1P 1P 「外資=ハゲタカ」の思い込み 2005・6・14 437号 新生銀行にみる組織の活性化の知恵 財部誠一今週のひとりごと 今週のウィークリーレポートは「組織に新しい血を取り込も う」というお話ですが、じつはこれは私自身の問題でもあります。 仕事柄、無数の人たちと名刺交換をする機会はあります。しかし、 それはきわめて表面的なたんなる出会いでしかなく、違う立場、 違う職種の人たちの考え方や価値観にまで触れ、新しい刺激を自 分の中にとりこむ機会は思いのほか少ないものです。そこでこの 3月に移転した新しいオフィスでは、新しい血とのまじわりのた めのスペースを用意しました。気軽な食事会を通じて、ふだんで きない会話を実現する場としていま利用しています。肩書きも年 齢も関係なしに、フランクに新しい血と交わる!いいものですよ。 (財部 誠一) ※HARVEYROADWEEKLYは転載・転送はご遠慮いただいております。 先週のサンデープロジェクトでは、旧長銀(新生 銀行)を買収したリップルウッドを特集しました。 「外資系(ファンド)=ハゲタカ(ファンド)」と いう国家的な思い込みが、いかに事実と違うかを検 証した特集でした。もちろん外資のなかには、左前 になった日本企業を買い叩き、不採算部門を切り売 りして、無駄な人員をカットして黒字を確保できる ようになったら、さっさと売り払ってしまう、いわ ゆる「ハゲタカ」がいることも事実ですが、外資系 のファンドとみたら、すべてがハゲタカだと思いこ んでしまうのも大間違いです。外資にも松竹梅があ る、これが現実の姿なのです。 ところが日本では、リップルウッドを中心とした 投資ファンドが「新生銀行の上場で約2300億円 の売却益を手中にした」「買収費用は出資金を含め て1210億円で、今回だけで差し引き1000億 円以上を稼いだ勘定だ」ということから、リップル ウッドこそまさにハゲタカだという、情緒的で、一 方的な思い込みが広がりました。 たしかに旧長銀の買収は濡れ手に粟の大もうけ案 件となりました。新生銀行が上場を果たした時にも、 8兆円の公的資金を投入した新生銀行(旧長銀)を 外資に安値で売り飛ばしてしまった財務省はけしか らんといった批判が国会でも繰り広げられました。 たしかに日本人から見れば、目の前で鳶に油揚げを さらわれたような、納得のいかない話であることは 間違いありません。その不満がリップルウッド批判 へと転じるのも、さもありなんといったところです。 しかし当時の事情を知る人間からすると、どこか らどうみても、批判されるべきは旧長銀を買ったリ ップウッドではなく、当時の大蔵省銀行局の無責任 さに尽きます。旧長銀を国有化した大蔵省は、長銀 の中身が不良債権だらけのひどいものであることを 熟知していました。98年のことですから、地価は まだまだ下落の途上にあり、国有化してしまった旧 長銀の資産内容は時間がたてばたつほど劣化してい くことは明らかで、その当時、大蔵省内では一刻も 早く手放してしまいたいという空気にあふれていた のです。 ところがいざ、売り出してみたら、日本国内には誰 一人として買おうという人間が現れませんでした。 ◆ 長期信用銀行のあゆみ 昭和27年 ・長期信用銀行法に基づき 株式会社に本長期信用銀行を設立 (資本金15億円) 昭和28年 ・外国為替業務認可 昭和45年 ・東証、大証に上場 昭和56年 ・リッチョーワイド発売 平成3年 ・長期信託銀行株式会社を設立 平成10年 ・金融再生法に基づき 特別公的管理の開始 ・東証、大証の上場廃止 国有化へ 平成11年 ・ニュー・エルティーシービー・ パートナーズ社 (主体リップルウッド)が 普通株式の一括譲渡に係る 最優先交渉先に決定 平成12年 ・特別公的管理を終了し、 リップルウッドが経営権を取得 行名を「株式会社新生銀行」へ ◆ 新生銀行の歩み 平成13年 ・マネックス証券㈱と業務提携 ・新生証券㈱開業 ・新しいリテールバンキングスタート ・インターネットバンキング開始 ・ATM24時間365日稼動開始 1P 2P 要するにリップウッドいがいに、本気で旧長 銀を買い取り、再生させられる対象がいなか ったというのが実情なのです。しかもリップ ルウッドには、大蔵省が頭が上がらない米国 のFRB(中央銀行)のボルカー前議長が顧 問としてついていたのでした。 どこの馬の骨ともわからない米国の投資フ ァンドだが、長銀マターを仕切っているのは フラワーというウォール街随一の投資銀行マ ンであり、そのバックにはボルカー前議長ま でついているのだから、いいではないかとい うことになったのです。 その後、大問題となった瑕疵担保条項(新 たな不良債権が発覚した時には、日本政府が その不良債権を買い取るという約束)があま りにもリップルウッド側に有利すぎるという 批判もありましたが、これは明らかに大蔵省 の問題先送りいがいのなにものでもないので す。旧長銀売却時に、不良債権の全額を開示 すれば、「旧長銀はそんなにひどかったの か」ならば「興銀だって倒産状態ではないの か」とか「他の都市銀行も危ないのではない か」といった金融危機が拡散する恐れがあっ たのです。だから大蔵省はリップルウッドに 対して、不良債権が表面化したときには買い 取ってやるから、ここは黙って買ってくれと いう裏取引をもちかけたのです。つまり悪い のはリップルウッドではなく、大蔵省なので す。しかもその当時、誰一人として日本人は 買おうとしなかったのです。それを思うと、 単純なリップルウッド批判がどれほど空しい ものであるかがわかります。 