD
ϭϬ ϬŶD
− 152 −
vehicle
0.1nM
1.0nM
10.0nM
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
メチル化異常に起因する成長障害においてヒドロキシメチル化が果たす役割の解明
−インプリンティング異常症を中心に−
山澤一樹
慶應義塾大学医学部小児科学教室
背景と目的
シトシン塩基(C)のメチル化は、最も詳細に解析されているゲノムのエピジェネティック修飾
である。インプリンティング遺伝子の発現調節を司るメチル化可変領域(DMR)におけるメチル化
異常(エピ変異)は、ヒトインプリンティング異常症の発症原因となる。近年、ゲノム DNA 中に
存在が確認されたヒドロキシメチル化シトシン(5hmC)は、メチル化シトシン(5mC)の酸化産
物である。5mC → 5hmC → C という脱メチル化カスケードの存在が証明されたことから、5hmC は
DNA 脱メチル化機構の中間代謝産物であると考えられ、「第 6 の DNA 塩基」として注目されてい
る。しかしながら、従来のバイサルファイト法(BS)による解析では 5mC と 5hmC を区別するこ
とができず、インプリンティング異常症において 5hmC の果たす役割は不明である。本研究の目的
は DMR における 5hmC の分布を解明し、5hmC がヒトインプリンティング異常症の発症にどのよ
うに関与しているかを明らかにすることである。
対象と方法
エピ変異により発症したヒトインプリンティング異常症例を対象とする。5hmC の解析には酸化
バイサルファイト法(oxBS)を用いる。通常の BS 法を行うと、C が T に変換される一方で、5mC
および 5hmC は変換されず C と判定される。oxBS 法では、まず過ルテニウム酸カリウム(KRuO4)
を用いた酸化反応によって 5hmC のみがホルミルシトシン(5fC)に変換される。引き続いてのバ
イサルファイト処理により、C と 5fC が T に変換される一方で、5mC は変換されず C と判定される。
従って①元の配列、②バイサルファイト処理、③ KRuO4 酸化+バイサルファイト処理、の三者の
配列を比較することにより、一塩基の解像度で C、5mC、5hmC の同定が可能である(図 1)
。
図 1 酸化バイサルファイト法による 5hmC の検出
− 153 −
ඖ䛾㓄ิ
䐟ᮍฎ⌮
䐠%6
䐡R[%6
&
&
7
7
P&
&
&
&
KP&
&
&
7
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
今回は羊水過多、ベル型小胸郭、腹壁異常、精神運動発達遅滞等を示すインプリンティング異常
症であり、IG-DMR の高メチル化のエピ変異により発症する Kagami-Ogata 症候群 (KOS)(OMIM
#608149)患者 3 例の末梢血ゲノム DNA、正常コントロール由来末梢血 DNA および脳 DNA を対
象とし、oxBS 処理の後にパイロシークエンス法、バイサルファイトシークエンス法、メチル化
ビーズチップ法による解析を行い、IG-DMRおよびゲノムワイドレベルにおける 5hmC の分布を探
索した。
結果
① BS/oxBS-パイロシークエンスおよび BS/oxBS-バイサルファイトシークエンス
KOS 3 例(Pt1-3)および正常コントロール 1 例の末梢血 DNA、正常コントロール例の脳 DNA
を BS/oxBS 処理し、パイロシークエンス法、バイサルファイトシークエンス法により IG-DMR の
メチル化係数を解析した。KOS および正常コントロールいずれにおいても、末梢血中に BS 法と
oxBS 法のメチル化指数に有意な差は認められず、5hmC は末梢血中にほとんど存在しないことが判
明した(図 2)
。
図 2 BS/oxBS- パイロシークエンスおよび BS/oxBS- バイサルファイトシークエンスによる
IG-DMR におけるメチル化 / ヒドロキシメチル化の解析
− 154 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
② BS/oxBS-アレイ
BS/oxBS 処理した同サンプルを、メチル化ビーズチップ法によりゲノムワイドに解析した(BS/
oxBS-アレイ)。ゲノム全体でも、KOS および正常コントロールの末梢血中に含まれる 5hmC は少
量であり、特徴的な分布は認められなかった。一方で、脳には比較的多くの 5hmC が含まれている
ことが判明した(図 3)。
図 3 BS/oxBS-アレイによるゲノムワイドなメチル化 / ヒドロキシメチル化の解析
考察
本研究はヒトインプリンティング異常症において、ヒドロキシメチル化を解析した初めての研究
である。IG-DMR において(ゲノムワイドにおいても)
、KOS の末梢血 DNA には 5hmC はほとん
ど検出されなかった。これは、少なくとも末梢血については、インプリンティング異常症の DMR
において脱メチル化を促す自己修復機構として 5hmC が存在するという仮説を支持しない。一方で
末梢血と比して、神経組織には 5hmC が多く含まれることが判明した。患者神経組織のサンプリン
グは困難であるが、疾患特異的 iPS 細胞を神経系に分化誘導し、同様の解析を進めている。
発表論文
Matsubara K, Kagami M, Nakabayashi K, Hata K, Fukami M, Ogata T, Yamazawa K. Exploration
of hydroxymethylation in Kagami-Ogata syndrome caused by hypermethylation of imprinting
control regions. Clinical Epigenetics 7(1):90. 2015. doi: 10.1186/s13148-015-0124-y.
