市 町 村 合 併 が人 口 1 人 あたり歳 出 に与 える影 響 に関 する研 究 An Empirical Analysis on Expenditure Reduction by Heisei Grand Merger 公 共 システムプログラム 07M43028 大 崎 雅 隆 指導教員 坂野達郎 Public Policy Design Program Masataka Osaki, Adviser Tatsuro Sakano ABSTRACT Since 1999, Ministry of International Affairs and Communications has promoted merging of municipalities, what is called “Heisei Grand Merger”. Why do municipalities merge? Because they believe that merger reduces expenditure. However, it is not proved. Thus this paper tries to verify an effect on expenditure reduction by Heisei Grand Merger through an empirical analysis. There is assertion that municipalities have the most suitable scale of population enables them to make finances efficiently. And they assert that small -scale-municipality should merge to be “most suitable”. But it is not clear whether other elements that have impact on financial efficiency exist. Following existing papers, this paper uses “expenditure per person” as an indicator of financial efficiency. 1 章 背景と目的 人口を横軸,1 人あたり歳出を縦軸としたとき,人口と 1 人 1-1.研究の背景 あたり歳出が U 字型の関係をとり,1 人あたり歳出が最小と 平成 11 年, 「市町村の合併の特例に関する法律」 (合併旧法) なる「最適人口規模」が存在すると指摘している.そして, が改定され,地方交付税の合併算定替の大幅延長や合併特例 その最適人口規模を実現するように小規模市町村は合併する 債の創設など,合併促進のインセンティブが加えられた.こ ことが望ましいとしている.なお,本研究では人口 1 人あた の出来事を起点に,総務省が中心となり市町村合併が推進さ り歳出の関係を近似した曲線を「最適人口規模曲線」と呼ぶ れた.市町村数は 3232(平成 11 年 3 月 31 日)から 1784(平 こととする. 成 20 年 11 月 1 日見込)まで減少しており,平成 11 年 3 月 2-2.既存研究の分類 31 日時点の 63.6%にあたる 2054 の市町村が合併を決めたこ 2-2-1.最適人口規模を求めた研究 とになる.合併市町村を対象とした,日本都市センター 最適人口規模を求めた研究である.このタイプの研究は, (2007)の「市町村合併に関するアンケート調査」によると, 人口のみを説明変数とした研究,人口と面積の 2 つを説明変 「合併の効果」として最も多くの市町村が「行財政の効率化」 数とした研究の 2 タイプに更に分けることができる.表 2-1 を挙げ,また「合併した理由」として「財政状況」を挙げて は人口のみを説明変数とした研究をまとめたものである.こ いる.この回答から,合併によって財政効率性の向上を図り, のタイプの研究は,市町村の人口と一人当たり歳出額の U 字 財政状況をより良くしてゆきたいという市町村の意図を読み 型の関係に注目し,その最小となる点を最適人口規模として 取ることができる. 推計している. 1-2.研究の目的 財政の効率化を狙って合併を実施した市町村において,実 際に 1 人当たり歳出が減少し,財政の効率化が達成されてい 表 2-1 古田 (1989) るかどうかについては確認されていない.そこで,多くの既 存研究で「財政効率性の指標=人口 1 人あたり歳出」として いることを踏まえ,本研究は,市町村合併が人口 1 人あたり 歳出に与える影響を明らかにし,市町村合併が財政の効率化 に効果があるのかについて検証することを目的とする. 2 章 最適人口規模に関する既存研究の整理・考察 2-1.