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ニューズレター
日本カナダ学会
第98号 ・ 2014 年7月
発行人:下村雄紀 編集人:細川道久・福士 純
事務局 : 〒 658-0032 神戸市東灘区向洋町中 9-1-6 神戸国際大学経済学部 下村雄紀研究室内
TEL:080-3868-1941・FAX:03-6368-3646・http://www.jacs.jp・[email protected]
(電話等の受付:水・金曜日・午前 11 時~午後 4 時)
郵便振替口座 00150-2-151600
会 長 挨 拶
下 村 雄 紀
本年度より会長の重責を担うことになりました。 力不足が心配ですが、 皆様のご尽力とご協力
で学会発展の一助になれればと考えております。
ご承知のように、 本年は日加修好 85 周年にあたると同時に、 年次研究大会の開催校をお
引き受け頂く関西学院大学も創立 125 周年を迎えられます。 加えて、 本年度年次研究大会の
プログラムは学会創立 35 周年の記念大会として、 加藤普章大会企画委員長と水戸考道大会
実行委員長の下で、 例年とは異なる趣向で興味ある企画が進んでおります。 これらの意味で、
2014 年はカナダ学を修める我々にとりましても特筆すべき年と云えます。
本学会は、 研究ユニットに代表される共同研究や 『研究年報』 をはじめとする出版活動など
学術学会の基盤を高いレベルで維持しつつ、 次世代研究者の育成と国境を越えた研究者交流
などグローバルな視点でも発展を遂げてまいりたいと考えております。 地区研究会でも活発な活
動が報告されております。 地域での研究活動は、 日本カナダ学会にとりましても、 重要な支柱
となっております。 地域での活動を全国大会へ発展させて頂きたいと願っております。 しかしな
がら、 これらの目標を達成するためには、 会員の皆様の積極的な参加が不可欠です。
我々が直面している最大の問題は、 カナダ研究の国際性をも危うくするものです。 各国の
カナダ学会の連合組織である国際カナダ研究協議会 (ICCS) も、 世界の研究者との連携を
模索しながら、 これまで以上のグローバル化を推進することで、 意義ある組織として新たな出
発をしようとしております。 休止状態にあるアジア太平洋カナダ研究ネットワーク (PANCS)
のような地域ネットワークの存在も重要視されてくるものと思われます。
厳しい環境のなかで、 カナダのカナダ学会が ICCS 会員学会に所属する研究者に門戸を開こう
としていることは、芽生えつつある新たなチャレンジを予感させるものです。 また、アジア地域では、
これまでインド・カナダ学会の下で活動してきたブータンの研究者たちが、 ブータン王立大学
( 次ページに続く )
No.98 (July 2014) // 本号の内容 : 会長挨拶 (下村雄紀) / ●報告 : ケベック州議
会選挙―ケベック党大敗の原因と余韻―( 古地順一郎 ) ● リレー連載 : なぜカナダ研究をしているのか(第
5 回) 「私にとってのカナダ研究」 (飯野正子) ●書評:竹中豊著 『ケベックとカナダ―地域研究の愉しみ』 (浪
田陽子) / 細川道久著 『カナダの自立と北大西洋世界―英米関係と民族問題』 ( 高野麻衣子 ) ● お詫び
と訂正● 事務局より (第 39 回年次研究大会のお知らせ , 「トラベル ・ グラント」 募集について , 『カナダ
研究年報』 第 35 号 (2015 年 9 月発行予定) の公募要項 , 会費納入について (お願い)) ● 編集後記
JACS Newsletter
The Japanese Association for Canadian Studies / L’ Association japonaise d’études canadiennes
内に独自のカナダ学会を創設し、 本年がその
への影響を考えてみたい。 結論から言えば、 主
活動元年となりました。 我々にも希望と活力を
な敗因は2つ。 まず、 有権者の関心を見誤り、 「ケ
与えてくれる頼もしいニュースです。
ベック価値憲章」 を中心にアイデンティティ問題を
ま た、 本 学 会 に と り ま し て、 大 使 館 を は
争点として選挙を乗り切ろうとしたことである。次に、
じめとする各カナダ関連団体とも連携しなが
思惑に反してレファレンダムが中心争点の一つと
ら、 カ ナ ダ 研 究 の 輪 を 広 め る こ と も 大 切 に
してクローズアップされたことである。 州政治への
なっております。 佐藤信行 ・ 田中俊弘両副
影響についても2点指摘したい。 まず、 連邦主義
会長と原口邦紘理事により本年 10 月と来年
派のPLQが多数政権となったことで、 主権主義運
始めに開催計画が進められております JACS
動は表舞台では停滞すると思われる。 一方、 主
日加修好 85 周年記念講演シリーズも、 そう
権主義運動内部では、 強硬派と穏健派の主導権
した取り組みの一環です。 年次研究大会の
争いが激しくなってくると考えられる。 また、 PQに
みならず、 このような学術交流にご参加頂く
ついては、 新党首の選出プロセスの中で、 党の
ことも、 カナダ研究存続への大切な意思表
存在理由に関する徹底的な議論を行い、 世代交
示となるはずです。 会場で皆様とお会いで
代を実現することが鍵となろう。
きるのを楽しみに致しております。
ここで選挙結果を簡単に振り返っておこう。 議
今後とも、 会員各位のご協力とご理解を賜
会解散時 (定数125議席) は、 PLQ49議席、 P