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
cAMP-protein kinase A シグナル異常による GH 細胞腫瘍化機構
吉本勝彦、岩田武男、水澤典子
徳島大学大学院医歯薬学研究部分子薬理学分野
山田正三
虎の門病院内分泌センター間脳下垂体外科
はじめに
孤発性 GH 腺腫の約 50% に、cAMP-protein kinase A (PKA) シグナルを亢進する Gsα 遺伝子
(GNAS1 )の体細胞性活性化変異が認められることや、McCune-Albright 症候群における GNAS1
モザイク変異や、Carney complex における Protein kinase A type I regulatory subunit α
(PRKAR1A )の胚細胞性不活化変異の関与から、GH 産生細胞の腫瘍化において cAMP-PKA シグ
ナルの各段階での恒常的な活性化異常が想定される。PKA-cAMP シグナルの活性化異常を生じる
上記以外の機序には、PKA の 2 種の触媒サブユニット(catalytic subunit α (PRKACA ), 19p13.12;
catalytic subunit β (PRKACB ), 1p31.1)の変異による調節サブユニットからの脱制御や遺伝子増幅
による過剰産生、Gs 型 G 蛋白質共役型受容体(GPCR)の常時活性化などが考えられる。最近、
Cushing 症候群を示す副腎皮質腫瘍において PRKACA の p.L206R の活性化変異が認められた 1), 2)。
また、早期発症型小児巨人症症例において Xq26.3 領域の胚細胞性重複が認められること、さらに
孤発性 GH 産生腺腫において、本領域に位置し Gs 型 GPCR と想定される GPR101 に p.E308D 体細
胞活性化変異が認められることが報告された 3)。
本 研 究 に お い て は、 孤 発 性 GH 産 生 腺 腫 に お け る cAMP-PKA シ グ ナ ル 異 常 を 引 き 起 こ す
PRKACA 、PRKACB 、GPR101 の活性化変異の関与を明らかにすることを目的とする。
研究方法
1.孤発性 GH 産生腺腫における PRKACA 、PRKACB 、GPR101 、GNAS1 の変異解析
孤発性 GH 産生腺腫の凍結腫瘍組織から、ゲノム DNA を常法により抽出した。PRKACA および
PRKACB のコドン 206、GPR101 のコドン 308、GNAS1 のコドン 201 および 227 の体細胞変異の有
無を直接塩基配列決定法により解析した。PCR 増幅に用いた各遺伝子のプライマーは、PRKACA
の コ ド ン 206 の 変 異 解 析 に forward: 5’-GTTTCTGACGGCTGGACTG-3’ お よ び reverse:
5’-AGTCCACGGCCTTGTTGTTGTAG-3’、PRKACB の コ ド ン 206 の 変 異 解 析 に forward:
5‘-AAACTTTCAACGTAGGTGCAAT-3’ および reverse: 5‘-CAAAAGTCCATAGGGATGCATGT-3’、
GPR101 のコドン 308 変異解析に forward: 5’-TGCCCTTCATCGTCATTCCA-3’ および reverse:
5’-GGTTGCTGTTGCTGTTACGA-3’、GNAS1 の コ ド ン 201 変 異 解 析 に、forward:
5’-GGCAATTATTACTGTTTCGGTTGGC-3’ および reverse: 5’-GACTGGGGTGAATGTCAAGAAACC-3’、
コ ド ン 227 変 異 解 析 に forward: 5’-TTCTTGACATTCACCCCAGTCC-3’ お よ び reverse:
5’-CTAACAACACAGAAGCAAAGCG-3’、GPR101 の コ ド ン 308 変 異 解 析 に forward:
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
5’-TGCCCTTCATCGTCATTCCA-3’ および reverse: 5’-GGTTGCTGTTGCTGTTACGA-3’ をそれ
ぞれ用いた。各 PCR 産物を直接塩基配列決定法により解析した。
2.GH 産生腺腫における PRKACA および GPR101 の遺伝子増幅の有無
GPR101 のゲノムコピー数の検討は、TaqMan Copy Number Assays(Applied Biosystems)
、TERT (5p15.3)
、
(GPR101, Hs01730605_cn) で 検 討 し た。 対 照 遺 伝 子 と し て ALB (4q13.3)
RNASE1 (14q11.2)の 3 種の遺伝子を用いた。また、孤発性 GH 産生腺腫のみならず、家族性に発
症した GH 産生腺腫についても検討した。PRKACA に関してはエクソン 1、8、10 の 3 か所におい
てプライマーセットを設定し、ゲノム DNA を鋳型として定量的 PCR を行った。
結果
1.PRKACA および PRKACB のコドン 206 の体細胞変異の検討
PRKACA について 43 例、PRKACB については 33 例の孤発性 GH 産生腺腫における変異の有無
を検討したが、コドン 206 および他の箇所に変異を認めなかった。
2.GPR101 の p.E308D 体細胞変異の検討
孤発性 GH 産生腺腫 39 例において、GPR101 のコドン 308 および他の箇所に変異を認めなかった。
3.GNAS1 のコドン 201 および 227 の体細胞変異の検討
孤発性 GH 産生腺腫 40 例において、p.R201C(6 例)、p.Q227R(1 例)、p.Q227L(1 例)の 8 例
(20%)に GNAS1 の活性化変異を認めた。
4.PRKACA のゲノムコピー数の検討
11 例の孤発性 GH 産生腺腫を対象に、PRKACA の異なる領域の 3 か所について定量的 PCR を行
い、コピー数を検討した。抽出済みのゲノム DNA を鋳型として用いた影響か、解析部位によって
結果のばらつきが生じた。しかしながら、3 か所すべての解析箇所でゲノム数の増加を示した腺腫
は認められなかった。
5.成人発症型の家族性 GH 産生腺腫における GPR101 のコピー数の検討
成人発症型の家族性 GH 産生腺腫 7 例において、GPR101 領域のゲノムコピー数の増加は認めら
れなかった。
考察
ACTH 非依存性クッシング症候群において、PRKACA 遺伝子の体細胞変異が約半数に認められ
ている 1), 2)。また両側性副腎過形成症例において、PRKACA を含む第 19 染色体領域のゲノム DNA
に胚細胞性の重複が報告された 4), 5)。また Carney complex を示す 1 症例において、PRKACB 領域
の胚細胞性の DNA 増幅(3 倍)が認められている 6)。以上の報告から、cAMP-PKA シグナル異常
が腫瘍化に関与する GH 産生腺腫において、これらの遺伝子の体細胞性変異やコピー数の増幅が関
与しうるか、またこれらの遺伝子変化と GNAS1 変異が共存するか検討した。
PKA の2つの触媒サブユニット、PRKACA と PRKACB のいずれも調節サブユニットとの結合
部位の体細胞変異を認めなかった。この結果は英国の報告とも一致した 7)。また、PRKACA 領域の
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
明らかな遺伝子増幅は認められなかった。また、GNAS1 変異は 20%の GH 産生腺腫に認められた。
早期発症型小児巨人症 13 例の検体で、Xq26.3 領域の微小重複が報告された 3)。このうち 4 例は 2
家系の患者であり、9 例は孤発症例であった。同部位に存在する遺伝子のうち、G 蛋白質共役型受
容体をコードする GPR101 のみが患者の下垂体腫瘍で過剰発現し、孤発性 GH 産生腺腫の一部に
GPR101 の体細胞変異(p.E308D)が認められている。しかしながら、我々が検討した範囲において
は孤発性 GH 産生腺腫に GPR101 の体細胞変異は認めなかった。さらに、他の報告 8), 9)においても
変異は認められないことより、孤発性 GH 産生腺腫の腫瘍化に GPR101 変異は関与していない可能
性が高い。
以上の結果から、孤発性 GH 産生腺腫の腫瘍化において、cAMP-PKA シグナル異常が関与する
。
のは GNAS1 変異のみと考えられた(図 1)
一方、成人発症型の家族性 GH 産生腺腫における GPR101 のゲノムコピー数の増加を認めなかっ
たことより、このゲノムコピー数の増加は 5 歳以下発症の小児巨人症に限定される可能性が高い。
早期発症型小児巨人症においては、一部に GH 細胞の過形成(12.5%)あるいは過形成と GH 産生
腺腫が共存している腫瘍(12.5%)が認められる 10)。Carney complex や GNAS1 のモザイク性活性
化変異を有する McCune-Albright 症候群の下垂体腫瘍においても GH 細胞過形成が共存することか
ら、早期発症型小児巨人症は Carney complex、McCune-Albright 症候群と同様に、cAMP-PKA シ
グナル異常を介して発症する可能性があり、今後の検討が必要である。
文献
1.
Beuschlein F et al. Constitutive activation of PKA catalytic subunit in adrenal Cushing’s
syndrome. N Engl J Med 370:1019-1028, 2014.
2.
Sato Y et al. Recurrent somatic mutations underlie corticotropin-independent Cushing’s
syndrome. Science 344:917-920, 2014.
3.
