第6節 株式交換・株式移転

第4章 組織再編
第6節 株式交換・株式移転
平成 11 年改正により、完全親子会社関係を作り出す方法として、株式交換・株式移転
の制度が創設された。ここでは、株式交換・株式移転の意義・種類、手続、効果について
勉強しよう。
1.株式交換・株式移転の意義
(1) 意義
ア 株式交換・株式移転とは、ある株式会社が他の株式会社または合同会社の 100 パーセ
ント子会社(完全子会社)となる取引 をいう。
イ 株式交換・株式移転によって株主が移動するだけであり、消滅する会社もないし、会
社財産も変わらない。したがって、合併や会社分割と異なり、原則として会社債権者保
護は要求されないことが特徴である。
(2) 趣旨
株式交換・株式移転は、企業再編により、完全親子会社の創設・設立を可能とするもの
である。完全親子会社とは、ある株式会社(または合同会社)が他の株式会社の発行済株
式(持分)すべてを保有する関係(100 パーセント親子関係)である。
解説
ア
改正の経緯
平成 11 年改正
平成 9 年独占禁止法の改正により、事業支配力が過度に集中する場合以外は持ち
株会社の設立が容認されることになった。持ち株会社とは、自らは事業を営まず、も
っぱら傘下となる複数の会社の株式を所有して企業グループの中核となる会社であ
る。しかし、ある会社を完全子会社とするためには、子会社となる会社の株式をすべ
て買収側(親会社となる会社)へ移転させる必要があり、従来、子会社となる会社の
株主が同意しなければ完全子会社化は不可能であった。そこで、平成 11 年改正によ
り、完全子会社化を可能にするため株式移転・株式交換が制度化された。
イ
平成 17 年改正(会社法)
株式移転・株式交換は、強制的に完全子会社となる会社の株式のすべてが完全親会
社となる会社に移転し、完全子会社となる会社の株主には完全親会社となる会社の
株式が割り当てられる制度であった。会社法は、対価の柔軟化を図り、完全子会社と
なる会社の株主には親会社株式以外の対価を与えることを可能とした(768 条 1 項 2
号)
。また、合同会社も完全親会社になることを認めた(767 条)。さらに、債務超過
会社を完全子会社とする株式交換が認められるとされた。
(理由)
①
会社法施行規則 184 条 7 号、193 条 5 号、206 条 5 号。
②
株式交換の趣旨に合致する。
③
株主・会社債権者保護が図られている(783 条、785 条、795 条、797 条)。
(3) 種類
①株式交換
②株式移転
解説
株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社または合同
会社に取得させることをいう(2 条 31 号)。
1 または 2 以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに
設立する株式会社に取得させることをいう(2 条 32 号)。
株式交換
株式交換は、既存の株式会社(完全子会社となる株式会社)が、その株式をすべて他の
会社(完全親会社となる会社)に移転し、完全親子会社関係とするものであり、完全子会
社となる会社の株主には完全親会社となる会社から完全親会社の株式その他の対価が表
付される。株式交換の法的性質については、完全親子会社関係を創設する組織法上の行為
と解される。
解説
株式移転
株式移転は、既存の株式会社(完全子会社となる株式会社)が、完全親会社を設立して
その完全子会社となる手続である。株式交換が既存の複数の会社間において完全親子会
社関係を創設するものであるのに対し、株式移転は会社が単独でまたは共同して、その完
全親会社を設立するというものである。株式移転の法的性質についても、株式交換と同様、
完全親子会社関係を創設する組織法上の行為であると解する。
2.株式交換・株式移転の手続
(1) 株式交換契約の締結または株式移転計画の作成
ア 株式会社は株式交換をすることができる。
まず、この株式会社(完全子会社となる会社)は、完全親会社となる会社(株式会社・
合同会社)との間で株式交換契約を締結しなければならない(767 条、768 条、770 条)。
イ 1 または 2 以上の株式会社は株式移転をすることができる。
まず、株式移転計画を、単独または共同して作成しなければならない(772 条、773