りますよう重ねてお願い申し上げます。
Q54議席、 ケベック未来連合党 (Coalition avenir
(日本カナダ学会会長 ・ 神戸国際大学)
du Québec,CAQ) 18議席、ケベック連帯党 (Québec
* * *
solidaire, QS) 2議席、 無所属2議席だった。 4月
<報告>
7日の選挙により、 PLQ70議席 (+21)、 PQ30
ケベック州議会選挙―ケベック党大敗の原因と
議席 (-24)、CAQ22議席 (+4)、QS3議席 (+
余韻―
1) となり、PLQは1年8か月ぶりに政権を奪還した。
古地 順一郎
PQ政権が短命なのは、 少数政権だったからで
「 耐 え 難 い シ ョ ッ ク で し た。」 マ ロ ワ (Pauline
ある。 ケベックやカナダでは、 少数政権の寿命
Marois) 前ケベック州首相は、 州議会選挙を振
は18~24か月とされる。 そのため、 次期総選挙
り返ってこう語った (Le Devoir, 2014 年 6 月 7-
で過半数の議席を獲得することが与党にとって最
8 日付, A1面)。 選挙終盤, 世論調査ではケ
大の使命となり、 選挙のタイミングを計りながら政
ベック党 (Parti québécois, PQ) の劣勢が伝え
権を運営する。 今回の解散 ・ 総選挙は、 2014-
られていたが、 党幹部は現場での手ごたえを
15年度予算案に野党が反対する意向を示したこ
十分感じており、 ケベック自由党 (Parti libéral
とが直接的な要因であるが、 追い込まれた上での
du Québec, PLQ) の勝利は想定外だったとい
解散ではなかった。 PQ政権は、 発足当初こそ政
う (前掲記事)。 俄かに信じがたいが、 本当なら
党 ・ 党首支持率ともにトップだったが、 2013年に
ば、 PQが有権者の意図を正確に把握できてい
なるとクイヤール (Philippe Couillard) PLQ新党首 (現
なかったことを象徴的に示したものと言える。
州首相) の選出により、 PLQの後塵を拝するよう
今回はマロワ政権にとって勝てる選挙だった。
になった。 しかし、 PQへの支持率が今年に入っ
しかし、 蓋を開けてみると、 得票率は25.3%と、
て好転しPLQを上回ると、 選挙を意識して合計で
1970年州議会選挙の水準まで落ち込み、 24議
約24億加ドルに上る事業予定を次々と発表した。
席を失う大敗だった。 自らも落選したマロワ氏は
つまり、 満を持した動きだったのである。
党首を辞任した。 どこでボタンの掛け違いが起き
PQは、 「ケベック価値憲章」 を中心としたア
たのか。 本稿では、 大敗の原因と今後の州政治
イデンティティ政治に対する反響の大きさから選
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日本カナダ学会
挙に勝てると踏んでいた。2012年の選挙では、
PQの選挙戦を一層厳しくしたのが、 主権をめ
ケベック人としてのアイデンティティと価値観を
ぐるレファレンダムの争点化である。 解散間もない
主張していくことを掲げた。 その中には、ケベッ
3月9日、 マロワ首相は州財界の大物で切り札候
ク憲法の制定、 ライシテに関するケベック憲章、
補、 ペラドー氏 (Pierre-Karl Péladeau) のお披露
ケベック市民権の創設が含まれていた。これは、
目会見に臨んだ。 氏の登場は、 マロワ政権の経
移民や少数派の文化的実践に対する 「妥当な
済政策を強化し、 PQの勝利に大きく貢献するも
る調整 (accommodements raisonnables)」 に脅
のと考えられていた。 また、 ポスト ・ マロワの有力
威を感じていたケベック州民に対するPQの回
候補とも目されていた。 しかし、 財界の大物ペラ
答であった。 2013年9月、ドランヴィル(Bernard
ドー候補がケベックを独立国とするために立候補
Drainville) 民主制度 ・ 市民参画担当相は、 政
したと述べたことで、 レファレンダムの実施可能性
権公約を受ける形で 「ケベック価値憲章」 を
が俄に現実味を帯び、 一気に争点化した。
創設することを発表、 11月には第60号法案と
マロワ首相は、 州民が望まない限りレファレ
して州議会に上程した。
ンダムは行わないと火消しに走ったが、 早期レ
この憲章はケベック内外で激しい反発を引き
ファレンダム実施を求める党内勢力や有権者
起こした。 一方、 数年来の 「妥当なる調整」 に
の手前、 完全否定はできなかった。 野党はP
不満を抱えていた州民からは一定の支持を得
Qの曖昧さを攻め続け、 「PQ多数政権=レファ
て、 PQの支持率アップにつながった。 マロワ政
レンダム」 の図式を植え付けることに成功した。
権は、 内外からの批判に対しても妥協しないと
また、 価値憲章をめぐる政権の強硬姿勢もPQ
表明、 「ブレない」 姿勢を見せることで憲章支
多数政権に対する不安を拡大させた。 いつし
持派をつなぎとめる戦略を選んだ。
か、 今回の選挙は 「レファレンダムに関するレ
この戦略は一定の効果を得たが、 選挙戦に入
ファレンダム」 と形容されるようになり、PQにとっ
ると、 有権者の関心との乖離が生まれ効力を失っ
ては逆風が強まることとなった。
ていく。 選挙戦では 「政権を担うのに最適な政
PLQの勝利によって、 州政治の表舞台では主
党はどれか」 という現実的な問いを有権者は意
権主義運動は下火になるだろうが、 内部ではレ
識する。 したがって、 選挙前と異なる戦略が政党