Trivellin G et al. Gigantism and acromegaly due to Xq26 microduplications and GPR101
mutation. N Engl J Med 371:2363-2374, 2014.
4.
Carney JA et al. Germline PRKACA amplification leads to Cushing syndrome caused by 3
adrenocortical pathologic phenotypes. Hum Pathol 46:40-49, 2015.
5.
Lodish MB et al.Germline PRKACA amplification causes variable phenotypes that may
depend on the extent of the genomic defect: molecular mechanisms and clinical
presentations.Eur J Endocrinol 172:803-811, 2015.
6.
Forlino A et al. PRKACB and Carney complex. N Engl J Med 370:1065-1067, 2014.
7.
Larkin SJ et al. Sequence analysis of the catalytic subunit of PKA in somatotroph adenomas.
Eur J Endocrinol 171:705-710, 2014.
8.
Ferraù F et al.Analysis of GPR101 and AIP genes mutations in acromegaly: a multicentric
study. Endocrine. 2016 Jan 27. [Epub ahead of print]
− 159 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
9.
Lecoq AL et al.Very low frequency of germline GPR101 genetic variation and no biallelic
defects with AIP in a large cohort of patients with sporadic pituitary adenomas. Eur J
Endocrinol 174:523-530, 2016.
10. Beckers A et al.X-linked acrogigantism syndrome: clinical profile and therapeutic responses.
Endocr Relat Cancer 22:353-367, 2015.
11. Boikos SA, Stratakis CA.Pituitary pathology in patients with Carney Complex: growthhormone producing hyperplasia or tumors and their association with other abnormalities.
Pituitary 9:203-209, 2006.
12. Vortmeyer AO et al. Somatic GNAS mutation causes widespread and diffuse pituitary
disease in acromegalic patients with McCune-Albright syndrome. J Clin Endocrinol Metab
97:2404-2413, 2012.
13. Vasilev V et al. McCune-Albright syndrome: a detailed pathological and genetic analysis of
disease effects in an adult patient. J Clin Endocrinol Metab 99:E2029-2038, 2014.
図 1 GH 産生細胞における cAMP-protein kinase A シグナル異常による腫瘍化機構
GHRH
GHRH
ཷᐜయ
GsDᜏᖖⓗάᛶ໬
D
E
Adenylyl cyclase
JJ
Gs
cAMP
Protein kinase A
p
PRKAR1A
GH ศἪಁ㐍
GH ⣽⬊ቑṪ
CREB
PRKACA, PRKACB
cAMP response element binding protein
− 160 −
FGHR 臨 床 研 究 報 告
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出生前診断された POR 異常症男児における Backdoor Pathway の検討
小野裕之
浜松医科大学小児科
1.導入
Dihydrotestosterone (DHT) の産生経路として、testosterone (T) を経由する frontdoor pathway
の他に、T を経由しない backdoor pathway が注目されている。backdoor pathway の存在は、有
袋類とげっ歯類において同定された。ヒトにおいては、cytochrome P450 oxidoreductase(POR)
異常症(PORD)の性分化疾患の発症から、
backdoor pathway の存在が想定されてきた。PORD は、
POR 遺伝子変異による Squalene epoxidase、CYP51A1、CYP17A1、CYP21A2、CYP19A1 等の機
能障害から、副腎皮質ステロイド合成障害、性分化疾患、骨症状が引き起こされる常染色体劣性遺
伝疾患である。このうち、PORD 男児の男性化不全にアンドロゲン産生低下が関与し、PORD 女児
の外性器の男性化と母体男性化に backdoor pathway が関与すると考えられてきた。これまでに、
PORD 患者の尿ステロイド分析において、backdoor pathway 由来中間代謝産物の増加が報告され
たが、backdoor pathway を介した DHT 産生を直接的に示したデータは未だ存在しない。また、
PORD 男児の性分化疾患発症や母体男性化における、backdoor pathway の影響についても明らか
にされていない。
今回、われわれは出生前診断された PORD 男児を経験した。この PORD 男児は、妊娠後期から
の外性器の急激な成長と母体男性化を呈した。この PORD 男児の血液検体と患児妊娠母体の尿につ
いてステロイド代謝産物を測定し、PORD 男児の妊娠後期からの外性器の成長と母体男性化におけ
る、精巣・胎盤・副腎・Backdoor Pathway の関与について検討したので報告する。
2.検体と方法
【症例】
在胎 38 週で出生、出生体重 2912 g(+ 0.62 SD)
、身長 53.0 cm(+ 2.77 SD)
、頭囲 32.5 cm(− 0.38
SD)の日本人男児である。妊娠中期から後期にかけての母体男性化と胎児の上腕骨橈骨癒合のため、
出生前より PORD が疑われていた。出生後に、この児の核型は 46,XY で SRY 陽性であること、さ
らに、この児が POR の複合型ヘテロ接合性変異を有することを確認している。
【検体】
PORD 男児の臍帯血と、日齢 0 から月齢 6 まで経時的に採取された血清を用いた。また対照コン
トロールとして、正常新生児の男女 5 例ずつの臍帯血を用いた。
【方法】
前述の検体について、DHT を含む 15 種の frontdoor pathway / backdoor pathway 由来ステロ
イド代謝産物を測定した。ステロイド測定には LC-MS/MS 法を用いた。15 種のステロイド代謝産
物とは、次の pregnenolone(P5)
、17-hydroxypregnenolone(17-OHP5)、dehydroxyepiandrosterone
(DHEA)
、Δ5-androstediol(Δ5-A-diol)、progesterone(P4)
、17-hydroxyprogesterone(17-OHP4)、