条)。
(2) 事前の開示
完全子会社・完全親会社は、一定期間、株式交換契約・株式移転計画を本店に備え置か
なくてはならない。株主および会社債権者は、営業時間内はいつでも、これらの書類の閲
覧・謄抄本の交付請求ができる(782 条、794 条、803 条)。
(3) 株主総会の特別決議
株式交換契約書または株式移転計画書の承認は、株主総会の特別決議によらなければな
らない(783 条、784 条、795 条、796 条、804 条、805 条、309 条 2 項 12 号)。もっとも、
①略式手続(784 条、796 条)、②簡易手続(784 条 3 項、796 条 3 項、805 条)であれば株
主総会決議は不要である。また、反対株主の株式買取請求権(785 条、786 条、797 条、806
条、807 条)、新株予約権買取請求権(787 条、788 条、808 条、809 条)がある。
(4) 債権者保護手続
合併や会社分割と異なり、原則として債権者保護手続はない(例外—789 条 1 項 3 号、
799 条 1 項 3 号、810 条 1 項 3 号)。
(5) 効力の発生
株式交換は、交換契約で定めた効力発生日に効力を生じる(769 条 1 項)。株式移転は、
設立会社の成立の日に効力を生じる(774 条 1 項)
。
(6) 登記
株式移転は登記をしなければならない(925 条)
。
(7) 事後の開示
効力発生日後遅滞なく、一定事項を記載した書面を作成し、本店に備え置き、株主・会
社債権者はいつでも書面の閲覧、謄抄本の交付請求ができる(791 条、801 条、811 条、815
条)
。
① 株主総会の特別決議
既存の株主の保護
② 株式買取請求権
③ 株式交換・株式移転無効の訴え
会社債権者の保護
会社財産も資本も減らないから、原則として保護制度なし。
3.株式交換・株式移転の効果
(1) 株式交換
完全親会社は、効力発生日に、完全子会社の発行済株式の全部を取得する(769 条 1 項、
771 条 1 項)
。そして、完全子会社の株主は、対価として与えられるものの種類に従い、完
全親会社の株主となり、社債権者となり、新株予約権者となり、あるいは現金の受領者と
なる(769 条 3 項、771 条 3 項・4 項)
。
(2) 株式移転
設立完全親会社は、その成立の日に、株式移転完全子会社の発行済株式の全部を取得す
る(774 条 1 項)
。そして、完全子会社の株主は完全親会社の株主となり、対価として与え
られるものの種類に従い、社債権者等となる(774 条 2 項・3 項)
。
4.株式交換・株式移転無効の訴え
(1) 株式交換の無効
株式交換の無効は、株式交換の効力が生じた日から 6 カ月以内に、株主、取締役、監査
役、執行役、清算人、破産管財人、株式交換を承認しなかった会社債権者が、株式交換無
効の訴えを提起することによってのみ主張できる(828 条 1 項 11 号、828 条 2 項 11 号)
。
株式交換無効判決は第三者に対しても効力を有する(838 条)。遡及効はない(839 条)。
(2) 株式移転の無効
株式移転の無効は、株式移転の日から 6 カ月以内に、株主、取締役、監査役、執行役、
清算人、破産管財人、株式移転を承認しなかった会社債権者が、株式移転無効の訴えを提
起することによってのみ主張できる(828 条 1 項 12 号、828 条 2 項 12 号)。株式移転無効
判決の効力は第三者にも及ぶ(838 条)。株式移転無効判決には遡及効がなく、完全親会社
となった会社は解散に準じて清算される(839 条、475 条 3 号)
。
<改正法>
【旧株主による責任追及の訴え】
1.
改正の経緯
改正前会社法では、株主代表訴訟の継続中に株式交換、株式移転、三角合併が行わ
れ、原告たる株主が当該会社の完全親会社の株主となった場合には、原告適格を有する
とされていたが、訴え提起前に株式交換等が行われた場合には、原告適格を失うとされ
ていたため、株主の保護が不十分であった。
改正会社法では、当該株主を保護するため、株式交換等の効力発生日の時点で、完全
子会社に提訴請求をすることができる地位にあった株主には、株式交換等により株主と
しての地位を失うものの、当該株主に保有要件を満たすことを条件として、責任追及の
訴えの原告適格が認められた。
2.