人口 1 人あたり歳出を最小にする最適人口規模 内閣府(2008)は,市町村合併を推し進める根拠として, 林正寿 (1999) 吉村 (1999Ⅰ) 人口のみを説明変数とした研究 データ 東京都の市を除く 人口10万人以上 100万人未満の 176都市(S60年 度) 全国3232市町村 分析結果 1人あたり目的別歳出額 (土木費、衛生費等)と人 口の関係:U字型。 各歳出の最適人口を算 出。 1人あたり歳出と人口の 関係:U字型 特別区を含む全 【市】1人あたりの歳出と 国691市及び市町 人口の関係:U字型 村(H6年度) 【町村】1人あたり歳出総 額と人口と面積の関係:L 字型 最適人口規模 一般サービス: 32万人~34万 人 衛生費:30万人 土木費:32万人 13.35万人~ 30.11万人 市・特別区:20.9 万人 町村:157.3万人 (人口は多いほ ど効率的) 表 2-2 は,人口と面積の 2 つを説明変数とした研究をまと めたものである.人口密度,人口増加率より回帰式を推定す 3 章 市町村合併の分類 ると,人口と 1 人当たりの歳出額の関係はU字型となる.そ 3-1.人口規模による分類 して,これも同じく最小となる点を最適人口規模として推計 している. 図 3-1 は,合併後市町村を人口規模別に区別したものであ る.人口 1 万人以上 10 万人未満の市町村によって,全体の約 表 2-2 人口と面積を説明変数とした研究 データ 分析結果 中井 全市町村(S59年 一人当たりの歳出額と人 (1988) 度) 口の関係:U字型 規模の経済あり。 横道・沖野 政令指定都市、 1人あたり歳出と人口:U (1996) 離党該当市町 字型 村、及び地方交 1人あたり歳出と1人あた 付税の不交付団 り面積:正の相関 体を除く市町村 面積をあらかじめ想定し (H4年度) 最適規模を算出 吉村(1999 特別区を含む全 【市】1人あたりの歳出と Ⅱ) 国691市及び市町 人口の関係:U字型 村(H6年度) 【町村】1人あたり歳出総 額と人口と面積の関係:L 字型 林正義 政令指定都市、 地域環境要因を考慮し (2002) 東京都特別区、 て、費用関数を特定化し 特定の変数が欠 最適人口規模を求める。 けている市を除く ※既存研究を否定 572市 70%が占められていることが分かる. 最適人口規模 12.8万人 合併市町村の規模別割合 1万人未満 3% 6% 10k㎡:9.1万人 100k㎡:13.6万 人 500k㎡:18.1万 人 1000k㎡:20.5万 人 市・特別区:27.1 万人 町村:245.1万人 (人口は多いほ ど効率的) 31~46万人(地 域特性を考慮に いれる) 4% 1万人以上3万人未満 4% 25% 3万人以上5万人未満 5万人以上10万人未満 13% 20% 25% 10万人以上20万人未 満 20万人以上30万人未 満 30万人以上50万人未 満 50万人以上 図 3-1 合併市町村の人口規模別割合 3-2.ランク変化の有無・タイプによる分類 ここでまず,市町村を便宜的にランク分けする.ランク分 けは,政令指定都市>中核市>特例市>市>町村の順番となる. 2-2-2.最適人口規模を否定した研究 原田・川崎(1999)が指摘するように,市町村のランクが上 原田・川崎(1999)は,人口と 1 人あたり歳出の関係を U 位であるほど,より多くの仕事を受け持ち,1 人あたり歳出 字型とする意見に対し,U 字型となるのは政令指定都市の影 が大きくなると推測できる.図 3-2 は,各合併における市町 響であり,本来はL字型の関係であるとしている.そして, 村のランク変化の有無,ランク変化のタイプで,市町村合併 L字型の左部分である人口の少ない地域が合併すべきとして を分類したものである.ただし,各合併において,合併市町 いる. (表 2-3) 村のどれか 1 つでもランクアップしていれば,ランク変化と 表 2-3 最適人口規模を否定した研究 データ 分析結果 最適人口規模 原田・川崎 特別区を除く3232 小町村、大町村、小都 最適人口規模は (1999) 市町村(H7年度) 市、大都市、政令指定都 存在しない 市にわけて推定。1人あ たり歳出と人口の関係:L 字型 とらえることとする.町村から市へのランク変化が全体の約 63%を占めており,町村のランクアップが市町村合併によっ てもたらされる主要なランク変化であるということができる. 1% 5% 0% 合併市町村のランク変化の有無・タイプ別割合 1% ランク変化なし 1% 4% 25% 町村→市 2-3.既存研究のまとめ 町村→特例市 2-3-1.既存研究の共通見解 町村→中核市 町村→政令指定都市 既存研究の主張に共通しているものとして,ある一定の水 市→特例市 準までは規模の経済が働き,その規模までは合併をするべき 特例市→中核市 であるとしていると言える.つまり,既存研究は,財政効率 63% 中核市→政令指定都市 性の観点から合併は望ましいとしている,と言うことができ る. 図 3-2 合併市町村のランク変化の有無・タイプ別割合 2-3-2.