目 次 WS-B-04 Kazuya Miyake 東京土建のじん肺アスベスト対策の取り組み 三宅一也 東京土建一般労働組合[日本] 抄録: はじめに(東京土建の説明と併せて) 東京土建では、2002年1月から現在までに、32人の労災認定を勝ち取り、71人の申請準備を しています。認定をうけた32人のうちアスベストによる発症は、「中皮腫3人」「肺がん6人」「石綿 肺5人」の14人で44%を占めています。今後も、このアスベストによる被災の傾向は強まってくる と思われます。 1. 4つの方法によるじん肺・アスベストの職業病の掘り起こし ①国保のレセプト調査、②支部の健診を通じた再読影、③本・支部のじん肺健診、④土建共 済への申請、以上の4つの方法で、掘り起こしをしています。 1) 土建国保のレセプト調査 通院分は毎年4月のレセプトから行ないます。点検は、「結核、肺気腫、じん肺、間質性肺炎、 慢性気管支炎、胸膜炎、肺腺維症、アスベスト肺、けい肺、気管支拡張症、喘息性気管支炎」 等の呼吸器系の疾患を中心に拾い出します。アンケートを送り、職歴などを回答してもらう。 アンケートの回答を見てもらい、区分を分けます。区分はAランク(職業病の可能性が高い)、 Bランク(経過観察)、Cランク(職業病の可能性低い)に分けて、Aランクの中から特に緊急性の 高いものを特Aランクにします。入院レセプトからの調査は毎月行なっています。毎月1,100∼ 1,200通来る中から、「肺がん、中皮腫系を中心に、肺気腫、肺炎」等をひろいだします。 2) 再読影の取り組み 現在一般健診は約2万2千人が受診していますが、その受診者のレントゲンの再読影にも取 り組んでいます。まだまだ少ない数ですが、昨年は3千人の再読影を行なっています。 3) 本・支部のじん肺検診の取り組み じん肺検診は、本部と一部の支部(昨年は5支部)で実施している「じん肺単独検診」と一般 検診とセットで行なっている「セット検診」を行なっています。 じん肺検診は、総数で約4,200人が受診をしています。 4) 共済制度からの取り組み 2. 対象者へ専門医への受診を呼びかけ、労災認定に進める取り組み この中で出てきた人たちに、国保から手紙を出すだけではなく、各支部の役員・書記局で直 接本人へ、専門医への受診を呼びかける取り組みを行っています。 3. 曝露予防とアスベスト禁止の取り組み はじめに 東京土建では、2002年から本格的なじん肺・アスベストの職業病認定の取り組みを行なって います。 そして、2002年1月から現在までに、34人の労災認定を勝ち取り、71人の申請準備をしてい ます。認定をうけた34人のうちアスベストによる発症は、「中皮腫3人」「肺がん7人」「石綿肺5人」 の15人で44%を占めています。今後も、このアスベストによる被災の傾向は強まってくると思わ れます。 なぜ建設産業でじん肺・アスベスト曝露か じん肺といえば、トンネルや炭鉱などの鉱山が一般的ですが、建設産業の中でも急激に広 がりを見せています。特に最近は、アスベスト曝露による「肺がん」「中皮腫」「石綿肺」などが広 がってきています。建設産業にじん肺・アスベスト問題が出てきているのは、電動工具の普及と 耐火建築構造が建築基準法で定められたことによります。 1950年代から耐火・不燃構造対策などが定められて、その結果、アスベストを含有した不燃 建材や難燃建材が大量に普及し始めたことがあげられます。アスベストの輸入量も1961年から 10万トンを超え、1974年には最高の35万トンを超えるまでになっています。 第2には、電動工具の普及です。作業効率をあげるための様々な工具が開発され、その結 果、手引きのノコギリでは出ない粉じんが電動丸ノコでは大量に発生し、粉じんを曝露するよう になりました。コンクリートの切断では、許容濃度の30倍以上の粉じんが発生し、許容濃度以下 に下がるまでに、静かにしていても40分以上かかります。 同時に、多くに建材にアスベストが含まれているため、建材を電動工具で切る際に粉じんが 大量に発生し、アスベスト曝露が起きました。 当然それは直接作業をする労働者以外でも、周辺にいる人も曝露します。