ダニは美容に悪影響を及ぼすか 人のダニと美容 青島大学皮膚病学教授 曲魁遵教授 1. 蠕形ダニ寄生虫学の部分 1-1 あなたは美を愛するか 人間は生まれながらにして美を愛するものである。美を愛さないものはどこにもい ないであろう。しかし、肉眼では見えない小さな虫が、いたずらに人々の顔の毛穴を 拡大させ、皮膚を粗くし、人間の皮膚の健康や美容に普遍に影響している。そして、 鼻を紅潮させ、顔にニキビができ、長年かかっても治らないこともある。ひどい場合 は、赤く腫れた大きな鼻(鼻瘤)と脱毛のような病状が発生し、人の容顔がひどく損 害されてしまう。 科学が進んでいる今日では、人体皮膚内のダニの寄生規則をさらに認識し、ダニの 寄生と繁殖を抑え、その皮膚に対する危害を防止する必要がある。それによって、 人々の苦痛を解除して、人の自然美を維持する目的に達する。そのため、人体にある ダニを消滅し、皮膚病(赤鼻 Acne Rosacea)を防止し、自然美を維持して美しい人間 社会を創ることは、我々、皮膚病学、寄生虫学、美容学界の同人の皆様の聖たる責務 である。皮膚病学の教科書の多くには「赤鼻を引き起こす要因が非常に多いが、発病 の原因は不明である」と書いてある。 人体の皮膚内のダニ(蠕形ダニ、毛包虫ともいう)は、早くも 1842 年に発見されてい るが、重視されていなかった。ダニは人体の皮膚内の正常無害な寄生虫で、人が皮膚 病にかかるようなことがないと思っており、美容に悪影響があるなどの問題を考える 人は尚更いないようである。 1-2 蠕形ダニとは何か まだ人々に知られていないこの小さい虫は、人間と動物がこの世に現れてから既に 世界の各民俗の人々と動物の皮膚内に普遍的に寄生している。「人間と動物さえいれ ば、蠕形ダニがいる。」と言えよう。人間と動物の毛包内の皮脂腺の中にいづれもダ ニを見つけることができる。ダニは毛穴を自由に出入りすることができ、毛包と皮脂 腺内の細胞質液を吸って栄養とする。その繁殖力は非常に強く、14 日くらいで一世代 を繁殖してしまう。この種の小さい虫の学名は蠕形ダニ(Demodex)と呼ばれている。 毛包を出入りして毛包内で初めて見つかったので、毛包虫(Hair Folliele Mite) とも言う。 1-3 蠕形ダニは何科何属か 蠕 形 ダ ニ は 寄 生 虫 で 、 寄 生 虫 の 中 で 節 肢 動 物 門 ( Arthropodo ) 、 蛛 珠 形 網 ( Arachnida ) 、 ダ ニ 亜 網 ( Acari ) 、 真 ダ ニ 目 ( Acainformes ) 、 前 気 門 亜 目 (Prosigamata)、肉食ダニ総科(Cheyleloidea)に属している。この総科には、一つ の科ー蠕形ダニ科(Demodioidae)、一つの属、つまり、蠕形ダニ属(Demodex)しか ないので、学名は蠕形ダニ(Demodex)という。 蠕形ダニは何科何属か 節肢動物門(Arthropodo) 蛛珠形網(Arachnida)ダニ亜網(Acari) 真ダニ目(Acainformes)前気門亜目(Prosigamata) 肉食ダニ総科(Cheyleloidea)蠕形ダニ科(Demodioidae) 蠕形ダニ属(Demodex)学名は蠕形ダニ(Demodex) 俗称“毛包虫”(Hair follicle mite) 略称は“ダニ”、または“ダニ虫” 1-4 蠕形ダニは人体と動物の中にたくさんの種類があり、また新しい種類が見つかり 1-4 つつある。アメリカのマサチューセッツ大学動物寄生虫学者の蠕形ダニ専門家・ Nutting 教授の資料によると、1964 年までは、まだ 38 種類しか見つかっていないが、 1976 年に 65 種類になり、1979 年になると 134 種類の独立した蠕形ダニが見つかった。 彼は 5000 種類以上になると予測しているが、あらゆる哺乳動物には、それぞれ特定の 共生蠕形ダニがある。それは異なる宿主の皮膚内に寄生しているため、特殊な変化 (Speciation)が起こり、厳格な寄生特性が発生して、各種の哺乳動物のダニに形成 した。そのため、ダニはいずれも宿主によって命名されている。例えば、牛蠕形ダニ (Stiter,1982)、犬蠕形ダニ(Leydig,1859)、豚蠕形ダニ(Csokor,1879)など が あ る 。 