「復興」と「進化」 - 伊藤忠商事繊維カンパニー

vol.621
2012
since 1960
1
毎月1回発行
■ 発行:伊藤忠商事株式会社 繊維経営企画部
大阪市北区梅田3-1-3
■ TEL:06-7638-2027 ■ FAX:06-7638-2008
■ URL:http://www.itochu-tex.net
本紙に関するご意見・ご感想をお寄せ下さい。[email protected]
Vol.621 CONTENTS
─ ITOCHU Mission ─
Committed to the global good
豊
か
さ を
担
う
責
任
Special Feature /
2012年新春座談会「復興」と「進化」
Topics /
ニュース・クリッピング
4面
Topics /
成長戦略としてのM&Aとその進め方 第1回
5面
Fashion Report /
回帰現象
6面
1-3面
繊維産業のできること、伊藤忠の役割
「復興」と「進化」
新年あけましておめでとうございます。昨2011年は、3月11日に東日本大震災が発生し、上期は「大震災からの復興」が国を挙げての大きなテー
マとなりました。大きな影響を受けた消費市場をみると、ゴールデンウイークを境に徐々に消費自粛ムードが緩和するとともに、衣料消費が上向き
始めました。とくに「節電」がキーワードとなり、機能性衣料や寝装関連分野は大きく好転しました。産業資材分野では、震災直後に遮断され
た部品調達網の回復が予想を上回る速さで進んだことも特筆されます。大震災直後のマイナス影響は上半期半ばまでに収束し、秋には日本国
内のビジネス環境はほぼ震災前の状況まで回復したといえます。また、復興増税の導入など国レベルでの基本骨格も固まって越年しました。今月
号は繊維カンパニー首脳が波乱にとんだ2011年を回顧すると共に、2012年の市場展望を試みました。
代表取締役常務執行役員 繊維カンパニープレジデント
伊藤忠商事株式会社
代表取締役常務執行役員
繊維カンパニープレジデント
出席者
岡本 均
2011年回顧
大震災からの消費回復
予想以上のスピードで進む
した。三越伊勢丹は当初年間550億円の売
り上げを見込んでいましたが、早々に4割減
の350億円に見 通しを修 正、逆にルクアは
250億円から320億円の売り上げに引き上げ
岡本 均
執行役員 ファッションアパレル部門長
久保 洋三
繊維原料・テキスタイル部門長
中西 英雄
ブランドマーケティング第一部門長
諸藤 雅浩
ブランドマーケティング第二部門長
石井 和則
るなど明暗が分かれました。また、東京では
10月、有楽町に阪急メンズ東京、ルミネが誕
生し、話題を提供しました。どちらも好調な
立ち上がりを見せています。
一方、ブランド関連では世界のスーパー
ブランドがいずれも好調な業績を見せました。
トップのルイヴィトン(LVMH)グループは「ブ
ルガリ」の買収もあり、1∼9月の世界販売は
岡本プレジデント(以下、敬称略) 2011
年は未曾有の大震災が日本を襲い、一方で
世界経済においては、欧州の債務危機、米
国経済長期低迷化、また、インフレ・不動
産バブルが天井化する中国経済の減速懸念
など、世界レベルで景況見通しが不透明とな
りました。2012年は米国、中国など主要国で
トップ交代が予定されており、経済情勢はまさ
に予断が許されません。
繊維・ファッション業界で見ると、欧米ブラ
ンドの優劣が鮮明になってきたことも特徴です。
ブランドの吸収、集約化も進んだ一年でした。
まず大震災からの復興について、各分野
の状況を振り返りたいと思います。小売市場
の変化、ブランド動向について、諸藤さんか
らお話し下さい。
諸藤部門長(以下、敬称略) 大震災を
受けて消費に自粛ムードが広がり、一時はど
うなるかと懸念しましたが、4月以降の消費市
場の回復は我々の予想を上回るものがありま
した。衣料品販売をチャネル別で見ると3月は
百貨店が19.2%、量販店が16.0%、通販が
14.9%各前年比で減少するなどさすがに全カ
テゴリーで落ち込みました。量販店は苦戦が
続きましたが、百貨店は4月0.5%、5月3.3%、
6月0.3%各減とほぼ前年並みを維持し、回復
が早かったのが特徴です。
百貨店では大阪キタで「百貨店戦争」と
称されるように、JR大阪三越伊勢丹が開業、
隣接して専門店が集積するルクアが開業しま
写真:前方左から岡本均、久保洋三、後方左から諸藤雅浩、中西英雄、石井和則
2
2012年1月号
2012年新春座談会「復興」と「進化」
密度薄地織物を中心に堅調を持続、ユニ
1ドル=75円では輸出採算がとにかく厳しい
特徴でした。「取り組み型の話し込みができ
フォームも復興需要もあってまずまずの一年
状況です。
るならば、日本の要求にもある程度応えてい
だったように思われます。
岡本 欧米ブランドの動向はいかがでしょ
かなければ」という意欲が強まっています。
また、震災以降、消費者の購買意識や
うか。また、彼らはアジアのマーケットをどう
岡本 生産者もポートフォリオを考えるとい
価値観が変わったといわれます。そのなか、 見ているのでしょうか。
うことですね。グローバルサプライの面で、
当部門が取り扱うプレオーガニックコットンプ
諸藤 相変わらずM&A旋風が吹いた一
中国、アジアの立ち位置に変化は。
ログラムが2011年度グッドデザイン賞のサス
年でした。LVMHがブルガリを買収、続い
中西 チャイナ・プラスワンということが言
テナブルデザイン賞(経済産業大臣賞)を
てエルメス買収に動いたものの完全買収ま
われる前から、当社は縫製における中国一
受賞したことは象徴的な出来事でした。世
で至りませんでした。「プーマ」を買収した
辺倒を排するためにベトナム、ミャンマーな
の中がファストファッションブームからプチ贅
PPRも躍進しています。共通するのはアジア
ど東南アジアでの縫製生産を強化してきまし
沢、本物志向へと変遷しつつあるなかで、
市場での伸長です。軸足は日本から中国、 た。2011年は日本全体として、中国からプ
エコロジー、トレーサビリティーといったこだ
シンガポールへと移っています。例えばリシュ
ラスワン諸国へ2割程度、生産が移管され
わりを原料・素材の段階まで求める消費者
モングループの売り上げは全世界の伸びが1
たと見ています。
が出てきているわけです。
∼9月で前年同期比29%なのに対し、アジア
岡本 日本の産地を活用する可能性は?
