日本の CMBS に対するムーディーズの 格付手法(2010 年 6

JULY 2013
INTERNATIONAL STRUCTURED FINANCE
SEPTEMBER 30,2010
RATING METHODOLOGY
目次:
1.はじめに
1
2.ムーディーズの格付プロセス
2
CMBS の分類
2
3.物件レベルの分析
4
4.ローンレベルの分析
7
5.ノートレベルの分析
10
関連リサーチ
15
別添:物件レベル分析の詳細
16
1.物件レベル分析の目的
16
2.物件レベル分析のプロセス
16
3.資料を分析する上での留意点
17
4.不動産の権利関係に応じた留意点
20
添付資料 1:一般的な CMBS 案件で確認を行
う物件関連資料
22
添付資料 2:オフィスビルにおける一般的な付
保内容
23
日本の CMBS に対するムーディーズの
格付手法(2010 年 6 月)(改訂版)
Updated: Moody's Approach to Rating CMBS
Transactions in Japan(June 2010)
このレポートは、当該セクターに関する既存の格付手法を統合し、再発行したものである。
1.はじめに
ムーディーズは、2007 年 4 月に格付手法「日本の CMBS に対するムーディーズの格付け手
法:改訂版」を、その後、同格付手法を補足する形で、特定のテーマに絞ったより詳細な分析
手法を解説すべく、同格付手法の補足レポートを発表してきた。
本書は、同格付手法のレポートについて、2007 年 6 月に発表した「日本の CMBS に対する
ムーディーズの格付手法:改訂版補足シリーズ 1『物件レベル分析のアプローチ(総論)』」の
内容を添付資料として盛り込む形で、再発行するものであり、格付手法のアップデートを意味
するものではない。
お問い合わせ:
クライアント・デスク 03.5408.4100
[email protected]
Website: www.moodys.co.jp
This Moody’s Japan rating methodology is based on Moody’s Investors Service’s rating methodology titled “Updated:
Moody's Approach to Rating CMBS Transactions in Japan (June 2010) (June 29, 2010).” The rating approach
described in the Moody’s Investors Service report was adopted by Moody’s Japan on September 30, 2010.
このレポートは、2012 年 8 月 20 日に一部修正したものである。
ムーディーズ・ジャパン株式会社
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2.ムーディーズの格付プロセス
ムーディーズのCMBS格付手法では、図表 1 のとおり、①物件レベルでの分析、②ローンレベルでの分析、
③ノートレベル 1(CMBSレベル)での分析、という大きく三段階の分析過程がある。次章以降、各レベルでの
分析手法について説明する。
図表 1:CMBS 格付分析の概要
不動産:A
ローン契約形態
物件分散度
不動産に関する調査
約定弁済
トリガー
ネットキャッシュフロー
LTV
ローン:A
キャップレート
クラスA
DSCR
ムーディーズ
:
不動産評価額
:
不動産:B
不動産:B
不動産:B
ローン・
ポートフォリオ
クラスB
クラスC
裏付資産
不動産
不動産
不動産
クラスD
ローン:Y
クラスX
【プール】
ローン分散度
裏付資産
不動産
不動産
不動産
【CMBS】
ローン:Z
法的リスク
ストラクチャー
物件レベル分析
ローンレベル分析
ノート レベル分析
CMBS の分類
格付手法の具体的な説明に入る前に、まず、簡単に CMBS の分類方法について触れる。分類については必
ずしも明確な定義がなされているわけではないが、ムーディーズでは、便宜上、以下のように分類している。
(1)ローンの本数による分類
ノートレベルの分類としては、CMBS の裏付けローンの本数を区分基準とした「シングルボロワー型 CMBS」と
「マルチボロワー型 CMBS」がある。シングルボロワー型 CMBS は単一借入人向けのローン一本が裏付け資
産であるのに対し、マルチボロワー型 CMBS の場合、複数の借入人向けローンが裏付けとなっていることから、
裏付けローンレベルの LTV 及び DSCR 基準等に基づく分析に加えて、複数ローンを裏付け資産とすること
により期待できるノートレベルの分散効果を、ストラクチャーやウォーターフォール(償還方法)等を勘案した上
で分析することになる。
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基本的な格付手法については、受益権、ボンドおよびシンジケート・ローンも対象にして、本レポートでは「ノートレベル」
と総称する。
格付手法:日本の CMBS に対するムーディーズの格付手法(2010 年 6 月)(改訂版)
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図表 2:マルチボロワー型 CMBS のストラクチャー図(一例)
ボロワーSPV
不動産 1
[1]
ローン
サービサー
元利金返済
:
エクイティー
不動産 n 1
サービシング契約
貸付
貸付債権の信託
信託銀行
ボロワーSPV
[2]
(信託受託者)
元利金返済
不動産 1
ローン
貸付人
:
信託配当
および
元本交付
信託受益権
貸付
エクイティー
不動産 n 2
投資家
:
(信託受益者)
元利金返済
ボロワーSPV
購入代金
[t]
貸付
不動産 1
ローン
:
不動産 n t
エクイティー
(2)償還原資による分類
ローンレベルでは、回収方針に基づき「売却型」と「リファイナンス型」に分類される。売却型ではコベナンツに
より裏付け不動産を期中に売却処分する仕組みを備え、売却にてローンの償還原資を得るような回収方針が
採られる。一方、リファイナンス型においては、裏付け不動産からの期中キャッシュフローにてローンの一部返
済を実行しつつ、満期時にはリファイナンスもしくは物件売却により償還原資の確保を図るのが一般的である。
図表 3:ローンからの回収方針による分類
売却型
ローン
回収方針
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リファイナンス型
格付手法:日本の CMBS に対するムーディーズの格付手法(2010 年 6 月)(改訂版)
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3.物件レベルの分析 2
CMBSの信用リスク評価における物件レベルの分析としては、裏付け不動産からの安定的キャッシュフローの
算定および中長期的な資産価値の適正評価に主眼が置かれる。それゆえ、本分析過程では、対象物件の
安定的な「ネットキャッシュフロー」と「キャップレート(還元利回り) 3」の算定が重要なポイントとなる。
ムーディーズでは、裏付け不動産の質および資産価値を評価する際、対象物件のレントロールや過去収支、
第三者による鑑定評価書、エンジニアリング・レポート、PM レポート、マーケットレポート等を考慮し、ムーディ
ーズのアナリストによる実地調査(実査)や関係当事者へのインタビュー等を実施する。そして、対象物件の立
地や用途の適合性、建物グレード、維持管理状態、流動性、サブマーケットでの競争力等を総合的に判断し
た上で、対象不動産から得られる中長期的かつ安定的なネットキャッシュフローおよび対象物件の安定的キ
ャップレートを算定する。なお、CMBS の裏付け不動産の資産価値の評価にあたり、主に安定的ネットキャッ
シュフローを安定的キャップレートで割り戻す直接還元法(収益還元法)を用いる。ただし、裏付け不動産や
対象取引の特徴によっては DCF 法やその他の資産価値評価手法を用いることがある。
(資産価値評価額)=(安定的ネットキャッシュフロー)÷(安定的キャップレート)
(1)キャッシュフロー分析
ムーディーズのキャッシュフロー分析では、ネットオペレーティングインカム(Net Operating Income :以下、
「NOI」とする)から賃貸仲介手数料や不動産価値の維持に必要な資本的支出を控除したネットキャッシュフ
ロー(Net Cash Flow : 以下、「NCF」とする) を用いて、分析を行っている。ムーディーズの安定的ネットキャッ
シュフローは、対象物件の競争力を考慮した賃料水準や空室率、物件維持管理費用、資本的支出等の個別
査定を実施した上で決定される。
ムーディーズの主な査定項目
収入項目
» 賃料:レントロールや鑑定評価書等に基づき、現在の賃料ならびに過去の賃料推移、そしてサブマーケッ
ト賃料水準を考慮した上で安定的な賃料(共益費もしくは管理費込み)を設定する。
» 稼働率(もしくは空室率):まずは過去および現在の稼働率の調査を実施し、賃貸市場状況や対象不動産
の有する競争力、賃料設定、テナントの集中度、稼働率のボラティリティー等を勘案した上で安定的な稼
働率を設定する。
» その他収入:「その他収入」に関しては、当該項目に含まれる収入が継続的に発生し、安定的ネットキャッ
シュフローに寄与するものであるかを確認した上で、その他収入の金額を決定する。
費用項目
» 不動産管理委託手数料:不動産管理委託手数料については、実際に支払っている手数料とともにマーケ
ット水準の手数料を考慮した上で算定する。
» 公租公課および損害保険料:公租公課(固定資産税・都市計画税等)および損害保険料は継続的に発生
する支出項目であるために期中キャッシュフローから控除する必要があるが、一部の不動産では税額控
除によって実質的な税額負担が小さくなっている場合がある。安定的ネットキャッシュフローの算定にあた