androstedione(A-dione)、testosterone(T)、17-hydroxydihydroprogesterone(17- OHDH P)、
− 161 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
5Ơ-androstanedione(5Ơ-A- dione)、dihydrotestosterone(DHT)、Allopregnanolone(A P)、
17-hydroxyallopregnanolone(17-OHAP)、androsterone(AND)
、5Ơ-androstane,3Ơ,17β-diol(5Ơ,3Ơ-Adiol)である。
3.結果
ステロイド代謝産物の測定結果を図 1 に示す。T、DHT は、臍帯血と日齢 1 の血清で高値を示し
た。backdoor pathway 由来ステロイド代謝産物の Androsterone、5Ơ-Androstandione も、臍帯血
と日齢 1 の血清で高値を示した。T / DHT 比は、正常男児と比べ差は認められなかった。また健常
新生児男女間に、backdoor pathway 由来ステロイド代謝産物の差は認められなかった。
4.考察
本研究の成績は次の 2 点を明らかにした。第 1 に、妊娠末期の DHT 産生には backdoor pathway
の関与は明確ではなく、胎盤での T 産生増加の関与が大きいことである。このことは、PORD 罹患
児妊娠母体の男性化が、胎盤由来の T によって引き起こされることを示唆する。第 2 に生下時には、
精巣において backdoor pathway は作動していないことである。
Mother
Placenta
Estradiol
Estrone
CYP19A1
POR
DHEA
DHEA
P5
100
80
60
60
40
CYP17A1
40
(17ɲ-hydroxylase)
20
POR
0
P4
500
0
0
SRD5A1
DHP
ND
5
2
0.2
0
0
17-OHP4
50
CYP17A1
(17/20 lyase)
POR, Cyt b5
0.6
10
HSD17B3 0.4
AKR1C3
0.2
0
0
17-OHDHP
5
5ɲ-A-dione
1
0.6
HSD17B3
0.4
0.2
0
0
HSD17B6
AKR1C2
HSD17B6
17-OHAP
5
4
AND
1
4
0.8
3
CYP17A1
(17/20 lyase)
POR, Cyt b5
2
1
0
− 162 −
D HT
0.8
1
AKR1C2/4
T
SRD5A2
SRD5A1
2
0
1
0.8
20
3
3
A-dione
30
3
CYP17A1
2
(17ɲ-hydroxylase)
1
POR
ȴ5A-diol
HSD3B2
40
CYP17A1
2
(17ɲ-hydroxylase)
1
POR
0
20
0
HSD17B3 0.4
4
30
10
0.6
4
4
5
1
0.8
6
SRD5A1
AKR1C2/4
AP
HSD17B3
AKR1C3
HSD3B2
60
CYP17A1
40
(17ɲ-hydroxylase)
20
POR
40
CYP17A1
(17/20 lyase)
POR, Cyt b5
80
1000
DHEA
8
HSD3B2
100
1500
50
10
0
HSD3B2
2000
17-OHP5
80
20
CYP19A1
POR
T
DHEAS
Adrenal
100
HSD3B1
A-dione
0.6
HSD17B3
AKR1C3
0.4
0.2
0
5ɲ,3ɲ-A-diol
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
骨形成不全症の成長障害、側彎と関連因子の検討
窪田拓生
大阪大学大学院医学系研究科小児科学
研究背景
骨形成不全症(OI)は易骨折性を特徴とする骨系統疾患であり、成長障害、側彎を伴うことは少
なくない。しかし、成長障害や側彎との関連因子やリスク因子は明らかではない。また OI の遺伝
子型と病型が必ずしも一致しないため、遺伝子型と成長障害、側彎、胎内骨変形、初診時年齢、骨
折回数、骨密度、ビスホスホネート治療効果、GH 治療効果との関連性は明確ではない。また OI の
原因の多くは COL1A1 、COL1A2 遺伝子異常であるが、これらは cDNA が長く、遺伝子検査には
時間と費用がかかる。さらに、OI には多くの原因遺伝子が同定されてきている。
研究目的
OI における遺伝子型と病型、成長障害、側彎、骨折回数、骨密度などとの関連性を検討する。
方法
被験者は大阪大学医学部附属病院小児科を受診し、臨床的に OI と診断された小児である。遺伝
子解析に同意が得られた 27 名の末梢血より DNA を抽出し、次世代シーケンサー Ion Torrent シス
テムを用いた 34 遺伝子のカスタムパネルによるターゲットエクソーム解析、もしくはサンガー法に
よる遺伝子解析を行った。遺伝子解析は大阪大学倫理委員会によって承認されている。遺伝子変異
を認めた OI 被験者の病型、初診時年齢、身長 SDS、胎内骨変形、骨折回数、DXA による腰椎骨密
度、側彎を評価した。側彎は脊椎長尺レントゲン検査を用いて評価し、Cobb 角 10 度以上を側弯と
した。統計解析として、カイ 2 乗検定、Wilcoxon 検定(post‒hoc test として Tukey‒Kramer 検定)
、
対応のある t 検定を用いた。
結果
OI 被験者 37 名の内、27 名において、I 型コラーゲンをコードする COL1A1 (19 名)もしくは
COL1A2(8 名)遺伝子の変異を認めた。グリシン置換変異(GL)を 8 名、スプライスサイト変異(SS)
を 9 名、非機能アレル変異(ナンセンス変異もしくはフレームシフト変異)(NF)を 8 名、グリシ
ン以外のアミノ酸置換変異を 2 名に認めた。男 12 名、女 17 名であった。遺伝子変異を認めた OI
被験者 27 名の初診時年齢(中央値)は 3.7 歳(四分位範囲:0.2 ∼ 8.5)
、身長 SDS は− 1.2(− 2.3 ∼
− 0.1)であった。病型は I 型が 17 名、III 型が 5 名、IV 型が 2 名であった。胎内骨変形は 10 名に
見られた。ビスホスホネート製剤(BP)治療開始前の年換算骨折回数は 0.7 回 / 年(0.3 ∼ 3.2)であっ
たが、治療開始後 1 年間の骨折回数は 0 回 / 年(0 ∼ 1)と骨折回数の減少を認めた(p < 0.05)
(図
1)。腰椎(L1-L4)骨密度 SDS は− 2.7(− 3.3 ∼− 1.9)であった。治療開始 1 年後には、腰椎(L2-
− 163 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
、
L4)骨密度は 0.10 g/cm2(0.06 ∼ 0.14)増加した。BP 治療開始前の Cobb 角は 5.0 度(2.4 ∼ 9.5)
側彎の被験者比率は 17%(2/12)であったが、5.4 年(2.7 ∼ 7.5)を経た直近の Cobb 角は 9.1 度
(5.2 ∼ 11.8)、側彎の被験者比率は 41%(7/17)であった。治療は、24 名で定期的パミドロネート
点滴静脈注射が行われ、3 名において経口 BP 製剤の投与を受けていた。
次に GL、SS、NF の 3 群間で以下の項目を比較検討した。病型は[I 型 : III 型 : IV 型]が GL
2:3:2、SS 7:2:0、NF 8:0:0 と 3 群間で差を認めた(p<0.05)
。さらに胎内骨変形も[あり:なし]が
GL5:3、SS4:4、NF0:8 と 3 群間で差を認めた(p<0.05)。また年換算骨折回数は GL:4.2 回 / 年(0.6
∼ 13.5)、SS:0.9 回 / 年(0.3 ∼ 2.2)、NF:0.5 回 / 年(0.3 ∼ 0.7)と 3 群間で差を認め(p <0.01)
、
さらに GL と NF の 2 群間でも差を認めた(p < 0.05)
(図 2)
。初診時年齢は GL:0.2 歳(0.2 ∼
3.1)、SS:3.9 歳(0.8 ∼ 10.2)、NF:4.7 歳(3.8 ∼ 9.6) と GL 群 は 若 年 で あ る 傾 向 が あ っ た(p