既存研究の問題点 既存研究では合併が望ましいとしているが,これらの分析 4 章 1 人あたり歳出の決定要因の分析 ではクロスセクションデータを用いた分析しか行っていない. 4-1.分析の方針 実際に合併市町村における 1 人あたり歳出が減少したのかを 以下のような方針で分析を行う. 確認するためには,時系列的に分析を行う必要がある. Step.①財政規模縮小のトレンドの分析 Step.②合併の効果の また,既存研究は地方財政の縮小を考慮していない.地方 分析 財政は,H11 年度をピークに縮小に転じている.仮に合併市 Step.③性質別費目で,合併の効果の検討 Step.④人口規模が 町村の 1 人あたり歳出が減少したとしても,地方財政縮小に 合併の効果に及ぼす影響の分析 Step.⑤合併の効果と人口規 よる削減分と,市町村合併による削減分を区別する必要があ 模が比較年度における 1 人あたり歳出に及ぼす影響を,重回 る. 帰分析で総合的に分析 4-2.データの選定 別歳出の費目の数,種類が異なるため,同じ名称の費目のみ データの出所は,総務省『市町村別決算状況調』とした.こ を分析対象とした.そして,更に「三 こで,合併基準年度を,平成 N 年度=平成(N-1)年 10 月 対象から除外した.なぜならば, 「二 ~平成 N 年 9 月と定義する.このような年度を定義する理由 補修費」が同額であり,かつ,物件費の細目の合計額も同額 は,形式的に年度を分けると,たとえば平成 18 年 3 月 31 日 となったことから, 「二 に合併した市町村の歳出が合併前市町村の歳出の総額となり, 補修費」の額が誤っていると判断したためである.非合併群 実態とのズレが生じるという会計上の問題のためである. のほうが,補正 R2・傾きが大きい.そして,非合併群では義 合併基準年度は平成 17 年度,合併後の比較年度は平成 18 維持補修費」を分析 物件費」と「三 維持 物件費」の額が正しく, 「三 維持 務的経費は動かさず,投資的経費で調整している傾向がある. 年度とした.なぜならば,平成の大合併の合併総数は 613, 合併群にも非合併群と同様の傾向が見られるが,合併群は義 平成 17 年度基準の合併件数は 277,平成 17 年度基準以降の 務的経費の中でも,特に人件費を削減している.また,投資 合併件数は 275,平成 17 年度以前の合併件数は 61 であり, 的経費を更に大きく削減している.ただ,合併群は全体の R2 平成 17 年度基準としたときに最も多くのサンプルを得るこ が小さいため,自治体によってバラツキがあることが推測さ とができるためである. れる. (表 4-2) 本項以降では,本研究独自の区分で平成 17 年度に合併したと 表 4-2 性質別費目別に見た合併の効果 みなす市町村と,平成の大合併の始まった平成 11 年度から平 成 18 年度の期間における合併未経験市町村を分析対象とす る. 4-3.①財政規模縮小のトレンドの分析 Xi0:i 市町村の合併基準年度の前年度の 1 人あたり歳出 Xi1:i 市町村の合併基準年度後の比較年度における 1 人あたり 歳出 トレンドの分析に用いた回帰式 Xi1=αXi0+β+ε Xi0 は,合併前年度の合併市町村の歳出の総和を,人口の総和 で除した「仮想 1 人あたり歳出」として求めた.なお,本研 究では実際の分析は割愛する. 4-4.②合併の効果の分析 市町村を合併基準年度の合併群と非合併群に分け,回帰係 数と切片を比較することで,合併の効果を検討した. (ただし, 合併基準年度以前の合併を除く)合併群,非合併群では主だ った差は見られなかった.しかし,合併群は補正 R2 が低いた め,市町村個別の要因が 1 人あたり歳出に働いていると考え られる. (表 4-1) 合併群 一 人件費 0.668 一 人件費うち職員給 0.638 二 物件費 0.408 四 扶助費 0.813 五 補助費等 0.664 六 普通建設事業費 0.365 六 普通建設事業費 0.342 のうち単独事業費 七 公債費 0.800 八 積立金 0.028 九 繰出金 0.657 係数 切片 非合併群 合併群 *** 3.966 *** 0.652 *** 2.846 *** 0.705 *** -2.422 *** 0.513 *** 1.660 *** 0.931 *** 5.133 *** 0.745 *** 22.967 *** 0.356 *** *** *** *** *** *** 0.399 19.282 *** 10.848 *** 0.420 *** 0.942 0.238 0.251 11.172 12.386 8.385 *** 3.979 *** 10.252 *** 6.509 *** 0.890 *** 0.166 *** 0.871 *** 0.951 *** *** 0.442 *** *** 0.971 *** *** 1%有意 X値1 非合併群 0.910 0.906 0.978 0.986 0.937 0.593 0.617 *** *** *** *** *** *** *** 4-5.