っては、税制上の優遇措置が恒久的であるかどうかを判断した上で税額負担の軽減分を勘案する。
» 物件維持管理費用:建物を維持管理する上で必要となる点検・保守費用、清掃・衛生管理費用および修
繕費(資本的支出を除く)については、過去の実績額をベースに標準的な費用水準を勘案した上で維持
管理費用を決定する。なお、水光熱費については、実績支払額を勘案した上で別途算定する。
2
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詳細については、別添参照。
キャップレートとは、キャピタリゼーション・レート(capitalization rate) の略で、還元利回りとも呼ばれる。キャップレートは不
動産から得られる純利益を不動産の価値で除した比率であり、不動産投資の期待利回りを表す。
格付手法:日本の CMBS に対するムーディーズの格付手法(2010 年 6 月)(改訂版)
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» 賃貸仲介手数料:新規契約時もしくは契約更新時に関わらず、賃貸仲介手数料はマーケット水準の金額
を基準とする。なお、テナントの維持率(契約更新率)については、過去の契約更新率や市場動向によっ
て判断する。
» 原状回復費用:一般的な居住用賃貸借契約では、借主が契約締結時の状態に回復する原状回復義務を
負っており、貸主は畳や壁紙などの経年経過に伴う自然損耗の修繕費のみを負担することになっている。
しかしながら、新たなリーシングに際しては、原状回復以上の修繕が必要となってくる場合もある点に考慮
が必要と考えられる。また、オフィスビルの賃貸借契約では、賃貸物件のクロスや床板、照明器具などを
取り替え、場合によっては天井を塗り替えることまでの原状回復義務を借主(テナント)に課する旨の特約
が付されることがある。したがって、テナントの退去時にはテナントが原状回復費用を負担し、仮に履行さ
れない場合でも敷金から原状回復費用分を相殺するのが一般的であるため、オーナーの原状回復にか
かる支出は自然損耗の修繕費用に限定される。
» 資本的支出:日常的な不動産の維持管理に要する修繕費と区分して、資本的支出を考慮する必要がある。
資本的支出とは不動産の機能・価値の維持および耐用年数の延長をもたらすような支出であり、エンジニ
アリング・レポートを参考に今後の支出額を想定する。
(2)キャップレート(還元利回り)
ムーディーズのキャップレートは、類似の不動産取引事例を参考にしつつ、対象物件の立地や建物グレード、
維持管理状況、不動産投資マーケット、流動性、キャッシュフローの安定性、権利関係などの当該不動産の
個別要因を勘案した上で、決定される。ムーディーズでは、不動産投資の環境変化や金利動向を総合的に
判断し、裏付けローン満期におけるリファイナンス時も考慮した中長期的かつ安定的な利回りとなるようなキャ
ップレートを算定している。したがって、ムーディーズのキャップレートは、不動産鑑定評価上のキャップレート
や実際の取引事例に基づく利回り水準から乖離していることがある。
キャップレートは不動産投資の期待利回りを表しており、ベース金利(リスク・フリーレート)と不動産投資のリス
ク・プレミアムで構成される。ムーディーズのキャップレートは中長期的かつ安定的な視点で算定されているた
めに今後の金利上昇も勘案されているものの、ムーディーズは、金利上昇や不動産投資マーケットの動向に
よるキャップレートへの影響について引き続き注視していく。
(3)リスク調査項目
ムーディーズは裏付け不動産の価格を査定する際に様々なリスク調査を実施しているが、その調査項目は大
きく以下のような分類となる。
» 物理的リスク調査(土地・建物の状態、瑕疵・欠陥等)
» 法的リスク調査(関係当事者の権利義務・契約等)
» 経済的リスク調査(マーケット・運営等)
A)物理的リスク調査
ムーディーズの CMBS 格付分析において、対象不動産の物理的リスクを検討することは必要不可欠であり、
通常、第三者のエンジニアリング・レポートを参照しながら当該リスクを評価している。なお、エンジニアリング・
レポートには、対象物件の環境調査および物的調査に基づき、①建物調査(建物構造や設備の劣化状況等
の調査)、②土地調査(地質・地盤調査や隣接地との境界調査)、③遵法性(建築基準関連法令への適合
性)、④環境リスク(土壌汚染やアスベスト、PCB などの有害物質含有の有無)、⑤地震リスク(地震による建物
への損失規模の予測)、⑥建物の修繕費用および再調達価格の算定、等について調査報告がなされている。
このうちの 3 項目について、以下に留意点を述べる。
遵法性
法令に抵触している物件(いわゆる違法建築物)は、買主が限定されることや物件購入時の資金調達が難し
いことが予想されるため、売却処分時の流動性に支障をきたす恐れがある。法令抵触の箇所を修繕すれば
追加的費用が発生し、また修繕しない場合には売却時の価格に影響を受けるため、違法建築物は経済的損
失を招く可能性がある。さらに、違法建築物はコンプライアンス・リスクも内包しているため、対象不動産の遵
法性について精査する必要がある。
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格付手法:日本の CMBS に対するムーディーズの格付手法(2010 年 6 月)(改訂版)
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環境リスク
近年、有害化学物質による土壌汚染やアスベストが使用された建物の人体への悪影響が懸念されるようにな
り、社会的な環境問題としての認識が高まるとともに、これら有害物質を含む土地・建物の取扱いに関する規
制が次々と設けられるようになった。これに伴い、有害物質を含む不動産は売買取引の敬遠によりその資産
価値に影響が及ぶこととなり、また有害物質を撤去する場合には調査費用や除去・浄化費用がかさむために
経済的損失を被ることになる。
地震リスク
日本は「地震列島」とも呼ばれるように非常に地震が多い国であり、全国各地で様々な地震の損害を被ってき
た。これまでに地震災害に対する様々な方策がとられており、建物への地震災害対策として、1981 年に宮城
沖地震を契機とした建築基準法の「新耐震基準」が制定されることとなった。この新耐震基準に基づく建物の
耐震性は制定以前に比べて大幅に向上しており、このことは、1995 年の阪神淡路大震災において倒壊した
大半の建物が 1981 年以前に建築されたものである一方で、新耐震基準に基づく建物の損害は軽微であっ
たことからも立証されている。
ムーディーズは、エンジニアリング・レポートに記載されている当該建物の最大予想損失額(Probable
maximum loss:一般に、「PML」と呼ばれる)に基づき、地震リスクに対する追加的な信用補完を必要とするかど
うかの検討を行う。なお、建物の構造以外の地震による損失を軽減する手段として、地震保険の付保がある。
しかしながら、地震保険の保険料は高額であり、また保険会社が地震リスクの引受けを謝絶することもあるた
め 4、PMLの高い全ての裏付け不動産に対して地震保険が付保されているとは限らない。
B)法的リスク調査
裏付け不動産からのキャッシュフローや資産価値を査定する際、当該物件に関わる権利関係を精査する必
要がある。対象物件が借地権付建物や共有物件・区分所有物件などの権利関係が複雑で、売却処分や大
規模修繕時に底地所有者や他方共有者などの第三者の意図が介在しうる物件については、完全所有権の
物件に比べて売却処分時の流動性が劣ると考えられる。このような場合、ムーディーズでは、キャップレートを
高めに設定するなどによって資産価値評価を修正することがある。
C)経済的リスク調査
前述(1)のとおり、裏付け不動産のキャッシュフロー分析では、賃料水準や空室率といった賃料に関する「収
入項目」と、物件維持管理費用や資本的支出あるいは不動産管理委託手数料等の「支出項目」を査定して
いるが、その際、キャッシュフローの変動リスクや不動産売却/リファイナンス時の価格変動リスクを勘案する必
要がある。特に、賃料収入については、テナントの構成(テナントの数や属性またはリーシング戦略)や不動
産マーケット動向(サブマーケットの賃料水準やテナントの需給動向)、地域・立地要因等によってその変動
幅が異なるため、様々な要因を総合的に判断する必要がある。
テナントに関するリスク(アセットマネージャー、プロパティマネージャーの管理能力)
テナントに起因するリスクとしては、テナントの退去リスクや信用力リスクなどが挙げられる。特に、テナントの退
去リスクは検討すべき項目であり、一般に、テナント集中度の高い不動産ほどテナントの集中退去などによる
キャッシュフローの変動が懸念される。したがって、シングルテナントよりもマルチテナントの方がキャッシュフ
ローの安定度は高いと言える 5。その一方で、テナント数が多くなれば管理の手間やコストが掛かるためにテ
ナントの管理面について考慮する必要がある。なお、通常の賃貸借契約では、数ヵ月前から半年程度前に解
約予告通知をすればテナントの都合により自由に退去することができるため、ムーディーズでは、原則として、
テナントの信用力に依拠した資産価値評価を行っていない。
エンドテナントの運用・運営・管理業務は、アセットマネージャーやプロパティマネージャーに委託される場合
が多い。アセットマネージャーの業務としては、対象資産の運用計画や管理方針の策定、物件売却の実施等
が挙げられ、必要に応じてプロパティマネージャーの選定・解任および管理業務も行う。一方、プロパティマ
ネージャーは、対象物件の収益向上を目的として、テナントの新規募集やテナントの日常管理、設備・建物の
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地震保険について、住居に供する建物であれば地震保険の引受拒否はない(ただし、地震保険の保険金額は、火災
