Unit1 冒頭ケース ■Unit1 冒頭 ■冒頭ケースの設定 国内外の旅行商品の企画や販売を行う A 社は、業界 2 位の総合旅行会社である。旅行業界で は長い間、大手 4 社が市場シェアの 40%以上を占めてきたが、ここ数年は H 社など格安航空券を 販売する旅行会社が台頭し、競争関係に変化が生じている。上位企業はいずれも H 社に大学生 や若年社会人などの顧客を奪われ、売上の鈍化やシェア低下に悩まされていた。A 社では、とり わけ 20 代∼30 代の顧客離れが深刻化していた。 A 社の新商品企画部の土屋部長は、格安航空券会社に対抗するために、海外旅行市場にお ける新商品の開発を命じられていた。土屋は部員を集めて企画会議を開くことにした。新商品企 画部は、土屋以外に、支店で優秀な成績を収めた精鋭社員 4 人で構成されていた。 土屋: 「先日、我が社の窮状を救う新商品について考えてくるように言っておいたが、それぞれのア イデアを聞かせてほしい」 松本: 「私は若年層の顧客を死守すべきだと思います。そのため、我が社も格安航空券事業に参 入すべきではないでしょうか。我が社は業界第 2 位の旅行会社です。仕入れでは、H 社よりも 有利な条件で取引ができるはずです」 森: 「私も賛成です。我が社も格安航空券を売って、若年層を取り戻すべきではないでしょうか」 土屋: 「ちょっと待ってくれ。格安航空券を売る場合、パッケージツアーで使用する航空券(GIT)を ばら売りすることになるのか」 松本: 「そうです」 土屋: 「そもそもグループ旅行だから取扱額が大きかったのに、GIT 運賃のような単価の安い航空 券を個人にばら売りしたら、オペレーションが増えるだけだ。そうなれば人件費が増大し、利 益につながらないし、自らの首を締める結果になるぞ」 森: 「大量に売ればいいじゃないですか」 横山: 「そんなに簡単な話ではありませんよ。H 社は単価の安い航空券を大量に販売しても、オペ レーションが増えないようにするために、いろいろと工夫しています。たとえば、すべての航空 券情報をデータベース化して、各店舗の端末で検索できるようにしています。だから、経験の 多い少ないに関わらず、どの社員も接客時に均一な応対ができるんです。それに対して、当 社は紙ベースの書類を一枚一枚めくって、複雑な運賃計算をしている状況です」 Unit1 冒頭ケース 森: 「それはそうだよな」 横山: 「しかも H 社の情報システムには、100 万件以上の旅行情報が入力されているそうです。カウ ンターに来た顧客や、電話で問い合わせてきた顧客の個別ニーズに瞬時に対応できるんで す。店舗も個人客用に設計されているから、環境がまるで違うんです」 土屋: 「我が社は過去十数年にわたって、団体旅行ニーズに合わせて、店舗や代理店網、情報シ ステムなどへの投資を行ってきたからな。今まではこうした資産が我が社の競争力の源泉だ ったが、格安航空券事業へ本格参入すればこれらは負債化してしまい、事業の収益構造を 揺るがしかねないぞ」 松本: 「H 社はそこをうまく突いてきたのですね。大手は本格的に進出しないと最初から踏んでいた のだろうな。だったら、子会社を作ってそこで格安航空券を販売すればいい」 土屋: 「それについては経営陣も考えているだろう。だが今、我々が考えなくてはならないのは、子 会社の設立計画ではなく、現状において投入できる新商品だ」 森: 「今までどこも発売しなかった新しいツアーを企画してはどうでしょう。たとえば、女性のための ショッピングツアーとか」 松本: 「そうそう。女性同士でイタリアや香港にショッピングだけの目的で行くツアーは、まだどこの旅 行会社も発売していませんよね」 土屋: 「いや、それは去年 T 社が出したよ」 松本: 「それでは南極横断ツアーやナスカの地上絵を見るツアーはどうかな」 森: 「少しマイナーな感じだな」 松本: 「それじゃメジャーということで、メジャーリーグ観戦ツアーは……」 次第に、メンバーは黙りがちになり、腕組みをして考え込んだり、天井を見つめたりした。しかし、こ れはという斬新なアイデアは出てこなかった。
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