ファレンダムの早期実現を目指す強硬派と時間を
には必要とされる。 そのため、各党は、様々なデー
かけて環境醸成を図る穏健派の主導権争いが激
タを精査しつつ訴求力の強いテーマを選択し、
しくなると思われる。 現時点では、 ケベック連合
投票案件 (ballot question) を提示しながら選挙戦
(Bloc québécois, BQ) がボーリュ (Mario Beaulieu)
の主導権を握ろうとする。 PQはケベック人として
新党首を選出したように、 強硬派に勢いが見られ
のアイデンティティを中心に据えた。 しかし、レジェ
る。 一方で、 ボーリュ党首の攻撃的な姿勢に反
マーケティング社が3月11- 13日に行った世論調
発してBQを離れる党員も出ており、 波乱含みと
査では、 経済、 雇用創出、 医療、 財政健全化
言える。 今後、 PQの新党首選出過程でどのよう
を重視する有権者が多かった。 PLQは 「日常生
な動きが出てくるか注目される。
活に直結する問題 (vrais affaires)」 を中心に据え、
来るべき党首選では、 主権主義政党としての
PQは観念的な話に終始していると批判した。 選
存在理由を問い直す必要が出てくるだろうが、 と
挙直前 (4月2- 3日) にレジェマーケティング社が
りわけ大きな争点となるのが 「世代交代」 であろう。
行った世論調査でも、 経済 ・ 財政問題によって
PQが一世代政党かどうかという問いが投げかけら
投票先を決めるとした人が合わせて41%おり、 ア
れて久しいが, この問いはますます重要になって
イデンティティ (16%) に大差をつけた。 PQと有
きている。 例えば、 モントリオール大学のデュラン
権者の乖離は最後まで埋まらなかった。
(Claire Durand) 教授の調査は、 若者の主権に対
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日本カナダ学会
する支持が低下していることを指摘している。 同
まさに新鮮で心弾むものだった。
時に、 PQに対する若者の支持はさらに低いこと
馬場先生とは、 その後、 他にもご一緒に仕事
が明らかになっており、 PQが主権主義運動の担
をさせていただくことになり、 徐々に私はカナダに
い手とみなされなくなりつつある (La Presse, 2014
傾いていく。 そして、 それまで進めていたアメリカ
年 6 月 3 日付, A2,3 面)。
への日本人移民および日系アメリカ人をカナダの
クイヤール政権は、 州政府の歳出を抑制しつ
場合と比較してみようと思い立った。 歴史的にみ
つ、 州財政の規律強化 ・ 再建を進め、 民間企
て、 日本人が移民先として選んだのはアメリカだけ
業の活力による経済成長 ・ 雇用創出を目指して
ではない。 また、 人の移動とは二国間だけのもの
いくことになるであろう。 その裏で、これまでケベッ
ではない。 人は世界中の国と国の間を移動してき
ク政治を特徴づけてきた主権主義運動の再定
た。 そんな中で移住先が地理的に近く、 文化的に
義、 再編が行われる可能性が大きく、 結末次第
も似たところの多いアメリカとカナダの場合、 そこに
ではケベック政治の様相を変える動きとなるかもし
定着した日本からの移民には、 どんな共通点があ
れない。 今回の選挙の本当の意義はそのときに
り、 どんな違いがあるのだろう?それぞれの定着の
明らかになるであろう。 (北海道教育大学)
過程は?受け入れ社会の違いは?――それらは、
* * *
日本からの移民に限らず、 世界中からアメリカとカ
<リレー連載> ナダを目指した移民にも当てはまり、 結局は、 国
なぜカナダ研究をしているのか(第5回)
の成り立ちなどといった重要な特性を比較すること
につながる、 大きな問いであった。
「私にとってのカナダ研究」
飯野 正子
1970 年代後半、 日本カナダ学会ができ、 私
カナダという国に関心を持ったのは、 1970 年代
も会員にしていただいた。 大原祐子先生、 小浪
のこと。 アメリカ合衆国 (以下、 アメリカ) とカナダ
充先生 (故)、 三輪公忠先生など、 立派な、 そ
が、 一見、 似ている印象を与えるにもかかわら
れでいて優しい先輩カナダ研究者との交流は私
ず、 歴史を含め、 いろいろな点で大きく異なるこ
にとって大変ありがたいものだった。 1980 年代
とに気づいたのが、きっかけだった。 もともと私は、
初めから、 カナダのカナダ学会にも参加するよう
1960 年代当時まだ日本では新しかったアメリカ研
になり、 1980 年代末には 1 年間、 マギル大学
究を学部で専攻し、 卒業後すぐフルブライト留学
で教え、 その後、 アーケイディア大学でも何度
生としてアメリカの大学院でアメリカ史を学んだ。
か集中講義をした。 このころお世話になったカ
その留学の機会を作ってくださったアメリカの大学
ナダの研究者との交流は、 今も続いている。
院の先生へのご恩返しとして、 何人かの友人とと
カナダとのご縁が深まり、 1996 年、 ついに日
もに、 その先生のご著書を日本語に翻訳して出
本カナダ学会の会長を務めることになった。 あの
版したのが、アメリカ建国 200 年の年だった。 ちょ
とき、 会長の器ではないからと固辞し続ける私に
うど、 そのころカナダ政府は日本におけるカナダ
手を焼いたように、 「正子姫、 堀は埋められまし
研究を発展させようと、いろいろな形で支援を行っ
たぞ」 と言われた長内了先生 (故) や 「必ず、
ていた。 その支援を受けて、 数冊のカナダ関連