保険の 30% から 50% の範囲内で、かつ、建物については 5000 万円までといった制限がある) が、オフィス等の非居
住用建物を保険の目的とする場合は保険会社が地震保険の引受けを謝絶することがある。
「シングルテナント」とは 1 つのテナントのみに賃貸している場合であり、「マルチテナント」は 2 つ以上のテナントに賃貸
している場合を指す。
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保守管理や修繕計画の立案といった業務を行う。ムーディーズの格付分析では、必要に応じて、これら不動
産管理者に対するインタビューを実施し、人員体制や業務フロー等についてヒアリングを行い、不動産管理
者の業務運営能力・方針を確認している。その上で、通常、標準的な能力を有するアセットマネージャーやプ
ロパティマネージャーが不動産管理業務を運営した場合を想定して、対象物件の資産価値評価を行う。
4.ローンレベルの分析
物件レベル分析の次のステップとして、ローンレベルでの分析がある。この章では、ローンの信用力を評価す
るにあたってのポイントについて解説する。
(1)ローンの信用リスク指標
ローンの信用リスクを評価する指標として、「DSCR」と「LTV 」が挙げられる。まず、これらの指標について簡単
に説明する。
DSCR(Debt Service Coverage Ratio):
DSCR は年間ネットキャッシュフローを年間元利支払額で除した値であり、主にデフォルト発生率を評価する
指標として用いられる。一般に、DSCR は値が小さくなるほどデフォルトする可能性が高くなり、1.0 を下回った
場合はローン返済額(元利支払額)が収入(キャッシュフロー)を超過しており、実質的なローン・デフォルト状
態にある。
LTV(Loan to Value):
LTV はローン残高を裏付け資産価値で除した値であり、主にデフォルトが発生した場合の損失規模を測定
する尺度として用いられる。
DSCR = 年間ネットキャッシュフロー÷年間元利支払額
LTV = ローン残高÷裏付資産価値
(2)ローンコンスタント/リファイナンス・リスク
商業用不動産を担保とするローンでは期中に少額の元本返済がなされ、満期時に多額の元本返済(バルー
ン返済)となる返済スケジュールが一般的であり、通常、バルーン部分はリファイナンスによって返済される。し
たがって、仮にローン満期時にリファイナンスが実行されなければローンはデフォルトすることになる。そこで、
ローン満期時のリファイナンス実行の確度を示す指標として、ムーディーズでは、金利変動リスクを勘案した
「ストレス DSCR(以下、「SDSCR」とする)」を用いる。なお、期中では実際の元利払いに基づく DSCR(以下、
「ADSCR」とする)を通じてデフォルト・リスクをモニターするのが一般的であり、パフォーマンス悪化による影響
の緩和措置として DSCR トリガーを設定する裏付けローンが多い。
前述のとおり、ADSCR は期中のキャッシュフローを実際のローン元利支払金額で除した値であり、キャッシュ
フローからのローン返済余力を示している。一方、SDSCR は安定的ネットキャッシュフローとローンコンスタン
トを用いた場合のストレス下での DSCR であり、SDSCR を基準とした分析を実施すればローン満期時に金利
が上昇したとしてもリファイナンス実行の可能性を確かめることができる。ここで、「ローンコンスタント」とはロー
ン金額に対する年間元利支払額の割合を指し、ストレス時のハードル金利として用いられる。ムーディーズは、
ローンコンスタント:6.0%を基準としており、実際の案件では裏付け不動産のグレードおよびレバレッジ水準等
に応じてローンコンスタントの水準を調整することがある。
(3)約定弁済(アモチゼーション)
上記(2)で述べたように、商業用不動産を担保とするローンでは期中に少額の約定返済を予定し、満期時に
バルーン返済となる返済スケジュールが多い。そして、満期時のローン元本残高はリファイナンスによる全額
返済を予定しているが、リファイナンスの確度はその時点の金利状況や不動産マーケット状況によって異なる
ため、満期時のデフォルト発生について注意を払う必要がある。仮に期中の約定返済額を大きくした場合、ロ
ーン残高の減少割合が大きくなることによって期中デフォルト時の回収率は増加し、ローン満期時におけるリ
ファイナンス・リスクを低下させる効果がある。こうした意味では、ローンの約定弁済をプラス要因として捉える
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格付手法:日本の CMBS に対するムーディーズの格付手法(2010 年 6 月)(改訂版)
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ことになるが、ローン返済負担額の増加によって DSCR の値は小さくなるために期中のデフォルト率は高くな
るという点にも注意する必要がある。
実際のムーディーズの格付分析では、期中のデフォルト・リスクと満期時のリファイナンス・リスクの両方を考慮
しており、ADSCR および SDSCR の水準、そして約定弁済の履行可能性を勘案したバルーン LTV 水準を用
いて格付水準を決定している。ここでの約定弁済の履行可能性に対する勘案とは、期中の約定弁済が滞りな
く実行されることに対する信頼度を意味し、テナント分散度や担保物件からのキャッシュフローの安定性、さら
にはローンのシーズニングやレバレッジ水準等によって総合的に判断される。
(4)信用補完水準の分析
ムーディーズは、借入人のデット全体の(メザニンローンおよび劣後ローンを含む)のレバレッジ水準によって、
各格付に対応する必要信用補完水準に影響が生じるものと考えている。
図表 4 を用いて解説する。ここで、〔ケース 1〕は優先ローンの借入のみを行った場合であり、〔ケース 2〕では
更に劣後ローンによる資金調達も行っていた場合とする。このとき、〔ケース 1〕に比べると〔ケース 2〕は借入
人のデット全体のレバレッジ水準が高くなっており、リファイナンス時に必要となる資金調達額も増加している。
当然ながら、リファイナンス金額が大きくなればリファイナンスに失敗する可能性は高まり、結果的に優先ロー
ンのデフォルト発生確率が高まることになる。したがって、例えば、〔ケース 2〕の Aaa 格の必要信用補完水準
は、デフォルト発生率の増加を考慮すると、〔ケース 1〕の Aaa 格の必要信用補完水準よりも増加する。このよ
うに、借入人のデット全体のレバレッジ水準によって各格付のターゲット LTV 水準を設定している。ちなみに、
ムーディーズでは、基準となるターゲット LTV は借入人のデット全体のレバレッジ水準が Baa 格のレベルとな
っていることを前提としている。
図表 4 レバレッジによる必要信用補完水準の変化
Aaa
Aaa
優先ローンの
レバレッジ水準
借入人のデット
全体の
レバレッジ水準
ハイレバレッジによる
優先ローン
必要信用補完水準
優先ローン
の増加
劣後ローン
エクイティー
エクイティー
〔ケース1〕
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〔ケース2〕
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(5)共同担保(クロスコラテラル)、クロスデフォルト
ムーディーズでは、あるローンが複数物件を共同担保 6としている場合、ローンレベルでの分散効果が期待で
きるとしている。これは、複数の不動産が共同担保となっていれば、仮に一つの不動産からの回収金額が減
少したとしても他の不動産からの回収によりカバーされる可能性があり、リスク分散としての効果が期待できる
からである。
ローン契約にクロスデフォルト・クロスコラテラル条項(以下、「クロスデフォルト条項」とする)が盛り込まれてい
る場合、その対象となるローン(以下、「クロス・ローン」とする)のいずれかでデフォルトが発生すれば、全ての
クロス・ローンもデフォルトすることとなり、全担保物件に対する担保権の行使が可能となる。このとき、リカバリ
ー金額の合計値は、複数の担保物件を有する単一ローンの場合と同じである。また、ローンの債務返済が裏
付け不動産からのキャッシュフローでまかなうことができず、かつ担保物件の資産価値の合計金額がローン残
高よりも低い場合には、クロス・ローンであっても複数の担保物件を有する単一ローンであっても、借入人はデ
フォルト状態にあると言える。このように、信用力の観点では、クロスデフォルト条項の対象となる複数のクロ
ス・ローンと複数の不動産を担保とする単独ローンとは概ね同じ役割を果たしている。ムーディーズでは、同
一借入人のクロス・ローンについてこのような点を考慮して評価することが多い。ただし、クロス・ローンの一部
が期限前返済される場合には、リリースプライスの仕組みについて留意して評価を行っている。
(6)物件の分散度
ムーディーズはローンレベルにおける物件の分散効果をプラス要因として捉えており、物件規模の分散や地
理的分散、物件タイプの分散等を総合的に判断し、複数物件を裏付けとするローンの物件分散効果を評価
している。
物件の分散度を考慮するにあたり、ムーディーズでは、物件規模の分散を示す指標「ハーフィンダール指数」
を参考にする。ムーディーズの物件分散を検討する上でのハーフィンダール指数は、各物件のローン全体に
占める評価額割合(ムーディーズの評価額ベース)を自乗した値の合計値の逆数として定義され 7、同じポー
トフォリオにどの程度の等規模物件が存在しているか、その相当数を表す。つまり、本指標の数値が大きいほ
どポートフォリオの分散度は高いと言える。
地理的分散の評価に関しては総合的に判断する必要がある。分散度の観点では、ポートフォリオに地域的な
集中がある場合、地震リスクやサブマーケットの悪化等による損害の影響度が高まることからマイナスの評価と
なる。一方、大都市圏に集中したポートフォリオは不動産サブマーケットの規模が大きいため、資産価値の安