石 井 部 門 長(以 下、敬 称 略) 自動 車
は48%も増えています。中国、東南アジア
資材は部品の調達網が一時的に寸断され
がこの牽引車です。日本市場は残念ながら
た結果、中国生産を含めて大きな影響を受
若干のダウンで推移しています。
けましたが、夏以降は急速に復興しました。 当社関連では「ポール・スミス」も中国
土木・建築関連資材も同様な動きで、年末
市場に進出します。5年前は時機が早すぎ
にかけては復興需要も徐々に増えてきまし
たのか成功しませんでしたが、2012年より
た。
パートナーを変えて、中国に再進出します。
伊藤忠商事株式会社
当部門の食品専門店「ディーン&デルー 「ヴィヴィアン・ウエストウッド」は2010年から
執行役員
カ」は、震災直後は店舗の営業時間を短縮、 中 国 で 合 弁 形 式による市 場 展 開に入り、
ファッションアパレル部門長
余震続きで閉店時間繰り上げなどの影響を
2011年には北京と上海に旗艦店を開設する
受けました。ハンカチやタオルなどの身のま
など順調な立ち上がりを見せています。
わり品は夏場の節電、エアコンの設定温度
ファストファッションも、その勢いは2年前
引き上げなどで売れ行きが好 調でしたし、 がピークだったように思われます。今や市場
冬場も節電により毛布、羽毛ふとん、電気
に浸透し、顧客は彼らの商品そのものを知
毛布、電気カーペットなどの引き合いが増え、 り、高級ブランドとはモノが違うことを学んだ
と思います。時や場所に応じて使い分ける
15%増と好調。とくに時計・宝飾は26%増 「節電」をキーワードに需要が盛り上がって
います。
ように、高級ブランドとファストファッションは
と大幅に増えました。
「グッチ」を抱えるピノー
共存できると見ています。高級ブランドへの
グループ(PPR)のラグジュアリー部 門も
悪影響を心配することはないでしょう。
24%増、「カルティエ」などのリシュモンも
欧米不調も中東堅調
石井 欧米景気の低迷、とくに欧州経済
29%増と軒並み好業績でした。「エルメス」
高級ブランド、アジアに軸足
への不安が高まる中で、ブランドの売却話
も20%増を記録しています。
岡本 ギリシャ問題など欧州経済に赤信
がまたぞろ増えてきました。大型案件よりも
しかし、量販ブランドは上昇に転じられず、
号が灯り、米国経済も低調でした。輸出あ
ファンドが保有する中小型ブランドでの話が
苦戦が続いています。大手専門店チェーン
るいは三国間ビジネスでの特徴はいかがで
多いですね。単にブランドが付いているだけ
のプライベートブランドに押されている状況が
伊藤忠商事株式会社
すか。
では売れる時代ではありませんが、そのあ
続いているといえます。
繊維原料・テキスタイル部門長
中西 欧米ともに小売り商戦が冴えませ
たりを峻別しながら案件ごとに検討することも
ん。クリスマス商戦も不調と伝えられていま
大事かと思います。商社にとってはビジネス
キーワードは「節電」
す。債務問題をきっかけに大手小売店の買
チャンスといえます。
生産、中国一極集中を敬遠
い付け削減が現実問題として浮上し、中国
などからの買い付けを軒並み減らしていま
岡本 アパレル業界も大震災によって曲
グローバル調達が進展
す。英国に本拠を置く当社グループのプロミ
折がありました。アパレル生産、仕入れを含
生きるオンリーワン技術
ネントヨーロッパは、欧州市場全体では専門
めて昨年の変化の特徴はいかがでしたか。
店チェーン向けを中心に苦戦を強いられたも
岡本 チャイナ・プラスワンの継続などグ
久保 日本における縫製キャパシティーは
久保部門長(以下、敬称略) 3月の震
のの、本国の英国市場ではシェアを伸ばす
ローバルソーシングの面で、2011年はどのよ
減るところまで減っています。技術力やクイッ
災発生から4月にかけては店舗の休業、閉
など健闘を見せています。
うな一年でしたか。
ク対応などにアドバンテージを持つ企業だけ
店時間の繰り上げなどから絶不調といえる
岡本 中東市場はいかがですか。アラブ
久保 昨年の今ごろ、中国の縫製企業
が残っており、日本の見直しは進むでしょう。
内容でした。
しかし、それ以降は回復に転じ、
諸国での「ジャスミン革命」もありましたが。
は品質、納期などで厳しい日本向けよりも欧
しかし、絶対的なスペースの少なさはいかん
全体を通じて震災の影響は軽微にとどまった
中西 中東市場は年間を通して引き合い
米向け、あるいは中国国内消費をにらんだ
ともしがたいのが現実です。
といえます。ワーキングユニフォームやブラッ
が活発でした。ジャスミン革命も、サウジア
ビジネスに舵を切りつつある状況でした。と
中西 北陸産地の事例で見ると、ダウン
クフォーマルなどでは、不幸なことではありま
ラビア市場を中心に展開する当社にはあまり
ころが欧米経済の変調で受注が減少、日本
ウエアやスポーツウエア向けの高密度薄地
すが復興特需的に需要が増大した面もあり
影響がありませんでした。ただ、問題は円高。
向けを見直す動きが強まったのが2011年の
織物が依然人気を博していますし、「ハイテ
ます。
原発問題から「節電」
「エコ」
「クールビズ」
がキーワードとなり、これらに関連する商品
群の市場が拡大したことも特徴でした。アイ
業態別衣料品売上高推移(単位:100万円)
テムで見ると、紳士スーツが不調でしたが、
350,000
百貨店
夏のシャツ、カットソーなど中衣料が新市場
2008年
を開拓、2012年もその拡大が見込めます。
300,000
2010年
生産面では中国への一極集中による弊害
2011年
を懸念した動きが継続しました。震災によっ
250,000
て「何が起きるか分からない」という心理的
な不安が高じた面があります。中国へ集中
チェーンストア
200,000
していた衣料生産で、ディープチャイナ(中
2008年
国内陸部)を含め、引き続きチャイナ・プラ
2010年
150,000
スワンを求める動きとなりました。
2011年
岡本 素材分野ではいかがでしょうか。
100,000
中西部門長(以下、敬称略) 震災関
通信販売
連では北陸産地の内装材など自動車関連
2008年
50,000
資材がとくに影響を受けました。その後、自
2010年
動車生産が回復し、原状に戻りつつありま