内容
(1)旧株主
株主交換等の効力が生じた日の6箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっ
ては、その期間)前から当該日まで引き続き株式会社の株主であった者をいう(847条
の2第1項)。非公開会社では、6箇月の制限はない(847条の2第2項)。ただし、189条2
項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主であった者を除
かれる。
(2)責任追及等の訴えの対象
株式交換等の効力が生じた時までにその原因となった事実が生じた責任又は義務に係
るものに限られる。
(3)訴え提起の請求
株式交換等完全子会社の株主でなくなった場合であっても、責任追及等の訴えの提起
を請求することができる(847条の2第1項)。また、旧株主は株式交換等完全親会社が
株式交換等を行うことにより、当該完全親会社の株主の地位を失ったとしても、当該完
全親会社の完全親会社の株式を引き続き有する場合は、株式交換等完全子会社に対し、
責任追及等の訴えを提起することができる(847条の2第3項)。不正な利益を図る目的
や不当な加害目的がある場合は、訴え提起の請求ができない(847条の2第1項)。
(4)訴え提起
通常の株主代表訴訟と同様に、訴え提起の請求から60日以内に訴えが提起されない場
合(847条の2第6項)、または回復することができない損害が生じるおそれがある場合
(847条の2第8項)、株主は直接訴え提起することができる。不正な利益を図る目的や
不当な加害目的がある場合は、訴え提起ができない(847条の2第1項)。
‹研究> 親子会社
(1) 親会社・子会社の定義
ア 親会社とは、株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配してい
る法人として法務省令で定めるもの(2 条 4 号)
。
イ 子会社とは、会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社
がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう(2 条 3 号)
。
解説
改正の経緯
従来、議決権による支配基準をとり、親会社は「発行済株式総数の過半数」を有する会
社と定義された。平成 13 年改正は、親会社を「総株主の議決権の過半数」を有する会社
に改めた。さらに、平成 17 年改正(会社法)は、親会社および子会社の定義規定を置き
(2 条 3 号 4 号)
、議決権による支配基準および実質支配基準の両者がとられることとな
った。
(2) 親子会社の問題点
ア 今日、親子会社が増大し、または企業間の株式相互保有が増加する理由は、企業が他
の企業との業務提携を強化したり、また、安定株主を創出したりするためである。さら
に、乗っ取り防止の機能もある。
イ しかし、子会社による親会社の株式取得、または企業間の株式相互保有を無制限に許
容するならば、①資本の空洞化、②議決権行使の歪曲化を招き、あるいは③株式の内部
者取引によって一般株主が害される危険がある。さらに、④親会社が子会社を利用して
競業避止義務等の責任を回避することも考えられる。そこで、親子会社における株主お
よび会社債権者を保護するための法制度が検討されなければならない。
(3) 親会社における株主・会社債権者の保護
ア 子会社は、合併・事業譲渡等以外は、親会社株式を取得できない。仮に、合併等によ
り取得した場合であっても相当の時期にその株式を処分しなければならない(135 条)
。
イ 親会社社員(少数株主ら)には、子会社の株主総会議事録(318 条 5 項)、取締役会議
事録(371 条 5 項)
、株主名簿(125 条 4 項)、計算書類・会計帳簿等の閲覧権(442 条 3
項、433 条 3 項)などが認められる。いずれの場合も、
「その権利を行使するため必要が
あるとき」は「裁判所の許可を得て」行使しうると定められている。
ウ 親会社監査役または監査委員、監査等委員は、その職務を行うため必要があるときは、
子会社に対し事業の報告を求め、または子会社の業務・財産の状況を調査しうる(381
条 3 項、399 条の 3、405 条 2 項)。
エ 一定要件を満たした株式の相互保有の場合、子会社は親会社株式については議決権を
行使できない(308 条 1 項)
。株式相互保有による議決権歪曲化・経営者支配の弊害を回
避する趣旨である。
オ 親会社の株主・会社債権者としては、親会社の株主総会において各種権能を行使し、
また、親会社の取締役等に対する責任追及をすることが考えられる。
(4) 子会社における株主・会社債権者の保護
ア
資本多数決の採用されている株式会社において親会社が自己の利益を追及するた
めに議決権を行使するならば少数株主の利益が著しく害されてしまう。そこで少数株
主を保護する趣旨の法制度として株主平等の原則、固有権がある。また、株式買取請
求権、累積投票請求権、取締役解任請求権がある。
イ 子会社の取締役等に任務慨怠があった場合、子会社の株主・会社債権者は子会社の
取締役等に対して責任を追及できる。さらに、親会社(あるいは親会社の取締役)の
責任を追及できないか。この点、親会社と子会社はあくまで別個の法人格である以上、
原則的には責任追及を否定すべきである。しかし、事実上の取締役理論によって親会
社に取締役の責任を負わせる。法人格否認の法理を使って責任追及をする。-ことが
考えられる。
<改正法>
【多重代表訴訟】
1.