定性と流動性の高さの面でプラス評価することができる。このように、ムーディーズでは、これらの要因を総合
的に勘案した上でローンレベルにおける物件分散効果の評価を行っている。
(7)トリガー・メカニズム
ローンレベルでは、物件パフォーマンスの悪化に備えて、コベナンツにて信用補完の手当てを行うようなトリガ
ーを設けている取引が多い。ローンレベルのトリガーには、DSCR トリガーや不動産鑑定の再評価に基づく
LTV トリガー、物件稼動状況(稼働率)に応じたトリガー等があり、トリガーに抵触した場合は物件からの超過
キャッシュフローを資金留保する仕組みとなっているのが一般的である。ムーディーズは、トリガー・メカニズム
をプラス要因として捉えており、その効果に応じて信用補完水準の分析を行っている。
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「共同担保」とは、同一の債権の担保として複数の不動産(土地、建物等)の上に担保権を設定することであり、個々の
不動産価格がローン金額に満たない場合に、複数の不動産を一括して共同担保の目的とすることによって担保価値を
集積する方法である。
ハーフィンダール指数は、米国司法省が反トラスト法訴訟において企業の集中度を測る尺度として用いられており、一
般には、全体に占める割合の自乗の合計値として算出され、数値の大きい方がより集中していることを示す。ただし、ム
ーディーズでは、物件の分散度(等規模物件の相当数) の測定を目的としているため、逆数にした値を用いている。
格付手法:日本の CMBS に対するムーディーズの格付手法(2010 年 6 月)(改訂版)
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5.ノートレベルの分析 8
前述の物件レベルおよびローンレベルでの分析結果を踏まえ、ノートレベルでは最終的な信用補完水準を
決定する。なお、ノートレベルの分析では、ローン・ポートフォリオの分析やトランチングに加えて、証券化取引
全般に共通するストラクチャー分析やリーガル分析が含まれる一般的総称としてノートレベルと呼んでいるが、
受益権やボンド、シンジケート・ローンの場合も同様である。 9
(1)ポートフォリオ分析
ローン分散
ムーディーズでは、ノートレベルで、ローンの本数が多くなる(つまり、ローンの分散度が高くなる)ほど、シニア
クラスではプラスに働くものの、劣後クラスにはマイナスに作用することがあるものと考えている。これは、ノート
レベルでは裏付けローンがクロスデフォルト・クロスコラテラルの関係にないことに起因する。つまり、ノートレベ
ルにおいて、借入人の異なるローン間では互いに信用補完とならず、逆に、ローン本数の増加に伴いローン
のいずれかがデフォルトする確率は高くなるため、ローン・デフォルトの影響を受けやすい信用補完の薄い劣
後クラスは毀損する確率が高まってしまう(ネガティブ・プーリング効果)。一方、優先クラスにとっては、ローン
本数の増加によりローン・デフォルト一事象あたりの影響度は軽減されるため、結果的にはローンの分散効果
が得られる(ポジティブ・プーリング効果)。
上記の説明を例示すると図表 5 のとおりであり、分散効果は優先クラスほど得られやすく、下位クラスになるに
つれて効果は薄れる。そして、ローンレベルでは分散効果がネガティブに働くことはないが、ノートレベルでは
最劣後クラスに対してマイナスに作用することがある。
図表 5:ローンレベル及びノートレベルにおける分散効果
ポジティブな分散効果
Aaa
Aaa
Aa
Aa
:
A
Ba
:
B
Ba
B
【ローンレベル】
【ノートレベル】
ネガティブな分散効果
8
9
10
SEPTEMBER 2010
一般的総称としてノートレベルと呼んでいるが、受益権やボンド、シンジケート・ローンの場合も同様である。
ノートレベルの分析は、ローンレベル分析の一部を包含している。例えば、ストラクチャー分析やリーガル分析はローン
レベルでも共通する分析内容であり、また、マルチボロワー型 CMBS ではローンレベルにおいてもトランチング分析が
含まれる。
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(2)信用補完水準
これまでの分析結果を踏まえた上で各格付に必要となる最終的な信用補完水準を決定することになるが、ム
ーディーズでは、LTV と SDSCR のターゲット水準に基づき、レバレッジ水準や分散効果等を勘案した上で信
用補完水準の分析を行っている。なお、NCF はムーディーズの安定的ネットキャッシュフローを、裏付け資産
価値はムーディーズの評価額を用いる。
ここで、図表 6 を用いて具体的な信用補完水準の分析方法について解説する。あるシングルアセットが裏付
け不動産である場合において、ムーディーズの安定的ネットキャッシュフローが 830 百万円、資産価値評価
額が 13,000 百万円であったとする。このとき、各トランシェの LTV とムーディーズの LTV を比較すること、及
び各トランシェの SDSCR をムーディーズのターゲット SDSCR(ローン・コンスタント:6.0%)を比較することにより、
信用補完水準を分析する。なお、図表 6 はあくまでもシングルアセットにおける単純な一例にすぎず、実際の
CMBS 案件では様々な要素考慮するため、ターゲット LTV 及び SDSR が当該水準と一致しないことにご注
意いただきたい。
図表 6:信用補完水準分析
Aaa
LTVによる
信用補完水準
の分析
36%
SDSCRによる
チェック
Aa2
格付
SDSCR例
Aaa
2.20
Aa2
2.00
A2
1.80
Baa2
1.50
44%
ムーディーズの
A2
資産評価額
52%
Baa2
61%
劣後
*本図に挙げる数値はあくまでも一例に過ぎず、実際の案件で採用する数値とは異なる。
ムーディーズの NCF
830,000,000
ムーディーズの資産評価額
13,000,000,000
クラス
11
SEPTEMBER 2010
A
B
C
D
トランシェ金額
4,680,000,000
1,040,000,000
1,040,000,000
1,170,000,000
トランシェ金額(累積)
4,680,000,000
5,720,000,000
6,760,000,000
7,930,000,000
LTV 水準
36.0%
44.0%
52.0%
61.0%
SDSCR (ローンコンスタント:6.0%)
x 2.96
x 2.42
x 2.05
x 1.74
格付
Aaa
Aa2
A2
Baa2
ターゲット LTV 水準
36.0%
44.0%
52.0%
61.0%
ターゲット SDSCR 水準
x 2.20
x 2.00
x 1.80
x 1.50
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(3)ストラクチャー分析/リーガル分析
証券化取引の格付分析において、法的側面を考慮したスキームの検証は非常に重要である。ただし、スキー
ム検証は CMBS に限らず証券化商品全般に共通する内容であるため、本章では CMBS 特有のストラクチャ
ー分析を中心に解説する。ちなみに、ムーディーズでは、ストラクチャーを検証するにあたり、主に以下に掲
げる項目に焦点を当てている。
» 倒産隔離
» 優先劣後構造
» ウォーターフォール
» テール期間
» コミングリング・リスク
» サービサー
» 流動性補完
倒産隔離:
証券化取引を組成するにあたり、関係当事者(発行体やオリジネーター、サービサー等)の影響力を極力排
除し、それらの者の倒産もしくはその他法的手続きから裏付け資産およびキャッシュフローを守るようにしなけ
ればならない。このような仕組みを「倒産隔離」といい、CMBS の証券化スキームでは、主に次の 3 項目を手
当てがなされている。
A)原資産保有者(オリジネーター/セラー)からの倒産隔離
オリジネーターまたはセラー(以下、「オリジネーター等」とする)の法的破綻による証券化スキームへの影響を
極小化するために、オリジネーター等から資産保有SPVへの資産譲渡がどのような形で行われたかを検証す
ることが必要不可欠となる。これは、オリジネーター等が倒産した場合において、その管財人から資産保有
SPVへの資産譲渡が否認され、共益債権ではなく更生担保権でしか回収が図れなくなるといったリスクを極力
排除するためである 10。実務上は、売買契約書における当事者の売買意思を確認し、登記による所有権譲
渡についての第三者対抗要件の具備を確認した上で、弁護士からのリーガル・オピニオンを検証することな
どが考えられる。
B)裏付資産保有者(ボロワーSPV および発行体 SPV)における倒産隔離
証券化取引において、裏付け資産を保有するビークル自体の倒産リスクは最小にする必要がある。これは、
仮にビークルが法的破綻手続きに入った場合、保全命令により裏付け資産からのキャッシュフローが一時的
にでも差し止められてしまうリスクがあるためである。そこで、ビークルの倒産防止措置および法的破綻手続き
を回避するための措置を講じなければならない。具体的には、ビークルに関して、①事業目的の単一性、②
目的外の債務負担行為および担保設定行為の禁止、③資産処分・営業譲渡・口座変更の禁止、④資本減
少・合併・組織変更の禁止、⑤定款変更の禁止、⑥持分/株式譲渡の禁止、⑦破産等倒産手続申立の禁止、
⑧独立取締役の維持、⑨従業員雇用の禁止、等の要件を満たすような仕組みが必要となる。
CMBS には 2 種類のビークルが存在し、それぞれ「ボロワーSPV」と「発行体 SPV」と呼ばれている。ボロワー
SPV はローンレベルにおける資産保有を主な目的としたビークルであり、発行体 SPV はノートレベルにおけ
る社債発行を主な目的としたビークルである。両ビークルとも倒産隔離を確保する必要があるが、仕組み上の
倒産隔離要件は異なる。ボロワーSPV に求められる倒産隔離の要件として、①デフォルト事由を裏付け資産