た だ 人 ダ ニ は “ 毛 包 蠕 形 ダ ニ ” ( Simon , 1842 ) と “ 皮 脂 蠕 形 ダ ニ ” (Akbulatova,1963)という。筆者は動物のダニと区別するために、それを“人蠕形 ダニ”と呼ぶように提案する。 蠕形ダニ(Demodex)という言葉は、ラテン語の脂肪(Demo)と虫(dex)から成っ たものである。それが毛包と皮脂腺内に寄生しているため、“毛包ダニ”と“皮脂ダ ニ”ともいう。蠕形ダニは、雄と雌とは別々で共に卵生である。生まれてから死ぬま での生活は、一つの宿主の皮膚内で完成するのである。人体に寄生している毛包蠕形 ダニ(Demodex folliculorum)は、蠕形ダニの中で最も早く発見されたもので、蠕形 ダニ属の一つである。その後、その他の哺乳動物の皮脂内(家畜と野生動物を含め て)に続々と各自のダニが見つかった。あらゆる哺乳動物の毛包と皮脂腺がダニの寄 生に適しているから、何千種類の哺乳動物には、何千種類もの各自共生の蠕形ダニが いるはずであるから、学者たちの研究に委ねている。筆者の研究では、世界で珍しい 動物のパンダにも、ダニの感染と蠕形ダニ病にかかっていることが見つかっている。 1-5 各種のダニは互いに伝染するのか 各種、ダニの形態は異なり、その各々に特異性がある。人と動物の間、異なる動物 の間は互いに感染しないのである。人と動物の毛包と皮脂腺は、それらのダニの永久 寄生地と、繁殖地となっている。人と人の間、同類の動物間の皮膚の密接的な接触に よって、互いに感染し、代々伝わっていく。それは宇宙進化の奇跡であろう。地球上 において、人と動物の毛包と皮脂器官内のダニを消滅することは、極めて難しい課題 である。しかし、ダニは人体に危害があるが、美容に影響があるかについては、あら かじめ重視し、検討する必要がある。 1-6 人蠕形ダニはどこから来るのか 人蠕形ダニは、世界に分布していて、人体の毛包と皮脂腺内に広く寄生している。 生物進化論の観点から、人類生物学との関係は、人間の原始時代まで遡ることができ る。おそらく、人間と動物の早期から同時に存在し、その後、人間が発展する中で適 応してきたのであろう。蠕形ダニの進化は、独特の適応性(Adaptation)を持ってい る。その適応性には、宿主の体内に侵入する上、その中に住み付くということを証明 しなければならない。そのため、特定の寄生部位(特異性定位)と、次々と栄養を供 給する栄養源、及び、それと相応する特異の伝染方式(伝染機制)が必要となる。 人間の長い腔穴毛包の中に、あるいは短腔皮脂腺内に住み付いたダニは、長期間の進 化、適応を経て、長短二通りの形態の異なるダニを形成した。それらの特異寄生地― 毛包と皮脂腺が、そのダニにとって唯一の最も良い選択であろうと考えられる。ダニ は雄と雌が別々に寄生しており、毛包口で交配し、寄生地で繁殖し、宿主間の皮膚の 密な接触によって伝わり、宿主付いて代々繁殖していく。 1-7 人ダニはいつ発見されたのか 蠕形ダニは Henele と Berger とが、1841 年の同じ年に、ニキビの膿液と耳垢に見つ けたのである。しかし、1842 年になって、Simom によって詳細に記述され、毛包ダニ (Acarus Folliculorum)と命名された。1843 年によって蠕形ダニに帰属されかる、 毛 包 蠕 形 ダ ニ ( Acarus folliculorum,D.f. ) に 命 名 さ れ た 。 Macrofester platypur(Miescher,1843) 、 Simoner folliculorum(Gervat,1843) 、 Steatozoom folliculoum(Wilson,1847)ともいう。日本語では、ニキビダニ(毛包ダニ)、ニキビ ムシ(毛裏虫、毛包虫)という。1963 年に、Akbylatova が人体には二種類の異なった ダニが寄生していることに気付いた。それは体が長くて尾を丸くしている形の長いダ ニと、体が短く尾が尖っている形の短いダニである。それぞれ毛包蠕形ダニ( Demodex folli-culorum,D.f.)と、短い蠕形ダニ(Demodex brevis.D.s)と命名した。後者は 皮脂腺内に寄生するもので、「皮脂蠕形ダニ(Demodex sebum.D.s)」ということが できる。 人体の皮膚内の毛包ダニは、早くから発見されている。