改正の経緯
改正前会社法では、子会社の取締役等により子会社に損害が生じ、その結果親会社にも
損害が生じた場合でも、親会社の株主が株主代表訴訟を利用して、子会社の取締役等に対
して責任追及することは、認められていなかった。 また、子会社の取締役及び親会社の
取締役の責任追及(423条等)は、人的関係や馴れ合いを理由に積極的になされず、親会
社株主の保護は不十分であった。
他方で、安易に多重代表訴訟を認めることは、特に複数の親会社がある場合、子会社は
複数の親会社株主に配慮しなければならず、子会社の業務執行を萎縮させ、業務執行の迅
速性を阻害するおそれがある。
そこで、改正会社法は、①多重代表訴訟を利用できる者を最終完全親会社等の株主に限
ること、②責任追及対象を特定責任に限ることで、多重代表訴訟を限定的に認めた。
2.
用語の説明
(1)最終完全親会社等
最終完全親会社等とは、当該株式会社の完全親会社等であって、その完全親会社等が
ないものをいう(847条の3第1項)。すなわち、親子関係にある会社の頂点の株式会社
のことを指す。
例:A社が子会社で、B〜Dが完全親会社であっても、最終完全親会社等に該当する
のは、D社のみとなる(下図参照)。
D 社
【最終完全親会社等】
↓100%
C 社
最終完全親会社等ではない
↓100%
B 社
最終完全親会社等ではない
↓100%
A 社
完全子会社等
(2)完全親会社等(847条の3第2項)
「完全親会社等」とは、①完全親会社(847条の3第2項1号)及び②株式会社の発行済
株式の全部を他の株式会社及びその完全子会社等(株式会社がその株式又は持分の全部
を有する法人をいう。以下この条及び第849条第3項において同じ。)又は他の株式会社
の完全子会社等が有する場合における当該他の株式会社(完全親会社を除く。)をいう
(847条の3第2項2号)。
②の場合において、その他の株式会社及びその完全子会社等又は同号の他の株式会社
の完全子会社等が他の法人の株式又は持分の全部を有する場合における当該他の法人
は、当該他の株式会社の完全子会社等とみなす。
※ 完全親会社でなくとも、ある会社が完全子会社等を通じて、他の法人の株式又は持
分の全部を有している場合も含む。
例:C社が直接には、A社の株式を60%しか有していなくても、C社の完全子会社で
あるB社がA社の株式40%を有していれば、C社はA社の最終完全親会社等に該当する
(下図参照)。
C 社
【最終完全親会社等】
↓100%
60%
B 社
↓40%
A 社
C社の完全子会社
(3)発起人等
「発起人等」とは、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(423条第1項に規
定する役員等をいう。)若しくは清算人をいう(847条第1項)。そして、「役員等」と
は、取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人をいう(423条1項)。
3.
「株主」の要件
(1)条文
六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き
続き株式会社の最終完全親会社等(当該株式会社の完全親会社等であって、その完全親
会社等がないものをいう。以下この節において同じ。)の総株主(株主総会において決
議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除
く。)の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割
合)以上の議決権を有する株主又は当該最終完全親会社等の発行済株式(自己株式を除
く。)の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上
の数の株式を有する株主(847条の3第1項柱書)
(2)要件の整理(①+②、①+③のいずれか)
① 6箇月前(※1)(※2)から引き続き最終完全親会社等の株主であること
② 総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主(※3)(※4)
③ 当該最終完全親会社等の発行済株式(自己株式を除く。)の100分の1以上の数の株
式を有する株主(※4)
※1 6箇月を下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間
※2 公開会社でない最終完全親会社等の場合、6箇月の期間制限がない(847条の3第6
項)。
※3 株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使すること
ができない株主を除く。
※4「100分の1」を下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合
4.