のパフォーマンス悪化等に限定していること、②ローン・デフォルト時には迅速な担保権実行により最大限の
回収を図ることが求められる。一方、発行体 SPV については当該 SPV の倒産がノートのデフォルトに直結す
るため、発行体 SPV の倒産隔離要件には倒産リスクを極力最小化するためのより厳格な要件が求められる。
10
12
SEPTEMBER 2010
過去、マイカルがオリジネーターのセール&リースバック型 CMBS 取引において、資産譲渡の有効性が議論されたこと
がある。詳しくは、ムーディーズのスペシャル・レポート「日本の CMBS におけるセール&リースバック型案件の分析と格
付け上の留意点(2002 年 9 月)」を参照されたい。
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ボロワーSPV としては合同会社もしくは特定目的会社を、発行体 SPV としては、特定目的会社か合同会社も
しくは株式会社もあるが、日本の CMBS 市場では、信託を用いたストラクチャーが一般的である。信託を用い
た場合のストラクチャー図については図表 2 をご覧いただきたい。
C)その他関係者(サービサーやマスターレッシー)からの倒産隔離
サービサーやマスターレッシーの破綻によって、証券化取引へ充当されるべきキャッシュフローがサービサー
やマスターレッシーの他の資産と混同する可能性があるケースがある。これは、いわゆるコミングリング・リスク
であり、当該リスクへの仕組み上の手当てが必要となる。詳細については、後述「コミングリング・リスク」の説明
をご覧いただきたい。
図表 7:倒産隔離(他者の倒産の影響からの隔離を含む)図るべき関係当事者
オリジネーター
または
不動産
ボロワーSPV
セラー
テナント
賃料
ローン
契約
発行体SPV
社債
投資家
サービサー
※ 証券化スキームによりコントロール可能な範囲
倒産隔離(他者の倒産の影響からの隔離を含む) を図るべき関係当事者
テール期間:
ムーディーズによる格付は最終償還期日までに投資家が被りうる期待損失に対して付与されたものであり、一
般的な CMBS のストラクチャーでは、最終償還期日までの金利または予定配当額全額の支払いならびに元
本の全額償還がなされるように組成されている。
ムーディーズが格付を付与した大多数のCMBS取引では、ローン満期日以降、格付対象であるノートの全額
償還までに一定のローンの回収活動が行えるテール期間の規定がなされている。これは、ローン満期日まで
にリファイナンスもしくは物件売却等が実行されずにローンがデフォルトしたとしても、テール期間を設けること
によって残存資産の換価処分が可能となり、ノートのデフォルトを回避するためである。したがって、テール期
間においてはスペシャル・サービサーが裏付けローンの回収を行い、優先劣後構造に基づき、回収した金額
をシニアクラスから優先的に元本償還へ充当されるようなストラクチャーが一般的である。ムーディーズでは、
テール期間における資産の処分方法および売却金額の分配方法について検討するとともに、テール期間の
長さは裏付け資産の種類や権利関係によって異なるため、資産処分のための十分なテール期間が確保され
ているかを確認し、格付上の評価に盛り込んでいる 11。
コミングリング・リスク:
CMBS におけるコミングリング・リスクの考え方は、金銭債権 ABS とは少々異なっている。一般に、コミングリン
グ・リスクとは、サービサー破綻時に裏付債権プールからの回収金がサービサーの財産と混同(コミングリング)
することにより、サービサーから信託や SPV へ回収金が引き渡されずに当該回収金の一部もしくは全額が損
失してしまうリスクを指すが、この定義は ABS を前提としている。
11
13
SEPTEMBER 2010
ムーディーズでは一般的なテール期間を 2 年間として格付分析を行っている。これは、資産処分の事務手続きや適正
価格での売却先を探すのに必要となる期間として、最終償還期日までに複数回の売却プロセスが実施されることを想
定している。
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ABSでは、リース会社・信販会社・カード会社等の事業会社であるオリジネーターが裏付債権のサービシング
業務を行い、オリジネーター兼サービサーとなっているのが一般的である。これは、業務の性質上、オリジネ
ーターは顧客である原債務者と密接な関係を保つ必要があり、またサービシング方針は事業会社の重要な
経営戦略の一部でもあるため、当初からサービシング業務を別途委託することはほとんどなく、証券化された
債権プールについても、オリジネーターが保有し続ける債権と同様の管理がなされているためである。ところ
が、CMBSにおけるサービシング業務は個別ローンの管理・回収業務であり、サービサー業務を第三者の専
業サービサーに委託する場合が多く、信用力の高いサービサーにサービシング業務を委託することができる。
したがって、CMBSでは仕組み上の手当てによってコミングリング・リスクの回避が可能となるが、マスターリー
ス契約 12が存在する場合等にはコミングリング・リスクが内在していないかを考察する必要がある。これは、マ
スターレッシーのデフォルトに起因してエンドテナントから受領した賃料等が一時的に滞留する可能性のほか、
エンドテナントに対する敷金返還債務が不履行になる可能性がある。そこで、マスターリース契約においても、
法的仕組みによりコミングリング・リスクを極小化するように手当てするのが一般的であり、実務上の手当てとし
て、①エンドテナントが賃料をオーナーである不動産信信託受託者や資産保有SPVの口座(以下、「SPV口座」
という)へ直接入金する、②マスターレッシー名義の回収口座に入金された賃料を日次で資産保有SPV口座
へ振り替える、③マスターリース契約が解除された場合にはオーナーとテナントの直接賃貸契約に移行する、
④エンドテナントの賃料債務に対する質権設定および債権譲渡の登記により対抗要件を具備しテナントから
の賃料受取権を保全する、等の措置が取られている。
このように、CMBS ではストラクチャーによりコミングリング・リスクを軽減することが可能であるため、ABS のよう
なコミングリング・リスクに備えた信用補完もしくは準備金を必要としない取引が多い。また、仮にサービサーが
デフォルトした場合、サービシング業務が滞ることによってキャッシュフローが一時的に滞留するという流動性
の面での悪影響はあるものの、コミングリング・ロスは軽微もしくはゼロである場合がほとんどである。
サービサー能力: 13
上記「コミングリング・リスク」の項でも述べたとおり、ABSとは異なり、CMBSではオリジネーターからサービシン
グ業務を分離して別途サービシング業務を委託することが多い。もっとも、サービサーは貸付人もしくは社債
権者のために裏付け資産の管理・回収業務を遂行するという点は同じである。CMBSにおけるサービサーは
その役割に応じて、「マスター・サービサー」と「スペシャル・サービサー」の 2 種類のタイプがある 14。マスタ
ー・サービサーとは、ローンが正常に機能している状況において貸付人に代わってローンの管理・回収およ
びレポーティング業務を遂行するものをいう。スペシャル・サービサーとは、ローン・デフォルト後にマスター・
サービサーから業務を引継ぎ、担保物件の売却活動等を通じてローンの回収を実行するものをいう。
CMBS におけるサービサーの業務遂行能力はローンレベルおよびノートレベルのパフォーマンスに直接的な
影響を与えることになる。したがって、サービサーの業務遂行能力を正確に把握することが極めて重要である
ため、ムーディーズでは、CMBS 取引のマスター兼プライマリー・サービサーおよびスペシャル・サービサーに
対してインタビューを実施し、その業務遂行能力を把握した上でサービサーとしての適性を判断する。そして、
最終的には当該サービサーの評価が信用補完分析に織り込まれることになる。
流動性補完:
大口テナントの退去に伴う大幅な賃料収入の減少(パフォーマンス悪化)やサービサー・デフォルトによる一
時的な回収業務の凍結等により、ノートの利払いや諸費用等の支払いに支障を来す可能性がある。このよう
な利息や費用の支払い資金が一時的に不足した場合に備えて、ノートレベルにおいて現金準備金やサービ
サー・アドバンシング 15による流動性補完の仕組みを設けることが多い。なお、アドバンシング提供者につい
てはその信用力を勘案する必要がある。また、前述のように(4.(7)トリガー・メカニズムを参照)、DSCRを基準
12
マスターリースとは、オーナー(マスターレッサー) が建物を一括して賃借人(マスターレッシー)に賃貸し、マスターレッ
シーが個別テナントに転貸することにより賃貸業務を委託する事業方式のこと。マスターリースは、賃料保証といったマ
スターレッシーの信用力を活用する場合やエンドテナント数が多いために賃料収受等の管理業務をマスターレッシーに
委ねる場合に用いられる。
13
詳しくは、ムーディーズのスペシャル・レポート「日本の CMBS におけるサービサーの役割とムーディーズによる業務遂
行能力分析アプローチ(2003 年 12 月)」を参照されたい。
14
米国や日本の一部 CMBS 取引では、サービサー機能がプライマリー、スペシャルおよびマスターと区分されている場
合がある。その場合は正常ローンの管理・回収業務をプライマリー・サービサーが、デフォルト後のローン管理回収業務
をスペシャル・サービサーが行い、マスター・サービサーはプライマリーおよびスペシャル・サービサーの監督を行う責務
を負う。
15
アドバンシングとは、イベント発生時における金融機関による資金立替枠のことである。
14
SEPTEMBER 2010
格付手法:日本の CMBS に対するムーディーズの格付手法(2010 年 6 月)(改訂版)
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とするトリガーにより資産の超過キャッシュフローを留保するスキームもあり、当該留保金はパフォーマンスの