2011年
0
す。このほかではスポーツウエア素材が高
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
久保 洋三
中西 英雄
2012年新春座談会「復興」と「進化」
ンション」と呼ばれる婦人服向けの経編みの
生地は円高を乗り越えて輸出が続いていま
す。つまりオンリーワンの商品はまだまだ健
在です。裏返せばオンリーワンでなければ
競争に勝てない現実もあります。その意味
で、産地企業の技術開発の継続が不可欠
です。
岡本 杉杉集団、ヤンガー嵊州をはじめ
有力パートナーとの取り組みも深まってきまし
たが、中国市場開拓での特徴となるといか
がでしょう。
久保 当社の事例で申せば資本・業務
提携した杉杉集団とは大きな縫製スペースを
年間で回す取り組みが出来上がってきました。
生地、最終製品へと組み立てるプロジェクト
上回っています。ロッテと協力しながらアイテ
です。最近では蓄熱保温肌着などを中国
市場で販売する取り組みが代表的です。
久保 ファッションアパレル部門は日本でア
パレルメーカーや小売店の製品ODMを手
がけていますが、中国でもITS(伊藤忠繊
維貿易(中国))が同様の取り組みを実践し、
収益面でも貢献できるところまで大きくなって
きました。ITSは当初、日本向け衣料品の
生産管理業務でスタートし、それだけでは
収益的に魅力が欠けるため、中国内販へ
挑戦、試行錯誤を繰り返してきました。
組織は本社と同様にユニフォーム、スポー
ツウエア、紳 士 衣 料、婦 人 衣 料、裏 地中
心の服飾副資材などを取り扱う部編成から
なり、現在ファッションアパレル部門から7人
の駐在員を派遣しています。これら駐在員
が有能な現地スタッフと共に、
日本向けに培っ
た企画提案力、QR対応力を武器に中国内
販を手がけるアパレル・小売店向けODMに
挑戦してきた結果、中国小売店・アパレル
のニーズに合致し、彼らの急速な成長ととも
にITSのビジネスは急拡大しています。
中国内販製品ビジネスの利益が2009年
から2011年の2年 間で3倍に増え、ITSへ
の収益貢献度も2倍に伸びています。内販
への挑戦と並行して、取組先や出資パート
ナーと共に川下への投資を進めることが今
後の課題となります。
岡本 ブランド戦略においては、日本の
差別化された商品を日本のみならず、中国、
そしてアジアへ売るための戦略の実行力が
試されています。
ムを増やしていく計画です。
このほか、ゴルフウエアやスポーツカジュ
アルウエア分野で新たな提携契約を結ぶ方
向で交渉を進めており、今年は、中国市場
でのブランド展開をさらに拡大していく方針
です。
有力中国企業と提携
旗艦店などオープン相次ぐ
諸藤 ブランドビジネスもようやく中国との
取り組みが太くなってきました。「ミラ・ショー
ン」ブランドの中国、台 湾、香 港、マカオ
地域におけるインポートとライセンス展開に関
して、台湾の盛高貿易有限公司と合弁会
社を設立する契約を結び、中国における展
開を本格化させることになりました。
昨年5月に大連市のフラマホテル大連にレ
ディスインポート第1号店をオープンし、イタリ
ア品と日本品のレディスウエアのトライアル販
中西 ヤンガー集団がスマートシャツを買
売を開始しました。10月末には重慶にレディ
収し、川上から川下までの一貫型ビジネスを
スインポート第2号店を、また今年早々には
追求する中で、ヤンガー嵊州との取り組みも
強まっています。欧米、アジア市場、日本、 北京に同3号店をオープンする予定です。ま
たライセンス展開は、一部で2012年春夏か
そして中国国内販売も手がけるなど多方面の
ら、本格的には2012年秋冬シーズンから開
展開で、例えばスマートシャツと当社との間で
始する予定で、5年後には300の売り場に拡
相互補完的な関係が構築できつつあります。
大する計画です。
デサントさんとともに杉杉集団が展開する
2012年市場展望
「ルコック」は、まだ150店舗とそんなに店舗
は多くないですが着実に中国市場に浸透し
最重要市場は「中国」
てきました。中国の大手スポーツブランドの
内販ビジネスに本格挑戦
中には、急成長を遂げた後、ここにきて調
整局面なのか在庫増に苦しみ、株価も大き
岡本 岡藤社長が就任して2年目、常に
「攻めの経営」ということを言われています。 く下げているところもあります。ルコックの場
合、歩みは遅いですが、しっかりとした足取
繊維カンパニーにおいても、稼ぐエンジンを
もっと大きくすべく、山東如意に投資しました。 りで中国 市 場に根を張ってきたと見ていま
す。昨年11月には、北京国家体育館で中
リスクをきちんとわきまえた上で、最重要市
国有名歌手・孫楠の1万5000人規模のコ
場である中国、そして中国企業といかにか
ンサートを主催、大盛況でした。
かわるか。減速懸念はあるものの、マクロ
同じ杉杉の「エル」はサブライセンスして
で9%の成長を遂げ、とくに個人消費のさら
いる「超越」の店舗が90店舗を数えるほど
なる伸びが期待される中国、消費者の志向
になりました。韓国ロッテグループと共同出
をいかにとらえるか。お取引先各企業と共に
資したテレビ通販のラッキーパイでは、今秋
中国へという「水先案内人」としての役割
からイトキンさんのコートを販売、このほかデ
も期待されています。
中西 当部門の取り組みを紹介すると、 ジカメ、浄水器なども取り扱い、じわじわと
売り上げを伸ばしてきました。中国のテレビ
中国での肌着ビジネスが軌道に乗ってきまし
通 販 市 場は年 間5000億円を超え、日本を
た。日本の差別化原糸を持ち込み、ニット
伊藤忠商事株式会社
ブランドマーケティング第二部門長
石井 和則
2012年1月号
3
資材もアジアで拡大
自動車、衛生材料に可能性
石井 当部門では、杉杉集団との取り組
みがまず挙げられます。2011年9月に当社、
および三井不動産と組んで浙江省寧波市に
第一号アウトレットをオープンしました。2万
5000平方メートル、130店舗の展開で、順
調に事業が進んでいます。また、杉杉とは
このほか不動産開発事業、リチウムイオン
電池材料、炭素繊維複合材料などの各分
野で全社横断的に事業活動を推進すること
で一致しており、今年も着実な成果がもたら