=0.07)。腰椎(L1-L4)骨密度 SDS は 3 群間で差を認めなかった[GL:− 3.2(− 3.5 ∼− 1.5)
、
SS:− 2.8(− 3.0 ∼− 2.2)、NF:− 2.8(− 3.8 ∼− 1.5)
]。治療前 Cobb 角[GL:2.5 度(2.0 ∼
13.2)、SS:6.7 度(2.4 ∼ 11.7)、NF:5.8 度(3.4 ∼ 8.2)] と 直 近 の Cobb 角[GL:10.6 度(3.5 ∼
11.4)
、SS:7.5 度(5.2 ∼ 9.0)
、NF:15.3 度(6.4 ∼ 20.0)
]も 3 群間で差を認めなかった。直近評価の
側弯の被験者割合は GL3/5、SS0/6、NF3/4 であった。BP 治療開始後 1 年間の骨折回数低下[GL:
3.7 回 / 年(− 0.3 ∼ 17.8)、SS:0.0 回 / 年(0.0 ∼ 1.8)
、NF:0.3 回 / 年(0.0 ∼ 0.7)
]は 3 群間で
明らかな差を認めなかった。
また、成長ホルモン分泌不全性低身長症を合併している OI 被験者(I 型)においては、成長ホル
モン(GH)治療によって成長促進効果(5 歳 2 か月の開始時の身長 SDS は− 2.55、13 歳 0 か月時
の身長 SDS は− 0.82)を認めているが、側弯は認めていない(ただし遺伝子異常を同定できていな
い)。
考察
OI 被験者 37 名において、27 名に COL1A1 もしくは COL1A2 遺伝子変異を同定した。変異の種
類は様々であった。遺伝子変異を同定した OI 被験者において、低身長、腰椎骨密度の低下を認め
た。BP 治療によって骨折回数の減少、腰椎骨密度の増加を認めた。また、BP 治療によっても
Cobb 角は増加傾向であった。
OI の軽症型である I 型の原因は主にコラーゲンの量的減少を示す NF であるとされているが、本
研究では I 型において GL や SS を認めた。北米の大規模な研究においても I 型の 15% に GL を、
29% に SS を認めており 1)、本研究と一致している。現在解析中の症例もあるため、変異同定被験者
が増加する可能性がある。
腰椎骨密度は本研究において明らかに低下していたが、遺伝子変異の種類による差を認めなかっ
た。この結果も北米の大規模研究の結果と同じである 1)。骨折回数は NF より GL において増加して
いるため、骨密度に反映されない骨脆弱性が GL には存在すると考えられる。
側弯に関しては既報と同様に少なくない被験者に認められ、BP 治療による抑制効果は認められ
なかった。最近の研究では、BP 治療によって、I 型の症例は側弯の進行抑制効果を認めたが、III 型、
IV 型では認めなかったと報告されている 2)。側弯の頻度と重要度は、遺伝子型別では GL、SS、NF
− 164 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
の順と述べられている。本研究では SS で側弯の被験者を認めず、今後症例数を増やして検討して
いく必要がある。
GH 治療被験者は 1 名のみであったが、側彎を認めなければ良好な身長促進効果が得られる可能
性を示唆している。GH と BP の併用療法による成長速度促進効果を示す小規模な研究は報告されて
いるが 3)、側彎については検討されておらず、今後症例の蓄積が必要であろう。
文献
1.
Patel RM, et al. A cross-sectional multicenter study of osteogenesis imperfecta in North
America ̶ results from the linked clinical research centers. Clin Genet. 2015;87(2):133-40.
2.
Sato A, et al. Scoliosis in osteogenesis imperfecta caused by COL1A1/COL1A2 mutations ̶
genotype-phenotype correlations and effect of bisphosphonate treatment. Bone. 2016;86:53-7.
3.
Antoniazzi F, et al. GH in combination with bisphosphonate treatment in osteogenesis
imperfecta. Eur J Endocrinol. 2010;163(3):479-87.
図 1 ビスホスホネート製剤治療前(BP 前)と治療開始後 1 年間(BP 後)の骨折回数の変化
図 2 Ⅰ型コラーゲン遺伝子変異別の年換算骨折回数(GL:グリシン置換変異、SS:スプライスサ
イト変異、NF:非機能アレル変異)
− 165 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
12 歳時のレプチン濃度と adiposity rebound の関連
小山さとみ
獨協医科大学小児科
背景
Adiposity rebound (AR) とは、幼児期に body mass index (BMI) が減少から増加に転ずる現象を
いい、早期に起こると将来の肥満に関連する。我々も AR の時期が早いほど 12 歳時の BMI が高く、
動脈硬化形成性の変化がみられることを報告した 1)。
レプチンは体脂肪量に比例した量が脂肪組織から分泌され、摂食抑制、エネルギー消費の亢進を
もたらし、インスリン感受性亢進性に作用する 2)。肥満においては体脂肪量の増加に見合う高レプ
チン血症を認め、さらなるレプチン投与によっても摂食抑制や体重減少を認めないことからレプチ
ン抵抗性の概念が提唱されたが、その定義は定まっていない 3)。
母体および臍帯血のレプチン高値は 3 歳時の adiposity 低値と関連し、一方 3 歳時のレプチン高
値は 7 歳時の体重増加や adiposity 高値と関連することが報告され、出生後に存在したレプチン感
受性が 3 歳までに減少していく可能性、すなわち成人期に体重減少を難しくさせるレプチン抵抗性
が幼児期早期に始まっている可能性が指摘された 4)。
体脂肪増加という体組成の変化を伴う AR が 3 歳前の早期に始まる場合、レプチン感受性を低下
させレプチン抵抗性を生じさせている可能性がある。
目的
AR が早期に始まった場合、レプチン抵抗性と関連しているかを明らかにするために、12 歳時の
レプチン値を測定し、肥満度との関連や AR の時期との関連を検討する。
方法
対象は栃木県の出生コホートで 294 名(男子 155 名、女子 139 名)
。12 歳時のレプチン濃度を測
定し、全体および男女別での平均値を算出した。また肥満度との関連を検討した。さらに AR の年
齢を特定できた 271 名(男子 147 名、女子 124 名)を AR 年齢によって 6 群(2 歳以下、3 歳、4 歳、
5 歳、6 歳、7 歳以上)に分類し、12 歳時のレプチン値との関連を検討した。
結果
表 1 に示すように、12 歳時のレプチン値は男子 4.1±1.8 ng/ml、女子 5.8±1.7 ng/ml で女子の方
が高値であった。非肥満児のレプチン値は男子 3.3±1.6、女子 5.2±1.5、肥満度 20% 以上の肥満児
では男子 8.4±1.8、女子 12.6±1.7 と肥満の児において有意に高値であった(p<0.0001)
。肥満重症度
別にレプチン値を算出すると、軽度肥満の児では男子 6.5±1.5、女子 6.8±1.2、中等度肥満では
8.5±1.6、13.2±1.6、高度肥満では 20.1±1.3、20.9±1.3 と肥満重症度が上がるに従いレプチン値は有
− 167 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
意に高値であった(表 2)。AR 年齢群別の 12 歳レプチン値は、2 歳以下群で男子 6.4±2.0、女子
8.3±2.0、3 歳群で 4.2±1.7、6.4±1.7、4 歳群で 4.4±1.9、6.5±1.7、5 歳群で 3.7±1.7、5.8±1.8、6 歳
群で 3.9±1.8、5.1±1.4、7 歳以上群で 3.2±1.8、4.4±1.3 と、男女ともに AR の時期が早いほど 12 歳
時のレプチン値は有意に高かった(表 3)