悪化を緩和する流動性補完として利用することができる。ムーディーズは、かかる手当てについて格付分析
上考慮することになる。
敷金(入居保証金):
敷金は、賃貸期間終了後の原状回復費用や未払賃料債務の相殺に使用することを目的として、契約時に物
件の貸主が借主(テナント)から預かった預り金である。したがって、敷金によってテナント破綻に伴う賃料回
収不能リスクは軽減される一方、賃貸期間終了後にはオーナーはテナントへ敷金を返還しなければならない。
ムーディーズでは、敷金をローンよりも優先される負債と位置づけており、ストラクチャー上、どのエンティティ
がテナントからの敷金返還債務を負うのか、敷金返還請求に対応するための金銭がどのエンティティの口座
に積み立てられているのか、もしくは敷金返還債務に対する追加的な信用補完措置等を考慮の上、対象裏
付けローンの信用補完水準を分析することになる。
金利リスク(ネガティブ・キャリー):
ローンレベルで生じる金利リスクは主に金利上昇に起因するものであり、金利スワップ契約や金利キャップ契
約を締結することによって金利リスクを軽減させるのが一般的である。一方、ノートレベルでは、ローンの期限
前返済に伴って支出が収入を上回る、いわゆるネガティブ・キャリーが発生することがある。また、ローンとノー
トの利払い期間や金利の基準日が異なる場合、もしくは利払日以外でも期限前返済が可能な場合には、利
息の支払い資金が不足する可能性がある。
ノートレベルでの金利リスク対策として、支払利息の原資が枯渇しないように流動性準備金を設定するのが一
般的であるが、期中の金利負担額そのものを軽減させるべく、プロラタ・ペイ方式の償還方法 16を採用する
CMBS取引も見られる。プロラタ・ペイの元本償還方法では、シニアクラスと同時に金利負担の大きい下位クラ
スに対しても元本償還が行われるためにネガティブ・キャリーは発生しにくくなるが、シークエンシャル方式の
償還方法に比べて優先クラスの必要信用補完割合は大きくなる。
関連リサーチ
» CMBS Sale and Lease-Back Transactions in Japan: Moody’s views, September 2002(日本語版「日本の
CMBS におけるセール&リースバック型案件の分析と格付け上の留意点」2002 年 9 月発行)
» Liquidating CMBS Transactions in Japan: Moody’s views, May2003(日本語版「日本の CMBS における売
却型案件の分析と格付け上の留意点」2003 年 5 月発行)
» Transactions of Real Estate Development Projects in Japan, September 2004(日本語版「日本の CMBS にお
ける不動産開発事業に対するファイナンスの分析と格付け上の留意点」2004 年 9 月発行)
» Monitoring CMBS Ratings in Japan, October 2005 (日本語版「日本の CMBS における格付けモニタリング
手法」2005 年 10 月発行)
16
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SEPTEMBER 2010
プロラタ・ペイ方式の償還方法とは、各クラスの金額の割合に基づき、回収した元本金額を各クラスの元本償還に充当
する方法である。なお、シークエンシャル方式では、優先クラスから順に元本償還を行い、優先クラスが完済されるまで
次のクラスへの元本償還が開始されない。
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別添:物件レベル分析の詳細
1.物件レベル分析の目的
物件レベル分析では、裏付け不動産から見込まれる安定的ネットキャッシュフロー及び中長期的な視点から
の資産価値評価額 17の査定が主たる目的である。安定的ネットキャッシュフローから求められるSDSCR及び
資産価値評価額から求められるLTVといった指標は、ローンレベル分析においてローンの信用力判断の基
礎となり、ひいてはノートレベル分析においてCMBSの格付水準の大きな決定要因となることから、物件レベ
ル分析はCMBSの格付プロセスにおいて非常に重要である。また、物件レベル分析では、受領した資料の分
析を通じて、不動産に関連するリスク調査(物理的リスク調査、法的リスク調査、経済的リスク調査)を実施して
おり、ローンの信用力評価やノートレベルの分析に反映させている。
2.物件レベル分析のプロセス
ムーディーズは、通常、物件レベルの分析を図表 8 に示したプロセスで実施している。
図表 8:物件レベル分析のプロセス
キックオフミーティング
安定的ネットキャッシュフロー及び
資産価値評価額(デスクトップバリュ ー)
インフォメーションパッケージの受領
実査や関係者へのインタビュ ー
受領資料の整理
実査や関係者へのインタビュ ー後の修正
受領資料の分析
ムーディーズの最終的な安定的ネット
キャッシュフロー及び資産価値評価額
格付依頼者とのキックオフミーティングにて、ポートフォリオ全体や各物件の特徴・問題点などを理解し、案件
に応じて確認を行う情報を把握したうえで資料を受領する。
一般的なCMBS案件で確認が必要となる物件関連資料は添付資料 1 のとおりである。受領した資料を整理し、
ムーディーズが独自に蓄積している情報とあわせて分析を行った後に、実査や関係者へのインタビュー前に
想定し得る問題点等を把握し、資料の分析に基づいた安定的ネットキャッシュフロー及び資産価値評価額
(デスクトップバリュー)を算出する。なお、ムーディーズでは、原則、全ての物件の安定的ネットキャッシュフロ
ーとキャップレートを査定のうえ、資産価値評価額を求めている。但し、裏付け物件数が多い場合には、各ロ
ーンにおける資産価値シェアが下位の一部物件については、上位物件のムーディーズの資産価値評価額と
鑑定評価額もしくはアンダーライター評価額との乖離率に基づき簡便な資産価値評価方法を用いることもあ
る 18。この場合でも、単純に乖離率を乗じた結果を採用するのではなく、賃貸面積当たりの坪単価や粗利回り
での検証により適宜修正を行うほか、流動性に懸念があると思われる物件については、大きなストレスをかけ
る若しくは資産価値評価額をゼロとする場合もある。
次に資料の分析を踏まえて、実査を行い、裏付け不動産の周辺環境及び管理状態並びにエンジニアリング・
レポートでの指摘事項の確認などを行う。ムーディーズでは、裏付け不動産の資産価値評価において実査は
17
ムーディーズでは、裏付け不動産の資産価値評価にあたり、主に安定的ネットキャッシュフローを安定的キャップレート
で割り戻す直接還元法(収益還元法) を用いているが、裏付け不動産や CMBS 取引の特徴によっては DCF 法やその
他の手法を用いることもある。
18
各ローンにおいて簡便な資産価値評価方法を用いる物件の割合については、ポートフォリオ及びローンレベル並びに
ノートレベルの特徴に応じて判断している。
16
SEPTEMBER 2010
格付手法:日本の CMBS に対するムーディーズの格付手法(2010 年 6 月)(改訂版)
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非常に重要であると考えており、原則、全ての物件の実査を行う。但し、裏付け物件数が多い場合には、資産
価値シェアの上位物件や特殊用途の物件の実査に留めることがあるが、各ローンにおける資産価値シェアの
7~8 割程度はカバーするようにしている。また、裏付け不動産の特性に応じて競合物件の実査も行っており、
例えばGMS 19など商圏分析が重要なアセットの場合には、競合店舗の実査を通じて商圏内の競合状況の把
握も行う。
さらに、可能な限り、関係当事者の立会いやインタビューを依頼し、プロパティマネージャーにテナントとの関
係の状況やリーシングポリシーなどを確認する。
実査や関係者へのインタビューの結果、資料の分析時における想定と異なると判断される部分には修正が行
われ、最終的なムーディーズの安定的ネットキャッシュフロー及び資産価値評価額が決定される。
3.資料を分析する上での留意点
物件レベル分析で確認が必要となる主な資料について、ムーディーズの分析上における留意点を解説する。
(1)不動産鑑定評価書
ムーディーズは、裏付け不動産の評価についての客観的な第三者意見として、不動産鑑定評価書を参考に
しており、全ての物件の鑑定評価書をレビューしている。
十分な内容の不動産鑑定評価書には、詳細な地域分析の結果に基づく、サブマーケットにおける価格時点
のみならず将来の需給動向についての見通しが示されており、ムーディーズの安定的ネットキャッシュフロー
を査定する上での有用な情報となり得る。また、不動産鑑定評価書には、評価額の根拠資料としての競合物
件の成約賃料データや類似物件のキャップレートなどのデータが豊富に含まれていることが望まれる。
なお、不動産鑑定評価額は、価格時点(現在若しくはローン実行時)における対象不動産の資産価値を表示
するものである。それに対して、ムーディーズの資産価値評価額は、中長期的な視点に基づいた安定的に見
込まれる資産価値を指向している点が異なっている。
(2)エンジニアリング・レポート
エンジニアリング・レポートは、一般に、建物状況調査報告書、地震リスク報告書、建物環境リスク報告書、土
壌汚染リスク報告書で構成されるレポートを指す。ムーディーズでは、原則、全ての物件についてエンジニア
リング・レポートの提出を依頼しており、それに基づいて以下の確認作業を行っている。
ムーディーズは、建物の現況調査に基づき報告された建物状況調査報告書によって、建物の構造・設備・内
外装などにおける劣化状況や管理状態に関する問題点、緊急を要する若しくは短期に対応すべき修繕項目、
建物の機能を維持するための長期修繕更新費用、再調達価格、遵法性などを把握する。地震リスク報告書