④人口規模が合併の効果に及ぼす影響の分析 市町村を 5 万人未満,5 万人以上 30 万人未満,30 万人以上 50 万人未満,50 万人以上の 4 つの人口規模別に分類し,分析 した.ここで,各人口区分にこの数値を採用した根拠は以下 の通りである. 5 万人:町村が市になるための人口規模要件 30 万人:多くの既存研究が 30 万人前後を最適人口規模とし て採用 50 万人:市町村の最上位ランクである政令指定都市に なるための人口規模要件合併ありでは,50 万人以上で係数が 1 を超え,他の人口規模では 1 未満となっているため,上位 出の増加要因となっている可能性がある.したがって, 「合併 前年度 1 人あたり歳出」と「合併によるランクアップ」に交 合併群 回帰統計 補正 R2 0.697726274 標準誤差 98.43591498 観測数 277 非標準化係数 標準誤差 P-値 143.1118099 14.85661 4.11E-19 0.664000944 0.026286 1.25E-73 非合併群 回帰統計 補正 R2 0.880050326 標準誤差 163.4067287 観測数 1264 互作用があると考えられる.ただ,合併ありの場合,50 万人 以上の人口規模で係数が 1 を超えているが,5 万人以上 30 万 人未満で極端に低い.したがって,合併によって 1 人あたり 歳出が増加する規模と減少する規模があると考えられる.一 方,合併なしでは人口規模に関わらず,一様に 1 人あたり歳 出が減少している. 表 4-3 人口 1 人あたり歳出に対する合併の効果 合併あり 人口規模 切片 X値1 合併群 30.302 18.915 25.456 10.698 3.391 43.755 自治体へのランクアップが 50 万人以上市町村の 1 人あたり歳 表 4-1 人口 1 人あたり歳出に対する合併の効果 切片 X値1 非合併群 0.981 0.981 0.961 0.964 0.773 0.627 補正 R2 費目 非標準化係数 標準誤差 P-値 43.96880545 6.992009 4.41E-10 0.879131505 0.009132 0 4-5.③性質別費目で,合併の効果の検討 費目別に合併の効果を分析した.歳出の区分方法は,性質 別歳出と目的別歳出の 2 パターンあるが,全市町村データを 入手可能な性質別歳出を採用した.また,市と町村では性質 5万人未満 5万人以上30万人未満 30万人以上50万人未満 50万人以上 係数 X値1 0.792 *** 0.211 *** 0.878 *** 1.118 *** 切片 76.994 *** 327.695 *** 35.948 -30.412 標準誤差 補正 R2 観測数 0.029 0.049 0.133 0.154 0.851 0.134 0.715 0.866 133 116 18 9 合併なし 人口規模 5万人未満 5万人以上30万人未満 30万人以上50万人未満 50万人以上 係数 X値1 0.911 *** 0.901 *** 0.856 *** 0.848 *** 切片 47.800 *** 4.586 *** 57.681 ** 70.178 *** 標準誤差 補正 R2 観測数 0.004 0.014 0.036 0.030 0.980 0.942 0.956 0.976 953 253 27 20 4-6.⑤合併効果と人口規模の影響を重回帰分析で総合的に分 5 章 結論 析 5-1.結論 説明変数の選定理由について説明する.まず,合併前年度 •既存研究で主張されていたように,合併して人口 5 万人以上 1 人あたり歳出は,比較年度における 1 人あたり歳出に影響 30 万人未満になることによる 1 人あたり歳出減少の効果はあ を与えると推測できるので,説明変数とした.次に、既存研 ったと考えられる.それに対して,合併して 50 万人以上にな 究で議論の対象となっている人口規模が 1 人あたり歳出に与 った市町村は,1 人あたり歳出増加の効果を認めることがで える影響を検証するため,人口(対数)を説明変数とした. きた.ただし,合併して 50 万人以上になった市町村では,重 対数表示としたのは,既存研究では対数表示したものが多く 回帰分析において人口規模(対数)が有意とならなかったこ 採用されているためである. とから,1 人あたり歳出の決定要因は必ずしも規模の効果の ダミー変数に関しては, 「合併しないでランクアップありの みではないのではないかと考えられる. ダミー」 , 「合併しないでランクアップなしのダミー」も考え •人口 5 万人以上 30 万人未満の合併市町村において,ランク られるが, 「合併しないでランクアップありの市町村」は 1 例 アップしながらも 1 人あたり歳出が減少したのは,町村→市 しかなかったため,その市町村は「合併しないでランクアッ のランクアップは,町村→政令指定都市,中核市のランクア プありの市町村」として扱い,合併しない市町村は「合併し ップと比較すると,歳出増加分がより小さいためと考えられ ないダミー」とまとめた.