。しかし 12 歳時肥満度 20% 以上の児のみを抽出した AR
年齢群別のレプチン値は、表 4 に示すように 2 歳以下群で男子 9.2±1.8、女子 15.0±1.6、3 歳群で
8.0±1.6、18.6、4 歳群で 8.0±2.1、13.4±1.6、5 歳群で 8.8±1.6、10.7±2.0、6 歳群で 8.6±2.1、8.6 で
あり有意差はなかった。ただしn数が少なくさらなる検討は必要である。AR 7 歳以上群では肥満
度 20% 以上の児はいなかった。また逆に 12 歳時肥満度 20% 未満の児における AR 年齢郡別レプチ
ン値は、表 5 に示すように 2 歳以下群で男子 3.9±1.2、女子 4.3±1.6、3 歳群で 5.5±1.6、3.6±1.6、4
歳 群 で 4.7±1.7、3.6±1.6、5 歳 群 で 4.4±1.5、4.3±1.6、6 歳 群 で 3.9±2.0、3.8±1.8、7 歳 以 上 群 で
4.1±1.5、3.6±1.4 と男児では有意差はなかったが、女児において AR 年齢が早いほどレプチン高値
を認めた。
考察
12 歳時のレプチン値はこれまでの報告 5)と同様、女子の方が男子より高値であり、男女ともに肥
満度が高いほどレプチン値は高値であった。AR 年齢が早いほど男女ともに 10 歳時のレプチン値が
高値であったという報告があるが 6)、今回の検討でも、AR 年齢が早いほど 12 歳時のレプチン値は
有意に高いという結果であった。ただし 12 歳時肥満度 20% 以上の肥満を呈していた児のみを抽出し、
AR 年齢とレプチン値との関連をみると男女ともに有意差がないという結果であった。n数がかな
り少ないのでさらなる検討が必要である。逆に、12 歳時肥満度 20% 未満の肥満を呈していなかっ
た時のみを抽出して AR 年齢とレプチン値の関連をみた場合、女児のみにおいて AR 年齢が早いほ
ど 12 歳時レプチン値が高いという結果であった。肥満を呈した児では男女とも肥満度とレプチン値
に正の相関があるが、正常体重の児では女児のみにおいて肥満度とレプチン値に正の相関がみられ
たという報告もある 5)。12 歳という年齢は女児では大半が思春期発来していると考えられ、一方男
児ではまだ思春期が発来していない児も多く含まれる年齢である。女児は思春期には男児に比し脂
肪が蓄積し筋肉が少ないことが、この肥満度とレプチン値の関連に男女差を生じていると考えられ
る。さらなる検討は必要であるが、早期 AR は将来のレプチン抵抗性を予測すると考えられる。
文献
1.
Koyama S, Ichikawa G, Kojima M, Shimura N, Sairenchi T, Arisaka O. Adiposity rebound
and the development of metabolic syndrome. Pediatrics. 2014;133:e114-9.
2.
Webber J. Energy balance in obesity. Proc Nutr Soc. 2003;62:539-43.
3.
Heymsfield SB, Greenberg AS, Fujioka K, Dixon RM, Kushner R, Hunt T, et al. Recombinant
leptin for weight loss in obese and lean adults: A randomized, controlled, dose-escalation trial.
JAMA. 1999;282:1568-75.
− 168 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
4.
Boeke CE, Mantzoros CS, Hughes MD, L Rifas-Shiman S, Villamor E, Zera CA, Gillman NW.
Obesity. 2013;21:1430-37.
5.
Nakanishi T, Li R, Liu Z, Yi M, Nakagawa Y, Ohzeki T. Sexual dimorphism in relationship of
serum leptin and relative weight for the standard in normal-weight, but not in overweight,
children as well as adolescents. Eur J Clin Nutr. 2001;55:989-93.
6.
C Flexeder, E Thiering, J Kratzsch, C Klumper, B Koletzko, MJ Muller, S Koletzko and J
Heinrich1 for the GINIplus and LISAplus Study Group. Is a child’s growth pattern early in
life related to serum adipokines at the age of 10 years? Eur J Clin Nutr. 2014;68:25-31.
表 1 12 歳時のレプチン濃度
幾何平均値 ± 標準偏差(ng/ml)を示す。
()内は n 数。
肥満は肥満度 20%以上。肥満と非肥満では p<0.0001。
表 2 12 歳時の肥満重症度別レプチン濃度
上段に男子、下段に女子を示す。
肥満度 19% 以下を非肥満、20 ∼ 29% を軽度肥満、30 ∼ 49% を中等度肥満、50%
以上を高度肥満とする。
− 169 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
表 3 Adiposity rebound 年齢別の 12 歳時のレプチン濃度
幾何平均値 ± 標準偏差(ng/ml)を示す。
()内は n 数。
表 4 12 歳時肥満度 20% 以上の児における adiposity rebound 年齢別のレプチン濃度 (ng/ml)
幾何平均値 ± 標準偏差(ng/ml)を示す。
()内は n 数。
表 5 12 歳時肥満度 20% 未満の児における adiposity rebound 年齢別のレプチン濃度 (ng/ml)
幾何平均値 ± 標準偏差(ng/ml)を示す。
()内は n 数。
− 170 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
小児期発症原発性副甲状腺機能低下症の分子基盤の解明
三井俊賢
慶應義塾大学保健管理センター
背景
原発性副甲状腺機能低下症は低カルシウム血症をきたす稀な内分泌疾患であり、正しく診断・治
療されない場合、不応性けいれん、運動失調、易疲労感など長期の QOL 低下をきたす。我々は、
小児期発症の本症患者を対象とした次世代シークエンサーによる包括的遺伝子解析研究(Mitsui T
et al., J Clin Endocrinol Metab 2014)を行い、本症の 8 つ(AIRE , CASR , CLDN16 , GATA3 ,
GCM2 , PTH , TBCE , TRPM6 )の既知責任遺伝子内の変異を同定すると同時に、その機能喪失の機
序の解析と臨床像を検討した。この研究では、本症の既知責任遺伝子の変異頻度は 35%であること
を明らかにした。これまで大部分の症例で病因不特定であった本症の一部が、既知の遺伝子異常で
説明されることが示されたが、一方、残りの 65%は依然として病因不明であった。この既知責任遺
伝子変異陰性例中に、未知責任遺伝子の異常により説明される症例が存在すると考えられた。
目的
本研究の目的は、次世代シーケンシングを用いて小児期発症の本症患者を対象に、既知責任遺伝
子および候補遺伝子の網羅的遺伝子解析、さらにトリオエクソーム解析を行い、本症の分子基盤を
解明することである。特に、
新規責任遺伝子を同定し、
病態に関する新知見を得ることを目標とする。
対象
小児期発症の原発性副甲状腺機能低下症患者が対象である。
方法
(1)標的遺伝子解析パネルのデザイン
第 1 に本症の既知および候補責任遺伝子を標的とした遺伝子解析パネルを作成し、次世代シーケ
ンシングによるハイスループット解析を行った。
既知責任遺伝子として 11 遺伝子(AIRE , CASR , CLDN16 , FAM111A , GATA3 , GCM2 , GNA11 ,
