ハンチントン病 (小南賀乃子)

ハンチントン病 (小南賀乃子)
神戸大学大学院医学研究科 分子細胞生物学分野 小南賀乃子
1.概念
1872年George Huntington
によって記載されたハンチントン病は、慢性進行性の舞踏運動と認知能低下を主徴とする常染色体優性遺伝性の神経変性疾患である。多くは中年期に発症し10
責任遺伝子の翻訳領域内のポリグルタミン鎖をコードするCAGリピートの異常伸長によって引き起こされる遺伝性神経変性疾患をまとめてポリグルタミン病と呼
2.臨床的事項
本症の臨床型には、90%をしめる「古典型」のほか、パーキンソン病様の症状を呈する「固縮型」、20歳以下で発症する「若年性ハンチントン病」、などがあ
a.古典型
多くは30~50歳代に発症する。舞踏運動は目につきやすいところから初発症状となりやすいが、実際には性格変化や軽度の痴呆などの精神症状がすでに現われ
本症には、神経症状以外にも特徴的な精神症状がある。すなわち、知能障害と性格障害である。この両者を認めることが多いが、中にはいずれかが前景に立
b.固縮型
病気を問わず、筋固縮を呈する型をいう。成人発症例では、病初期には古典系で経過しながらも、病期の進行とともに拘縮ではない筋固縮が著名なものをい
c.若年性ハンチントン病
20歳以下で発症した場合若年性ハンチントン病と呼ぶ。約半数は初めから古典型を呈し、そのまま経過するが、残りの半数は前項で述べた固縮型を呈する。臨
3.病理
本症の病理所見の中で最も特徴的とされるのは尾状核および被殻、すなわち顕微鏡的には線条体の神経細胞の著しい変性、脱落と、それに基づく肉眼的に明ら
そして、神経伝達物質的にも組織化学的にも神経細胞脱落は選択的であり、アセチルコリン、ニューロペプチドY、ソマトスタチン含有細胞は比較的保たれる。
4.遺伝
本症の遺伝に関しては古くからいくつかの注目すべき事実が知られている。すなわち、①厳密に常染色体性優性遺伝形式をとり、例外はないこと、②世代を飛
実際の臨床の場面で問題になるのは、遺伝性がはっきりしない症例についてである。大切な点は、本症は基本的に完全に遺伝によって支配される疾患であると
5.検査所見
本症の診断に最も重要な検査は脳CTやMRIである。尾状核の委縮による脳側室の拡大、大脳皮質の委縮による脳溝の拡大の存在を確認することが大切である。た
6.鑑別診断
パーキンソン病などでL-DOPAを服用している患者の場合、L-DOPAによって誘発される不随意運動であるジスキネジアがまず鑑別されねばならない。家族性があ
7.治療
ポリグルタミン病の病態に基づいた治療法としては、変質蛋白質の核移行阻害、発現抑制、凝集体形成抑制、分解促進、あるいは遺伝子転写機能の改善などが
8.トピックス
異常伸長を起こしたポリグルタミンの蓄積した凝集体に結合するたんぱく質と遺伝子が研究された結果、遺伝子発現を調節する転写因子の一つである「NF-Y」
ポリグルタミン病では、多くの遺伝子の発現が低下していることが知られており、また、多数の遺伝子のプロモーターにNF-Yが結合することが分かっている。
参考文献 三好 功峰、黒田 重利:臨床精神医学講座 器質・症状性精神障害:中山書店 水野 美邦:神経内科 Quick Reference:文光堂
小林 祥泰、水沢 英洋:神経疾患最新の治療 (2006-2008):南江堂
独立行政法人 理化学研究所(http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2008/080310_3/detail.html)
Tomoyuki Yamanaka, Haruko Miyazaki, Fumitaka Oyama(2008)Mutant Huntingtin reduces HSP70 expression through the sequestration of
NF-Y transcription factor. The EMBO Journal,27, 827-839