また,1 人あたり歳出の決定要因 る.また,扶助費を初めとする義務的経費の大きな削減はで として,ランクアップの有無が重要だと考えられるので, 「合 きないが,合併を機に投資的経費を大幅に削減させている可 併しないダミー」以外の 2 つの変数を説明変数とした. 能性が考えられる. また,Step.④にて, 「合併前年度 1 人あたり歳出」と「合 •合併による市町村のランクアップが,1 人あたり歳出に影響 併によるランクアップ」に交互作用があると推測されるので, を与えているのであれば,財政効率の問題は,政令指定都市 (合併前年度人口 1 人あたり歳出)と, (合併してランクアッ の誕生が県の歳出減につながることなども考慮し,県全体の プありのダミー) , (合併してランクアップなしのダミー)の 財政効率の問題を考えないと,本当の意味の財政効率化は議 それぞれの交差項を説明変数とした. 論できないのではないかと考えられる. 次に,人口規模別に分析するにも関わらず,人口規模(対数) 5-2.今後の課題 を説明変数とするのは,人口規模によって交互作用が大きく 異なり,かつ線形ではないと推測するためである. 市町村合併の効果を,合併市町村が属する各県の財政状況 を考慮して分析する必要がある.また,分析結果が実態に即 しているかを確かめるため,市町村の財政担当者にインタビ 表 4-4 重回帰分析の説明変数、被説明変数 被説明変数 平成18年度人口1人あたり歳出 ●合併前年度人口1人あたり歳出 ●人口規模(対数) 説明変数 ●合併してランクアップありのダミー ●合併してランクアップなしのダミー ●(合併前年度人口1人あたり歳出)×(合併してランクアップありのダミー) ●(合併前年度人口1人あたり歳出)×(合併してランクアップなしのダミー) 分析の結果,人口の規模の効果があるならば,5 万人未満で ュー調査を行う必要がある. <主要参考文献> ■大塚華・久保田祐佳・森平華南子(2002)市町村合併 ~ 最適人口規模の考察~ 最も前年 1 人あたり歳出の係数が小さくなるはずだが,そう ■市町村の合併に関する研究会(2008) 「「平成の合併」の評 はならなかった.5 万人以上 30 万人未満の市町村はランクア 価・検証・分析」 ップしているにも関わらず, 1 人あたり歳出が減少している. ■総務省(1996~2006) 『市町村別決算状況調』 これは,5 万人以上 30 万人未満の市町村は今まで歳出削減の ■内閣府(2005,2008) 『年次経済財政報告』 努力を怠ってきたが,合併を機に,投資的経費などの政策的 ■中井英雄(1988)『現代財政負担の数量分析』 (東京,有斐閣) にコントロールできる費目を下げることで,歳出削減をして ■原田博夫・川崎一泰(2000) 「地方財政の歳出構造分析」 『日 いる可能性があるといえる.ランクアップが起こっていても, 本経済政策学会年報』第 48 巻 それを打ち消すだけの削減を行っている可能性があるといえ ■林正寿(1999)『地方財政論:理論・制度・実証』(東京, る. ぎょうせい) 50 万人以上の市町村はもともと歳出削減の努力を行ってお ■横道清孝・村上康(1996)「財政効率性から見た市町村合 り,そこにランクアップの効果に働き,1 人あたり歳出が増 併」 『自治研究』第 72 巻 11 号 加していると考えられる. ■吉村弘(1999)「行政サービス水準および歳出総額からみ た最適都市規模」 『地域経済研究(広島大学経済学部付属地域 表 4-5 人口規模別に見た重回帰分析結果 (合併前年度 (合併前年度人 人口1人あたり 合併前年度 合併してランク 合併してラン 口1人あたり歳 歳出)×(合併 人口1人あ 人口規模(対数)アップありのダ クアップなしの 出)×(合併して してランクアッ たり歳出 ミー ダミー ランクアップなし プありのダ のダミー) ミー) 5万人未満(R=.934) 5万人以上30万人未満(R=.932) 30万人以上50万人未満(R=.804) 50万人以上(R=.991) 0.835 0.947 0.818 0.834 *** *** *** *** -30.291 *** 37.546 60.334 -7.319 315.464 *** 定数 -35.679 -28.129 定数 -8.242 -108.587 *** 共線性 -0.012 -0.07 -0.779 *** 定数 0.077 定数 0.279 *** -0.026 (注) *** 定数 共線性 1%有意 定数のため除外 共線性のため除外 研究センター紀要) 』第 10 号
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