助けますよ」 と言ってくださった竹中豊会員の暖
書籍の日本語訳出版が企画されたが、 その 1 冊
かさは、 忘れられない。 多くの方に支えられて、
に私も関わることになったのである。 直前に出版
至らないながらも 4 年間、 どうにか会長を務めた
された上記の 「ご恩返しの翻訳書」 に目を止め
が、 その間に、 外部資金を得て、 環太平洋圏の
られた馬場伸也先生 (故) からのお話だった。
カナダ研究者を招いての国際会議を東京で開催
熱意溢れる素晴らしい馬場先生とご一緒に翻訳
した。 そのときの加藤普章会員の大活躍ぶりが今
をしながら、 カナダのことを学んだ。 その経験は、
も目に浮かぶ。 たくさんの方の力が一つになって
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日本カナダ学会
達成できた、 貴重な思い出である。
私自身のカナダ研究にも資することになり、 あ
このような活動を通して、 私たちカナダ学会のメ
りがたかったと、 いま振り返って思う。
ンバーが真剣に考えていたのは、 日本におけるカ
なぜカナダ研究をしているのかと問われて、
ナダ研究をさらに活性化しよう、 若い研究者を育て
とっさに出てくる答えが 「カナダが好き、 カナ
よう、 そしてカナダ研究者の国際連携を進めよう、
ダ人が好き」 であるように、 カナダを知ること
ということだった。 加えて、 日本におけるカナダ研
が楽しい ・ ・ ・ これは研究者にとって幸せな
究の成果を、 カナダの、 そして世界の、 カナダ研
ことだと、 しみじみ思う。 私自身の研究に関し
究者に伝えること、 それによって日本のカナダ研究
ても、 1980 年代以降、 日系人コミュニティを
のレベルを知ってもらうこと、 それが私たちの目標
訪ねてのインタビューを含め、 きわめて豊かな
だったのである。 そんな大きな目標を掲げつつも、
経験をすることができ、 それはいまも続いてい
みなの推進力の大きな要因になっていたのは、 カ
る。 二世代、三世代にわたるお付き合いが育っ
ナダ研究が、 たとえばアメリカ研究やロシア研究と
ているのは、 うれしいことである。
は異なる重要性を持つからという以上に、 カナダ研
結局のところ、 地域研究とは研究対象である地
究が新鮮で楽しいから、 ということだったように思え
域を好きになることに始まり、 多様な分野の研究者
る――不勉強な私の勝手な想像かもしれないが。
と交流しながら極めていくものではなかろうか。 自
少なくとも私自身は、 いい仲間と仕事ができる喜び
分のもともとの守備範囲内だけで研究できることに
をかみしめていた。 カナダ研究の推進に貢献した
は限界がある。 他の分野の研究者との交流を通し
として国際カナダ研究カナダ総督賞を受賞したの
て、 その地域の大きな特質を掴むことをめざし、 そ
も、 「いい仲間」 のおかげである。
こに自分の研究がどれだけ貢献できるかを考える。
日本カナダ学会との関わりから、 カナダの大
それこそが地域研究の醍醐味であるように思える。
学で行われている日本研究あるいは日本語教
そんな意味を持つカナダ研究に一緒に関わる仲間
育の状況の視察や評価のため、 いろいろな大
がいることは、 なんとありがたいことか。 いろいろな
学を訪問し、 カナダにおける日本研究の姿を
意味で、 私を、 そして私の研究を、 豊かにしてく
垣間見ることができたのも、 私にとっては、 あ
れた日本カナダ学会に感謝!
りがたい経験であった。 日本人移民 ・ 日系カ
(津田塾大学名誉教授 ・ 前津田塾大学学長)
ナダ人研究を通して日加関係をみようとする私
* * *
にとって、 新しい、 そして欠かせない視点を提
<書評1>
供してくれたからである。 また、 カナダと日本
竹中豊『ケベックとカナダ―地域研究の愉し
両政府が設置した諮問機関 「日加フォーラム」
み』彩流社、2014 年 1 月、330 頁・本体価格 4860 円 の日本側委員を 5 年間にわたって務めたこと
浪田 陽子
も、 カナダ研究推進のために役立ちたいとい
本書は、 日本カナダ学会の前身である日本
う私の思いがいくらか叶う機会だったかと思う。
カナダ研究会の数少ない創設会員であり、 ま
カナダと日本から、 政治、 経済、 文化、 学術
た日本ケベック学会の創設会員である著者、
などの分野を担当する 5 人ずつの委員が集ま
竹中豊氏の長年にわたるケベックおよびカナ
り、 日加関係をさらに発展させるために何が必
ダ 研 究 の 成 果 を 1 冊 に ま と め た も の で あ る。
要か調査をし、 議論した結果を報告書としてま
1980 年から 2013 年までの間に学会誌、 研究
とめ、 日加両政府に提出したのである。 私は、
紀要、 ニューズレター等で発表された論文 ・
日本カナダ学会を中心とする活動を基盤にし
論説 ・ エッセーならびにシンポジウムにおける
て、 日加関係の緊密化に向けての提案の一翼
報告 (計 16 編) と書評 (1 編) に加筆修正が
を担ったつもりである。 逆に、このような経験が、
加えられている。 本書の特徴は、 あとがきにて
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日本カナダ学会
著者が述べているように二つある。 一つ目に
ている。 第二部の 「五 アイデンティティの “危機”
は、 日本および世界におけるカナダ研究の足
か新しい “調和” か」 および同じく第二部の 「六 跡を整理し、 地域研究の問題意識を提示して
ケベックとカナダ」 も関連した内容を扱っているた