PTH , TBX1 , TBCE , TRPM6 )を搭載した。
候補遺伝子は以下のクライテリアの 1 つ以上を満たす遺伝子を選択する。
① 各種発現データベースなどの情報から副甲状腺に優位に発現することから予想される遺伝子 ② ノックアウトマウスが副甲状腺形成異常をきたす遺伝子
③ ヒト・マウスにおける本症既知責任遺伝子と同一パスウェイで作用する遺伝子
以上から約 100 遺伝子の候補遺伝子を選択する。既知責任遺伝子と候補遺伝子を搭載したカスタ
ム SureSelect ターゲットエンリッチメントキットを作成した。
− 171 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
(2)標的遺伝子の解析
末梢血白血球由来ゲノム DNA を用いて、MiSeq(イルミナ)300 塩基ペアエンドモードで 1 ラ
ン 24 検体のマルチプレックス解析を行った。得られた配列情報は、BWA、GATK、ANNOVAR
を中心とした標準的パイプラインで解析した。得られたバリアントは、多型データベースを参照し、
アリル頻度および in silico 解析の両方で変異と判定されるミスセンスバリアントを変異と判断した。
変異が同定された場合、可能な限り両親解析を行い遺伝形式を確認した。
結果と今後の展望
解析対象症例は全部で 28 症例であった。そのうち既知責任遺伝子変異陽性 11 例、候補遺伝子変
異陽性 6 例を認めた。既知責任遺伝子変異を有する症例の内訳は、GATA3 5 例、CASR 2 例、
GCM2 2 例、ARIE 1 例、FAM111A 1 例であった。本研究における既知責任遺伝子の変異頻度は
39%であり、既報研究の 35%よりも頻度が上がった。解析遺伝子が 8 つから 11 遺伝子に増えたた
めであると考える。
候補遺伝子に同定された 6 つの変異については、すぐには疾患と変異との関係性を断定できない
ため、両親に同一変異が存在するか両親解析を行っている最中である。
今後さらに、トリオエクソーム解析にて上記の標的遺伝子パネル解析で変異陰性であった症例に
対し、両親および患児のエクソーム解析を行うことにより、本症の新規責任遺伝子を探索する予定
である。
− 172 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
Disorder of sex development の新規責任遺伝子の同定および病態の解明
八木弘子
東京都立小児総合医療センター遺伝子研究科
髙木優樹、長谷川行洋
東京都立小児総合医療センター内分泌代謝科
高田修治
国立成育医療研究センター研究所
システム発生・再生医学研究部
研究の目的
Disorder of sex development(以下 DSD)は、外性器異常、思春期発来異常、不妊症などを中核
症状とし、生涯にわたり QOL 低下をきたす難治性疾患である。既知の責任遺伝子変異陽性の DSD
症例は 20% に過ぎず、その多くが原因不明である。
本研究の目的は、既知責任遺伝子変異陰性の DSD を対象として全ゲノムエクソン配列(以下エ
クソーム)解析を行い、得られた variant データと、胎生マウスの生殖結節由来の RNA を用いた発
現アレイデータを照合し、DSD の新規責任遺伝子を同定すること。
研究の概要
【対象】
既知の DSD 責任遺伝子変異が除外された 20 名を対象とした。
【方法】
(1)エクソーム解析:SureSelect Human All Exon V5 Kit(アジレント・テクノロジー社)を用い
て DNA を濃縮、エクソンキャプチャし、HiSeq 2500 sequencer(イルミナ社)を用いて解析
(100bp ペアエンド)した。得られた variant の内、dbSNP、The 1,000 Genomes Project、Exome
Variant Server、NHLBI Exome Sequencing Project、Human Genetic Variation Database in Japan
に登録のあるものは除外した。
(2)マイクロアレイ(発現)解析:Sry 遺伝子の発現ピーク直後である胎生 11.5 日と、その 2 日後
の 13.5 日の雌雄それぞれのマウス生殖結節から抽出した total RNA を用い、DNA マイクロアレイ
(アジレント・テクノロジー社)解析を行った。
【結果】
(1)エクソーム解析
現時点までに対象 20 例の内、下記の 2 家系でエクソーム解析を終了した。
家系① 尿道下裂を呈した 46,XY 兄弟例(罹患同胞の 1 人+両親のトリオ)
家系② 46,XX male 1 例(発端者+両親のトリオ)
− 173 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
家系① 常染色体劣性遺伝疾患モデルまたは de novo の常染色体優性遺伝疾患モデルに合致する
variant は同定されなかった。既知の遺伝性疾患の責任遺伝子として報告のある遺伝子を除外し、両
親いずれかの由来で常染色体優性遺伝モデルに合致し、残った候補遺伝子は 49 個同定された(父由
来 27 個、母由来 22 個)。
家系② 常染色体劣性遺伝疾患モデルに合致する variant は同定されなかった。既知の遺伝疾患の
責任遺伝子として報告のある遺伝子を除外し、de novo の常染色体優性遺伝疾患に合致する variant
を 1 個、父由来の常染色体優性遺伝疾患に合致する variant を 21 個それぞれ同定した。
(2)マイクロアレイ(発現)解析
家系①(1)の候補遺伝子 49 個の内、E11.5 および E13.5 で発現がある、または E13.5 で発現が認
められる候補遺伝子は 39 個であった。
Sry 存在下に雄で発現が有意に増加するもの、すなわち胎生 11.5 日と 13.5 日の雄マウスの遺伝子
発現に有意差がある遺伝子がより有力な候補遺伝子となることを想定した。実際に E11.5 に比較し
て、発現量が E13.5 で 1.5 倍以上に増加した候補遺伝子は 39 個中 12 個であった。
家系② 46,XX male の病態からは、雄で発現すべき遺伝子の過剰発現、または雌で発現すべき遺
伝子の発現低下が想定される。(1)の候補遺伝子のうち、E11.5 で上記に該当する候補遺伝子は 1
個、E13.5 で上記に該当する候補遺伝子は 2 個であった。
【考察】
DSD は表現型や重症度が幅広く、非罹患と想定される両親のいずれかが変異を有している可能性
も否定できない。よって、これまでエクソーム解析で原因が解明された他の多くの疾患と異なり、
de novo アプローチが必ずしも通用しない。今回得られた雌雄胎生マウスの生殖結節における発現
データは、Exome 解析で得られた候補遺伝子の絞り込みに有用な情報を付加できると考えられ
る。ただし、現時点では解析症例数が少なく、DSD の新規責任遺伝子の同定には至っていない。今
回得られたデータを基礎に、症例数を増やして解析を進める予定である。
− 174 −
国 外 留 学報告
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
1.
報告者氏名
2.
所属施設名
宇都宮朱里
(留学時)広島大学大学院医歯薬学保健学研究院大学院生、
兼 広島大学病院小児科クリニカルスタッフ
(現 在)広島大学病院小児科医科診療医
3.
留学先の国及び地名
アメリカ合衆国、ロサンゼルス
4.
留学先の施設及び所属(部門)の名称
University of California, Los Angeles
Department of Pediatrics, Division of Pediatric
Endocrinology
5.
指導者名(指導教官名)
Dr.Kuk-Wha Lee M.D, phD
6.
留学期間
2014 年 8 月∼ 2015 年 7 月(12 か月)
7.
留学の趣旨・目的
・海外施設で行われている小児内分泌分野の臨床および研究内容を学ぶ。
・ミトコンドリア由来ペプチド Humanin の細胞内機能解析を行う。
・海外小児内分泌診療・研究施設においての交流を行う。
8.
研究課題とその成果
「ミトコンドリア由来ペプチド・Humanin の膵 β 細胞内機能解析」
9.