されてくるものと確信しています。
一方、繊維資材分野でも中国は魅力的
な市場です。例えば自動車は2010年に販
売 台 数が1800万 台 超となり、2011年は予
想を若干下回るものの2000万台弱の実績を
残したものと思われます。2012年は7∼10%
増と見込まれ、2000万台を超えるのは確実
だと思われます。上海と広州に自動車関連
資材の生産拠点を保有していますが、ここ
での事業拡大が今後の課題となります。
また衛生材料関連では、日本では少子高
齢化の影響でおむつの消費で大人用が子
供用を上回る現象が見られますが、中国、
アセアン、インド、中東の各市場では子供用
の需要の拡大がまだまだ見込まれますので、
こうした市場での展開を通じて事業拡大の
チャンスを取り込みたいですね。
2012年のキーワード
産地、海外への挑戦を
商品は「上質」「機能」「軽量」
岡本 最後に各事業分野における今年
2012年のキーワードは。
中西 言い尽くされた面もありますが、あ
らためて「グローバル化」の進展がどうなる
かに関心と期待を寄せています。わたしが
申し上げるグローバル化はテキスタイル産地
に関してです。規模や人材の面で海外市
場へのチャレンジは一部の産地企業に限ら
れています。素晴らしい素材を開発しながら
も日本市場に限定しているのはもったいない。
もっと外向きの意識を持って取り組んでほし
いですし、我々もバックアップできればと考え
ています。
久保 「上質」「機能」「軽量」などがよ
り求められるように思います。さらに「環境・
エコ」です。今 年はオリンピックイヤーで、
ロンドン大会はより環境対応型のオリンピック
を目指すとされています。アパレルメーカー
はあらためて環境・エコを意識した商材の
開発に取り組んでおり、我々にも提案を求め
ています。環境・エコは今に始まったテー
マではありませんが、より進化した形が現れ
そうです。
景気・株価動向が左右
「節電」は継続テーマに
諸藤 やはり「経済の動き」「景気のゆ
くえ」に関 心を持っています。ギリシャに
端を発した欧州経済の動向はブランドビジ
伊藤忠商事株式会社
ブランドマーケティング第一部門長
諸藤 雅浩
ネスにも強い影響を与えてきました。「日経
平均」の上げ下げが翌日の百貨店のブラ
ンド商品の売れ行きを左右するところがあり
ます。ただ、ピンチはチャンスで、世界的
な株安や円高が続くようであれば、グロー
バルな提 携、ブランド企 業のM&Aなどの
機会が増えてくると思いますので、中国・
アジア市 場 全 体を見 据えたブランドビジネ
スを積極的に仕掛けていきたいと考えてい
ます。
石井 「海外市場」
「節電」が大きなテー
マになります。中国・アジアを中心に海外市
場の動向が気になります。
「レスポートサック」
など当部門の展開商品はアジア市場に軸が
移りつつあり、同市場の景気動向に関心を
寄せています。「節電」に関しては国民の
意識の深い部分まで浸透しており、それに
対応した商品展開が今年以上に必要かもし
れません。
さらにもう一つ挙げると「スマホ」です。
2010年の日本の販売台数は約800万台。そ
れが今 年は2000万 台、2015年には3000万
台に増えると予測されています。全世界では
2011年の4億5000万台の販売から、2015年
には9億2500万台と膨大な市場に成長すると
言われています。このスマートフォンには、表
面ガラス材への特殊な印刷技術など我々が
扱う商材が多く含まれています。こうした新た
に創出される需要に即応したビジネスを着実
に取り込みたいと考えています。
岡本 レベルの高い日本市場では安価な
商品ばかりに流れるのではなく、質の高い
商品の供給を通じて貢献せねばなりません。
また、多様化する消費に着目したサービス
の提供も大切です。一方、中国はなんといっ
ても13億人の人口を抱え、都市人口は6億
人に達します。中間所得層は2億4000万人
を数え、日本の2倍の市場が日本のごくごく
間近にあるわけです。日本衣料市場は縮小
を重ね年間8兆円。それに対し中国は12兆
円とされます。この市場を日本のお取引先
企業と一緒になって攻めることが日本の繊維
産業の維持拡大の一手となります。そのこと
によって商社の機能が再評価されると思いま
す。皆さんの奮闘を期待します。
4
ニュース・クリッピング
2012年1月号
N
ews
Clipping
「フランク・ボクレ」の独占輸入販売権取得
伊藤忠商事は、パリのメンズモードをけん
引する新鋭デザイナーブランドとして注目され
ている「フランク・ボクレ」
(Franck Boclet)
の独占輸入販売権を取得しました。2012年
秋冬シーズンから、株式会社インコントロを通
じて発売します。
デザイナーでもあるフランク・ボクレ氏は、
「ケ
ンゾー」メンズのプロダクトマネージャー、「ス
マルト」のアーティスティックディレクター、さら
には「エマニュエル・ウンガロ」メンズ部門
でのアーティスティックデザイナーなど様々な経
験を積んできました。こうしたファッション業界
における30年近いキャリアを通じて構築した
生地、カッティング、縫製などの豊富な知識
と一流メゾンを手がけるサプライヤーを背景
に、2010年自身のブランド「フランク・ボクレ」
をパリに創設しました。
「フランク・ボクレ」ブランドは、伝統的な
サルトリア(注:こだわった職人的な服作りを
する仕立屋)のテクニックと最先端のモードと
が融合していることが最大の特徴です。イタ
リーメイドの高い技術と洗練されたディテール
により、細身のシルエットながら窮屈さを感じさ
せない最高の着心地を実現しています。
パリのモンテーニュ通りにブランドの拠点と
してヘッドオフィスとショールームを構え、パリ
の「レクレルール」
、フィレンツェの「ルイーザ・
ヴィア・ローマ」などハイエンドなショップを中
心にイタリア、ロシア、アジアへと展開を広げ
ており、2011年秋冬コレクションではミラノの
ホワイト展示会に主賓として招かれるなど国際
的にも注目を集めています。
2012年秋冬から伊藤忠が展開を開始す
る国内販売では、本物の仕立てにこだわり
ながらも独創的なスタイリングを求める30∼
40代の男性をターゲットに、有名百貨店や
有力セレクトショップで販売します。販売小