いること。 二つ目には、 英語文化圏に囲まれ
め、 合わせて読むと理解しやすい。 この三編では、
た 「特別な社会」 であるケベックを座標軸とし、
「フランス的事実」をもつ「独自の社会」であるケベッ
歴史的背景、 絵画的表象、 インターカルチュ
クが、 1960 年代の 「静かな革命」 以降は脱宗教
ラリズムを切り口に考察しながら、 カナダ像を
化 ・ 産業化 ・ 近代化 ・ 主体化などが進んで変化
模索していることである。
してきた点、 さらに文化的多様化がより進む近年に
本書は四部から構成されている。 前半の二部
おいて、 ケベックの独自性を保ちながらも、 どこま
は発表形態ごとにまとめられており、 第一部はシ
で多様なマイノリティ文化を受け入れることができる
ンポジウム報告 3 編、 第二部は論文 ・ 論説 5 編
のか、 その打開策として出てきた 「妥当なる調整」
と書籍の序文 1 編の合計 6 編からなる。 『ジャック・
の考え方、 そして異文化間で生じた齟齬の現状調
カルチエの航海記――ラムジー ・ クックによる解
査と問題点の分析 ・ 州政府への勧告を示した 『ブ
説付』 のブックレビュー 1 編を挟み、 後半は第三
シャール=テイラー委員会報告』 (2008 年 5 月) な
部が絵画表象から地域研究を考察した論文 3 編
どが扱われている。 また、 フランス語を基盤としつ
とエッセー 1 編の合計 4 編、第四部はカナダ研究・
つも、多文化共生をめざすケベックでは、もともと 「開
ケベック研究の歴史や後進の研究者へのアドバイ
かれたライシテ」 に見られるように、 「他者に対する
スに関するエッセー 3 編からなる。 ここでは、 基
『排他性の歴史』 ではなく、極端を避け、妥協的で、
本的に本書の構成順に沿いながらも、 内容の関
含みを残した 『曖昧性の歴史』」 (32 頁) をたどっ
連が強い箇所についてはまとめて紹介したい。
てきたことが明らかにされる。 連邦議会によるケベッ
第一部 「カナダ/ケベック研究事始め」 の最
クの 「ネイション」 決議に至る背景とそれがもつ意
初に収められている 「一 多文化共生を語る」 は、
味に関する分析からは、 ケベックのみならずカナダ
ケベックに関する基礎的なデータ、 日本における
の政治背景や議論のあり方もよくわかる。
ケベックのイメージ、 ケベックと日本の関係史、 多
第一部の最後の講演録 「三 カナダ研究
文化共生の視点からみたケベックなど、 ケベック
の軌跡」 は、 「はじめに」 および最後の第四
になじみの薄い読者にもわかりやすいケベック紹
部 「地域研究者の独り言」 に収められた三つ
介となっている。 英語圏に囲まれながらも 「独自
のエッセーとともに読むのがいいだろう。 この 5
の文化」 を守り続けてきたケベックは、 自らの個
編では、 第一次世界大戦後の外交自主権獲
性は守りつつも、 異なる価値や文化的アイデン
得をめぐる動きやグループ ・ オブ ・ セブンの画
ティティを尊重 ・ 承認する 「インターカルチュラリ
家たちが登場するまでは自国においてもアイデ
ズム」 を基盤とした社会であることから、 同質性の
ンティティや独自性のあいまいであったカナダ
強い日本が今後ますます多様性の進む世界にお
に関して、 日本と世界においてどのようにその
いて、 異質な文化的背景を持つ人々とどのように
研究が始まり発展してきたのか、 そして今後の
共生していけばよいのか、 ケベックから学ぶべきこ
展望や後進の研究者への助言などが述べられ
とは多いとの指摘でこの講演は結ばれている。 な
ている。 アメリカ研究の陰に隠れ、今もなお (そ
お、 インターカルチュラリズムとカナダ連邦政府の
しておそらく今後も) 日本のアカデミズムのなか
主導するマルチカルチュラリズムの違いについて
でマージナルな存在に留まり続けるだろうカナ
は、 第二部の五に詳説がある。
ダ研究に従事する者が抱えるディレンマもさる
続く 「二 ケベックにおける “開かれたライシテ”」
ことながら、 「カナダを理想化し過ぎるのは研究
では、 ケベック問題の歴史と現状が取り上げられ
者として、 慎むべきでしょうが、 しかしこの国と
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日本カナダ学会
長らくつきあってみると、ダメな部分が見えても、
を変えてケベックやカナダの歴史をより深く知ること
やはり 『未来に対して本気で希望が持てる国』、
ができる大変興味深い四編である。
という気がしてなりません」 (44 頁) というカナ
「あとがき」 において、 著者はカナダ研究の際
ダに強く魅せられた著者の言葉に共感を抱く
には民族や地域を特化してしまうことの問題を指
会員も多いのではないか。 副題の 「地域研究
摘しつつも、 視点を定めることでカナダ全体がよく
の愉しみ」 が明示するように、 筆者は地域研
見える側面もあるのではないかと述べている。 統
究 (とりわけケベック研究) の魅力や意義を説
一されたカナダ内で 「ネイション」 を形成してい
く一方、 後進の研究者に向けては創造的イマ
るケベックであるからこそとも言えるが、 歴史 ・ 社
ジネーションを持つことや日本人独自の視点か
会 ・ 芸術など様々な角度からケベックを考察した
らカナダ研究に取り組むことを勧め、 そしてカ
本書からは、 国全体の歴史や現代カナダが抱え
ナダ研究だけではなく広く他の分野にも関心を
る課題などを複合的に理解することができる。 ま
持つことの重要性も指摘している。
た、 著者がフランス語と英語両方の文献を丁寧に