では、地盤条件や建物の構造評価、PML 20などが報告され、地震リスクの程度を把握する。建物環境リスク報
告書では、アスベスト、PCBをはじめとする有害物質の有無などが報告され、土壌汚染リスク報告書では、対
象地や周辺地の汚染の有無などが報告され、環境リスクの程度を把握する。以下は、エンジニアリング・レポ
ートに関してムーディーズが留意している点である。
19
20
17
SEPTEMBER 2010
General Merchandise Store (総合スーパー) の略。衣・食・住関連商品を中心に各種商品を幅広く扱っている店舗。
Probable maximum loss の略で、地震時の「予想最大損失率」のことをいう。詳細については後述。
格付手法:日本の CMBS に対するムーディーズの格付手法(2010 年 6 月)(改訂版)
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A)作成会社の第三者性、専門性
ムーディーズでは客観的な視点を得るために、エンジニアリング・レポート作成会社の第三者性を重視してお
り、特殊な場合を除き裏付け不動産の請負建設会社や設計会社等、同不動産に従前より深く関与したもの以
外の第三者が作成したレポートの取得を依頼する。また、作成会社はエンジニアリング・レポート作成に必要
な専門性(知識、経験、実績)を備えている必要がある。
B)建物の瑕疵、遵法性違反
建物の物理的な瑕疵や遵法性違反(主として建築基準法、消防法、各自治体の条例違反)については、物
件の流動性や資産価値に大きな影響を及ぼす可能性があるため、慎重に確認する必要がある。特に、遵法
性違反については、注意する必要があると考えている。これらは、原則として CMBS のクロージングまでに、
瑕疵が治癒され、適法状態に是正されていることが求められる。対策が講じられていない場合には、資産価
値評価額から専門的な第三者によって見積もられた適切な対策工事費用相当額を控除するなどのストレスを
かける。但し、対策工事費用相当額がキャッシュリザーブされており、かつローン契約上において期中に対策
工事実施が義務付けられている場合等を除く。安定的キャッシュフローについても、工事実施後の状態を前
提とし、例えば、違法な用途変更を適法な用途に是正することによりキャッシュフローの減少が見込まれる場
合には、減少後のキャッシュフローを想定する。また、工事に伴いテナントの立退きが必要な場合には、資産
価値評価額から立退き料相当額を控除するなどのストレスを与える。
なお、既存不適格建築物については、違反ではないため直ちに是正されるケースは少ないかもしれないが、
建物の経済的残存耐用年数や建替後にキャッシュフローが減少する程度などを考慮して資産価値評価に反
映している。
C)長期修繕更新費用
ムーディーズでは、安定的ネットキャッシュフローの査定に際し、建物の機能を適切に維持するための資本的
支出(Capex)を控除するが、エンジニアリング・レポートにて算出されている長期修繕更新費用の年平均額を
参考にCapexの査定を行っている。修繕更新費用は、各年度でばらつきがでるため、多くの部位の修繕更新
が行われる周期を考慮して 12~15 年の算出期間が必要となると考えている。修繕更新費用は、過去の修繕
更新履歴とともに修繕計画の根拠が明確に示されているものが望ましい。ムーディーズでは、エンジニアリン
グ・レポートにおける長期修繕更新費用の推奨額を専門家の意見として尊重しているが、例えば築年数が浅
い場合 21などでは中長期安定的な資産価値を評価する立場から適宜修正を行うことがある。
D)地震リスク
ムーディーズでは、新耐震基準 22に適合している建物であっても、地震リスク報告書に記載されている裏付け
不動産のPMLに基づき、地震リスクに対する追加的な手当てを必要とするかの検討を行う。PMLの定義は、
建物の一般的な耐用年数を考慮して「50 年間で超過確率 10%の地震(再現期間 475 年)が発生した場合の
90%非超過確率に相当する物的損失額の再調達価格に対する割合」を採用している。裏付け不動産が複数
の場合で、ポートフォリオPMLが算出されている場合は、あわせて検討する 23。PMLが 15~20%を超える場
合、ムーディーズでは地震保険の付保やキャッシュリザーブなどの補完手当てが必要になると判断する。
E)環境リスク
環境リスクとしては、建物に関してはアスベスト、PCB、その他有害物質など、土地に関しては土壌汚染や地
下水汚染が挙げられ、その環境汚染の程度によっては資産価値への甚大な影響が懸念される。これらは、原
則として CMBS のクロージングまでに、適切な対策が実施され、環境リスクがヘッジされていることが求められ、
人体への悪影響が懸念される場合には特に慎重な対応が必要である。
対策が講じられていない場合には、資産価値評価額から専門的な第三者によって見積もられた適切な対策
工事費用相当額を控除するなどのストレスをかける。但し、対策工事費用相当額がキャッシュリザーブされて
おり、かつローン契約上において期中に対策工事実施が義務付けられている場合等を除く。
21
建築当初は、修繕更新費用がほとんどかからず算出期間の年平均額が少なくなることを考慮して、ムーディーズでのベ
ンチマークと比較検討のうえ、エンジニアリング・レポートの推奨額より高い金額を計上するケースが多い。
22
わが国では、建物への地震災害対策として、1981 年に宮城沖地震を契機とした建築基準法の新耐震基準が制定され
ることとなった。この新耐震基準に基づく建物の耐震性は大幅に向上しており、このことは、1995 年の阪神淡路大震災
において、倒壊した大半の建物が 1981 年以前に建築されたものである一方で、新耐震基準に基づく建物の損害は軽
微であったことからも立証されている。
23
期中に物件売却が可能なストラクチャーの場合、PML の低い物件から売却されるとポートフォリオ PML の数値が悪化
する可能性があるので、ポートフォリオ PML が一定水準を超えるような売却は認めないといった手当てが必要である。
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(3)マーケットレポート
商業施設やホテルなど売上分析が必要な物件が裏付け不動産である場合には、賃料負担力や競合状況な
どをチェックする上で、専門的な第三者によるマーケットレポートは資産価値評価において有用であると考え
ている。
マーケットレポートの提出は格付の必須条件ではないが、例えば、裏付け不動産の売上情報の開示がないケ
ースにおいて、第三者意見の収集は賃料の妥当性のサポート材料となり、情報が限定的であることに伴うスト
レスの緩和材料となろう。
(4)レントロール
レントロールは賃貸借の状況を記載した一覧表であるが、ムーディーズの安定的賃料及び空室率の設定に
際し、極めて重要な資料のひとつである。ムーディーズでは、全ての不動産について直近のレントロールの提
示を依頼し、入念に確認・分析作業を行っている。レントロールには簡易監査が行われることが望ましい。
ムーディーズでは、レントロール作成時点での平均賃料のみならず、過去の履歴や個別テナントの賃料単価
とテナント間での乖離の程度に注目し、入居時期や成約面積との関連についても分析する。契約条件(定期
借家契約やフリーレントの有無など)やテナントの属性などが賃料水準に影響を与えている場合もあるので留
意している。
また、ごく直近に入居したテナントの賃料は、マーケット賃料水準を把握し、安定的賃料を導く上での重要な
指標であると考えているが、契約に特殊な事情が存在する場合もあるので、それが競合ビルの賃料水準と比
べて高い場合などには慎重に判断をしている。
入居時期については、十分考慮される必要があり、需給がタイトな環境下に割高な賃料で入居しているテナ
ントの賃料はマーケット賃料水準まで割引いて考える必要がある。逆に需給がソフトな環境下で割安な賃料
で入居したテナントの賃料は裏付け不動産の実力を示しているとは考えず、既存契約更改やテナントの回転
により徐々にマーケット賃料水準に収斂していくことを想定する場合がある。しかし、マーケット賃料水準と現
在の賃料との乖離が大きい場合には、安定的賃料を求める上で注意が必要と考えている。一度の増額改定
幅には限度があることやローン期間中の契約更改回数をも考慮のうえ、賃料の上昇を保守的に想定している
ため、必ずしもマーケット賃料水準に到達すると考える訳ではない。また、新築の賃貸住宅の場合は、入居者
の入れ替わりにより、新築時の賃料水準を維持できないケースを考慮し、保守的な想定をおくことが多い。
レントロールにおける直近の稼動状況は、空室率を検討する上での有用な情報となるが、マーケット水準や
過去の稼動状況についてもあわせて考慮のうえ、安定的と考えられる空室率を設定する。
なお、賃料水準と稼働率はトレードオフの関係にあるので、レントロールを分析する際は、両者の関連性にも
注意している。
(5)過去収支
過去収支は、裏付け不動産の安定的ネットキャッシュフローを査定する上で、有用な資料となるため、3 年程
度の過去収支の提示を依頼している。過去収支には簡易監査が行われることが望ましい。過去収支によって、
賃料水準や稼動率の推移が把握でき、特に費用の負担実績の把握は今後の費用予測を行う上で重要であ
る。しかし、新築若しくは築浅物件の場合や、スポンサーが購入する前の過去収支が不明な場合などは、十
分な過去収支データが得られないため、費用項目については現在の契約額や第三者の見積もり額などを参
考に、類似物件での実績やムーディーズのベンチマークと比較検討してマーケット水準での想定を行う。
(6)損害保険の付保内容
火災や自然災害等によって建物・機械設備が毀損したり、テナントからの賃料収入が減少した場合、又は施
設所有者として賠償責任を負った場合において、ローンの元利払いに支障が生じる可能性がある。そのため、
ムーディーズでは様々なリスクに対応する補償内容を備えた損害保険を全ての裏付け不動産に付保し維持