売価格はコート17万∼49万円、ジャケット7
万∼29万 円、シャツ2万∼5万 円、パンツ2
万∼18万円、革小物・バッグ1万∼29万円、
ニット8万∼17万円、シューズ8万∼15万円
で、売上計画は3年後、小売価格で5億円
を予定しています。
会社名
株式会社インコントロ
代表者
代表取締役社長 山本 太一
本社所在地
大阪市中央区淡路町2−3−5
URL
http://www.incontro.co.jp/
東京:Tel 03-5411-6526(代表)
問い合わせ
大阪:Tel 06-6204-6292(代表)
担当:田中 千佳子
本件に関するお問い合わせ先
伊藤忠商事㈱
ブランドマーケティング第一部 ブランドマーケティング第九課
課長:北島義典、担当:信太英利
電話:06-7638-2185
米スポーツブランド「ハインド」 日本初上陸
伊藤忠商事は、米コレクティブ ライセンシ
ング インターナショナル 社と、「ハインド」
(hind)ブランドの日本市場におけるマスター
ライセンス契約を結びました。2012年春夏シー
ズンから発売します。
「ハインド」は1974年、グレゴリー・ハイン
ド氏によって創設されました。ハインド氏は
1967年のパンアメリカン競技大会の水球競技
為替(円/US$)
Data
で金メダルを獲得、その経験からまず競泳用
の水着の開発に着手しました。その後、時
代のニーズと共にランニングやサイクリング、ト
ライアスロン、フィットネス、アウトドアへと商品
群を広げてきました。
激しい動きを要求される水球という競技を
オリジンとする「ハインド」は、ウエアの機
能 面に注 力した商 品 開 発に定 評がありま
す。80年代、他社に先がけてコンプレッショ
ン 素 材 を 使 用したウエア「スポ ータイト
(Sportight)
」
、
「アニマルショート(Animal
Short)
」などを発売、その後もスポーツを愛
する女性をサポートする「モーションセンサー
ブラ
(Motion Sensor Bra)
」
を発売するなど、
パフォーマンスアパレルブランドとしてアスリート
と共に成長してきました。
現在、米国、カナダで、百貨店、スポー
ツショップを中心に1200店舗でパフォーマンス
アパレルを展開しており、2012年の春夏シー
百貨店衣料品売上高の推移(億円)
3,000
3,000
80.00
2,000
2,000
85.00
1,000
1,000
9/20
10/11
11/1
11/22
12/19
0
2009.11
2010.11
本件に関するお問い合わせ先
伊藤忠商事㈱ 繊維経営企画部
担当:村田哲也
電話:06-7638-2027
チェーン店衣料品売上高の推移(億円)
75.00
90.00
ズンから欧 州 各 国でも発 売します。また、
2012年秋冬シーズンからは米国で本格的なラ
ンニング、アウトドア、トレイルシューズを投入
する予定です。
今回、初上陸となる日本市場では、2012
年春夏シーズンからクロスプラス㈱をサブライ
センシーとしてメンズ・レディースアパレルを販
売します。アパレルについてはスポーツ関係
の販路を中心に展開し、3年後に小売上代
10億円を予定しています。また、今後はシュー
ズやアパレル雑貨などへとアイテムを拡充しな
がら、本格スポーツブランドとしての認知度、
地位向上を目指します。
2011.11
出所:日本百貨店協会
0
2009.11
2010.11
2011.11
出所:日本チェーンストア協会
ドル/円は、77円台後半を中心とした狭いレンジ内での動きに終始した。米格付け会社
全体では5カ月連続の前年同月比マイナスだが、減少幅は1%台に収まり、足元
平年に比べ気温が高く、防寒衣料や鍋物関連の食料品の動きが鈍かったことか
S&Pが日本国債格下げの可能性に言及したことなどを背景に日本売り
(債券売り、円売り)
の状況としては比較的堅調に推移した。11月は月前半まで全国的に気温が高く降
ら、総販売額の前年同月比(店舗調整後)は4カ月連続のマイナスとなった。衣料品
が強まったことや、堅調な米経済指標を受けてドル買い地合いとなったことから78円29銭ま
雨量の多い不安定な天候が続いたため、最盛期を迎えたコートやブーツなど主力の
は1219億円で前年同月比3.3%減。高気温からコート等冬物が苦戦。紳士衣料はカ
で上昇する局面があったものの、上値は本邦輸出企業のドル売り意欲も強く限定的だった。
冬物ファッション商材が苦戦した。一方、大都市旗艦店を中心に高級時計や輸入
ジュアルパンツが好調だがコート、
ジャケット、スーツ、スラックスは不調。婦人衣料は
目先のドル/円は、上値での輸出企業のドル売りと下値での介入警戒感に挟まれて、引き続き
特選雑貨などの高額商材が好調を維持した。衣料品売り上げは1907億円で
ジーンズが好調だがコート、
ジャケット、セーターは不調。その他衣料・洋品は肌着が不
狭いレンジ内での推移を予想する。ただし、年末年始で市場が薄くなる中で、欧州債務危機
2.6%減と再び前年比マイナスに転じた。婦人服・洋品2.8%減(2カ月ぶりマイナ
調だがスクールは好調。雨傘、
レイングッズの動きは良かった。衣料品に含まれない寝
に関する材料などを受けて突発的に相場が乱高下する可能性には注意したい。
(12/20)
ス)、紳士服・洋品2.2%減(同)、子供服・洋品0.7%減(3カ月連続マイナス)
だった。
具・寝装品は敷パッド、毛布が好調。インテリアはカーペット、カーテンが不調だった。
成長戦略としてのM&Aとその進め方
5
2012年1月号
成長戦略としてのM&Aとその進め方
Topics
第1回 日本におけるM&Aの動向
寺田 昌人氏
㈱KPMG FAS 執行役員パートナー 「M&A」
(企業の合併・買収)という言葉を聞いてピンとこない経営者、ビジネスマンはいな
いと思われるくらい今や日本においても当たり前のキーワードとなっている。かつては会社の「乗っ
取り」といった言葉があったように、企業の合併、買収という言葉のイメージは、どちらかという
とマイナスイメージで語られることが多かった。しかし、1990年代後半以降の金融ビッグバンを
契機とした不良債権の処理問題、民事再生法の施行、規制緩和に伴う業界再編ニーズ等に