第二部 「カナダとは?ケベックとは?」 の
あたり、 時には両言語のニュアンスの違いが英語・
論文 ・ 論説 6 編のうち、 「一 ヌーヴェル ・ フ
仏語社会に及ぼす影響の違いに言及していること
ランス史における西部進展」 と 「三 ヌーヴェ
も、 ケベックのみならずカナダの全体像をより深く
ル ・ フランスとその歴史的遺産」 の 2 編はケ
論じることに貢献している。 本書は、 カナダ研究
ベックおよびカナダの歴史を扱っている。 ケ
者はもちろんのこと、 カナダに関心を持つ一般の
ベックについて不案内の読者には、 前述のケ
読者にもケベックの、 そしてカナダの魅力や研究
ベック問題の三編の前にこの歴史に関する二
の醍醐味が伝わるすぐれた手引きとなっている。
編を読むと、 よりわかりやすいだろう。 「二 カ
( 立命館大学 )
ナダ―神話不在の文学的世界?」 は、 かつ
*
てその存在自体が問われたカナダ文学につい
<書評2>
て、 英語系とフランス語系の両方から考察した
細川道久『カナダの自立と北大西洋世界―英
論考である。 小説のみならず多様な文学的表
米関係と民族問題』刀水書房、2014 年 1 月、275
現形態を扱いながら、 カナダの文学的精神性
頁・本体価格 5000 円
が発見された過程を論じている。 ここでも、 著
高野 麻衣子
者の研究対象の幅広さを見ることができる。「四 本国との政治的な決裂により 「独立」 を達成し
オタワ」 は、 著者がかつて日本大使館に勤務
たアメリカ合衆国 (以下、 アメリカ) に比べて、
した際の在住経験も踏まえた首都オタワに関
連邦結成の実現と完全主権の獲得とが一致し
するエッセーとなっている。
ないカナダの国家理解は容易ではない。 学問
幅広い関心を持って研究することを著者自ら体
分野を問わず我々研究者が抱えるこうした問題
現しているのが、 本書の第三部 「表象から探る」
に、 カナダが 「自立」 へと向かった歴史的諸
である。 ここに収められた四編は、 どれも芸術作
相を丹念に分析、 描写、 そして再評価するこ
品を地域研究の視点から再評価したものだ。 紙
とによって理解の道筋を示してくれるのが本書
幅の都合上一つずつ紹介はしないが、 ヨーロッパ
である。 著者の細川道久会員が指摘するよう
人による初期カナダの様々な描写から 「発明」 さ
に、 カナダの自立は緩やかな動きであったこと
れた新世界のイメージの考察や、 ケベック人の描
から、 それを描き出す本書の射程も内政自治
いた絵画を通してケベックのアイデンティティが形
獲得の時代から第一次世界大戦、 フランス系
成される過程を分析したものなどがある。 芸術作
カナダ人の動向を含むカナダの個々の事例か
品を研究対象としていない読者であっても、 視点
ら対英米関係に至るまで、 縦軸にも横軸にも広
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範かつ充実したものとなっている。また、本書は、
の利害を結び付けて勢力を再編し、 1864 年に
1945 年にジョン ・ ブレブナーが提示したカナダ
東西カナダの保守派と大連立を組んだことと切り
史の分析枠組み、「北大西洋三角形」 を援用し、
離しては考えられない。 具体的には、 都市を代
一国史研究を乗り越えたグローバルな枠組み
表し連邦構想を掲げるブラウン派が、 農村を代
での歴史学研究を体現するものである。 英米を
表し、 連合カナダの分割案を掲げるクリアグリット
中心とするより広い歴史的文脈にカナダを位置
派を 1859 年の改革派大会で糾合したことにより、
付けることによって、 カナダのみならず他国の
連邦化の推進勢力が形成されたのである。 植民
研究にも新たな分析視角を提示する点で、 そ
地側のこうした主体的な動きなくして、 連邦化は
の貢献の幅は地域横断的である。 著者のこうし
成し遂げ得なかったというのが著者の主張であり、
た妥協なき研究姿勢、 そしてグローバルな研究
この点は自立を考える上で重要であろう。
枠組みは、 とくに私たち若手研究者にとってよ
第三章では、 南北戦争期のアメリカが連邦結成
いお手本になろう。 以下では、 著者が描写す
に与えた影響、 つまり外圧が扱われているが、 こ
る自立の諸相を中心に各章の内容を紹介する。
こで注目すべきは、 それと同時にカナダの連邦化
第一章では内政自治獲得の時代に注目し、 英
も、 アメリカのカナダ認識と安全保障に影響を及ぼ
領北アメリカ植民地の自立の一端が示されている。
していたという指摘である。 南北戦争の経過にとも
著者は、 先行研究において手落ちであった 『ダラ
ない、 対米防衛強化と、 米加互恵条約に代わる
ム報告』 の内容分析に立ち返り、 同報告の意義
東西軸の経済基盤の整備の必要性が連邦化の一
を再検討している。 そこで強調されるのは、 『ダラ
因となったが、 独立戦争を経ずにイギリスとの紐帯
ム報告』 をめぐっては責任政府の付与に研究者
を維持した形で達成されたカナダの連邦化は、 イ
の関心が向かいがちであるが、 実際にはその前
ギリス帝国政策の一環であるとしてアメリカに脅威を
提として、 フランス系住民の同化手段としてのアッ
抱かせたのである。 アメリカがこの時期にアラスカを
パー、 ロワー両カナダの立法的合同が提案されて
購入した点を踏まえるならば、 米加間でそれぞれ
いた点、 そして、 結果的にはフランス系は同化せ
の重要な決定に影響を及ぼし合っていたといえる。
ず、 また、 同報告の勧告とは異なる形で責任政府
このように著者は、 双方向、 つまり対称性を持った