することを依頼している。実務的には、火災保険、利益保険、施設賠償責任保険が用いられている 24。求めら
れる付保内容は、裏付け不動産やポートフォリオの特徴などに応じて個別に判断することになるが、オフィス
ビルにおける一般的な付保内容は添付資料 2 のとおりである。保険会社は、Aaaを付与する案件の場合、シ
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地震保険については、前記 3.(2)D) 「地震リスク」を参照されたい。
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ングルボロワー案件でA2 以上、マルチボロワー案件でA3 以上の保険財務格付を取得していることが求めら
れる。
4.不動産の権利関係に応じた留意点
CMBS の裏付け不動産は完全所有権のものが多いが、区分所有物件、共有物件、借地物件(定期借地を含
む)といった完全所有権以外の裏付け不動産も含まれることがあり、それぞれの法的な側面も踏まえて分析を
行なう必要がある。また、土地の境界が未確定な場合や越境物が存在する場合の留意点は以下の通りであ
る。
(1)区分所有物件
裏付け不動産が区分所有物件の場合は、自己の専有部分以外の共用部分の管理運営等について、区分所
有法 25及び区分所有者間で定められた管理規約に拘束されるため、完全所有権の場合に比べ建物全体の
維持管理や修繕について柔軟性に劣る懸念がある。共用部分の管理運営等については、集会にて意思決
定されるが、決議事項の内容によってその決議方法は異なり、区分所有法で定めるほか規約で別段の定め
をすることができる事項もあるので、規約の内容の確認は重要である。裏付けとなる区分所有物件の議決権
割合(専有部分の床面積割合)や区分所有者の総人数によって、建物全体の維持管理や修繕に対する影響
力は異なってくるので、規約の内容とあわせて、借入人がどの程度のイニシアティブを有しているのかについ
て個別に検討し、資産価値への影響について判断している。また、他の区分所有者の属性、信用力などによ
っても、十分な維持管理や修繕が実施される蓋然性は異なってくるため、これらの事項もあわせて考慮してい
る。
共同ビルなど事業用建物の区分所有物件の場合には、規約に他の区分所有者への優先譲渡の規定、テナ
ントへの賃貸借条件についての合意に関する規定、管理費負担に関する事項などが含まれていることがある
ほか、敷地が分有地であるなど権利関係が複雑になっている場合があり留意が必要である。
(2)共有物件
共有物件の場合、共有物の管理は、民法上において共有者の持分の過半数で決定するものとされている。
また、共有者間で共有規約を締結している場合には当該共有規約に決議事項とその決議方法が個別に規
定されており、裏付け不動産の持分割合によっては、建物全体の管理運営、テナントの選定や契約条件の決
定等について意思が十分に反映されないリスクがある。また、共有規約には、通常、費用負担方法や譲渡に
関する手続き事項、譲渡制限などが規定されており、資産価値に影響を与えることから詳細に確認を行って
いる。また、区分所有物件と同様に、他の共有者の属性、信用力などによっても、十分な維持管理や修繕が
実施される蓋然性は異なってくるため、これらの事項もあわせて考慮している。
譲渡に際して、他の共有者の同意が必要であったり、他の共有者が優先交渉権を有している場合があるため、
同意や交渉について明確に期間の制限がなされているかなど、テール期間での物件売却処分を確実に行う
ことができるかどうか検討が必要である。
また、共有不動産を賃貸に供する場合、賃貸人の賃料債権は不可分債権となり、敷金返還債務は不可分債
務になると一般的には解されている。よって、他の共有者が破綻した場合に、他の共有者の債権者により賃
料債権全部が差し押えられたり、賃借人からの敷金返還債務を他の共有者がその持分等に応じて履行しな
い場合に、借入人が他の共有者の返還債務を負わされる可能性がある。したがって、差し押え時のローンの
利払い確保のための手当てや、他の共有者の持分の敷金も積み立てておくなどの手当てが必要である。さら
に、民法上、各共有者は何時でも分割請求をすることができるため、共有者間にて不分割特約を締結し、特
定承継人への対抗上登記をすることが望まれる。
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建物の区分所有等に関する法律(昭和 37 年法律第 69 号、その後の改正を含む)。
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(3)借地物件
借地権の権利内容には、賃借権及び地上権があるが、一般には賃借権により借地権が設定されているケー
スが多い。物権である地上権の場合は譲渡時に土地所有者の承諾は不要であるが、債権である賃借権の場
合は譲渡時に土地所有者の承諾が必要となる。
賃借権の場合において、譲渡時に譲渡承諾料の支払いが必要となるケースでは、資産価値評価額から譲渡
承諾料相当額を控除する必要がある。また、土地所有者が賃借権の譲渡について、土地所有者が不利にな
る恐れがないにもかかわらず承諾に応じない場合には、裁判所から承諾に代わる許可を得ることができるが、
テール期間での売却を確実にするため土地所有者からあらかじめ承諾を得ておくといった手当てが望まれる。
また、期中に更新時期をむかえる場合で、更新料の支払いが必要な場合は、借地契約が解除とならないよう
に、更新料相当額を積み立てておくことが必要となる。
さらに、借地権の場合は、地代利回りや公租公課倍率などを勘案し将来の地代増額リスクを検討するほか、
地代の支払いによって完全所有権の物件より経費率が高い水準になり、キャッシュフローのボラティリティが
高まることなどを考慮して資産価値評価額を判断している。
(4)定期借地物件
定期借地権は、平成 4 年 8 月 1 日に施行された借地借家法で新たに制度化され、契約期限の満了時に契
約の更新がない借地権である。借地借家法では、契約期間が 50 年以上の(一般)定期借地権、同 10 年以
上 20 年以下の事業用借地権、そして同 30 年以上で期間満了後に土地上の建物を土地所有者に相当な対
価で譲渡する建物譲渡特約付借地権の 3 種類が規定されている。
定期借地物件は、契約期間の満了時には裏付け不動産がなくなるため、借地契約満了時までにローンが分
割弁済されることが確実なファイナンスであること、若しくはローン満期時においてバルーンリスクを伴うファイ
ナンスを検討する場合には、十分な借地残存期間が確保されていることが必要となる。また、定期借地物件
の資産価値評価においては、ローン満期時からの残存借地期間を前提とした DCF 法を用いている。
(5)土地の境界や越境物
原則、土地の境界は全て確定していることが求められる。しかし、わが国では境界が確定していないことが珍
しくなく、隣地の所有者や占有者との関係如何によってはクロージングまでに境界を確定するのが困難なケ
ースも見受けられる。裏付け不動産の境界が確定されていない場合には、確定していない理由やこれまでの
経緯、現在の状況及び今後の見通しなどを確認し、面積が減少した場合の経済的損失、損害賠償責任の負
担、紛争の発生の可能性等を検討し、流動性や資産価値への影響について個別に判断している。
越境物についても、同様に原則として越境状態がクロージング前に解消されていることが求められる。しかし、
すぐに越境状態を解消することが難しいケースも多い。この場合には、越境物の存在により、不動産の利用が
制限され賃料に悪影響を与える可能性や、越境物の除去等のための追加費用が資産価値に与える影響に
ついて考慮している。
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添付資料 1:一般的な CMBS 案件で確認が必要となる物件関連資料
» 裏付け不動産のリスト(物件名、所在、構造・用途、権利関係など土地・建物に関する基本的事項)
» 所在位置図、住宅地図
» 不動産鑑定評価書
» アンダーライター評価(アレンジャー評価)
» 建物状況調査報告書
» 地震リスク報告書
» 建物環境リスク報告書
» 土壌汚染リスク報告書
» マーケットレポート
» レントロール
» 過去収支
» 損害保険の付保内容
» 周辺や競合物件の賃料及び取引価格情報
» スポンサーのキャッシュフロープロジェクション
» 賃貸借契約書
» 区分所有物件の管理規約、共有規約、借地契約
» 運営委託契約(ホテル等の場合)
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添付資料 2:オフィスビルにおける一般的な付保内容
» 火災保険
補償内容: 火災や自然災害等により生じた建物への損害及び偶発的な事故により生じた機械設備への
損害等を補償
保険金額: 新価保険特約に基づく再調達価額
» 利益保険
補償内容: 火災や自然災害等により生じた建物への損害等によってテナントからの賃料収入が減少した
場合の利益損失を補償
保険金額: 貸室月額賃料の 12 ヵ月分
» 施設賠償責任保険
補償内容: 建物の施設・機械設備、エレベーター・エスカレーターの欠陥や管理上のミス等により他人の
身体又は財物に損害を与え、法律上の賠償義務を負った場合等の損害を補償
保険金額: 対人 1 名につき 1 億円(1 事故につき 5 億円)、対物 1 事故につき 1 億円
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る意味における)「リテール顧客」に配布しないことを表明したことになります。
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するのは危険です。もし、疑問がある場合には、フィナンシャル・アドバイザーその他の専門家に相談することを推奨します。
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