伴う日本の産業界の「選択と集中」の過程で、M&Aは企業および経営者にとって当然に検討
すべき成長戦略の一手法となったといえよう。本文でも触れるように、ここ数年は減少傾向にあ
るとはいえ、今後もその戦略的意義は、失われることはないと思われる。
2005年 は、ワールドの 非 公 開 化に伴う
MBO(マネジメント・バイアウト)案件であり、
取引金額は1990億円であった。2010年は三
菱ケミカルホールディングスによるグループ内
再編に伴う三菱レイヨンの完全子会社化の案
件で、取引金額は総額で4769億円であった。
ただ、それらの大型案件を除けば、全般的
にM&A全体としては減少している。
① 増減動向
図1は、2001年 以 降のM&Aの金 額、件
数のグラフである。これを見ると、金額ベース、
件数ベースともに2005年から2008年までは、
右肩上がりの増加を続けており、当時はまさ
にM&A一色の観があった。
これは1997年以降の持株会社の解禁、株
式交換・移転制度や会社分割制度の創設、
M&Aにおける対価の柔軟化や独禁法の改
正に伴い、M&Aスキームの自由度が格段に
向上したこと、さらにはファンドビジネスの拡大
に伴い、次々と新たなファンドが創設され、様々
なM&A案件、再生案件の投資主体として
M&A活性化を支えてきたといえるだろう。
ただ、その後のリーマンショック後は、企業
の業績悪化に伴い、件数、金額とも下落傾
向が続いているが、図2でも分かる通り、主
には国内企業同士のM&Aが急激に減少し
たことがうかがえる。
② 繊維業界のM&Aの特徴
表1は、繊維業界における2010年以降の
大型案件トップ10である。上位2件は、前出
の三菱レイヨンの案件だが、3位以下の取引
金額は40億円から135億円の比較的中堅規
模の案件となっている。また、最近の特徴と
して、2010年1月に、東レは炭素繊維の技
術を自動車部品に活用するためダイムラー社
との合弁企業の設立や、旭化成せんいがタ
イのサハグループとの合弁会社を設立し、ポ
リプロピレン不織布工場への海外投資を発表
したりと、海外投資に目が向いている。繊維
業界の川上企業においては、将来的な海外
市場の拡大を図るため、海外を中心に積極
的に投資を行っているようだ。
一方で、表1にある、サンエーインターナショ
ナルと東京スタイルの共同持株会社の設立に
よる経営統合は、国内アパレル3位となり業界
内のプレゼンスの向上を図り生き残りを企図し
たものである。レナウンは、中国への新たな
事業展開を企図し、中国の繊維大手「山東
如意集団」との合弁会社の設立に合意した。
また、ソトーは、ワールドとテキスタイルの企画・
販売のためのJVの設立や染色加工業事業
の譲り受け等、M&Aによる積極的な事業拡
大を図っている。
このように、川中・川下企業においては、
国内需要の減少傾向のなか、業界内の競
争激化にあおられ、企業間の経営統合や資
一方で、OUT-IN、IN-OUTの合計としては、
ここ数年クロスボーダー案件は、減少傾向に
はあるがそれほど大きなものではない。むしろ
2009年から現在にかけては、日本企業の海
外投資案件は、全体のM&A件数の減少傾
向とは反して、むしろ増加していることがうか
がえる。
これは、昨年来のギリシャ危機以降のユー
ロ安ならびにユーロ金融市場の低迷に加え、
米国における失業率の改善が見えない中のド
ル安という環境下での円高推移により、金余
りの日本企業の海外投資を加速させていると
見ることができる。
このように、日本企業の成長戦略の一つと
して、M&Aはこれからも一定水準以上の案
件は実行されていくことが予想され、今後は
成長余力のある海外案件への投資がますま
す増加していくことが予想される。
繊維業界におけるM&A
② 案件タイプ別の推移
図2には2001年以降の案件タイプ別の推
移がある。ここでOUT-INとは、外国企業に
よる日本企業の買収案件を意味し、IN-OUT
とは、逆に日本企業による海外企業の買収案
件を意味する。IN-INとは、国内企業同士
のM&Aを意味している。
この図を見ると、IN-INの案件は、2006年
をピークとして、その後減少傾向となっている。
① 繊維業界のM&A動向
図3は、日本の繊維・アパレル業界におけ
るM&Aの推移である。繊維業界においても、
全体のトレンドと同じ動きを示している。ここで
も、2008年秋のリーマンショック以降のM&A
件数は下落傾向にある。ただ、金額ベースで、
2005年と2010年に突出しているのは、とくに
大型案件が実行されたためである。
図1 日本マーケットにおけるM&A取引の件数と金額の推移
18,777
総額
18,000
17,472
取引件数
16,110
16,000
14,000
1,784
12,000
9,481
10,000
8,890
15,977
2,664
6,000
1,086
2,519
2,326
(10億円)
3,000
600
9,499
11,647
9,930
2,500
500
2,000
400
1,500
300
1,000
200
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
0
図2 日本マーケットにおけるM&A取引件数の内訳
OUT-IN
IN-OUT
IN-IN
2,500
2,211
1,653
1,500
2,725
2,775
185
180
411
421
174
289
1,752
136
264
1,728
2,696
309
367
211
2,000
500
0
2002年
1,707
143
371
2,174
2,020
1,824
1,352
2003年
1,957
138
299
163
213
2,129
2001年
198
377
1,680
1,352
2,399
320
1,000
1,190
的整理企業に対するスキームと再建計画策定アドバイスにも
数多く従事した実績を有する。
本提携が活発化している。
このように、繊維業界においても、これか
らの経営戦略にM&Aによる成長戦略は欠か
せないものであり、いつ読者の皆様にM&A
の実行を担う必要性が生じるかもしれない。
そのためにも、M&Aの一連のプロセスを理