が達成された点である。 フランス系はイギリス系の
米加関係史研究の可能性を示唆する点で、 アメリ
改革派とともに責任政府の獲得に貢献し、 二民族
カ研究にも貢献の範囲が広がっている。
による統治を本国に認めさせたのである。 この点で
続く第四章から第六章では、 連邦結成後のカ
著者は、 『ダラム報告』 は政治的自立のみならず、
ナダが、 対外的自立と国内の地域的 ・ 民族的統
植民地の自立を促したものとして、 逆説的ながらも
合を課題とする中で、 英米の圧力と英米関係の
その意義を認められるのではないかと述べている。
変化にどう対応したのかという観点から自立の諸
第二章では、 連邦結成過程の再考をもとに、
相が描かれている。 対外交渉権がなく、 「北大西
英領北アメリカ植民地の内側からの自立の歩み
洋三角形」 の最も弱い一角であるカナダが、 国
が描かれている。 ここで著者は、 連邦結成の背
内利害の妥協を図りながら自らの立ち位置を模索
景として、 イギリス旧植民地体制の解体から米加
する姿の描写が大変興味深い。 まず第四章の南
互恵条約と鉄道建設の失敗までの英米の圧力、
アフリカ戦争期の派兵問題では、 帝国主義の代
そして保守派の動向に注目した経済政策史研究
表格であり、 カナダの自主的な貢献を求めるジョ
の知見に、 政治史の観点から、 長期に及んだカ
ゼフ ・ チェンバレンに対する、 フランス系カナダ
ナダ ・ ウエストの改革派の運動が果たした役割を
人の首相ウィルフリッド ・ ローリエの対応に焦点が
加えている。 連邦結成は植民地内部の動き、 す
当たる。 彼は、 帝国的感情を高揚させるイギリス
なわち、 政体改革を求める改革派が都市と農村
系カナダと、 ブラサを中心に、 国外の問題への
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関与に異を唱えるフランス系カナダ ・ ナショナリス
終章では、 20 世紀後半までのカナダの緩やかな
トとのはざまで、 最低限の負担かつ志願兵という
自立の動きを脱植民地化論との関係で論じ、 この
形での妥協を生み出した。 これは、 カナダが対
分野とカナダ史研究のさらなる発展に示唆が与えら
外関係で多くの制約を抱えながらもイギリスの意
れている。 従来の脱植民地化論では、 第二次世
向に必ずしも追従しなかった例であり、 自立を考
界大戦後のアジアとアフリカが念頭に置かれ、 カナ
える上で重要な歴史的側面であろう。
ダやオーストラリアといった白人移住植民地は含ま
第五章では、 対米問題が表面化したアラスカ
れてこなかった。 しかし著者は、 ケベックの 「静か
境界紛争におけるカナダの対応に注目し、 北大
な革命」 やマイノリティの抵抗も含めたカナダの長
西洋世界における同国の位置が示されている。
期にわたる脱植民地化は、 アジアやアフリカとの共
当時のカナダでは、 ヴェネズエラ境界紛争に伴
時的かつグローバルな動きとしてとらえられるので
う英米戦争の可能性や、 アメリカでのカナダ併合
はないかと提起する。 それによって既存の脱植民
の主張、 そして高関税政策を受けて、 反米感情
地化論を補完できるだけでなく、 カナダ史研究を
が高まりを見せていた。 そうした中、 カナダが対
グローバルな文脈に 「開く」 ことができるというのが
外交渉を依存していたイギリスは、 帝国の結束強
著者の考えであり、 とくに後者は本書全体を通して
化と同時に対米協調を重視していたため、 裁定
貫かれた立場である。
ではアメリカの主張がほぼ全面的に受け入れられ
本書では、 制度的な側面よりも個々の歴史的事
る結果となった。 これを受けて、 後の研究ではカ
例の丹念な分析と克明な叙述に重点が置かれてい
ナダを犠牲者とする見方がなされたが、 著者は
るため、 カナダの緩やかな 「自立」 の歩みを実態
ローリエ外交の問題にも目を向ける。 つまり、 イ
的に理解することができた。 そこに、 「独立」 のよう
ギリスの庇護を期待し、 アメリカに一切の妥協も
な劇的な転換とはまた異なる、 カナダのユニークな
示さなかったカナダ側の姿勢にも、 外交判断の
歴史の醍醐味を感じた。 本書でも示されるように、
鈍りがあったのである。 「北大西洋三角形」 の最
カナダでは国内の多様な利害の調整、 そして複数
弱国としてカナダが抱えた限界も、 同国の自立
の民族 ・ 地域の統合を図りながら自立が進められ
過程を規定してきた要素として重要であろう。
てきた。 つまり、 そうした利害調整や統合もカナダ
第六章では、 20 世紀初頭のカナダ海軍創設
の自立のあり方を規定する要素であったと理解でき
の背景を再検討し、 カナダの自立の歩みが描か
る。 本書を拝読する中で、 カナダの利害調整や統
れている。 旧来の見方では、 カナダ海軍の創設
合の基底をなしている思想的側面についてもさらに
は、 ドイツとの建艦競争から生まれたイギリスで
勉強したいと知的関心が刺激された。 本書は、 カ
の 「海軍パニック」 への対応とのみ関連付けら
ナダ、 そしてカナダ研究の魅力を再認識させてく
れてきたが、 著者は対米関係も踏まえて理解す
れる大著である。 (国士舘大学・非常勤講師)
べきであると指摘する。 それというのも、 カナダ
* * *
は 1871 年のワシントン条約締結以後も払拭し得
<お詫びと訂正>
なかった対米脅威、 とりわけ漁場紛争への備え
2013 年 11 月発行の第 96 号の書評にて、 富井幸雄
として、 自前の海防政策である漁場警備隊の整
会員のご著書 『海外派兵と議会 日本、 アメリカ、 カ
備を進めていたからである。 カナダ海軍は、 そ