特定責任(847条の3 第4項)
上記要件を満たす株主は、特定責任追及の訴えを提起するよう請求できる(847条の3第
1項)。
(1)条文
「特定責任」とは、当該株式会社の発起人等の責任の原因となった事実が生じた日に
おいて最終完全親会社等及びその完全子会社等(前項の規定により当該完全子会社等と
みなされるものを含む。次項及び第八百四十九条第三項において同じ。)における当該
株式会社の株式の帳簿価額が当該最終完全親会社等の総資産額として法務省令で定める
方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあって
は、その割合)を超える場合における当該発起人等の責任をいう(第十項及び同条第七
項において同じ。)(847条の3 第4項)。
(2)特定責任の説明
子会社の株式の帳簿価額が最終完全親会社等の総資産額として法務省令で算定される
額5分の1を超えるような、重要な子会社の取締役等の責任が対象となり、子会社の取締
役等の責任全てが対象となるわけではない。このように責任対象を限定して、多重代表
訴訟の濫用を防いでいる。
他方で、責任回避を許さないよう、最終完全親会社等が、発起人等の責任の原因とな
った事実が生じた日において最終完全親会社等であった株式会社をその完全子会社等と
したものである場合には、「特定責任」に当たるか否かについては、当該最終完全親会
社等であった株式会社を同項の最終完全親会社等とみなす(847条の3第5項)とされて
いる。
(3)訴訟の提起
通常の株主代表訴訟の場合と同様、株式会社が 847 条の 3 第 1 項の規定による請求の
日から 60 日以内に特定責任追及の訴えを提起しないときは、当該請求をした最終完全親
会社等の株主は、株式会社のために、特定責任追及の訴えを提起することができる(847
条の 3 第 7 項)。回復することができない損害が生ずるおそれがある場合も通常の株主
代表訴訟の取扱いと同様である(847 条の 3 第 9 項)。不提訴理由の通知についても、通
常の株主代表訴訟の場合と同様の規制がある(847 条の 3 第 8 項)。
5.
訴えが認められない場合
①特定責任追及の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社
若しくは当該最終完全親会社等に損害を加えることを目的とする場合(第847条の3第
1項ただし書1号)
②当該特定責任の原因となった事実によって当該最終完全親会社等に損害が生じていな
い場合(第847条の3 第1項ただし書2号)
通常の株主代表訴訟と同様、不当目的の訴訟提起は許されない。通常の代表訴訟と
異なり、最終完全親会社等に損害が生じていない場合、実効性がないため、訴訟提起
は許されない。
6.
責任の免除及び責任限定契約(424条〜427条)
(1)424条の全部責任免除の対象が特定責任である場合は、子会社の総株主の同意だけ
でなく、最終完全親会社等の総株主の同意も必要となる(847条の3第10項)。
(2)425条の一部責任免除の対象が特定責任である場合は、子会社の株主総会決議だけ
でなく、最終完全親会社等の株主総会決議も必要とされることになる(425条1項かっこ
書)。
(3)426条の取締役等による免除に関する定款の定めについては、定款の定めを設ける
こと自体は、子会社の株主総会決議のみで足りる。他方、子会社の総株主、最終完全親
会社等の総株主のいずれかで議決権100分の3以上の議決権を有する株主が異議を述べた
場合、責任免除が認められない。
(4)427条の責任限定契約を締結する場合は、子会社の株主総会で足りる。他方、株主
総会における一定事項の開示については、子会社だけでなく、最終完全親会社等の株主
総会でも必要となる。
7.
訴訟参加等
(1)責任追及の訴えの場合、最終完全親会社等の株主も、共同訴訟人または補助参加人
として、訴訟参加することができる(849条1項、847条の4第2項)。また、最終完全親
会社等自身も、補助参加することができる(849条2項2号)。
(2)訴訟告知の通知や公告についても、最終完全親会社等の株主に配慮した規制がある
(849条4項、5項、7項)。
最終完全親会社等の株主から訴訟告知を受けた子会社は、訴訟告知を受けた旨の公告
と通知を、最終完全親会社等に対しても行う義務がある(849条5項、7項)。そして、
最終完全親会社等は、最終完全親会社等の株主に公告と通知をする義務を負う(849条
10項2号)。
8.
他の制度への影響
最終完全親会社等の株主の権利の行使に関しても、利益供与が禁止される(120条1
項)。特定責任追及の訴えにつき利益供与がなされることを防止するためである。