解し、どのように案件を実行していくべきか、
実行時の留意点は何かについて、理解して
おくことは非常に重要である。したがって、
第2回、第3回で一般的なM&Aのプロセス
の流れや実行上の留意点についてご説明し
ていきたいと思う。
90
529
69
80
71
70
396
60
60
56
48
50
28
27
29
38
151
100
1,520
1,193
2004年
0
140
134
20
77
2001年
41
2002年
2003年
36
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
40
30
179
2009年
2010年
2011年
10
0
表1 繊維業界における2010年以降の大型M&A案件
(件数)
3,000
事業計画策定アドバイス、大手マンションデベロッパーやホ
テル・旅館等の私的整理に伴うスキームのアドバイス、法
取引件数
23
2003年
債権の評価、業績不振企業に対するデューデリジェンス、
総額
2,000
2002年
実績を持つ。また、不良債権処理に係るアドバイス、不良
(件数)
122
500
2001年
財務)およびフィナンシャルアドバイザーとして数多く関与した
35
1,286
1,121
4,000
0
外資系投資銀行等による株式買収、営業譲渡、会社分割
等のM&Aや事業再編等に係るデューデリジェンス(ビジネス、
83
2,045
2,181
8,467
949
(件数)
18,014
8,000
1,126
資系金融機関の監査業務に従事。その後、
KPMGFASに
て、大手商社、大手上場企業、国内バイアウトファンド、
図3 日本の繊維業界におけるM&A取引の件数と金額の推移
(10億円)
20,000
てらだ まさと 中央大学卒業。公認会計士。
KPMGの監
査部門(現 あずさ監査法人)にて、日本の大手企業と外
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
買収側企業名
発表時取引
総額
(百万)
三菱レイヨン
三菱ケミカルホールディングス
418,390
三菱レイヨン
三菱ケミカルホールディングス
58,468
株式交換
2011/05/16
川島織物セルコン
住生活グループ
13,573
株式交換
企業買収
2010/10/14
サンエー・インターナショナル
東京スタイル
10,591
株式交換
過半数株主持分取得
2009/12/25
レリアン
伊藤忠商事
8,764
現金
資産売却
2010/12/06
土地及び建物
トッズ
6,928
現金
過半数株主持分取得
2010/11/08
日本無線
日清紡ホールディングス
6,719
現金
自己株式の買付
2009/12/14
日本バイリーン
株主
6,600
N/I
過半数株主持分取得
2011/05/23
ローズバッド
東京スタイル
5,645
現金
少数株主持分取得
2010/05/24
レナウン
山東如意科技集団有限公司
4,000
現金
取引形態
公表日
過半数株主持分取得
2009/11/19
株式の追加取得
2010/04/28
株式の追加取得
相手方企業名
支払種別
現金
※
(図1・図3・表1)出所: Bloomberg、(図2)出所:レコフデータ「MARR2011」
、備考:グループ内M&Aは含まれていない
6
2012年1月号
ファッションリポート
F
ashion
Report
回帰現象
No.577
昨年は、東日本大震災という未曽有の災
害が日本を襲った。未だに被災地の復興は
ままならないが、確実に一歩一歩前を向い
て歩み始めている。一方で、震災による消
費者の心理の変化やビジネスの変化が起き
ており、2012年もこの震災によって端を発し
た変化が大きくなっていくことが予測される。
また、震災以外にも国内外の様々な環境が
消費者心理やビジネスにも影響を与えるよう
になっており、様々な変化の兆しを見せ始め
ている。その様々な動きを一言で言い表す
ならば「回帰」という現象である。
太田 敏宏
伊藤忠ファッションシステム株式会社 ブランディング第1グループ リーテイルソリューションBU 前から「イエナカ現象」と呼ばれるように外
で過ごすのではなく、家の中で過ごすこと
が楽しく、エネルギーの節減にもつながると
いうことが啓蒙されており、それを実践する
人も多かった。さらに首都圏では震災直後
の交通の混乱によって、一時的に家に帰れ
ない帰宅困難を体験した人も多かった。何
時間もかけて歩いて帰宅し、もしくは家に帰
ることをあきらめ会社や別の場所で過ごさざ
るを得なかった経験をした。帰宅という何気
ない日常に、こんなに大きな労力と熱望をもっ
た経験も初めてだったのではないだろうか。
「家に帰れること自体」が幸せを構成してい
「回帰」、これを辞書で引くと「ひとまわり
る一つの要素だということを痛感した。
して、もとの所に帰ること」
(大辞泉)である。
また、家は家族がいる場所という意味で
一旦離れていったものが、何かをきっかけ
大切だということもあるが、津波で多くの家
にもとに戻ろう、もしくは振り返ってみようと
が流されていくのをニュースの映像で何度も
いう気持ちや現象を生む。その大きなきっ
繰り返し見ていることで、家に対する関心も
かけが震災だった。または、疑問を持ちつ
高まった。同規模の震災が直撃した場合、
つもそうするしかなかったものが、震災によっ
自分の家は大丈夫か? 震災は起きなくて
て、疑問の方が大きくなり、見直す機運を
も、家族が暮らす時間の増えたこの大切な
生んだ。
空間は果たして快適なのか?等、家や空間
毎年、日本漢字能力検定協会が毎年公
などを見直したい気分は高まっている。家庭
募している、「今年の漢字」では、2011年
とその空間・時間を大切に考える、そんな
の漢字として「絆」という文字が選ばれた。 “家庭回帰”が加速しているのである。
この漢字を多くの人が選んだ背景は、震災
によって家族や仲間など身近でかけがえの
また、原発事故もまた、新たな“回帰”
を
ない人との絆をあらためて感じたということで
生み出している。それは自然回帰である。
ある。震災は“家族回帰”や“家庭回帰”
を
震災は自然の猛威であったが、それに伴う
生んだ。結婚している人が自分の子供や夫・