ナダの比較憲法的考察』 を取り上げましたが、 著者名
れを核として後に創設されたのである。この時代、
が間違っておりました。
カナダは国内の利害対立を考慮し、 イギリスが (誤)富井行雄
求める帝国海軍への貢献よりも、 独自の海防を (正)富井幸雄
目指していた。 この点は、 自立へと向かうカナダ
この場を借りまして、 心よりお詫び申し上げます。
の内側からの動きを示すものであるといえる。
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* * *
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( ( ( 事務局 より ) ) )
該年度内に終了しなければなりません。 ③このグラ
◆第 39 回年次研究大会のお知らせ
ントを支給された会員は、 原則として再度応募する
2014 年 10 月 4 日 (土) ・ 5 日 (日)、 関西学院大
ことはできません。 ④書類送付先 ・ 問い合わせ先 :
学にて第 39 回年次研究大会が開催されます。 学
〒 658-0032 兵庫県神戸市東灘区向洋町中 9-1-6 会 HP 内 (以下の URL) よりプログラム ・ 報告要旨
神戸国際大学経済学部下村雄紀研究室内 日本カ
集がダウンロード可能となっております。
ナダ学会事務局)。
第 39 回年次研究大会プログラム・報告要旨集:
◆『カナダ研究年報』第 35 号(2015 年 9 月発行
http://jacs.jp/modules/pico1/index.php?content_
予定)の公募要項
id=35
(1)未発表の完全原稿のみ ( 採否の決定はレフ
◆「トラベル・グラント」募集について
リー制による )。(2)原稿の種類 : 「論文」 ( 和
2014 年度 (2014 年 4 月 1 日~ 2015 年 3 月 31
文 400 字× 50 枚相当以内 ; 英仏文 A4 判ダブル
日) に、 カナダおよびカナダ以外の国 (日本を除
スペース 25 枚以内 ); 「研究ノート」 ( 和文 400 字
く) で開催される国際会議などでカナダ研究に関す
× 20 枚相当以内 ; 英仏文 A4 判ダブルスペース
る報告を行う本学会会員に対して旅費を一部補助
10 枚以内 ); いずれも横書き、註・図版等含む。( 3)
する制度です。 本学会会員によるカナダ研究の成
締切 :2015 年 1 月末日【※第 32 号より、応募
果を広く海外に発信し、 研究の交流や国際化を図
締切日が年 2 回から年 1 回に変更されました】。
るのが目的です。 本制度は旅費の一部を補助する
( 4) 執筆要項請求先・原稿送付先:〒 171-8501
のが趣旨ですので、 旅費のすべてをカバーするも
東京都豊島区西池袋 3-34-1 立教大学経済学部 のではありません。 募集要項は次の通りです。 (1)
池上岳彦 (82 円切手貼付 ・ あて先明記の返信用
支給人数と支給金額:1 名につき 5 万円 ・ 最大 2
定型封筒を同封のこと)。
名。 (2) 支給対象者:応募時点において日本カナ
◆会費納入について(お願い)
ダ学会会員であること。 原則として、 専任の勤務先
現在会費の納入を受け付けております。 前年度ま
を持たない会員。 専任の勤務先を持つ会員でも応
での会費を未納の方は、 速やかに納入下さい。 過
募できますが、 優先度は低くなります。 (3) 応募締
去 3 年分 (当該年度を含まず) の会費が未納の場
切日: 2014 年 4 月末および同年 8 月末日(年 2 回)。
合、 学会からの発送物停止等をもって会員サービ
(4) 応募書類: ①本学会所定の応募用紙 (日本
ス資格を失うことになりますのでご注意下さい。 一般
カナダ学会のホームページに掲載)、 ②国際会議
会員:7,000 円・学生会員:3,000 円 ( 学生会員
などでの報告が正式に受理されたことを証明する文
は、 当該年度の学生証のコピーを提出のこと ) 。 郵
書 ( メールも可 )、③出張に関する費用 (航空運賃、
便振替口座:00150-2-151600。 加入者名 : 日本
滞在費、参加登録料など)の見積書。(5) 審査方法:
カナダ学会。 来年度以降、 自動振替に移行希望の
日本カナダ学会役員会における審査機関 (対外交
方は事務局までご連絡ください。 必要書類をお送り
流 ・ 共同研究委員会) が事前審査を行い、 それぞ
します (自動振替による口座引落は 7 月です)。 ご
れ 5 月および 10 月の役員会にて最終決定します。
協力願います。 なお、 4 月以降に会員区分の変更
(6) 出張後の義務:①帰国後2週間以内に報告し
のある場合は直ちに事務局までお知らせ下さい。
た論文を , 郵送にて学会事務局に提出すること。 ②
* * *
出張に関わる費用の報告書 (学会ホームページ掲
★編集後記:新体制になって最初の号をお届けします。
載の所定の書式)。 (7) その他の事項:①当該年
新会長の所信表明、 ケベック情勢報告、 元会長による
度内にトラベル ・ グラントの予算額 (10 万円) が満
回顧と展望、 書評2本と多彩な内容になりました。 執筆
額執行されなかった場合でも、 原則として、 残額の
者の皆様に感謝いたします。
会員諸氏におかれましては、
次年度への繰越は行いません。 ②出張期間は当
紙面充実のため、忌憚のないご意見をお寄せ下さい。 (h)
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