研究成果
国際学会発表
・ Akari Utsunomiya, VladislavaPaharkova, Joe Capri, Julian Whitellegge, Sangeeta Dhawan,
and Kuk-Wha Lee.
「Glycemia regulates mitochondrial-derived Rat Humanin (rHN) and rHN associates with
insulin and modulates insulin secretion in INS-1 cells」
ENDO (Endocrine Society)meeting 2014,San Diego, poster presentation
10. 研究内容・成果の要点
Humanin(以下 HN)は、2003 年 Nishimoto らによりアルツハイマー病における神経細胞の
アポトーシス抑制効果を持つことが報告された初めてのミトコンドリア由来ペプチドである。
− 175 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
24 アミノ酸から構成されており、ミトコンドリア DNA 上の 16S ribosomal RNA 部位にコード
されており、体内では脳・精巣・前立腺・脳脊髄液中や血清中に存在している。これまでに
HN がアポトーシスに関与する BAX タンパクの反作用性リガンド分子であり、神経細胞でのア
ポトーシス抑制作用、内分泌細胞での抗炎症作用に基づく代謝保護作用、心血管細胞の抗動脈
硬化作用を発揮することが明らかとなり、HN は将来的なこれらの種々の疾患における治療標
的分子としても期待されている。2009 年、留学先研究室の Hoang らは非肥満糖尿病マウスに
おいて HN が糖尿病発症の抑制かつ改善効果を認め、
1 型糖尿病マウスでの膵ラ氏島の炎症抑制、
β 細胞の抗アポトーシス作用を報告した。
今回その研究成果を踏まえて、HN が膵 β 細胞のインスリン分泌機能に関わる分子であるか
に関して機能解析を in vitro で行った。
ラット INS-1 細胞 lysate を抗 Rattin 抗体(Rat HN 抗体)でイムノブロットさせて出現した
バンドをサンプルとして MS/MS 解析をおこない、その binding partner の一つとしてインス
リン分子が同定された。免疫沈降法でも、抗 Rattin 抗体で沈降抽出したサンプルを抗インスリ
ン抗体でブロッティングさせインスリンであることを確定した。次に細胞培養液中のブドウ糖
濃度を上昇させ、Rattin の発現をウエスタンブロッティングで解析したところ、時間依存性の
発現増加を認めた。また SiRNA 法を用いて HN をノックダウンさせたところ、培養細胞上清
中での糖負荷インスリン濃度は有意に減少した。さらに免疫染色法においても、細胞内のイン
スリン分子と HN とは局在が同一であることを示した。
以上のことから、ラットインスリン産生細胞(INS-1 細胞)において HN はインスリン分子
と協同して分泌に機能していることが示された。
現在、上記内容をふまえた論文の投稿予定である。
11. まとめ(感想及びコメント)
今回、UCLA 小児内分泌部門に研究員として参加する貴重な機会を得ました。この 1 年で経
験し、出会うことができた全てのことが自分自身の大きな財産となったと感じております。国
を超えて、同じ臨床・研究分野を共にする方々と過ごした時間により、さらに自身の診療・研
究分野に対する意欲が高まったように思います。特に、留学先でご指導いただいた Dr.KukWha Lee は、女性医師として家庭と仕事の両立を行いながらキャリアアップを図られている先
生であり、私どもの研究参加にも大きな理解を示していただきました。またその温かくも明確
なリーダーシップにより充実した研究生活を過ごすことができ、このような自らのロールモデ
ルとなる先生と出会うことができたことに大変感謝しております。
最後になりましたが、このような留学の機会に貴重なご支援をいただきました成長科学協会
様、また関係されるすべての先生方に心より御礼申し上げます。この留学で得た経験を生かして、
今後も診療・研究分野においての貢献ができますよう研鑽をつんでまいりたいと考えておりま
す。
− 176 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
1.
報告者氏名
2.
所属施設名
吉井啓介
(留学時)東京女子医科大学小児科
(現 在)国立成育医療研究センター内分泌代謝科
3.
留学先の国及び地名
フランス、パリ
4.
留学先の施設及び所属(部門)の名称
Inserm U1141, Hôpital Robert Debré
5.
指導者名(指導教官名)
Prof. Nicolas de Roux
6.
留学期間
2013 年 7 月から 2015 年 7 月
7.
留学の趣旨・目的
分子生物学を通じて小児内分泌の理解を深めること。
8.
研究課題
中枢性性腺機能低下症に関連する遺伝子の新規変異の機能解析
9.
研究成果
キスペプチン受容体のある新規遺伝子変異が中枢性性腺機能低
下症を発症することを明らかにした。
10. 研究内容・成果の要点
中枢性性腺機能低下症の患者に対して、関連する遺伝子の変異を検索した。その結果、キス
ペプチン受容体遺伝子(KISS1R)に未報告のアミノ酸置換を伴う一塩基置換を同定した。次に
以下の方法で機能解析を行った。PCR を利用した変異導入法で変異 KISS1R を含むプラスミド
を作成し、野生型 KISS1R と変異 KISS1R をそれぞれ HEK293 細胞に遺伝子導入し、①受容体
の発現を蛍光顕微鏡で観察、②細胞膜上のレセプターをウエスタンブロットで解析、③キスペ
プチン処理後のセカンドメッセンジャー (IP) を測定した。①と②より変異 KISS1R は細胞膜上
の観察されず、③より変異 KISS1R を遺伝子導入した細胞では IP は検出されなかった。以上よ
り、キスペプチン受容体におけるこの新規遺伝子変異が中枢性性腺機能低下症を発症すると結
論付けた。
11. まとめ(感想及びコメント)
医師 6 年目から 3 年間、国立成育医療研究センター内分泌代謝科のレジデントとして働きま
した。そのとき、指導医の先生から国際学会で発表する機会を頂いたことをきっかけに初めて
留学を意識するようになり、その後、多くの先生方のご助力により留学が実現しました。フラ
− 177 −
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
ンスでの“研究”は、指導教官や同僚に恵まれ、楽しく充実したものになりました。基礎研究
は全くの初心者でしたが、変異遺伝子の機能解析を通じて遺伝子工学の基礎を学ぶことができ
ました。一方、フランスでの“生活”は準備から帰国後まで、異国ならではの困難に遭遇しま
した。住居、銀行口座、各種の保険、フランスの滞在許可などといった生活基盤についてがほ
とんどでしたが、日本では当たり前である事柄について一歩踏み込んで考える機会となりまし
た。また、さまざまな国の人と接することで、過去の歴史的な出来事、現在の世界で起きてい
る諸問題、日本という国や社会について改めて知ることができました。2 年間の留学生活につ
いて多大なご支援を頂いた成長科学協会に深く感謝申し上げます。
− 178 −
公 開 シ ン ポ ジ ウ ム
成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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(n=262)
Diagnostic evaluation
at age 2 (n=38)
3-year health check-up
(n=1,845)
(n=6)
Community day care
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& local day nurseries/
/ kindergartens
Diagnostic evaluation
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School entry health
check-up
Final diagnostic outcome
ASD=51 (n=1,851)
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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成長科学協会 研究年報 No.39 2015
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研究年報 第39号 平成27年度
平成28年9月1日発行
編集
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