原発事故は人間が自然の力に抗った結果と
妻を大切にするという意味を感じたのはもち
いう見方をする人までいて、自然への回帰
ろん、現在独身の男性・女性も震災をきっ
を促している。また、これまでは脱・化石燃
かけに結婚の意味を深く感じた、早く結婚し
料によるエコの推進という意味で再生可能
たくなったという人も多かったと聞く。自分に
エネルギーが注目されていたのに、事故を
とって一番身近な“回帰”現象が家族だった
機に脱原発依存という意味においても、再
のである。
生可能エネルギー、即ち自然の力への回帰
また、家族の大切さを知ると同時に、自
が注目されている。太陽光発電は家庭のみ
分の家の大切さを感じた人も多かった。家
ならず、メガソーラー発電というような日本で
族みんなで過ごせる場所や時間の大切さと
はまだまだ先にしか普及しないだろうと思わ
いうものを実感したのである。折しも、震災
れていたものさえ、そのスピードが高まって
年 頭ご 挨 拶
いる。また、陸前高田松原でただ一本だけ
残った松の木という自然の力や自然の成せ
る偶然が、人々の心に大きな感動を与えた。
震災を受けてもなお、暴動も略奪も社会
問題になるほどは起きず、ひたむきに頑張る
日本人の姿を海外メディアは「高潔」として
讃えた。われわれもまた「日本を頑張ろう」
という気持ちを強く持ち、さらに、なでしこジャ
パンの活躍も相まって、日本への心理的な
回帰が起きている。心理だけでなく、ビジネ
スにおいても海外への転出だけでなく、日本
で再びモノづくりを強化しなければならないと
いう機運もあり、メイドインジャパンを誇る動き
もある。また、タイでの洪水被害ということも
あり、サプライチェーンにおいて国内の機能
強化という面にも着目が集まった。
日本への回帰は、同時に伝統への回帰
も後押しし始めている。日本が昔から継承
してきた伝統的な文化や産業、技術といっ
たものへの再注目も高まりを見せている。さ
らにはTPPによって、国内産業を守るという
考えとともに、大きく海外に進出するチャン
スとする見方もある。電機や自動車だけで
なく、これらの伝統的技術などによる製品も、
うまくプロモーションしていけば、クールジャ
パンといわれる分野とともに、世界的に評価
されるグローバルブランドに成長する可能性
を秘めている。日本 への回 帰、伝 統 への
回帰は、同時に世界の中での日本というこ
とを強く意識するビジネスとしての良い機会
でもある。
商 業 施 設に目を転じると2011年は、“都
心回帰”
という動きが目立った年だった。大
阪では大阪駅の再開発によるJR大阪三越
伊勢丹とルクアの開業。さらに北ヤードの再
開発も続いている。2014年には阿倍野に近
鉄百貨店を核にした日本一の高さを誇る複
合施設がオープンする。東京においては有
楽町のマリオンが大きく変わり、阪急メンズ
トーキョーと有楽町ルミネがオープンした。ま
た2012年には、いよいよ東京スカイツリーと
その下に広がる複合商業施設のオープンも
控えている。
まちづくり三法の影響により、郊外では物
件の開発が停滞しつつある。昨年オープン
した二子玉川ライズや湘南テラスモールも、
基本は首都圏の駅前再開発であり、これま
であったような大規模な郊外再開発という意
味とは違う。また、これらのモールに入居す
るテナントも郊外テナントというよりは準都心の
ような顔つきをしている。これまでは郊外で
力をつけてきたテナントが、都心へと流入し
てくる動きが活発だったが、郊外が一段落
したことで、都心中心のテナントが再び力を
つけてくることが予想される。
さらには、都心立地の百貨店もデベロッ
パー的な色彩を強める店も多くあり、都心型
のコンテンツへのニーズが大きく高まり始めて
いる。このように“都心回帰”は、とくにファッ
ションにおいて、大きな流れが変わるきっか
けとなり始めている。
これまで語ってきた“回帰現象”は、すべ
て“原点への回帰”
といっても過言ではない。
震災やビジネス環境の変化がターニングポイ
ントとなり、再びこれまで培ってきたものの良
さを見直し、その上に新しい歴史の構築や
発展を求めている動きといえる。伊藤忠商
事グループにおいても、伊藤忠の原点とも言
える
“現場回帰”がキーワードになっている。
伊藤忠の個性とも言える自由闊達な社風を
生かし、強い営業力をもって対応するという
狙いの改革である。
この変化をチャンスとしてとらえ、原点を見
つめ直してさらなる発展の礎を築く。2012
年は、日本では回帰による力の復活が強く表
れる年になるだろう。
伊藤忠ファッションシステム株式会社 代表取締役社長
平成24年を迎え皆様に旧年中のご愛顧に対して改めて御
礼申し上げます。
一昨年来の欧州金融危機の余波が全世界に及び、グロー
バリゼーションの時代であることを強く再認識させられました。
そのグローバリゼーションの制度化としてEPA、TPP締結
他が政府施策の視野に入ってきており、日本の競争優位性が
問われる状況になって来ています。昨年の年頭ごあいさつで
は“負けん気を持って”と申し上げましたが、このマクロの背
景の中でこそ、何をどこでどう売るのかと言うミクロのマーケティ
ングが競争優位性を発揮し、強化する上で重要になって来て
いるのだと思います。
弊社も年初よりパリバスチーユで開催される
“365日 Charming
[email protected]
内堀 眞史
Everyday Things(サン・ロク・ゴ)”という、日本の暮らしに
寄り添う日用品を紹介するプロジェクトに参画しております。日
本の知恵や技や美意識が生きていて、しかも実際に日々きち
んと役立って、心地良さや楽しさや、ささやかな喜びまでもた
らしてくれる。そんな品を日めくりカレンダーに沿って1日ずつ
1年365点セレクトし、展示・販売をするというものです。日本
にも2月以降、凱旋展示販売の予定です。ぜひともご来場い
ただければと思います。(ht
tp://www.365things.jp)
混沌の度合いを深めるように見えるグローバリゼーションの
中で我々も日本の競争優位性を意識しながら、皆様と共にキ
メの細かいマーケティング・プロモーションの専門性をさらに
磨き、お役に立ちたく思っております。本年も何卒よろしくお
願い致します。