また、改修工事の 際も外壁や屋根材・天井材などにアスベストが含まれており、その建材を切ったり、削ったり、解 体した際に曝露をします。鉄骨の場合はアスベストの吹き付けが直接行なわれ、そのアスベスト を落としながら、電工・ダクト工などが作業をする状況です。 そして、現在はアスベストの発がん性は知られていますが、当時は「健康で安全で便利な建 材」として売りだされていたため、十分な対策も取られていませんでした。 その結果、いま建設従事者にじん肺・アスベスト曝露の被該者が出てきています。わずか数 年前までは、石工を中心に年間1∼2名ずつが「けい肺」で認定されるだけだったのが、先ほど 報告したような認定状況になっています。今年になってからでも、すでに9件の認定者になって います。 東京土建の職業病認定の取り組み ①国保のレセプト調査、②支部の健診を通じた再読影、③本・支部のじん肺健診、④土建共 済への申請、以上の4つの方法で、掘り起こしをしています。 1. 4つの方法によるじん肺・アスベストの職業病の掘り起こし 1) 土建国保のレセプト調査 東京土建は自前の国保組合を持っているため、組合員の9割以上はこの「土建国保」に加入 しています。この組合員が受診した際に医療機関から送られてくるレセプト調査から、じん肺ア スベストの職業病と思われる組合員の拾い出しをしています。 この調査は、第1に通院分は毎年4月のレセプトから行ないます。4月受診分のレセプトは6月 に国保組合に届きます。その総数は約10万前後で、その内の組合員本人分約4万2千通の点 検をします。点検は、「結核、肺気腫、じん肺、間質性肺炎、慢性気管支炎、胸膜炎、肺腺維症、 アスベスト肺、けい肺、気管支拡張症、喘息性気管支炎」等の呼吸器系の疾患を中心に拾い 出します。この点検は2人の職員で1週間かかります。件数としては、約1,000件になり、その人 たちにアンケートを送ります。アンケートでは、職種や従事歴、作業内容などについて調査をし ます。 そして、アンケートを回収後(回収率は約50%)、海老原医師にその1,000件のレセプトとアン ケートの回答を見てもらい、区分を分けます。区分はAランク(職業病の可能性が高い)、Bラン ク(経過観察)、Cランク(職業病の可能性低い)に分けて、Aランクの中から特に緊急性の高い ものを特Aランクにします。今年は、この調査で新たに57人の特Aランク対象者が掘り起こされま した。 第2に、入院レセプトからの調査は毎月行なっています。毎月1,100∼1,200通来る中から、 「肺がん、中皮腫系を中心に、肺気腫、肺炎」等を拾い出します。毎月15∼20枚程度を選びま す。この作業は2人で半日かかります。そして、これも海老原医師にレセプトの写しを見てもらい 区分けをしますが、入院分はほとんどが特Aランク(緊急性が高い人)に該当しています。そして、 特Aランクの人たちには、国保組合から本人へ専門医への受診を勧める文書を送っています。 このように拾い出す作業を、通院分は1997年から、入院分は2001年から行なっています。 2) 再読影の取り組み 現在、一般健診は約2万2千人が受診していますが、その受診者のレントゲンの再読影にも取 り組んでいます。まだまだ少ない数ですが、昨年は3千人の再読影を行なっています。 再読影は、海老原医師と藤井医師に依頼しています。再読影の結果、7.5%に所見が出てい ます。 3) 本・支部のじん肺検診の取り組み じん肺検診は、本部と一部の支部(昨年は5支部)で実施している「じん肺単独検診」と、一般 検診とセットで行なっている「セット検診」を行っています。 じん肺検診は、総数で約4,200人が受診をしています。しかし、この検診活動ではいくつか問 題が出てきています。それは、一般検診とセットで行なうじん肺検診が「不正確」だと思われる状 況が起きていることです。肺の状況も肺活量も何の数値もなく、ただ所見の有無のみの報告で、 結果が知らされている点です。そして、有所見率は7.6%と、再読影での所見の率よりも低い結 果になっています。一方で、単独検診では、本部の検診で57%、支部の検診でも50%前後の 有所見が出ています。 「セット検診」では、じん肺を判断できる呼吸器系の医師が問診もレントゲンも見ていないとい えます。