しかし、長期にわたって人 体の皮膚に寄生しているダニの危害性、病気になるかどうか、皮膚の美容と健康に影 響があるかどうか、皮膚には害がないかについては、科学的な論証がないようである 。 筆者は「皮脂を取って定位皮脂定量及びダニの感染度を基準にした調査研究の方法」 で、条件性<病気になる>と<美容に影響する>寄生虫であることを論証した。これ は所謂「病気にならない人体の正常寄生虫」を新たに認識してもらいたい。 1-8 人体蠕形ダニは幾種類あるか 人体蠕形ダニは幾種類あるか 人ダニは二種類ある。1972 年 Desh と Nutting 教授によって二種類だと確認され、そ れぞれ毛包蠕形ダニ(Demodex folliculorum Simon)と、短い蠕形ダニ(Demodex brevis-Akbulatova)に命名された。 長短二種類のダニは、それぞれ毛包と皮脂腺内に寄生していて、それらの解剖部位に 適応することによって、形態的な特殊な変化が発生した。もし、その寄生部位と種類 の形態によって命名すればなお適当かもしれない。則ち、人毛包蠕形ダニ( Demodex folliculorum-hominis,D.f.h)という。名に「人」を冠すれば、その他の動物のダニ の名と区別することができ、解剖部位を冠しては、二種類の人体ダニを区別すること ができるわけである。 1-9 人ダニはどんな形をしているのか(形態学) 蠕形ダニは哺乳類性動物の永久的体外的寄生虫である。その二種類のダニはそれぞ れ毛包と皮脂腺に寄生している。ダニの体の形は蠕虫に似ていて、うようよ動くこと から蠕形ダニと名付けられたわけである。 人ダニは乳白色で半透明をしている。体は顎体(頭部)、足体(胴体)と末体(尾 部)とに分けることができる。皮が薄く、甲質で膜のような構造をしていて、表面は 顕著な環状の波紋をしている。顎体は短くて前の方が狭く、後ろの方が梯子のような 形をして、主に吸収式の口器からなっている。口器には一対の細い針状の吸収間があ るが、口器の下唇は、顎体の腹部にあり、その前の方に口腔を納めるが、食事を吸収 する時に、吸入管を口腔の前の下の方から出して、宿主の細胞に刺して食事をとり、 上皮細胞、腺細胞、皮脂と組織液などを栄養にする。顎体の腹部に馬蹄形の咽泡があ り、その両側に一対の触覚があり、それぞれ三節からなっていて、基節が大きくて、 端節の第三節の腹部に、五つの針形の爪、あるいは毛があり、曲がったりして動くこ とができる。足体(胴体)の長さは、全体の 1/4(毛包ダニ)、1/2(脂ダニ)を占め ていて、その両側に 4 対からなる短く太い足があり、足の基節は平らで動かなく、腹 板になっている。その他の三節の足は筒状になり、足の終節には針状の尖った爪があ り、自由に伸縮して、爪によって緩慢に這うことができる。足体の背中には前後一対 ずつの針状の足体毛がある。 雄の生殖器は、背中の足体の第二対の足の間の、長い円形の突起にあり、普段は体 内に縮んでいて、小さな穴にしか見えない。交配時に、陰茎が長く突起し、末端が膨 張して筆のような形になる。雌の膣は、細長い口で腹部の第四対足の間の後方にある 。 二種類のダニの末体(尾部)に顕著な違いがあり、毛包ダニの方が長く、長さは約体 の 2/3~3/4 もあり、尾の末端は円形になっていて、指のような形をしている。皮脂ダ ニの末端は短く、体の全長の 1/2~2/3 を占めている。末体の端の方は尖っていて、体 全長は約 160 ミクロンである。 1-10 二種類の人ダニの卵と末端はどう違うか 毛包蠕形ダニ(D.f)は、長い毛包に寄生しているから、体も長い。その卵の両端は 尖っていて、真ん中は太くキノコ形をしている。側面から見ると三角形に見える。幼 虫ダニは細長くて、大きくなるにつれて次第に幅が広くなる。末体は足体より 2~3 倍 ほど長く、全長は 270~470 ミクロンで末体は丸くなっている。 皮脂蠕形ダニ(D.b)は、短い皮脂腺内に寄生しているので、体も短い。その卵は円 形で、回虫の卵に似ている。幼虫ダニは短く、足体の長さは D.f に似ているが、末体 は明らかに短く、足体の長さはほとんど同じくらいである。全長は約 150~210 ミクロ ンで、末体の端は尖った形をしている。二種類の人ダニは成長過程の外観の形を顕微 鏡で観察すると非常に識別しやすいのである。 1-12 各種の蠕形ダニは大きさが同じか 各種のダニは大きさが違う。ダニの長さと幅の変化も非常に大きいものである。