じつはその当事、それではあまりにも情け なかろうということになり、長銀とほぼ同時 に国有化された日本債券信用銀行(日債銀) については、日本連合で買い取ろうという動 きが起こりました。言い出しっぺはソフトバ ンクの孫正義氏でした。日本企業が資本をだ しあってファンドを形成し日債銀を買い取ろ うというわけです。日本財界のサムライ魂と いった雰囲気が沸き起こったわけです。そし てこの呼びかけに、東京海上(現在の東京海 上日動)やオリックスなど、日本を代表する ビッグカンパニーが参加を表明。日債銀は見 事、日本連合によって買収され「あおぞら銀 行」として再スタートを切りました(但し、 筆頭株主であったソフトバンクは、03年9 月5日に保有する同行の全株式をアメリカの 投資ファンド・サーベラスに売却)。 「ハゲタカファンド」に買収された新生銀行 と、日本企業連合に買収されたあおぞら銀行。 どちらが劇的な成功をおさめたか。まったく 勝負になりませんでした。あおぞら銀行はも はや話題にすらならない、まったく存在感の ない銀行に成り果ててしまったのにたいして、 新生銀行は日本にはまったく存在しない新し いビジネスモデルを作り上げて大成功しまし た。その差はどこにあったのか。経営者に尽 きます。 新しい血 エッソ、シティバンクと米国企業のトップ として素晴らしい実績を残してきた八城政基 氏を社長にすえたところに、リップルウッド の勝因があったことは間違いありません。な ぜなら新生銀行はその名の通り「新生」しま した。ミニ官庁と呼ばれた旧長銀時代の保守 的でのんびりした行風を一新、すべての業務、 すべてのサービスを顧客目線で行うアグレッ シブな銀行へと企業のカルチャーそのものを 変えてしまったところに八城氏の偉大さがあ ります。銀行の名前を変え、看板を取り替え、 多少の人員整理を行っても、会社は何も変わ りません。人の性格が容易に変わらないのと 一緒です。会社のカルチャーというものもそ う簡単に変えられるものではないのです。 ではどうしたら組織のカルチャーを変える ことが出来るのでしょうか。新生銀行の場合 は明らかです。新しい血を大量に取りこんだ ことでしょう。資本がリップルウッドを中心 とした外資だったからというわけではなく、 社長の八城さんがエッソ、シティバンクと米 国系企業を勤めてあげてきたことから、彼自 身が外国人を特別視する意識をまったくもっ ていなかったことが一番大きな理由だと思わ れます。サンデープロジェクトでもお伝えし たとおり、新しい銀行のシステム構築を新生 銀行は日本人でも米国人でもなく、インド人 を中心としたチームに依頼しました。もちろ ん彼らを統括したのは日本人の旧長銀時代か らシステムに関わってきた長銀子会社のエン 平成14年 ジニアでしたが、英語もけして得意ではなか ・京浜急行鉄道㈱とATM提携 ったし、意思疎通にはとんでもない苦労をし ながらの作業となりました。しかし、出来上 平成15年 がったシステムはメガバンクのシステムと比 ・デイリーヤマザキ店舗内で べると、コストはわずか10分の1。しかも ATMサービス開始 大型コンピューターを使わずに、パソコンを 中心にシステム構築を行ったために、省スペ 平成16年 ース化にも成功。銀行のバックヤードはコン パクトにし、広がったスペースは顧客のため ・東京丸の内などに のスペースとして、スターバックスなどのカ 「住宅ローンセンター」開設 フェをテナントとして入れるなど、従来の銀 ・東京証券取引所市場第一部に上場 行では考えられないレイアウトまで実現させ ・普通銀行に転換 ・国立医療施設内におけるATM ました。 しかし私が見ていて痛感したのは「新しい サービス開始 血」の中身です。それはけして「外国人」を ・楽天証券㈱との業務提携で さしているわけではありません。たしかに長 基本合意、証券仲介業務へ参入 銀を去った日本人行員の代わって、大量の外 ・新型有人軽量店舗「新生BankSpot 国人行員が新生銀行に入行しましたが、銀行 (バンクスポット)」第一号店を とは無縁の他業種から多くの日本人スタッフ 銀座に開設 が新生銀行に入ってきたのです。元証券マン が多いのはわかりますが、とても印象的だっ たのはマーケティング部門です。部長は女性 (新生銀行ホームページ参照) であるうえに、しかもそのキャリアはアパレ ル業界のマーケティング一筋に歩いてきた方 でした。10人前後のスタッフの大半も女性 で、金融関係者は一人もいません。彼らが新 しい金融商品のパンフレットを作成したり、 販売手法を企画立案するものですから、従来 編集・発行 の銀行とはまったく異なる売り出し方になる ハーベイロード・ジャパン のは当然といえば当然です。そして、こうし た具体的な作業が、個々別々の職場で繰り広 〒105-0001 げられていくことで、銀行全体のカルチャー 港区虎ノ門5-11-1 がまるで違うものに変わっていったのです。 森タワーRoP805 同じ事をみなさんにすぐにおやりください、 とは申しませんが、少なくとも、みなさんご Tel. 03─5472─2088 自身が異質なカルチャーの人々と交流するく Fax. 03─5772─7225 らいの、日常的な努力は必要です。それが新 しい血となり、組織を活性化させる原動力に 無断転載はお断りいたします なるからです。 ( 財部 誠一 )
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