この背景には、専門医の少なさがあるといえます。 東京土建の方針として、「じん肺単独検診」の取り組み強化することで、この点を打開して行き たいと思っています。また、検診結果は「じん肺健康診断結果証明書」(様式3号)でもらうように 各支部を指導しています。 4) 共済制度からの取り組み 東京土建では、独自に傷病での休業補償をする共済制度を持っています。組合員の中で土 建国保に入っていない人も共済制度には入っているので、この休業補償申請者の中からも職 業病関係のものを拾い出しています。 2. 対象者へ専門医への受診を呼びかけ、労災認定に進める取り組み このような取り組みも今年で3年目となり、体系化されてきています。 そして、この中で出てきた人たちに、国保から手紙を出すだけではなく、各支部の役員・書記 局で直接本人へ、専門医への受診を呼びかける取り組みを行なっています。今年呼びかける のは、現在のところ新たに掘り起こされた57人と過去に呼びかけが継続している人を合わせて 221人になっています。入院レセプトや検診などの結果で、毎月対象になる組合員は増えてい きます。 各支部のこの呼びかけで、昨年度は132人が海老原医師と藤井医師を受診しています。 受診した結果、じん肺・アスベストの職業病と診断された組合員は「管理区分申請」「労災申 請」へと進めます。今年4月までに297人が受診し、約100人が職業病に該当しています。 受診から労災申請などへ円滑に進めるための取り組みとして、初診の際には本部の職業病 担当書記がケースワーカーの聞き取りに同席して、その後の労災手続きなどの面での支部との 調整を行なうようにしています。また、支部の書記局が受診者を連れてくる場合もあり、そのとき は支部の書記も同席して、具体的に申請書類準備などまで進むこともあります。 しかし、各支部の書記局もじん肺・アスベストによる職業病認定をした経験がほとんどないた め、過去2回の活動者会議を開催して学習をしたり、申請のためのマニュアル(手引き)を作成 したりしています。 同時に、この取り組みで問題が起きたときは、東京労働局交渉も都連として行なったり、また 単独でも、局や厚生労働省へ要請も行なっています。 しかし、残念なのは、労災申請をして認定をうける前に亡くなってしまう人が多いことです。肺 がんや中皮腫の人が多くなってきているので、早期の認定の運動を強めなくてないけないと思 っています。そして、じん肺アスベストの罹患者の会を作り、患者と家族の交流や学習会なども 行なっています。今後、患者会には監督署交渉などの運動や年金移行問題、労災認定を目指 している人たちへのアドバイスや励ましなどに、力を発揮してもらうようにしていきたいと思って います。 3. 曝露予防とアスベスト禁止の取り組み 労災認定は生活の問題であり大切な課題ですが、また、曝露の防止も重要です。東京土建 ではアスベストの危険性を周知して、現場で粉じんを出さない取り組みを進めるために、各支 部で学習会や安全・衛生大会の開催をしています。 その中では、海老原先生や藤井先生の講演、アスベストビデオの上映などで危険性や対策 の必要性を訴えています。そして、全建総連都連と共に、いま自らの現場の安全・衛生を見直 そうという「現場改善運動」を取り組んでいるところです。現場見学会を通じて、その現場の良い 点、改善すべき点を出し合って、討論を通じて学んで広める取り組みです。 そして、アスベスト完全禁止の運動も引き続き全建総連と共に取り組んでいます。 最後に、東京土建では、昨年1年間で618人の組合員が死亡しています。その内の9.9%・61 人(一昨年は69人・11.3%)は肺がんとなっています。この人たちの多くは職業病の可能性が高 いと思います。アスベスト被害が20年以上経って発症することを考えると、今後もこの数字は増 加していくと思います。 じん肺・アスベストの取り組みは、仲間の命と生活を守る運動といえます。認定運動と共に、 曝露防止の運動をさらに強めていかなければなりません。 次⇒
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