例 えば、人体蠕形ダニの長さは、270~440 ミクロンである。下の統計は平均値だけであ る。 1-13 人ダニは皮膚内でどのように繁殖し、生活しているのか 人ダニの生活史には、中間の宿主がなく、すべて人体の毛包と皮脂内で行われてい る。雄と雌とはそれぞれに生殖器を持っており、多くは毛包口の外で交配し、近くの 毛包と皮脂腺内に戻り、あるいは侵入して卵を産み、繁殖する。 人ダニの生活史は、五つの段階に分けられている。交配して 12 時間後に産卵し、60 時間経って卵が割れて幼虫ダニが産まれてくる。幼虫ダニは、食を取ってから約 36 時 間後に前若ダニとなる。前若ダニは、まだ健全に生育していないが、皮脂について移 動する能力を持っており、毛包と皮脂内から皮膚の表面に這い出る事が出来る。その 後、約 60 時間経ってから、脱皮し、成虫のダニになる。卵から成虫ダニになるまでは 約 14 日間くらいかかる、雌ダニの寿命が長く、約 30 日~40 日間であるが、雄の方は 少し短いようである。人ダニの爬行はゆっくりしているが、温度の上昇にしたがって 速くなる。人ダニは光に弱いが、温かいところを好む。そのため、人体が睡眠状態に ある時に動きが活発で、成虫の多くは、毛包を這い出て毛包口のところで交配する。 卵を破って出てくる幼虫は、三回の脱皮を経て成虫になる。それから口器は組織の 細胞に刺して食を取り、毛脂器官の組織栄養などの生育活動はすべて毛脂器官で完成 するものである。それにダニの分泌排泄、死亡解体なども毛脂器官内に堆積する。そ れらの寄生生活は、いずれも理化性刺激になり、局部組織の異常反応を引き起こすこ とになる。それは、ダニの病気をならす機制の基礎かもしれない。一体、ダニは人体 にどんな影響と危害があるのかについては重視し、研究する必要がある。 1-14 ダニが皮膚内で食事を摂る場合、皮膚の組織は損傷されるか ダニの口器前方にある口前孔には、二本の針(stylet of the chclicerac)がある。 針は針基骨から出して、まず後ろの方へ、それから下の方に向かって平管壁に沿って 前方の口前孔まで伸びる。口前孔の後方の縁から一対の角質の棒状の針を伸ばし、二 つの針の間に、不完全の間隔が形成されている。針は宿主の組織細胞を突き抜いて、 咽喉で細胞液を食道に吸入し、咽球を通して体内に取り入れる。 ダニが多い場合、傷になる組織が広く、組織の病気反応を引き起こして、疾患を発 生させることになる。ダニが少ない場合、病気にならなくても、皮膚の栄養が奪われ 、 毛穴が大きく、皮膚が粗くなり、顔の美容に大きく影響する。 1-15 蠕形ダニはどのように伝染するのか 動物学者の報告によっては、生まれたばかりの家畜にはダニは見つからず、生まれ てから暫く経って初めて顔や頭部に見つかる。それは幼い家畜が哺乳で母体との直接 的な接触により感染されたものと考られる。それは、我々が今までに行った人の集団 を対象にしたダニ検査の中で、新生児には見つからず、児童のダニ感染率が年を追っ て高くなっている事と一致する。我々は、女性の乳房部における皮脂を絞ったダニの 検出率は低いが、その多くは成虫で、かつ活発であるから、それらのダニによって伝 染したのかもしれない。新生児に検出されなかったのは、まだ感染していないからだ と考えられる。接触感染の経路としては、家庭生活の中での密接な接触による機会が 最も多いようである。この種のダニは「家庭伝染性寄生虫」と言えよう。その他の生 活用品の間接的な接触で感染するかどうかについては、なお実証が足りないようであ る。 蠕形ダニの食を取る針(口器)指示図 針伸び筋肉 針縮み筋肉 拡咽筋肉 針基骨 口前孔針(2 本) 角質棒で組織細胞を刺し抜ける。 家庭性伝染性寄生虫:新生児の皮膚内にはダニはいないが、母親の皮膚内にダニが寄 生してるため、哺乳時に最も感染しやすい。 DEMODEX IS EASILY TRANSMITTED 人体蠕形ダニは、皮膚の密接な接触によって相互伝染するものである。皮膚接触の 機会は、家庭生活の中で最も密接なものである。家庭成員は 15 歳までに、ダニの感染 は既に 95%以上という高い率になっている。そのため、「家庭伝染性寄生虫」と言え よう。 ダニを予防するには家庭から着手しなければならない。
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